●リプレイ本文
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中国某省某時刻。
件の神を模したキメラ、その最終目撃地点は、激しい濁流を挟んで、見上げれば首が痛くなる程の崖と、生い茂る森。
その周辺を分担し、傭兵達が班毎に捜索の網を広げていた。
「こちらA班。東に200m地点ですが、異常は見当たりません」
地図を広げながら、鳴神 伊織(
ga0421)が無線を飛ばす。
さすが競合化と言うべきか、
乱れる無線、割り込む雑音。
『了解』の代わりに、ノイズが返ってくる事も度々だった。
「神様のキメラねぇ‥作った奴は悪趣味だな、きっと‥どう思う?」
捜索中、C班の飲兵衛(
gb8895)が無線にぼやく。
重い装備を背負い、気を張っての行軍。流石の能力者も、軽口無しではくたびれるのかも知れない。
「神か。ふふっ、さぁ、この雪女が退治してやるかの‥なんて」
覚醒の効果で雪女を演出して、エイミ・シーン(
gb9420)が同班の飲兵衛の腹をふにっ、とつつく。
緊張が続く中、いつも通りな彼女のノリは、どこか頼もしくも思える。
「みぃやん、今の、もう一回頼んでいーか‥」
再度氷結したエイミの頬に、ウェイケル・クスペリア(
gb9006)――ウェルが、ぴとっ、と浴衣の袖から伸ばした手を添える。
流麗且つたおやかな『桜舞』は、軍服や野戦服より幾らか涼しいものの、じめついた気候に風通しの悪い森。
多少、気が萎えるのも無理はない。
「キメラは自然のものではなく、何らかの意思を持って作りだされた存在なら‥作り手の人物像も読めなくはない、ですか」
先ほどの飲兵衛に、自分なりの解析で返すのは抹竹(
gb1405)。
「そうだとすれば‥神話をなぞって、洒落たつもりか、くだらん。実に‥‥忌々しい」
同じくA班に所属した、井上 雅。ここに来るまで、至って冷静に振舞っていたが、
視線は、警戒すべき方向よりもやや伏せっているようにも見えた。
「井上さん、何か抱えているみたいですね‥」
雑音に混じった雅の言葉に、セレスタ・レネンティア(
gb1731)がぽそ、と呟く。
「ん? あぁ‥すまない。仕事はこなす、安心してくれ」
マイクは、彼女の声を拾ったようだ。それは、そうなのですが‥と、抱えている内へ入ろうとすれば、
それ以上は、スピーカー越しの雅の空気が、会話を拒んだようだった。
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エイミの調べた情報によると、キメラは余程で無い限り、
知能を要する武力手段‥具体的には、
今回の場合『弓を引く』という行為が出来ないらしかった。
「これがわかっただけでも、かなりの情報ですね!」
「その代わり、第三の目は世界を焼き尽くす光線を出す、などと言われています。油断はしないでくださいね」
伊織が注意を促せば、無線越しに、エイミがうな垂れる様子が想像出来る。いや、実際していた。
「これ以上被害を出さない為にも早く倒さなくては‥」
隙を作ってはいけない。緑(
gc0562)が、落ち着きなおすように首を振り、愛用の銃剣―フォレストを再び構える。
「狼煙が使えればよかったのかも知れませんが‥また、笛を吹きますね」
彼の横で如月 葵(
gc3745)が、問えば、同班のセレスタが首肯する。
狼煙を上げる手筈だったが、班員は何の発煙、着火器具を持っていなかった。
辛くも集めた杉の葉と、雅からライターと煙草を借りたが、やはり、効果は薄いようだった。
「覚悟はいいですか? では、吹き‥‥あれ?」
ふと、口元へ笛を運んだ手が止まる。
彼女の視線の先、木々の僅かな間、自然の色とは明らかに不自然な、蒼い影が走る
