タイトル:港の猫達マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/31 02:49

●オープニング本文


 小さな漁港に朝が来た。
 水平線から顔を出したばかりの太陽の光を背に受けて、海の幸を満載した漁船が帰って来る。
 それを出迎えるのは、帰りを待ちわびていた家族や、関連施設で働く者達、魚屋の主人‥‥そして、猫。
 漁港の周辺に住む猫は、キャットフードなどという洒落たものは食べた事がなかった。
 飼い猫だろうと野良だろうと、自分の食い扶持は自分で稼ぐ。それがこの町に暮らす猫達の掟なのだ。
 とは言っても、飼い主からエサを貰えない猫達が痩せこけているとか、ゴミを漁って困るとか、そんな事は全くない。寧ろどの猫も丸々と太って毛並はツヤツヤ、元気一杯だった。
 それは、彼等が毎日の様に新鮮な魚をたらふく食べているから。
 せっかく網に掛かっても、様々な理由で人の食用とはならず、その場で捨てられてしまう魚は結構あるものだ。しかし、ここではその殆ど全てが猫達のエサになる。まだピチピチと跳ね回っている新鮮な魚は彼等にとって最高のご馳走だし、ゴミが出ないのは人にとっても都合が良い。どちらにとっても都合が良い、持ちつ持たれつ一石二鳥。
 食われる魚にしてみれば「だったら海に帰してくれよ」と言いたくなるかもしれないが‥‥それが、この港町の伝統なのだ。
 だから彼等は人間よりも先に、まだ漁船のエンジン音も聞こえないうちから、桟橋に出てご馳走の到着を待ち構える。ずらりと並んだ三角耳のシルエット。一心不乱に、脇目もふらずに、一日も欠かさず、猫達は水平線の彼方をじっと見つめていた。

 そして今日も‥‥
 にゃーにゃーぞろぞろ。
 魚を運ぶ人達の動きに合わせ、長くてスラリとしたものから団子の様なものまで、色とりどりのピンと立てた尻尾の林が移動する。
 港の一角にばらまかれた魚に殺到し、貪り食う猫達。腹一杯に詰め込んだ後は、思い思いの場所で毛繕いに精を出したり、日だまりでのんびり寝そべったり、じゃれて遊んだり‥‥
 猫達にとっても天国かもしれないが、猫スキーにとっても、ここは天国の様な場所だった。

 しかし、その猫天国が今、存続の危機に――!


「‥‥ごめんな、今日も水揚げはないんだよ」
 足に纏わり付く猫達の頭を、漁師の男が撫でた。
 この海で魚が獲れなくなって、今日で一週間。町の人達は手分けして缶詰などを買い与えているが、新鮮な生魚に慣れたグルメな猫達は見向きもしない。
「贅沢言ってないで‥‥そろそろ食わないと死んじまうぞ?」
 毛並の悪くなった猫の頭を撫でて、男は溜息をついた。
 不漁の原因は、沖に現れた鮫の様なキメラの集団だ。それが手当たり次第に魚を食い荒らし、追い散らし、我が物顔で悠々と泳ぎ回っている。
 奴等がいる限り、魚は戻って来ないだろう。
「でも、俺達じゃ追い払う事も出来ないしなぁ‥‥」
 漁師達もただ手をこまねいていた訳ではなかった。船上から威嚇射撃をしてみたり、船で追い回してみたり、網を入れて一網打尽にしてやろうと試みたり‥‥しかし奴等は威嚇どころか弾が当たっても平気な顔。追いかける船は逆に体当たりを喰らって転覆しそうになり、網は噛み切られてボロボロになってしまった。
 やはりここは、専門家に頼むしかないのだろうか。
 漁業資源が豊富なこの海で暮らす人々にとっては、宵越しの金は持たないのが普通だった。天候によって数日の休漁はあっても、長期に亘って魚が全く獲れない事など考えられない。明日は明日の漁がある、明日になれば金はまた手に入る。そう考えていた。それで全く問題はなかった。
 しかし、そのサイクルが完全に止まってしまった。収入が途絶え、蓄えもない。傭兵を雇うなど、とても無理な話に思えた。
 だが、こうして悩んでいる間にも蓄えは減り続け、猫達は痩せていく。
 駄目で元々だ。

