タイトル:【AP】ULTC?マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/21 14:32

●オープニング本文


 ある朝、目覚めると‥‥愛機が猫になっていた。
 元々俺のKVにはどことなく猫っぽい所があるとは思っていたが、まさか本当に猫化するとは。
 いや、待てよ。
 思い出した‥‥。KVが猫になったんじゃない。こいつは元から猫だったんだ。
 さっきまでのは夢だ。能力者としてKVを駆り、バグアと戦う‥‥そんな夢を見ていた。
 現実の俺は、ULTC(Unique Life Treatment Center・フシギ生活取扱所)のコマンダー(司令官)だ。世の中で起きる、ありとあらゆる摩訶不思議な出来事を解決してくれる、困った時の便利屋さん。それがULTCだ。
 俺達はこれまでも世界各地の、常人の理解を超えた不思議な事件を解決して来た。
 解決方法は至ってシンプルだ。依頼人の望む通りに対象を排除する、それだけだ。大抵の場合、排除以外の方法を望む依頼人はいない。いたとしても「不可抗力」の名の下に排除する。文句は受け付けない。
 そして、排除の方法だが‥‥俺達コマンダーは銃刀法の規制を受け、武器を持つ事が出来ない。何故かそういう事になってるんだ。なってるんだから、しょうがないだろ。
 で、そこで武器の代わりとなるのが動物達って訳だ。こいつらは身体能力こそ普通の動物と変わらないが、何しろ頭が良い。コマンダーの命令は完璧に理解する。‥‥まあ、理解したからって、素直に従うとは限らないが。俺の猫は、三回に一回は命令を無視しやがる。
 そんなんでも、戦う時には仲間がいるからな。様々な相棒達の個性や能力を上手く組み合わせながら指令を出して、勝利へ導くのがコマンダーの腕の見せ所ってヤツさ。
 それに、戦わせた動物達が怪我をする事も滅多にない。不思議な事件の対象物件ってヤツは大抵がただ邪魔くさいとか、なんとなく人の神経を逆撫でするとか、そんなんだけで、実害は殆どない事が多いからな。
 動物達にとっちゃ、戦いは飼い主と一緒に楽しむちょっとした運動か、遊びのようなモンかもしれない。‥‥頭が良いとは言っても、喋れはしないから、本当の所はわからないが。

 さて、そんな訳で‥‥今日も仕事だ。
 なんでも、とある町のドーム球場にばかでかいサンタが現れたとか。
 またアホな事件が起きたもんだな‥‥。

 ――――――

 その少し前、問題のドーム球場にて。

 久しぶりにドームの中へ足を踏み入れた球場の管理人は、我が目を疑った。
 フィールドのど真ん中に、何かある。赤くて白い、あれは‥‥
「‥‥サンタクロース‥‥?」
 クリスマスの季節、スーパーや商店街の入り口なんかに飾ってあるような、空気で膨らませるビニール製のヤツだ。
 しかし今は四月。しかもドームの中。季節外れな上に、場違いも甚だしい。
 おまけにその大きさたるや‥‥ドームの天井に頭がつっかえる程だ。
 そしてビニールを透かしてうっすらと見える腹の中には、色とりどりのボールがぎっしりと詰まっているのが見えた。小さい子供が遊ぶような、柔らかなゴムボール。背中に見えるチャックから詰め込んだのだろうか。

 それにしても‥‥一体誰が、何の為にこんなものを?
 このドームで試合を行わせない為の妨害工作だろうか。しかしこのドーム球場が経営難の為に閉鎖されたのは、ずいぶん昔の事だ。よって、妨害すべき試合もない。
 或いは、ここで行われる筈だった試合が中止になった事に対する、ファンのいやがらせだろうか?
 しかし、それにしたって‥‥時期も的も外れている。外れすぎだ。

