●リプレイ本文
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響く砲声、怒涛の砲撃。
何百門もの火砲が、間髪いれずにあちこちで火を吹いている。
その上、もしくは中の空を、何枚もの鉄の翼が飛び交っていた。
「電子支援は私の本業です。私だって、皆さんのお役に立てます!」
里見・さやか(
ga0153)がウーフーのコクピットで、気合い充分に声を立てる。
敵の増援が放たれるとされる、八王子は横田飛行場。
そこをレーダー範囲に収める為に、迎撃班として前に立つ。電子の目と自らの眼で、迎撃対象を待ち構えていたのだ。
敵のジャミングが入る度に、キーを忙しなく、ただし冷静に叩き中和、対処してゆく。
爆発と、煙、降り飛び散る残骸等の間から、
彼女はHWと、それを守るように追随してくる幾機かのゴーレムを確認すると、
急ぎ連絡、レーダーを操作して無線を飛ばす。
「迎撃対象確認。データを送ります!」
ポップ音がコクピットに短く響き、
味方管制機からのデータリンクが完了した事を告げる。
「別の戦場で戦う友軍の為にも、ここは死守しなくてはなるまいな。俺も最善を尽くすこととしよう」
送られた敵情報を確認しながら、榊 兵衛(
ga0388)が告げた。
自分達も目視で確認しようとしたが、前に出て管制するさやかがほぼ仕事を終えてしまっている。
「さてと、狙撃はそんなに得意じゃねぇが、やるっきゃねぇか」
さやかが重要度別に割り振った敵のデータを眺めながら、
砕牙 九郎(
ga7366)が軽いため息交じりで気を入れ直す。
二体の雷電は、息を合わせているかのような動きで、敵へ向けた斜線を確保する。
兵装選択、スナイパーライフル――
「撃ちまくれば相手の足も止められっだろ」
九郎の指がトリガーにかかり、次々と二機の雷電からオレンジ色の閃光がほとばしり、空に爆ぜていく。
コクピットで最大倍率にしたHW、次いでゴーレムが砲弾を喰らい、体を揺さぶられている。
数発は流れてしまったが、牽制効果も相まり、敵のスピードが少し落ちていた。
「横田基地から出てくるバグア軍ご一行様にお引取り願えば良いのよね?」
コクピットの横を駆ける狙撃を頼りながら、
エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)が迫りくる敵へクロスマシンガンの弾を浴びせてゆく。
淡紅のプロトン砲や敵の援護を避け、いなしながら、ラインを突破しようとHWと肉薄した瞬間、
ソードウィングをアクティブ、軌道に鋭い刃を走らせ、HWを切りつけた。
ブースト、スキルは温存すべく、暴れる操縦桿を何とか抑えて旋回、敵に向き直ろうとする。
が、彼女の背中を後ろから殴りつけたような衝撃が襲った。
肺から思わず息が漏れ、目の前に白い霞がかかる。
エリアノーラのシュテルン後方へ張り付いていたゴーレムを、ルナフィリア・天剣(
ga8313)――ルナが捕捉。
急ぎパピルサクの操縦桿を倒し、揺れるレティクルを補正しながら、トリガー。
12発のレーザーが、空に貼りつけるようにゴーレムの体を穿つ。
「大丈夫か?」
『ありがとう、まだやれる』
エリアノーラは歯を食いしばり、スティックを握り直した。
立て直そうとする彼女へ近づき、追い打ちをかけようと銃口が狙う。
さやかが、ゴーレムを照準の中央に収めようと操縦桿を微調整する。
近づききる前に、電子音が伸び、ロックオン。
ボタンと同時に機首を倒し、離脱。
彼女の視界の外では、エリアノーラの後方のゴーレムにミサイルが飛び込んでゆき、衝撃と共にゴーレムを燃やしつくしていた。
