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　某所某日某時刻。

　冬の星空の下、一台のゴーレムの肩に、一人の男が立っている。
　男は、月に向かってまっすぐに煙を吐くと、
　突き刺さるような月光が、少しも霞まずに目に飛び込み、冷たい風になびく銀色の髪を照らした。

「‥‥何を、しているのですか」
「地球の輪郭を、眺めていたんだよ。アルベロもどうだい？」
　心地よさそうに目を細めて、草木の一本もない荒野の向こうへと、視線を向けている銀髪の男。
　アルベロと呼ばれた男は、ゴーレムのコクピットから唯一出していた顔をゆっくりと横へ振る。

「いえ‥‥遠慮しておきます」
「そうかい、ウドの大木には風流なんてものは理解出来ないのかな」
「そうかも‥‥知れませんが、その『無い』を美とする、日本人の感覚は、いつも、素晴らしいと思っています」
　アルベロが肩身を狭めて、這い出るようにコクピットから体を出し、銀髪の男の横へ並ぶ。
　まるで大樹のような胴周りに２ｍはあろう長身。その腕や脚も丸太がそのまま生えているかのような体つきだった。

「竜宮が‥‥落ちました」
　アルベロがそれだけ言うと、隣の男の顔が穏やかな表情に陰りを見せた。
「‥‥詳しく」
「城内キメラプラントは、停止。責任者強化人間は、敗北。竜宮本丸と‥‥移動用の亀型ギガワームは、現在海上に残ったまま、ＵＰＣ側の傭兵によって、先遣隊が突入しました」
　報告を聞き終わるや否や、男は自身の隣にあったゴーレムのこめかみにあたる部分を力任せに思い切り殴りつける。
「くそっ！　だから僕は、浮草のような地に足つかない城何かに、ラインを移すのはイヤだと言ったんだ！」
　ぐしゃぐしゃと自身の頭を掻きむしり、清流のようになびいていた銀髪を津波のように荒立て、呼吸も荒々しくなった。

「どうしますか‥‥？　我々の、情報が‥‥無いとも、言いきれません」
「わかってる‥‥わかってる！！　くそっ、余計な手間をかけさせやがって‥‥アルベロ、出せ！すぐに戻るぞ」
　男はゴーレムの肩の端にある、少しだけ出っ張った取っての様な部分を掴み、
　アルベロは大きな体をまた押しこめるようにコクピットへと潜り込む。

「‥‥待て。そのＵＰＣ側の動きに、雅は、関わっているのか？」
　コクピットが閉まりきる前に、アルベロが針葉のような細い目をかろうじて向けながら、口を開く。
「いえ‥‥現時点の報告では、関わって、いません」
　銀髪の男は、その言葉を聞いた瞬間、あれだけ憤っていたにも関わらず、
　火に水をかけたように、興味を無くしたような顔つきとなった。



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「竜宮が落ちたわね？」
　ＵＰＣのブリーフィングルーム。ここに立つのも随分と久しい気がしている柚木　蜜柑は、
　竜宮関連の作戦結果が纏められたプリントを配り終えてから言った。

「北京の大規模作戦中、突然ＵＫ３を海岸線と挟み撃ちにするみたいに現れた、巨大キメラプラントを擁した要塞『竜宮城』――作戦の概要は知らなくても、本部で目にした事ぐらいは、あるんじゃないかしら？」
　インサートカップのコーヒーを、音など気にせず啜りながら、彼女はプロジェクターのスイッチを入れる。
　次々と部屋の暗がりを彩色してゆくのは、戦闘によって得られ、解析された竜宮城本体の詳細だった。

「ＵＫ３と傭兵との決死のガチンコで、どうにか竜宮は一応の危険性を失ったんだけど‥‥これは、あくまで中の人がいなくなったからだけなの」
　中の人、と称してリモコンを動かすと、一連の竜宮騒動の首謀者である強化人間、乙姫。
　そしてその黒幕となった翁、強化人間の浦島の画像が現れた。

「竜宮城を背負って泳いでた亀型ギガワームも、今はもう動かないわ。城内の敵も、押しあがる戦線を見て撤退したと聞いてるから、竜宮は今、ゆらゆらと、文字通り塩漬け土地状態なのよね」
　蜜柑が手元を動かして現れるのは、竜宮との決戦前では明らかになっていなかった、内部詳細等の情報。
　もちろんこれを今見せると言う事は、これから、必要になるからだ。

