タイトル:悲しい鳥マスター:須田はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/23 21:43

●オープニング本文


●とある村の民家にて

 からっぽの鳥カゴにエサを置く。
 カゴの中で可愛らしくさえずっていた鳥が姿を消してから、どれほど経っただろう。
 一月、二月‥‥いや、もう一年?
 こうやってエサを置いていればいつか帰ってきてくれるはず。
 少女はそう信じて、来る日も来る日もエサを置き続けているのだ。

「‥‥‥ん?」

 一際強い風がびゅうと吹き込んで、薄いピンクのカーテンをはためかせる。
 じわりと生暖かい、どこか不吉さを孕んだ風。
 カーテンを捲り上げたのと同じ風は、少女の耳にある音を届けた。
(「え‥‥声‥‥?」)

 それは絶叫だった。



「ステラ!」
 部屋の扉が開き、駆け込んできた母親が少女の名を呼んだ。
 母の取り乱した様子に、少女――ステラは窓際の椅子から立ち上がる。顔を真っ青にした母は、立ち上がったステラをそのまま両腕できつく抱きとめた。

「お母さん‥‥どうしたの?」
「大変、近くにキメラが出たの。何人か襲われているわ」
「そんな!」

 ステラは母の言葉に愕然として声を上げた。
 ここは戦時中とはいえ比較的のどかな地域である。キメラの襲撃といってもせいぜい野良化した野犬キメラが作物を荒らしに来る程度であり、人が襲われるような事態はこれが初めてだ。それでは先ほどの悲鳴は誰かの断末魔だったというのか。ステラは母の腕の中でぶるっと身を震わせた。
「どうするの、お母さん」
「地下室に逃げましょう。大丈夫、外に出なければ大丈夫だから」
 母はまるで自分に言い聞かせるように大丈夫、大丈夫と数回つぶやくと、ステラの手を引いて駆け出した。
「あっ、待って」
 突然やってきた恐怖に呆然としていたステラであったが、はっと我に帰ると母の手を振り解いて窓際へ駆け寄った。

(「鳥カゴ‥‥鳥カゴも一緒に‥‥!」)

「ステラ、何やってるの! そんなもの置いて行きなさい!」
「ダメ、これも持っていくの!」

 ステラが鳥カゴを抱え上げたとき、窓の外から絶叫が上がった。ステラはその声に思わず身震いする。風が運ばなくとも聞こえてくる、ごくごく近いところで、窓の外を覗き込めば見えるほんのすぐ側で、誰かが襲われている――

「ステラ! 早く来なさい!」

 母の悲鳴が近いようで遠いところから聞こえた。
 びゅうっと再び一陣の風が部屋に吹き込んでくる。ピンクのカーテンはちぎれんばかりにはためいていて、まるで大きな団扇であおがれたような突風にステラは思わず立ち尽くす。母の声はもうよく聞こえない。激しい風圧で息が出来ない。けれど視覚だけがやけに鮮明だった。

 はためくカーテンの向こう、巨大な鳥が羽ばたいているのが見える。
 その化物じみたシルエットと禍々しい雰囲気はは紛れもないキメラのものであったけれど、
 ちらりと見えた羽根は、唐突に場違いな懐かしさと愛おしさを喚起する色だった。

 それは見間違えようもない、愛する鳥の羽の色。




●UPC本部

「依頼内容は、村に突如出現した怪鳥キメラの捜索及び撃破。襲われた村人は重傷を負ったけれど、能力者ならそこまで困難な仕事にはならないと思いますけど‥‥」

 そこまで言うと、オペレーターは苦々しげに言葉を切った。
 はあ、と呆れたように溜息を着くと、話を続ける。

「なんでも、前にこのキメラとよく似た鳥を飼っていたという少女が同行したいと言って聞かないそうです。この辺りはそこまで凶暴なキメラも出ないので、能力者がしっかり保護していれば危険は少ないとは思いますが‥‥」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
水無月 湧輝(gb4056
23歳・♂・HA
雪待月(gb5235
21歳・♀・EL
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
永詩火 夕(gb6831
21歳・♂・FC

