●リプレイ本文
‥‥せーの、
「「にゃー(はい)! 第一回ペケにゃん(さん)のお家(宅?)でクリスマス!パーティー! にゃー(です)!」」
相変わらず息が合っているのかいないのか、よくわからない二人、リュウナ・セルフィン(
gb4746)と東青 龍牙(
gb5019)の宣言と共に、大きなツリーがピカピカと光り出す。
どこからともなく、賑やかなクリスマスソングも聞こえてきた。
「開始前に! 主催者のペケにゃんから一言! お願いするのら!」
「挨拶をもらいましょう♪」
「‥‥はい?」
突然のご指名に、Xは慌てて首を振る。そんな想定外な事をいきなり振られても!
しかし、龍牙は問答無用で背中を押した。
「さぁ、ペケさん♪ コチラの舞台で挨拶をどうぞ♪」
「え? ぶ、舞台?」
そんなもの、作ったっけ?
しかし、実物があろうとなかろうと、そんな事はどうでも良いのだ。
問題はこれがリュウナの提案だという、その一点に尽きる。
「リュウナ様のとてもアリガタイお誘いを断るつもりですか?」
ぐりっ。Xの背中に何か硬いものが押しつけられる。紅く輝く槍の穂先だ。
「分かってますよね? 今、何を優先させるかを」
ボソリと呟く。
わざわざ振り返らなくても、その顔にドス黒い笑みが浮かんでいる事は容易に想像できた。
「ぇ、ええ、あの‥‥ほ、本日はお日柄もよろしく‥‥っ」
そりゃ結婚式のスピーチだ。
「えーと、あの、この度は‥‥」
「にゃー! 一言もらったから楽しんでパーティーするなりよー!」
「え!? あの、まだ何も‥‥っ!」
ぐりっ。再び、Xの背中に何か硬いものが。
「リュウナ様が終わりと言ったら終わりなんです。‥‥良いですね?」
にっこり。
「‥‥は、はいっ、わかりました‥‥っ」
「さぁ、挨拶も終わった事ですし‥‥パーティーの開始です!」
「盛り上がって行くなりよー! にゃー!」
呑まれている。完全に二人のペースだった。
しかし、呑まれているのはどうやらXただひとりの様で‥‥
パーティ用の料理作りに勤しんでいた秘色(
ga8202)が、巨大な鍋を助手のZと二人がかりで運んで来た。
「ほーれ、冬と言えば此れじゃろー!」
テーブルの真ん中にどーんと置かれたそれは、クリスマスと言えばこれ!
そう、おでん!
‥‥クリスマスに‥‥おでん?
良いの、クリスマスだからといって詳しくもない料理を無理して作るより、得意な分野で存分に腕を振るった方が喜ばれるに違いないのだ。
「出汁のよく沁みた具材がいっぱいじゃぞ」
「‥‥あ、ほんとだ。美味しい‥‥」
早速取り分けて貰ったセオドアが舌鼓を打った。
「ケーキにも合うねー」
息子のクーはケーキと一緒に頬張っているが‥‥彼の味覚は大丈夫だのだろうかと、ちょっと心配になってくる。
「おーでん?」
「あ、ほんとだ! クーが入ってる!」
双子が指差したのは、まんまるつるんとした玉子。
「セオドアは、これだね」
アネットがこんにゃくを箸で突き刺した。
「何で僕がこんにゃく!?」
「似てるじゃないか。こう、へにゃへにゃくにゃくにゃした所が」
「ひどっ!?」
「これはザックだね。こう、向こう側にスコーンと抜けた所が」
次に、アネットは竹輪の穴を覗く。
「自分だって‥‥」
ぽつり、セオドアが呟いた。って言うか、姉弟揃って竹輪で良いよ、似た者姉弟なんだから。
「おばちゃんは、これかな‥‥」
「ほう、わしは餅巾着かえ?」
クーの言葉に秘色は目を細める。
「うん。お母さんのこと、おふくろって言うでしょ?」
「そうじゃな、空は物知りじゃのう」
言われて、クーはにっこりと嬉しそうに笑った。
「それに、中のお餅もふわふわとろとろで‥‥おばちゃんみたい」
