タイトル:ボーンデッドマンションマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/02/10 20:00

●オープニング本文


 背筋がぞくりとするのは、安物のダウンのせいだろうか。
 もしくは、雰囲気というものにあてられたのだろうか。
 目を瞑っても、肌の表面をするりと撫でる不気味さを感じ、男は勘弁してくれ‥‥と、つい一人ごち、震えながら立っている。
 吐いた白い息は消えるまでに数秒を要し、黒いキャンバスに白い砂を撒いたような星空は、雲のカーテンに隠されていた。

「苦手か、こういう類のものは」
 アッシュグレーの短髪に細い銀縁眼鏡の男、井上 雅がダウンジャケットを着込む不精髭の男の隣で聞く。

「冗談じゃないっすぜ雅さん。こういう類も何も、まずどういう類だっつーんすか。カテゴリーを明確にしてくださいよ」
「驚いた。君からカテゴリー何て頭の良い言葉が出てくるとは。俺にとっては、目の前の光景よりもそっちの方が鳥肌だな」
 拗ねますぜ、と言いながら、腰に下げている五連発式のリボルバーをホルスターの上から感触で確かめる。
 SESはついていない、日本の警察のオーソドックスな官給品ではあるが、何もないよりは気分も優れるというものだ。

 二人の周りでは、まるでここだけ極夜かのように、人を不安にさせる薄暗さが、
 枯れ朽ち果てた木々の合間を漏れなく縫って、静かに、広範囲に渡って徘徊していた。

「しかし‥類は友どころかバグアも呼ぶんだな。コンビニの前の中学生じゃあるまいし、何もこんなところで‥‥」
「雅さん、だからどういう類だってさっきから言ってるじゃないすか」
「‥‥」
「‥何すか。そんな目で俺を見ないでくださいよ」
「‥怖いのか、こういうの」
「怖くなんかないっすよ!仮にも34歳巡査長独身の俺が、こんなもん怖がってたら公僕が務らねっす!」
「じゃあ‥こんなもんとは、どんなもんなんだ。ハッキリ口に出して言ってみてくれ」

 雅は涼しい顔でさらりと会話のキラーパスを出し、懐から出した煙草の紫煙を燻らせていた。
 うっ、と言い詰まった男は、あれこれと良い言葉を模索するうちに、やがて悔しそうに唸り始め、観念する。

「‥お化けとか、心霊とか、モンスターとか宇宙人とかUMAとかの事っすよちくしょう!言っときますが、怖くなんかないっすからね!」
「キメラはほぼその全てに該当すると思うんだがな‥」
「キメラは別っす。奴らは憎いし、ポップコーン片手にスクリーンの前で脚組んで座ってるだけで、全て解決する話じゃないっすから」
 そういうもんかね、と然程興味無さ気に流し、
 オイルライターをくるくると手の中で弄びつつ、雅は目の前にそびえ立つものを見上げた。

 そこには、立派な装飾の施された門と、柵や壁をツタや蜘蛛の巣、苔等が彩りを与え、
 過ぎた歳月を感じさせつつも、決してかつての繁栄と優雅さだけは忘れらせない大きな古びた洋館が、
 さながら悪趣味で不潔なドレスに包まれた貴婦人かのように、何も言わず、荘厳な態度で二人を見下ろして待っていた。

「状況の確認と整理を頼む」
 円柱型の携帯灰皿へ屑を放ると、
 機敏な動きで、警官の男も電子端末で資料を開き、読み上げる。
 雅は黙って聞き終えると、これなら安心して柚木と傭兵に引き継げる、と零した。

「実によく出来てると思わないか、色々」
「西洋風なアンティーク調が逆に不気味っす。日本にこんなもん立てんなっつー話ですよ」
「なら、古びた和風の屋敷の方がよかったか。破れた襖に畳、誰も拝まなくなった仏壇等々が君をお出迎えだ」
「‥‥地球に生まれてこなきゃよかったっす」
「中に入って言ってやれ。仲間に入れてもらえると思うぞ」

