タイトル:サンゴ DE サンバマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/23 22:54

●オープニング本文



 大通りの真ん中に、サンゴが生えた。
 それはそれは枝ぶりの良い、真っ赤なサンゴ。

 それは、両腕の様に見えるひときわ大きな枝に持ったマラカスをシャカシャカ振りながら、サンバのリズムに乗って陽気に腰を振っていた。
 いや、サンゴに腰などない事は承知の上だ。しかし、そう見えるものは仕方がない。
 それ以前にサンゴが地上に、しかも大通りのど真ん中に生えるかという問題もあるのだが、現に生えているのだから、それも仕方がないのだ。

 マラカスを振り、腰を振る度に、見事に茂った枝がわっさわっさと揺れる。
 ついでにマラカスから何か細かい粒子が、ふわりふわりと舞い立った。
 細かな粒子は風に乗って人々の鼻に、或いは余りの出来事にポカンと開けっ放しになった口の中に吸い込まれる。
 するとどうだろう。人々の顔に何やら陽気な笑みが広がり始めたではないか。
 世の理不尽を嘆き悲しみ悲嘆に暮れるシワだらけの顔も、日々の生活に疲れてやつれた顔も、青春の悩みを抱えたニキビだらけの顔も、見るからに何も考えてなさそうなボンヤリした顔も、爆発寸前のリア充のユルみきった顔も‥‥全てが明るく輝き、希望に満ちた表情になる。
 底抜けに明るく開放的な気分になった人々は仕事や用事を放り出し、我を忘れて、肌も露わにサンバのリズムに乗って踊り出した。
 通りに並ぶ商店は一斉に大安売りを始め、町には原色が溢れ、紙吹雪が舞い、楽器店が無料で放出したマラカスやカスタネットの音が響く。

 シャッシャカシャッシャカ♪
 ズンチャカテケテケ♪

 陽気なリズムと音楽に乗って、人々は踊り、笑い、飲み、食い、歌い、思う存分に人生を謳歌していた。
 ああ、人生って素晴らしい!
 生まれてきて良かった!
 神様ありがとう!

 普段は無気力と怠惰と閉塞感に満ち溢れたその国で、その場所だけが熱気と活気に溢れていた。
 その様子はまるで本場のカーニバル、いや、それよりもっと漲るパワーに溢れているかもしれない。


 そんな、この上もなく幸せそうな人々の夢を壊すのも野暮と言うか、無粋な気がする。
 しかし‥‥これはどう考えてもキメラの仕業だ。
 ならば、退治するしかない。
 ないったらない。
 異論も異議も認めない。

 ‥‥退治、出来るかどうかは‥‥知らないけど。
 まあ、一応やってみてくれるかな? かな?

●参加者一覧

ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP
御名方 理奈(gc8915
10歳・♀・SF
エイルアード・ギーベリ(gc8960
10歳・♂・FT

●リプレイ本文

 時と場所を完全に間違えたまま、大いに盛り上がっているカーニバル会場。人々が思い思いの格好で踊り狂うその路上に、五人の戦士が颯爽と現れた。
 横一列に並んで進む戦士達の姿に、ノリの良い楽師が何処かで聞いた様な刑事ドラマのテーマ曲を奏で始める。その曲に乗って、名乗りを決めてみようか。
「どんな奴だろうとキメラならぶっ倒すだけだぜ!」
 自称大海賊の末裔、セーラー服も眩しいビリティス・カニンガム(gc6900)が鉄槌「メテオライト」 をぶん回す。
「面白いキメラね♪ 楽しめそうだわ♪」
 快楽主義者にして博愛主義者、黒のマイクロビキニに白衣を羽織った雁久良 霧依(gc7839)は超機械「ヘスペリデス」を構えて妖艶な笑みを漏らした。
「せるっす! ボクの拳でぶっ飛ばすっすよ!」
 旋棍「輝嵐」を携えたセーラー服姿の元気娘、雛山 沙紀(gc8847)はぎゅっと拳を握る。
「なんか楽しそうだね! あたしも踊りたーい♪」
 超機械「フラン」を腕に光らせ、タンクトップをワンピースの様に着こなす御名方 理奈(gc8915)の場合、何か間違った方向に行っちゃってる気がするのは気のせいだと思いたい。
「は、早く倒した方が良さそうですね。嫌な予感しかしません‥‥」
 フリフリのゴシックワンピースに身を包んだ少年、エイルアード・ギーベリ(gc8960)は、眼前に展開される陽気なパフォーマンスに圧倒されている様だ。
 しかし、そんなものはまだまだ序の口に過ぎなかったのだ。
「皆さん、これを吸わない様に‥‥って!」
 謎の粒子に抵抗を試みる真面目なエイルアード。だが仲間達の誰ひとりとして、その忠告に従う者はいなかった。寧ろ嬉々として、胸いっぱいに吸い込んでいた。って言うか、皆さん最初からそのつもりだったんじゃ‥‥?

