タイトル:チョッピング・モールマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/22 15:46

●オープニング本文


 ――それは、掴めそうな程濃密な静寂だった。
 そしてその静寂は、それが漂う場所にはあまりにも不釣り合いだった。

「ひでぇな‥‥」
 地元の警官の制服を着た、不精髭のザラついた男が、
 しゃがみ込んで地面の血だまりに自分の顔を映しながらぼやく。
 何度見ても、慣れていいもんじゃない。赤く映じた自分の顔は、随分としかめてそこにあった。

「バグアってのは、平和な地球を侵略したり、大賑わいに水を差しちまったり、空気の読めないバーゲンセールだぜ‥」
 まだ温かい鉄の香りが鼻をつき、男は避けるようにその場を立ち上がった。

「元々地球が平和だったかどうかには、疑問の余地があるがな‥」
 警官の後ろにいた別の男が茶々を入れる。
 アッシュグレーの髪に、警官より十は若そうな顔つきの銀縁眼鏡、
 彼が黒いスーツを着こなしてスラリと立つ様は、警官とは違い至って冷静な振る舞いだった。

「そいつぁ、今夜の酒の肴にでもして話しましょうや」
「今夜、酒が飲めるもんなら、な‥」
「おいおい、縁起でも無ぇこと言わないでくださいよ、雅さん」
 雅と呼ばれた男は、残業的な意味でだ、と、苦笑で返しどことなく歩き出した。

「ふむ‥で、今現在キメラの居場所は、わかってるのか?」
 歩く度に、ぱしゃ、ぱしゃ、と足元から水音が生まれ、静寂に反響して男達の耳を刺す。
 ジャケットの上から、その下に隠してある得物を確認するように触りながら、井上 雅は警官に訪ねた。
 仕事の空気を読み取った警官は、目に力を戻し、機敏に敬礼を取ってから――
 しかし口調は抜けきったままで――彼に応じた。

「詳細は確認出来てねっす。けど、警察が応援を要請して、包囲網を展開してるんで、隣のエリアのどこか、という事に間違いはないっすね」
「確かか?」
「うぃ。天井、空調、配管の通路、地下、あらゆる出入り口に人を敷いてんで、それだけは確かっすよ」
少しだけ胸を張ったようにも見える。どうです?とでも言い足しそうな表情で警官は報告を終えた。

「頼むぞ。俺達の不手際のせいで、仕事の引き継ぎに支障を出すわけには行かないからな」
「ご安心ください。皆、早く帰って酒を飲みたい連中ばかりなので、昼間の仕事の良さには定評があります」
 にやりとする警官に、雅は再び苦笑を返そうとしたが、視線を逸らした瞬間、『また』その光景を目にしてしまった。
 いつもの自分の、仕事と割り切るスタンスで、どうにか沸き起こる憤怒と悲哀を抑えていたが、状況がそれを難しくする。


 今この場に、男は二人。
 息をしていない男女が、その他大勢。
 男達の周りには、数々の、体を切り刻まれた老若男女の静かな遺体が、騒然と横わたっていた。
 それは、掴めそうな程濃密な静寂だった。



「ごめんごめん、遅れちゃった‥!」
 肩で息をしながら、ブリーフィングルームのドアを勢いよく開けて、若い中背の女性が入ってくる。
 オリーブ色のスーツにタイトスカート姿の彼女は、よほど急いできたのか、
 傭兵達の視線など気にせずにシャツのボタンを開け、パタパタと汗ばんだ体へ空気を送りだした。

「じゃあ、早速お仕事の話。私がこの依頼を担当するオペレーターの柚木 蜜柑。ヨロシクね」
 ミルクチョコレートのショートボブを揺らしながら、概要が書かれた資料を一枚ずつ配り、彼女は話を進める。

「仕事内容は簡単。敵一体の無力化。でっど、おあ、あらいぶで構わないわ」
 敵一体・・? 曖昧な表現に傭兵の一人が呟く。

「うん、ゴメンね。びみょーに肝心なトコがわかってないのよ」
 自身が持ってきた紙束をめくり、確認しながら彼女は応える。

「まぁ・・一応、ただの人間では無いなとは踏んでるけど、私の私見を影響させたらマズいから、断定はしないわ。真相の解明も含めて、貴方達のお仕事」
 胸ポケットに差してあったボールペンの先をびっ、と向けて蜜柑は言う。