 雅さんは、俺の事が嫌いなんすね‥と、悲愴に満ちた34歳独身の呟きは、
 既に踵を返して帰路についている25歳独身の背中には、届かなかった。




「ふっふっふ、前回は待たせちゃったからね、今回は誰よりも早めに来てみたわよっ」
 傭兵達が作戦会議室のドアを開けると、既に上座では柚木 蜜柑が座ってVサインを向けていた。
 オリーブ色のスーツにミルクチョコレートのショートボブの髪型は、以前と比べると幾分手入れが整っているようにも見える。

「大規模も終わったから忙しさも緩和したしね。でもさっそく仕事の説明に入ってもいいっ?」
 柚木が余裕を利用して用意したコーヒーを紙コップで配る。
 傭兵達の飲める飲めないは、意気揚々に目を輝かせて仕事をしている彼女にとっては
 残念なことに興味の眼中に入っていないようだ。
 自身の分を一口すすり、ようやっと柚木は口を開いた。

「場所は日本のある山の中にひっそり佇む洋館。近くに大きな共同墓地があるらしくて、そこの管理等でそれなりに栄えた一家の持ち物、だったらしいわ。残念なことに、今はバグアの被害にあって、ほとんど途絶えちゃったみたい」
 柚木が小さなリモコンをいじれば、館の外観、衛星写真、持ち主の顔等が次々とプロジェクターから映し出されていく。

「依頼はふもとの小さな街の一つからのもので‥今回の目的は、その屋敷に潜んでいる危険因子の殲滅、ね」
 危険因子、というまたもや曖昧な表現に、柚木自身も、詳しくは‥と詳細の説明を断念する。

「ただ、ちょっと前に熊を狩りに行った猟師が、あまりに巨大な熊を見かけたので撃ってみたら赤い障壁に弾を阻まれてしまったとか‥他にも、その館の近くにある共同墓地へ墓参りに行こうとしたら、随分粗末な服を着て鈍い動きで山中を徘徊する人のような集団も見受けられているんだって」
「あ、共同墓地の方は、屋敷からは近いとはいえ離れてて、今は他の管理人さんがいるから、そっちは大丈夫。貴方達は、屋敷の方に集中してね」
 前髪を揺らしつつ、びっ、とボールペンを突きだし注意を促す柚木、更に話を進めていく。

「危なそうなものは排除もしくは無力化。そこら辺は任せちゃうから、お願いっ。ついでに、どうしてこんなになったかの確認まで出来ると素晴らしいわね」
 一通り説明を終えたのか、プロジェクターもスクリーンも起動を止め、柚木は資料を纏めて部屋のドアに手をかける。

「じゃあ、後はヨロシクっ。‥徹底的な解明と、完膚無き天罰を与えてきねっ」
 ドアはパタリとしまり‥‥やがて、何やらぶつぶつと聞こえてくる。 

「‥ダメよ、ダメだってば、絶対お化けなんてこの世にいちゃダメなんだから‥‥」

 うわ言のように聞こえてくる呟きは、傭兵諸君にとってそれはそれは聞き覚えのある声だった。
 そう言えば、以前と比べてもう一つ。
 やけに顔が青ざめているような気もしないでもなかったが、気のせいかも知れない。
 うっすらとルージュの残る役目を終えた紙コップは、静かに傭兵達の話し合いを待っていた。

●参加者一覧

レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA

●リプレイ本文


「んー、良い感じに崩れかけだね」
 黒瀬レオ(gb9668)が辺りを見回しながら言う。
 そこを視界が許す限りでみれば、不気味な古い洋館という外見の期待を裏切らず、
 壁は禍々しい色の蜘蛛が這い、床には木のトゲが荒々しく剥き出たまま穴が開き、手すりも決して体重をかけては良い状態には見えなかった。

