タイトル:【BD】Escape Batchマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 08:37

●オープニング本文


 南米ホラディア某時刻。
 ゴーグルのレンズ越しでは、カーテンでも垂らしたかのように、
 隙間なく、静かに雨が降りしきっている。
 草と泥の匂いが鼻に纏わり付き、つい脳裏を柔らかいベッドと暖かい食事が過ぎれば、
 羨望とのギャップに、精神的な活力が奪い去って行く。
 

 ―――容赦無い、現実。

 男は、作戦を終えたホラディアダムより撤収を始めていた。
 が、拠点を攻略されたバグアの怒りは、崩壊されなかったダムの代わりに溢れ出で、
 周囲バグア軍の報復により一部の撤収する軍と傭兵は激しい攻撃を受けていた。
 どうにか振り切り、見つからずここまでこれたが、
 磁石は壊れ、地図も無し、GPSも電波障害を受けている。
 ここがどこかもわからない、それでも、生きる為には、足を動かさなければならない。
 貪るように酸素を求める肺、雨か汗かもわからないどろどろの肌、乳酸だらけのくたくたな脚、
 とうにボロボロの体をどうにか引っ張り、男は雨の密林を、ただ駆けて行くのだった。

 右足のブーツの紐が切れるまで歩いた頃、
 汗だらけの首筋を涼しく撫でる空気と共に、眼前が明るく開ける。
 そこは、向こう岸まで30mは有ろうかと言う、大きな川だった。
 ――助かった。男の脳裏に希望が過ぎる。危険もあろうが、滝に気をつけつつ川を下って行けば、
 とりあえず人の居る場所の一つは見つかるに違いない。
 天の恵みとはこの事だ。傍にはエンジン付きの軍用ゴムボートもあった。
 紐を何度か引いてからエンジンを振るわせると、
 銃の薬室に弾を装填してから、慎重に、男は河をくだっていった。

 流れに乗り、力強い浮力を足元に得た刹那、ぷつん、と糸が切れたように体中の力が抜けて、
 ボートの底に倒れ込む。
 まだ、寝るわけにはいかない。エンジンの単調なリズムが眠気を誘うBGMとなり、
 このまま泥のように眠ってしまいたいが、右か、左か、上空か、
 いつ得体の知れない攻撃を受けるかは、まだわからない。
 戦地は、慎重に、確実に歩いてきた。仲間の輸送機やヘリに乗るまでは、絶対に安堵しない事にしていた。
 だが――体を休める、ぐらいなら‥‥
 どうせ敵はキメラかバグア兵だ。
 接近するなら人以上の気配がするだろう。行軍の音も大きいものだろう。
 それなら、歴戦をくぐり抜けた自分にも気づける。加えて、ゴムの浮き部分に体を隠すよう横になれば、
 ボートだけが流されていると思わせられるかも知れない。
 男はエンジンを切り、息を忍ばせ、弾が満タンのサブマシンガンを胸元に抱えてから、静かに横になった。

 実際、2時間は経過しただろうか。
 男は、恐るべき集中力とタフネスで、一睡もしていなかった。
 河の流れも広くなってきている。
 きっと川魚を目当てにした集落等が広がっていてもいいだろう。
 恐る恐る、上半身を起こし、煙や、人の喧騒がないか、目を凝らして探っていた。

 ふと、ゴムボート底部がなにやらゴツゴツとしてきた事に気づく。
 浅瀬の岩の上でも滑ったのだろうか。ゴムボートとは言え、仮にも軍用。
 岩ぐらいで破けるような作りではない事を知っていた。

 が、それは岩ではなかった。

 底部に無数の白い光が食いこんでくる。
 否、それは太陽に照らされた、牙。
 幾つもの対の牙が忙しなく底を動き、やがて小さな穴を大きな穴へと変えていく。
 敵は、下からやってきた。
 まだだ、まだここで死ぬわけにはいかない。
 ようやっと可能性のあるところまでたどり着いたのだ!
 男は、抱えていたサブマシンガンの銃口を目測で向け、慌てず、落ち着いて息を吸う。
 祈るように、引き金を三回‥‥!
 大口を開けてボートに喰らいついていた魚が、
 赤い障壁をちらつかせながら、その口には弾が吸い込まれるように撃ちこまれる。
 これを粗方片付けたら、岸まで泳ごう。そして、少しは休めた足を、また動かすのだ。それから‥‥。
 