 結局、さっぱりわからない。
 そして、このビニールサンタが如何なる原理で存在し、動いているのかも。
 サンタはただ、うぞうぞと蠢きながら、じわじわと太り続けるのみ。耳を澄ましてみると、ポンポンというポップコーンが弾ける様な音が微かに聞こえる。多分、カラーボールが何処からか送り込まれ、腹の中で増え続けているのだろう。
 このままではドーム内いっぱいに膨れ上がり、果ては天井を突き破ってしまうかもしれない。
 ‥‥ドームを解放すれば良いと思われるだろうが、ここは経営難で閉鎖されているのだ。当然、電気も止められている。電気がなければ、開閉も出来ない。人力なんて、とても無理。

 それに、わからない事がもうひとつあった。
 薄暗いドームの中で、例のサンタだけが何故かスポットライトを浴びている。ドームの照明は全て沈黙しているのに、何故?
 サンタ自身も、楽しそうにピカピカ光りながら蠢いているが、あれは、もしかしたら踊っているつもりなのだろうか。
 BGMがないのが寂しいが、もしかしたらアレか。腹のところで輝いてる服のボタン。いかにも押して欲しそうなアレを押すと、歌い出したりするのだろうか。
 よし、押してみよう。押せと言うなら押してやろうじゃないか。
 それにはまず、あの巨体を上る必要がある。管理人はぶよぶよの体に梯子をかけてみた。
『いやぁ〜〜〜ん☆』
 くねくねぶよぶよ、ばいぃーん。
 喋った。くねった。跳ね飛ばされた。

 なんだ、こいつは。

 次に物は試しと、ポケットに突っ込んであったハサミを突き立ててみる。
 ぷしっ! ぽろぽろ、ぽてん、てん。
 ビニールの体に穴があき、ボールがこぼれる。
『いったぁーい、なにすんのおぉーーー?』
 吠えた。暴れ‥‥ようとしたらしいが、頭がつっかえて思う様に動けない様だ。
『いやーん、だいえっとしなきゃーーー』
 ぶりんぶりん、悶えている。
 先程の穴は、ボールがこぼれて内圧が下がると同時に、きれいに塞がっていた。
 そしてまた、ぽんぽんと音が聞こえ‥‥リバウンド。

 なんだ、こいつは。
 大事な事だから、二度言っちゃうよ?

 結論。素人は下手に手を出さない方が良い。
 こんな時にこそ、ULTCの出番だ。彼等ならどんな不思議な事件でも、八方丸く収めてくれる筈だ。

 対処の目処がついた所で管理人はふと思い付く。
 そうだ、あのカラーボール。サンタの中身だけ、欲しい。あれを球場にぶちまけて、巨大なボールプールを作れないだろうか。
 そして、このドーム球場は世界一の巨大ボールプールとして生まれ変わるのだ。

 万歳、これで借金を返せるぞ!!


 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
七神 蒼也(gc6972
20歳・♂・CA

●リプレイ本文

 ぺろん、ざらーん。
 巨大な舌が頬を舐める感触に、功刀元(gc2818)は夢の世界から引き戻される。
 しかし、目を開けてもまだ、夢の世界は続いていた。
「うーん。これは‥‥前回もふもふな依頼を受けて、もふもふし過ぎたせいで悪い夢でも見ているのかも」
 虎サイズの巨大な猫にのしかかられて、ほっぺたを舐められてるなんて、夢以外の何だというのだ。
「‥‥いや、これは良い夢ですよねー!」
 どうせ夢なら思い切り‥‥そうだ、彼女も誘って一緒に楽しもう。
 この世界では、彼女――御剣薙(gc2904)は、元と一緒に週末や休日にULTCでアルバイトをしているのだ。そして今日は日曜日。絶好のデート‥‥じゃなくて仕事日和。
 ブルーグレイの毛並が美しい巨大猫のばれっと君を後ろに従え、もぞもぞと動く小さな黒猫のぱいどろす君を頭に被って、いざ出陣!

