●リプレイ本文
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何度目かのスコールの後に見せた、高い空。
照りつける日差しと、照りかえす熱気。
お湯で濡れた綿をかき分けて進む様な気温と湿気の中を、
傭兵達は行軍していた。
「風景には退屈しなくて良いんですけど、ね」
通算何度目かの『暑い‥‥』を口にしてから、秦本 新(
gc3832)が地平の先を見やる。
AU−KVで切る風のおかげで、幾分かマシだろうか。
双眼鏡を取り出して覗けば、彼らの進行方向には、
道に沿うように蒼い壁が涼やかに立ちならんでいた。
「暑い。ダルい。帰りたい‥‥でなくて。えー、アレだ。仕事だ」
淡黄色の地面の上を、真紅のSE―445Rが砂を車輪で蹴り散らしながら走ってゆく。
時枝・悠(
ga8810)は積荷よりも前方を走り、ゴーグルの望遠機能も用いて最優先で敵を警戒。
「物資が届かないと悲惨だし、しっかりこなそう」
『そうそうー、いつも通り、ですよー♪』
定時連絡の途中、耶子が無線で絡んで言う。
トラックの荷台の縁に座り、彼女は護衛班としてついていた。
「先は長いし、うまくペース配分をしないと途中でバテちゃいそうだね‥‥うぅ‥‥暑い‥‥」
北国育ちだと言うシクル・ハーツ(
gc1986)
太陽光線は、彼女の新雪のような白い肌と綺麗な髪を、容赦なく照り付けてゆく。
適度にスポーツドリンクで水分補給をしながら、トラックの護衛として双眼鏡を覗いていた。
トラックの前を行く装甲車の上には、超機械『扇嵐』を立てて、
じっと行く道を警戒しているウェイケル・クスペリア(
gb9006)――ウェルがいた。
頬を伝って落ちた汗が装甲車の屋根に落ちれば、音を立てて蒸発する。
「‥‥で、何してんだ?」
ウェルが同じ班の不破 炬烏介(
gc4206)に声をかけると、
「‥‥見て、の‥‥通り。ソラを‥‥見て、い‥‥る」
太陽の眩しさもさほど気にしてないかのように、彼はぼんやりと空を眺めていた。
「お仕事が終わったら冷たいものでも食べに行きましょ。さ、ひと頑張りよ」
一つ目の中継地点が差し掛かってきたところで、一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)が銃を構えなおして準備する。
わらびもちがいいですー♪ と余った袖をぱたぱたさせる耶子に苦笑しながら、
傭兵達は荷物を降ろす手伝いと、その間の護衛に従事しだした。
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『は〜い♪ こちら皆様の旅路を全力サポートのお空の夏子でゲスよ〜♪ では、皆さん、1時の方向をご覧くださ〜い♪』
暑さに滅入りながら道を行く者達の無線に、空のヘリから警戒をしていた夏子(
gc3500)の無線が入る。
溶けていた体に、一斉に緊張を走らせた。
「敵さんのお出ましさぁ!」
覚醒し、へらりと気楽さの伺える語調が消えると、
視線の先へと矢をつがえて弓を引き絞る。
彼ら補給部隊の前方には、彼の捕捉した通り、ラクダ型キメラが道の上にバラけるように群がっていた。
その体の両脇には、小さな機関銃の様なものがとりつけられている。
辺りに響く、怨嗟を込めたような、声にならない悲痛。
その後、装甲車から飛び出す黒い霧。
「我はカルブ・ハフィール! 汝らを狩る猟犬なり!」
カルブ・ハフィール(
gb8021)がツヴァイハンダーを携えて飛び出す。
素早く接近しようと駆け、剣先は下げ体が我先にと突撃していく。
「あんまり弓兵って柄じゃないけど――ねッ!」
夏子の矢は、弓を構える人差し指から伸びて行くように真っ直ぐ飛んでゆく。
