●リプレイ本文
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遠く、深く、紺青の海が広がる、北京南東部。
わたつみに揺られ、穏やかに上下する城の下では、巨大な亀がゆるやかに足を前後に動かし、姿勢と、城の深度を保っている。
和中風の豪奢にして、どこか禍々しい作りは、キメラプラントを擁した巨大な要塞だという事が先の作戦により判明した。
「やはりこの下の亀は、ギガワームクラスの敵と見て間違いありません」
UK3の発令室。通信官の操作でズームされていくモニターに、一つ、一つと電子表示の解析結果が投影されていく。
「艦長。対竜宮戦力、及び轟竜守備戦力、位置につきました。城内では別働隊がまだ戦闘中です」
参番艦の艦長、沖田は報を受けると、深く頷いてから閉じていた瞼をゆっくりと開き、深く座っていた司令官の椅子から立ち上がった。
そして、火器管制官と通信兵の方へと向き、
「一番管と三番管の魚雷をギガワームへ発射。――――ゴングだ」
碧海に白い水泡のラインを引きながら、亀型ギガワームへと突撃してゆく魚雷。
激しい爆発と衝撃の後、竜宮、そして亀から吐き出されてゆく無数の敵影。
戦いの火蓋は、切って落とされた。
●
「あれが竜宮城か‥‥!」
井出 一真(
ga6977)が蒼い阿修羅の中から、遠くに居てもなお存在感の高い敵の根城を見て呟く。
そして段々と迫り、広がる蟻程の大きさだった黒い点を、無数のキメラと認識し始めた頃に、ポップ音がコクピットに短く響き、
味方管制機からのデータリンクが完了した事を告げる。
「目標補足、コンテナ開放。ミサイル発射!」
切りこんできた不気味な形相の猛禽類型キメラの網へ、次々とK−02ミサイルが飛び込んでゆく。
そうして開けた僅かな網の目、ダメ押しの如くバルカンを撃ちながらこじ開け、突撃してゆく。
『気をつけてっ。下の海から無数の熱源反応、飛び出てくる!』
一真のコクピットに無線が飛び込み、慌てて操縦桿を傾ける。
機体でスプリットSの軌道を描くと、間一髪、先ほどまで彼がいたところへ、
牙を剥く無数のトビウオ型キメラが間欠泉のように飛び出していた。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ! 蹴散らすぞ!!」
絶え間の見えないその群れへ、蒼い野獣が切りこみ、一度味方陣へと攻撃的な踵を返した。
一真機へフォローを入れたのは夢守 ルキア(
gb9436)だ。
彼女の骸龍とユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)のワイズマンは、空戦にて管制を担当していた。
最低限の自衛や危険にさらされない為の立ち周りにも余念はないが、
UK3と担当を分担しても、出撃している人数の管制はなかなか忙しない。
絶えずパネルやキーボードへ指が動き、目は戦況マップやレティクル、各種警報等の電子表示を追い、口からその都度言葉を放ってゆく。
対して水中の管制は錦織・長郎(
ga8268)が担当している。
ゆらゆらと水に反射した光揺らめくコクピットの中で、
レーダーにユーリの撒いたソナーブイの位置情報をリンクさせながら、
的確に管制としての仕事を一つ一つこなしてゆく。
「全ての流れはこちらへだ、もう止められないね、くっくっくっ‥‥」
水空両用撮影演算システムのカメラ部のみを起動し 敵群をAIの補助も含めてナンバリングしてゆく。
その都度、それらの密集度具合・侵攻方向等を 適した味方機に振り分けてデータを送信する。
やや前線寄りに位置した彼だが、出発時点で重傷がまだ癒えていない。
一発喰らってもつかどうか、微妙なところだ。
「門では温存気味でしたが、ここではしっかり動けますね」
ガーネット=クロウ(
gb1717)は竜宮入り口付近の敵を掃討する作戦にも参加していた。
長郎のオロチに近づくサメ型キメラへ、演算システムにより送られたデータでガウスガンの照準をAIが修正し、トリガー。
実弾を的確にめり込ませ、水に溶ける体液で眩むその姿へ、鴉(
gb0616)のアルバトロスが、大量の大型ガトリング弾を、
前方に携えた槍のように放ちながら突撃してゆく。予めわかっていたかのように、操縦桿を無駄なく傾けると、
アルバトロスのヒレに触れるか否かの距離で絶命したサメを回避、緩やかに気泡を纏いながらターンをして戻る。
『KVの方が小回り効くし、能力者が管制するから質がいいし、正直私の管制なんて○○○○なもんじゃないかしら』