「探偵としての勘が私に訴えてくる‥この館、何かがいるっ!」
 どーん、と胸を張り、出典不明な自信たっぷりに雨霧 零(ga4508
「いや、何かがあるから調べにいくんでしょ!?」
 飲兵衛(gb8895)が思わず言うが、ツッコミ先の迷探偵は立派なソファーにどかっと腰掛け、舞い上がる埃にむせていた。
「はいはいバグアバグア」
 時枝・悠(ga8810)はどーせ‥というような感じで呟くが、
「案外、違うモンかもしれねーゼ?」
 この雰囲気を寧ろ楽しんでいるのはヤナギ・エリューナク(gb5107
 しっかりとした椅子に腰かけ足を組み、自前の持ち込んだベースでminor7thやら7th、フレット上で踊る指が低く暗く不気味な音を作り上げてゆく。

「こういうのはなぁ、絶対に科学的根拠があるんだって。」
 俺がそれを証明する!と零とはまた違った自信に満ちているのはテト・シュタイナー(gb5138

「私も、サイエンティストなのでお化けは怖くないのです」
 レーゲン・シュナイダー(ga4458)――レグ、も作戦本部(仮)完成ですね☆、と、
 ワクワクしたノリで持ちこんだ提灯をテーブルに設置している。
 本当に幽霊がいたなら、これほど脅かし甲斐の無い客人達は、居なかっただろう。

「古い洋館にホラーな雰囲気、映画だと炎上やら倒壊やらでラストを迎えるところだが‥」
 レグのサポートに来ていたエイミー・H・メイヤー(gb5994)が玄関に寄りかかり王道を語る。
 彼女の仕事は退路の確保、並びに必要な道具の貸与だ。お手伝いありがとですっ、といつの間にか再会のハグをレグから受け、自身もはぐり返している。

「ふっふっふ、この洋館の謎は私が解く! のんさんの名にかけて!」
 言うや否や二人目の迷探偵エイミ・シーン(gb9420)が飲兵衛のお腹をふにっとつつく。
「ふふっ。依頼の時一緒だとこれやらないと始まった気がー」
「さて‥じゃあ始まった気もしたところで、行きますか」
 慌ててエイミの指を掴む飲兵衛の後ろで、ヤナギが立ちあがり燻らせていた煙草をもみ消す。
 幽霊屋敷で幽霊を気にしない、これ程頼もしい事はない。
 ロビーでは、エイミーが任せてくれ、と仕事に向かう彼らを見送っていた。



 腰にランタンをぶらさげようとしたのだが、色々危険だという事が現地で判明した。
 それなら、とレオは進んでランタンを手に持ち、彼女の行く道を照らしてあげている。
 レーゲンさんの方針に従いますよと微笑むレオに、
「でしたら‥やっぱり電気の復旧、見てみたいかもですっ」
 ぱむっ、と手を叩いて提案するレグ。
「大きな建物ですから、きっと外に変電設備があるはずなのですよ」
 レオは了解ですっと首肯し、ランタンを掲げ歩き出した。
 途中、本部へ定期連絡を入れる。「承知したよ!」という元気な返答を確認してから勝手口より庭へ出ると、
「おっ、何だお前らもコレか?」
 そこには、ちょうど線対象、反対側の勝手口から悠に付いて出てきたテトが、大型トラックの荷台程はある変電設備を親指でくいっと指さしていた。

『ガシャン!!』
 と、突如4人の上の方から何かが割れる音がした。
 刹那、今度は重いものが地面に落ちたような音がする。
 何ごとかとそちらへ向くと、そこには肩幅の広い西洋の甲冑鎧が二対、
 立派な装飾と紋様をこしらえたハルバードを構えて立っていた。
「なるほどね、こんな種明かしなんだ?」
「幽霊の正体見たり、ね」
 敵意を剥きだしにした動く鎧を前にし、すらり黒刀炎舞と紅炎の鞘が払われる。
「まったく‥この家のモンは客人に顔も見せないと思ったら、会ってなお顔を隠すなんて、ちょっと失礼じゃないかィ?」
 レグはプラチナブロンドをなびかせながらレオに強化を施し、啖呵を切った。
「さァ、やっておしまい!」
『了解!!』


