タイトル:【MYTH】踊る神像マスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/29 17:38

●オープニング本文


【MYTH】踊る神像


 某所某日中国某省
 観光客向けの土産もの屋から、一台のトラックが走り去る。
 排気ガスと土ぼこりが混ざって舞えば、顔をしかめて思わず息を止めてしまう。
 お世辞にも、繁盛しているとは言えない風体の店の前には、二人の人と一つの大きな箱があった。
「店長‥これ、何なんですか?」
 訛りのかかった中国語で、少年が問う。
 Tシャツにジーンズ、『福』の字が逆さになった前掛けで手を拭く彼の横には、
 着古した漢服に丸いサングラスの中年男性が、にんまりとご満悦な笑みを浮かべて立っていた。

「これはな、わしの魂をバグアから取り戻す為のものだ」
「店長の魂‥?」
「開けてみな」
 少年が促され、何の気なしに、二人の目の前の、自分の身の丈二倍はありそうな箱を、ドアのように開けて中を覗き込む。
 と、少年は縮みあがって息をひっ、と飲み込んだ。
 彼の視線の先には、暗闇でも怪しく映える青い肌、見たもの全てを破壊し尽すような威圧の目、
 トラックのタイヤ程の太さを持つ大蛇を首に巻き、古めかしくも豪奢な装飾を身にまとい、
 荘厳として胡座をかく、人のような姿だった。

「そいつはな、シヴァってんだ。インドの神様だな」
「名前ぐらいは、聞いたことあります‥けど、これとバグアと、何の関係が?」
「わしの家はなぁ‥河の流域の、そりゃあ観光客にも地元にも愛される土産物屋だったんだ。だがどうだ、あっちゅうまにバグアにほとんど持ってかれちまった」
 中国で『河』と言えば、それは黄河のことだ。確かに、青島横の源流からほとんどが、バグアの支配下にある。

「例え何万光年離れた場所から来てようがな、中国四千年の歴史とシンボル、そんな簡単に蹂躙されて黙ってるわけにゃあいかんっちゅー事で、神話で言う、天上界のどでかいガンジス川をも受け止めちまう、シヴァを店に飾ろうっちゅーわけだ」
「それにしても‥本物なんて見たことないですが、まるで本物な立派な作りですよ。高かったんじゃないですか?」
 少年の問いに、店長を視線をふいっ、と逸らしてしまう。

「うちは土産屋だ。買い手がつきゃあ売ってもいいし、少しは人集めの話題にもなるんじゃないか?ま、買った由来は、言ってみりゃこじつけだが、神頼みでもないと、今の世の中やっとれんのヨ」
 ははは、と笑い飛ばすおやじを前に、
 本当にこの人は経営力というものがあるのだろうか‥と、ガックリと項垂れる少年。

「それはもういいとして、どうやって運ぶんですか? ここに住み着く勢いで、座って瞑想してますよ」
「んー‥瞑想? いやいや、踊ってるナタラージャバージョンで頼んだんだがな‥」
 箱の中身を覗き込んだ時、店長の頭は爆ぜた。

 そこに頭というものがあった事を否定するかのように、跡形も無く風が吹き、
 だが視線を下げれば、人の頭であったのだろう物が、確かにそこにある。
 
 少年は、訳もわからず立ちすくんでいた。頭で理解はしたが、心も、体も、追いついていない。
 中に、何かがある。少なくとも人の命を簡単に奪えるものが。
 わかっていはいても、ガタ、と音がすれば、首だけそちらに動かしてしまう。

 目が、合った。

 窮屈そうに体を屈め、三叉の槍を、躍動感たっぷりに構え、こちらを見ているシヴァと、目が合ったのだ。



「蜜柑‥!」
 UPC本部、オペレーティングルームから出てきた柚木 蜜柑の肩を、
 後ろから乱暴に引き寄せ彼女を止めるのは、いつもと違い見幕の凄い井上 雅。
「に゛ゃっ?! ちょっと、雅、痛い‥!」
 突然の仕打ちに、いつもの友人でも躊躇なく睨みつける蜜柑。
 一寸拍後、我に返ったように雅が肩から手をどかす。