「蜜柑さん、口が悪いです。その内、叱られますよ」
UK3にクリアにした戦域の座標を送信し、蜜柑の4文字言葉なぼやきを、くすくすと笑いながら鴉が拾う。
『ホントはね、わかってるの。私に出来る精一杯をするしかないって。でも、やっぱり能力者はいいなぁ‥って思う事もあって、ね。さっ、ぼやいてる暇があったら、敵機報告の一つでもするわっ』
「ええ、これが遺言にならない事を願いながら、海鳥になってきます」
十字架に一度触れ、穏やかに口角を上げてから、操縦桿を押し込む鴉。
See you on the beach! と幸運を祈った蜜柑の言葉は、スクリュー音と共に深海へと溶けた。
「ふふふっ。ついに僕のデプスの出番がやってきましたっ!」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)が自身のグリフォンの中で、堅い操縦桿を握りしめ、目を輝かせながら笑みを浮かべている。
参番艦の甲板上にて立つ、四肢の鳥。別のUK3護衛隊の防衛網を縫って突撃してくるタフなゴーレムや大型の鳥類キメラへ、
次々とスラスターライフルを向けてゆく。唸る排出音、冷却機構。モニターの残弾数にはまだ余裕がある。
と、長郎からデータが届く。推定全長10m以上のキメラが、ガーネット達の猛攻の隙間を潜り抜けたようだ。
「傭兵のグリフォンの扱いを見るといいですっ」
突如アクセルを踏み込み甲板からヨグ機が飛び出す。ステップエアを起動し、揺れる波間に降り立つと、
レーダーとAIが視界を遮る海の色を挟んでロック、
「いっただっきまーすっ」
魚雷ポッドを岩なだれの如く海中へ落とし、ガウスガンを標的へ全力で撃ち込んでゆく。
小鳥の鋭い嘴を舐めてかかったダイオウイカキメラが、程なくして力無く海の底へと沈んで行くのだった。
「口の悪いオペレーターだったね。けど、出撃前に気持ちが上向いたかな」
水中にて、眼前で無数の弾丸やミサイルが沈んで来る様を見つめ、赤崎羽矢子(
gb2140)がスピーカーから正面へと向き直る。
軍の兵士が躊躇し、少しでも手元が狂えば弾頭に触れるような戦況下を、軽快な機動で突き進んでゆく。狙うは、竜宮を背負う亀。
「一番乗り、もらった!」
ソードフィンが亀の足へ抉り込むように飛び込み、分厚い表皮へ傷を入れ、勢いで断ち切ってゆく。
機体が水圧に耐える音をコクピット内で聞きながら何度もターン、
次々と強化されたフィンを叩きこみ、確実に亀の機動力を削いでいた。
「亀を虐めて浦島太郎が現れるとかベタな話だ。尤も、亀も浦島も逃がすつもりはないけどね!」
フィン、クローでコンボを重ねてゆく羽矢子。レーダー、通信には気を配るが、
まだ、浦島は現れていない。
同じ深度内で、タイサ=ルイエー(
gc5074)がカーテンのように浮き漂う大量の大クラゲ型キメラへ、魚雷の弾幕をぶつけてゆく。
「水中ワーム・キメラは生態系を乱す、徹底駆除だ」
幕と幕の押し合いは徐々に徐々にとクラゲを水面へと上げてゆく。
「狩人だけど、漁師の仕事もがんばるよ」
UK3の甲板上で砲台となっていたアルテミス(
gc6467)が、タイサの押し上げたクラゲを次々と荷電粒子砲で掃射してゆく。
海上に浮くクラゲを足場にしてUK3へと近づいてくるペンギンやサーベルタイガーのようなキメラを見かけては、
ターゲットをその都度AIに指示、変更し確実に宙で撃ち落としてゆく。
堪え切れずまたクラゲが水面下に潜れば、待ち構えていたタイサが、チャージを終えた水中用粒子砲『水波』で的確に処理してゆく。
傭兵達の戦線は、中々良好に持続出来ていた。
「別動部隊撤退完了。攻撃を仕掛けて、一気に片付けるよ」
ユーリのハイコミュニケーター経由で得た確実な情報を、
ルキアの骸龍が全機へ一斉に伝達する。
目の前に残るは、思い切り振りかぶって殴りつけて良い敵。
傭兵達の怒涛の切りこみが展開されるのだった。
●
ルキアの管制が入る、少し前の事。
「これが‥龍宮城‥‥!」
傭兵達が敵の前線を削り、少しずつ大きく視界に収めてきた、竜宮城。
武装の有効射程に入るか否かの距離で、フェニックスをふわりと飛行させているのはケイ・リヒャルト(
ga0598)
『竜宮城内部活動班の撤退は全て完了。民間人の負傷者は○○、傭兵の負傷者は○○。総員帰還します。繰り返します―――』
「よし、行こう。待機中の各機、一斉攻撃を開始するよ。目標、竜宮本城。カウント5、4、3――」
エシック・ランカスター(
gc4778)が味方の援護を受けながら、最後の撤退報告をしながらリンクスで一度UK3へと避難してゆく。
