タイトル:ばいんぼいーん。マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/08 23:44

●オープニング本文



 その公園は、休日ともなればスポーツや散策、ピクニックなどを楽しむ人達で賑わう人気スポットだった。
 緑の木々は木陰を提供し、手入れの行き届いた芝生の広場には遊具が並び、周囲には遊歩道も整備されている。トイレは綺麗だし、飲み物や軽食を売る売店も充実し、お祭りの様に屋台が並ぶ一角もあった。

 その日も、一部では様々なパフォーマンスが行われていたが、これといった騒動も混乱もなく、人々はそれぞれに休日のひと時を楽しんでいた。
 ‥‥彼等、いや彼女達が現れる、その時までは。

 その一団は、いつの間にかそこに居た。
 公園の正門から奥へと続く道を、シャナリシャナリとシナを作って歩く謎の集団。
 最初はパフォーマーが着ぐるみを着ているのだと思ったのだ。この暑いのに、ご苦労な事だと。
 だが、どうも様子が変だ。着ぐるみにしては良く出来ている。いや、出来すぎている。
 それは、白黒まだらの乳牛だった。しかも直立二足歩行の。
 10頭の牛達が全てメスである事は、その腹部を見れば明らかだった。ついでに、その垂れ下がり具合から見て‥‥オバチャン牛である事も。
 先頭を歩く一頭は、黒い日傘の柄を前足の蹄で器用に持っている。その脇を歩く牛は、つば広の黒い帽子を被っていた。更には真っ黒なサングラスをかけたもの、首にストールを巻いているもの‥‥
 日焼け対策なのか、それは。
 そして、歩く度にじゃらんじゃらんと音がするアクセサリの数々。それは腕輪だったり足輪だったり、耳輪に鼻輪にヘソ輪‥‥そうか、牛にもやっぱりヘソってあるんだ。勿論、堂々たる膨らみの上に4つ並んだ突起物にも、輪っかがキラリと光っていた。
 彼女達は、オサレであるらしい。

 それは、まあ‥‥良いとして。
 このオバチャン達、何しに来たんだろう。
 彼女達も皆と一緒に、のんびり休日を楽しむつもりなのだろうか。
 だとしたら、このとりあえず危険も実害もなさそうな、有閑マダムの如き優雅な集団を排除する必要はない様に思えた。例えその正体がキメラだとしても。

 だが‥‥
 一行が売店の前に差しかかった時、事態は急変した。
 店先に翻る、のぼり旗。
 そこには大きな文字で、こう書かれていた。
『濃くておいしいジャージー乳ソフトクリーム』
 オバチャン達に、文字が読めるかどうかはわからない。だが、その意味は何となく理解した様だ。
『ぶもぉーっ!』
 何かのスイッチが入った。
 オバチャン達は持っていた日傘や帽子を投げ捨て、ついでにマダムの気品もかなぐり捨てて、売店に向かって突進を始めた!
 そう、彼女達はホルスタイン。高級品とされるジャージー乳に対して、彼女達の出す乳は良くも悪くも普通だった。量だけは多いが味は今ひとつ、などと酷い事を言う者もいる。
 確かに乳脂肪分ではジャージー種には敵わないかもしれない。だが、彼女達が日々頑張ってくれるお陰で、人間は毎日牛乳を飲む事が出来るのだ。ホルスタインが乳を出さなくなれば、チーズもバターもヨーグルトも、あっという間に食卓から消えるだろう。
 それなのに、ああそれなのに。

 一度火が点いた彼女達の怒りは留まるところを知らなかった。
 相手構わず薙ぎ倒し、ぶち壊し、押し潰し、自慢の乳で往復ビンタを張りまくる。


 誰か、彼女達の怒りを鎮めてやってくれませんか‥‥っ!?

