タイトル:X ふわもこ電気羊マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/17 22:47

●オープニング本文


「‥‥はあぁぁぁーーーーーーーっ」
 今日もまた、魂が抜けるような深い深い溜息が聞こえる。
 出所は所長Xの部屋だ。

 ここは英国南部、ケント州の森林地帯にひっそりと隠された珍獣研究所。
 その創始者にして所長のXがヘタレたりヘコんだり引き籠もったりするのは、そう珍しい事ではない。寧ろそうではない時の方が珍しいと言っても良いだろう。
 しかし、今回の落ち込みはかなり深刻な様子だった。

「‥‥ほら、前にさ‥‥傭兵の誰かが野犬だのヘビだのトカゲだの、人に懐かない野良キメラを連れて来た事があっただろ?」
 助手のZがモニターの向こうに苦笑いを投げる。回線は今、UPC本部に繋がっていた。
「ああ、確か‥‥ワンコを保護した時でしたっけ。他にカラスもいた様な‥‥」
 オペレーターのセオドア・オーデンが記憶を辿る。あれは去年の夏頃だったか。
「そうそう。所長のヤツ張り切っちゃってさ、どうにかして懐かせようってんで、毎日の様に撫で回したり手からエサをやろうとしたり、色々頑張ってたんだけど‥‥」
 無論、戦闘用に作られたキメラが人に懐く筈もない。撫でようとしては噛まれたり引っ掻かれたり、エサと一緒に手まで食われそうになったり、毎日毎日飽きもせず懲りもせず、それはもう壮絶なバトルを繰り広げていたのだ。
「それが、ここに来て急に‥‥皆、死んじまってさ」
 具合が悪そうなものは一匹もいなかった。皆、つい数時間前まで普段と同じ様に元気に暴れ回っていたのに。
「多分、寿命だったんだろうな」
 Zの言葉にセオドアも頷く。恐らく同時期に作られ、放たれたのだろう。
「でも、所長はそう思ってなくてさ‥‥自分のせいだって言うんだ」
 無理に懐かせようとして、ストレスを与えたせいだと。それで寿命が縮んだのだと考えているらしい。
「まあ、ストレスとは無縁そうなふわもこ連中は、皆元気でピンピンしてるからな。そう考えるのも無理ないかもしれないけど」
 ふわねずみ達やあかしろぱんだ、人なつっこいレトリーバーのワンは、今日も元気にのほほーんと日なたぼっこなどしている。それに、どう考えてもあっという間にカビたり腐ったりしそうなジンジャーブレッドキメラのジンに至っては、製造後一年が過ぎても焼きたての良い香りを漂わせていた。
「でも、人に懐かないキメラは戦う為に作られたのですから‥‥」
 セオドアが言った。
「毎日の様に戦っていたなら、却ってストレス解消になっていたのではないでしょうか?」
「だよなー」
 しかし、そう言って聞かせても、所長はヘコんでいる。ヘコみまくっている。
 鬱陶しいったらありゃしない。
「‥‥って事でさ。なんかあのアホ所長が元気になれるよーなキメラ、いないかな?」