「‥‥すまない。取り乱した」
「何があったってのよ?」
「シヴァ型キメラが出たというのは、本当か」
 いつもの冷静な顔に戻り、改めて問う雅に、驚きを隠さず蜜柑が返す。
「どっから聞いたのよ‥今から本部に張り出すところよ」
「情報屋にとって、情報は商品でな」
「払えって事? それとも、喋る気はないって事?」
「後者だ」
 いくら仕事中とはいえ、友人に接するには淡としすぎた態度に、蜜柑もため息を吐く。

「俺を行かせてくれ。傭兵になる前から追っていた関連事件と、酷似してるんだ」
 勢いこそ落ち着いたものの、それでも静かに、力強く詰め寄る雅。
 力強い視線を、真っ直ぐに蜜柑へと向け、挙動こそ静なれど、必死さもどこか垣間見える。

「ちょっと‥気持ちは分かるけど、私にそんなコト出来る訳ないでしょ!? 前回は、話を早く聞かせてやったってだけ。あんただって、特別な階級持ちでもない、ただの一端の傭兵なのよ。どうしても入りたければ、予約でもしなさいよねっ」
 突きつけられる、当たり前という名の現実。
 子供染みたわがままだということは、雅にも分かっていた。分かっては、いるのだが。
 
 雅が情報屋の諜報員時代から追っていた事件。
 大切なものを、沢山持って行かれた事件。
 耶子を拾うきっかけとなった事件。
 胸をうごめくように侵す、その内に潜んだ影、抱く疑念は、あまりにも多すぎた。

「‥‥すまない。今日の俺は、どうかしている」
「目の前に、いきなり長い間待ち焦がれていた人参ぶらさげられたワケでしょ? さっきも言ったけど、わからなくは、ないわ」
 男の子は、それぐらいガムシャラな方がかわいいもんよ、と、
 二度目のため息と一緒に、なだめるように雅の頭を撫でてみる蜜柑だが、すぐにその手は、無言の無表情で払われてしまう。

「んで、あんた一体、何の事件追ってたのよ」
 仕返しとばかりに、詰め寄り、胸ポケットのボールペンをびっ、と向ける蜜柑。
「‥神話や民間伝承に関連した、驚異的な強さと残虐性を持つキメラに関する、事件だ」
「‥‥何よ、そんなの今更。沢山いるじゃない。有名な神様やファンタジーのモンスターになぞらえた、趣味の悪いキメラ」
「違う。確かに奴らの技術なら、精巧に世間で伝えられてる風体なキメラを作れるかもしれない‥が、こう、どこか、雰囲気や‥時として見せるイレギュラーに、人間臭い部分がある。だから、バグアに加担している人類がいるのではないか、と」
「あんた‥そんな曖昧な仮定でその事件追ってたの?」
 呆れた、と腰に手を当てて本日三度目のため息。
 雅も、言い返せないのか、言ってはいけないのか、目を見つめ、それ以上は語らなかった。

「とにかく、あんたの目的は知らないケド、すっごい強いキメラが、今、人を困らせてるのが事実。戦って、ノして、ついでに、真意でも確かめてらっしゃい」
 友人の背中を叩き、翻って、振り向かずに手を振ってからブリーフィングルームへと向かう蜜柑。
 数分間の自分を反芻し、雅は冷静さを欠いた自分に腹が立ち、舌打ちを一つ。
 そして蜜柑に背を向け、本部の依頼を受けに歩く。
 
 ポケットの中では、いつも持ち歩いているオイルライターを、カチン、カチン、と掌で弄んでいた。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
緑(gc0562
22歳・♂・AA
如月 葵(gc3745
16歳・♀・DF

●リプレイ本文


 中国某省某時刻。
 件の神を模したキメラ、その最終目撃地点は、激しい濁流を挟んで、見上げれば首が痛くなる程の崖と、生い茂る森。
 その周辺を分担し、傭兵達が班毎に捜索の網を広げていた。

「こちらA班。東に200m地点ですが、異常は見当たりません」
 地図を広げながら、鳴神 伊織(ga0421)が無線を飛ばす。
 さすが競合化と言うべきか、
 乱れる無線、割り込む雑音。
『了解』の代わりに、ノイズが返ってくる事も度々だった。