●リプレイ本文

●村のはずれにて ―びっくり邂逅―

 能力者たちと待ち合わせている場所へと、ステラは走っていた。
 キメラ退治に同行するということは、父や母には告げていない。UPCへ依頼していた村長に無理を言って許可してもらったのであるが、さすがに両親にこのことを告げる気にはなれなかったのだ。
「ごめんなさい‥‥お父さん、お母さん‥‥」
 脳裏に鮮やかな羽根の青が大きく羽ばたき、ステラはぎりっと歯を噛み締める。

「ぜったいに、この目で確認するん――っきゃあああ!?」

 不意に背後からがばっと掴みかかられ、ステラは先ほどの決意はどこへやら、間抜けた情けない悲鳴をあげた。
 衝撃で前につんのめって転びそうになるが、体はがっしりと後ろから抱きとめられたままである。
 伝わってくるのはぬくもりといい匂い。そして背中に感じるやわらかな、それでいて妙に弾力のある感触――
「おぱよ〜ん♪ あたしは火絵楓だよ? 気軽に楓ちゃんって呼んでねス〜ちゃん♪」
 耳元から聞こえてきたのは、やたらハイテンションな女性の声。
「え、ええええっ!? なっ、なにぃ?!」
 いきなりステラの背中に抱きついたのは、能力者の一人である火絵 楓(gb0095)だった。しかしステラはそんなこと知る由もなく、見知らぬ人物からの突然のスキンシップにじたばたと涙目で手足を動かしている。
「なっ、何なんですかっ、だ、誰かぁ〜!」
「う〜ん♪ やっぱり少女のこの肌触り溜まりませんな〜♪」」
 人目につかない場所であるのをいいことに、エスカレートする火絵。
 すわ乙女の貞操が――! と思われたそのとき、
「おい火絵、それくらいにしとけ」
 火絵の頭をぽんと叩き、呆れたように須佐 武流(ga1461)は言った。
 いつの間にか、周囲には数名の人が集まっている。武装した様子から、村人でないことは一目瞭然だ。
 その雰囲気に気圧されるようにしてステラはもがくのをやめた。そして彼らを呆然と眺めながら、思う。
 ああ、この人たちが能力者――悪いばけものをやっつける、能力者なんだ、と。




●村のはずれにて・2 ―さあ出発、の前に―

「鳥のキメラか‥珍しくも無いものだが‥」
 キメラどころか自分たちにすら圧倒されている少女の姿に、水無月 湧輝(gb4056)は内心でやれやれと呆れたように溜息を着く。
(「どうしてこう、厄介ごとがついて回るのやら‥」)
 どうにも子供は苦手である。といってもか弱い女の子を無為に怖がらせるのも趣味ではない。なるべく剣呑とした空気を出さないよう留意しておく。
 そんなステラの様子に、番 朝(ga7743)が一歩前に出る。
「俺番朝だ、宜しくな」
 にぱっと人懐っこい笑顔をみせる番に、ステラの緊張は若干解れたようだった。
 番に倣って、他の能力者たちも次々と名乗っていく。
「初めまして、雪待月と申します。どうぞよろしくお願いしますね」
 雪待月(gb5235)が最後に名乗ったときだった。事前に打ち合わせていたように、彼女はさっと能力者たちに目配せをする。能力者たちはそれぞれが小さく頷いた。

