タイトル:Hard Leaderマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/08 22:45

●オープニング本文



 某所某日某時刻。
 切り立った崖の上で佇む者が居る。
 ウッドランド迷彩の上下、逞しい袖はロールアップされていて、
 パイプの煙を燻らせながら、頭の赤いベレー帽と共に乾いた風に顔を晒していた。

「・・素晴らしいっ!!」
 迷彩の男が、至ってマジめにそういうと、その後ろの作業着の青年が話を続ける。
「き、恐縮っす・・けど、ほんとにこんなんでいいんすか? 素人が『これなら楽しそうだな』って手を動かした妄想の産物っすよ?」
 彼らの眼下に見えるもの、それは、森と呼べるほどの木々、静けさの染み渡る湖、寂れた工場のような建物、
 まるで世界中の戦場を箱庭に納めたかのようなフィールドが広がっていた。

「ただ陰に隠れるだけではなく、技術が要求されるアンブッシュ、いるか、いないか、戦闘中の読みあう頭脳戦を否応無しに促すトンネル、湖、素早い行動が命のインドア戦・・最高じゃないか!!」
「確かに、こんなにハードだと、お客さん誰も来やしないんすよ。弾だって・・」
 台詞を途中で切り、若い作業着の男はいきなり背中に背負っていたライフルを取り出し、馴れた動作でボルトを引くと、
 位置を見ずにトリガーをとらえ、力を入れる。
 静かな風景に弾ける轟音と、火薬。


 ――――――かと思いきや、音はパン、と軽く、銃口から飛び出したのは、直径3mmあるかないかという、白いBB弾だった。

「ほら、風の影響でぐいんと曲がるし、第一、一番近い接敵予想地点まですら、50m以上あるんですよ‥」
 サバイバルゲーム、と言うものをご存知だろうか。
 各国の軍服や装備を着こなし、本格的な作りのエアーガンを抱えて、撃ちあういわゆる『戦争ごっこ』――大人の趣味である。

「じゃあ、どうする。戻すか。それともやすやすとバグアの手に渡らせるか。この有志で頂いた土地を」
 軍服の男が威圧的な厳つい顔つきで、若者へ振り返る。
 そう、この土地は、青年がささやかな趣味の延長として、開拓、運営を試みた『遊び場』なのである。

「元々、日の目を浴びる事が難しい趣味でした。こんなご時世ですと、やれ不謹慎だとか、暴力的だとか、酷い時には人格すら否定される事もありました。」
 後頭部を掻きながら、辛かった境遇も感じさせぬよう、へらっと青年が語る。

「けど、俺達は、たまの休日に、決められたレギュレーションの下、安全を守って、仲間内でも思いやり、誰に迷惑かけるでもなく、紳士に趣味を全うした。そんな多からずな同士達に、最高の舞台を提供するという形で、人肌脱いでやりたいという気持ちを、全てここにぶつけました」
 拳を握り、目に力を込め、口角泡を飛ばす勢いで、熱く滾る思いを訴えかける。

「あ・・すみません・・つい・・」
「いや、気にするな」
 ぽむ、と軍服の男が青年の肩に手を置き、中々に柔らかい笑顔を見せる。
「多少、意図を超えることにはなるが・・君の熱意は、しかと受け取った。必ず、これは役に立つ。私に・・任せてくれんかね?」
 威風に、階級に、権力に流されるでもなく、青年は、自分を理解してくれた男に、心から精一杯の感謝と、承諾を送った。



 UPCのブリーフィングルーム。
 オペレーターの柚木 蜜柑が情報端末の画面を切り替え、傭兵達に向き直る。
「このアプリは便利ね・・じゃなくてっ。ぁ、今日はそれなりに楽にしていいわよっ? 見てきてくれた通り、今回皆にやってもらうのは、シミュレーターでの模擬戦闘だから」
 インサートカップのコーヒーをすすり、蜜柑はプロジェクターにとある野外の風景を映す。