「神様のキメラねぇ‥作った奴は悪趣味だな、きっと‥どう思う?」
 捜索中、C班の飲兵衛(gb8895)が無線にぼやく。
 重い装備を背負い、気を張っての行軍。流石の能力者も、軽口無しではくたびれるのかも知れない。

「神か。ふふっ、さぁ、この雪女が退治してやるかの‥なんて」
 覚醒の効果で雪女を演出して、エイミ・シーン(gb9420)が同班の飲兵衛の腹をふにっ、とつつく。
 緊張が続く中、いつも通りな彼女のノリは、どこか頼もしくも思える。

「みぃやん、今の、もう一回頼んでいーか‥」
 再度氷結したエイミの頬に、ウェイケル・クスペリア(gb9006)――ウェルが、ぴとっ、と浴衣の袖から伸ばした手を添える。
 流麗且つたおやかな『桜舞』は、軍服や野戦服より幾らか涼しいものの、じめついた気候に風通しの悪い森。
 多少、気が萎えるのも無理はない。

「キメラは自然のものではなく、何らかの意思を持って作りだされた存在なら‥作り手の人物像も読めなくはない、ですか」
 先ほどの飲兵衛に、自分なりの解析で返すのは抹竹(gb1405)。
「そうだとすれば‥神話をなぞって、洒落たつもりか、くだらん。実に‥‥忌々しい」
 同じくA班に所属した、井上 雅。ここに来るまで、至って冷静に振舞っていたが、
 視線は、警戒すべき方向よりもやや伏せっているようにも見えた。

「井上さん、何か抱えているみたいですね‥」
 雑音に混じった雅の言葉に、セレスタ・レネンティア(gb1731)がぽそ、と呟く。
「ん? あぁ‥すまない。仕事はこなす、安心してくれ」
 マイクは、彼女の声を拾ったようだ。それは、そうなのですが‥と、抱えている内へ入ろうとすれば、
 それ以上は、スピーカー越しの雅の空気が、会話を拒んだようだった。





 エイミの調べた情報によると、キメラは余程で無い限り、
 知能を要する武力手段‥具体的には、
 今回の場合『弓を引く』という行為が出来ないらしかった。
「これがわかっただけでも、かなりの情報ですね!」
「その代わり、第三の目は世界を焼き尽くす光線を出す、などと言われています。油断はしないでくださいね」
 伊織が注意を促せば、無線越しに、エイミがうな垂れる様子が想像出来る。いや、実際していた。

「これ以上被害を出さない為にも早く倒さなくては‥」
 隙を作ってはいけない。緑(gc0562)が、落ち着きなおすように首を振り、愛用の銃剣―フォレストを再び構える。
「狼煙が使えればよかったのかも知れませんが‥また、笛を吹きますね」
 彼の横で如月 葵(gc3745)が、問えば、同班のセレスタが首肯する。
 狼煙を上げる手筈だったが、班員は何の発煙、着火器具を持っていなかった。
 辛くも集めた杉の葉と、雅からライターと煙草を借りたが、やはり、効果は薄いようだった。

「覚悟はいいですか? では、吹き‥‥あれ?」

 ふと、口元へ笛を運んだ手が止まる。
 彼女の視線の先、木々の僅かな間、自然の色とは明らかに不自然な、蒼い影が走る 
 体躯に似合わず素早い動きが、幾多の『異形』を相手取った彼らに、ある確信を持たせた。
「3メートルの人型‥キメラを発見しました!」
 セレスタの連絡に、無線がざわつく。
 情報より太い蛇を巻いたそれは、木々を縫うように素早く彼らから離れていく。
「予定通り誘導します‥ですが、広い場所へ出てくれそうなので、追跡します」
 翠の銃剣を構え、緑がキメラを追跡しだした。

 森を抜け、開けた場所へ出たと思うと、それは最終目撃地点だった。
 まるで行水するかのように悠々と河へ侵入すると、蒼い体は一つの洞穴へと侵入していった。
 A、B班が合流し、キメラの大きさギリギリの穴へ忍びこむ。
 壁に響く、粘り気のある、鈍い水音の様なものを聞きながら、
 穴の奥に進むと――そこに、シヴァは居た。