なるほど、自分はクーにそんな風に思われているのか。
「しかし久方ぶりじゃのう。元気にしておったかえ?」
秘色は並んだ三つの頭を順番にわしゃわしゃと掻き混ぜる。
「ちと見ぬうちに背も伸びたかの?」
特に双子の成長が早い。クーは‥‥大器晩成型といったところか。
「おお、そうじゃ。まずはクリスマスプレゼントを渡さねばの」
「プレゼント!?」
「なになに!?」
プレゼントと聞いて、双子は目の色を変える。
「そう慌てるでない‥‥ほれ」
三人の手に、それぞれ綺麗にラッピングされた小箱が乗せられる。
それを双子はビリビリと盛大に破き、クーは丁寧に開いて‥‥
「何だこれ?」
「手回しオルゴールじゃ。見たのは初めてかえ?」
こうして使うのだと教えられ、三人はそれぞれにハンドルを回してみる。
「おー!?」
陸の手の上で回転木馬が回り、海の手では三匹のイルカが競争する様に泳ぎ、そしてクーの手の上では少年の人形が手にした鳥籠が左右に揺れる。
「すっげー!」
「どうなってんの!?」
双子はオルゴールをひっくり返したり、人形をガチャガチャと動かしてみたり‥‥
「あ、だめだよ二人とも。乱暴にしたら壊れちゃうー」
それを見て、クーがオロオロしている。
「構わぬよ。贈ったものじゃで好きに扱うが良い」
「でも‥‥」
「空は中の仕組みを見てみたいとは思わんのかえ?」
「見てみたい、けど‥‥貰った物だし。ありがとう、大事にするね」
見れば、クーは包み紙まで綺麗に畳んでいる。この几帳面さは生来のものなのか、それとも育ての親の影響なのか。
「ああ、僕も包み紙とかリボンは大事にとっておくクチでしたねぇ」
脇からセオドアが口を出した。
「そういえば、クーはハンカチも綺麗に使うんですよ。双子なんかグチャグチャのままポケットに突っ込んであるのに」
「ほう‥‥そうじゃ、小学校に上がったと言うておったのう」
秘色はそれぞれのやり方でオルゴールを楽しんでいる三人に向き直った。
「学校は如何じゃ? 楽しんで――」
「「楽しい!」」
「‥‥は、おるじゃろうの。おぬしらならば」
質問が終わらないうちに返って来た元気の良い返事に、秘色は楽しそうに笑う。
ところが‥‥意外にも双子の片割れが面白くなさそうな顔をした。
「陸はどうした? 何か嫌な事でもあるのかえ?」
問われて、陸は「べつに」とそっぽを向く。
代わりに、クーがそっと耳打ちをした。
「あのね、僕とカイちゃんは同じクラスだけど、りっくんだけ別なんだ」
なるほど。
これまで何をするにも一緒だった彼等にしてみれば、それはなかなかの試練に違いない。
「でも、友達はオレの方が多いぞ!」
「うん、りっくん人気者だよねー」
ぽわわーんとクーが言った。
「それでね、カイちゃんは学級委員なんだよ。僕は、うさぎ委員。学校で飼ってる、うさぎのお世話するんだ」
それはまた、クーらしいと言うか何と言うか。
「クーは休みの間も世話に通ってるんですよ。それに、成績は一番でね。運動はちょっと苦手ですけど、先生にもクーちゃんは良い子ですねって‥‥」
セオドアの親馬鹿トークが炸裂する。
だが、そこは適当にあしらっておくのが正しい対処法というものだ。
「で、ぬしらが気に入った珍獣はどれじゃ?」
「「ぱんだー!」」
「僕は、ふわねずみが良いな」
ここは双子とクーで見事に意見が分かれた。
「どれ、わしも一緒に堪能しようかの」
パンダにプロレス技を仕掛けに行った双子は放っておいても勝手に楽しく騒げるだろう。
秘色はクーの手をとって、ふわねずみ達が集まる一角へ。
‥‥と、その途中で目が合った小便小僧には「分かっておるじゃろうな?」と鋭い視線を投げ‥‥
――びくっ!
