タイトル:Tea Slakeマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/20 21:50

●オープニング本文



 11月。終わりに向けて、あと少しだけ走る季節。
 新鮮な気持ちで前を向くにはとっくに後ろの距離が開き、
 かといって今から何かを成すならば、帯に短したすきに長い、曖昧な時間。
 主張の和らいだ日差しは、震える人々に微かな温もりを与え、
 辺りの空気も少々刺すような乾燥を見せてきていた。

 そんなLHにちょこんと立つ、スイーツショップ『スリジエ』
 昼下がりの一息に賑わう社会人や主婦の中に、揃いの服を着た二人の女性が、顔を突き合わせて歓談している。
 熱い珈琲を『専用!』と書かれたマグカップから、音など気にせず啜るのは、柚木 蜜柑。
 そしてその対面でチョコレートケーキを一口、頬を抑えて実に幸せそうに目を閉じてるのは、
『跳弾オペレーター』――――彼女の名を、ユナ・カワサキと言う。
「聞かなくても、お口に合ったみたいねっ」
「はいっ! 生地ふんわりで、このチョコクリームも濃厚で、とっても美味しいです先輩っ!」

 口の端にチョコレートを付けながら、ユナが満面の笑みではしゃぐように答える。
 二人とも、UPCのオペレーターで、先輩後輩の関係であり、
 今回蜜柑が、ちょっと仕事の休憩がてら、彼女をここに誘っていたのだ。

「こんな良いお店教えてもらって、しかも先輩の奢りだなんてっ。ごちそうさまですっ!」
「‥‥えっ、奢るなんていってないわよっ?」
「えぇーっ?!」
 涙目で見つめ訴えるユナへ、給料日前なんだからっ、と、
 身を乗り出し、彼女の口元のチョコを紙ナプキンで拭ってやる蜜柑。
 残念ながら彼女の辞書に『大人げ』という文字は登録されていない。

「いいわよー、そんないぢわるな先輩の言う事何か気にしないで。今日が私が奢っちゃるからさー」
 えぎゅえぎゅ、としょんもりしてるユナの後ろから、突如飛び込んでくる声。
 控えめに木イチゴがあしらわれたポットとティーカップをことりと置いて、妙齢の店長がユナの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ダージリンの三番茶、今年は定番のキャッスルトンが美味しいよ。これもロハでいいから、冷めないうちに飲みな?」
 ありがとうございますっ!と顔が明るくなるユナがポットを手に取り、
 力強い深緋色の紅茶がとぽとぽと注がれていく。
 
「いやー、いつも悪いわねー梨那姐ぇさん」
「少しでも悪いと思うなら、あんたはそろそろツケの耳揃えな」
「姐ぇさん、知ってる? 日本の江戸時代には、ツケって年を越すまで逃げ切れば帳消しになったって話もあるのよ」
「‥‥逃げられると、思ってんのかい?」
 店長の声と顔に影が差し、懐から抜かれる果物ナイフ。ユナが突然の気迫に注いでるポットの蓋を落してしまいそうになる。

「やだなぁ、そんな可愛い後輩の前でお手本にならないような事するハズないじゃないあははー‥‥」
「そうだよ? こんなかわいい娘さん邪険に扱ってたらそのうちバチあたるかんねー」
 腕を組んでユナを見下ろす店長。少し汚れたコックコートには豊かな主張が浮かび上がる。

「わぁ、紅茶も美味しいですねぇ‥‥っ。もしかして、旬のお茶ですかっ?」
「いや、正直この時期は確実にシーズンオフだね。三番茶ってのも、7月8月に摘んだものを発酵させてるヤツだし」
「紅茶って発酵させるんだ?」
「珈琲ばっか飲んでるからそんなのもわかんないのかぃ。元々、紅茶は輸送船で発酵が進んで出来ちゃったって言われる一説もあるし、有体に言えば緑茶も紅茶も中国茶も、元々は同じ茶葉みたいなもんだよ」
 ふぇー、と感嘆の声を出すオペレーター二人。

「ふふ、どんなお茶にも合う最高のお茶請けってのは、こうやって楽しく話題に華を咲かす事なんだよ。覚えときなさいっ」
 既にメモを取り始めていたユナを、勤勉ねぇ‥‥と微笑んで見つめる蜜柑。
 そのメモには、『お花が咲くと、最高のお茶』と言う、イマイチ要領を得たのか得てないのかわからないワードが書かれていたが、それはまた別のお話。