体躯に似合わず素早い動きが、幾多の『異形』を相手取った彼らに、ある確信を持たせた。
「3メートルの人型‥キメラを発見しました!」
セレスタの連絡に、無線がざわつく。
情報より太い蛇を巻いたそれは、木々を縫うように素早く彼らから離れていく。
「予定通り誘導します‥ですが、広い場所へ出てくれそうなので、追跡します」
翠の銃剣を構え、緑がキメラを追跡しだした。
森を抜け、開けた場所へ出たと思うと、それは最終目撃地点だった。
まるで行水するかのように悠々と河へ侵入すると、蒼い体は一つの洞穴へと侵入していった。
A、B班が合流し、キメラの大きさギリギリの穴へ忍びこむ。
壁に響く、粘り気のある、鈍い水音の様なものを聞きながら、
穴の奥に進むと――そこに、シヴァは居た。
蛇が吐き出しているのは、丸飲みされ、胃液にまみれた人間。
その上で、さもそれが自然、もしくは使命であるかのように、『踊る』神。
容赦なく、微笑みにも見える顔で、伝承の悪魔を踏みつぶすかのように、圧倒的脅威で、人を――舞台にしていた。
至って冷静に受け止める者、惨劇のあまり目を逸らす者、傭兵達の反応は各々違ったが、
雅の反応は『普段と』明らかに違った。
「これが‥‥これが、お前らのする事なのか‥‥!」
感情が剥き出しになるが、どうにか必死に声を絞り、掠れた怒号を吐く雅。
「気持ちはお察しします‥‥が、今は、どうか堪えてください」
伊織が危機を察し、ホルスターへ伸びた雅の手を掴む。
どうにか落ち着きを取り繕うと、、
気味の悪さに口元を押さえた葵へ、閃光手榴弾の投擲を促す。
25秒後、全員が洞穴の外へ待機を終えると、漏れる閃光が、神へ喧嘩を売ったと告げた。
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「よお‥カミサマもどき」
穴から顔を出したシヴァへ、抹竹が牽制目的で撃ちこみ、
C班の合流まで上手く距離と時間を稼ぐ。
「あの動きは‥、次、蛇が来ます!」
怯んだシヴァの代わりに構えた蛇へ、
葵がS−01を撃つが、丸太のような逞しい体が、緑へ、体のバネで飛びかかる。
「何‥っ!?」
エイムが、間に合わない。刀身で飛来する蛇へと切りかかるが、めり込む銃剣の刃など気にも留めず、そのまま腕、首、動体へと体を這わせ、締めあげる。
「まずい、危険だ‥!」
雅が急ぎ脱出を試みる力へ近づき出した。
緑も動けないが、蛇も動けない。
骨や肉のきしむ嫌な音を聞きながら、強弾撃で確実に頭を穿つ。
零距離で喰らった蛇がシヴァの方へと吹き飛ぶと、
緑は酷く咳き込みつつ、銃剣を支えに立ち上がろうとした。
恐らく体の中へのダメージが酷い事になっているだろう。
「遅れました‥!」
シヴァとは反対の茂みから、飲兵衛とウェル、エイミが武器を構えて飛び出す。
唯一の回復役のエイミが、被害状況をみるや否や、拡張治療の行動へ移り、ウェルが緑の代わりに伊織と並ぶ。
まるで見知らぬ演武を見ているかの様な、読み難い体の動きに、避けるも防ぐも容易ではなかった。
三叉の槍を横に薙いだ瞬間、抹竹が剣で受け止めるものの、勢いで態勢を崩してしまう。
だが好機、空いた小手に伊織が飛び込み鬼蛍で斬り込む。
名刀と紅蓮の斬撃の組み合わせには、シヴァも喉を唸らせ顔をしかめるが、槍を手放しはしなかった。
刹那、体重を込めた肘鉄を伊織の脳天へ振り下ろす。
「く‥っ」
辛くも反応し、敵の足の間を滑り込むように抜ける。
前が空いた直後、すぐ様第3の目を開く。視線の先は、エイミ。
「あんたの相手はこっちだぜ!?」
ウェルが気付くと、低姿勢で刈るように紫苑を振り、そのまま、膝のバランスを奪うように柄を引く。
斬撃と共にシヴァは体制を崩し、禍々しい光線は標的を思い切りずらして空へと放たれた。
