●リプレイ本文
「あのタコは一体何の為にあんなことしてるんだろうね」
ひっそりと静まりかえった沼地を眺めながら、香坂・光(
ga8414)は暑くもないのに額に浮かんだ汗を拭った。
「のんびり温泉に漬かりたい人を襲うなんて赦せない! そのタコ、あたしが退治してあげるんだから!」
七瀬 蛍(
gc4972)が鼻息も荒く、姿を見せない敵に向かって指を突き付ける。
「今回は羞恥心を吸い取るキメラですか‥‥」
東青 龍牙(
gb5019)は、傍らに佇むリュウナ・セルフィン(
gb4746)の横顔をちらりと覗き見た。
彼女を守る為にも、攻撃には気をつけないと‥‥いや待て、これはチャンスかも。
「羞恥心を吸われたフリをしてリュウナ様にあんな事やこんな事を‥‥」
心の声、だだ漏れ。
「にゃ? 龍ちゃん、鼻血が出てるなり。大丈夫なりか?」
「‥‥っ」
ふいに振り向いたリュウナに言われ、慌てて拭き取る。いけない、邪心よ去れ。‥‥今の、聞こえてないよね?
「ところで、『しゅーちしん』って何なりか?」
かくりと小首を傾げる様子がまた可愛ぃ‥‥いや、平常心カムバック。
龍牙が説明しようとした時、エルレーン(
gc8086)の声が耳に入った。
「しゅうちしん? しゅうちしんを‥‥吸い取る、の‥‥?」
何かぶつぶつと呟いている。
「??? なあに、それ? ‥‥エサになるのかなあ、そんなもの」
羞恥心というのは‥‥まあ良い、吸われてみればわかる。きっと。
しかし、中には効かない者も居る様だ。
「また面白いキメラが出たわね♪ 楽しませてもらうわよ♪」
んふふ、と微笑む雁久良 霧依(
gc7839)。彼女の羞恥心は、元々着脱自在だった。この手の依頼中は、羞恥心なんて何処かに行ってるから何を見られても平気だし、寧ろ燃える。
だから吸い取られても特に変化はないのだが、この際だから吸われた事を口実に、あんな事やこんな事‥‥
「あー楽しみ♪」
しかし、世の中上には上がいるものだ。
「お姉ちゃんに元よりそんなものは存在しないのよねー」
樹・籐子(
gc0214)が胸を張る。だからこそ、退治名目で集ってきた可愛い皆を、こぞって望まれるままにらきすけ・せくはら三昧。勿論、望まれるならば受けてたって逆襲もアリだ。
って、考える事は皆同じか。
「さあ、皆ー張り切って頑張りましょうねー」
手をわきわきと、準備運動。何の準備かは訊くまでもないだろう。
ここに集まった7人の女性は甘美に熟れた絶品から青い果実まで、バラエティに富んでいた。何たる幸運、何たる至福。
サウル・リズメリア(
gc1031)は思わず愛の女神に感謝を捧げたくなった。
「タコキメラに羞恥心を取られた美女たちを、堪能‥‥」
いや、目的はあくまでキメラ退治だ。とりあえず、多分、最終的には。
しかし、そんなサウルの背後から場違いな冷気が漂ってくる。振り向くとそこには、満面に爽やかな笑顔を湛えた龍牙の姿があった。
「リュウナ様に手を出したら、誰であろうと容赦はしませんので‥‥」
笑顔の周りで冷気がトグロを巻いている。
出さない出さないと、サウルが首を振った。だって巨乳スキーの年上スキーだもん。
「にゃ! リュウナはあの木に登るのら! 『高い所から味方を援護するのが一流のスナイパーの仕事』って、借りた本に書いてあったのら!」
「はい、手をお貸しします、リュウナ様!」
書いてなくても登りたいお年頃のリュウナの後に、いそいそとついて行く龍牙。
残る面子はタコを誘惑‥‥じゃなくて、誘き出しにかかった。
「岸にいるばかりじゃ、退治出来ねぇよな」
溢れる下心をひた隠しに隠し、サウルは全員で沼に入るように促してみる。
それに応えて、霧依が進み出た。潔く脱ぎ捨てた白衣の下は、何も着ていないも同然のマイクロビキニ。サウルの鼻から一筋の赤い線が延びる。いや、まだだ。まだまだ、こんなもんじゃない。
殆ど同時に籐子が前へ出た。真っ先に特攻して、敢えて触手攻撃を浴びるのだ。そこから先は、うっふんあっはん。
「ともかくタコを引き摺りだすのだ♪ タコさんタコさん出ておいで〜♪」
二人の完熟美女の間に割って入る、半熟少女。光は転んで泥まみれになりつつも、沼の中心近くまで進んでいく。
その時、沼のあちこちからタコ足が現れた。それに続いて、丸くて大きな物体が顔を出す。
(来た!)