「舞台は日本の大型ショッピングモール‥って、えぇ!? これ今日オープンしたばっかりってトコじゃん。嘘やだ行こうとしてたのにー‥」
 部屋のプロジェクターにモールの平面図を映した彼女が軽く取り乱した。傭兵達の背中に刺さる視線に気づき、慌てて平静を取り戻す。

「こほん。よく雑誌に取り上げられる有名セレクトショップや、美味しいモノ、映画館等など、朝から晩まで暇が潰せるように色んなテナントが入ってるの」
 本当は、仕事じゃなくてプライベートで行きたかったわよね? と、ため息をついて、話を戻す。

「状況は・・最悪。報告によれば、お昼時、突如として現れた『それ』に、老若男女、オープニングセールに集まった推定50人以上が、『斬られた』らしいわ」
数秒前に軽口を叩いたかと思いきや、すぐさま真剣な表情を傭兵達に向ける蜜柑。

「窒息、殴打、圧死‥人の死に方って色々あるけど、例外無く『斬傷による失血死』らしいわ。即死の人も‥そうでなかった人も、いるでしょうね」
「傷の後も様々。スッパリと綺麗に斬られたかと思いきや、ズタズタに斬られた後や、叩き斬ったような跡も‥あるんだとか」
 ここまで説明して、蜜柑は頭を押さえて顔を逸らした。ゴメンね、と一言付けて加えてから、一口水を含む。

「じゃあ、目撃証言の話にうつるわね」
 軽く頭を振って、気分を切り替えたようにも見える。仕事とはいえ女性には楽な想像ではなかったはずだ。

「敵は、とにかく沢山の『刃物』を持った、大柄な人のような感じらしいわ。特別何か喋っていたという事はなかったみたい」
 変なの、と一人ごちて彼女は話を進める。

「ん、とにかく見た目よりもフットワークが軽くて、人間と考えるよりは少し大きいような‥とも情報が入ってるわね」
「ちなみに‥これは現場から回収したICレコーダーから得た情報で、持ち主と、目撃者の方は‥‥」
暗い表情が再び顔に浮かびかけた時、突然彼女の腕時計が短い電子音を鳴らした。
 ゴメンね、もう時間みたいなの。と、蜜柑は資料の端をトントンと揃えて、急いで席を立った。

「こちらからは以上。いきなりの事件だから、人員割くのに大忙しなの。私はもう行くわね? だから‥」
 ドアを開け、改めて室内の傭兵達に向き直り、神妙な顔つきで彼女は言った。

「‥お願いね。絶対、この理不尽に、ケリをつけてきて」

●参加者一覧

ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
日野 竜彦(gb6596
18歳・♂・HD
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
ジャック・クレメンツ(gb8922
42歳・♂・SN
ユウ・ナイトレイン(gb8963
19歳・♂・FC
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF

●リプレイ本文


 某所某日某時刻
 静けさが新品の床、柱、天井に染み入り、既に一般の人払いは完了しきっている。
 悲運にもバイオレンスなオープニングセールを迎えたショッピングモールには、新しく8人の傭兵が来店していた。
「新しいオペ子がいると聞いて飛んできますた。いや〜結構可愛いかったし胸元も見られてラッキー!」
 モニターに目を向けたまま手元を動かし、モール内の隅々を映し出していたロジャー・藤原(ga8212)がその静寂を破る。
 真面目にやってください‥と、日野 竜彦(gb6596)は溜息をつき、部屋の後方で配電盤を操作していた。
 だが、作戦区域の詳細を把握するために、見取り図を取りに同行していた優(ga8480)は、ロジャーの握るカメラを動かすハンドルに、
怒りからか必要以上に力が入っている事に横目で気付いていた。

 まず三人が、情報収集として警備室に足を運んでいた。警備の巡回ルートや電気系統、
モールを機能させる為に必要な裏方の数々がここに集結しているようで、幸い、目立った被害はここには無い。
「そろそろ合流した方がいいかな?」
 敵の潜伏が予想される場所への電力供給を竜彦が回復させて言った。
 惨劇の幕は開け、スポットライトがショッピングエリアの傭兵達へ浴びせかけられた。