そしてユーリの指示で放たれる、一斉攻撃。
ミサイルが爆ぜ、幾重もの光の筋が浴びせられ、大口径の弾が跡を残してゆく。
内部機関にも穴を開けられた要塞に、もはやまともな反撃の術はない。
本城周辺の壁や砲台に決定的な打撃を与えることが出来た。
ドゥオーモを撃ち終え、損傷部へ追撃を放とうとしたケイのコクピット内に警報音が響く。
敵性反応は、真下、海面から―――勢いよく飛び出してくる、牙を剥いた大きな口。
咄嗟にブーストし、転回すれば、数秒前までケイが居た場所で、大きなウツボ型キメラ――さながら、海のサンドワーム――が、
虚空を噛み締め牙を鳴らしていた。驚いてる暇はない。冷静に、眼前の敵を力強く見据え、武装選択、K−02小型ホーミングミサイル。
天にも登る程なウツボの体上へ、次々と重なる細かいレティクル。目で追い、タッチパネルで修正し、スイッチを上げ、
「‥これで‥どう‥‥ッ?!」
ブーストとオーバーブースト改Aを発動、超高速の機動に威力を乗せ、総計500発のミサイルが次々とウツボの体を突き破ってゆく。
その光景や、壮観。
ぼろぼろ塔のようにそびえ立ったウツボが、そのまま海上へと倒れ、高く水飛沫を上げた。
「ちょっと大変な‥相手ですけど‥全力で頑張ります‥!」
ケイとすれ違い様に、彼女を追ってきた中型のHWへハミル・ジャウザール(
gb4773)がスナイパーライフルの弾を叩きこむ。
慣性制御独特の機動で、バランスを崩しふらつくHWの頭上を飛び越えるように操縦桿を引く。
急いで追うように、HWは体を回転させ、転回中のコクピット剥きだしのハミル機へプロトン砲を狙いつけた。
が、発射と同時に、砲身は明後日の方向へ向いてしまった。
「俺達も出ますよ‥‥」
終夜・無月(
ga3084)のミカガミ――白皇のレーザーガトリングが、HWの身を何度も貫いていたのだ。
その補助席には、鏡音・月海(
gb3956)が身を縮めなお目立つ豊かな主張を携えて、主人の後ろで座っている。
「六時の方向に敵影多数」
御主人様の為にと、竜宮を閉じようとする珊瑚の壁から脱出してきた彼を、機体で迎えに来ていたのだ。
激しい戦況下の為、多少の傷は受けてしまったが、今は戦闘の補助に集中、
鮮やかな機動で素早く身を翻すと、群れを成して飛んでくるゴーレムへ、次々と知覚の弾が喰らいついてゆく。
「敵攻撃を確認、回避を」
コクピットに影が差す。見れば、大型のペリカンのようなキメラが、無月の頭上で大きく口を開いていた。
その中には、ウニ状の――先の作戦にも出てきた、機雷。
急ぎ操縦桿を倒し、あたる面積を減らす無月。だがあまりに巨大な口と多量の機雷が、幾つか白皇を捉えようとして―――
炸裂、そして誘爆。
管制を受けたハミル機がレーザーを次々と撃ち込み、滝のように流れた機雷へ命中。次々と起こる空中の短い爆発、
そして、照準内にペリカンをずっと収めているハミル。刹那、数秒前に放った螺旋弾頭のミサイルが、鳥の羽と身を穿ち、息を断った。
螺旋弾頭と練力の都合、UK3の補給へと機首を向けたハミルがコクピットから頭を下げれば、無月が穏やかに微笑んだ。
竜宮の亀の足の下、大陸棚に崖の如く掘られた暗い隙間に、KVのモニターの明りが一つ、得物を狙う獣の目の如く、浮かび上がっている。
ごつごつとした岩肌に潜み、暗いコクピットの中で静かに息をしているのは、ゼンラー(
gb8572)だ。
「‥うーむ! うむ! うむ‥‥うむ!! いいねぃ! やはりこれは、よいねぃ!」
そう言ってコクピットの操作スティックを捏ねるように撫でる。
「水中は、良い‥‥深海はより深く、拙僧の裸体を受け入れてくれているように‥感じるねぃ‥‥」
充足感に満たされた吐息を吐き出し、肩の力を抜く。モチベーションの問題か、今、実は彼は鋼の様な肉体を晒し、服を一枚も身に纏っていない。
そんな彼の頭上を、しなやかに泳ぎ抜けるのはオルカ・スパイホップ(
gc1882)のリヴァイアサンだ。
彼の描いた水泡に、淡く蒼い燐光が彩られてゆく。そんな光の道をなぞるように、カーディナル(
gc1569)のアルバトロスが追従してゆく。
仲間の様子と、レーダーを見て、ゼンラーのビーストソウルもようやっと腰を上げる。
オルカの見据える先には――
「いっけぇ〜!!!」
AIの接敵警報など物ともせず、寧ろ分かりきってなお突撃する先は――霊亀の、腹部。
巨大なフォルムからは想像させない、水の流れを切る流麗にして、躍動感のあるフォーム。
スピードを増し、そのまま体当たりを派手にぶちかます。