 一方こちらは芹架・セロリ(ga8801)は‥‥朝っぱらから走っていた。
「さて、今日も一緒に頑張りましょ! って‥‥待ってぇ」
 しかし、飼い主の命令、いやお願いも聞かずに、さっさと飛び去る梟のウーフー。
「ほーぅ」
 え? 待ってたら遅刻する?
「そ、そんな事‥‥!」
 ウーちゃんは、この頼りない飼い主を自分が引っ張ってやらねばという使命感に燃えているのか、やたら真面目でしっかり者だった。

 そして、その同じ頃。
「おっしゃ、今日も頑張って仕事しますかね。頼むぜ相棒」
 すっきりサワヤカに目覚めた七神蒼也(gc6972)は、傍らに佇みゆっくりと尻尾を振るグレートピレニーズ、琥珀の大きくてもふもふな体をわしわしと撫でる。
 そして、相棒と共にのんびり歩いてULTCの事務所に入ろうとした、その時。
 ばさばさーっ、どんっ!
「あ‥‥ごめんなさいっ!」
 蒼也の背にぶつかったのは、セロリだった。ウーちゃんはちゃっかり蒼也の肩にとまって涼しい顔をしている。
「あ‥‥初めまして。俺のウーちゃん可愛いでしょ?」
「ああ、うん。ずいぶん人懐こい奴だな」
 梟の頭を撫でながら、蒼也が答えた。
「でもそれだけじゃないんです。賢いだけじゃなくて優しくて気配り上手で、友達も多くて‥‥」
 ぼわーん。セロリの目つきが怪しくなり、やがて虚ろに。
「‥‥どうせ、どうせ俺なんかウーちゃんのおまけですよ。馬鹿だし短気だし‥‥誕生日プレゼントとかホワイトデーのお返しがみんなこの子用なんですよー? ウーちゃんに使ってねって‥‥いつも俺のものがねぇんだよ!」
 ずぎゃーん!
 キレた。セロリがキレた!
「そ、そうか。それは‥‥大変だな」
 ぽふぽふ。どうにか宥めようと、蒼也はセロリの頭を撫でる。
「とにかく、行こうぜ? 仕事‥‥しに来たんだろ?」
「‥‥そうでした」
 こっちだ、と二人を誘う様に、ウーちゃんは事務所の廊下を音もなく飛んで行った。

 中に入ると、既に全員が顔を揃えていた。
「‥‥お。元はまた一緒か」
 これで三度目だと、蒼也は元に声をかける。ULTCは大所帯だから、そう頻繁に同じメンバーと顔を合わせる事はない筈なのだが。運命か。運命なのか?
 しかし惜しくも相手は男で、しかも彼女持ち。そう言えば、薙ともこれで二度目だったか。
「まぁよろしくな、二人共」
 それにしても、いつもながらこの部屋は‥‥ケモノだらけだ。
 しかし犬や猫は珍しくないとして、あれは何だ?
「ああ、こいつら? マーコールの吟(ギン)と、ナマケグマの醸(ジョウ)だ。どっちも良い毛並してるだろ?」
 二頭の背を撫でながら、番朝(ga7743)がニッコリと笑う。
「吟と醸は元々ばっちゃんのだったけど、死んで俺のになった。言わなくても大体の事はわかってくれるし、わかるぞ。いつも俺の事気にかけてくれるんだ」
 そうだと言う様に、吟が首を振る。おっとり、ゆったり。まるで子供を心配する、おおらかな世話焼きおじさんの様だ。
「皆様、お揃いですね」
 美貌の秘書が仲間達を出迎える。パンツスーツが良く似合う、トップモデルの様なこの美女は、ULTC専属の‥‥ではなく、UNKNOWN(ga4276)の個人的な秘書を務めるLadyだ。個人的な秘書ではあるが、彼の赴く依頼では仲間達全員の世話をしてくれるのが常だった。中には、彼女のお世話になりたいが為に、わざわざUNKNOWNと一緒の仕事を選ぶ者がいるとかいないとか。
「今回の任務について、ご説明致します」
 頭脳明晰眉目秀麗、才色兼備なミス・パーフェクトの口から出るには余りにも「アレ」な内容が告げられた。
「依頼とあれば、仕方がない」
 ゆらりと立ち上がるUNKNOWN。艶を消したロイヤルブラックのフロックコートに、ウェストコートとズボン。兎皮の帽子も、コードバンの皮靴と革手袋も、全て黒。パールホワイトの立襟カフスシャツにはスカーレットのタイとチーフをあしらい、古美術品なカフとタイピンが静かに自己主張するそのスタイリングはダンディズムの極。
 しかし連れている相棒は‥‥
「わふっ!」
「うきぃっ」
「こーこここっ!」
「‥‥きゅっ」
 ウェルシュ・コーギー・ペンブロークのHAPPY、日本猿の美喉王、鶏のぴよちゃん、ペンギンのぺん子。
 犬、猿、鳥‥‥桃太郎?
「さて、誰を連れていく、か」
 Ladyから渡されたデータを見つつ、何故か事務所の一角に設けられたカウンターバーでグラス傾け、顎を撫でる。
 まあ、彼等には自由に色々と仕込んであるし‥‥誰かを残すとなれば一悶着が起きる事は間違いない。全員、連れて行こう。
「さあ、行くとする、か」