「今回はね、わざわざフィールド情報をリアルから採取してきて、傭兵の皆に、あらゆる状況、場所での指揮能力を養う為の訓練をしてもらうんだって。ほら、大抵の人は、大規模作戦の時とか、小隊を組んだり、どこかに入ったりしてるんじゃない?」
 プロジェクターのウィンドウは、次々とウィンドウを重ね、情報を増やしていく。

「確かに、備わってたのか培ったのか、指揮能力やカリスマがある人が小隊長を務めてたりするわよね。でも、代表じゃないから、トップの能力は要らないかって言われたら、そうじゃないの。指示を出す側の考えを読み取れる、理解出来るからこそ、メンバーとして自発的に、もしくはスムーズに動くことが出来る場面ってのが、多々あるわけなのよ」
 ノッてきたのか、ボールペンをびっ、と傭兵達に向けて、彼女は話を進める。

「そこでっ! 今回、皆は否応無しに小隊長になってもらうわ。 歩兵の小隊ってホントはもっと大勢率いるんだけど、ま、そこはご愛嬌ってトコね」
 プロジェクターには、最初のフィールド画面がまた最前面に出てくる。

「場所も、本当の戦場さながらで作った場所らしくて、広いしシチュエーション豊富だしで、一筋縄ではいかないわよ? 油断したら怪我だってするんだから」
 様々な人物のステータスが羅列されるのを背に、蜜柑が続ける。

「貴方達には、好きなクラスの傭兵を3人連れてもらうわ。それで、フィールドのどこかからスタート。上手く協力して、フィールドの中央にあるフラッグをいち早くゲットしたチームの勝ちよっ」 
 ちょっと楽しそうだな・・とぽしょりとぼやいて、蜜柑が言葉を紡ぐ

「敗北条件は、小隊員『全員』の全滅よ。貴方だけが生き残っても、戦闘は続くし、逆に貴方だけ倒れても、指示さえ残してあればその通りに仲間が動くわ」
 それなりに、不利にはなるでしょうけどね‥と、シミュレーターの説明書を配りながら言う。

「ぁ、もちろん、小隊に入ってる入ってない、は関係ないんだからっ。でも、学んでおいて決して無駄でないスキルだからねっ?」
 端末から傭兵達へ視線を向けて、蜜柑が話を続ける。

「今回見るのは、自身の戦闘力よりも、仲間とのチームワークや指揮能力よ。遠慮しないで、どんどん出せる指示は出して、上手く勝利という旗を掴み取るのよっ」

 尻に敷くのも、ありかもね? と冗談めいて笑うと、蜜柑は端末を抱えて部屋を後にしたのだった。 

●参加者一覧

セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
劉斗・ウィンチェスター(gb2556
18歳・♂・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
牧島 徹(gc0872
17歳・♂・HG
和泉 澪(gc2284
17歳・♀・PN

●リプレイ本文


 精密機械独特の香りに、静謐な駆動を続けるモーター音。
 温度、湿度、徹底した環境を整えた、人口の光溢れる広い部屋に、
 傭兵達は横たわっていた‥‥


「‥‥最近は色々と凄いんだなぁ、技術の進歩って奴か?」
 晴れ空の下、飲兵衛(gb8895)が辺りを見渡して言う。
 触れば折れる枝、頬で感じる風、すべてがまるで本物な、シミュレーターの技術力を目の当たりにして思わず感心していたところだ。

「ま、それはさておき‥張り切っていきますか」
 周りを見渡せば、今回の仲間、パイドロスに跨るDG二人と、FCの男がこくりと頷く。
 見知らぬ顔に信頼を寄せる、というのも不思議な心地だが、悪い気はしない。
 飲兵衛とFCの男がバイク後部に乗ると、
 タイヤが砂利を飛ばしてフレームに弾かせながら、飲兵衛小隊はフラッグへ向けて一直線に走り出した。