「最初に言っておかなければならないことは、‥キメラは人に危害を加えること、私達はそれを倒さなければならない者です」

 雪待月が静かにそう告げる。出発する前にステラにこの任務の目的を理解してもらうこと。これは話し合いの際に一致した見解であった。誰が伝えるのが適任か――ということで、その役目に穏やかで優しげな物腰の雪待月が選ばれたのであった。
「‥もし、あなたが探す鳥だとしたら‥‥ごめんなさい」
 憂えるように目を伏せて言う雪待月に、ややあって、ステラは小さく口を開いた。
「‥‥いいえ、構いません。もしあれが私の飼っていた鳥だったとしても、村の人を傷つけたことに変わりはないんですから‥‥でも、でもやっぱり、この目で確かめたいし、最後になっちゃうなら、どうしても‥‥看取ってあげたくて‥‥」
 わがまま言っちゃって済みません、とステラは頭を下げる。
 そんな彼女の頭を優しくぽんぽんと叩いたのは、エリアノーラ・カーゾン(ga9802)であった。
「わがまま言ってるって分かってるだけマシよ。任務はきっと危険になるから、戦闘の時は決して勝手に動いては駄目。けれどその代わり、あなたのことは私が身を挺してでも守るから‥‥どう、約束してくれるかしら?」
 カーゾンの言葉に、ステラは顔を上げてこくりと頷いた。

「うん、いい子ね。それじゃあ行きましょうか」

 まるでハイキングにでも行くような口ぶりで、カーゾンは言う。




●二人の能力者

「それでは、皆さん。手筈通り、僕は後方での遊撃とさせていただきますね。――ご武運を」

「‥‥本当に一人で追尾するのか」
「野犬キメラ程度なら僕一人でも充分ですし。どうかご心配なさらずに」
 もう他の能力者たちは出発してしまった。後で追いつくと言い残し、月城 紗夜(gb6417)は単独行動をとると言い残したまま離れて行こうとする永詩火 夕(gb6831)を呼び止める。
「誰も心配などしていない。勝手な行動だと咎めるつもりもない、ただ」
「‥‥ただ?」
「お前は助けは要らんと言っているが、お前がやられればどうせ六花――雪待月が悲しむ違いない。窮地に陥ったのを察したら問答無用で行動を共にしてもらう。いいな」
 月城の言葉に、永詩火はふふっと笑った。
「お気遣いありがとうございます。その時はお世話になるかもしれませんが――まあ、互いにご武運を」
 そう告げると、永詩火はそのまま背を向けて歩き出す。
 月城もそれ以上彼を引きとめはしなかった。
 もはや言うことは何もない。彼女も踵を返すと、本隊に追いつくべくその場を後にした。




●森の中にて

 時折立ち木や下草に足を取られて転びそうになるステラを助けてやるのは、彼女の隣をぴたりとくっついて歩いている火絵と雪待月である。その少し前を歩く番は、未だキメラの気配が薄いと察してステラに話しかけている。黙々と歩くよりも会話が弾んでいる方が疲労は感じにくい。もっとも、山育ちの番にとってはこれくらいの藪など庭のようなものであるのだけれど。
「ステラ君の友達、名前なんていうんだ?」
「ええとね、ガスパール。変な名前でしょ。お父さんがつけたの」
「へえ、ガスパール君か、可愛いな。いや、良い名前と思うよ」
 番の言葉に、ふふ、とステラは嬉しそうに笑う。
「‥ステラ君は、ガスパール君に会ってどうしたいんだ?」
「‥‥化物になってたら、さよならって言うの」
「そうか‥‥キメラになっても想ってくれる人がいるなんて、ガスパール君も幸せものだな」
 そう言うと、番はへへっと笑った。
(「もし‥俺の友達に似たキメラが現れたら、俺もステラ君みたいに無我夢中で追いかけるのかな‥?」)
 胸中で、そんなことを考えながら。

「毎日お世話をしていたんでしょう、偉いのね」
 番の話題を引き継ぐように、雪待月が微笑みながら言った。その手はしっかりステラの手を握っている。
 そんな恋人の様子を眺めながら、まるでピクニックじゃねえか、と須佐は苦笑しつつ息を漏らした。ふと隣を見ると、水無月も似たような表情を浮かべている。目が合ったらひょいと肩を竦められた。やれやれだな、と。
「これじゃまるでハイキングだな」
 須佐が思っていたことを、水無月が口に出して笑った。
「まあ‥‥な。でもたまにはこういうのも良いんじゃねえの? それに俺、鳥は好きだぜ」