「ココから先は一方通行ですよ〜!! バグアさんは通り抜け不可となっていますので、残念ですがUターンしてお帰りください〜」
続けて放たれる、練の刃によるクロス。
だがその直後、渦潮のような軌道を描く衝撃波がオルカの機体に襲いかかる。
耐圧メーターの針が暴れ、無重力かのように吹き飛ばされるオルカ機を、ゼンラーのビーストソウルとカーディナルのアルバトロスが受け止める。
「大きな‥亀さん‥だねぃ‥‥」
得物を前に生唾を飲み込むゼンラー。目には力が籠り、手には汗と操縦桿を握る。
距離を取り、まずは戦闘方法と兵装の把握だ。
竜宮から脱出した別動体を護衛し、轟竜の守備から前線に一度上がってきた美海(
ga7630)が見据える霊亀。
霊峰の如く高く、瘴気の様な白い靄を纏い、厳かな美を備えた甲羅。
そして、決して獰猛さでも狂気でもなく、生あるものを畏怖させるような、神々しい風格を漂わせる顔。
キメラでなければ見惚れる者も出そうな、四霊の霊亀を模したそれは、聞く者の腹を揺さぶる程の声で、
低く、大きく、雄叫びをあげた。
「ここからが第2ラウンドなのです」
ここで怯むわけにはいかない。
残弾、各部のダメージ状況を再確認、海中からの攻撃もレーダーで追いつつ、
どうにか霊亀の隙を伺う。彼女の目標は、亀の遥か後方、竜宮だ。
「吹き飛べ!」
そんな美海の横を駆け抜ける、二発のミサイル。
誘導の難しい水中用のミサイルをピンポイントに霊亀の顔面へ撃ち込んだのは、須佐 武流(
ga1461)のシラヌイ。
竜宮から脱出後、UK3へと戻るタイミングで甲板に自機を出して置いてもらい、そのままUターンするように発進、
艦付近で援護に徹していた所、霊亀が射程に入ってきたのだ。
「止まるな! 行け!!」
美海は返事を全開のフルスロットルで返し、霊亀の脇を抜けた。
霊亀は美海ではなく、正面の武流を標的にすると、入り組んだ甲羅の隙間から、無数の弾頭を吹き出すように飛ばし始めた。
「当たってやるかよ!」
陸の要領も活かし、寸での所でかわし続け、アンカーテイルも用いて切り払ってゆく。
だが、雪崩の如き弾は数発、コクピットのガラスを揺さぶる。思わず体が動くが、目は瞑ってはやらない。
薄い亀裂の入った視界に、急ぎ魚雷の弾幕を張る。
手数で相殺し、爆炎に紛れ態勢を立て直した。
白く水を切りながら依然スピードを上げている美海に、一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)のビーストソウルが合流した。
主砲破壊支援任務からの転戦、文字通りの乗りかかった船、ここで決着を付けると内心意気込んでいる彼女だ。
既に相見えた敵との交戦は非常にスムーズである。
突撃してくる魚型キメラ、AIが捕捉するやすぐミサイルを発射し、なるべく遠方で鎮圧。
機雷もガウスガンの掃射で誘爆処理し、ウツボ型キメラの開いた口には、ディフェンダーの刃を一文字に入れ二枚に下ろしてゆく。
だが、突如として前方に魚群反応、もちろんキメラであり、大量のコバンザメ型だった。
竜宮を見据えていた美海機の装甲の隙間へ張り付き、数拍の後、爆発。
美海のコクピット内で響く多量のアラート音、電子音が短くなってゆき、次々と衝撃が彼女を襲う。
狭い部分へも潜り込むその衝撃は、得てして機体も致命傷を負い易い。
今、排水口へ張り付いたコバンザメが体を赤く膨らませ―――
刹那、蒼子が水中用ディフェンダーを器用に操り、コバンザメを掬い剥がす。
「ここは引き受けました。本丸はお任せします‥‥!」
水泡を巻き込み、回転を始める砲身、そして放たれる無数の大型ガトリング弾。
コバンザメの群れへ、隙間なく塗り潰すよう放射すれば、サメが次々と爆ぜていった。
美海は別に何も考えず進路を取っていた訳ではない。
現在レーダー上でなぞっているライン――そう、美海は既に切り拓かれていた『核心部へのルート』を、辿っていたのだ。
「別働隊の脱出ルートこそ中枢への最短ルートなのです。 野郎ども、狙って撃てなのです」
装填される、大型魚雷、満を持して、今その発射ボタンを押した。
周囲機体へ伝達し、低い音で炸裂した竜宮の入り口へ次々と抉るような猛火が飛び込んでゆくのだった。
城から飛んでくる反撃の砲弾が付近へ着水し、機体を大きく揺らされる。
海面に浮上していた長郎がバランサーの様子を見ようとした、が、そこにあったハズの計器が無い。
場所を勘違いしたかと見渡せば、『吹き込んでくる』潮風。
「な‥‥!」
「あの亀を、放してやっては‥‥くれないかな?」