飲兵衛も、離れた木や岩陰から蛇、シヴァ、迫っては撃ち、引いては狙い、確実に他の味方への気を逸らす援護に徹した。
おかげでエイミの治療は発動し、緑がどうにか動けるようになる。彼が合流しようと見た先は、
彼の代わりに崩れた前線を担った一人、セレスタの背。
「腕が4本の相手とナイフ格闘は、初めてですが‥!」
槍がウェルや伊織を狙う隙に、空いてる手、足、シヴァの末端から攻めていく。
迫りくる拳をナイフの鎬で軸から逸らし、さらにもう片方の手のナイフで抑え、最初に使った手を素早く戻して刺突する。
するとシヴァも、セレスタのグリップの下へ手を滑らせ、手首を絡ませると、柄頭を思い切り突き、握っていたククリナイフを飛ばしてしまう。
「何故‥キメラがこんな技術を‥!」
偶然か、インプット済みなのか、気にする余裕も無いが、こちらもナイフのプロ。落ちるククリを宙で捉え、
飛びかかり、リバースグリップでシヴァの鎖骨へ思い切り振りおろす。
ほとばしる血は、人間のそれよりも重く、黒く、まるで酷い膿が吹き出ているかのようにも見えた。
確かな手ごたえを感じたセレスタへ、シヴァが振り向き、目が合った―――3つめの、目と。
一瞬にして焦りを覚え、伊織、ウェル、抹竹が三方向からが斬りかかる‥‥‥
が、セレスタの顔面に、超至近距離で、闇色の閃光が撃ち抜かれてしまった。
「危険だ‥! 引かせろ!!
糸が切れたように後ろへ倒れるセレスタを見て、雅が前衛へ駆けだすと、飲兵衛が進路上の蛇を相手取り、
エイミも浪漫の鉄拳――ロケットパンチを槍へと放ち、雅へ突かれた軌道を逸らす。
「私が穴を埋めます‥!」
セレスタが居た位置へ、葵が走り込むと、緑が気付き銃剣を構える。
右足に撃ちこまれた銃弾にシヴァが気を取られれば、その隙に接敵した葵が驟雨を左膝裏へ斬り込む。
足を狙ってバランスを崩す、という作戦を周知していた。やはり膝の裏はどうしても防ぎにくい場所、それなりの有効打を与えたようだ。
が、3メートルの敵に接敵すると、どうにも頭上に注意が行きづらくなる。前衛に迫るのは、派手に振りかぶった、槍。
「危ねぇ、伏せろ!」
槍の薙がれる軌道へ、ウェルが紫苑の刃を割り込ませる。奥歯を噛み締め力を込めれば、途中で止まったものの、
緑と葵は槍の柄に巻き込まれ、シヴァの怪力で吹き飛んでしまった。
力と経験があと一歩及ばなかった葵、蛇のダメージを多少残していた緑は、不安定な姿勢で地を跳ね、転がる。
懸命に起き上がろうとするも、まともに息も出来ない打ち身に、二人は悶え、動けなかった。
「援護しようにも‥‥!」
飲兵衛がシヴァの牽制をしようとするも、厄介なのは蛇だ。
物陰に隠れても的確に居場所を把握し、毒を噴射したり、飛びかかったり、
前衛で立ち回る3人に気を使い、落ち着いてエイムするには思いのほか邪魔な存在だった。
鎌首を持ち上げ、弾の切れた飲兵衛の前で、思わず身が竦む程に、大きく口が開かれる。
が、数拍後、その口に拳が収まる。
今まさに吹き出んとした毒霧に、エイミが浪漫の鉄拳で蓋をしたのだ。
うろたえる蛇の隙を逃さず、拳が離れた瞬間、飲兵衛が口へ鋭い一撃を放つと、
毒の牙と共に貫通弾が脳髄を浚っていった。
前衛も練力や体力の意味で、かなりの消耗戦となっていた。
が、伊織がシヴァの足にスノードロップの弾を散らすと、遂に シヴァが初めて膝を付いた。
すかさず抹竹が踏み込み、ここぞと温存していた流し切りと両断剣で、セレスタの残した傷と同じ部分へ、ルシファーを振りおろし、肩ごと腕を一本切り落とした。
そこへウェルが、わき腹へ刺突を浴びせて後へ抜ける。
すると、何とシヴァが驚くべき軟体で腰と首を後ろへ曲げ、顔ごとウェルの背中へ視線を向けた。
「ウェルちゃの背中は‥狙わせない!!」