 仲間の漁師達から寄付を募り、男はUPC本部へ連絡を入れた。

「魚さえ戻って来れば、金の工面は出来ます。ですから、とりあえずこれで‥‥!」
 男が提示した金額は、今の彼等にとっては精一杯のものだ。
 それでも、それは報酬の最低額よりもまだ少なかった。

●参加者一覧

ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
大垣 春奈(ga8566
17歳・♀・DF
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
D‐58(gc7846
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 早朝の港は、静かだった。
 普段なら漁から戻った時は勿論、船を出す時でさえ足下に纏い付いて来る猫達の姿も見えない。
 いや、よく見れば‥‥そこかしこの物陰にじっと佇み、或いは気怠そうに寝そべりながら、こちらの様子を伺っている姿を見て取る事が出来た。
 船に向かう傭兵達に背を向け、そっぽを向きつつも、ぴんと立てた耳とヒゲは忙しなくヒクヒクと動いている。実は興味津々なくせに、敢えて無関心にクールを装うその姿が、いじらしくも可愛らしい。
「猫‥‥」
 その姿に思わず見とれてしまったD‐58(gc7846)が、ぽあ〜んと呟いた。
 が、はっと我に返って首を振る。
「‥‥あ、いえ任務達成が第一です」
 きりりと表情を引き締め、猫達に背を向けるが‥‥後ろ髪を引かれまくっている事は誰の目にも明らかだった。
 生真面目な性格故に、依頼は機械的に淡々とこなさなければと考えている様だが、もう少し気楽に構えても良さそうな気もする。
 ほら、あんな風に。
「‥‥猫こそ至上の癒し兵器‥‥俺は猫が絶滅したら生きていけない自信アルヨ」
 遠く離れた場所から心の手で猫達を撫で回している嘉雅土(gb2174)は、これを猫の為だけの依頼だと思っていた。善良な漁師の皆さん、ゴメンナサイ。
「すぐにー、美味しいお魚が、獲れるようにー、キメラを退治ーしますからね〜」
 ラルス・フェルセン(ga5133)は猫達に向かって真顔で話しかけている。猫のピンチとあらば、すぐにでも立ち上がらねばなるまい。ここで黙って見ている様では、猫激Loveの名が廃る。
「待っててー下さいね〜?」
 ぷいっと横を向かれてしまったが、そんなツレナイ仕草も猫の魅力なのだ。
「こいつら、野良なのか?」
 アフロカツラにスタイリッシュグラス、特攻服姿の大垣 春奈(ga8566)が、誰ともなしに訊ねる。
 野良猫なら余り手を出さない方が良いだろう。自然の姿が一番かっこいいと思うから。
「飼い猫よりも野良や半野良が多いかな」
 今回の依頼人代表、船を出してくれた漁師が答えた。
「野良でも人には懐いていますから、撫でれば喜びますよ。ただ、今はお腹が空いているのと‥‥後は、ごはんが貰えないから、ちょっとご機嫌斜めなのかもしれなせん。ええと‥‥」
「大垣春奈だ、夜露死苦」
 春奈がくるりと背を向けると、そこにも「夜露死苦」の文字が。それを見て、素朴で善良な漁師は思わず5ミリほど体を引いた。もしかして、ちょっと怖くてヤバい種類の人だったりするのだろうか。
 でも大丈夫、怖くない。ヤバくもない。筋を曲げることが嫌いで、キメラに対してはとことん容赦ないが、筋さえ通せば頼れるお姉さんだ。そして大の動物好き。ついでに生態にも詳しい。
「それじゃ、さっさと片付けて来るか!」
 特攻服をばさりと脱ぎ捨てると、胸に「大垣」と大書された名札を貼り付けた紺色のスクール水着が露わになった。多分、新型。でもマニア的には旧‥‥いや、それは置いといて。