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

 今日のリュウナ・セルフィン(gb4746)は、ひと味違っていた。
「無駄に大きいのを自慢げにバインバインしてる輩を殲滅するのです‥‥にゃ。フフフ‥‥一匹も逃がしませんよ」
 覚醒したリュウナはスナイパーライフルの銃口を牛達に向けると、妙に落ち着いた声で傍らの東青 龍牙(gb5019)に言った。
「龍ちゃんは、逃げ遅れた人達の避難誘導を行なって下さい。大丈夫、リュウナは冷静ですから誤射はしませんよ‥‥味方には」
 双璧を成すもう一方のエルレーン(gc8086)は、牛達をじっと睨み据えて拳を震わせていた。
「う、うぐぐ‥‥ででで、でも、あれは牛さんだから! 牛さんだから、どうでもいいもーん!」
 ぎりぎりと歯ぎしりの音が聞こえる辺り、ちっともどうでもよくなさそうなんですが。
 だが、エルレーンは堪えた。踏ん張った。
 怒りと屈辱に耐え、コンプレックスを心の奥底に封じ込めて、牛達に背を向ける。
 まずは周囲で右往左往している一般人を安全な場所に避難誘導するのが、知性ある人としての正しい姿なのだ。
「皆さん! こっちは危ないですなの! 早く逃げてくださいなのッ!」
 一刻も早く切り刻みたい衝動と戦いつつ、エルレーンは牛の脅威から人々を遠ざけるべく奮闘する。
「焦らないで下さい! 落ち着いて行動してください!」
 龍牙もそれに続き、逃げる人々のフォローに回った。
 牛の攻撃よりも、大きいモノが嫌いなリュウナが暴走しないか心配だが‥‥でもきっと大丈夫。多分。
 心でぐっと拳を握ると、龍牙は自身障壁を発動させて逃げ遅れた人の前に立ち塞がる。牛の身体を受け止めると、龍牙はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫です、落ち着いて下さい♪」
 安全な場所では黒のマイクロビキニに白衣を羽織った臨時救護係、雁久良 霧依(gc7839)が待機していた。
「色々と用意してきた甲斐があったわね」
 取り出したのは出身地である群馬名産の長葱と蒟蒻を始め、すき焼き用の食材がどっさり、そして野外調理器具‥‥じゃなくて。
 タオル各種、ビニール袋、ティッシュ、ウェットティッシュにベビーパウダー‥‥いや、それは子供の決壊を処置する為の道具では?
「ほら、この季節は冷たいもの飲み過ぎてやっちゃう子が多いし。用意あればケアしながらいたず‥‥スキンシップを図れるでしょ♪」
 しかし、今必要なのはそれでもない!
「あら残念」
 だが、この道具が必要になる時は来る。きっと来る。
 不敵な笑みを浮かべつつ、霧依は怪我人に練成治療を施していった。

 避難が完了するまで、残りの仲間達は牛の注意を惹き付ける事に専念していた。
 しかし、その光景を見て一人呟く西島 百白(ga2123)。
「また‥‥依頼‥‥間違えた‥‥か?」
 牛と戦いに来た筈なのだが、仲間の様子を見る限り、少しも戦っている様には‥‥
「『牛』とかぁ『ホルスタイン』とかの渾名は良く聞きますがぁ」
 ポールの折れた旗を踏みつけている牛に向かって、宇加美 煉(gc6845)が間延びした声で語りかけている。どうやら、彼女なりにフォローを入れてみるつもりの様だ。
「『ニュージャージー』って言うのは聞かないですよねぇ」
 まあ、確かに。
「知名度は絶対上だと思うのですよぉ」
 その言葉を理解したらしい牛は、どうやら煉を気に入った様だ。身振り手振りで意思を伝えようとしている。
「なるほどぉ、そうなんですかぁ。皆さんの牛乳は美味しくないのですねぇ」
 ふむふむ、煉は相槌を打つ。
「飲用に適さない程に不味いんですかぁ」
 こくこく、憤慨した様子で頷く牛。しかし、煉はここで致命的なミスを犯してしまった。‥‥いや、わざとかもしれないけど。
「昔の人が言っていたのを思いだしたのです。『牛乳が美味しくないなら食肉にすればいいじゃない』」
 この一言に、牛が激怒せずにいられるだろうか。天然キャラを装っていれば何を言っても許されるというものではないのだ。
 そして向こうでも、火に油を注いでいる人がいた。
「いいわねぇ♪ 沢山すき焼きが作れそう♪」
 治療を終えて合流した霧依が放ったその言葉に、牛達が反応しない筈がない。
 しかし、霧依は怒り狂う牛達の前に平然と歩み寄り、その豊かな乳をツンツンと突っついてみた。
「確かに大きいけど、柔らかさも張りも私の勝ちよね♪」
 腕を組み、胸を強調するポーズで不敵な笑みを浮かべるが‥‥それで素直に納得して負けを認める牛達ではない。
『ぶおんぶおーん!』
 足の間に垂れ下がった巨大な乳をブリンブリンさせながら突進して来た!
 やっぱりこれも、火に油。
 誰かまともに牛と戦う者は‥‥いた。
「みんなぶっ倒すぜ!」
 自分の身長の倍ほどもあろうかというバルディッシュを振り回しながら、勇猛果敢に突撃するビリティス・カニンガム(gc6900)!
 しかし、今はまだ本格的な戦闘に入る段階ではない。引き付け役として手加減をしたせいか、その攻撃は牛の分厚い脂肪に跳ね返されてしまった。
「流石だぜ、半端な攻撃は通用しねぇって事か!」
 ビリティスは潔く武器を置いた。
「しかし、みんな乳でけえな‥‥牛なんだから当たり前だけど」
 急にしんみりとした表情になる。
「‥‥何だか行方不明のママの事を思い出しちまうぜ」
 牛の乳を見て思い出すあたり、ママは巨乳だった様だ。
「――よし!」
 何やら思い付いたビリティス、手近な牛にタックルをかまし、そのまま抱き付いて巨乳に顔を埋めてみた。
「ん〜♪ やっぱ柔らけぇなあ」
 すりんすりんすりん。
 なんかダメっぽい気がするよ、この人達。