「ただ、バグアやらなんやらのせいで、安全な輸送も出来ない始末だよ。茶葉は時間や揺れる具合で発酵が進むから、最悪紅茶、途中で中国茶、上手く行ったら緑茶でランダム納品、何て事もあったりしてね」
 はふ、と悩ましげな様子は実に艶かしい。
「残りの収穫と輸送もそろそろ最後かねぇ。この時期に摘んでくるオータムナルってのがあるんだけどね、どうなることやら‥‥」
「どうなることか、見てみるか?」
「ふぇっ?」
 ぽふ、と書類の束がユナと蜜柑の頭にのしかかる。
 何事かと見やれば、2人の間に立つように、スーツに微かな煙草の香りを纏い、井上 雅がテーブルの横で立っていた。

「茶葉の輸送護衛依頼だ。陸路を行くトラックをKVで護衛して欲しいらしい」
「あらタイムリー。これも何かの縁かもねっ」
 頭上の書類を掴むと、ふむふむ、と束をめくりだし、懐から取り出した電子端末を忙しなく動かしてゆく蜜柑。
「仕事が上手く出来る奴は、上手い息抜きの出来る奴、らしいが‥‥傭兵がオペレーターより先に依頼の話を持ってくるとは、どういう事なんだ‥‥?」
 苦笑してじとっと睨む雅の視線に、あぅ、と誤魔化し隠れるように、両手で持ったカップを口元へ運ぶユナ。
「ユナ、このお仕事は私が引き受けるから、あなたはもうちょっとゆっくりしてていいわよっ。今度は一緒に飲み行こうね、じゃっ」
 足元に転がしていたカバンと掴むと、急ぎ店を後にする蜜柑。
 お仕事熱心な先輩、さすがです‥‥っ、と、目をきらきらさせて彼女の背を視線で追うユナだったが、

「‥‥雅、蜜柑の会計」
「‥‥ツケで頼む」
 どさくさでお茶代をちょろまかす気だったと彼女が気付くのは、まだ当分先だった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
クライブ=ハーグマン(ga8022
56歳・♂・EL
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
佐賀 剛鉄(gb6897
17歳・♀・PN
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF

●リプレイ本文


 
「紅茶葉の到着を楽しみにしている方々の為にも、護衛任務は是非完遂させなくてはなりませんわね」
 微力ながらも最善を尽くさせていただきますわね、とトラックの運転手に微笑むのは、クラリッサ・メディスン(ga0853
 護衛対象の内でもある運転手は二人、気さくで快活な初老の男性と、物腰丁寧な若い男だった。

「あぁ、紅茶を守ってほしいと、そう言われて頑張らないイングランド人はいないと思うね」
 車両状態で鈍く体を唸らせているリッジウェイに体を寄りかけ、元SASのクライブ=ハーグマン(ga8022)が、クラリッサとはまた違った微笑みをニヤリと見せて言った。
「紅茶か‥面倒臭くて最近は飲んでないね‥‥ちょうど良い機会だ、帰ったらロシアンティーでも作ろう」
 自身のスカイセイバーの点検を終えた秋月 九蔵(gb1711
 その横で、ウェイケル・クスペリア(gb9006)――ウェルが、熱心にルート上での被害経歴、時間帯、場所、敵の傾向等を初老の快活な運転手に聞きこんでいた。

「途中で休憩する場所とかはあるのか? あんたらのペースはプロの意に従うとして、あたしらのKVも確実に駐機出来る場所とかだと助かるんだけど‥‥」
「あぁ、こんな荒野だしな! 場所を選ばなけりゃあ幾らだってあるさ!」
「それに、僕らはこの仕事やって長いですからね。最悪、道中の半分ぐらいで一度休憩出来れば幸運、な程度で走りきれますよ。お気づかいなく」
 護衛対象からの頼もしい一言に、そいつはよかったと笑い、どこか安心を覚えるウェル。
 その横で、何やら不思議そうな目で友人を見つめるのは、エイミ・シーン(gb9420)だ。
「‥‥何だよ。あたしだって何時でも何処でも当ってブチ砕くだけじゃねーぜ」
 最近、何やら癇に障る事を言われて色々意識しているというウェル。何を言われたのやら。
「お茶葉は大事ですよね! しっかり護り抜かないと‥‥!」
 そんな彼女のジト目をごまかすように、拳を握ってエイミが意気込みを見せた。

