タイトル:【HD】救出・動物園マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/15 18:51

●オープニング本文


 旭川要塞は傭兵達の尽力により解放された。
 そこに捕らえられ、要塞維持要員として労働に従事させられてきた人々も無事に救出され、今では家族と共にUPCの一時避難施設に落ち着いていた。
 だが、そこで暮らしていたのは‥‥暮らす事を余儀なくされていたのは、人間達だけではない。

 要塞の中には動物園があった。
「この近くにあった動物園を、ごっそり持って来たんですよ‥‥飼育員ごと、ね」
 そう言った男性も、動物と一緒に拉致された飼育員のひとりだった。彼等は他の人々が兵士として駆り出された時も、普段と変わらずに動物達の世話をしていたらしい。
「あのリリアンって子は、動物の管理には結構気を遣ってくれてね。俺達の意見はちゃんと聞いてくれたし、必要な物は全部揃えてくれたし‥‥」
 日光浴も出来ない檻の中とは言え、訪れる人もない静かな環境は、動物達にとっては悪くない住まいだったのかもしれない。
「あの子、暇さえあれば動物達を見に来ていたんですよ。いつも独りで、退屈そうで、寂しそうで‥‥でも声をかけると怒り出して。かといって、放っておいても機嫌を損ねるし」
 飼育員の男性は、ふと寂しそうな笑みを浮かべた。
「動物園にいる時は、何だか本当に‥‥ただの子供だったなあ」
 しかし、そのリリアン・ドースンはもういない。
 彼女の為だけに作られたものは全て、その役目を終えた。動物達も、元の場所に帰してやらなければ‥‥

 飼育員達が救出された日、手元にある限りの餌を置いて来た。しかし、今頃はそれもなくなっているだろう。新鮮な餌しか食べないものは、もうとっくに腹を空かせているかもしれない。
 空調等のシステムは自動制御だが、掃除は人の手で行う必要がある。汚れた環境でストレスを溜めたり、病気になったりしている動物もいるかもしれない。
 本来なら動物の移送は飼育員や獣医が体調を見ながら行うものではあるが、要塞の中にはまだキメラや無人ワームの類が残されている可能性もあった。
「お願いします、俺達の代わりに‥‥あいつらを、迎えに行ってやって下さい」
 自分も行きたいのはやまやまだが、足手纏いになるだけだから‥‥と、飼育員は残念そうに言って頭を下げた。

●参加者一覧

リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

「‥‥代わりと言わず、一緒に迎えに行きませんか?」
 笑顔で語りかける那月 ケイ(gc4469)の言葉に、飼育員は目をまん丸に見開いた。
「え、でも‥‥」
「あなたの護衛は俺達が責任を持って引き受けますから」
 きっぱりと言い放ったケイは、改めて確認を取る様に仲間達を見る。異を唱える者はいなかった。先輩格のリヴァル・クロウ(gb2337)など、成長した息子を見守る父親の如き眼差しを向けている。
 その視線に笑顔で頷き返し、ケイは飼育員に向き直った。
「あなたが居てくれた方が、移送も楽になるだろうし‥‥それに」
 くすりと笑って、一言。
「顔に書いてありますよ、行きたいって」
 ならば、協力は惜しまない。護衛に割ける人数は多くないが、護りきれる自信はあった。
「あ、ありがとうございますっ!」
 バネ仕掛けの人形の様にお辞儀を繰り返すと、飼育員はそれまで以上に張り切って出発の準備を始めた。
 新鮮な肉や魚、野菜、果物、薬やサプリ、移送用の檻に敷く資材や、万一の為の応急処置のセット、その他あれもこれもと、思い付く限りの物資を運び込む。
 ケイが借りたトラックの荷台はたちまち一杯になり、助手席にさえ溢れ出す勢いだった。
「私達は‥‥荷台の脇にでも掴まって行きましょうか」
 それを手伝いながら、ラナ・ヴェクサー(gc1748)が苦笑いを浮かべる。どうせ鉄道駅までの短い距離だし、たまにはワイルドな乗り方をしてみるのも楽しそうだ。