 男の思考は、背後より迫った底部以上の無数の牙により、それ以上展開される事は無かった。

●参加者一覧

夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
東條 夏彦(ga8396
45歳・♂・EP
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG

●リプレイ本文


 南米某日某時刻
 ホラディラダムへ放物線を描いたフレアが放たれ、轟音と共に火柱が無数に立ち上る。
 ダムの崩壊を確認! ノイズ混じりの壊れた無線から、情報網に飛び交う吉報。

「ちっ、ついてねぇぜ‥」
 だが、幸い中の不幸とでも言うべきか、五十嵐 八九十(gb7911)は勇猛に進行中、敵の対空砲火を受け密林へと不時着していた。
 機体は既に動きそうにない。悔しさに拳を打ちつければ、雨で濡れたシートから水が滲む。
 意図せず吹き抜けたコクピット、入り込む雨に顔をしかめながら、割れたガラスを踏みしめて外へと駆けだした。



 各々危険な境遇に陥り、戦闘を逃れながら、撤退する際に8人の傭兵が合流していた。
 今はどこかへと離れているが、
 東條 夏彦(ga8396)が周りの枝や葉を寄せ集め、苦無で簡易タープを張ると、彼らはその下で止まない雨をしのいだ。
 全員がかなりの体力と練力を消耗しており、装備品にも幾つかの摩耗やガタが見えるが、
 今給黎 伽織(gb5215)と飲兵衛(gb8895)布野 橘(gb8011)らが出来る限りの応急処置を仲間に施し、
 付近の捜索により薬品や食糧を発見する事に成功したので、最悪の事態からのスタートは免れた。
 館山 西土朗(gb8573)も、これから使用する予定のジーザリオを入念にチェックしている。
 片方のショックアブソーバーが減っていたが、伽織と共に整備を終える。
 絶体絶命の状況に落ち込むよりも、彼らは前に進むべく、先を見据えた行動をテキパキと進めていた。

「さっさと冷えたビールが飲みてえぜ」
「LZで柚木さんがお酌をしてくれるらしいですしね」
 西土朗と八九十がにかっと笑いながら作業を進める。
 緊迫した状況下でも、普段通りの振舞いは周りの妙な不安まで取り払ってくれる。

 だが、こちらは意識せずとも普段通り‥なのか、周りの状況など気にしていないのか。
「アクティブ・ガンナーの連中がそれなりにいるな。俺も、さっさと隊のとこへ戻らないと‥‥」
 橘の視線の先では、

「セロリです。発電施設を破壊されて、バグアがすっごい怒ってます」
「ああ、そうだな。」
 芹架・セロリ(ga8801)が、どこか懐かしいフレーズに乗せて呟けば、夜十字・信人(ga8235)が軽く相槌を打つ。

「セロリです。爆破したのは、所属小隊だったとです。罪悪感とか凄いとです」
「ほう、そうなのか。お手柄じゃねえか」
 西土朗が笑ってセロリの背中を叩くが、セロリの顔は浮かばれない。
 
「セロリです。セロリです‥‥。‥‥よっちーにふくちょ、悪いのお前らじゃね?」
「いいことしたのに!?」
 理不尽にげしっと蹴られてしまう飲兵衛。
 何が悪くて何が正義か、戦争という名の元にそれらは有耶無耶にされがちだが、これは恐らくただの八つ当たりに違いない。
 信人に迫った蹴りは、彼が差し出したチョコとレーションによって阻まれた。
 セロリも持っていた飴を配る。お菓子とはいえ侮れず、緊張下での糖分補給は、脳の機転に必要なものだ。

 空は相変わらず曇り、太陽の位置はわからないが、
 代わりに伽織が事切れた傭兵の腕の時計、橘がKVの残骸からデジタル時計を発見した。
 夜明けは、近い。

「一服したい所だが、それで敵に見つかっちゃ笑えねぇな‥我慢するしかねぇか」
 くるくると煙管刀を弄び、煙の代わりに溜息を吐いてから傭兵達の元へと戻る夏彦。

 浴びる事が出来るのは、日の光か、温かいシャワーか、酒か、血の雨か。
 今、傭兵達の脱出劇が始まった。



「サーキットで慣らした腕を見せて‥‥って、オフロードじゃ勝手が違うか」
 悪路をものともしない、スマートなハンドル捌きを見せながら橘が言う。
 それでも、サスペンションなど無いかのように揺れる車体、破裂するように飛び散る泥、
 風と葉を掠めながら、小石のようにぶつかる雨粒の中、傭兵達はジーザリオを走らせていた。