「輸送護衛任務にKVの許可が下りるなんてよっぽどの事ですもの。どんな危険があるか、出来るだけ予測しておきたいですわ」
「あん? 何だ聞いてねぇのか? 野良化したキメラが大量にいるとは聞くが‥‥それよりこれは、あんたらの飲む紅茶だぜ?」
「え?」
 要するに、ここに積まれている紅茶は、傭兵達の支給品や、LH内で売られるものになるそうだ。
 バグアにより各地を焼け野原や占領地とされているご時世、一般人にはとても手の届きにくい高級品となってる以上、
 数少ない嗜好品を保障し、確保するのも必死な事なのだ。
「なるほど。自分達の飲む分は、自分達で確保しろ、って事‥‥?」
 飲兵衛(gb8895)が苦笑して、積荷の茶葉を見やる。
 
「さて、ティータイムまでに着けるように、頑張ってみようか」
 クライブの、年長者の鶴の一声で、各々が自身のKVへ、トラックへと乗り込んでゆく。
 傭兵達の命懸けのドライブが、始まるのだった。



 二時間程、特に目立った危険もなく進んでいたので、一度休憩を挟んでいた。
「どうぞですよー♪」
 エイミがお菓子を分け回り、一通り落ち着いたら先に食べているウェルを抱えるようにして座り、自身も休憩に入る。
「未だ、敵キメラは発見せず・・・か、このままならいいやけんどな」 
 佐賀 剛鉄(gb6897)は一応、のコクピットに座って警戒がてら体を休める。
 雲ひとつない晴天は気持ちの良いものだが、敵が来たらわかりやすい、等とつい戦略的優位性の方向へ頭が動くのも、どこか物哀しく自嘲気味に笑いが零れる。
「ま、出てきても、このメンバーなら何とかしてくれるだろう」
「タチ兄さん! 油断は禁物ですよー?」
 エイミの不肖の兄だと言う布野 橘(gb8011)が、寝ころび目隠し代わりに乗せた帽子の下からへらっとした台詞を呟く。
 小休止の後、また隊形を確認し、組み直す。
 上空には、クラリッサのシュテルン・G、橘のクノスペ、もしもの際の離着陸が容易な二機が警戒に当たる。
 地上では、まず九蔵のスカイセイバーとクライブのリッジウェイ、その後に一台トラックを挟んで、エイミのサイファーとウェルのアンジェリカ。
 またその後ろにトラックが続き、殿は飲兵衛のアヌビス(真)と剛鉄のノーヴィ・ロジーナが付いて並ぶ。
 傭兵達は、砂埃を巻き上げて、続く荒野を走り出した。




 休憩後、更に1時間は経過しただろうか。
 空から地上を警戒していた橘が、国道に対して垂直に、
 明らかにこちらへまっしぐらな群れが近づいてくるのを確認した。

「あー、右側、なんか近づいてるなぁ。気をつけろよー」
「細かいのが出やがったか。接近される前にどうにかする、弾幕張れ!」
 合図と同時にクライブが、まずはグレネードランチャーを放ち、押し迫る低い壁に穴をあけてゆく。
 そして攻撃に出れるものが一斉に弾を撒き始めた。
「一丁派手にいくでぇ!」
「大雑把なぐらいが、丁度良い時もある、きっと」
 剛鉄の4門搭載した90mm連装機関砲が、飲兵衛の7.65mm多連装機関砲が、連綿とした弾の筋を描くように爆ぜる。
 クラリッサも旋回し機首を上げすぐに降下。けたたましい照準の電子音の中で集中し、地の敵に叩きつけるように8連装のロケット弾ランチャーを放った。
「‥‥招かれざるお客さんは速やかにお引き取り頂きますわよ」
 当たらなくても、近寄らせ無い事に意味がある。そう言わせしめるような闘い方が展開された。 

「敵の種類はどんなだ!」
「恐らくキメラ! 形は‥‥大きなサーベルタイガーのようでしたわ!」
 既に次の行動、狙撃体制へ以降しているクライブが、直近で目撃したであろうクラリッサへ問う。
「おい!戦闘しながらこっちのスピードについてこれんのか!? ちょいとスピードは落とさせてもらうぜ!」
 トラックの運転手が怒鳴るように叫び、どうにか斜線には入らぬよう、KVの影に隠れる。
 先に無防備二体でいくよりは、至極最もな提案である。
 だが―――――


 飲兵衛達が相手取った、その道路を挟んで反対側の地面が、
 突如音を立て、大地から崖が生えるように盛り上がってゆく。
 天を衝くような影、零れ落ちる砂の滝の中から現れたのは、ふた周り大きなリッジウェイ程はあり、四角張った黄土色の岩肌。
 そして鰐のような厳ついあご。竜系のキメラと認識するには、空の者でもいささか時間を要した。