 つまり、ふわもこスキーが思わず鼻の下を伸ばしまくって溺愛し、何もかも忘れて親馬鹿モードに突入出来る様な、超絶可愛いキメラが。
「ちょっと待って下さい‥‥」
 セオドアは心当たりがある様だった。暫くしてモニターの画面が切り替わる。
「超絶可愛いとは言えないかもしれませんが‥‥ふわもこ度の高さは保証します」
 そこに写されたのは、もっこもこの羊の姿だった。
 ただしこの羊、タダモノではない。触るとビリビリ感電する、電気羊だった。
「この電気羊が20頭ほど、農場の羊の群れの中に紛れ込んだそうで‥‥」
 農場の羊は千頭あまり。その中に、散り散りになった電気羊が混ざっているのだ。
 この羊達、見ただけでは区別が付かなかった。農場の羊に何か識別票の様な物でも付けてあれば良いのだが、生憎ここは管理が大雑把らしい。
「電気羊も、普通に触っただけでは何でもないそうなんです」
 資料を見ながらセオドアが言った。
「ですが、身の危険を感じると‥‥例えば毛刈りのバリカンでも当てようものなら、ビリビリと」
 そんな訳で、羊の毛刈りが出来ないからどうにかしてくれ‥‥という依頼が来ているのだ。
「それって、電気絶縁の手袋でもすりゃ良いんじゃね?」
「指先の感度が鈍るから、駄目なんだそうですよ」
「‥‥あ、そ」
 羊の毛刈りというのは、想像以上にデリケートな作業であるらしい。
「んじゃ、片っ端からもふって確かめるしかねーかな」
 Zがにやりと笑う。
 Xを引きずり出してやる。何が何でも。
 なぁに、電気ショックの100万ボルトや200万ボルトで死にはしないだろう、多分。
 野良キメラとのバトルでかなり鍛えられてるし。それに、ショック療法にもなる、かも?
「ああ、それから‥‥」
 思い出した様にセオドアが付け加える。
「その農場には狼のキメラも出るそうで、ついでにそれも退治して欲しいそうです‥‥一件分の料金で」
「んだよ、しみったれてやがンな‥‥」
 文句を言いながらも、Zはその条件を呑んだ。狼程度なら大した事はない。所長も鍛えられて以下略。
「ただし」
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「その狼は羊よりも大きく‥‥百頭ほどの群れを作っているそうで」
「‥‥は?」
 百頭? それ、多くねぇ? つか、多すぎねぇ?
 それに羊よりデカいって、デカすぎだろ。
「でもよ、そんなデカい狼が百頭もいたんじゃ、今までにも相当な被害が出てんだろ?」
「それが‥‥」
 問われて、セオドアが答えた。
「どうも、群れに交じった電気羊が上手い具合に狼避けになっている様ですよ」
「ああ、なるほど‥‥」
 狼が襲いかかった途端に、ビリビリッ‥‥か。
 しかし、電気羊が居たのでは毛刈りが出来ない。電気羊が居なくなれば安心して毛刈りが出来るが、今度は狼に襲われる。
 なるほど、両方いっぺんに片付ける必要がある訳だ。
「んじゃ、俺は羊の柵でも作っとくかな」
 どうせ羊は全部、連れて来るんだろうし。