割れたガラスから突っ込まれている手、握っているのは、計器の針。
戦場にしてなお落ち着いた物腰で、品位を損なわない顔付きの老人、浦島が穏やかな表情で――だが、決して目は笑わずに、
長郎を見下ろしていた。
そして、腰に提げていた魚籠を、開けた穴に据えると、そこから鉄すら穿つような勢いで水が飛び出し、
瞬時にコクピット内を水で埋めてゆく。
「く‥‥っ! 空中管制及び轟竜へ! 当座標にて浦島をはっk‥‥」
最後の力を振り絞り、自機の座標を送信すると、溢れてもなお流れてくる水を前に、呼吸を奪われてしまった。
「ふむ‥‥浦島、か。 成程、言い得て妙だな」
魚籠を放し、釣り竿を構えてから遠く轟竜を見据えると、
海上のクラゲやヒラメを足場に、軽快な足取りで海上を突き進んでゆくのだった。
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「敵エース情報確認。レーダー上にて追跡を引き継ぎます」
長郎の投げたバトンは、アルヴァイム(
ga5051)が受け取った。
彼はリヴァイアサンを駆り前衛で射撃武器を中心に立ちまわっていた。
そして海上まで誘い上げた敵を、ミリハナク(
gc4008) の竜牙が圧倒的火力を、ある時は放ち、ある時は引き裂き発揮する。
僚機の砕牙 九郎(
ga7366)も空の牙となり、ミリハナク及びUK3へと近づく敵には各種ミサイルで喰らいつく。
前線で管制をしているとどうも狙われがちになる。思った成果以上の情報統合が出来ていなかったが、
アルヴァイムは海上の管制である長郎が落ちた事を機に、一度下がり広域管制に集中する。
入手情報より敵動静を予測、友軍動静と比較して海上から水中の劣勢区域を割り出した。
水中は音紋や速度の違いを付け、目標毎に敵種別を予測、レーダー上に点在するゴーレムやワーム等の種類が的確になる。
そして管制を一通り見据え、アルヴァイムがある一つのポイントをマップにマーキングした。
(ふむ、そこには玉手箱でもあるのかね?)
コツコツ、と天井のガラスからノックの音がする。
その先を見ると、何とほぼ深海に位置するアルヴァイムのコクピットに、生身で、浦島が張り付いてマップを覗きこんでいるのだ。
慌てず、静かな舌打ちと同時にフルスロットルを吹かし始めるが、
そのうち釣り竿の針を振り回すと頭上へと放り投げ、ふわりと水中を舞うように自然と浮上していった。
彼の竿の先には、霊亀がいた。
水飛沫をあげ、霊亀の傍らから飛び出す浦島。
そして霊亀の強固な頭部に降り立ち、指をぱちん、と鳴らすと、大量の魚群キメラの群れが水面下からトビウオの様に吹き出してくる。
そして、そのあまりに巨大な群れの表面が少しずつ剥がれると‥‥現れたのは、ビッグフィッシュの装甲。
「魚群に紛れて出てきた‥‥! 皆、急いで態勢を整えて。 満員キメラが溢れ出る‥!」
ビッグフィッシュ内部の情報をユーリがリンクするが、もはや多量の点が集まりすぎて一枚の板のように表示されている。
そしてその板が、盆から零した水のように、勢いよく広がってゆくのだ。
オルカと共に霊亀に対応していたゼンラーも、思わぬ援軍に標的を変える。
霊亀の砲撃、突進を巧妙に避けつつ、魚を撃ち、クラゲを爆ぜさせ、イソギンチャクを切り裂く。
その時、巨大なサメキメラががむしゃらに水を掻いて自身へと突進してきてくるのが見えた。
「全裸色即 絹肌是空 脱衣色即 諸出是色――」
命を奪う間、絶えず経を唱えているゼンラー。
異常なまでに搭載した全身の人工筋肉に電圧が加わり、収縮筋が躍動、
只々経を唱え続け、トリガーを引く。
水の抵抗を忘れさせるような、豪快な勢いで突きだされたハイディフェンダーが、サメの鼻頭にすらりと突き刺さる。
断末魔も全て水に呑まれ、刀身を振り払われるがまま、その身を海流に委ねる事となった。
「誰も死なせないようにがんばるの」
カグヤ(
gc4333)が兵員輸送コンテナを搭載したクノスペで、何度もUK3と戦場を忙しなく往復している。
軍の撃墜者も増え始め、水上用フロートで直接回収に赴ける仕事は実にクノスペ向け、
彼女のおかげでかなりの重傷者を減らす事が出来ている。
今、もう何度目かの回収を終え、コンテナを開く。
と、外部マイクが拾うのは感謝の声ではなく、悲鳴。
慌てて見やれば、ビッグフィッシュの運んだコバンザメや海鳥キメラが甲板上まで乗り込んで来ていた。
ハッチが開き切るのももどかしく飛び出して、超機械の人形を構えるカグヤ。
その彼女の前に飛び込む一筋の斧撃、潰れる海鳥。