その視線を受けて、小便小僧はブルッと身を震わせた。
あの人に逆らってはいけない。本能が、その小さな脳味噌に命じる。
それに、お客様に悪戯をしてはいけないとも言われているし。
所長が怒っても別に怖くも何ともないが、その助手は怖いのだ。多分、あの睨みをきかせた女の人と同じくらいに。
ところが‥‥
「まあ、ジュリアン君ていう名前になったのね♪」
雁久良 霧依(
gc7839)が、その小さな身体を抱き上げた。
マイクロビキニに白衣を羽織ったこのお姉さんには見覚えがある。悪戯をしても怒らなかった、優しいお姉さんだ。
そして今日も、お姉さんは悪戯をしろと言う。
「ほら、ジュリアン君。まずはビリィちゃんに挨拶よ♪」
霧依は抱き上げた小便小僧を下に降ろすと、クリスマスだというのに何やら黄昏れた様子のビリティス・カニンガム(
gc6900)に向けて、その背中を軽く押した。
(ん‥‥折角のパーティだし、楽しまなきゃな)
元気がないのは、最近恋人と会っていないせい、らしい。
しかし、優しいママ‥‥いや、お姉さん的な霧依が誘ってくれた、折角のパーティだ。
ここは少々無理をしてでも明るく振る舞わなければと、ビリティスは精一杯の笑顔を浮かべて小便小僧の頭を撫でてみた。
「へえ、こいつジュリアンていうのかー」
にっこり笑う、小便小僧。そして彼は、おもむろに股間のソレをつまみ上げ‥‥ちょろーん。
「よろしくな‥‥おわぁ!?」
消えた。スカートとぱんちゅが消えた。
「なな何しやがる!?」
顔を真っ赤にして下半身を押さえるビリティス。幸い、他のメンバーからは見えていない様だが‥‥
「これは挨拶なのよ、小便小僧族のね♪」
「‥‥今のが挨拶?」
「そう♪ さあジュリアン君、私にもかけて〜ひゃあん♪」
嬉々として謎の液体をかけられる霧依。
その白衣と、下半身を覆う布きれが消える‥‥が、あってもなくても大して変わらない気がするのは気のせいか。
「まあ‥‥赤ん坊みてえだし仕方ねえか」
その様子を見て、ビリティスは諦めた様に首を振る。
「ビリィちゃん着替えはそこよ〜♪ その衝立の向こう〜♪」
「‥‥って、これが着替え‥‥?」
そこに置かれていたのは、何と紙オムツ。
他にも何やら得体の知れない怪しげな物体が置かれているが、とりあえず見ないふりをして‥‥
「そう、それを穿いてね♪」
「うう‥‥わかった‥‥」
ごそごそ、のそのそ。
こそーり、衝立の陰から顔を出す。
「は、恥ずかしいよ‥‥霧依ぇ‥‥」
「大丈夫、こっちにいらっしゃい♪」
恥ずかしくないよ、宇宙飛行士だってオムツ穿くんだから。
「‥‥う、うん‥‥」
そう言われて、意を決したビリティスはその姿を霧依の前に晒した。
「やーん可愛い♪」
だきゅっ!
「ううう〜」
思いっきり抱き締められ、ますます赤くなるビリティス。
だって、その‥‥霧依さん、殆ど裸だし。
「あ、そうね。私も着替えてくるわ♪」
着替えるって、もしかして‥‥あの怪しげな物体に?