 ‥‥もしかしたら‥‥狼も??

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
入間 来栖(gc8854
13歳・♀・ER

●リプレイ本文

「にゃ! モコモコ軍団確認! モコモコ! モコモコ!」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)が指差すそこは、見渡す限り羊の海。
「さぁ、リュウナ様! 共に頑張りましょう!」
「にゃー! テンション上がってキタなりー! にゃー!」
 東青 龍牙(gb5019)の言葉に張り切って応えるリュウナだが。
「あ、リュウナ様? 今回の依頼の内容覚えていますね♪」
 モコモコしか眼中にないご様子だけど、ちゃんとわかってるよね?
「にゅ? お仕事内容?」
 暫しの間を置いて、思いっきり棒読みの答えが返ってきた。
「ちゃんと覚えてるなりよ?」
 えーと、えーと、なんだっけ。羊さん達をモフモフ‥‥じゃない。そう、思い出した!
「電気羊さんを見つける事と、狼キメラ達のボスをやっつけて狼達の肉球をプニプニにゃー!」
 もうひとつあるけど、そっちはついでだから‥‥プニプニの後でも大丈夫だよね。
「さすがリュウナ様♪ ご立派です♪」
 その答えに満足した龍牙は、リュウナの頭を撫でる。なでなでなでなで‥‥掌から全身に染み渡るリュウナ様エネルギー。
「にゃ! 竜ちゃん! さくてきお願いなのら!」
「任せて下さいリュウナ様!」
「その間、リュウナは‥‥え〜と、応援してるのら!」
 リュウナの応援、もとい見物を受けて、龍牙は探査の眼を使った。しかし‥‥
 モコモコ、モコモコ。それ以外には何も見えない。見当たらない。
 情報では、巨大狼は羊達のすぐ近くに潜んでいる筈なのだが。しかも百頭あまりも。
「‥‥狼の数は‥‥面倒‥‥だな」
 西島 百白(ga2123)が、ぽつり。
 しかし、狼もそうだが‥‥羊の数も、相当に面倒だ。
「狼さん、いませんかー?」
 巫女装束に身を包んだ未名月 璃々(gb9751)も、探査の眼で周囲を探ってみた。因みに、この出で立ちについては‥‥特に意味はないらしい。
「いませんねー」
 って言うか、羊が邪魔。
 これ、何とかならないものだろうか。全部まとめて、羊小屋にでもお引き取り願うとか。
「そういう事なら、ワンさんの出番ですねっ!」
 研究所から連れてきたレトリーバー、ワンの力を借りようと、入間 来栖(gc8854)は所長Xの顔を見る。
「あの、お願いしても良いですか?」
「え、ああ‥‥はい」
 しかし、返事は上の空。
「所長さんっ! 元気を出して下さいっ!」
 来栖はXの両手をしっかり握って言った。
「わたしは所長さんのこと、尊敬していますっ!」
 彼女の目には、Xはキメラとの共同生活を成しえた大人物と映っていた。その実態はただのふわもこスキーであったとしても、来栖にとっては偉大なる先駆者なのだ。
「ありがとうございます」
 Xはどうにか笑顔を作ると、来栖の頭にぽふんと手を置いた。心配をかけてはいけない、何とか表面だけでも取り繕わなければ‥‥
「では、ワンはあなたの指示で動かして頂けますか?」 
「ろじゃーですっ!」
 来栖は元気に答えると、ワンの前に膝を付いてぺこりと頭を下げた。Xの下手な芝居に気付いてはいたが、今は仕事の最中だ。その話は、また後で。
「ワンさん、よろしくお願いしますっ!」
「わふっ」
 ぱたりと尻尾を振ってそれに応えると、大きな犬は羊の群れに向かって一目散に駆け出した。
 来栖は先見の目を使うと、双眼鏡を羊達の周囲に向ける。狼が本来持っている筈の行動や生態を念頭に置き、周囲の植生と照らし合わせて潜伏場所の目星を付けると、それを仲間に伝えた。
 通常はいくら双眼鏡を使っても、巧みに身を隠した相手を見付けるのは難しい。だが、探査の眼を持つ仲間なら‥‥
「狼キメラの群れを発見しました!」
 龍牙の声が響く。
 その声に応えるかの様に、灌木の茂みや岩陰から姿を現した黒い影。狼達は牧場の周囲を取り囲む様に、あちこちに小さな群れを作っていた。
 その中の、羊達に最も接近した群れに向かって、璃々が閃光手榴弾を投げ付ける。
 強烈な音と光が炸裂し、狼達は顔を背けて後ずさった。その間に追い立てられた羊達は、無事に小屋の中に収まった様だ。