 間髪いれず、竜の足元から多数のサーベルタイガーがまた飛び出してくる。
 クライブが死角を作らないよう、センサーの情報を全味方機へリンクさせる。
 そしてすかさず、その位置情報をAIとリンクさせて、九蔵がスモーク・ディスチャージャーを射出した。
「これでも元はスナイパーなんだ、ばれないと思うのは間違いだぜ」
 機体周辺に撒かれる白煙。サーベルタイガーの『飛びかかる』斜線が遮られ、煙の中に着地してしまう。
 標的を探しに再び飛び出してきたところを、機剣『白虹』の透明な斬撃に呑みこまれてゆくのだった。

 それでも煙の外から走り迫る複数のサーベルタイガーへ、飲兵衛のアヌビスが排熱音と共に立ちはだかる。
 着膨れしたようなその図体から、ラージフレア『幻魔炎』が3つ宙に浮かぶと、敵の軽かった足取りが、千鳥足のようにぼてぼてと鈍くなってゆく。
「重力波は‥‥茶葉には影響ないよな‥?」
 揺れる炎のようなフレアの結界に身を置き、バルカンを浴びせていった。

「ウェルちゃ、大型のにいきますよー!」
「いつでもいけるぜ、みぃやん!」
 重く、確実に近づいてくる岩の竜の足元へ、試作型スラスターライフルを撃ちこみ、地面も表皮も抉ってゆく。
 ファランクスソウルはまだ使えない。最も近くに存在する敵に照準するこれを今使えば、
 きっとここまで護ってきたトラックは巻き込まれてしまうだろう。
 敵もいかに堅い鎧を着込んでいても、足に何度も喰らうのは堪えるようだ。竜の動きが段々と鈍くなってきた。
 
 そこへ連続して鋭いレーザーが飛び込んでゆく。
 ウェルのアンジェリカがフィロソフィーで、追い撃ちの機を逃さず狙っていたのだ。
 岩肌を焼かれて動きが止まったかと思えば、勢いよく、体に隠れていた尻尾をカタパルトのように跳ね上げる。
 すると、そこに乗っていた岩が、巨岩とは思わせぬ豪速で傭兵達に迫ってきた。
「KVより、トラックが喰らったらやべーぞ!」
 ウェルが叫び、ビームコーティングナイフを、エイミが真ツインブレイドを急ぎ構えるが、飛来する岩は宙で粉々に砕けていった。
「なんだよ、空にいても戦えってか‥‥」
 石ころ程の欠片がコクピットのガラスを叩き、次いで橘の声。空中からのバルカンで、どうにかトラックは事なきを得た。
 二人の手持無沙汰になった近距離兵装は、抜けてきたサーベルタイガーの相手へと変わった。

 その隙に九蔵が竜へと接近。高出力ブースター、緊急用まで惜しみなく使い敵の横を駆け抜ける。
 竜が九蔵を見失った後、またブースターで急速反転を狙ったが、機体のバランスが崩れ、思った通りの方向へ進めずに苦戦していた。
 細かい微調整が必要な所を、ブースターという力強い力で無理やり調整するのは、急カーブをトップギアで曲がりきろうとする行為よりも難しい。
「ほら、来い。当てて見せろ!」
 だがその分、高機動さに抜かりはない。敵の攻撃が当たる前に離脱し、挙動が終えた部分を見計らいまたダッシュ。
 白虹を頭部へ振り下ろし、跳ね返るような反動で左手の練剣『メアリオン』の射出した閃光の刃を振り上げる。
 が、練剣を振り抜いたその小手に、竜の顎が勢いよく喰らいついてきた。
 九蔵が引き抜こうと空いた手で斬りつけるが、驚くほどの顎の力でめきめきとフレームが音を立ててゆく。
「しぶといな‥‥ただの岩じゃないな、これは」
 ぼやき次の手を考え出した所へ、飛び込んでくる実弾。
 その弾の中を潜るように、アンジェリカが近づいてきた。
 パイロットが九蔵とすれ違い様、SESエンハンサーを発動させる。
 エイミの60発の弾が竜の体で弾け終えた後、まるで突き刺すように竜の額へ飛び込んできた、オメガレイの銃口。

「邪魔って言ってんのが! わっかんねぇなら消し炭にしてやるぜぇぇ!!」
 そして、立て続けに発射される計24発のエンハンスされた閃光。
 一条体に受ける度に竜は外部マイクで拾わずとも聞こえる呻きを見せた。
 暴れまわり、スモークよりも激しく撒き散らされる砂。その砂煙の中で光る、一筋の赤い光。
「あんまし避けてくれるなよー‥」
 直後、胴体へ思い切りめり込むハンマーボール。
 飲兵衛のアヌビスが振り回したそれは、鉄の刺を痛々しく埋め込み、竜の喰らいついていた口を開け、そのまま地に横から伏せていった。