 二つの鎧は、地を沈めながら悠とレオに歩み寄る
 後衛には近づかせない、だからこそ、確実に敵を仕留める必要があった
 二対の重撃は寸分違わずお互いの相手へと襲いかかったが、カウンター、受け流し主体の二人とは相性が悪かった。
 レオは刀で斧刃の軌道を逸らし、開いた小手へと紅蓮の斬撃を叩きこみ
 同時に悠も、突き込まれた槍をかわしつつ前進し、動きの鈍い鎧の首元へ、ノンルックでばっさりとジュピターを振り下ろす。
「固いな‥」
 元は館のものなのだろうか。だが目の前の鎧は、能力者にも耐えうる強度を見せていた。
 ――かすったりしません様に。テトが密かに胸元で十字を切ってからスティングレイの雷刃を飛ばす。
 悠が意識して確保していた射線を綺麗になぞり、鎧の胴の辺りにざっくり着地する。

「気を抜いたら‥やられる‥ッ」
 作戦前の会議で散々ネタとして話はしたが、後ろから高速の刃が飛ぶと、洒落にならないものだ。
「いや、当てねぇから。マジで」
「‥もしかしたら、ちょっと掠ったかも」
「当ててねぇって! 俺様の腕を信じろよ!」
「いや、この袖の‥」
「‥こんな時につまんない漫才見せるんだったら、先にお前さん達から二度と笑えなくしてやろうかい!!」
 覚醒中のレグが鋭く一喝。仮にも戦闘中、それに鎧の強さはレオとほぼ互角と言うところで余裕は無かった。
 姐さん怖い‥とひとしきり震えた後、今度こそマジメに向き直る。
 レグも鎧が踏みこもうとした部分に銃を撃ち込み牽制する等、的確にレオの援護を行っている。

「やぁっ!!」
 レオは槍の真っ直ぐな一閃を顔の右へ逸らし、そのまま柄を走るように刀を滑らせ、首元へ気合いと共に斬撃を抉り入れる。
 槍斧の振りの勢いと上部への衝撃で、ものの見事に鎧は地面へ倒されてしまう。

「腹括りな。お前さんは逃げられやしないンだ」
 レオの作った隙を活かすべく、レグは容赦なく近寄り、見上げる鎧の頭部へ一発、妖艶な笑みと共に銃を弾いた。
「一丁あがりっと♪」
 無邪気な黒獅子もどうにか一息つき、対の鎧へ残心を取る。
「誤射の危険を促すとは、おのれバグア」
「さーて、俺様もぶっ放すぜ!」
 電圧の刃は白いセーラー服の背中ではなく黒い鎧の間接へ的確に刺さり、反撃で薙ぎ払われた斧も、紅炎で軌道を上に逸らされ悠の頭上を越え、容赦なくジュピタがをガラ空きの胴へ斬り込まれる。
 一度本気を出した悠とテトの猛攻に、鎧は地へ虚しく崩れ落ちた。

「中の人は、いないのか‥」
 残念そうに兜を広い呟く悠の後ろで、テトとレグは配線の解析を再開していた。


「承知したよ!」
 作戦本部(仮)の零は無線で受けた情報を元に細やかなマッピングを行っていた。
 提灯に仄かに照らされる筆記具と横顔は、どこか興趣が添えられた雰囲気を感じる。
 対面のエイミは、遺書ってどうやって書くんだろ‥と頬杖付いて鉛筆をくるくる回していた。

「ところでー、私達もそろそろ行かないでいいんですか?」
「いっただろう? 君の行きたいところにどこまでもついていくと!」
 びっ、とザフィエルの先を向けられたエイミ。
「でも、どこから調べればいいかよくわかんないんですもんー」
「ふっふっふ、そういう事なら早くお姉さんにして名探偵を頼りたまえエイミ君。娯楽室、浴場、書斎なんかが怪しい感じはするね。何故か、それは探偵としての」
「じゃあ早速手隙の班に伝えておきますね!」
 悲しき事に名探偵の主張は最後まで聞かれなかった。
「のんさん達が娯楽室に行くようなんで、じゃあ私達は浴場にいきましょー♪」
 がしっ、と姉的な零の首根っこを掴んでずるずると引っ張っていくエイミ。
 名探偵の叫びは、果たして無理な体勢で引きずられたからか、それともベストマッチなポジションから離れた未練からか、
 真実とは得てして残酷なもの。その答えは闇に消えていってしまうのだった。