 そして、賑やかな集団がぞろぞろとドーム球場へ入って行く。
『あぁ〜ら、いらっしゃぁ〜い♪』
 天井あたりから、妙な声が響いた。
「うわぁ、凄いみっちりだ」
 きょとーん。巨大なサンタを見上げ、みっちり詰まったサンタ自身と、その中にこれまたみっちり詰まったカラーボールに目を丸くする番。その脇で吟は詰め込み具合に感心し、醸は面白そうに見ている。
『あらぁ〜、そこのだんでぃなおじさまァ〜ん』
 サンタが言った。しかし、何故こいつはおネェ言葉なんだ?
『ここは禁煙なのよぉ〜ん、火なんかつけられたらぁ〜、アタシ爆発しちゃうン☆』
 それは却って手間が省ける‥‥いや、中のボールまで巻き込んでは拙いか。
「私のスタイルに、これは欠かせないのだがな」
 咥え煙草で紫煙をくゆらせていたUNKNOWNは、仕方なくそれを揉み消す。勿論、携帯灰皿は常備していた。ダンディな大人はポイ捨てなどしないのだ。
「では、戦闘開始、だ」
 UNKNOWNは黒い帽子の角度を直すと、ゆっくりと後ろに下がる。命令はしない。しなくても、彼等が自分で考えながら上手く戦ってくれるだろう。多分。
「よし琥珀っ、今日も頼むぞ」
 わしわし、大きな犬の首筋を撫で、蒼也が命じた。
「目標、目の前の巨大サンタ人形‥‥噛り付いて食い破ってやれっ」
「うぉんっ!」
 真っ白な毛並をゆさゆさと揺らしながら、琥珀がサンタを目掛けて走る。
「わふっ!」
 同じ犬同士、負けてなるかとHAPPYも飛び出した。ちょっと短めの足と、太めの胴を持て余し気味に走る。
 先に食い付いたのは、琥珀だった。ビニールに噛み付き、食いちぎる。傷口(?)からぽろぽろとボールがこぼれた。
『きゃー、いったぁーい!』
 もぞんもぞん、サンタがクネる。
 そこにHAPPYが追い打ちをかける‥‥と思いきや。
「わっふん!」
 遊ぶの大好きなHAPPYは、こぼれたボールに大興奮。わっふわっふと追いかけて行った。
 ‥‥まあ、あの子は好きにさせておくとして。
「ふむ、こんなモンか‥‥」
 破れた場所が再生し、再びボールが溜まり始めるまでの時間を計っていた蒼也は次の指示を出す。
「よし琥珀、周りの仲間たちと協力してあのドデカい獲物を引きずり倒すぞ!」
「まずは、ばれっとふぁすとでサンタのスネを攻撃ー!」
 元がばれっと君に命じると、基本のんびりでもやるときはやる漢が立ち上がった!
 べしべしべしべしべしべしべしべしっ!
 速射砲の如きねこぱんちを繰り出すばれっと君! 所詮ただのねこぱんちだが、虎サイズの前足はぶっといのだ! たちまちズタボロになるサンタのスネ!
 垂れ下がったビニールが、何となくスネ毛に見えるかも?
『いやぁ〜ん、ちゃんとお手入れしてるのにぃ〜』
「ゆきまる、ばれっと君に合わせてサンタのスネを攻撃だよ‥‥、あれ、ゆきまる?」
 きょろきょろ。薙は真っ白なペルシアンの子猫を探す。
 ‥‥ああ、いたいた。HAPPYと一緒になって、ボールと戯れてる。
「ゆきまるー、おいでー!」
「みゃっ」
 薙に呼ばれ、慌てて駆け戻ったゆきまるは、大人の猫顔負けの高い運動能力で、ばれっと君の頭に駆け上がった。
 てしてし、てしてし。
 ばれっとふぁすとの真似をしてみる。しかし、運動能力は高くても、ぱわーは人並‥‥いや、子猫並。その小さい爪とぱんち力では、サンタのスネを切り裂く事は出来なかった。でも良い。可愛いから許す!
「一歩後退して、すないぴんぐしゅーとの構えー!」
「ゆきまる、一旦下がって!」
 すないぴんぐしゅーと、それは巨体を活かした体当たりという大技だ。しかし大技だけに、飛びかかる前にお尻をフリフリする溜めが必要だった。故に、仲間との連携は必須。
「よーし、吟、いっけえぇ!」
 きらーん! 吟の頭に生えた立派な角が、謎のスポットライトに照らされて光る。そこには歴戦の勇者の証である、数多の傷が付いていた。