 四人を乗せた船は沖へ向かって全速力で走った。
 舷側で砕けた波が甲板を洗い、頭上から降りかかる。今回はヤンキーメイクを自重しておいた春奈の判断は正解だった様だ。そうでなければ、今頃は化粧が流れて大変な事になっていただろう。お陰で少々迫力には欠けるが、スク水にはその方が似合う。
 やがて陸の影が視界から消えようとする頃、船はスピードを落とした。そろそろ、問題の海域だ。
「危ないですから、皆さんは中で待機していて下さい」
 既に覚醒を終えたラルスが、普段の間延びした口調とは別人の様な調子で言い、漁師達を安全な船室へ避難させる。
 その間に、嘉雅土が特製のロープを船尾に結び付け、その先端を海中に垂らした。100メートルはあろうかという長く太い縄は、ほぼ1メートル置きに結び目が作られ、更に10メートル置きには色とりどりの布きれが結び付けられている。船に近い方から、青、緑、黄と変化して、最も遠い場所は赤。いざという時の為の命綱、兼、船からの距離を測る目印にも使えるスグレモノだった。
 準備が整うと、嘉雅土は自分の左腕に傷を付け、その上から包帯を巻いた。白い包帯に、程よく赤いシミが浮き上がる。
「海中の鮫は血の臭いに敏感だからな」
 このまま海に飛び込めば、良い餌になりそうだった。
「おっ、出やがったぜキメラ野郎! ぶっ飛ばしてやる!」
 白く波立った海面に、何か黒いものが見え隠れしている。数は、これがイルカウォッチングだったらどんなに良かっただろうと思うほど。しかし今、船の前後左右をびっしり取り巻いているのは、鮫の大群だった。
 試作型水中剣「アロンダイト」を引っ掴むと、春奈は真っ先に海中へ飛び込んで行く。生き物は好きだが、キメラは別らしい。
「あいつらは歪んでっからいいんだよ!」
 続く嘉雅土も、得物はやはりアロンダイトだった。AU−KVを着ると水中では身動きが取れない為、機鎧排除を発動させて生身のまま海中に身を投じる。
 早速、血の臭いに惹かれた鮫達が嘉雅土の周囲に集まり始めた。
「鮫キメラ‥‥フカヒレは獲れませんかね?」
 嘉雅土を中心に円を描く様に回る特徴的な背鰭を見て、ラルスが甲板から洋弓「アルファル」の狙いを定めた。
「良い目印、です」
 出来ればその目印を狙い撃ちたいところだが、もしもこれがフカヒレとして売れるなら、漁師達の収入の足しになる。もっとも、キメラのものと承知で引き取る業者がいれば、だが。
「傷物にしたら、値打ちが下がりそうですし」
 そこで、水面下の胴体に狙いを付けた。水中への攻撃では武器の性能が格段に落ちるが、それもスキルで補えば多少は違う。ラルスは嘉雅土の近くにいるものから順番に、確実に矢を当てていった。
 水面近くの敵はラルスに任せ、嘉雅土は目印の縄を伝って少し深い場所に潜る。そこでじっとしていれば、もっと深い所にいる鮫達も血の臭いに惹かれて勝手に寄って来てくれる筈だ。探す手間が省けるし、労力の節約にもなって一石二鳥。
 早速、鮫達が鋭い刃を並べた口を大きく開けて近付いて来た。しかも集団で。
 ちょっと餌が良すぎたのかもしれない。そんなに美味そうな匂いがするのだろうか。
 次々と襲い来る鮫の顎をかわし、背鰭を受け流し、尾鰭の追撃もどうにか逃げ切って、カウンターでアロンダイトを叩き込む。本体を潰すのは時間がかかりそうだが、目や鰭を狙って弱体化させれば、後は‥‥
「ほら、こっちだヨ」
 傷を付けた左腕を振りながら、嘉雅土は水面へ向かって泳ぐ。狙い通り、鮫達は後を追って突進して来た。それを間一髪でかわし、体を入れ替える。鮫の下に潜り込む形になった嘉雅土は、海上へ打ち上げる様に剣を振るう瞬間、竜の咆哮を発動させた。
 ざっぱーん!