 そう須佐が答えたとき、奇襲に備え一人じっと周囲に耳を済ませていたカーゾンが鋭く声を上げた。
「‥‥何かがいるわ。群れて数匹。どうやら想定通り、野犬が嗅ぎつけてきたみたいね」
 よっしゃそう来なくっちゃな、と須佐が拳をパンと鳴らし合わせる。
 その音に、場の空気が引き締まった。




●ひとまず前座、雑魚戦発生

 カーゾンが警告してからものの数分、ガサガサと茂みを掻き分ける音がしたかと思えばすぐに野犬が姿を現した。こちらへ向けられた明確な敵意と殺意。明らかにただの犬ではない、キメラだ。

「これが‥‥キメラ」

 その化物じみた凶暴な雰囲気に、ステラは呆然と呟く。
「火絵、カーゾン、彼女を連れて下がれ!」
「ズサに言われなくっても、分かってますよーだ」
 須佐の言葉に軽口を叩くと、火絵は敵と味方のポジショニングを素早く見極めると、もっとも安全だと判断した敵の死角へステラを連れて行く。火絵とは別方向を警戒するようにしてカーゾンも後に続いた。

 もっとも森林での行動に慣れている番が真っ先に飛び出し、その身の丈に合わない大剣をぶんと振り回しキメラを打撃する。
「うっとおしい奴だな‥‥お前たちに用はないんだよ!」
 咆哮と共に須佐がキメラを殴り飛ばす一方で、月城は群れた野犬の靭帯を適確に切りつけて敵を無力化していく。数はざっと10以上。まともに相手をしていては周りこまれて後衛陣に被害が及びかねない。まずは相手の機動力を潰すことが先決だと判断したのだ。

「‥‥永詩火さん、大丈夫かしら」
 積極的に戦闘には参加せず後手に回っていた雪待月が、背後を振り返ると不安げに呟いた。
「雪ッ、危ねえ!」
 ふと別のことに気を取られていた雪待月に、前衛の隙を縫って飛び込んできたキメラが襲い掛かる。気づいて須佐が声を上げたとき、バチィッ、と短く電撃が走る音が響いた。雪待月に飛び掛ってきたキメラはそのままドサリと地面にくずおれる。
「あんたらはお呼びじゃないの、判る〜?」
 飛び掛ってきたキメラを瞬時に撃退したのは、護衛に回っていた火絵であった。貸し一つね、と雪待月にウィンクする。

 彼女に守られていたステラも当然その光景を目の当たりにした。野犬の凶悪めいた瞳、咆哮、そして電撃を流されて不随意に四肢をピクピクと動かしながら絶命していく姿――
「スーちゃん、大丈夫? 怖い?」
「‥‥怖い、けど‥‥‥ううん、大丈夫」
 気遣わしげな火絵の言葉に、ステラは首を振って返事をする。
 これが戦闘――これがこの私たちの現実なのだと。平和な村で育ったステラは、そこで初めて世界を知った。


●生を狩る者

 刃が一閃したかと思えば、同時に二匹の野犬の首から鮮血が上がる。
 数の上では不利であったが、いくら群れているといっても相手はただの獣。地の利を活かせば一人でも不足はなかった。
「ああ、所詮は獣。殺し方、というものを知らないんですね」
 永詩火にとって、少女も鳥も興味の対象ではなかった。いや、どうせなら大物――鳥キメラとやらの命をこの手で潰してみたかったけれど、さすがに不謹慎なので控えておいた。感傷や気遣いというよりは、他の能力者との余計な諍いを避けたかったためだ。
 最後のキメラの息の根を確実に止める。いち、に、さん‥‥と仕留めたキメラを指折り数えていく。
「5匹か‥‥いまひとつ、物足りないかな」