「A班、もう少ししたら崖があるみたいだぜ。沿う様にして進むとしようか」
 西土朗が方位磁石と地図で真理を確認しつつ、無線を入れる。

「ふむ、なら到達したら、警戒がてら交代に入ろう。荷台組は寝ておけ。銃は抱いてな?」
 信人が提案の無線を返した矢先、濃密な木々が開けて、目の前に切り立った崖が立ちはだかった。
「あんま寝心地がいいもんじゃないなぁ」
「贅沢言うもんじゃねえや。横になって目を瞑るだけでもだいぶ違うからな」
 努めて休息していた夏彦が無線に投げかければ、
 苦笑しつつ橘が帽子で顔を隠し、その奥で瞼を閉じる。

「そろそろこちらも交代するか、ロリ」
 アクセルを緩めてセロリへ信人が顔を向ければ、彼女は思いっきり首を横に振ってから、真顔で信人の目を覗き込む。

「冷静に考えてくれ、俺に運転されて安心して眠れるかい?」
「安らかな眠りにつけそうじゃないか」
「隊長、それ意味が違うんじゃ‥‥」
 同小隊同士息の合ったやり取りである。代わりに寝ずに番をするというセロリに困りつつ、
 夏彦が刀剣袋を抱えて後部席から起き上がると、耳に奇妙な音が過ぎる。
 雨音ではない、濡れ滴ろうとも力強く動かされる‥‥これは、羽音。

「気をつけろ!!」
 無線を使わずともB班まで聞こえそうな声で夏彦が叫ぶ。
 袋から夜刀神を出し、飲兵衛が反射的に幌を開ければ、
 飛び込んできたのは、無数にして巨大――人の頭ほどはありそうな――そして色鮮やかな蝶の群れだった。

「逃げるぞ!」
 八九十が車の骨組みを掴んで叫ぶと、伽織が思い切りアクセルを踏み込む。
 追従して、蝶のカーテンを破るように、ぐおんと信人のジーザリオも飛び出してゆく。
 網の様に迫ってくる蝶に、振り向きざま半身を乗り出して伽織が照明銃を撃ち込めば、
 羽を燃やされたり、閃光によって方向を見失った蝶が次々と落ちてゆく。
 切り立った崖を猛スピードで沿うように迂回した頃には、蝶の群れは見えなくなった。

「くそっ‥‥変なもん吸ったみたいだ‥」
 座席に腰を落として、八九十が激しく咳き込む。
 口元には、微かに光る粉の様なものが付いていた。

「こいつは‥蝶の鱗粉か?」
 西土朗が蘇生術で軽く応急処置を施せば、少しだけ顔色が良くなる。
 セロリも吸いこんでいたらしく、車体の揺れが煩わしいが、どうにか飲兵衛が救急セットで治療した。

 疾走を続けていると、突如、ぐいんと車体が宙に浮き、乱暴に地面に着地する。
 丸太か岩でも踏んだかと思い、後ろを見ると、今しがた地面だった場所が盛り上がり、
 周囲に泥を激しく飛び散らす。
 激しい雨水に洗われながら、そこには小さいパピルザク程は有りそうな、
 巨大なサソリが二対、鋏を鳴らして構えていた。

「見つかっちまったんなら仕方ねぇや。さっさと帰ってもらおうぜ」
 今一度、二車両ともアクセルを全開に吹かす。
 大木をなぎ倒しながら猛スピードで迫る蠍を背に、
 橘が帽子を飛ばされないよう押さえながら、ライスナーを撃ち込み牽制する。
 飲兵衛も幌を半分以上外し、シートベルトを掴んで体を固定する。
 息を吐き、レティクルを合わせ、周りの音を遮断する程集中してから―――引き金を引く。
 橘の乱撃を追うように突きこまれた弾丸は、片方の蠍の目を破裂させた。