忙しなく、ルナのコクピットに響くアラート。
レーダーを見れば、新たなゴーレムが後方へ迫っている。
急ぎ振りきろうと、慌しくパネルを操作し、今度は操縦桿を倒すように押しこむ。
Gで全身の血が上がっていくのを感じながら、進路を切る。ドッグファイトよりも、一撃離脱の戦法を狙っていた。
割り振った優先順位は、当初機動の早い順に狙っていたが、
偶然か必然か、タロスやHWのような、堅い敵ほど優先度が上がっている結果となった。
ゆえに、それらを集中して相手していると、
周りの敵がフリーになり、本命も脇役も、なかなか落ちないまま砲火を浴び続ける事となってしまう。
「敵、抜けます! 追撃班の方は対応を!」
迎撃班の味方へジャミング収束の効果をなるべく与えようと、追従していたさやか。
そのコクピットに、HWの巨大な影が映りこみ、後ろへと抜けてゆく。
隣では、エリアノーラが種々の兵装の弾幕を張り、ルナがキメラの群れへ次々とミサイルポッドを開放していた。
「追撃班、了解だ」
実は飛ぶまで半分も理解して無かったけど、何て言葉が頭をよぎる
時枝・悠(
ga8810)の赤いアンジェリカの前に、一体のHWが淡い紅の光を突きだして飛び込んできた。
フィロソフィーで牽制し、スティックを滑らかに操作、プロトン砲を仰ぐようにHWの下へと潜る。
「攻略中の蟻塚への増援阻止か。ははは、責任重大だな」
行かせはしないとばかりに、タルト・ローズレッド(
gb1537)のガンスリンガーが、悠機の後ろから現れる。
牽制目的に撃ちまくるライフルの弾が、正面からHWを襲う。
「ここを通すと後が大変‥‥なら、何としても止めないとね」
タルト機の後ろから弧を描くように旋回し、HWの横へ回りこむ依神 隼瀬(
gb2747)のロビン。
レーザーガトリングが次々とHWの体へ突き刺さり、兵装を小型帯電粒子加速砲に切り替える。
雷鳴を掴んでいるかのように、砲口付近で弾ける電撃。
レティクルの中央に捉えた瞬間、解放。
タルトも力いっぱいトリガーを引き、重機関砲をフルに回転、
秒間何百発もの銃弾の嵐と、粒子砲が十字砲火でHWへ喰らい付いた。
「勝つ必要がある。だから勝つ。いつもの事だ。いつも通りにやろう」
背にした蟻塚を感じながら、前を向く悠。
もう一体抜けてきたゴーレムへ牽制射撃をはじめ、タルトと隼瀬と3機の戦闘機動で撹乱し、
不退転の足止めと、撃破に尽力していた。
迎撃班に、合流した敵増援が着々と火力を厚くし、傭兵達を蟻塚方面へ押し込んでゆく。
敵を把握し順序よく当たり、戦術をしっかりと立て撃破してゆけば―――
甘かった。
管制・電子戦機の戦闘ライン前面での大立ち回りは、敵の格好の標的となり、
護衛も無いと、時間を重ねる度に傷も増えてゆく。
周りの戦況マップやレティクル、各種警報等の電子表示等をリンク、データを転送するさやかへ、
ハルバードを振りかぶり接近するタロス。
「いかん‥‥!」
兵衛が倍率いっぱいにモニターへ収まるタロスへ、次々とD−02の実弾を放ってゆく。
が、その身を空に投げだす事なく、駆ける凶刃はウーフーへと迫る。
九郎も急ぎ照準を合わせ、砲身に短い振動を何度も覚え、その度ライフルは火を吹いていく。
だが願い虚しくタロスは止まらない。
さやかは急ぎ兵装を選択、
ホーミングミサイルの照準に切り替え、既にコクピット目前に迫ったタロスをロック―――
遠距離班の狙撃中のモニター画面内には、ウーフーがその身を、タロスの斧刃に叩き潰される様子が映された。
コントロールとバランスを失い、暴風がさやかの機体を叩きつける。
体をへし折ってしまいそうな衝撃、針の暴れる計器。