「目標はエリア中央、各員全周警戒を密にして下さい」
 マップの左中央部、丘陵の坂をセレスタ・レネンティア(gb1731)は隊員と共に慎重に下っていた。
 帽子を吹き飛ばしそうな風を受けながら、
 そびえ立つやぐらや、腰を据えたトーチカ、戦場のほとんどを視界に収める事が出来る。
 重傷を負っていた彼女だが、シミュレーター補正により、行動力だけは通常通り反映し、
 どうにか仲間と足並みを揃えて行軍することが出来た。
 隊員と共に、Y字陣形の中央でアサルトライフルを構え、少しずつ、固い地面を踏みしめてゆく。
 
 と、坂も終わり、マップ左上に踏み入ったところで、Y字前方のEPが、慌てて拳を握って後方へ見せる。
『止まれ』という意味のハンドシグナル。新人レベルのEPは、少し、気付くのが遅かったようだった。

「作戦――使えるものは何でも使え、だよっ」
 岩場の陰から、派手なエンジン音と共に、蒼河 拓人(gb2873)が飛び出して来た。
 荒れた岩塊も物ともせず、ジーザリオの車輪が力強く乗り越えてセレスタ小隊へ向かうと、
 運転席のおじさんが、にかっと笑みを浮かべて、ハンドルを切る。
 向き直った後部座席には、二門の、ガトリング。構えるは、10歳の少年と、妙齢のお姉さん。

「――ッ、コンタクト! 指揮官を優先的に狙います!」
 銃撃の嵐を散開して、どうにか避けたセレスタが叫ぶ。
 道端の岩に隠れ、隊員が各々のフォローになるよう、ガトリングが逆サイドにエイムする度に牽制して、安定した射撃を阻害する。
 特にSNが、鉛弾の喧騒に紛れ、鋭角狙撃で的確にジーザリオのタイヤを狙い、撃ちだした。

「そこだね‥っ?」
 と、拓人が前に立ち、スブロフ製火炎瓶を、あらん限りセレスタ隊へ投げつけた。
 各自、素手で瓶を払えば、高くは上がらないものの、辺りに絨毯のように炎が敷かれる。
 だが、スコープを覗いていたSNは反応に遅れ、一枚の衣のような火炎を被ってしまった。

「カバー! やらせてばかりでは済ませません‥!」
 EPが、地面に転がり炎をもみ消すSNに近寄り、消火を手伝いに入れば、
 HGが何矢報いるかわからない程の弾数で制圧射撃を浴びせる。
 車の機動を絞り、運転と、ガトリングの為に車上にいた3人も必然的に回避の反応が遅れ、
 そこへセレスタが鋭い銃撃を何発も叩きこめば、拓人隊へ見過ごせない被害が出てしまった。
 拓人も思わず、頬を掠めた弾の熱に奥歯を噛みしめる。

 開始早々、文字通りの熱い戦いが、乾いた大地で繰り広げられた。



「何時、モ、人、ノ、指示、ニ、従っテ、マス、ガ‥。‥イカニ、楽、ダッタカ‥」
 こちらはマップ上部中央、ゆらゆらとたたずむのは、大木でも蜃気楼でもなく、ムーグ・リード(gc0402)だ。
 彼の隣、いや、ほぼ足元では、ファイアーパターンを描いたミカエルを装備したDGと、
 バハムートを着込んだDGの陰に隠れるSTがいた。

「ヤグラ、デス、カ‥」
 地上2m。
 彼にかかれば、そのまま顎を乗せられる程の高さなのだが、
 高いところが好きなようだ。のそのそと登って周囲を見れば、
 ムーグ小隊へ、東から牧島 徹(gc0872)の隊が近づいて来るのが見えた。
 どうするか、と目で訴える仲間に、ムーグが声をかける。
「‥敢えテ、先行、サセ、テ、スキ、ヲ、見て、接近、シマショウ‥ナルベク、消耗、ハ、抑えル、ガ、吉、デス‥」
 了解、と頷く3人。ムーグも中々に慎重派のようだ。鳶色の目を鷹のようにして、周囲を警戒する。