 蛇が吐き出しているのは、丸飲みされ、胃液にまみれた人間。
 その上で、さもそれが自然、もしくは使命であるかのように、『踊る』神。
 容赦なく、微笑みにも見える顔で、伝承の悪魔を踏みつぶすかのように、圧倒的脅威で、人を――舞台にしていた。
 至って冷静に受け止める者、惨劇のあまり目を逸らす者、傭兵達の反応は各々違ったが、
 雅の反応は『普段と』明らかに違った。

「これが‥‥これが、お前らのする事なのか‥‥!」
 感情が剥き出しになるが、どうにか必死に声を絞り、掠れた怒号を吐く雅。
「気持ちはお察しします‥‥が、今は、どうか堪えてください」
 伊織が危機を察し、ホルスターへ伸びた雅の手を掴む。
 どうにか落ち着きを取り繕うと、、
 気味の悪さに口元を押さえた葵へ、閃光手榴弾の投擲を促す。

 25秒後、全員が洞穴の外へ待機を終えると、漏れる閃光が、神へ喧嘩を売ったと告げた。



「よお‥カミサマもどき」
 穴から顔を出したシヴァへ、抹竹が牽制目的で撃ちこみ、
 C班の合流まで上手く距離と時間を稼ぐ。

「あの動きは‥、次、蛇が来ます!」
 怯んだシヴァの代わりに構えた蛇へ、
 葵がS−01を撃つが、丸太のような逞しい体が、緑へ、体のバネで飛びかかる。

「何‥っ!?」
 エイムが、間に合わない。刀身で飛来する蛇へと切りかかるが、めり込む銃剣の刃など気にも留めず、そのまま腕、首、動体へと体を這わせ、締めあげる。
「まずい、危険だ‥!」
 雅が急ぎ脱出を試みる力へ近づき出した。
 緑も動けないが、蛇も動けない。
 骨や肉のきしむ嫌な音を聞きながら、強弾撃で確実に頭を穿つ。
 零距離で喰らった蛇がシヴァの方へと吹き飛ぶと、
 緑は酷く咳き込みつつ、銃剣を支えに立ち上がろうとした。
 恐らく体の中へのダメージが酷い事になっているだろう。

「遅れました‥!」
 シヴァとは反対の茂みから、飲兵衛とウェル、エイミが武器を構えて飛び出す。
 唯一の回復役のエイミが、被害状況をみるや否や、拡張治療の行動へ移り、ウェルが緑の代わりに伊織と並ぶ。

 まるで見知らぬ演武を見ているかの様な、読み難い体の動きに、避けるも防ぐも容易ではなかった。
 三叉の槍を横に薙いだ瞬間、抹竹が剣で受け止めるものの、勢いで態勢を崩してしまう。
 だが好機、空いた小手に伊織が飛び込み鬼蛍で斬り込む。
 名刀と紅蓮の斬撃の組み合わせには、シヴァも喉を唸らせ顔をしかめるが、槍を手放しはしなかった。
 刹那、体重を込めた肘鉄を伊織の脳天へ振り下ろす。
「く‥っ」
 辛くも反応し、敵の足の間を滑り込むように抜ける。
 前が空いた直後、すぐ様第3の目を開く。視線の先は、エイミ。

「あんたの相手はこっちだぜ!?」
 ウェルが気付くと、低姿勢で刈るように紫苑を振り、そのまま、膝のバランスを奪うように柄を引く。
 斬撃と共にシヴァは体制を崩し、禍々しい光線は標的を思い切りずらして空へと放たれた。 
 飲兵衛も、離れた木や岩陰から蛇、シヴァ、迫っては撃ち、引いては狙い、確実に他の味方への気を逸らす援護に徹した。
 おかげでエイミの治療は発動し、緑がどうにか動けるようになる。彼が合流しようと見た先は、
 彼の代わりに崩れた前線を担った一人、セレスタの背。