●望まれない主役

 キメラといえど野犬は野犬。何度か襲撃はあったものの、特に問題もなく撃退していく。
 村人を襲ったというのは行きずりの怪鳥キメラで、全てはステラの単なる勘違いだとしたら――内心でそう願ったとき、カーゾンは唐突に今までとは明らかに異質な気配を感じ取った。何かいるわ、と囁くような声で全員にそれを報せた。彼女の声音から、野犬キメラではないのだろうと各々は判断する。
「‥‥野犬キメラよりも、凶暴。いよいよ主役のお出ましね」
 カーゾンがそう呟いたとき、上方からガサリと木々が擦れ合う大きな音がした。ぱらぱらと葉や小枝が落ちてくる。
 全員が同時に上を向く。前方の大木の枝に留まり、こちらを見下ろしていたのは――場違いに鮮やかな青い羽根を持った鳥だった。

「ガスパール!」

 思い余ってステラが悲鳴を上げる。
 飛び出そうとする彼女を、雪待月が後ろから抱きとめて阻止した。ステラは雪待月を振り返る。
「‥‥あの子を、殺すの? やっぱり殺すのね」
「ごめんなさい。でも、これが私達のするべきことなのです」
 小さく、けれど淡々と、雪待月はそう言った。

 どうやらこの一画が彼の根城なのだろう。なるほど確かに地の利はあちらにあるな、と月城は周囲に視線をやりながら判断した。森林の中では満足に飛び回れないと思っていたが、やや開けた、しかし止まり木に適当な木が点在しているこの場所では、止まり木を移りながらヒットアンドアウェイで攻撃してくるだろう。となれば、
「おい水無月」
「分かってるよ、やっと俺の出番だな」
 短く言うと、水無月は和弓を構えた。

「うまくいったら、拍手のひとつでも頂こうかな」

 狙いすました水無月の矢は、適確にガスパール――鳥キメラの両方の羽根を射抜いた。
 ぱっと青い羽毛が舞い上がる。グエエエッ、と醜い声を上げたかと思うと、キメラは地面へと落下していく。
 翼を失った鳥――能力者たちにとって、それはもはや脅威ではなかった。

「スーちゃん、見届けよう‥‥ソレが、あの子」

 火絵の言葉に、ステラは唇を噛み締める。




●さようならを言いに来たの

 私がやる、と刀を抜きながら前に歩み出たのは月城であった。
「‥‥いいのか」
「汚れ役なら慣れている。貴公らはステラ嬢を慰めてやってくれ。私には合わん」
 水無月の言葉に短く答えると、月城は刀を抜いた。
 ひゅうっとステラが小さく息を呑む。誰もその目を隠さなかった。
 見なければ、見せなければならないことが世界にはたくさんある。
 そして何より、結末を最後まで見届けるのは彼女自身が望んだことなのだから――


 月城の手腕は見事であった。
 頸椎に一撃を食らった鳥は、きっと苦痛も感じないまま事切れただろう。
(「お前は凄いね? 死ぬ前にあの大空を飛んだんだな? それに最後にご主人様に会えたんだ。幸せだな? だからもういいだろ?」)
 鳥キメラ――ガスパールの元にうずくまるステラを見ながら、火絵は黙祷を捧げた。
「泣いてもいいんだよ? 泣いて泣いて、それで涙が枯れたら笑顔であの子にさよならしようね?」
 その言葉を聞いて、そこでやっと初めてステラは涙を流した。

「‥‥忌まわしき技術で変化をもたらされたものよ。せめて、当たり前の死を迎えるんだな」
 生々しい少女の嗚咽を聞きながら、黙祷を捧げたのち水無月は踵を返した。
 湧き上がってくるのはきっと感傷というヤツだ。つまらない、しかし完全に切り捨ててしまうには忍びない感傷。
 悲しい鳥だ、と水無月は思った。


 森を出たところで、雪待月と番がステラを呼び止めた。
「ステラ、これ‥‥」
 彼女が手渡したのは、ガスパールの羽毛を詰めたお守りの袋だった。
「俺と雪待月君とで作ったんだ。形見、ってやつになるのかな」
「怖い思いをさせてごめんなさい‥‥でも、きっとガスパールさんも嬉しかったと思うわ」
 お守り袋を受け取ると、ステラはまた滲んできた涙を拭って笑顔を見せた。

「ありがとう。大事にするわ。皆さん‥‥本当にありがとうございました」