 有効打を叩きこむや否や、B班の車体の前方がいきなり跳開橋の様に上がる。
 何事かと覗きこめば、大きな熊型キメラが、鼻息を荒くして車一台を持ち上げているのだった。

「化け物や男に追われる趣味は無ぇんだ! 離れやがれ!!」
 八九十が立ちあがり、斜めになったボンネットに飛び乗ると、車体を頭上まで持ち上げようとする熊キメラの眉間に鋭い爪を叩きこむ。
 そしてA班の荷台からセロリが瞬天速で駆け付けると、背中に菫の一閃を刻み込んだ。
 撃ち落とさんとする程に重い雨足にも負けず、軽快に熊の体を蹴りつけて、もう一度瞬天速で舞い戻ってゆく。

 八九十に前方を頼み、運転席の頭部を掴んで照準を固定してから、伽織がペイント弾を後方へと放つ。
 片目を潰されていた蠍の、もう片方の目に2発のペイント弾が着弾すると、真黒い眼球に橙が貼りつき、
 鋏で目をこするようにして、その場で足を止めた。

「ちっ、忙しいねぇ。次から次へと‥!」
 夏彦が綺麗な衛星軌道のように、自身の周りで刀を振り回す。
 彼の周囲には、木の上から落ちてきた藍色の大きな毒蛙や、車のスピードにも着いてきた巨大な蜂の死骸が散乱していた。

「蛙は毒みたいだぜ、気をつけろ!」
 メイスを振り上げて西土朗が言う。
 目の前で破裂しない程度の力で、遠方に、車体の横に、雨の様に落ちてくる蛙を飛ばす。
 一匹の蛙が、鋭く舌を伸ばして西土朗の喉元を狙ったが、間一髪、盾で防ぐと橘が炎剣で刺留めた。

 とっくに限界を振り切ったような音を響かせながら、未だ追いかけてくる蠍と、
 断続的に迫りくる密林のキメラに、傭兵達は消耗を抑えつつ、全力で撤退を続けていく。
 木々の間を駆け抜けながら、ようやく泥臭い密林からの別れを告げる時が来た。



 密林を抜けた先にまず飛び込んだのは、開けた荒野ではなかった。
 壊れた機械類と、動かない人、異形の者。
 その中に混ざるように、3体のゴーレムと、6人程のバグア兵。
 待ち伏せと言うよりは、今しがた駆け付けたという感じであったが、
 疲弊しきった傭兵に、ジーザリオが2台。後ろには、巨大蠍。
 ゴーレムの方もボロボロではあるが‥‥戦力差は、不明だった。


 それでも、諦める訳にはいかない。
 助かるという確信があるかはわからなかった。
 だが、生きて帰れると信じれば、どんな窮地であろうとも、まだ頑張れるのは、事実。

「まだ…こんな場所では死ねない。あの人に、まだ伝えていないことがある。必ず生きて帰る…」
 伽織が奥歯に力を込め、銃を握り、後部座席へ跳躍すると同時に橘が運転席へ滑り込む。
 サーキット仕込みのキックスタートをすると同時に、
 飲兵衛と西土朗、伽織がありったけのペイント弾を撃ち込む。
 ゴーレム二体のメインカメラ付近で炸裂するが、確認する暇すら惜しい。

 黒いバグア兵の一人が、瞬天速のようなスピードで車に飛びかかるが、
「夏彦、少しだけハンドルを頼む」
 信人が後部座席へ飛び出し、バグア兵の迫りくる爪に、斜めにしたクルシフィクスで立ち向かう。
 曇天下に火花が散り、大剣に収まらなかった分を受けてしまうが、なけなしの活性化を使い、フォルトゥナを構える。

「やれ!!」
「ちょいさーっ!」
 火花の後には銃口が爆ぜ、零距離射撃を喰らったバグアに、信人の陰から躍り出たセロリが斬りかかった。
「ゴールが此処まで遠く感じたのは、多分初めてだな‥」
 迫りくるバグア兵にも、飲兵衛の制圧射撃が敵の着地点へ上手く叩きこまれ、確実に足を遅らせられた。

 ゴーレムと蠍が合流し、迫りくる壁の様に追いかけてくる。
 部品が見えたり、煙が出ていたりと所々にガタが伺え、生身の攻撃でもそれなりに手応えがあった。
 橘の急所突きを間接に喰らうと、一体のゴーレムはバランスを崩し転倒した。