「腕が4本の相手とナイフ格闘は、初めてですが‥!」
 槍がウェルや伊織を狙う隙に、空いてる手、足、シヴァの末端から攻めていく。
 迫りくる拳をナイフの鎬で軸から逸らし、さらにもう片方の手のナイフで抑え、最初に使った手を素早く戻して刺突する。
 するとシヴァも、セレスタのグリップの下へ手を滑らせ、手首を絡ませると、柄頭を思い切り突き、握っていたククリナイフを飛ばしてしまう。

「何故‥キメラがこんな技術を‥!」
 偶然か、インプット済みなのか、気にする余裕も無いが、こちらもナイフのプロ。落ちるククリを宙で捉え、
 飛びかかり、リバースグリップでシヴァの鎖骨へ思い切り振りおろす。
 ほとばしる血は、人間のそれよりも重く、黒く、まるで酷い膿が吹き出ているかのようにも見えた。
 確かな手ごたえを感じたセレスタへ、シヴァが振り向き、目が合った―――3つめの、目と。
 一瞬にして焦りを覚え、伊織、ウェル、抹竹が三方向からが斬りかかる‥‥‥
 が、セレスタの顔面に、超至近距離で、闇色の閃光が撃ち抜かれてしまった。

「危険だ‥! 引かせろ!!
 糸が切れたように後ろへ倒れるセレスタを見て、雅が前衛へ駆けだすと、飲兵衛が進路上の蛇を相手取り、
 エイミも浪漫の鉄拳――ロケットパンチを槍へと放ち、雅へ突かれた軌道を逸らす。
 
「私が穴を埋めます‥!」
 セレスタが居た位置へ、葵が走り込むと、緑が気付き銃剣を構える。
 右足に撃ちこまれた銃弾にシヴァが気を取られれば、その隙に接敵した葵が驟雨を左膝裏へ斬り込む。
 足を狙ってバランスを崩す、という作戦を周知していた。やはり膝の裏はどうしても防ぎにくい場所、それなりの有効打を与えたようだ。
 が、3メートルの敵に接敵すると、どうにも頭上に注意が行きづらくなる。前衛に迫るのは、派手に振りかぶった、槍。

「危ねぇ、伏せろ!」
 槍の薙がれる軌道へ、ウェルが紫苑の刃を割り込ませる。奥歯を噛み締め力を込めれば、途中で止まったものの、
 緑と葵は槍の柄に巻き込まれ、シヴァの怪力で吹き飛んでしまった。
 力と経験があと一歩及ばなかった葵、蛇のダメージを多少残していた緑は、不安定な姿勢で地を跳ね、転がる。
 懸命に起き上がろうとするも、まともに息も出来ない打ち身に、二人は悶え、動けなかった。

「援護しようにも‥‥!」
 飲兵衛がシヴァの牽制をしようとするも、厄介なのは蛇だ。
 物陰に隠れても的確に居場所を把握し、毒を噴射したり、飛びかかったり、
 前衛で立ち回る3人に気を使い、落ち着いてエイムするには思いのほか邪魔な存在だった。
 鎌首を持ち上げ、弾の切れた飲兵衛の前で、思わず身が竦む程に、大きく口が開かれる。
 が、数拍後、その口に拳が収まる。
 今まさに吹き出んとした毒霧に、エイミが浪漫の鉄拳で蓋をしたのだ。
 うろたえる蛇の隙を逃さず、拳が離れた瞬間、飲兵衛が口へ鋭い一撃を放つと、
 毒の牙と共に貫通弾が脳髄を浚っていった。

 前衛も練力や体力の意味で、かなりの消耗戦となっていた。
 が、伊織がシヴァの足にスノードロップの弾を散らすと、遂に シヴァが初めて膝を付いた。
 すかさず抹竹が踏み込み、ここぞと温存していた流し切りと両断剣で、セレスタの残した傷と同じ部分へ、ルシファーを振りおろし、肩ごと腕を一本切り落とした。
 そこへウェルが、わき腹へ刺突を浴びせて後へ抜ける。
 すると、何とシヴァが驚くべき軟体で腰と首を後ろへ曲げ、顔ごとウェルの背中へ視線を向けた。