「駅から徒歩何分なのか想像もつかないけど、貴方達のお仕事は、そんなブラックな物件の、情報収集よ。どんな些細なことでも構わないからっ」
　部屋の間取りから、日当たり、ご近所さんの様子等、と軽口を引っ張りつつも、大事な部分はしっかりと解説を抜かさない。

「ＵＫ３をハメる為に駆り出された城よ？　何もない訳が無いじゃないっ。玉手箱なら遠慮するけど、頑張って、バグアの弱みを持ちかえってきてねっ」

●参加者一覧

●リプレイ本文

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　傭兵達は、既に調査を終えた上層から更に深く、
　中層と下層の二手に分担し、探索作業を行う事にした。
　目標は５時間。
　定時連絡を行い、２度連続で連絡がなかったら救援に向かうと、
　危険がどこに潜むか分からない空間で、しっかりと念を入れた捜査方針を立ててきた。
　
　所々に見受けられる矢印や言葉、道順等は、先遣隊の貢献だ。
　そして、リンドヴルムを纏った日野　竜彦（gb6596）は、ドアの前に立つ。
　僅かに空いた隙間に指を滑らせ、思い切り力を込めると、
　元・自動ドアが片方だけ横にスライドした。

「如何なる家だろうと、内部構造には建築者の設計思想が、設備の配置には責任者の好みが出てしまうものだ」
　天野　天魔（gc4365）が武器を構え、慎重に辺りを警戒しながら言う。
　彼らの視界に飛び込んできたのは、
　所狭しとパイプが走り、蒸気と歯車が忙しなく働く無機的な工場ではなく、
　壁や床に張り巡らされる血管の様な管、
　ぶよぶよと幾つも揺れる卵型のドーム、
　ぬらぬらとてかりを帯びたハチの巣のセルのような物体、そして鼻を突く腐敗臭を漂わせた、生命感のある有機的なプラントだった。
　
「‥‥あまり、理解したくない設計思想、かなぁ」
　依神　隼瀬（gb2747）が頬を引きつらせながら、滑りそうな床を一歩一歩踏みしめて歩く。
「前回のマッピングだとここは無かったけど‥‥位置的に、ここから北と西に行けば、探索しきれてない部屋に付くはずだよ」
「この気味の悪い部屋といい、不穏の種には間違いねえし、ここはじっくり行こうぜ」
　Ｌｏｌａｎｄ＝Ｕｒｇａ（ga4688）――ローランドと隼瀬が、先遣隊として来た時の経験を思い出し、
　あれやこれやと踏破の為の策を展開している。
　そこに、少し遅れて竜彦が合流した。
　さっきのドアに鳴子と無線機を置いてきたようだ。

　竜彦が先行し、クリアとした部分を、細かく３人が調査していく。
　天魔が『探査の目』込みで調べると、
　どうやら生産中に止まったラインも多いようで、一つ膜を破れば、その向こうにはキメラが、というものも多いようだ。

「プラントと言うより、竜宮自体が死んでいるからな。　エネルギーの供給も無いなら、生まれる前に死んでいるだろう」
　天魔が言い放ち、竜彦の後をついてゆく。
　ハーモナーの『バイブレーションセンサー』には、生命の鼓動を感知する事が出来なかったのだ。
　
　プラントこそ仰々しく、禍々しい造りだったが『情報』と言う意味では、大したものは得られなかったようだ。


「となると、本命はやっぱり小部屋なのかな」
「まったく、包装過多な、不親切な置き土産だ‥‥」　
　マップを見る隼瀬の指示で、竜彦がぼやきながらドアを開けた。

　４人は、暗い幾つか小部屋が連なってゆく通路へと出た。
　一つずつ、スキルや自身の感覚等で罠や敵に警戒しつつ探っていけば、
　ある一つの部屋の捜索に、時間を要するようになった。
　先遣隊が、時間がなく辿りつけなかった場所、そこは――

「よくわかんねえけど、本とか紙とか、大事そうなのはいっぱいだな」
「ふむ‥‥察するに、プラントの主任の部屋のようだ。データ等も、取れるものは回収するとしよう」
　ローランドがばさばさと紙の資料を重ねる横で、
　天魔がデスクを物色する。
　幸い、パソコンはごく一般的なもので、必要な部品だけ抜き取り、部屋を後にする。
　
　竜彦が立って見張る廊下に出て、ローランドが来た道を覚えておこうと振り向くと、
　目の前の通路の壁が、いきなり横から吹き飛んできた。