煙と破片のラインを空に引きながら、さやか機は未だ戦闘の絶えない地上へと吸い込まれていってしまった。
指示をくれた管制機がいない隙を縫うように、タロスは迎撃班のラインを超え、
その後から大型のHW、そして、傭兵達を襲う微かな頭痛。
影に隠れるようにしていたキューブワームが、鶴翼のように大型HWの周りに広がった。
「冗談じゃねぇ‥‥!」
迎撃班が二人になった今、穴は遠距離班が埋めなくてはならない。
九郎が威力重視で螺旋弾頭をセットしようとするが、照準が画面の端から端まで大きくブレる。
CWのジャミング、そして電子戦機の中和が無くなったのは、予想より遥かに痛手だ。
「先にこちらから屠るべきなのだろうな」
タロスやゴーレムには回避されがちだったD−02も、
決して機敏ではないCWには次々と怒涛の威力で着弾し、破砕した破片が宙できらめいている。
サブアイシステムが補強してくれた計算を確認しながら、早急に脅威を排除しようとトリガーを引き続ける。
攻撃がCWに向いている隙に、HWも正確な狙いで砲撃を放ってくる。
敵も、CWは当て馬の囮だと理解したうえで放っているのかもしれない。
CWの撃破で時間を稼がせた分、蟻塚方面へ数体の敵の通過を許してしまった。
レーダー上の、自機のマークの後ろを飛んでゆく敵を見て歯痒い思いをするエリアノーラ。
大型HWが体を回転させ、慣性制御独特の機動で、滑るように宙を動きプロトン砲、フェザー砲を次々と発射する。
ルナのコクピットを侵食するかのように、翠色の閃光がモニターから溢れ、遅れて衝撃波が機体を揺さぶった。
防衛ラインが、少しずつ、確実に押し込められつつある。
迎撃班と追撃班、遠距離班の間隔も、また狭まりつつあった。
だが、消えかけたどんな小さな火でも、大きな物を燃やし尽くし再び燃え上がることが出来る。
戦力が絶えず残るのならば、それは決して敗北の兆しではない。
兵衛が 飛び込んできたゴーレムへ兵装を変更、長距離バルカンを選択し、
乱れるレーダー、レティクルに頼らず、自身の腕でコクピットの中央に捉え、激しい銃弾を叩き込めば
ゴーレムの右腕が吹き飛び、バランスを崩してよろよろと落ちてゆく。
その後ろからは、最後のCWが――
躊躇う理由は無い。リロードを終えたD−02を選びなおし、発砲。
全員受けていたジャミングが戻り、頭から違和感が引いてゆく。
抑えられていた闘争心を放たれたように、ルナ機とエリアノーラ機が大型HWへと向かう。
兵衛もジャミングの影響が強かったUK11−AAMを選択、二機が近づく為の援護として、
何発ものロックの後、正面に向けて槍で突きだすようにミサイルを放つと、煙の軌跡が次々とHWに向けて描かれる。
エリアノーラは先ほどとは打って変った機敏な動き、近づいては斬り、離れては撃ち、
ヒット&アウェイで驚異的な威力のHWの攻撃を分散させてゆく。
エリアノーラがHWの砲撃を惹きつけている間に、ルナが127mmロケットランチャーを機動、
画面内に次々と現れ、埋め尽くすように重なるレティクルを目で追い、タッチパネルで適宜修正。
スイッチの後、放たれる火砲。爆煙に包まれる敵へ、武器のリロードは捨て、ブラストシザーズを機動。
レーザーがダメージを重ねた装甲部分を貫き、火花を爆ぜさせ機体が揺らぐ。
そこへすかさず、九郎が螺旋弾頭ミサイルを放つ。
損傷部へ突き刺さった後、その身を抉るように穿つと、
内部の誘爆に慣性制御の体を大きく揺らし――爆発。
機首を跳ね上げるような衝撃と、思わず手で目を庇う程の光。黒煙を吐き出しながらHWは回転し、落ちていった。
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抜けてきた敵に、追撃班の対応も忙しくなってきていた。