 ジャンプは出来ない筈の鮫キメラが、海面に飛び上がる。そこで待ち構えていたのは、AU−KVを装着したD‐58だった。
「目標を殲滅しますニャ」
 ‥‥え? 今、クールな仮面の下から「ニャ」とか聞こえた気が‥‥
「‥‥‥‥はっ! すいません。つい、妙な言語バグを‥‥」
 そうか、今のはバグなのか。
 気を取り直して、エネルギーキャノンを構える。打ち上げられた相手なら、これで問題なく攻撃出来る筈ニャ。‥‥いや、筈だ。
 頭突きで船の鉄板さえ凹ませるという硬い頭を下にして落ちてくる鮫。このまま突き刺さったら、木製の甲板は粉々に砕け散るだろう。そうなったら、下の船室に避難した漁師達は‥‥
「そうはさせませんニャ」
 言語バグ、再び。もうね、この際だから開き直った方が良いと思うよ。素直な思いを抑えてはいけない。無理に抑えようとすると、そうやって妙な事になるんだから。猫が好きなら好きと、思い切り叫ぶが良い!
 しかしD‐58は、思いの丈を叫ぶ代わりにエネルギーキャノンをぶっ放した。
 頭部を砕かれ、甲板にどさりと落ちる鮫キメラ。まだバタバタと動くその体を、D‐58は試作型水陸両用槍「蛟」の穂先に突き刺して、海へ投げ捨てた。
「残しておいては、甲板が汚れてしまいます‥‥、‥‥」
 言語バグをぐっと呑み込んで、D‐58は次の標的にキャノンを向ける。打ち上げられるものに、自分から体当たりを仕掛けて来るもの‥‥水中の囮に引き寄せられるものは多かったが、それでも尚、結構な数が船に打撃を与えようと集まって来ていた。
 もう、甲板を片付けている暇はない。D‐58は海から打ち上げられて船の上に落ちそうになる鮫を、竜の咆哮で再び海の中へ打ち返した。それが再び打ち返される事は‥‥多分、ない。
 それでも対処しきれない分は、ラルスが受け持ってくれた。得物をSMG「ターミネーター」に持ち替え、海面に向けて乱射。威力は減っても数で勝負だ。
 目視が出来るほど水面近くにいる相手には、急所突きを発動させて試作型水陸両用アサルトライフルでピンポイントに目やエラを狙い撃つ。リロードは出来ないし、連続使用も困難だが、要は使いどころを間違えなければ良いのだ。
「突撃すれば、動きが止まってしまいますよ?」
 頭突きなど、させない。船が傷ついたら、猫達の為に魚を捕って帰る事も出来ないじゃないか!
 一方、真っ先に海に飛び込んだ春奈は‥‥
「オラァ! おとなしくやられとけってんだ!」
 暴れていた。鼻先にアロンダイトをざっくり刺して、試作型水中用拳銃「SPP−1P」の銃口を口の中へ突っ込む。そのまま引き金を引くと、圧縮された水の塊が頭蓋を打ち抜いた。
 それにしても、水中用の武器は何故こうも試作品ばかりなのだろうか。
 四発しかない弾を撃ち尽くした後は、アロンダイト一本での勝負だ。素早く近付き、鼻先にスマッシュを叩き込む。
「サメってのは鼻先だかにロレンチーニ器官ってのがあるんだろ?」
 ロレンチーニ器官とは、手っ取り早く言えばレーダーの様なものだ。鮫はこれを使って食べ物を探すらしい。だから、ここを壊してしまえば鮫は目鼻や耳を塞がれたも同然‥‥の、筈。多分。
 ただ、その器官は鼻先だけではなく、頭部全体にあるらしいが‥‥哺乳類には滅法詳しいが、それ以外に関してはそれほどでもない春奈さんだった。
 ‥‥それはともかく、ひたすら鮫の鼻先を狙って斬り付ける間には反撃も受けるし、血が流れればそれに誘われて新たな鮫も寄って来る。しかし、そんな事で攻撃の手を緩めたりはしない。
「根性があれば何とかなるって!」
 根性と気合いと活性化のスキルで傷口を塞ぎ、ひたすら攻撃を続ける。
 エアタンクの空気が切れるのと、鮫キメラの殲滅と。
 果たして、どちらが早いだろうか‥‥?