　崩れた瓦礫を踏みつけて、粉塵の中から現れたのは、頭に角を生やした、紫色の骸骨。
　胴丸に身を包み、槍、弓、刀を構えた三体の鬼骸兵と呼ばれるキメラだった。
　
　竜彦とローランドが前に立つと、
　比較的直線の通路で矢が飛んでくるが、瞬速縮地で間を詰め、
「その太刀筋は、もう見飽きたぜ」
　漆黒の拳を肋骨を砕き、貫通する。
　経験、知識共に予習済みのローランドの敵ではなかった。

　竜彦が安定した姿勢を保ちＰ−３８を撃ち続ける。
　牽制や誘導にはなるが、骸骨の体にはなかなか決定打を撃ちこむ事が出来てなかった。

「まったく、人生も戦いも思い通り行かない、なっと！！」
「アドリブもまた、劇に味を添えるという意味で魅力的なのだがな」
　かけつけた天魔が竜彦の肩を叩き、ガントレット型の超機械を前に突き出す。
　電磁波を浴びて怯んだ鬼骸兵へ、リンドヴルムが駆動音を大きく立てて飛び出していった。
　
　襲い来る矢が装甲を掠めると、傷つけた部分が煙を上げる。まともに喰らうには頂けない毒だ。
　だが眼前に迫った矢も機械剣で切り払い、飛び出てきた槍の軌道を潜るように逸らす。
　そのまま、突き込んで来た体へレーザーの刃を薙ぐのと、
　もう一体が天魔の電磁波で崩れ落ちるのは、同時だった。　


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「キ　ン‥‥？　何、お宝？　空洞よ？」
「キケン、じゃないかな、消えてるみたいだけど、地図にもあるしね」
　ペンで書かれたのであろう壁の字を見て首を傾げる蜜柑と、苦笑する今給黎　伽織（gb5215）

　その後ろで、雨霧　零（ga4508）が抱き合わせた無線機を置いている。
　多少の音質は覚悟の上で、無線の中継地として使用するようだ。
　
「恐らくこのパイプや配線の先にコンピューター的なものがいっぱいあるんだけどー‥‥珊瑚じゃまー！」
「あ、任せて」
　むきーと咆える蜜柑をどけるように、時枝・悠（ga8810）が前に立つ。
　すっ、と抜くのは１．５ｍの大太刀、紅炎。
「変に気張ると失敗しかねないからな。まあ、いつも通りやろう」
　肩を回してすたすたと近づく悠。涼しい顔と、淡々とした口調の刹那、
　振り下ろした刀からは轟音と共に激しく珊瑚の欠片が飛び散ってゆく。

「いつも‥‥通り‥‥？」
「いつも通りですよー」
　初めてまともに悠のパワーを目の当たりにして、目をちぐはぐさせている蜜柑と、
　その横で、くわえた棒チョコ菓子をぽりぽりと口に収めながら、見慣れた光景を、眺めるエイミ・シーン（gb9420）
　あっという間に、人ひとり分は余裕で通れる道と、綺麗な自動ドアが現れた。
「モニター室の場所はわかったんだね。じゃあ、僕達はこちらへ行こうか」
　伽織が指示したのは、行き止まりの床下。透明な水ではないが、広く続いていそうである以上、
　調べる価値はある。

「竜宮関係は殆どノータッチだったけど、落とした城の家捜しか‥悪くないね」
　バグアの弱みを何か掴めたら面白い、と不敵に、静かな微笑みを浮かべる伽織。
　そして、エイミと零と蜜柑は、ドアの奥へ。
　悠と伽織は、深い水の底へと消えていった。

「元・敵城とはいえー、あまり長居もしたくないですね‥‥」
　エイミがぐるりと開けた空間を見渡す。
　３人の踏み入った場所は、筒状に吹き抜けたモニタールームだった。
　年輪のように配置されたコンピューターと、壁に幾つも張られた薄いモニター。
　それらが見つめる中央部には、大きな柱が天井まで突き抜けてそびえ立つ。
「あれがサーバーかしら‥。　なんとかなるといいんだけど」
　よいしょ、と取り出すのは、タッチパネル式の電子端末。
　それを両腰に、ホルスターに収めた銃の様にぶらさげたメモリとＨＤＤへ繋いで、解析を始める。