 後に残ったのは、傭兵達と‥‥じりじりと包囲を縮めて来る狼達。
「多いな‥‥コイツは‥‥面倒な‥‥」
 百白は眉を寄せる。だが、その下に光る瞳は楽しげに輝いていた。
「だが‥‥それ以上に‥‥楽しめそうだ‥‥」
 楽しい狩りの、邪魔はさせない。まあ、邪魔をする者はいないだろうが‥‥ただひとりを除いて。
「バッテン印‥‥『邪魔』だけは‥‥するなよ?」
 鋭い視線がXを射る。言葉の背後に殺気を感じた。これは、本気だ。
「は、はいっ!」
 気合いを入れられ、反り返る程に背筋を伸ばしたXだったが‥‥本当に大丈夫なのだろうか。
 まあ良い、邪魔さえしなければ。
「ガルルル‥‥」
 姿勢を低くして、百白は敵の群れに真っ先に突っ込んで行った。そのまま、ジャイアントクローで豪快に引き裂いて行く。敵意を向ける相手に容赦はしない。
「にゃ! 発見したなりか! なら、行くなりよ!」
 覚醒!
「リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名の元に、殲滅します! 竜ちゃん! ひゃくしろ! 後ろはリュウナに任せて!」
 覚醒後は言葉遣いもキリリと凛々しくなるリュウナ。その姿に見とれつつ、龍牙はイグニートを構えた。
 頭ナデナデによってリュウナ様エネルギーを補充した今の龍牙に、怖いものはない。
「もう、何も怖くないです! ティロ!」
 え? ティロ‥‥何?
「‥‥スミマセン、テンションが上がりすぎて暴走してました。ゴメンナサイ」
 どうやら、何か拙い事を口走りそうになったらしい。では、気を取り直してもう一度。
「東青竜牙! 青龍神様の命により! 狼キメラの群れを殲滅いたします! 皆さん! 援護は任せました!」
 竜牙は自身障壁を使い、先に突撃した百白の後を追う。
 手当たり次第に切り刻む百白と、足を狙って槍を振るう竜牙。その二人の死角を補う様に、リュウナはスナイパーライフルを撃つ。
「めぇ〜」
 その時、緊張感の欠片もない鳴き声が彼等の耳に届いた。
 声の方角に目をやると、いつの間にか迷子の羊が一匹。すぐ近くで狼が狙っている事にも気付かずに、呑気に草を食んでいた。
「危ないですっ!」
 来栖が狼と本物羊の間に囮用のひつじくっしょんを投げ付け、自らは盾となって羊を守る。
 その隙に、リュウナのライフルが火を噴いた。
「モコモコを、キズつけさせません!」
 きりりと言い放つその姿をチラリと見て、龍牙は再び何かのエネルギーを補充した様だ。
 しかし、言い放った本人は‥‥
「あ、いや、一回やって見たかっただけ‥‥です‥‥‥ごめんなさい」
 え、別に、謝らなくても。