「やりましたか? それでは引き続きこちらもお願いしますわ!」
「ま、こっちはこっちでもちそうやねんけどな」
 道の反対側では、依然サーベルタイガーとの戦闘が続いていた。
 クラリッサが真スラスターライフルでロケット弾を撃ち込んでから、レーダーを頼りに真スラスターライフルを撃ちながら接近、地表すれすれで機首を上げ、空に戻る。
 ロケット弾の煙から飛び出て来たものは、鋭く放たれるクライブの狙撃で、煙の中へ押し返されるように消えてゆく。
 剛鉄のまさに嵐、いや、霧のような隙間ない弾幕、縫って出た相手も、高分子レーザー砲で狙われる。
 もはやトラックまで近づける者は何一つとしていなかった。

「各員、被害状況の報告を。トラックの積荷も一応無事か確かめよう」
 リッジウェイがライフルの銃身を下げ、クライブの無線が飛ぶ。各々の機体のAIが目まぐるしく損傷と消費を計算してゆく。
 トラックの運転手が降りてきて、コンテナを開ける。梱包が破れたり、不自然な点は見当たらない。
 中身は、着いてからの確認だ。まずは一息と、扉を閉めた直後――

 先ほどまで地に伏せていた岩竜が、勢いよく、先ほどとは比べ物にならないスピードでトラックへ突撃してくるではないか。
 血を吹き出しながら、表皮を捲らせながら、それでも痛みを振り払うかのように首を動かし、驀進し迫ってきた。
 クラリッサは急旋回出来る態勢ではなかった。剛鉄が舌打ちし駆ける。長距離移動ゆえの練の温存が悔やまれる。ブーストは使えない。
 運転手だけならクライブのリッジウェイで回収出来る。だが、トラックは、積荷は‥‥。
 他のメンバーも急ぎ飛び出すが、その誰よりも早く、ストライクフェアリーのエイミは、いち早く察し、機体を竜とトラックの間へ滑り込ませ――
 激突、衝撃。
 軋む間接、拉げるフレーム。牙を受け止めるのは、真ツインブレードと、
 素粒子がサイファーの機体中を巡り、発生する薄い斥力場――フィールドコーティング。
「私はどちらも護りますよ! 貪欲ですから!」
 汗の滲む操縦桿。コクピットの視界に広がる竜の顔に、負けるものかと力を込める。
 睨みつけた眼前で閃光が弾けたと思えば、竜はウェルのフィロソフィーを顔に喰らい、姿勢を崩していた。
 剛鉄のレーザー砲に岩の鎧を穿たれ、クライブが対戦車砲でその穴をこじ開ける。
 そしてクラリッサのロケット弾をその脆くなった部分に喰らうと、ようやく竜は息絶えた。

「大丈夫か?!」
「ウェルちゃ‥ありがとですよー」
 操縦桿を大きくひねり、竜に背を向けるウェル。
 先ほどからどこかハイだった彼女だが、この時だけは、目の色が違う。
 好戦的な瞳ではなく、友を憂う瞳。そんなウェルの眼をコクピット越しに覗きこみ、ふっと笑顔を漏らすエイミ。

 まだ日は傾いていない。傭兵達は地平線へ向けて、アクセルをいっぱいに踏み込むのだった。



 傭兵達にも、積荷にも、目立った被害は対してなかった。
 特に、揺れを最小限に抑えたので茶葉の発酵も進まず。
 逆にここを心配せずに無茶をしたら、とても納品出来たものではなくなっていただろう。

「なんとかついたな、さて、皆で一服しようか? それくらいはバチはあたらんだろう」
「おう! 何かトラック守ったし、茶葉も質が落ちてねぇからっつってな、向こうでうちの偉いのが、茶器と一緒に振舞ってやるってよ!」
 クライブがいそいそと英国人らしく紅茶を気に書ければ、運転手が傭兵達を誘導する。
 抽出され、辺りに漂う上品で典雅な香り。三段トレーに並ぶマカロン、クッキー、彩り豊かな各種のケーキ。
 傭兵達の中でも思わず顔が綻ぶ者が何人か見える。

「紅茶もえぇけど、お茶は、どくだみ茶が好きなんやで、身体にいいからな」
「なるほど。では、どくだみ茶の時は是非ともまた護衛をお願いしないといけませんね」
 剛鉄の一言に、もう一人の運転手がそう言って笑う。
 傭兵達は、最高のティータイムを満喫してから、紅茶の納品を見届け、仕事を無事に終了させた。