「軽い情報整理とかくらいなら私にも出来るのです！」
　全力でお手伝いぐらいしますよ！　と意気込んで蜜柑を覗き込むエイミ。
　彼女の横に居るのは、非能力者の蜜柑を護衛する意味もある。
「うん、ありがとっ。　バグアのテクノロジーに対抗出来るかと言えば、研究所の専門家でもキツい話なのよ。だから、私が弄れるのは、親バグアの『人間』が扱えた限界の情報のみ。そこだけは、前もって了承しといてねっ？」
「了解ですよ！　とりあえず、何をすればいいです？」
「今のうちに出来る解析はしておくから、私の見落としがないかチェックしてもらっていいかしらっ？」
　近くのパソコンのロックを難なく解除すると、エイミに座るよう促す。
　やる気たっぷりでキーボードを叩くエイミ。途中、ふと気がつくと、居ない誰かのお腹（らしき辺り）をふにふにとつつく仕草が見えたりした。

「ふむ、私も。　制御室の場所を探し出してみせるよ」
　構造を把握出来れば、地図と照らし合わせて制御室の位置が割り出せる筈なんだ、と勢い込む。
「あと自爆装置の有無、これ大事だよ！」
　零が凛々しい顔で、武器を構えて警戒しつつ、広い部屋を済み済みと見てまわる。
　罠等の類にも油断はない。
　前回のキメラ工場捜索での顛末を、彼女はとても悔しがっていたのだ。
「今回は中々シリアスなのねっ？」
「今回『は』が余計だよ蜜柑君！」
　ぽそりと呟いた蜜柑に、びしっ、と遠くから反応してみせる零。
　名探偵とは五感を研ぎ澄ませて真実へと辿りつくのだ。


　悠と伽織は、静寂と海水に満たされた空間をゆらゆらと沈んでいった。
　泳ぎ着いたのは、一つの部屋。
　鍵がかかっていたが、伽織が蝶番を水中銃で撃ち壊して、悠がドアを蹴破る。

　飛び込んできた光景は、６畳程の畳敷きの部屋。
　生活感こそあれば、アパートかと間違える程だったが、
　部屋に詰め込まれているのは膨大な本、紙の山。
　そして、乙姫の写真も何枚か視界に入った。

（推定、浦島の部屋なんだろうが、漁師がこんな紙の山の中で寝ていたのか）
　ひと組だけ浮いている布団と枕を見て、悠が考える。
　伽織の探査の目込みで二人はしばらく捜索を続けた。

　足元、天井、壁‥‥色や質感の違いにも注意を払うが、通路や穴らしきものは無い。
　と、発動した探査の目と伽織の感覚に、何かがひっかかった。
　浮かんでいる簡素な白い枕。その枕カバーの中に、注視しないとわからない四角い膨らみ。
（これは、手記‥‥？　まだ読めるといいのだけど‥）
　今ここで開くのを堪えて、伽織が丁重にしまう。
　そして、ゆっくりと部屋の外へ泳いでいった。

　突然、襲いかかる一筋の影。
　鋭い軌道が悠の腕を捉え、レギュレーターから多くの気泡が飛び出る。
　二人の前に、漂うように現れたのは、先ほどの部屋程の体を持つ、巨大なエイ型のキメラだった。

　伽織が急ぎ水中銃を抜き、広い本体に水の塊を撃ちこんでゆくと、
　毒を持つ尻尾を抜き、間合いを取るでもなく動かずにいる。
　悠の腕からは、黒い血の靄が悠の腕から噴き出ていた。

（毒だったか。速効で決めよう）
　ずきずきと、痺れるような痛みが傷口を襲うが、
　奥歯を噛み締め、遅れて悠が刀を抜き構えると、エイは二人に覆いかぶさるように突進してきた。
　機動こそふわりとしているが、広い分避けるのに手間がかかる。
　体当たりと同時に襲いかかる背ヒレの針を、紙一重で伽織が避け、零距離で撃てるだけの『影撃ち』をうずめてゆけば、
　薄い体に穴を開け、エイは泳ぐバランスが保てなくなった。
　
　そこへ悠が『剣劇』で怒涛の切り込みを叩きこむ。
　陸地での俊敏さと豪快さこそ無いが、
　確実に、正確な速度で次々と切り込み、水泡を巻き上げてゆく様は、まるで水芸に等しい。
　周囲の水を様々な色に染め上げて、エイ型はついに動かなくなった。