「入口の警備につきます。小型は無理をせず、程々で後ろに流して下さい」
竜宮からの脱出時、実は回収部隊にカグヤもついていたのだ。そのカグヤに運んでもらっていたエシックが、戦線に戻った。
次々と生身ゆえの細かい立ち周りで、甲板上のKVでは潰しにくいキメラを斧の餌食としてゆく。
そのままお言葉に甘えるの、とカグヤは超機械をキメラではなく、負傷した兵士へと向けた。
練成治療が済めば、また戦場へ運び屋として戻りたいが、カグヤの兵装では段々と厳しくなってきていた。
鴉、ガーネットがUK3に近づく敵の網をせき止め、一真が翼で包囲網を突き破るが、
すぐに網が修繕されてしまう。
霊亀も段々と本艦へ近づいて来ていた。
粘り強く立ち回っていたオルカに飛ぶ砲弾や水流撃をいなしてサポートしていたカーディナルに、
霊亀の小島程もありそうな足が、水を踏み抜くように圧し掛かった。
深部水圧以上の圧力に、次々と装甲が捻じ曲げられてゆく。
「これ以上は‥‥いかせねえ!!」
霊亀が最後の力を込めるのと同時に、カーディナルがスウィフトクローのトリガーを引く。
強烈なインパクトが足底部に突き刺さると、
不気味な色の体液と、アルバトロスの漏れた燃料が水中で螺旋を描く。
沈みきる前に、どうにか自力で脱出した。戦火の中生身で晒され、その身がもつかは、定かではなかった。
艦上で盾を構えて固めたゼロ・ゴースト(
gb8265)のディスタンへ、
浦島が高々と跳躍、人間サイズとは思えない蹴りをバネの様にして繰り出せば、
アクセルコーティング込みでも鋭い音と共に、ひびを入れられてしまう。
近接装備を搭載していないゼロは、どうにかUK3の滑走路や入り口、負傷者等へ通さないよう、
動いては歯を食いしばり、浦島の猛攻に何度も立ち向かう。
アルテミスのマリアンデールが駆け寄り、宙の浦島へレーザーを掃射するが、
魚籠から水流を出して自在に動き回ってしまう。
そのままとりつかれると、まるでプリンを触っているかのように素手をKVへ突きこみ、
各種接続をぶちぶちと裂きながら、エネルギータンクを無理やり機体外へ引き剥がすではないか。
「竜宮は、渡さんよ‥‥!」
マリアンデールの各所で起こる小爆発、タンクを持ったまま釣り竿をゼロのディスタンへひっかけると、
そのまま飛びかかり、抱えていたタンクをハンドボールのようにコクピットへ撃ち込む。
ガラスと各種機器が割れる音を立てながら、ゼロはディスタンへ埋め込まれ、アルテミスも爆発に巻き込まれてしまった。
浦島に貼りつかれたUK3、艦上、及び空の面々もどうにか追いやろうとするも、
不規則にして流れるような軌道を繰り返し、ずば抜けた怪力と竿で攻撃される。
護轟の別動体も本腰を入れて立ち向かうが、なかなか思うようには行かず、とうとう主砲にまで到達し、
「乙姫を、竜宮を、護るためなら、私は進んで餌にもなろう。竜は、釣りあげさせてもらうよ」
砲身へと突っ込む錨型の針。力を込めれば折れるであろう形で、今まさに腕を引―――
突如浦島へ流れ込んできた一発の弾丸。
傷こそ受けはしないが、自分の体ほどの弾を喰らえば、流石に態勢を崩し吹き飛んでしまう。
「手間取ってるじゃないか参番艦、追いついたぞ‥‥!」
捲土重来の機を運んできたのは、愛機ハヤブサを駆る狭間 久志(
ga9021)だ。
「参番艦、管制機、これより支援に入る、押し返すぞ!」
「お帰り! 早速だけど、狙われてるっ、助けに来てっ! 今なら撃てるチャンス!」
ルキア機より煙幕が焚かれ、ユーリも信号を送信。レーダーと目視で急行する。
転回にもブーストを起動し、惜しみなく派手に立ち回り敵の空戦力を引き付けながら、
撫でるかのように次々と敵のワームをソードウィングで切り裂いてゆく。
「このエルシアンは制空型戦闘機。落ちず、常にそこにあり、戦域を支配する――――このエリアは、ボクがもらう」
管制機に近付いたHWを前にソーニャ(
gb5824)が呟き、目に力が籠もる。
アリスシステム、Mブースター、通常ブーストの全てを起動、かりかりとAIやコンピュータの作業音が緻密にコクピット内を支配し、
一気に攻撃を展開してゆく。
AAEMの軌道を修正、爆炎に紛れたままの龍へチャージの済んだレーザーキャノンを放つ。
「行けーエルシアン! 貫けー!」
突撃しながら連射するレーザーガトリング。衝突ギリギリで急降下し、背後についていた久志へ射線を譲る。
「無人機で僕と紫電が止められると思うなよ‥‥!」
スピードの乗ったスラスターライフルが、一直線にHWの胴体を貫く。