機銃を放ちながら接近してくるラクダへ、照準を逸らすよう体や地面へ援護射撃を重ねていく。
「遅いわ!」
地面を抉り、砂煙を巻き上げる銃撃の中を潜り抜けると、滑り込んだ喉元へと、刺し込むようカルブが両手剣を突きあげた。
カルブの横を暴れるように駆けてゆくラクダ型の進路へ、エンジン音を響かせて悠が割り込むと、
暴れる車体を押さえつけるようにハンドルを切り、銃を抜く。
接近戦でバイクを破壊されないよう、群れを周るように走行しながら、砲付きの敵へ片っ端から銃弾を撃ちこんでゆく。
「少しそちらに流すぞ、任せた」
群れの端から接近してきた敵の即頭部へ銃を突きつけ、一発。
崩れる亡骸を背にアクセルを回し無線を飛ばす。
「簡単にいってくれるぜ‥‥っと!」
ウェルが上下に揺れる装甲車の上で、取っ手に捕まりながら、扇嵐を起動して迎撃する。
発生した竜巻はちょっとした砂嵐となり、迫りくるラクダ型の足元を掬う。
揺れる車体に体を捻り、時に扇嵐を支えにしながら、嵐を飛ばしてゆく。
「‥‥ソラノコエ、言う『‥‥<裁キ>ヲ‥‥無限ノ死罰ヲ‥‥』‥‥殺す、殺してやる‥‥」
装甲車から炬烏介が跳ぶ。
漠たる様子で空を眺めていた時とは、身に纏う雰囲気を豹変させていた。
「‥‥全身全霊で‥‥往く、ぞ‥‥みっともなく‥‥死ね‥‥よ!」
体を大きく見せ、砂が巻き立つ程に地面を踏み威嚇。
ラクダの銃口は炬烏介へと向くが、
炎拳『パイロープ』により燃え上がった拳を、鼻先に思い切り突き込む。
ラクダの頭部は、舞う砂塵のように粉砕された。
「砲撃か‥‥情報通りだな。早めに倒したいところだが‥‥」
軽々とトラックの上に飛び乗ったシクルは、走行や激戦の中でも、
凛として和弓を構え、指を離す。高い場所から穿たれる鋭い軌道はラクダ型にダメージを与えるのみならず、
態勢を崩し砲撃を逸らす。現在、積荷への被害はほぼゼロ――
「夏子! 近くに敵はいるか?」
だが見据える先の敵の数は中々減らず、半ば叫ぶように無線を取る。
「来てるよ3時方向! 運転手さん! 高度下げて! 頼もしい地上の戦友達になるべく近づいて!」
『了解した! 可及的な希望だが美人のいる場所に誘導してくれると、砂漠でも眼が晴れる』
ヘリ内での会話用ヘッドギアから操縦士の声が聞こえ、地面がゆっくりと近づいてゆく。
夏子の視線の先には空から大鷲型のキメラ。
「ふざけた要望に応えるつもりはないけど、こちらに敵影多数! 応援を!」
しっかりと聞こえていた蒼子からの応援要請。
接近してくる大鷲型へと撃ちこみながらトラックから逸れるように移動。
数匹が反応し、頭を蒼子へと向け彗星のように地面へと落ちてゆく。
「――ッ!」
『自身障壁』を発動してプロテクトシールドを構える。
鋭利な嘴はメトロニウムに弾かれるが、衝撃が彼女の全身を津波のように走る。
次々と流れてくる連撃に肩を入れて盾でしのぎ、影から尖爪にも負けない鋭い銃撃で貫いてゆく。
ヘリ、トラック、そして仲間の死角へ近づかないように、
遠距離から真っ直ぐに飛び込んでくる弾丸。
辿れば、AU−KVを着込んだ新が、必要な場所を冷静に見出し、的確な援護を行っていた。
銃を構えたまま、装輪で流れるようにポジションを修正しながら、様々な銃撃のラインを宙に刻んでゆく。
「―っ! いつの間にここまで‥‥」
シクルがトラックにまで接近した大鷲型に気付く。
その幌を爪で引き裂かれる前に、刀を抜き、微かな雷光を帯びながら地を蹴った。
だがそれよりも早く、新が槍を構えた腕にスパーク――竜の爪の影響――を纏い、
『翼』の疾駆で追いつくと、急降下中の大鷲を上から捉える
「‥‥厄介な敵は、早めに倒すに限る」
穂先をそのまま突き降ろし、自身とAU−KVの重さに任せて落ちるとそのまま砂地へと縫いつけた。