 かくして、戦士達は戦わずして敗れ去った。
 ただひとり謎の粒子に抵抗した勇者、エイルアードを残して――

「ほへっ!?」
 粒子を吸い込んだビリティスが、何やら間の抜けた奇声を上げる。
「あ、何だか‥‥楽しくなってきちまったぜ! ヒャッホー!」
 着ていたものを次々と脱ぎ捨て、終いには白のキャミソールに女児ショーツだけの恰好になって、ノリノリで踊り始めた。まあ、下着だけでも着てるなら大丈夫‥‥と思ったら。
「ビリティスさん何やってるんですか!」
 その路上ストリップを見て、エイルアードは顔を真っ赤にしておろおろわたわた。純な少年にとっては、それさえも刺激が強すぎる様だ。
「雁久良さん! 年長者なんだから止めて‥‥っ」
 だがしかし、こういう場合は得てして年長者の方が歯止めが利かなくなるものだ。
「‥‥ああ〜ん♪ なんだかイイ感じぃ♪」
 思いっ切り粒子を吸引した霧依は、白衣を脱ぎ捨てマイクロビキニ姿で腰をくねらせる。いつも脳内が幸せな感じの霧依さん、実はあまり変化はなかったりするのだが‥‥そこはそれ。
「あはははは! あっ! 雁久良だー♪」
 ゴキゲンでくるくる回りながら、満面の笑みで駆け寄るビリティスの姿に、霧依は心の中でハァハァしながら叫んだ。
(下着姿のビリィちゃんが来た!)
 抱き付いて頬擦りをするビリティスを、膝を折ってその胸に抱きとめた霧依は、すりすりと頬擦りを返した。
「んふふ〜♪」
「霧依ー♪」
 ママって呼んでも、良いだろうか。
「勿論よ♪ ママって呼んで♪」
「わーい! 霧依ママー♪ ママー♪」
 なでなでされて、ご満悦のビリィちゃん。以前は霧依の事をド変態女だと思っていたが、実は優しい人だと分かってからは、すっかり懐きまくっていた。
「あたしは甘えんぼさんだぞー♪ いっぱい甘えるぞー♪ ‥‥あっ!」
 霧依ママに抱かれて甘えるうちに、嬉しさの余りつい‥‥その、あれだ。「ぴっ」って感じで、股間がちょっと‥‥
「ぎゃははは! やっちまったZE!」
「え、何? どうしたの?」
「霧依ママー♪ オムツ替えて♪ オムツオムツー♪」
 言いながら、その場でごろーんと仰向けに引っ繰り返る。
「あたしは霧依ママの赤ちゃんなんだぞー♪」
 降参した犬の様に腹を出して、足をバタバタ。
(キター!)
 魂の叫びを押し殺しつつ、霧依はにっこりと微笑んだ。
「オムツ替えね、いいわよ♪ 私の可愛い赤ちゃん♪」
「ってオムツ替えー!?」
 エイルアードが眼を白黒させ、慌てて止めようとするが‥‥
「ここここんなとこでしちゃダメです! せめてトイレで‥‥ってあー!」
 時、既に遅し。
 ちょっとだけシミの付いたパンツを脱がせると、霧依はこんな事もあろうかと用意したタオルやウェットティッシュで清め、ベビーパウダーをぽんぽんして‥‥
「どうしようどうしよう‥‥」
 どうにか隠す方法はないものかと、エイルアードは眼を泳がせながら必死に考える。
「‥‥そうだっ」
 どん! どどん!
 そこら辺から植木鉢を持って来て、現場の周囲に並べた。これでどうにか隠す事が出来た‥‥か?