「‥‥面倒な」
 ここは自分が何とかしなければと、百白は溜息ひとつ。
「さて、時間でも‥‥稼ぐか‥‥」
 のそりと動き出した。
「‥‥ガルルル」
 一声唸ると、姿勢を低くして牛の群れに突っ込んで行く。
「‥‥」
 同時に紅蓮衝撃を使い、手近な牛の腹に一撃、吠えた!
「ガアアァァァァァ!」
『ぶごおぉぉぉぉぉ!』
 牛も負けじと吠え返す! 牛vs虎、勝つのはどちらか!?
 しかしこの戦い、虎には少々不利だった。人々の避難が終わるまでは、本気を出す訳にはいかないのだ。
「‥‥面倒だな‥‥全く」
 百白は小さく舌打ちをすると、溜息混じりに呟いた。仕方がない、暫く遊んでやろうか。
「‥‥ほら、コッチだ‥‥牛‥‥」
 赤い布は見当たらないから、落ちていた旗を広げて挑発してみた。目の色を変えて突進して来る牛の、肉体を駆使した攻撃が炸裂する!
「こいつらプロレス技を身につけているわねっ‥‥!」
 その様子をじっと見ていたクレミア・ストレイカー(gb7450)が、いつの間にか実況を始めた。
 自らも超機械で近接戦を行いながら、牛達の動きを分析する。
 腕を使った打撃技はラリアットに見えるし‥‥空振りしたけど。乳が重すぎてジャンプ出来ずに引っ繰り返ったけど、あれは多分ドロップキック‥‥かな。
「後ろ、来るわよ!」
 今度はバックドロップを狙うつもりか。しかし。
「‥‥遅い‥‥鈍い‥‥」
 百白は余裕でかわし、スキルを使う価値もないと溜息をつく。それがまた、牛の気に障った様だ。
「次、ボディプレスよ!」
 いや、この場合は乳プレスか。どちらにしても喰らいたくはない。
「あんなのに挟まれたら一溜りも無いわ‥‥!」
 百白もそう感じたのか、即座に回転舞を発動して避けた。
「‥‥今のは‥‥少しだけ‥‥危なかったな‥‥」
 その時、クレミアの無線機に仲間からの連絡が入った。避難完了の知らせだ。
「了解! イェーガーの本領発揮と来たわっ!」
 リミッター解除。
 避難が終わるまで銃の使用を自重してきた為に、溜まりに溜まった必殺ゲージ(?)の全てを乗せて跳弾が炸裂した。続いて間髪を入れずに拳銃から小銃に持ち換えると、制圧射撃で弾丸の雨を降らせる。
「トドメは任せたわよ!」
 それに応えて百白が不敵な笑みを浮かべた。
「避難は‥‥終わった‥‥か‥‥」
 さあ、狩りの時間だ。
「コレ以上に‥‥楽しませて‥‥くれよ?」
 再び牛と虎が火花を散らす。しかし今度は虎の爪が容赦なく白黒まだらの毛皮を引き裂いていった。
 その向こうでは、機械剣βを構えた煉が牛に迫る。
「肩ロース、リブロース、サーロイン、ヒレ、ミスジ‥‥」
 どうやら捌く気満々らしい。その目には、牛の体が部位別に色分けされて見える様だ。
「タン、チチカブ、ツラミ、ビンタ‥‥」
 ざっくざっくと切り分けていく。
 そして高台に陣取ったリュウナは‥‥
「さぁて、黒龍神の名の元に牛キメラ達を排除します。当然、覚悟は出来ていますね?」
 にっこりと黒い笑いを浮かべて、スナイパーライフルを構えた。
「YES以外の返事は聞きませんので」