　伽織が悠に、サインで上に上がろうと指示を出す。
　毒の具合も心配だが、急浮上は減圧症の危険もある。
　メーターと時計を焦れるように見てから、ようやく水から上がると、　
　
『私にはある頼れるとっておきっ！　って‥‥ダメですか！？』
『いいぞ、エイミ君、派手にやりたまえ！』
　少し伸び始めた珊瑚の奥から、エイミと零の声が聞こえてくる。
「やりたまえ、じゃないだろ、おい。人いるから」
「吹き飛ばすのが、珊瑚だけだといいけどね」
　キュアで治療をする悠の傍らで無線を飛ばす伽織。
　どうにか、浪漫の鉄拳が二人に飛び込んでくることは、避けられたようだった。


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「根を詰めすぎもよくないですよー？」
　帰りのＵＰＣの高速艇内。
　カリカリと解析作業に集中する蜜柑にもふっともたれかかるエイミ。
　差し出すのは、自身が口に含んでいるのと同じ味のチャップスだ。
　直接かぷっとくわえつつ、
「お酒はないの？　お酒ー」
「無いですよー。苦手なんですよね‥‥」
「じゃあ‥‥お酒のアテになりそうなのでいいわよ」
　蜜柑の口には、何故かあったするめが突っ込まれた。

　成果はと言えば、かなりの収穫があったようだ。
　何人かが確認していた白紙の紙は、
　ライターを取り出した竜彦の前で燃えてなくなってしまった。
「名探偵的見解から言うと‥‥作業員同士の連絡や仕事で、炙りだしなんて手の込んだことは、しないって事だね！」
　うんうん、と納得の言った顔で頷く零と、
　燃えカスを見つめて苦笑する天魔だった。
　ちなみに、自爆装置はなく、制御室はすでに浸水して制御不能だったが、
　手に入れた地図は脱出時の安全に非常に貢献した。

　中層班が責任者のものらしき部屋から持ち出したコンピュータからは、
　イランの下に広がる海、ペルシア湾とオマーン湾の間にある海峡、ホルムズ海峡に点在する精鋭バグア海軍と、
　そのアジアバグア海軍の基地所在が記載された海図が発見されたと言うのだ。

「これは‥‥軍のお偉いさんも尻尾振って私にひれ伏すんじゃないかしら‥」
「取ってきたのは俺達だぜ」
　思わず生唾を飲み込む蜜柑へローランドがじとりとした視線をぶつける。

「そして、気になるこの手記だけど‥‥そろそろ、読んでもいいかな？」
　充分に乾かした、よれよれの黒い手帳を、伽織が慎重に開いてゆく。
　ぺりぺりと、くっついたページを剥がすのに幾度も肝を冷やす。

　何十ページにも及ぶ、乙姫への愛、
（もちろん、強化人間らしく芸術品、作品として捉えた美への魅力だが）
　が綴られる部分は軽く流してゆくと、手記を読む者たちの興味は、ページ中頃で一気に惹きこまれる。

　キメラの送付先リスト。と書かれた下に、
　紛争中の民間軍事部隊
　イベント会場
　ショッピングモール
　等々。
　そしてそこから、今までにエイミや伽織達が赴いた場所等も、記載されているのが発見された。
　場所の横には、詳細な送り込むキメラのコンセプトが走り書きされており、
　神、伝承、等の単語が、滲んではいたが読みとれた。

「キメラを、仲介か、斡旋か、派遣している組織って事ですか‥‥？」
「いや。キメラを手なずけるのは無理なはずだよ」
　キメラは、計画的に作られていたのか。
　作られたキメラは、どのように使われていたのか。
　浦島は、どこまで知っていたのか‥‥。
　

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　水の薄く敷かれた暗い通路を、二人の人影が歩いている。
「‥‥やられた、ね」
　床に置いてあった、鳴子と通信機を見つけると、腹いせに思い切り蹴飛ばす、銀髪の男。
「活動を‥少し、縮小して‥‥」
　体の大きな男が、伺うように隣の男の顔を覗きこむ。
「いや‥‥元々、浦島に釣果は期待してなかった。でも、来たとわかった以上、対策は出来るかな‥」

　軌跡は、謎へ辿りつく。