 A班の車両に追いついたバグア兵が、運転席に手をかけると、
 夏彦が片手を出して、思い切り刀を振り下ろす。
 夜刀神の黒い刀身が鈍く光り、バグア兵の首と胴体を一刀両断した。

「せめてあと一体‥!」
 八九十が前方を警戒していると、捨て置かれたか、下半身を失った斉天大聖が見える。
 目視するや否や、セロリが瞬天速で飛び出し、祈るような必死な形相で、あちこちいじくり回す。

「何してるんだロリ! 早く乗れ!」
 ジーザリオが彼女の横を過ぎ去ろうとする刹那、
「ちぇすとー!」
 掲げるようにしてから、押したボタン。
 斉天大聖の如意金箍棒システムにより、ナックルコートを施された鉄拳が、サソリの胴体を穿つ。
 頭から尻尾まで串刺しの様に伸びた拳は、戻る事無くそこでとまり、蠍の動きもそこで止まった。
 急ぎ飛び乗ってきたセロリを回収し、スピードを上げ直す。

 機械と命の朽ち置かれた戦場を、躍動感溢れて駆け抜けるジーザリオ。
 そしてそのジーザリオの前方に、未だ微かな点だが、何かしら動く者が確認出来た。



「お願い! 早くっ!!」
 羽織ったODの上着を、荒れる風にはためかせながら、蜜柑が荒野の向こうのジーザリオを真剣に見つめている。
「オペレーター! 下がってください! 危険です!」
「わかってる! けど‥せめて、近くで見守らせて!」
 彼女の横を、ACU迷彩の男達が下りてゆく。
 軍用のカービン銃、分隊支援火器、そして対KV用ランチャーを構えて、傭兵達を支援する構えに入った。

「皆! 聞こえるっ!? この輸送機で回収するから、車ごとこの輸送機に突っ込んできて!」
「無茶言うねぇ‥‥」
 橘が苦笑して、飛びそうになった帽子を押さえる。
 ゴーレムのジャズアレンジのように不規則な弾丸をかわし、応戦しながら、
 段々と展開した支援部隊の陣形が近づいてくる。

「お先に失礼‥!」
 姿勢を低くし、猛スピードという難易度の中、狭い入り口目掛けて夏彦が飛び込む。
 針の穴に糸を通すような技だったが、続けて橘も車で滑り込む事に成功した。

「出して!」
 蜜柑の合図のすぐ後、対KV用ランチャーが発射されると、大きな爆発音がして敵ゴーレムが足を崩す。
 すぐさま全員乗り込み、輸送機が緊急発進しだすと、
 銃を持つ傭兵達も収納されていくスロープから、撃てる限りの銃撃を放つ。

「うわっ!?」
 轟音の後、ゴーレムのバルカンがスロープの一部を貫いてしまい、飲兵衛がバランスを崩す。
 転げ落ち、空に放り出されそうなところを、橘と西土朗が駆け付け、足は宙でぶらつきつつも、どうにか腕をつかむ事が出来た。
 
 恨めしそうに視線で輸送機を追いかけるゴーレムを尻目に、行けるところまで高度を上げる。
 これで、本当にようやく一息だった。

「皆、お帰りっ。本当に‥無事でよかった‥‥」
 へたり、と膝から崩れる蜜柑。涙こそ流さなかったが、極度の緊張から解き放たれた様子だ。
「さてさて‥‥柚木さん、約束、覚えてますよね?」
 座りこんだ蜜柑の肩に手を置き、ぼろぼろの笑顔で覗きこむ八九十。
「覚えてたかー‥‥」
 しょうがない、といった様子で懐からスキットルを取りだす。

「オペレーター!作戦行動中の飲酒は‥」
「寒いんだって。雨に濡れたし、高所だし、体温めるためならいいでしょ?」
 止められそうになるも、こればかりは、譲れないでしょ?と蜜柑が庇う。
 体を温めるという理屈としては変だが、用意してあった冷えたビールに、西土朗も上機嫌となった。

 家に帰るまでが遠足とは、誰が言ったのだろうか。
 戦士が帰るのは、故郷でもあり、戦場でもある。
 つまり、戦士は常に戦争をしているのかもしれない。
 だからこそ、ふっと一息、生きた心地を実感するこの時こそ、大事にしていって欲しいものだ。

 ホラディラダム撤退戦。作戦完了。