 その日の夕方。
 港には、いつも通りの光景が戻っていた。
 鮫を撃退したばかりの海域では、まだ商売になるほどの魚は捕れなかったが、猫達に分け与えるには充分な量を確保出来た。
 魚は数日もすれば戻るだろうし、ありったけ積み込んだ鮫キメラの背鰭もある‥‥売れるかどうかは、わからないけれど。
 とにかく今は、港に大挙して押し寄せてきた猫達の期待に応えてやらなければ!
「はいー、新鮮なーお魚、ですよ〜」
 魚を入れたコンテナを持って船から下りたラルスの周囲は、たちまち猫雪崩で埋め尽くされた。出掛ける時のツレナイ素振りとは打って変わった熱烈歓迎ぶりに、ラルスの頬は緩みっぱなし。早く寄越せと引っ掻かれても痛くない。にこにこと、ひたすらにこにこと、魚を配る。ついでに撫でる。撫でまくる。
 そんな猫達の食事風景を、D‐58はひたすら眺めていた。上から見るだけでは飽き足らず、目線を低く‥‥猫と同じ高さまで屈み込み、遂には寝そべって、ひたすら眺める。ふと顔を上げる猫。それでも食べるのはやめない。じ〜っと無表情で見つめ合っている、人と猫。
「かわいい‥‥」
 骨だけを上手に残して綺麗に食べる大人の猫も、散らかすばかりでなかなか口に入らない子猫の食べっぷりも、どちらも可愛い。見ているだけで、ほんわり和んで来る。癒やされる。
「でもホント、猫が居てあくせくしない生活って良いよなぁ‥‥」
 嘉雅土がしみじみと呟く、その気持ちも良くわかる。きっと、猫の勝手気ままでのんびりとした生活リズムが人間にも合っているのだろう。そんな贅沢が出来る者は限られているだろうけれど。
「ネコ目ネコ科イエネコ〜」
 向こうでは、春奈がここぞとばかりに蘊蓄を披露していた。鮫知識は今ひとつだったが、猫知識なら誰にも負けない。首を傾げている漁師に向かって、春奈はきょとんとした顔で答えた。
「ネコが好きっていうなら、こんくらい知ってんの当たり前じゃないか?」
 尻尾が短かったり折れたりしているのは、人の手が入っている証拠なのだ。
「え、猫の尻尾を切ったりするのか?」
 そういう意味ではない。ジャパニーズ・ボブテイルと呼ばれるポンポン尻尾は、人の手でちょん切ったものではなく、生まれつき短いのだ。
「そうそう、日本の猫って言ったら、やっぱ三毛猫だよな」
 見た所、三毛猫も何匹かいる様だが、オスはいるだろうか。
「三毛猫のオスってのは突然変異でしか生まれてこねーんだぜ」
「へえ、そうなんですか?」
「じゃあ、三毛猫のメスは他の種類のオスと交尾したらどうなるかって? そいつはな、三毛猫が生まれてくるんだ」
「へえー」
 嘘か誠か、春奈の蘊蓄は止まらない。食事を終えた猫達を撫でながら、話は続く。ちょっと失礼して、三毛猫の尻尾を持ち上げてみたり‥‥しかし残念な事に、立派なものが付いている三毛猫は見当たらなかった。
 D‐58と見つめ合っていた猫も食事を終え、丁寧に毛繕いを始めた。時折舌を休めては、まるで品定めをするかの様にちらりとD‐58を見る。
 やがて身だしなみを整えた猫は、ぐーんと大きく伸びをすると‥‥
「にゃーん」
 D‐58に擦り寄って来た。
「あ‥‥」
 ちょっと驚き、そして喜んで、そっと手を伸ばしてみる。撫でてやると、猫はごろごろと喉を鳴らした。
「‥‥おいで‥‥?」
 胸に抱き上げてみた。それでも猫は逃げない。緊張しながら撫でているうちに、嬉しくなってきた。頬が緩み、微笑が漏れる。
 ――もっふーーーっ! もふもふ、もふもふ。
 嘉雅土も、ニャン様にお願いして撫で回させて貰っていた。野良も飛びつく鮭トバ、またたび、ポプリ、猫じゃらし。警戒心の強い猫だって、必勝アイテムでイチコロだ。
 噛まれても引っ掻かれても、痛くない。痛いけど嬉しい。この痛みこそ至上の喜び、生きている証! 嘉雅土が持ち帰った鮫肉は、残念ながらグルメな猫達には見向きもされなかったけれど、気にしない!
「茶トラもー、キジもー、黒も白もー、全部、可愛いです〜」
 猫じゃらしで遊びながら、ラルスも猫のいる幸せにどっぷりと浸っていた。
 遊び疲れた猫にはそっとブラシをかけてやり、寝床を求められれば何匹でも、乗せられるだけ膝に乗せ‥‥

 猫天国、ここに復活!