頼もしい仲間に口元を少し綻ばせ、再びシクルは迅雷で駆けて持ち場へと戻った。
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「む――?!」
装甲車に乗っていた、カルブの体が大きく傾く。
まるで清流のように洗練された静けさ、だが押し殺したような力強さで、
地面深くへと向けて砂が飲み込まれていた。
巻き込んだ軽装甲車を待ちわびるように、その中央には、アリジゴク型キメラ。
布陣のおかげで補給物資だけは無事――かと思われた。
トラックの前方から立ち上る、黒光りする壁。
等間隔に節目を持つそれは、見上げれば、粘性の液体を垂らしながら、顎をならす巨大なムカデだった。
「奇襲、待ち伏せは良い手だと思うよ。姿が見えない限りは――さッ!」
夏子がヘリの床に手を伸ばし、取り出しやすいようにしておいた弾頭矢を掴む。
鏃の先を穴へと捉えて放つと、中心で爆ぜてアリジゴク型を怯ませる。
夏子の援護の隙に、カルブは砂渦から脱出――ではなく、
自ら渦中へと飛び込んでゆく。
埋まる足で砂を蹴り、引き抜きながら近づくと溜め込んだ渾身の一撃を叩きつける。
が、器用にハサミのような顎で白羽を取られてしまう。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
宙で体を捻り、力を一瞬抜いた後、自分の体重をかけて一気に『円閃』を繰り出すと、
顎をすり抜け、キメラの顔面へとツヴァイハンダーの刃が振り下ろされた。
「早く上がれ!!」
同じく装甲車に立っていたウェルが、
突き立てた扇嵐を一気に広げて翻す。
カルブとアリジゴクの間へと緻密に、それでいて豪快な竜巻は、壁を張る様に巻き起こされた。
だがカルブが砂を掴んでもそれは零れ、踏んだ足元は崩れ、中々上に上がれない。
悠がUターンし援護に回ろうとするが、堅さ、トラックとの距離から、
ムカデ型へとターゲットを変え、急ぎそちらの排除へ回ろうとフルスロットル。
鎌首をもたげて接近したムカデは、餌を喰らうかのように頭をトラックへと突っ込んでゆく。
「させない!」
急ハンドルを切るトラックの後ろから駆け付ける蒼子。
正面衝突で盾をぶつけるように押しだしてガードする。
「――ッ!」
が、盾を両サイドから挟むようにムカデの顎が噛みついてくる。
そのままゆっくりと蒼子を押し返してゆく、負けじと歯を食いしばり『自身障壁』
だが足は地に埋まり、背中から倒れてしまう。手にムカデの口から洩れた液体が伝い、巨体が盾越しに蒼子を押しつぶしてゆく。
「離れろ――!」
蒼子の視界の端を駆ける冷気。
地面に近づいた頭に向かって、刀を抜いたシクルが飛び出し、逆袈裟で一閃。
その勢いのまま刀を逆手に持ち変えて突き下ろす二連撃。
濃青色の刀身は知覚の刃となり、ムカデの顔面に深い傷を残す。
シクルが着地したところに、身を悶えさせながらもすぐさまムカデの尻尾が薙ぎ払われた。
咄嗟に刀身を返して鎬で防ぐが、威力を殺しきれず、無防備な態勢で宙に放られる。
横に転がり、一度離れた蒼子が両腕で落ちてきた彼女を受け止める。
その横を、入れ替わるように新が抜けた。
自身で撃った弾丸を追うように突撃し、槍の間合いを測ってゆく。
横へ周りこんだ悠が、バイクの機動で流れるように、ムカデの節目を狙って強烈な弾丸を埋め込んでゆく。
薄い部分を突かれるムカデは、撃たれる度に体をねじり、砂埃を巻き上げる。
「おとなしくしないと、めっ、なのですよー!」
目にも止まらぬ早足でかけつけた耶子が飛びかかる。
未だ残る顎を向けるが、その周囲で空気が爆ぜた。
態勢を整え、遠距離から急ぎ放ったシクルの弾頭矢が、好機な隙を作る。
鎚でも使っているかのように耶子が刀を振い落すと、轟音を立てて顎を地面に叩きつけられた。