「ふう‥‥って! ちょっ理奈!」
 一難去ってまた一難。こちらが片付けば、今度は向こうでスゴイ事が起きていた。
「‥‥あははははは! 何これ気持ちいーいい! 空飛べそうだよ! びゅーん!」
 飛行機の様に両手を広げて走り回っていた理奈は、ふと駄菓子屋の前で立ち止まった。
「そうだ! いい事考えたー!」
 そのまま店の中に突貫して上も下も脱ぎ捨てると、胸にはペロペロキャンディのキャンディ部分を紐でつないで作ったビキニトップ、下には薄っぺらい蒲焼の駄菓子をぺたっと貼り付けた姿に変身した。
 隠れている様な、いない様な‥‥まあ、色々ギリギリな辺りがサンバっぽいと言えばそうかもしれないが。
「君ほとんどはははは裸じゃないかぁ!」
 恋人のあられもない姿に、うれしはずかし熟したトマトの様に真っ赤になる少年。スク水型の日焼け跡の残る幼い肢体が眩しすぎた。
「服! 服着て!」
 両手で眼を隠してまともに見ない様にしながら懇願する。隠したフリをして実は指の隙間から‥‥なんて事はしない。多分。
 だが、理奈はゴキゲンだった。ノリノリで踊りまくる。激しく動く度に腰のぴらぴらが捲れて大変な事になっているが、動きが速すぎてよく見えないのが幸いと言うべきか、それとも残念なのか。
「お菓子でできた服を着てみたかったんだー♪ これならお腹すいた時食べれるし♪ いえーい♪」
 いや、食べちゃダメだから。
 しかし、自分で食べるのは我慢出来たとしても、誰かに食べられる危険はある。その危険は今、間近に迫ろうとしていた。
「んにゃっ!?」
 粒子を吸い込んだ沙紀は突然ネコの様な声を上げると、動作までネコっぽい感じになった。ネコ化したまま飛んだり跳ねたり、アクロバティックなダンスを披露し始める。
「にゃはは‥‥んな〜おっ‥‥」
 そのまま近くのコスチュームショップへ乱入し、キャットスーツを拝借して来た。スーツと言っても着ぐるみではない。ビキニに耳と尻尾が付いただけの様な、露出度の高いものだ。
「ボクは自由な野良猫にゃん♪ お風呂なんか入らないにゃ〜♪ 好きな様に放浪し、好きな様に食べて寝るにゃ〜♪」
 踊りながら通りに出ると、何やら蒲焼きっぽい良い匂いが鼻を刺激した。
「にゃっ!」
 匂いの元を辿ると、そこには‥‥
「あれはボクと同じスクミズヒヤケ種の猫にゃ! にゃにゃにゃー!」
 理奈、発見。
「あれは、同じ小隊の沙紀さんだ♪」
 沙紀ネコは、それに気付いてぶんぶんと手を振る理奈に向かって四つん這いで突進し、どかーんと押し倒した。
「きゃっ!」
「にゃ〜♪ キャンディがあったにゃ♪
 仰向けに引っ繰り返った理奈の身体を組み敷いて、沙紀ネコはその胸に貼り付いたキャンディビキニトップをぺろぺろ舐め始めた。
「ええ!?」
 驚いたのはエイルアードだ。何しろ自分の彼女が押し倒されて、胸を舐め回されているのだから。これで相手が女の子じゃなかったら‥‥なかったら、どうしてくれよう。ああもう、頭が沸騰しすぎて何も考えられない。
 しかし理奈は平然かつ無抵抗に舐め続けられている。しかも喜んでるし。
「あはははは! 沙紀さん猫ちゃんみたーい♪」
 やがて沙紀ネコの滑らかな舌は胸から腹へ。
「甘さに慣れた舌には汗の塩気が美味しく感じるにゃー♪」
 ぺろぺろ、ぺろぺろ。
「ひゃん♪ べろがくすぐったいよ♪」
 あちこち舐め回されて、理奈はじたばたと暴れる。お子様ゆえに色気も何もあったものじゃないが、なくて良かった。あったらきっと、画面にモザイクどころか全てをなかった事にされていただろう。
 ‥‥今でも、かなりギリギリっぽいけど。
「きゃはははは! おへそのゴマ食べちゃだめぇ♪」
 蒲焼きなら良いけど。
 ‥‥って、良くないから! しかし、沙紀ネコはフンフンと鼻を鳴らしながら、次第に蒲焼きに近付いて行く!
「これはダメでしょう! 危険すぎます! もう無理です!」
 噴き出た鼻血を押さえつつ、エイルアードは視線を逸らした。しかし、その先には‥‥

「えへへ‥‥気持ちい〜い♪」
 霧依ママにオムツを替えて貰ってご機嫌なビリティスは、幼児退行どころか赤ん坊に逆戻りしていた。
「ばぶばぶう♪ 次はぁ‥‥(ごにょ)‥‥をちゅーちゅーするの♪」
「えっ? まあ‥‥♪」
 肝心な部分はよく聞こえなかったが、まあ聞こえなくても想像は付く。
「ママぁ‥‥だっこちてー♪」
「いいわよ♪」
 霧依は聖母が幼子を抱くが如く、ビリティスを抱き抱えながら立ち上がる。水着の紐がはらりと解かれ……
 ――はむっ。
「あぁん‥‥♪」