「服とか色々みたいなー‥え?閉まってる?何も見れない‥なんて!」
 がっくし、と一目で心境がわかる項垂れっぷりをエイミ・シーンが(gb9420)見せる。
 横では、一応持ち込んだ無線機の調子を確認しながらユウ・ナイトレイン(gb8963)がまぁ、確かに‥と、辺りを見渡す。
 警備室に行かなかった残りの五人は、先に敵が潜伏しているとされるエリアの入り口まで来ていた。
 朝から晩まで暇の潰せる大型ショッピングモールのメイン、ショッピングエリア。
 長方形に長く広がった左右には、これでもかといわんばかりに、
多種多様なテナントが入った、あらゆるニーズに応えるのが目的の、モールのコンセプトの要石である。
 一体、気泡シート――プチプチつぶすあのアレ――専門店のどこに需要があるかは、わからないが。

「全く‥こういうポスタル野郎は一辺殺さねぇと分かんねぇみてぇだな」
 ユウのテストの相手をしていたジャック・クレメンツ(gb8922)は、エリアのどこかにいるであろう敵に、呟いてやった。 
「50人以上、か‥こいつはひどいな‥さっさと潰すぞ、これ以上の被害を出さないためにも、な」
「ふふふ。のんさん、無理せずガンバローね♪」
 いつの間にやら、ライフルの調子をチェックしていた飲兵衛(gb8895)の横に立ち、彼のお腹をふにっとするエイミ。
「何してるんだ‥‥?」
「ぷにぷにのんさん満喫中ー」 
 いつもの事かと苦笑しつつ、一応聞いては見る飲兵衛だった。
「警備室の連中が帰ってきたぞ。行こう」
 ロジャー、竜彦、優が戻って来るのを見つけたベーオウルフ(ga3640)は、自身のドラゴニックスケイルを起動し終えたところだった。
 合流した一行は、封鎖の応援に駆け付けていた警官の敬礼を背にして歩を進めて行った。


 捜索は二手に分かれていた
 基本的には広いエリアを虱潰しに、竜彦、優、ジャック、エイミは2階、
 ベーオウルフ、ロジャー、ユウ、飲兵衛は1階の担当となっていた。

「ブラヴォー、こちらアルファ。異常なし。現在位置、二階中央、本屋内、オーヴァー」
 一歩引いて、後方や上方下方へ警戒していたジャックが無線連絡を担当する。
 優が月詠を構えて全周囲を警戒しつつ、棚と棚の間、通路等を索敵し、
 彼女の戦い方を見たことがあるエイミは、それに合わせてフォローするように立ちまわった。
 覚醒の効果で動体視力は自信がある、が、今のところ何かが動く気配はない。なかなか見つからない苛立ちに、
無意識で、そこにあるかのようにエアーふにふにをしている事に彼女は気付いているだろうか。
 竜彦は、レジの下や在庫をしまう引き出し等、大人では無理でも子供なら入れそうなところにまで捜索の気を配ってくれていた。
 だが、このエリアは他の施設より少し遅いオープンを予定していたため、
生存者の確認は、逃げ出した店員を外の警官が一応名簿でチェックを入れることで足りていた。

「三体合体してる‥‥なんてないよな?」
 ひと通りの捜索を終えて、一人ごちる竜彦。
「もしそうなら‥ある意味、助かりますね。バグアが組する以上は‥排除するのみです」
 思わず大事なプロミスリングに手が伸びる優。思うところが色々あり、バグアに対しては容赦のない彼女の姿勢は、冷徹ながらも頼もしく見えた。


 B班の4人は1階の各店舗をあたっていた。
 ロジャーが警備室で監視カメラの記録・現在の内部状況を調べてはみたが、
 特に怪しいものは映っていなかったそうだ。が、それは無駄足ではなく、無から有を得る事に成功している。
「つまり、隣から通気口なりドアなりで、壁越しにこっち来て、そのまま潜伏してんのかも知れねぇよな?」
 対岸へ向かう敵影は無かったので、両班共に殺戮の現場と接地している左側の店舗のみに絞ることにした。
 