「あいたっ!?」
 ガランとした、一つのちょっとした銭湯程はある広さの浴場。
 水分はとうに乾いて草やカビが蔓延る床の上、エイミは何かに滑って転んでしまった。
「ふむ、これは敢えてアナログに仕込む事により、我々傭兵を油断させる罠に違いない!」
 どーん! とエイミが踏んだばっかりの石鹸を拾って零が言う。
 おのれバグア! と恨みに燃えていると、入り口とは違う奥のドアの方からガタガタと音がする。
「ふむ、構造的にあそこはボイラー室かな?」
「おぉ!? 今度は何でしょう!」
 痛い目にあったにも関わらず妙にわくわくしているエイミ。
 が。
 ドアの大きさなどまるで無視し、壁もろとも中から出てきたのは、ボサボサとした厳つく雄雄しい熊だった。
「!? ダンタリオン‥!」
 目が赤く、剥き出しの牙から唾汁を見せる熊に危機を感じ、エイミはすぐさま練成強化を施す。
「名探偵としての勘が、この熊はマズいと言って聞かないね‥!」
 熊とエイミの力量差を見抜いた零は、機械剣を抜いて前に立つ。
 銃で影撃ちを放ち、不意打ちで怯んだ懐へ飛び込み機械剣で一閃する。
 零の読みは正しかった、それなりに決定打をぶち込んだはずなのだが、体制を崩すことなく両手が振り下ろされる。
「離れて!」
 とっさに零がバックステップを踏み、熊へ超機械の電磁波が浴びせられる。
「ふむ‥まずいね。長引くとボイラーが危ない。これは一気に決める必要がありそうだよ」
「それなら‥」
 ちゃきっ、ともしもの為に持ってきたロケットパンチを構えるエイミ。
「いくよ!」
 再び熊に向き直り、零が強弾撃の連撃を頭部へ放つ。
 傷は確実に与えているのだろうが、鈍いのだろうか、容赦なく確実に、熊は二人へ前進してくる。
 行かせない!と零は再び機械剣を抜き、熊の重い一撃を妖霧に攻撃させるかのようにかわし、切りかかる。
「行くよ!! スターダストキャノン!」
 エイミは零の攻めの切れ間ですぐさま大きく前方へ飛び上がり、見下ろした熊の脳天へ向けてロケットパンチを射出する。
 降り注がれた流星を真近で見た熊は、視界を真っ白にし、星空を眺めるように大の字になって砕け散った床へと倒れこんだ。