 やがて荷物と人を満載した加重オーバー気味のトラックは、懸命にエンジンを唸らせながらゆっくりと走り出した。
「電車で運ぶんだっけ。でも駅ってどこ?」
 北側から要塞に入るのは初めてとなるエレナ・ミッシェル(gc7490)が、辺りをきょろきょろ。乗りかかった船だし、動物達も一緒に助けるつもりではいるが、この辺りの地理はよくわからなかった。
「あ、大丈夫です、わかりますから」
 運転席から飼育員の返事が聞こえた。一般人にワイルド乗車をさせる訳にはいかない。となると、彼がドライバーを務めるのが自然な流れというものだろう。
 トラックは壊れたままになっている侵入口から要塞内部へ入ると、床のレールを辿って近くのターミナルへ向かう。
 今や無人となった要塞はひっそりと静まりかえっていた。しかし人々を避難させる際に使われた事もあって、電車はすぐにでも動かせる様になっていた。
 連結されていた客車を移送用のコンテナに付け替え、トラックの荷物を運び込む。傭兵達はその間にも周囲の警戒を怠らなかったが、周囲を徘徊する野良キメラの散発的な攻撃を受ける程度で、作業は滞りなく進んだ。
「前回の侵入で、防衛システムや監視カメラは殆ど壊しましたから‥‥」
 ラナが言う様に、この辺りは破壊済みの区画だった。監視の網が作動していない以上、敵がこちらの侵入に気付くまでには間があるだろう。恐らく、組織的な妨害に遭うのは帰路に就く時。今はまだ、それほど神経を尖らせる必要もないだろう。
「シロクマとか狼とか、いますか?」
 ガタゴトとレトロな電車に揺られながら、ケイが尋ねた。
「ええ、いますよ。立派なオスのシンリンオオカミが」
 答える飼育員は、何やら自慢げだった。狼は彼の担当なのだろうか。
「虎とかライオンがいたら、ペットにくれないかなー。ねえ、ペットにしても良い?」
 エレナの突拍子もない問いに、飼育員は首をぶんぶん振り回す。
「だだだ駄目ですっ! あれは猛獣なんですよ!? 人間がペットに出来る様な動物では‥‥」
「大丈夫、キメラと比べたら弱い筈だしー♪」
 キメラを基準に考えるのもどうかと思うし、そういう問題でもない気がするが、エレナの中では猛獣ペット化計画の推進は確定事項らしい。
 飼育員の顔から血の気が引いて行く。仲間達も何やら心配そうに事の成り行きを見守っているが‥‥まあ、大丈夫‥‥だと、良いな。
 しかし、実際にどんな動物がどれくらい飼われているのだろう。
「‥‥救出を待っている動物の‥‥数と種類を教えて頂けますか?」
 ラナがメモを取りながら尋ねると、飼育員は思い付くままに動物達の種類を並べ始めた。
「ゾウ、キリン、シマウマ、ライオン、ヒョウ、カバ、サイ、ホッキョクグマ、レッサーパンダ、アザラシ、オランウータン、ホワイトタイガー、カンガルー、アルパカ、バク、フラミンゴ、ゴリラ、ラクダ、ダチョウ‥‥、‥‥ウ、ウ‥‥ああ、ウサギもいます!」
 最後は何故かしりとりになっている。
 その他にも多種多様、大都市にある様な規模の大きな動物園でも、これだけ揃えるのは難しいだろうと思える程の動物達が揃っていた。
 それを全て移送させるとなると、一日や二日では終わりそうもないが‥‥
「でも、どの動物も一頭だけなんですよ。その‥‥リリアンの意向で」
 大抵の動物園では、余程の事情でもない限り複数の個体を飼育しているものだ。しかし、ここには群れで飼われているものはいない。ニホンザルやペンギンといったものまで、全て単独で飼われているという事だった。
 まさか、群れで飼うだけの費用や場所がなかったという訳でもないだろうに。
「‥‥リリアンの意向、か」
 それも彼女の心情を推し量る手がかりになるかもしれないと、端で聞いていたリヴァルは思う。
 リリアンとの最後の交戦の時、「君」から「貴様」へと無意識に呼称を変えた。その点に彼女は反応し、こう言った。
 ――ヒドイじゃない‥‥
 敵愾心だけならば、気付きもしない些細な事だ。だが、其処に反応した彼女の心が何を求めていたのか‥‥そのヒントが有るかもしれない。
 彼女が残した‥‥この場所なら。