 鋭覚狙撃で足を狙う。足を‥‥足‥‥を、狙いたいのに!
「大きいのなんて! 滅んでしまえば良いんだ!! チクショーメ!」
 その無駄に大きなモノのせいで、足が見えないじゃないか!
「バインバインがなんだ! ボインボインがなんだー!」
 もう鋭覚狙撃どころではない。怒りにワナワナと震える身体と沸騰した頭では照準も定まらなかった。
 しかし、何故か銃弾は全て牛の乳だけを狙った様に貫いて行く!
「バインバインなのを後悔しながら朽ちていけ! 乳牛キメラ!」
 楽には終わらせない。終わらせてなるものかー!
「リュウナ様! 御無事ですか!」
 駆けつけた龍牙が叫んだ。この場合、無事と書いて冷静と読むが、答えはどう見てもNOだった。
「よくも、リュウナ様にヤンデレ成分を! 感謝と共に朽ち果てなさい!」
 本音は「よくぞやってくれました」という所なのだが。
 自身障壁を発動し、イグニートを手にして牛達に突っ込んで行く。銃弾の雨は降り続いているが、いくら病んでいてもリュウナが味方を傷付ける事はない筈だ。多分。でも、いつでもロウ・ヒールが使える様にはしておくけど。
「ぐぬぬ‥‥」
 そしてエルレーンは、無理に我慢しすぎたせいか、何かのコンプレックスをこじらせていた。何かとは何か、それは言わぬが花‥‥え、言わなくてもわかる?
「に‥‥人間型だったら、たてたてよこよこに切り刻んでやってるところだよぉ!」
 人間型じゃなくても切り刻む。ファング・バックルで攻撃力を上げ、魔剣デビルズTでメッタ斬り。何たる事か、牛にまで嫉妬する程にコンプレックスをこじらせてしまった様だ。
「ひゃっはー! ただのしぼうだよ、こんなものぉ!」
 そう、切り刻んでいるのは牛の乳。たかが脂肪、されど脂肪。欲しい所にはちっとも付かず、余計な所にばかり溜まる、それが脂肪。
「そんなでかいだけのおっぱい、たれて格好悪いよぉ! やーいぶざまぶざま」
 垂れる程もない‥‥いや、常に形を保ち続ける自分の胸への苛立ちを叩き付けるかの様に、罵りながらざっくりざっくり切り身を作る。髪を振り乱し、汗を飛び散らせながら‥‥しかし、その胸は微動だにしない。邪魔にならなくて良いよね、などという言葉は果たして慰めになるのだろうか。
 そして牛の乳に取りついたビリティスは、そのままちゅーちゅーごくごく‥‥
「小さい頃はママにこうやって甘えたん‥‥っ、うぶっ!?」
 流石に乳量だけは誰にも負けないホルスタイン、迸る牛乳はビリティスの処理能力を超えて溢れ出した!
「けほっ‥‥酸っぱい‥‥」
 牛乳を頭から被り、白い雫を滴らせてはいるが‥‥これだけ盛大に被れば寧ろセーフか。寧ろアウトなのは‥‥
「‥‥!!! うおおっ、差し込む様な腹痛がっ!」
 ごろごろぐるぐる、腹が鳴る。
「やべえどけ! 牛! トイレぇええ! ‥‥あ」
 決壊。頭上で勝ち誇った様にふんぞり返る牛の顔がぼやけて見えた。
「ち‥‥ちくしょう‥‥ちくしょおおおお! くそったれがああ!」
 血涙を流しながら渾身の力を振り絞って牛を跳ね除けると、バルディッシュを振るって猛撃を叩き込む!