そこへすっ、と正面から入りこんだ新。
弓矢のように引き絞った腕を、槍を、真っ直ぐに口内へと突き入れる。
音は無く静かに、奥深くまで刺さる。柄を伝って、筋肉の、体液の脈動を感じた。
そして、頭部を視点に、胴体以下の体がゴムのように不規則にのたうちまわる。
蒼子が盾の裏にシクルを庇い、目を細めて舞う埃の中を見ていると、やがて、晴れた砂の中、ムカデは動かなくなっていた。
アリジゴクは、空のヘリへと向かって、砂の塊を吐きだした。
散弾銃のように装甲をへこませ、ガラスを貫通させる威力に、夏子は矢を撃ちこみながら撤退する。
丸い黒一色の目が、装甲車の上へと向く。
口を大きく開き、大きな砂の塊が沈みゆく装甲車と二人へ飛んでいった。
ウェルは意を決したように身を乗り出すと、目をやられないように庇いながら、
広げた扇嵐で砂塵の大部分を払い散らすように、
それでも袖や肩を貫く砂粒は、鉄扇を取り出していなし叩き落とすように捌く。
「全員で砂の中はゴメンだぜ――行け!!」
いつものにぱっとした満面ではなく、苦し紛れの中に生を信じる、恐れをなくした不敵な笑み。
その言葉と力に、炬烏介は殺意に火をくべて鉄の足元を蹴った。
砂の中央へ落ちるように飛び、振りかぶった拳を突き下ろす。
だが体を覆う殻にヒビが入っただけ、決定打には至らず、下半身が砂に埋まる。
右、左の打撃、組んだ拳を振り下ろす。その内、砂は胸まで迫った。
「猟犬は‥‥狩られる側ではない‥‥!」
肩まで埋まっていたカルブは、ザイルのように両手剣を突きこみ、支えのように捕まる。
もがくように砂をかき分けてカルブの武器の剣先へと炬烏介が近づき、
「死ね‥‥よ‥‥虐鬼王拳‥‥!」
ヒビの入った装甲、剣の先へ拳を当て零距離から捻じり、突き込む。
甲殻、その下の身を通して頭部に衝撃が伝わり、一度大きく痙攣すると、目、口、節。
様々な露出していた部位から、奇特な色の液体を漏らしながら、キメラはその場に事切れた。
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装甲車は程なくしてトラックにワイヤーで引き上げられ、
傭兵達は、無事に目立った被害なく全補給地点を回り終えた。
「うぅ‥‥日が落ちても暑いよ‥‥無事に終わってよかったね。‥‥でも‥‥あつい‥‥シャワーを早く‥‥」
ぱたぱたと手で扇ぎながら、シクルが帰りの迎えが来る方向を待ちわびるよう見つめる。
その横では、耶子がお疲れ様ですよー、と積荷目録を挟んだバインダーで、シクルと悠に風を送っていた。
「‥‥この。景色‥‥どう、思う?」
空コンテナに腰をかけながら、
ふと、一人だけ暑さを感じてないかのようにぼーっとしていた炬烏介が言った。
「景色だけ見るなら、綺麗でしたよね」
蒼子が配る冷たいお茶を受け取りながら、
新が苦笑して、街を囲む壁を見上げる。
ブルーシティーの蒼さは、空の青さを映しているようで、
地平のパノラマも、粗野だけど壮大な自然を感じさせてくれる。
暑さに捉われなければ、それは美しいものだった。
「‥‥この国。の‥‥景色、は。魂の‥‥景色、と‥‥似る。と、言う‥‥」
インドの景色、空には何か心に響くものがある――と。
「その似てるってのも、空の〜ってやつか?」
「今日一番空に近かった夏子は、残念ながら聞こえなかったので次は是非聞いてみたいでゲスよ〜♪」
「‥‥・・」
「‥‥おい、どうした?」
空を仰いでいた炬烏介は、いつの間にかその顔を下に向けて、こっくりと身体を揺らしている。
聞こえるのは、ソラノコエ‥‥ではなく、静かな寝息。
「何かどっかでデジャヴだぜ‥‥」
やれやれとウェルは溜息を吐く。
ブルーシティーの戦いは、街、砦、そして周囲での傭兵達の奮戦により、
美しい街並みを取り戻す形で、終息した。