 飲兵衛が少し後ろでライフルを構え、広い視野を持ち警戒しつつ、
 先頭を立つベーオウルフが上方下方にも警戒しながら、コーヒースタンドのドアを開けた。
 仕込みをしたままで店員は逃げだしたのだろう、まだ焙煎したての豆の深い薫りが鼻を豊かに抜ける。
 ユウがジャックからの無線を受けつつ、4人で索敵したがクリアという結論に至った。
「敵がギャルソン姿で『いらっしゃい』なんて出迎えてくれたら楽なのにな」
 呟きながら飲兵衛がまた後ろでカバーに入り、店を出る。次は隣の串焼き屋へと向かった。

 虱潰しというのはなかなか根気がいるもので、しかし、ふとした虚を突かれるのも危険だ。
「慎重すぎて困る事も無いだろ」
 どこに居るのか分からない状況なので、出来るだけ慎重に探索を進めたいというベーオウルフの意識は皆に張りを戻す。
 串焼き屋はまだ火を落としたままで、だが地方の名産品の炭は丁寧にくべられて主人の代わりに客を待っていた。

「‥奥の方で、何か聞こえませんでした?」
 ユウが二刀小太刀を握る手を強める。音がしたという方向、厨房に一同が向き直る。
 進んで見ると、無機質な銀色のステンレス機材の数々と調和するかの如く、ひんやりとした冷気が頬を掠める。
 飲兵衛は、サイト越しに開けっ放しの冷蔵庫の前に立つ茶色い物体を補足した。
 いや、茶色、黒、白‥ふさふさの豊かな毛並みは、ところにより赤く染まっている。
 そして背中には‥‥刀、両手剣、ナイフ、斧、チェーンソー、植木用の大鋏を紐で乱暴に括りつけていた。
 背中をぞくりとさせるのは、室温のせいだけじゃないだろう。
 危険を感じ、ベーオウルフが拳を握り後ろへ止まれと指示する。
 串焼き用の豚肉をぐちゃぐちゃと弄んでいたいた『それ』がゆっくり振り返る‥人間よりは一回り大きく、もこもことした毛並み、手には鉈。
 オープニングセールから迷い込んできたかのような犬の‥『シェルティーのきぐるみ』が、にたりと笑って4人に向き直った。
自身が食べるでもなく、狂気に任せて切り刻んでいた冷凍肉よりも、新鮮な肉を目の前にしたきぐるみは、喜びに尻尾を振り、両手に鉈と肉切り包丁を構えて傭兵達に突撃してきた。
「ゴングだ‥‥!」
 ロジャーが手筈通り、閃光手榴弾を相手に投げつける。
 殺人きぐるみの前で発生した薄赤いフィールドでそれは破裂し、光と高音が戦闘の開始を短兵急に告げた。



 狭い場所での戦闘を避けるべく、敵が怯んでる隙に4人は店の外に出た。
 シェルティーを扇状に囲んでベーオウルフ、ロジャー、ユウ、少し後方で飲兵衛。
「大丈夫ですか!?」
 優が声をかけ、A班が吹き抜けの二階から柵を越え降りてくる。
 リンドヴルムを纏った竜彦は、着地ざまに機械剣を振りおろした。
 だがシェルティーは紙一重で体を捻り、圧縮レーザーの刃を交わす。
 完全に闘争本能を刺激され、血まみれの犬は背中のチェーンソーを持ち出した。
「やってみな。ただし、俺の事を抜いてからだ!」
「悪夢を終わらせるよ」
 竜彦の啖呵に、エイミの武器への音声認識が重なり、敵の弱体化が完了する。
 途端、負けじとシェルティーは踏み込みをかけ、鎖鋸のガソリンを振り垂らしながら後衛に近づこうとした。
「ちっ、一々近づいてきてんじゃねぇよキメラが!」
 装弾数5発のライフルでは大した撹乱にならない、飲兵衛は距離を取りながら、決定打の一撃をぶち込もうと構える。
「Duck it!」
 屈め、と同じく距離を取っていたジャックの援護が入り、頭上を掠めた弾を追いかけてトリガーを引いた。
 足を双弾で狙われたシェルティーは、流石の威力に体制を崩し、落としたチェーンソーが高音を奏でて固い床を削る。
 すかさず優が、シェルティーの落としたチェーンソーを踏みつけ壊し、そのまま前へと居合抜く。
 すぱっ、と血で固まった腹の毛を切られ、苦し紛れに鉈を振りおろすも、上段で月詠に止められ、いなされた後流れ斬られた。