「アーミーマー♪」
やっぱりそうか。って言うか‥‥
「ぶっ! 何だそりゃ! あははは!」
それは、股間に雁の頭が生えたチュチュ。‥‥白鳥の頭が生えたモノは見た事がある気がする、けれど‥‥雁の頭はお初にお目にかかる、かもしれない。
「でもその鳥元気ねえなぁ」
ほんとだ、頭がダラーンとブラーンと垂れ下がっている。
「‥‥この子、撫でてあげると元気になるわよ♪」
「‥‥撫でればいいのか?」
言われるままに、ビリティスは雁の首をそーっと撫でてみる。
「遠慮しなくて良いのよ。もっと、こう‥‥思いっきり‥‥」
「‥‥こ、こうか‥‥?」
お言葉に甘えて、ビリティスは雁の首を両手で掴んで持ち上げ、首筋や頭を扱かう様に擦ってみる。
「そう‥‥上手いわっ‥‥んっ‥‥くぅ」
何故か身悶えしつつ、霧依は隠しポンプで雁の首に空気を送り込む。
きゅこん、きゅこん。
空気が入ってパンパンに膨らみ、元気に立ち上がる雁の首。
「おー! 首が真っ直ぐになったぜ! 面白れーな!」
鳥が元気になった事を、ビリティスは素直に喜んだ。
そう、これはただの、オモチャの鳥。
もしも何か別のモノに見えるなら、それはアナタの心の目がヨコシマな霧で覆われているからだ。
さあ、心の霧を晴らしましょう。そして、あるがままの姿を素直に受け入れるのです。
「んふふっ」
鳥も元気になったし、ビリティスも元気になってきた様だ。
「じゃあ、向こうでパーティを楽しみましょうか」
霧依はビリティスとジュリアンの手をとって、皆の前へ。
雁首コスのお姉様と、オムツ幼女に丸出し幼児。一種異様な取り合わせだが、気にしたら負けだ。
因みに雁首は「がんくび」と読む。決して他の読み方をしてはいけない。
そして会場のお子様達は気にしないし意味もわからないし、読み方も知らない。
ひたすらマイペースで飲み、食い、そして遊びまくっていた。
「リュウナのテンションは既に『マックス』を超えてるのらー!」
マックスを超えた先は何処まで行くのか、それは誰も知らない。
「リュウナ様、今日も可愛いです♪」
ボソリ、呟く龍牙。今日も明日も明後日も、リュウナは可愛い。可愛いに決まってる。
「にゃーにゃー龍ちゃん♪」
「はい、リュウナ様♪」
「サンタさん帽子にゃ♪ どうなりか?」
「はい、それはもう‥‥っ」
可愛い、ただ黙ってそこに居るだけでも可愛いのに、サンタ帽なんか被ったりしたらもう、それは犯罪レベルの可愛さだ。
「モフモフ! モコモコ! ココは天国なりかー!」
ええ、天国ですとも。リュウナの可愛い姿を堪能出来るならば、龍牙にとってそこは天国。
「龍ちゃん! 龍ちゃん! モコモコヒツジさんにゃ! フニャッ! アッチはモフモフにゃ! にゃー! あかしろパンダなりー! ニャッフー!」
パンダの腹に、ぼふーんとダイブするリュウナ。
(あぁ、モコモコで楽しむリュウナ様♪ モフモフで楽しむリュウナ様♪ どれも最高です!)
ああもう、どうしてこんなに可愛いんだろう。
「‥‥、‥‥‥‥」
いけない、鼻血が。
でも、さっきからどうも‥‥誰かひとり足りない気がするのだが。
「にゅ? 龍ちゃん、どうしたナリか?」
「あ、いいえ‥‥」
問われて、龍牙は思い出した。
そうだ。彼‥‥リュウナが誘った筈の、西島 百白(
ga2123)がいない。
「それにしても、西島さん遅いですね?」
「にゃ! そういえば遅いなりね? 建物内で迷子なりか?」
これは、探しに行った方が良いだろうか。
「リュウナ様、私はチョットあの白いの探して来ますので♪」
イグニートを片手に龍牙は立ち上がる。
「にゅ? 龍ちゃん探しに行くなりか?」
「はい。リュウナ様は、思う存分楽しんで下さいね♪」
「行ってらっしゃいなり〜♪ お化けに気をつけてにゃ〜♪」
赤白パンダをもふりながら手を振るリュウナ。ついでにパンダにも手を振らせてみる。
その頃。
その白いの‥‥百白は、研究所の外に広がる森の中をウロウロしていた。
「‥‥‥‥」
つまり、迷子だ。
しかし迷ってしまった百白に罪はない。多分。
何しろこの研究所は広い上に、キメラの脱走防止の為にその殆どが地下に造られているのだ。