 ――俺以外、仲間が全員女の子って考えるとわくわくするよな。
 と、開始前にほぼ本音の軽口を叩いていた徹だが、探査の眼でなくとも見つかるムーグの影を捉えると、
 隊に、体に、構えるライフルに、緊張が走った。
 ムーグ隊は、やはり様子見、徹隊も、一人として被害者を出さずにフラッグを奪取したかった。
 お互い、じりじりとした焦慮が、永遠にも思える、時間を作る。

「‥いくぞ。俺たちの連携が一番だってことを見せつけてやるんだ」
 徹が口角を上げると、EPが前に飛び出す。
 刀を抜いて接敵する彼女の後方から、的確な弾幕が張られる。

「任せろよ。これでも仕事は真面目にやるタイプだ」
 接近戦での攻撃を逸らす為に考えた手法、
 だが、ムーグが指揮するように手を下ろすと、前進するEPへ、ミカエルが槍を構えて突進し、
 続けて銃撃と電磁波が集中して襲い掛かる。
 前衛にして回復役のEPは、即座に潰すべき目標と認識されたようだ。
 歴戦レベルのEPも捌ききれず、徹と、並んで接近したCAも、ミカエルの忍ばせた銃に意表を突かれてしまう。

「これでいい‥ナイスだ」
 徹の視線の先――バハムートの影に隠れたSTへ、BMが飛びかかった。
 この奇襲の為に、派手に立ち回ったのだ。土の上で取っ組みあった後、BMが新人STの喉を一閃する。
 各個撃破で、目の前の目標に集中していたムーグ隊、不意打ちに備えるには、少し分が悪いスタンスだった。
 全員が全員の顔をハッキリ確認できる程の距離で入り乱れた乱戦、消耗はかなりのものとなっていった。
 
 と、不意にマップ西の方から派手なエンジン音が飛び込んでくる。
 目を向ければ、拓人隊の姿が視界の端に入った。
 車の運転席の男は、忙しなくハンドルとシフトを操作し、マップ中央へと進路を変える。
 その後ろからは、態勢を立て直したか、綺麗なY字陣形を保持してセレスタ隊が、ゆっくりと確実に近づいてくる。

「不利だな。いったん下がるぞ」
 漁夫の利を得られては敵わない。
 徹隊はCAを殿に置き、撤退――とはいえ、ムーグから離れたMAP中央フラッグ方面へと、撤収していった。
 ムーグ隊も、慌てず状況確認を済ませてから、セレスタ隊をやり過ごす形で、持ちなおすよう動き出した。


「更地を突っ切れば障害はないけど敵から丸見えになるな‥ここは多少遠周りでも森側を北上して迂回しよう」
 マップ右中央、ほとんど障害物の無い更地の上で、劉斗・ウィンチェスター(gb2556)が仲間へ促す。
 普段からSteelyWindの小隊長を務めている彼は、 実践に即した動きをしたいらしく、
 入力した仲間情報も、知り合いに似せたものだった。
 流石というべきか、劉斗の判断は正しかった。
 身を隠すものがほとんどない、トーチカの射手にとってはクレー射撃をするようなものだ。
 敢えてマップ上の森へ入り、そのまま時計まわりに行軍する。今のところ、怪しい様子は見えない。
 小柄なFTの少女を前に、ECのおっとり少女と自分で翼状に展開し、後からはスナイパーがついていく。
 
 マップ右下に差しかかった頃、その布陣の行軍を、和泉 澪(gc2284)の小隊が、草むらや木の陰に隠れて偵察していた。
「私達はのんびり行って、敵同士が倒しあった所で私達が参戦して行こうか♪」
 彼女曰く、チームじゃぱんがーるずの面々に、そう伝える。
 全員が日本人女性、装備も弓や小太刀、槍など和の様相が伺える。
 幸い、劉斗の進行は自分達の予定とほぼ同じのようだった。劉斗隊が誰かと接敵するまで、静かに、後を付けていくことにする。
 依然、劉斗隊以外に敵の気配はなかった。変化しない戦況に安堵しつつも、いつ気付かれるともわからない切迫感に、
 つい、愛刀『隼煌沁紅』を握る手にも汗が浮かぶ。
 ようやく、劉斗達が森を抜け、澪達もその切れ目に差しかかる。