 迷子羊を避難させ、傭兵達は狼狩りに集中した。
 しかし、狼の数は多い。多すぎる。群れを統率している個体を探し、それを無力化した方が効率が良いし‥‥何より、無闇に死体を増やさずに済む筈だ。
「Xさん、統率してるっぽい、個体いますかー?」
 こういう事は珍獣のプロに訊いた方が良いだろうと、武器の代わりにカメラを構えた璃々が訊ねた。
 だが、Xは心ここにあらずといった表情で、ぼんやりと狼達を見つめている。彼は気付いていなかった。その背後から、狼の一団が迫っている事に。
 接近する狼の姿を認めた璃々は、超機械「グロウ」を集団の鼻先へ向けて振る。パチパチと小さな火花が散り、狼達はそれを避ける様に数歩後ろへ下がった。
「やはり、電気はお嫌いの様ですねー」
 という事は水属性なのだろうか。基本的に戦闘に関しては余り熱心ではない‥‥と言うか殆ど戦わない璃々ではあるが、こういう嫌がらせならしないでもない。あくまで気が向いた時に限られるけれど。
 しかし、狼達も黙って嫌がらせを受けているほど甘くない。攻撃の届かない位置に回り込んで、Xの背後に迫る。ここに来て漸く、自らが置かれた状況を把握したらしいXだったが‥‥
「貴様! いい加減にしろ!」
 百白の腕がXの胸ぐらを掴み、その体を狼の牙から遠ざけると共に、もう片方の腕を振る。Xの背後で狼の悲鳴と血飛沫が上がった。
「戦闘中だ! 集中しろ! 味方を殺すつもりか! 貴様!」
 百白の瞳の色が、青く変わっている。それは人型の敵に対する時に現れる変化だった。こうなった時の百白は、それはもう恐ろしい。片手でXを掴み上げたまま、百白は更に攻撃を加える。
「す、すみません!」
 掴んだ手を無造作に放され、Xは無様に尻餅をついた。
「‥‥その‥‥似ているものですから」
 死んだ大型犬と、目の前に居る狼達。彼等を見ると、どうしても思い出してしまうのだ。
「で、でも、もう大丈夫ですから! 気合い入れますから!」
「ガルルルル‥‥‥‥」
 返事の代わりに一声唸ると、百白は再び狼の群れへ。先程までよりも更に手当たり次第で情け容赦の無い攻撃は、まるでXに対して溜まりに溜まった苛立ちや怒りをぶちまけている様に見えた。
 ‥‥狼達は、とばっちりを喰ったという事か。
「ペケにゃん! 今は集中して!」
 いつの間にか傍に来ていたリュウナが、軽く肩を叩いた。
「は、はいっ」
 集中、集中。ともすれば彷徨い出そうになる魂を引き戻し、立ち上がる。
 しかし、ボスはどれだと言われても‥‥単なるふわもこスキーであるXに、その方面の専門知識はなかった。
「所長さん、大丈夫ですっ」
 そこに助け船を出したのは、来栖だった。
「群れの動きを観察すると、指揮系統の流れがわかるんですよ。分布の統計を取って、データを重ねると‥‥ほら、あれですっ!」
「おお‥‥!」
 来栖が指差した先には、ひときわ立派な体格をした堂々たる雄狼の姿があった。
「アレが狼の群れのボスですか?」
 リュウナがライフルを構える。
「援護します! 周りの狼は、任せて下さい!」
 弾丸の雨を縫って、百白がボスとの距離を詰めた。
「貴様が‥‥ボス‥‥だな?」
 巨大なボスと目が合う。漲る敵意と殺気。だが、百白の半切れパワーも負けてはいなかった。
 虎と狼は激しくぶつかり合い、火花を散らす。爪と牙が交錯し、金属質の音を立てた。
 一対一では互角の戦いかと思われたが、リュウナの援護射撃で子分の動きを封じられている狼とは違い、百白には味方がいた。龍牙と来栖が力を貸し、璃々も写真撮影の合間に嫌がらせをし、Xもとりあえず何か頑張っている。
「ガアアァァァ!」
 百白が雄叫びを上げた。それは、勝利の合図。ボス亡き後の狼達は戦意を喪失し、もはや敵意を向けるものもいない。そのまま、一目散に逃げ出すものと思われた、が‥‥
「逃がしませんよ?」
 にっこりと微笑む龍牙が、狼達の行く手を阻んだ。龍牙にとっては、ここからが本番なのだ。むざと逃がしてなるものか。
「肉球プニプニか死か、選んで下さい♪」
 勿論、プニプニですよね‥‥と、その目が語っている。死を選ぶなんて許さない。はい決定。
「さあリュウナ様、どうぞ!」
 プニプニ、プニプニ。言われるままにプニりまくるリュウナ。狼はもう、何と言うか‥‥覚悟を決めたらしい。
 そんなリュウナの姿を、龍牙は写真に撮りまくる。
「プニプニしてるリュウナ様‥‥可愛いです♪」
 ‥‥あのー、まだ仕事は残ってるんですけど。って言うか依頼の主目的が、まだ。
「そうでした、モコモコを楽しんでるリュウナ様のお姿も写真に納めなければ!」
 ‥‥えー‥‥。