隼瀬が飛び交うキメラの羽を狙うように、ガトリングでインファイトをしかけてゆく。
と、旋回でスピードの落ちた所へ、突如翼竜型のキメラがコクピットに翼を広げて取りついてきた。
振り下ろされた鋭い鉤爪が、コクピットのガラスに白い跡を残し、巨体と共に、隼瀬の視界を奪っていた。
『今行く、そのまま飛んでくれ』
隼瀬のコクピットに通信が入る。刹那、鋭く正確なレーザーが翼を、喉を、腹部を貫く。
改めて開かれた視界には、アンジェリカ内の悠と目があった。
恩には腕で報いるべく、流れてきたHWを追うべく操縦桿をぐいっと引き上げた。
フリーの敵を作らないようタルトが一体のタロスをマークする。
蟻塚方面へと突撃してゆくその背にライフルを放ってゆく。
足を止めて振り向くタロス、大きな胴体をコクピットの直近で掠めながら、進路上に立ちはだかるようターン。
張り付けにするように、GPSh重機関砲を放ち、1200発の30mmの実弾が一点集中で装甲を砕いてゆく。
だがタロスはその攻撃を交差した腕で防ぎ、まるでフットワークのような細かい慣性飛行で、
サッカーのオフェンスのようにタルト機の横を抜ける。
「抜かせるものか。バレットファスト起動ッ!」
アクチュエーターが鋭い音を立てて機動。操縦桿を思い切り引き倒しターン。
タロスに追い付き再び前に立ちはだかる。
確実な威力と命中のライフル、総合的なストッピングパワーのある重機関砲、
無茶苦茶な程にばら撒かれる弾を、ガンスリンガーのシステム、AIがけなげに働き再装填する。
だが、タロスの自己修復機能が、そのタルトの猛攻を決定打たらしめずにいた。
まるで痛みをこらえるような、鈍い動きで迫り、その拳を引き、突きだす。
間に合え。その拳が機体を掠めるまでに、落ちろ。その願いや虚しく、ガンスリンガーの横面をタロスのフックがめり込む。
「くっ‥‥!」
機体を乱暴に放られ、視界が回転する。上も下もわからないまま、とにかくレバーを捻り、バランスを取ろうと試みる。
自己修復を始めたタロスへ、真紅のアンジェリカが向かう。
悠がブースト空戦スタビライザーを機動、駆動系がフルで回転し、タロスへと届ける羽となる。
傷が治りきる前に、有り余る練力でSESエンハンサーも惜しみなく発動。
銃口から漏れる光が、溜めこんだ知覚の銃撃の威力を物語る。
威力を増したフィロソフィーのレーザーが、タロスの閉じてゆく傷へ割りこむように突き刺さってゆく。
隼瀬が残練力の表示を見て、一瞬腕を止めてしまう。
ここで全力の攻撃をすれば、タロスは落とせるかもしれない。
が、練が最早半分を切っていた。
練力と、防衛ライン最後の砦という葛藤が、彼女を一瞬躊躇わせた。
もし、援軍がこれだけではなかったら――
蟻塚に辿りつく前に、何としてでも止める。
その思いでここまで奮戦して来たはずだ、と。
アリスシステムが計算を始め、小さな電子音がコクピットに響く。
兵装は、オメガレイ。AIの修正する照準を頼りながら、トリガー。
240mmのレーザーが、操縦者の目も眩ます程の威力で発射され、真っ直ぐな軌道が、空でタロスを串刺しにする。
蟻塚方面へと手を伸ばしたままのタロスが、未練げに落ちてゆく様を、3人はコクピットから見ていた。
管制を担当していた機体が落ちてはしまったが、
ほとんどの戦力をそのまま空に留める事が出来た傭兵達は、
完璧な絶壁とは成り得ずとも、後続の戦場に大きく傾く変化を与えることなく、
援軍を止める事に成功していた。
程なくして、蟻塚方面の状況も届くことだろう。無事を祈り、傭兵達は八王子の空より帰投した。