しかも森の木々に隠れる様にひっそりと建っているとなれば‥‥まあ、迷わない方が不思議だろう。
その為、傭兵達を招待する時は集合場所をUPC本部に設定し、そこから専用機で送迎を行うのが常だった。
今回も仕事ではないとは言え、送迎機の用意はしてあるが、百白は敢えて自力で辿り着く道を選んだらしい。
うろうろ、うろうろ‥‥百白は見当を付けた辺りをひたすら歩き回る。
そして漸く、ひとつの入口を発見した。
「‥‥ここか」
入口と言うか‥‥煙突? いや、排気口と言うべきか。
地面から突き出たそれには鉄格子が嵌められていたが、他に入れそうな場所は見当たらない。
「‥‥ふんっ!」
鉄格子を無理やり引っぺがし、百白は排気口の中に身体を滑り込ませた。
と、その途端‥‥
「!?」
滑った。
急傾斜の付いた排気口の中を、百白の身体は弾丸の如く滑り落ちて行く。
そして‥‥
「‥‥っ」
吐き出された。何処ともわからない場所に。
「‥‥あー」
途中であちこちぶつけたらしく、肘やら腰やら頭やら、至る所がズキズキと痛んだ。
痛む所をさすりながら、百白は周囲を見回してみる。左右に続く無機質な廊下。案内表示など、勿論ない。
「‥‥」
とりあえず、歩き出した。
「‥‥」
こっちは行き止まりか。引き返して‥‥
「‥‥あれ?」
こっちも行き止まり?
仕方ないから、手近なドアを開けてみる。そこには‥‥牙を剥いたサーベルタイガーが!
「‥‥!」
牙には牙を、百白はジャイアントクローを構え、腰を低く落とす。
「ガルルルル‥‥」
が、何かおかしい。相手はこちらを向いたまま、尻尾を足の間に挟んで後ずさりしているではないか。
‥‥そうか、ここは人に危害を加えない珍獣キメラを収容する場所。と言うことは、このサーベルタイガーにもきっと、敵意はないのだ。
ただ、そのやけに目立つ牙を隠す事が出来ないだけで。
「‥‥戦場での‥‥癖‥‥だな」
百白は武器を収め、サーベルタイガーにそっと近付く。
「‥‥すまなかった。ところで‥‥」
頭を撫でながら、出口を知らないかと訊ねてみる。
「‥‥向こうか」
通じた。なんか通じた。やはりトラ同士だからか。
サーベルタイガーに礼を言って、百白は歩き出す。さて、パーティが終わるまでに辿り着けるだろうか‥‥
「‥‥龍ちゃん、遅いなりね」
赤白パンダをもふりながら、リュウナは時計をチラリと見る。
モコモコを案内役に連れていけば良かったのにと思いながら、さっきから何度それを繰り返しただろう。
「チョット心配になって来たのら。けど、リュウナ建物のアレ解らないのら‥‥」
どうしよう。
「にゃ! ひらめいたのら!」
何か良いことを思い付いたらしく、リュウナはパンダに向き直る。
「あかしろパンダ! 建物内を案内するのら! ついでに、背中に乗せるのら! 今からお前は『ヌコ+くまーでニャグマ』にゃ!」
問答無用で、ぼんやりしているパンダの背中によじ登る。
「ちょっと探しに行ってくるのら〜♪ あ、リュウナの分のお菓子も残して欲しいのら!」
はいはい、行ってらっしゃい。
迷子にならないようにね。
その頃、龍牙は‥‥
「‥‥、‥‥‥‥、‥‥無駄に広いですね、ご先祖様が貴族だったと言うのは本当らしいですね」
独り言にしてはやけに大きな声で喋りながら、誰もいない廊下を進んでいた。
「‥‥でも、貴族なら貴族らしく‥‥もっとこう、廊下も華やかに飾ってみれば良いと思うのです」
殺風景な廊下に、自分の声と足音だけが響いている。
次第に、この建物の中には自分以外に誰もいないのではないか‥‥そんな気がしてきた。
いるとしたら‥‥イギリス名物のお化け、とか‥‥
ああ、リュウナがお化けに気をつけてなんて言うから、気になってきたじゃないか。
「‥‥こ、怖いから喋っているのでは有りませんよ! 『しゃくのつごう』ですから!」
頭の隅に湧いた嫌な考えを吹き払う様に、龍牙は大きな声で叫んでみる。
「違いますから! 怖くないですから!」
と、その時‥‥
ギイィィ‥‥バタン。
「‥‥っ!!」
曲がり角の向こうから聞こえた物音に、心臓が飛び出しそうになる。
怖くない、怖くない。お化けなんか、このイグニートで‥‥っ!