 そんな訳で。
「さぁ、お次はお待ちかねの‥‥モコモコタイムにゃー!」
 台詞の途中で覚醒を解いたリュウナは、羊の群れに飛び込んで行く。急がなければ、覚醒を解いた途端に眠気が襲って来るのだ。
「にゃ〜♪ モコモコ〜♪ ビリビリしないから、この子はちがうのら〜♪」
 一応、仕事はしている。多分。
 その姿を激写しまくる龍牙。そうしている間にも、リュウナの瞼は重くなる。
「‥‥ふにゃ‥‥」
 モコモコに埋もれて寝息を立てるリュウナ。
「リュウナ様の寝顔かわいすぎます♪」
 おっと、鼻血が。
 ‥‥と、幸せな人達は置いといて。
 判別作業を仲間に任せた璃々は、探査の眼を使用して周辺の警戒に当たる。狼達は既に檻の中、危険な要素はないと思うが、念の為。後は、羊達を子守唄で眠らせてみようか。
「眠らせると、もふり易いでしょうし、確保もし易いでしょう」
 でも、メインは写真撮影だけど。
 どうやら、牧場で飼われている羊には尻尾がないらしい。その知識を元に、来栖は羊達を観察し‥‥あれ、おかしい。全部の羊に尻尾がない。
 これはやはり、全てをもふって調べろという事か。因みに、放水作戦は「羊毛が濡れるのは困る」という事で中止になったらしい。
 来栖は宝物のリボンを手に巻き付けて耐電装備とし、羊達を軽くポンポン。宝物も大切だが、依頼の完遂も同じくらい大切なのだ。
 そうして、ひたすら‥‥ポンポン、ポンポン。思い切りもふってみたい誘惑に駆られても、我慢、我慢‥‥我慢、出来ない!
「ふわもこ〜♪」
 もっふもっふ。うん、この子は普通の羊だ。
 そして百白は、面倒な事は仲間に任せ‥‥という事はつまり、来栖ひとりに任せきり、という事になるのかもしれないが。それはともかく、Xの生態観察の真っ最中だった。
 どうやら、まだ落ち込んでいる様だ。まったく、世話のやける。
「‥‥ペットが‥‥死んだらしいな‥‥」
 その声にXが顔を上げる。
「生きているんだ‥‥死にもするさ‥‥」
「そう、ですね。それは‥‥わかっている、つもりなのですが」
「‥‥他のペットは‥‥今、生きている‥‥だろ?」
 こくん、Xは子供の様に頷いた。ペットと言うよりは、仲間、ライバルと言った方が良いのかもしれないが。
「死んだ奴の分も‥‥生きてる奴に‥‥愛情をくれてやれ‥‥」
 そう言うと、百白は返事も聞かずにXの襟首を掴み上げ‥‥
「‥‥そぅら!」
 投げた。羊の群れの真ん中に放り込んだ。
「うわあぁぁっ!!」
 もっふん、ビリビリ。羊に埋もれて痺れまくるX。
「‥‥当たり、か」
 どうやら、上手く電気羊にヒットしたらしい。バッテンも投げれば電気羊に当たる‥‥?


 そして漸く選別も終わり‥‥
「珍獣研究所所長、いや、同じ臭いがします」
 羊毛にまみれてボロボロになったXをじぃっと見つめ、璃々が言った。もっとも、璃々はふわもこも好きだが、変態キメラの方がもっと好きという変態キメラコレクターなのだが。
「何時か拝見してみたいものですよー」
「あ、今からでも構いませんが‥‥」
 どうせ、この電気羊と巨大狼を連れて帰る所だし‥‥まあ、残念ながら変態キメラは今の所いないけれど。
「この子達と、共存できるでしょうか‥‥?」
 少し心配そうに、来栖が訊ねた。
「出来ますよ、きっとね」
 人もキメラも、生きている。同じ「生き物」なら、きっと。
 屋外では無理だとしても、あの研究所でなら。
 こくんと頷き、来栖は檻に入ったキメラ達に笑顔を向けた。
 荒療治のお陰か、Xもどうにか元気になった様だし‥‥

「地球へ‥‥ようこそ!」