 と、突然劉斗達が振りかえり、小柄なSNが矢を放つ。
 新人GPとの間に入り込み、澪が隼煌沁紅を抜いて斬り払う。
「残念、うちの優秀な黒猫が、途中で気づいていたもので」
 劉斗達は、追跡する澪隊を認知した上で、逆に策を返していたのだった。
「そんなぁ〜‥卑怯ですよ!」
「‥‥こそこそ寝首を掻こうとしてた奴に、言われたくはない」
「でも、正面衝突でも、負けませんからね‥!」
 お返しに、と澪隊の和な姫風のSNが、先手必勝で弓を射れば、劉斗隊FTの足に突き刺さる。

「時間はかけない。終わらせるぞッ!」
 SNが澪隊の足を止めるよう射撃しつつ、散開の指揮が下る。
 FTとECが前に出れば、
 澪とFTが前に立つ。
 澪が敵FTの横薙ぎの剣を跳躍し、90度体を捻り、回転して遠心力で刹那を叩きこむ。
 劉斗のECも、澪のFTの槍を盾で受け止め、そのまま柄を滑るように軌道を逸らし、
 知覚に変化させた刃を懐へ浴びせる。
 と、そこへ澪隊のGPが後方から瞬天で駆けてくる。それを合図に、澪とFTも一気に戦線を押し上げる。
 二刀小太刀が劉斗に胴へ飛び込み、鋏の支点を抜いたように左右へ開かれる。
 翼を開いたような腕の形ですり抜け、すぐさま澪隊の後ろへ戻る。
 澪とFTもありったけのダメージスキルを一斉に叩きこむ。
 万能に対応できるようしていた劉斗隊は、決定打で撃ち負けてしまったのだ。
 FTが戦闘不能。立て直すには相当の時間がかかりそうだと見込むと、

「よしっ、ちょっと遅れちゃった分、急いで取り戻すよ!」
 フラッグ重視の澪は、隊員を纏め、 フラッグ方向へと一目散に駆けだした。


 澪の行動の所以には、一直線に大地を駆け抜ける飲兵衛達のバイクが見えたせいもあるだろう。
 トーチカには警戒していたが、こう、エリア4隅に置かれては、警戒も何もあったものではない。

「やるしかない、か‥」
 もう既に、幾つもの弾が足元の地面へめりこんでいる。
 一気に駆け抜けようにも、際どいラインだったのだ。
 シエルクラインを、ガシャリと構え、トーチカへ狙いを定める。――せめて、片方崩せば。
 予定と少し変わるが、仲間3人が弾幕を張るうちに、落ち着いて、正確に敵をエイムする。
 牽制目的の弾の嵐から、一つ、20発のラインが、トーチカ物見台の敵の頭を貫いた。

「あ‥?!」
 と、飲兵衛達は肝を冷やしつつも、トンネル入り口まで到達したが、
 やや後方で運転していた新人DGが、トーチカの射撃を受けて転倒してしまった。
 放りだされそうになったFCは、なんとか迅雷で駆け抜け、飲兵衛の援護を受けながら穴へと飛び込む。
 駆け付けたいところだが、助けに行ったところを狙われるというのは、狙撃の常套手段だ。
 シミュレートでよかったと、この経験を糧に、歯がゆい思いでトンネルを潜るしか、彼には出来なかった。
 