文字通りの意味だけではない。戦地に立つ親友との、信頼に、傷をつけられたくはなかった。
窮地の友を救うべく、あらん限りの影の弾を、晒された腹部へ撃ちこみ意識を向けようとする。
結果、ウェルは闇の波動を免れた――が、海老反りのバネで首が起き上がり、牽制したエイミへ、禍々しい閃光が直撃してしまった。
「みぃやん‥?!」
吹き飛ぶエイミを見て、刹那、シヴァに向きなおったウェルの目が据わる。
陽の構え――刀身を地に滑らせるような脇構えでウェルがシヴァへと迫り、すれ違いざまに鎌を首へあてがうと、疾走の勢いで思い切り引いた。
延髄へ喰い込む夜闇の如き刃が、シヴァへ苦悶の呻きをあげさせる。
そのまま首を薙ごうと力を込めれば、急所によるダメージもあってか、体が屈み、シヴァの行動が鈍る。3本の手も、伊織と抹竹、雅を相手取って手いっぱいだった。
ふと気付けば、前線は先ほど槍で弾かれた緑と葵の位置まで動いていた。
傍らで倒れたままの緑が、どうにか気力を振り絞り、豪力発現。
立木で銃床を支え、身動きの取れない獲物を、死に物狂いで捕らえる。
逆サイドでは、気を取り戻したセレスタが、体力の限界で震える体、荒い呼吸、すべてを最後の力で抑え込み、ホルスターからP−38を抜く。
「この弾丸なら‥決めます」
「エメラルド‥‥ブラスト!!」
サイトを覗かなくても、あたる確信のある距離だった。対の貫通弾はクロスファイアでシヴァの脳天へ抉り込む。
「弱い人に冷たい神様なんて、大っ嫌いです。‥‥だから、死んでください!」
ふらふらと、ボロボロの剣を杖にやっと起き上がる葵。
スキルを使う練力も残ってはいなかったが、最後の一太刀を信じ、血が滲み、骨の軋んだ首へ驟雨を振りおろす。
張りつめていた糸に刃を立てたように、ぷつん、と二つに分かれ、
神は、その首と体を、地に堕とした。
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傭兵達は、スキルや持ちこんだ救急キットで、それぞれ仲間の傷を治療しあっていた。
「もっと強く‥俺がもっと強くなればそれだけ傷つく人を減らすことが出来る‥」
緑がフォレストの銃身を撫で、そこに映えた自身の傷だらけの顔を見て‥強く、心にそう誓う。
「‥こんな時に限って、煙草忘れちまうなんてな」
「すまん、俺も切らしてる。代わりにこれでも吸ってくれ」
飲兵衛だけでなく、雅は消費した者へ貫通弾を手渡した。
「せめてもの――いや、すまん、なんでもない」
振り払うかのように首を動かし、雅が口をつぐんだ。
ふと、シヴァの元で座り込み、じーっと見つめるエイミが目に留まる。
「‥みぃやん。何してんだ?」
「あ、うん。神様の肉って‥食べれるのかなー? って」
「‥は?」
「美味しくなさそうだけど‥」
「‥あたしのあの一瞬の焦りと憂いを返してくれ‥‥」
やれやれ、とやはりどこか相変わらずな親友に、一安心するウェルだった。
ちなみに、神喰いは雅に思い切り止められた。
「これで私も、神殺しという消せない罪を背負うのですか‥」
「神殺し‥か、まあ‥相手は紛い物ですけど」
葵と伊織が、肉塊と化した神を見つめ、口にする。
「傍若無人を尽くす神を殺して、罪を背負うというのなら、何て理不尽な事でしょうね‥」
高速艇の到着を知らせにきた抹竹が、苦笑しつつ、そう言った。
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同所同日同時刻
「ふーん‥まがい物、か。次はもう少し凝った作りをしたいもんだなー‥ドルチェが居ないと、こんなもの、か」
傭兵達の視界、気配の外。
崖の上から傭兵達を見やり、一人呟く男がいた。
女性のように艶やかで、風に揺れる銀髪には、燃えるような斜陽が映えていた。
策謀は、張られてゆく――