「ボクのシマで、勝手はゆるさないよ」
沈みゆくHWを一瞥して、ソーニャが言った。
イカリのような針をフレイルのように振り回し立ち回る浦島。
甲板上の滑走路を崩し、他のKVが発進出来ないようにするべく、竿を振った。
が、落下する針が、漆黒の拳によって海へと叩き落とされてしまう。
「右舷側は頼む。私は左舷を――」
UNKNOWN(
ga4276)のK−111が浦島へと向き直る。
護轟作戦と平行し、本艦の危況に駆けつけたのだ。
「イカリを降ろさせてはくれんかね。老体にはそろそろ休憩が必要なのだよ」
「寝言なら、船を漕ぎながら言いたまえ」
繰り出される槍の連撃、浦島は柄を掴み、滑るように伝って懐へ潜り込んでくるが、
機敏にして無駄のない足捌きで、清流のように甲板上を歩む。
それはまるで、人が部品を纏っているかのような、力みのないしなやかな佇まい。
「常に援護しあえる距離に。離れすぎてはいかん」
コンピュータの自動処理に任せていた情報を周辺機に送信すれば、
多数の敵に翻弄されていた甲板上が再び防御を固めなおす。
フルスイングで浦島が針をK−111の左足ぶつければ、
艦の揺れに合わせ、衝撃に逆らわず逃がすように足を振り抜く。
UNKNOWNはその竿の糸を掴むと、咥え煙草の口元に静かな笑みを浮かべる。
「すまないが接近は禁止、だ」
機槍が火を噴き勢いよく浦島へ突き込まれる。
浦島も顔を歪めながら、腹を貫かれる前に足を穂先にかけ、ブースターの力を踏み台にして参番艦から飛び立っていった。
「UK3の砲撃もある。それを意識し利用する様に――次に私は行こう」
甲板上で変形し、何とか守られたカタパルトで押し出されるK−111
レーダー上の『UNKNOWN』と書かれた文字は、轟竜周辺の守備部隊方面へと消えていった。
「いいだろう‥‥お互い後には引けんと言う訳だ。海に散るのは、私でも、乙姫でもない‥‥!」
集中砲火を浴びている霊亀に降り立つ浦島。
そして殻の一部に溶けるように潜り込むと、周辺甲殻に生命のように脈が動き始める。
低く唸る浦島、段々とその体が霊亀に取り込まれ、体、そして顔の一部が肥大化、変色、隆起。
人の風体を保っていた様子が次々と蝕まれてゆき、浦島は、なんと霊亀の一部、いや、霊亀と一つになってしまった。
「海に沈メテやろウ‥‥!」
霊亀の口から放たれる、山すら穿ちそうな水流。
そして機動力も格段に変わると、潜り、跳び、殴り、と、周囲の勢力を次々と薙ぎ払ってゆく。
無月が甲羅に急降下、爆撃しては空へ戻るブーメランのように機動し、次々と峰を削ってゆく。
が、浦島の放つ禍々しい色の黒い炎弾に機体を揺さぶられ、補助席の海月が酷く体を打ち付けてしまった。
「怯むな! 切り札を出すという事は、追い込まれているという事だ。たたみかけろ、容赦をするな!」
発令室のモニターにて霊亀と浦島の様子を見ていた沖田が、オープン無線で、通信官も通さずに叫ぶ。
戦場の戦士の先駆、不安の露払いとなるべく、主砲の発射を指示した。
目標は霊亀、ではなく、遠く竜宮。敵の象徴を崩し、士気を削ぐ。
「私達の城ニ、手をダスナ!!」
甲羅から水を噴出し、海上を跳ね回る霊亀。
そして激しい弾幕にも正面から突っ込み、轟竜へ錨型のエネルギー弾を放り投げる。
放物線を描き、着地点として巻き込む先には、ミリハナクの竜牙。
UK3の管制から避けるように指示が入るが、
操作に集中、してるかのように見え、あえてそちらは見ないようにしているとも取れる彼女の落ち着いた物腰。
「私は戦うことだけ考えていればいいんですの。助けてくれる仲間はたくさんいるんですから」
「――――らぁぁあああ!!」
衝突時間のカウント、2秒前。遥か上空からほぼ直角で飛び込んできたのは、九郎の雷電。
その身をもって、彼女への攻撃を庇ったのだ。
「一発も通さねぇ!」
啖呵を切って艦上空へ戻る九郎。そのままありったけのミサイルを放ち、援護を継続する。
海中から霊亀へ接近する武流とアルヴァイム。
彼らの進路へ近付いてくる敵は、ヨグがエアステップで近付き、魚雷の照準を動かし、ガウスガンの弾も撃ち込む事で、
ギリギリ二機分のルートを保てた。
武流が撃てる限りの魚雷を放ち、アルヴァイムも積んでいる全ての魚雷を解き放つ。
その魚雷を追うかのようにバルカンを放ち、混合する猛火。
そこへ、レーザーガトリングを撃ちながら無月が甲羅へ近付いてゆく。
びしびしと削ってゆく岩肌。彼は考えずに攻撃していたわけではない。
何と海月の補助管制で周囲軍の協力もあって、甲羅に簡易滑走路になるような平らな地形を作成していたのだ。