 少年は、見てしまった。何やら見てはいけないものを見てしまった気がする。いや、肝心な部分は慌てて目を逸らしたけど。
「ああもう! こうなったら!」
 この人達を‥‥いや、自分の精神や理性その他を救うには、あのキメラを倒すしかない。
「幸いゴシックワンピース姿だし! えい!」
 生真面目で純情な少年エイルアードは覚醒し、女王様な少女リンスガルトが降臨した。
「ふはははは! 妾はリンスガルト・ギーベリ!」
 少女は全ての元凶となったサンゴキメラの前に進み出ると、そのクネクネと踊る姿に向かって口上を述べた。
「何というカオス! 妾も身を委ねたいところじゃがそうもいかぬ。あのキメラ、せめて密閉空間にでも出現してくれれば生かす道もあったのじゃが是非もない。斬り倒すのみよ!」
 渾身の力を込めて、大鎌「マーダー」を振り上げ‥‥
「うおおおお!」
 ガリガリゴリゴリ、削る様に斬る!
 破片が飛び散る度に、サンゴキメラは様々に姿を変えて行く。それはまるで、前衛的な芸術作品の様だった。
 しかし、それもやがて最後の一欠片となり‥‥

「‥‥はっ!」
 ビリティスは我に返った。
「あら。短かったわねぇー」
 頭上から霧依の声が聞こえたその瞬間、一瞬にして茹で上がったビリティスは口に含んでいたものを慌てて離した。
「あう、あうあう‥‥」
 霧依の体からも離れようとするが、その腕はビリティスをしっかりと抱き締めて離さなかった。
「あああのっ! これはあのキメラの影響でっ‥‥」
 真っ赤になって目を逸らしながら、ビリティスは弁解の言葉を探した。
「そりゃあこんな風に甘えたかったのは事実だけど。あたしはもう奥さんで、小さな子供みたいに甘えちゃダメだから‥‥」
「ビリィちゃん気にする事ないわ♪」
「えっ?」
「それに、無理して甘えるの我慢する事ないのよ。旦那さんに、小さな子供らしくベタベタ甘えてみなさい♪」
「そんな事したら旦那に笑われちゃうよ‥‥」
 しかし、霧依は微笑みながら静かに首を振った。
「あの人はかなーり懐が広いと思うし、笑ったりなんかしないと思うわよ♪」
「そ、そうかな‥‥」
 ビリティスは再び頬を染める。
「今度、それとなく話振ってみる」
 しかし、旦那に甘えてみるのも良いけれど‥‥
「あの‥‥また、赤ちゃんみたいにしてもらっていい?」
「ええ、勿論いいわよ」
「ん‥‥」
 頭を撫でられてふんわり微笑むビリティスに、霧依は慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「ふふっ、本当に可愛いわ♪」
 ほんと‥‥
(‥‥食べちゃいたいくらいに)
 うふふ。

 一方、お子様二人組の方は実にあっさりとした幕切れだった。
「ふ、夢の終わりじゃな」
 リンスガルトの声に、ふと我に返る。
「あれ? ボク何してたっすか?」
 理奈にのしかかったまま、沙紀が首を傾げた。口の中が甘くてしょっぱいが、何か食べたのだろうか。
「ん〜‥‥思い出せないっす! まあいいっす!」
 良いの!?
「さって家に帰るっすよ!」
 キャットスーツのまま、沙紀は何事もなかった様にその場から立ち去ろうとした。
「あ‥‥終わっちゃった〜つまんないのっ」
 理奈は自分の格好を気にする様子もなく立ち上がると、まだ覚醒したままのリンスガルトに笑いかけた。
「リンスちゃん、帰ろうか♪」
 しかし、本人は気にしなくても回りが気になる。と言うか、いくら子供とは言えその格好は‥‥
「‥‥ってそこの2人! 服を着てゆかぬかー!」
 リンスガルトはさっさと帰ろうとする二人をひっさらって物陰に隠し、服を回収して強引に押しつけた。
 早く着て下さい、お願いだから。それから、拝借したものはちゃんと返して、頂戴したものはお代払ってね。

 そして正気に戻った町の人達は、もうこんな浮かれた馬鹿騒ぎはこりごりだ、と言うかと思ったら。
「これから毎年、盛大なカーニバルを開こうじゃないか!」
 どうやら、そういう事に決まったらしい。
 年に一度くらい、何もかも忘れてパーッと弾けるのも良いもんだよ‥‥ね。