 と、飲兵衛の頭に、数秒、場違いな音、いや、音楽が響いたような気がした。
 
 実際、本当に音楽は鳴り響いていた。
 拓人はあの後、トーチカを一つ占拠し、籠城していた。
 その際、無線を味方STネイに調べてもらい、敵の無線波を奪う事には成功した。
 そして、ジーザリオから大音量で『ALP出陣行進曲』を流し、敵の無線から流して位置を把握しようという寸法のようだった。
 が、敵はヘッドセットを使っていたため、動く鳴子代わりにはならなかったが、
 代わりに、やかましくて無線を切ってしまった為、横の連絡が取れない敵はトンネル内でかなり偏った布陣になっていた。

「作戦目標を間違えるな――これはこれで、ありかもねっ?」
 目標はすぐそこだ。CAラウル、STネイ、そして拓人と和真で進行する。
 粗末な明りを頼りに、焦らず、ただし誰よりも早くというジレンマを抑えながら、慎重に進んでいった。



 トンネルの中は、セレスタ隊が四人で背中合わせになり、
 前後警戒しながら前進する。
 隊長の背中は、まるで最後こそ弛むべきではないとでも語りそうな背中で、隊員を先導していった。

「どれから対処すればいいんだか‥!」
 通路を横切ろうとした急ぎ足の飲兵衛が、セレスタと、もう一つの敵影を見て言う。

「‥制圧、殲滅、ガ、私、ノ、道、DEATH‥」
 大きな体でムーグが阻み、セレスタ、飲兵衛、眼中の敵へ容赦なく制圧射撃の嵐をゼロ距離で浴びせる。
 更に後ろから、DGが竜の咆哮を使えば、狭いトンネル内、弾を喰らった上、壁に撃ちつけられてしまう。
 這ってでも進もうとすれば、激痛が、それを許してはくれない。
 竜の翼で先を急がせ、ムーグもゆっくりと後退していった。

 別所の徹も、ほぼ万全な隊の状況だったが、敵に阻まれ、思うように旗へ行けなかった。
「一人ぐらいくれよぉぉぉ!」
 敵だろうか。コックコートの男が、殺意剥き出しで包丁を振り回す。
「ふっ、残念だったな‥これは皆、男の娘さ!」
 徹がつい、ふとした余裕で言えば、
 徹隊の面子もこくりと頷いt‥
「‥ぇ、あれ、冗談だったのに、嘘、ホントに‥‥?」
 

 拓人は遂に前方50先に旗を視認した。
 が、そこでムーグのDGが横道から拓人達の前に出る。
 竜の翼で旗へ近づこうとした所へ、拓人が回り込みペイント弾を放つ。
 視界不良で壁に激突してしまったDGの横から、ムーグが顔を出し、拓人へ銃撃を放てば、
 拓人も制圧射撃を旗周辺に撃ちこみ、ムーグの隊員、及び追いついた徹達の動きを阻害する。
 その隙に、拓人のDF和真が、傷つきながらも活性化で誤魔化し、確実に旗へと歩みを進める。

「そのフラッグ‥‥もらった!」
 事態の窮地を察した徹が、BMに獣突を促し、何と自身を思い切り吹き飛ばさせる。

「あぁ‥決まったな」
 遅れてどうにか駆け付けた劉斗が、激動のフラッグアタックを見て、そう呟く。
 徹もにやりと笑みを浮かべて勝利を確信した‥‥その時。
 彼よりも早く、死角の横道から、迅雷で駆け抜けるのは――澪。
 劉斗の視線の先で、勢い余って地面に転がる、満面の笑みを浮かべている彼女の手のうちに、勝利が掴み取られた。



 UPC本部奥同日の夕暮れ。
 シミュレーターから帰還した傭兵達が、仰々しい機械を外して、ふっと息を吐く。
 まるで本物の体験に、達成出来た事を終えて満足だったり、逆に、実戦だったら‥と背筋が凍るような事もあったかもしれない。
 忘れないで欲しい。君達は、いつでも非現実をアドバンテージとして利用することが出来る。
 しかし、真には、容赦無き現実に、生を受けているのだと言う事を。