「切って捨てる、それで終わりだ」
 斬られようと崩されようと、50人を葬っただけあって素早い。すぐさまベーオウルフが前に立ち、分離した剣で手数を防ぎに入る。
 日本刀と鉈、長刀と小剣による、文字通りに鎬を削った激しい攻防がその場で留まりしばらく続いた。
 刹那、限界突破を使用したベーオウルフが僅差で相手の懐に入り込み、一閃を浴びせる。
 先ほどよりも深く腹に傷を負いつつ、さっと後ろに飛んで距離を取った犬に、ロジャーが追い打ちをかける。
「飛ぶ斬撃って知ってるか?」
 ニヤリとしてソニックブームを飛ばすロジャー、だが「知ってるよ?」と言わんばかりに、犬は尻尾をふりふりして刀から衝撃波を飛ばした。
 すかさず竜の翼で竜彦が前に出て、盾を構えて敵の攻撃をなんとか処理する。
 
そして、衝撃波を飛ばした犬の背後には、ユウが回り込んでいた。
 鼻を利かせ、にたりと犬が振り向くが、ユウの覚醒は水や氷の幻影を様々な刃物に変え纏っていた。
 大量の刃物を捌くべくか、犬は慌てて二振りのナイフに武器を持ちかえる。
「さしずめ流水の太刀って所か」
 振り向いた背中にはロジャーが接近していた。二つの水は激流が如く、斬撃を叩きこむ。
 両肩をざっくり持って行かれた殺人きぐるみは、皮肉にも自身の血と共に水葬されるような最期で、床に倒れ込んだ。



 キメラの討伐の報を聞き、すぐに応援が駆けつけた。後は警察の方で何とかしてくれるそうだ。
 別に後ろ暗い事をした覚えはないが、どっと流れ込んできた警察を見て、血筋の習性か思わず逃げだしそうになるロジャーだったが、慌ただしく活動している警官達には、特に相手にはされていなかったのがもの悲しい。
 いや、危うく海賊の格好を怪訝に思った一人が職質をかけそうにはなったが。それはそれとして。
 
 竜彦と優が戦闘後に全体の安全を確認しに走ったが、どうやらもう危険因子は見当たらないようだ。
 ベーオウルフもスケイルを解き、ジャックは薬室に残った弾も抜く。

「‥先にお店開けてもらって買い物できないかな‥‥」
 ユウから内部で起こっていた事を詳細に聞きだし、逐一メモしていた警官が、エイミのふとした呟きを耳に入れる。
「あー‥嬢ちゃん。俺たちは早く帰って酒飲む為に忙しいんだ。だから‥」
 パタン、とメモを閉じ、暗い顔をしかけたエイミに言葉を続ける。
「だから、今ここで‥高けぇもんは無理でも、お菓子やジュースの一杯ぐらいなくなったなら、在庫チェックにゃ手はまわんねぇな、うん、忙しいしな」
 聞くや否や、エイミはぱぁっと顔を輝かせ、飲兵衛の腕を引っ張り走っていく。
 ひゃっほうとロジャーが跳んでいくのは、物色目的ではないといいのだが。
「それぐらいで済むなら、安いもんだぜ…ありがとよ」
 と、今夜の酒代の予算を少し減らす計算をしながら、警官はひとりごちた。


 二階最端のスイーツショップ前にて、笑顔でお疲れ様と言いつつ、飲兵衛のお腹をまたもふにふにするエイミ。
「悪い夢は、覚めたかな?」
 チョコレートをつまみながら、どこと無しにエリア全体へ焦点をぼやかしながら、エイミが問う。
「豪華二本立ての同時上映は、腹が膨れるから勘弁して欲しいな‥」
 覚めるからこそ、何が起きても許容出来るのが夢。例え、それが悪夢だろうとも。
 絶対晴れが続くなんて保証はないように、絶対悪夢を見ないという保証もない。
 だが、もし見てしまっても、それを取り払うべく身を粉にする者もいる。

 これは、些細ながらも救いに駆ける、傭兵達の一幕である。