だが、思い切って飛び込んだ廊下の先には。
「‥‥ガゥ」
「‥‥っ、‥‥って、西島さんですか‥‥」
ほっと胸をなで下ろすと、安心したせいか膝がカクカク笑い出しそうになる。
それを悟られまいと、龍牙はことさら強い調子で質問をぶつけた。
「こんな所で何してるんですか!」
「すまない‥‥遅れた。‥‥驚かせた、か‥‥?」」
「お、驚いてなんかいませんよ!」
だが、そんな強がりは百白には通じなかった様だ。
ぽふん。百白の大きな手が龍牙の頭に置かれる。
ぽふぽふ‥‥なでなで。
「‥‥、‥‥‥‥」
なんだか、鼻の奥がきゅんとする。
気のせいか、胸の奥まできゅんとしている、様な。
「ちょっと、怖かったですよ!」
「‥‥ん」
照れ隠しなのか、まだ怒った様に言う龍牙の身体を、百白はそっと抱き締めた。
「‥‥」
「‥‥もう少しだけ、こうしてて下さい‥‥」
そんな良い感じの二人を曲がり角の向こうから覗き込む、怪しい影。
「にゅ、『おとりこみちゅう』なりね♪」
によによ。
「ニャグマ、引き返すなりよ♪」
そっと耳打ちして、後ずさりするリュウナと赤白パンダ。
だが、リュウナの気配に気付かない龍牙ではなかった。
「って! リュウナ様! いたんですか!」
慌てて離れ、追いかけようとする。
「何処行くんですか! 待ってください! リュウナ様!」
「お邪魔虫は退散なりよ〜!」
「‥‥ガゥ」
三人と一匹は、その後も暫く迷い続けたらしい‥‥?
「‥‥メリークリスマス」
ようやく会場に辿り着いた百白は、早速料理に手を伸ばそうとして‥‥
「‥‥」
その目がジンジャーブレッドキメラ、ジンの姿に釘付けになった。
物陰に身を隠し、獲物を狙う獣の眼でじっと見続ける。
「‥‥じゅるり」
しかし、その獲物はXの肩に乗ったまま動こうとしない。襲いかかる隙を見出す事は出来なかった。
仕方なく、テーブルの魚料理に手を伸ばす。
幸い魚料理は余り人気がない様で、誰も手を付けないままに残っていた。
「‥‥もぐもぐ」
うん、美味い。
「なんだよ、みんな肉ばっかり食いやがって‥‥」
文句を言いながら、助手のZが新たな肉を焼きに行く。
そして、追加された肉を見て‥‥
「バッテン印‥‥肉食え‥‥肉‥‥」
百白はXの目の前に大量の肉を積み上げた。
「え、ちょ‥‥っ、こんなに無理ですよ!?」
ぷるぷると首を振るX。
しかし百白はキラリと光る目と、ナイフの先をその肩に向けた。
「それか‥‥コイツか?」
「こ、この子は食べ物じゃありませんってば!」
「だったら‥‥食え」
どーん! 更に倍!
「‥‥わ、わかりました‥‥食べます、食べますから、そんな目でこの子を見ないで下さいっ!」
涙目になりながら、ジンジャーブレッドキメラを守ろうとするX。
ちょっと、からかいが過ぎただろうか。
でも良いよね、これくらい。クリスマスだし、相手はXだし。うん。
部屋の隅では、妙な仮装(?)をした三人が料理を楽しんでいた。
と‥‥ビリティスが何やらもじもじと動き始める。
(あ‥‥しっこしたくなっちゃた‥‥)
もじもじしながら、隣の霧依をちらり。
(トイレはあるけど‥‥今オムツだし‥‥こ、このまましたら、またオムツ替えてくれるかも‥‥ええいやっちゃえ)
――ちー‥‥
「ふあああ‥‥」
なんか変な声が出た。
って言うか、気持ちいい。何だろう、この得も言われぬ満足感‥‥
「あの、霧依ぇ‥‥」
つんつん、霧依のチュチュを引っ張ってみる。
「ん‥‥? どうしたのかしら♪」
こしょこしょ、ぽしょぽしょ。
「まぁ‥‥♪」
告白を聞き、霧依は満面の笑顔と共に席を立った。
「すぐに替えてあげるわ♪」
「‥‥うん!」
ジュリアンと三人、衝立の向こうへ。
しかし、優しくオムツを替えてくれると思った霧依は‥‥
「ビリィちゃん‥‥おトイレあるのにオムツ使っちゃうなんて‥‥まずはお仕置きしないとね♪」
「え‥‥っ」
濡れたオムツをぺろんと剥がし、膝の上に抱えて‥‥お尻をぺちん。
「ごめんなさぁい‥‥ふえぇん‥‥」
いや、そんなに痛くない筈だけど?