「了ー解」
 飲兵衛が無線を切り、話を聞いていたヤナギがニヤリと笑みを浮かべる。
「目の前なんだがね」
 彼らはマッピングとの差異と不明な点の解明をしていたが、成果が出ていなかった。
 逡巡していたところに、名探偵のお導き。迷うことなどない。
 飲兵衛が後方で銃を構え、ヤナギも爪で襲撃に備えつつドアを開ける。
「賑やかだねェ‥」
 二人の目に映ったのは、原型を留めないものもいる動く屍達が、
 死者にも娯楽を楽しむ権利がある、とでも言うかの如く、ビリヤードにカード、音楽に興じているという何とも奇妙な光景だった。
 死者達は二人を見やると、一斉に武器を手に取り、殺意を纏って構えだした。
 キューにトランプ、椅子、トランペット等武器とはいえその場にあったものなので少々せこいものではあるが。
「楽器は武器じゃねェぞコラ‥!」
 音楽家の魂を汚されたに等しい行為を見やり、ヤナギは楽器を構える死者に斬りかかる。
 遠心力に任せた華麗な軌道は、容易く死者の首と胴を切り離した。
 飲兵衛も危険が及ばないよう、彼の死角の敵に容赦なく強弾撃を放つ。
 倒せきれない場合も、すぐさま隙をついてヤナギの爪が肉をえぐる。
「そう、そいつが邪魔だったんだ‥!」
 ヤナギが斬り伏せた敵の影になっていた者も、あえなく頭部を貫かれ崩れ落ちる。
 接敵しがちなフェンサーを遠くからスナイパーがフォロー、ほぼ完璧とも言える作戦だった。
「ハァッ!」
 敵の突きを左手で掴み、わざと引き寄せ懐へ爪を刺すヤナギ。彼の周りの敵はほぼ床に還ったようだ、
 相方が気になり後ろをみれば、飲兵衛もあと一匹。だがタイミングの悪い事に銃の弾が切れていた
「野郎‥!」
 体に光を纏い駆け付けようとヤナギが駆け付けようとしたが、
「生憎、これはただの義手じゃないんでね」
 ニヤリと飲兵衛の口元に笑みが浮かび、刹那、手首から弾かれるトリプルバースト
「ダウトだ‥」
 死者が投げようとしたトランプは宙に舞い、棺桶の蓋の如く横たわった体を覆う。
「残念無念また来世ってな、キメラ共。別に会いたくは無いが」
「来世でまた会おうってか?俺は別に構わねーゼ?」
 男達は拳をぶつけ合い健闘を称え、来賓が多過ぎたコープスパーティーを後にした。



 鎧を沈めた庭の班は、配線の解析により、庭の隅にある小さな地下室への入り口を見つけていた。
 そこには、植物のように地や壁を這う大小様々なケーブル、更には数機のコンピューター。悠が何かしらの痕跡を探すと、鎧、絵画、ペットであろう魚に犬、
 そう、キメラの研究所がそこにあったのだった。
 レオも探索を始めようとしたが、テトの驚いた声で動きを止める
「やべぇぞおい‥この施設、自爆しようとしてる‥」
 一同が驚きと焦りを顔に浮かべ、レグも急ぎ機械を捜査し情報を集めだす。
「えと‥爆発まで残り5分‥っ!?」
「あれ? この数字は10分ってなってますよ?」
 レオがふと見つけた数字を指さすが、微かな希望も空しく、それは10分からカウントダウン開始した意味だとレグが説明する。
「5分前‥5分前!? ちょうど俺様達が館の電気を復旧した頃‥」
「じゃあ、電気をもう一度遮断すれば‥」
「イチかバチかだ! 悠! 誰かに速効で電気を切ってもらってくれ!」
 すぐさま無線で連絡を入れると「任せたまえ!」という元気な声が聞こえてくる。
「‥文字通り切ったな、きっと」
「結果オーライ、ですねっ。見てください」
 Access Failed とご丁寧に英語で書かれた字がモニターに映し出される。
 ダメ押しで調べなおすが、どうやら完全に自爆装置は止まったようだった。
「あーぁ‥バグアって怖いね?」
「し、死ぬかと思ったがそんな事は無かったぜッ!」
 呑気にくすりと微笑みながらレオが言い、テトもひと仕事終えて息をつく。

「仕事も終わったし、帰りにラーメン屋でも寄るかね‥」
「のんさん、またメタボるよ?」
 エイミーの確保してくれていた退路で一服する飲兵衛の後ろから駆け寄り、彼の腹をふにっと突くエイミ。
「またって、俺メタボったつもりは一度も‥」
「おごってくれたら見逃してあげるー」
 やれやれと視線を逸らし、肺に満たした紫煙をまっすぐに吐きやる。
 ある者は「さっきのやっぱり当てた」「いや当ててねぇって!」とどつき漫才を繰り広げ、
 ある者は名探偵としての活躍を語るべくメモを走らせ、
 ある者は音楽を奏で、ある者は目を輝かせてそれに聞き入り、ある者は久々の再会の思い出話に耽る。
 結局、最初から最後まで「おばけやしき」を楽しんでしまった傭兵達だった。