 動物園駅は全体がパステルピンクに塗られ、ホームや待合室には可愛らしくデフォルメされた動物達のオブジェが溢れていた。駅舎の出口には、丸っこいキリンが向き合った形のカラフルな門がある。そこを抜けると、もう目の前に動物達の姿が見えた。
 待ちきれない様子で駆け出した飼育員を追って、傭兵達も園の中へと足を踏み入れる。
 誰もいない、静かな動物園。
 残された動物達の様子を見て回る飼育員について歩きながら、ケイはこの施設を作ったリリアンに思いを馳せていた。
(‥‥わざわざ動物園を作って1人でここに来て、リリアンは何を想っていたんだろうな)
 動物達は暫く放置されていた割には毛艶も良く、元気そうに見える。飼育員の姿を見て甘えた声を上げている所を見ると、普段から大切にされているのだろう。
「ほんと、あの子は動物達には優しくてね‥‥」
 狼の首筋を撫でながら、飼育員が言った。
「日光浴が出来ないと病気になるって言ったら、月に何度か外に連れ出す事を許してくれたりね」
 その時に使う移送用の檻が、今回も使えるだろう。動物達も多少は慣れているから、誘導もそう難しくない筈だ。
「普段は‥‥どう誘導しているのですか?」
 飼育員に付いて檻を回り、設備に破損等の異常がないかをチェックしながら、ラナが尋ねる。
「小さくて大人しい動物はリードとハーネスで充分です」
 頭の良い動物は自分から檻に入ってくれるらしい。後は餌で釣ったり、おだてたり、宥めすかしたり‥‥中には扱いが難しい動物もいる様だ。
 その辺りは専門家に任せるとして、ラナは自分達でも誘導出来そうな動物達に目星を付け、餌の好みや躾、注意点などを訊いていった。
「‥‥どうやら、具合の悪くなった動物はいない様です」
 一通り見回って、飼育員は安堵の溜息をついた。中にはストレスのせいか落ち着きのない動物もいる様だが、ここから連れ出せばそれも治まるだろう。
「じゃあ、誘導を始めようか。‥‥と、やっぱり順番も考えた方が良いんですよね?」
 ケイが飼育員の指示を仰ぐ。
「まずは管理の難しい奴と、ストレスを溜め込んでいる奴ですね」
 健康状態に問題がない動物は置いて行くしかないだろうと、飼育員は考えていた。一度に運ぶのは無理だし、そう何度も傭兵達の手を煩わせる訳にはいかない。安全さえ確保されれば、後で仲間の飼育員達と来る事も出来るだろう。
 その指示に従って動物達を檻やケージに収めて、列車まで運ぶ。かつてはリリアンお気に入りの施設にはワームやキメラ等は入れない様になっていたらしいが、今は状況が変わっているかもしれず、警戒は怠らなかった。
「しかし、どれも一頭きりというのも不自然だし、動物の為にも良くないのではないだろうか」
 立派なペンギンの池や大きな猿山を見ながら、リヴァルがそんな疑問を口にする。
「ええ、俺達もそれは言いました。一匹じゃ可哀想だから仲間を増やそうって‥‥でもそれだけは、とうとう聞き入れて貰えなくて」
 何故だろう。リリアンはここでどんな時を過ごし、何を感じていたのか。飼育員の話には何かしらのヒントがあるかもしれない。
「可哀想とか、寂しそうとか‥‥自分でも言う事はあったんですけどね」
 自分と同じだと、そうも言っていた。
 人質の子供だけを隔離していたというのも、根は同じなのかもしれない。

 大人しい動物達の誘導は順調に進んだ。
 しかし、問題は‥‥ただでさえ気難しい上に、汚れたトイレがお気に召さずにストレスを溜めまくっていた大型猫科動物達だ。
 一頭で飼われている割には広々とした飼育スペースを、苛立たしげに歩き回るライオンや虎。飼育員にも唸り声を上げる超不機嫌な彼等を‥‥さて、どうしようか。
「そういう事なら、私の出番だね♪」
 颯爽と登場したエレナさん、そう言えばペットにするとか言ってた様な。
 とりあえずペットにする為にも、大人しく言う事を聞かせる為にも、タイマン勝負は外せない。強い者には絶対服従、それが野生の掟なのだ。
 という事で、覚醒したエレナは飼育員の制止も聞かずに猛獣舎に飛び込んで行った。
「もっちろん素手でだけどねー♪ まぁ余裕っしょー♪♪」
 それはまあ、余裕だとは思うけど。余裕すぎて怪我させたりしないよね? 信用してるからね?
「だいじょーぶだいじょーぶー♪」
 ギャラリーの心配を余所に、エレナは手を叩く音でライオンを挑発し、飛び掛かって来た所をがっしりと受け止め、押さえ付け、ひっくり返してお腹を上に向ける。
 あっという間に降参のポーズを取らされてしまった百獣の王は、状況を理解する間もなく、小さな猛獣を背中に乗せるハメになってしまった。
 ライオンの背に跨がって場内を回るエレナの姿に、半ば呆れつつも微笑ましく見守る仲間達。若いって良いなあ。
「ねえ、それでどこに連れてけば良いの?」
「あ、はい、こっちです!」
 跨がったまま、移送用の檻へ誘導するエレナ。とりあえず、結果オーライ?