「さ‥‥替えましょうね♪」
用意したケア用品で丹念に手入れして、替えのオムツを穿かせて‥‥はい、出来上がり。
後はペンペンしたお詫びに、思い切り甘えさせてあげようか。
「いらっしゃい‥‥♪」
ビリティスとジュリアンを両腕に抱え、抱き締める。
「ん‥‥霧依‥‥霧依ママぁ‥‥♪ ちゅっ」
「あン‥‥っ」
ちゅうちゅう、すりすり‥‥すうぅ。
「‥‥くーくー‥‥」
「二人とも寝ちゃった‥‥可愛い天使達ね♪」
天使の笑顔で満足そうに眠る二人を見つめ、霧依は聖母の笑みを浮かべる。
その笑顔に下心は‥‥ない筈が、ないと思うけど。
「まあ、三人とも元気そうで何よりじゃよ」
三匹の怪獣が勝手に遊び始めたのを見て、秘色は一升瓶を手にセオドアの隣に座った。
「空は相変わらずおっとりのようじゃが、まあ‥‥育てておるのがおぬしじゃからのう」
それは‥‥褒め言葉なのだろうか。
うん、そう思っておこう。
「空は犬が苦手じゃったと思うたが、近頃はどうじゃ?」
「そういえば、最近はそれほど怖がらなくなりましたね。子犬くらいなら大丈夫みたいですし‥‥今も」
大型犬のワンが近くにいても平気な様だ。
もっとも、ワンは常に飼い主が傍についているし‥‥何より大人しいが。
「それは、良い傾向じゃのう。‥‥して、どうじゃ?」
「はい?」
「父親として、何か困り事はないかえ? 子育ては一応先輩じゃ。何ぞあれば、わしに相談するが良いぞえ」
「ありがとうございます。でも‥‥そうですねぇ‥‥」
とりあえず、困った事はない。強いて言えば、困り事がないのが困ると言うか。
「クーは良い子ですからね‥‥まあ、その良い子すぎる所が却って心配だったりもするんですけど」
「ふむ、なるほどのぅ」
手酌で酒を注ぎつつ、秘色は話に花を咲かせる。
と、そこへ‥‥
「おばちゃん!」
「カラオケやろーぜ!」
「一緒に歌おうよ」
三匹の怪獣が乱入してきた。
「よしよし‥‥で、何を歌うのじゃ?」
「これ!」
怪獣達が指定したのは、誰もが知っている有名なクリスマスメドレーだ。
秘色は何処からともなくしゃもじを取り出し、熱唱スタート!
どことなく演歌調なクリスマスソングが大音量で流れる中、パーティーはそろそろ終わりに近付いていた。
「久々だな‥‥余計なことを‥‥考えなかったのは‥‥」
後片付けの手伝いをしながら、百白はぽつりと呟いた。余計な事とは、襲撃やら何やら‥‥物騒なあれこれの事だ。
まだまだ、世界が完全に平和になったとは言い難い。
傭兵が不要となる世界は、そう簡単に訪れはしないだろう。
「さて、戦場に‥‥行ってくるか‥‥」
百白は眠り込んでしまったリュウナを背に負って、立ち上がる。
「戦争のない、子供達の未来のために」
と、格好良くキメてみた。
‥‥あ、帰りは迷子にならないように‥‥ね?