「ウェルちゃの背中は‥狙わせない!!」
 文字通りの意味だけではない。戦地に立つ親友との、信頼に、傷をつけられたくはなかった。
 窮地の友を救うべく、あらん限りの影の弾を、晒された腹部へ撃ちこみ意識を向けようとする。
 結果、ウェルは闇の波動を免れた――が、海老反りのバネで首が起き上がり、牽制したエイミへ、禍々しい閃光が直撃してしまった。

「みぃやん‥?!」
 吹き飛ぶエイミを見て、刹那、シヴァに向きなおったウェルの目が据わる。
 陽の構え――刀身を地に滑らせるような脇構えでウェルがシヴァへと迫り、すれ違いざまに鎌を首へあてがうと、疾走の勢いで思い切り引いた。
 延髄へ喰い込む夜闇の如き刃が、シヴァへ苦悶の呻きをあげさせる。
 そのまま首を薙ごうと力を込めれば、急所によるダメージもあってか、体が屈み、シヴァの行動が鈍る。3本の手も、伊織と抹竹、雅を相手取って手いっぱいだった。

 ふと気付けば、前線は先ほど槍で弾かれた緑と葵の位置まで動いていた。
 傍らで倒れたままの緑が、どうにか気力を振り絞り、豪力発現。
 立木で銃床を支え、身動きの取れない獲物を、死に物狂いで捕らえる。
 逆サイドでは、気を取り戻したセレスタが、体力の限界で震える体、荒い呼吸、すべてを最後の力で抑え込み、ホルスターからP−38を抜く。

「この弾丸なら‥決めます」
「エメラルド‥‥ブラスト!!」
 サイトを覗かなくても、あたる確信のある距離だった。対の貫通弾はクロスファイアでシヴァの脳天へ抉り込む。
「弱い人に冷たい神様なんて、大っ嫌いです。‥‥だから、死んでください!」
 ふらふらと、ボロボロの剣を杖にやっと起き上がる葵。
 スキルを使う練力も残ってはいなかったが、最後の一太刀を信じ、血が滲み、骨の軋んだ首へ驟雨を振りおろす。

 張りつめていた糸に刃を立てたように、ぷつん、と二つに分かれ、
 神は、その首と体を、地に堕とした。



 傭兵達は、スキルや持ちこんだ救急キットで、それぞれ仲間の傷を治療しあっていた。
「もっと強く‥俺がもっと強くなればそれだけ傷つく人を減らすことが出来る‥」
 緑がフォレストの銃身を撫で、そこに映えた自身の傷だらけの顔を見て‥強く、心にそう誓う。

「‥こんな時に限って、煙草忘れちまうなんてな」
「すまん、俺も切らしてる。代わりにこれでも吸ってくれ」
 飲兵衛だけでなく、雅は消費した者へ貫通弾を手渡した。

「せめてもの――いや、すまん、なんでもない」
 振り払うかのように首を動かし、雅が口をつぐんだ。

 ふと、シヴァの元で座り込み、じーっと見つめるエイミが目に留まる。
「‥みぃやん。何してんだ?」
「あ、うん。神様の肉って‥食べれるのかなー? って」
「‥は?」
「美味しくなさそうだけど‥」
「‥あたしのあの一瞬の焦りと憂いを返してくれ‥‥」
 やれやれ、とやはりどこか相変わらずな親友に、一安心するウェルだった。
 ちなみに、神喰いは雅に思い切り止められた。

「これで私も、神殺しという消せない罪を背負うのですか‥」
「神殺し‥か、まあ‥相手は紛い物ですけど」
 葵と伊織が、肉塊と化した神を見つめ、口にする。
「傍若無人を尽くす神を殺して、罪を背負うというのなら、何て理不尽な事でしょうね‥」
 高速艇の到着を知らせにきた抹竹が、苦笑しつつ、そう言った。


 同所同日同時刻
「ふーん‥まがい物、か。次はもう少し凝った作りをしたいもんだなー‥ドルチェが居ないと、こんなもの、か」
 傭兵達の視界、気配の外。
 崖の上から傭兵達を見やり、一人呟く男がいた。
 女性のように艶やかで、風に揺れる銀髪には、燃えるような斜陽が映えていた。
 
  策謀は、張られてゆく――