距離が足りず、少しだけ切り立つ殻に突っ込み衝撃を受けるが、一番近いポジションで、零距離ロンゴミニアトを突き立てる。
「ぐォ‥‥!」
殻が貫通し、霊亀の受けたダメージに浦島も顔に苦痛を浮かべる。
航空機のように海上でロールし、しがみ付いていた無月をどうにか海上へと振り払う。
「各機へ。目標がランデブーポイントへ到達。準備はいいですか」
「任せろ!」
「いつでもどうぞ」
アルヴァイムが僚機へ飛ばす無線。
ランデブーポイント。そこは、先ほど彼が地図上にマークした場所。
そう、全てここまで『誘い出した』のだ。
空から叩き付けるように降らせる弾丸、海から突き上げるように刺さる魚雷、
そして、打ち砕くように狙い打つ粒子砲。
既に海上を飛び回り、高威力の弾を振り絞る気力は、霊亀と浦島には伺えなかった。
「乙姫‥ノ‥傍に‥‥置カセテおくレ・・!!!」
狂ったように体を振り回し叫ぶ浦島へ、
羽矢子のアルバトロスがソードフィンで霊亀の足を、ラインを引くよう切り裂きながら、海から飛び出して浦島を一瞥する。
「価値アル掛ケ軸を飾るにハ‥相応ノ、間、芸術的ナ絵画を飾るニハ‥‥ふさワしイ額縁ガ必要ダろウ‥‥私ハ、彼女ノ為の場所を用意しテやりタい! その為ナラ、何も厭いはシなイ!! 私ガ‥‥そして、彼女がイる竜宮が、私と、乙姫の居場所なのだ!!」
「屁理屈で惑わされやしない! この海も、星も! お前達の居場所じゃ無いんだよ!」
浦島の振りかぶった巨大な銛のような岩を、レーザークローで受け止める。
その槍を爪の間に絡めたまま、霊亀の首へ知覚の刃と、霊峰の銛を突き落とした。
もはや言葉にもならない叫び。理性を全て狂気へと変えて、次々と闇色の波動を飛ばし、
激流の水圧でKVの装甲を切り裂いてゆく。
「そんなノック如きが利くかっ!! 僕は、僕達は!! 亡霊の分まで頑張らなきゃならないんだ〜!!」
彼らの思いを借りながら、脇構えで肩から水を切り突進、
意志を乗せ、練剣大蛇で勢いよく斜めに霊亀の頭部を切り上げる。
前線が段々と上がって行くのと同時に、参番艦も段々と前へ出てゆく。
ハミルが艦へ駆けこんで撤退してゆく兵士の支援としてレーザーライフルで援護し、
タイサが小型魚雷で撤退進路を支える。反対側では鴉が同じように敵を近づかせないよう弾幕を展開し、
二機の背の間を、カグヤのクノスペがコンテナ以外の部分はボロボロになりながら疾走してゆく。
空ではケイ機が慣性制御のHWと熾烈なドッグファイトを繰り広げる。
戦域には既に、朝日が差し込み始めていた。夜蝶が舞うには、少し、眩しすぎる。
「そこを、退きなさい‥‥」
コンマ数秒、照準内にHWの後ろをわずかに収め、レーザーライフルをどうにか叩きこんだ。
対空の脅威も払い、UK3は更に竜宮へと微速前進してゆけるようになる。
「竜宮は、乙姫ニひツようナンだ‥‥! 私ノ、ヲとヒメ! 愛おシい、我ガ宝!!」
UK3の進路上に、とうとう霊亀が重なる。
もはや品位の欠片も漂わせない、死に物狂いの形相で、UK3を押し沈めるように宙へと飛び圧し掛かる霊亀。
その霊亀の上を行き跳ぶのが、ミリハナクの竜牙
霊亀と結合した部分の浦島へ飛びかかり、大きくその牙を剥く。
「浦島は竜に喰われてしまいましたとさ。めでたしめでたし」
浦島の最後の声は、竜牙の口の中で響き、出てこない。
顔に粒子砲の光、熱をじりじりと感じながら――浴びる、零距離射撃。
浦島の代わりに、亀が声にならない声で叫ぶ。首を振り、足はもがき、浦島のいた部分から腹部へと貫通する光の筋。
霊亀は、その身を散り散りに崩しながら、海の底へと沈んでゆくのだった。
●
戦闘は終結した。
怒涛の快進撃で戦線を押し上げるUPC軍に、竜宮周辺の敵は撤退、
竜宮もあと一歩の所で、全壊は免れてしまったようだ。
竜宮を背負う亀の内部にも、既に生命反応はないようだが、竜宮と亀は朝日を背に、なお海上に佇んでいる。
「命を粗末にしてねぃ‥‥」
ゼンラーが霊亀のいた辺りで自機を浮かべ、揺れる水面を見つめた後、黙とうを捧ぐ。
「でも、命を賭けるって事自体は、無駄じゃないのかもしれないよ〜」
レプンカムイの端から、何となし海の水を掴む。
亡くした命を賭けてまで、執着、信念の為に戦う漢達がいることを、手からこぼれ落ちる雫を見ながら馳せるオルカ。
遠くの方で、何やら幾重もの花火が撃ちあがっている。
初日の出に花火とは何とも珍しいが、悪いものではない。
銃撃よりも清々しい爆音を疲れた体に響かせながら、
傭兵達はUK3へと帰投してゆくのだった。
竜宮、陥落。