 どっかーん!
 ささくれ立ったスネの反対側から、吟が体当たりを仕掛けた。更に角で突き上げ、引きちぎる。
 ぷりっ。もろもろ。
『いやぁ〜ん、でちゃう〜』
「出してんだよ! 醸、頼んだ!」
 番のツッコミと共に、醸の爪が傷口を押し広げた。ナマケグマと名前は付いているが怠け者ではないのだ。寧ろ勤勉。悪戯好きだが仕事はきっちり、しっかりこなす。
「よーし! しゅー‥‥わぷっ」
 ぶらーん、ぶらぶら。頭の上でもぞもぞしていたぱいどろす君が顔の前に垂れ下がり、前が見えない。
 猫を被った元は、その前足をぴろっと上げて前を見た。
「しゅーと!」
 もにもに、ふりふり‥‥どーん!
 たまにフリフリしすぎて不発に終わる事もあるが、今回は上手く行った。狙い通りに、背後からの突撃で突き出された腹のスイッチを、ぽちっとな。
 途端に、陽気なクリスマスソングが流れ出した。それに合わせて蠢くサンタ。踊っているつもり、らしい。
 歌に紛れてぽんぽんとボールが増える音が聞こえ、傷口が塞がって行くが、そうはさせじと琥珀が噛み付く。
「こけーっ!」
 そして、ぴよちゃんが走る! 突っつく! 怒濤の嘴攻撃がサンタの尻に炸裂した!
「うきー!」
 ぴよちゃんに対してはライバル意識剥き出しの美喉王が、負けじと引っ掻く!
「ここーっ!」
 縄張り意識が強く凶暴で攻撃的なぴよちゃんは、それが気に入らなかったらしい。
 ばささーっ! 飛んだ! 鶏なのに飛んだ! 飛んで‥‥はて、何をするんだったか。飛ぶ前に助走を付けたのが拙かったらしい。三歩走ったらすっかり忘れてしまったぴよちゃんは、腹立ち紛れにボールで遊んでいたHAPPYに飛びかかる!
 しかし、仲良しのHAPPYがとばっちりを受けるのを黙って見ている美喉王ではない!
「うきーっ」
 美喉王、乱入! もうサンタはそっちのけだ!
 そんな仲間達を、ペンギンのぺん子はぼーっと眺めていた。UNKNOWNの足に、ぽってりと寄り添いながら。
 だめだ、奴等には任せておけない!
「ウーちゃん‥‥やっちゃって!」
 セロリの指示で、ウーちゃんが飛びかかる。急降下から自慢の爪でビニールを引きちぎり、むしり取っては離れ、再び急降下。
 しかし腹の中身が減って少しスリムになったサンタは、軽やかに腕を振り回し始めた。
「ウーちゃん、気をつけて! 上から来るよ、次は右!」
 至近距離が見えにくい相棒の為に、敵の細かな動作をチェックして注意を促すセロリ。
 もろもろ、ぽろぽろ、ボールがこぼれ続ける。
「結構いっぱいになってきたな‥‥わっ」
 転がるボールに足を取られそうになった番を、吟がすくい上げて自分の背に乗せた。
「ありがとな!」
 そしてサンタは横幅と共に、縦方向にも縮み始める。
「ゆきまる、今だよ。ファスナーを開けちゃうんだ!」
「みゃっ!」
 かしかしかしかし、サンタの体を登る子猫。しかし‥‥
『いやぁ〜ん』
 のたくたぶんぶん、サンタが身をよじる。
 ぽてん、ぽーん。あっさりと振り落とされるゆきまる。しかし、持ち前の運動神経で着地だけは見事に決まった。
「それなら‥‥元君!」
 ばれっと君と琥珀、そして番を乗せたままの吟。大型の三頭で‥‥せーの、とらいあんぐるあたーく!
 ずどーん! ぼってん、‥‥かちっ。
 サンタが倒れた。しかも、腹を下にして。
 三つのボタンが同時に押され、三つの曲が同時に流れ始める。
『まっかなじんぐるきーよーしー♪』
 じたばたじたばた。バラバラのリズムに合わせて無理やり踊ろうとするサンタ。しかし‥‥背中がガラ空きだ。
 番と薙がその身軽さを活かして背中に上り、ファスナーを開けた!
 どばーーー!
 カラフルなボールが溢れ出す。
『いや、ぁん‥‥アタシの、なか、みぃ‥‥』
 ぺしょり。
 ヨレヨレサンタは、動かなくなった。