 やがて移送用のコンテナも一杯になり、出発の時が来た。
「ごめん‥‥ね」
 置いて行かれる事を感じ取ったのか、悲しげな瞳で見つめる動物達。その身体に触れ、撫でながら、ラナが言った。これで少しでも落ち着いてくれると良いのだが。
「出来れば皆連れて行きたい所ですが‥‥何度も往復して頂くのは申し訳ないですし」
 その背に飼育員が声をかける。だが、ラナは首を振った。
「私は‥‥構いません」
 寧ろ何度でも往復して、全ての動物をここから出してやりたい。
 その言葉に、リヴァルは少々驚きの色を見せた。彼女に対して、これまでは目的の為に感情を殺す、歳不相応に冷徹な印象を持っていたのだが‥‥どうやら修正が必要な様だ。
「優しいのだな。‥‥解った、同行しよう」
 他の者にも異存はなかった。もし軍や外部から何か言って来たら、その時は自分が全責任を負うと言えば良い。
「ありがとうございます」
 そう言って微笑むラナは、少女の顔をしていた。

 ガッタンゴットン、来た時よりも重そうな音を響かせながら、列車は一路ターミナルへ。
「キメラとかに遭遇しないといいねー」
 窓から身を乗り出しながら、エレナが言う。そんな事を言うから、ご期待に応えて‥‥という訳でもないだろうが、出た。
 時間的に、そろそろ発見される頃合いだったのだろう。飛行型のワームに先導されて、ぞろぞろわらわら、巨大な蜘蛛や蠍、蛇、ナメクジ等の雑多なキメラが押し寄せて来る。
「彼の護衛は‥‥ケイ、君に任せる」
 線路上にひしめくキメラを轢き殺しつつ、その真ん中で列車を止めたリヴァルは、そう言うと閃光手榴弾を投げ付けた。音と光で怯ませた隙にラナと共に車外へ出ると、銃撃で一気に押し返して列車の周囲に空間を確保する。
 飼育員を託されたケイは、彼を背後に庇って剣と盾を構えた。敵の殲滅は仲間に任せ、自分は守護に徹するつもりだった。
 飼育員も、動物達も、絶対に傷付けさせない。ボディガードで全て肩代わりしてでも、守ってみせる。
 ただ、ボディガードの効果範囲は狭い。飼育員と動物達の両方を一人で守るのは無理があったが‥‥心配には及ばない様だ。
 コンテナの上からエレナの二丁拳銃が火を噴いた。制圧射撃で足を止め、頭を狙って動きを止める。体液が飛び散り、鼻をつく異臭が辺りに広がった。
 数は多いが戦闘力はさほどではなく、組織だった動きもないキメラ達が、傭兵達が張る弾幕を抜けて来る事は殆どない。たまに突破を果たすものがいても、列車に近付く前にリヴァルが叩き、瞬時に先回りしたラナの緋爪が切り裂く。ごく稀にそれさえ潜り抜けるものが現れても、ケイの盾に弾かれ、頭上からエレナの銃に狙い撃ちされた。
 やがて異臭を放つ残骸の山を残し、列車は静かにその場を離れる。
(先輩に、少しは成長した所を見て貰えたかな)
 ケイはちらりとリヴァルの方を見る。しかし今回の敵は、腕を見せるには少々物足りなかったかもしれない。
 それに安心するのはまだ早い。全てが終わるまで、油断は禁物。
 ケイは気を引き締めると、窓の外へ注意を向ける。その間も、常に飼育員を守れる位置に立つ事は忘れなかった。
 成長の証‥‥それは技術や力量ばかりではなく、そうした姿勢にこそ存るのかもしれない。


 そして群がる敵を倒しつつ、何度かの往復を終え‥‥
 外部から横槍が入る事もなく、動物達は皆、無事に引っ越しを終える事が出来た。
「良かったね‥‥」
 ラナが一番最後に運ばれてきたロバの背を撫でる。
 彼等の新居となる動物園では、彼等にも新しい仲間や家族が増える事だろう。開園はまだ先の事になるだろうが‥‥
「その時は是非、皆さんで遊びに来て下さい」
 何度も頭を下げながら、飼育員が言った。
 エレナの猛獣ペット化計画は、残念ながら実現には至らなかった様だが‥‥その代わり、バックヤードで戯れる分には構わない、らしい。
「皆には内緒ですけどね」
 ‥‥って、良いのだろうか。
 まあ、ご利用は自己責任でお願いします‥‥ね。