 全てが終わった後、ビリティスは放心した様にその場に膝をついた。
 どこか遠くで虎の雄叫びが戦いの終わりを告げていたが、その耳には何も聞こえない。
「うっ‥‥うえええん!」
 人目も憚らずに泣きじゃくる。
「またやっちゃった‥‥皆が見てる前で‥‥旦那に嫌われちゃうよっ‥‥」
 と、その背後から柔らかな腕が回され、ビリティスをそっと抱き締めた。
「しっかりしなさい、貴女の旦那様はそんな事で貴女を嫌いになったりしないわ」
「雁久良‥‥?」
「将来を誓い合った、大切な人なんでしょ?」
「うん‥‥」
 警戒心、消失。ビリティスは霧依に手を引かれ、素直に公衆トイレへ向かう。
 用意したもので体を清め、ケアをして、替えのパンツに穿き換えさせて‥‥本性はひた隠しに、優しい大人の女性として世話を焼く霧依に、ビリティスはもうすっかり甘えきっていた。
「お前‥‥優しくて‥‥ママみたいだぜ‥‥えへへ」
「さあ、綺麗にしたら皆ですき焼き食べましょうね♪」
「うん」
 頬を染めながら、こくりと頷くビリティス。籠絡成功。うふふ。

「はっ‥‥! そ、そうだ、おなかすいた!」
 ふと気が付いたエルレーンの鼻を、美味しそうな匂いがくすぐる。あれはすき焼き?
「焼いて食べちゃおう!」
 向こうがすき焼きなら、こちらは公園付属のバーベキュー会場で焼き肉パーティだ。
「焼き肉、良いわね」
 クレミアも乗ってきた。
 百白がアーミーナイフで適当に切り落とし、網に乗せる。
「‥‥鮮度抜群‥‥だな」
「脳みそ、脊髄は大人の都合で食べちゃ駄目なのですねぇ」
「生レバーも世論が許さないの!」
 煉とエルレーンが交互に言う、その目の前で肉が焼けていく。
「焼き肉もステーキもよりどりみどりな感じですねぇ」
 まずは肉好きな煉が味見してみる。うん、美味い。
「人間お肉を食べないと大きくなれないのですよぉ」
「‥‥!」
 自称胸から太るタイプという巨乳な煉の言葉をどう受け取ったのか、エルレーンは猛然と肉を食べ始めた。
「いっぱい食べれば、きっと‥‥なの!」
 でも、膨らむのは別の所じゃないかな。
 もう一人の低脂肪なお嬢さんは、龍牙の膝枕で寝息を立てていた。
 覚醒後に眠くなるのはいつもの事だが、今回は少し事情が違う。
「これをイッキ飲みして短期間で大きくなってやるー!」
 龍牙の制止を振り切って豪快に飲み干したのは、キメラの酸っぱい牛乳だった。幸いトイレには間に合ったものの‥‥
 そんな訳で、焼き肉を食べ損ねたリュウナの為にアイスを買って帰ろうと、龍牙はひとり幸せそうな笑みを浮かべた。
 目が覚めたら喜ぶだろうと思うと‥‥ぁ。いけない、また鼻血が。
 そして、向こうにも幸せそうな人達が。
「はいビリィちゃん、あーん♪」
 ビリティスは霧依にすき焼きを食べさせて貰ったり、胸に抱き付いてすりすりと頬ずりをしたり。
「んふふ、可愛い♪」
(‥‥やっぱり私ビリィちゃんを諦められない♪ 旦那さん、貴方にはNTRの快感を教えてあげるわね♪)
 優しいお姉さんは、その心の奥底でどす黒い欲望の炎を燃やすのだった‥‥