 だっぱーん!
 球場いっぱいに溜まったボールの海に、番がダイブする。吟はボールに埋もれたその体を引き上げると、背中に乗せたまま泳ぎ回った。上からは醸が力任せに打ち上げたボールの雨が、ぼっこんぼっこん降り注ぐ。
「あはは、痛い痛いー」
 ちょっと、迷惑? でも楽しい。
 元はボールに埋もれ、もふもふを枕にごろごろしながら、隣で子猫と戯れる薙を眺めてご満悦。
「あの猫さん達も今度生まれて来る時は、キメラではなくKVになれるといいですねー」
 ばれっと君を撫でながら呟いてみるが、もうどっちが夢やら‥‥?
「ああ、でも一番良いのは普通の猫ですよねー」
 普通の猫なら、薙の胸に乗っかってふみふみしたり、指にじゃれついたり‥‥服の中に潜り込んだり出来る。
「ん? ゆきまる、どうし‥‥こ、こら入っちゃだめ!」
 そう、あんな風に。
「ゆ、ゆきまる、出てきなさ‥‥く、くすぐった‥‥あははははっ、元君、ゆきまる取り出して〜!」
 取り出すって。服の中に手を突っ込んでも‥‥良いの?
 そしてセロリはウーちゃんを肩に乗せて、隅の方でまったり。
「ウーちゃん‥‥いつも俺の傍で戦ってくれてありがとう。これからもずっと一緒ですから、ね?」
「ほー‥‥」
 そんな仲間達を眺めながら、蒼也は琥珀にご褒美のおやつをあげていた。
「ボールプールは静電気くるか? じゃあ、ブラッシングもしとこうな」
 サンタの残骸は腹のボタンやボールの発生装置と共に、跡形もなく消えていた。流石はULTCに回される事件、摩訶不思議度は半端じゃない。
 さて、次はどんな事件が待っている事やら‥‥?