心の中でガッツポーズをするサウル。
(タコで許してやるから、美女達の羞恥心を吸い取ってくれ)
タコの目を見つめ、念を送った。
(あんたなら出来る!)
それに応えて、タコ足がうねる。
「ふふん、罠にかかったね♪」
光が勝ち誇った様に鼻を鳴らす。
「顔を見せればこっちのもの‥‥一気にいくのだー♪ ‥‥わきゃ!?」
捕まる気はなかった。なかったのだが‥‥気が付いたら、吸盤が額に。あれ、おかしいな。なんだか気分が‥‥
――すぱーん!
光は勢いよく服を脱ぎ捨てた。上も下も、きりりと締めた褌一丁を残して、何もかも。
「あたしの‥‥褌をみてー♪」
泥の中に仁王立ちして、その勇姿を見せつける。大丈夫、さっき転んだお陰で大事な所は泥が付いて隠れてるから。
真っ先に反応したのは籐子だった。ただし、今は動けない。タコ足を体に巻き付けてるから。巻き付けて、引っ張って、タコの本体を泥の中から引きずり出そうというのだ‥‥が、足が滑って思うように動けない。
その隣では霧依が抵抗もせずにされるがまま、羞恥心を吸われていた。いや、元々無いけど。
「んん‥‥ああ! なんかすごい解放感よ!」
元々解放されまくってるけど。
「んふ‥‥今なら何でも出来そう♪」
元々何でもやっちゃいそうだけど。
「よし! キメラ君に触手の何たるかを教えてあげるわ! 私は今から触手! 触手なのよおお!」
霧依は傍らで仁王立ちする光に近付いた。
「ねね、この褌、最近買った最新モデルなのだ♪ かっこ良くないかな? かな?」
「そうね、かっこ良いわ」
すりすり、さわさわ。触手の様な霧依の手が、光の体を這い回る。たわわな胸を押し当て、太股を押し付け‥‥やがて、褌の中にまで侵入する五本指の触手。
しかし、光からは期待した様な初々しい反応は返って来なかった。だって羞恥心皆無だし。
「なんならあなたも付けてみない? 今ならあたしが手とり足取り教えるのだぞ♪」
しゅるり、光は褌までも脱ぎ捨てた。いや、捨ててない。霧依の体に無造作に巻き付けている。
「ほらほらー♪」
色気の欠片もない。
しかし、その様子を見てタコは学習した。触手の何たるかを!
しゅるり、しゅるしゅる。籐子の体に触手が迫る。服の下に先端を滑り込ませ、にゅるにゅると這い回り、吸い付き‥‥皮を剥ぐ様に服を脱がせていく。
その一部始終を、サウルは見ていた。目を血走らせ、鼻からは赤い雫を滴らせながら。
「何という俺得‥‥」
GooDLuckをかけ、自分への攻撃は自身障壁で何が何でも防いだ甲斐があった。こういうものは平静な状態で見るのが一番興奮するのだ。
タコの触手にひん剥かれ、豊満な胸も露わな籐子の肩に、さり気なく甚平をかけるフリをして‥‥もふっ。
だが、そんな心の隙をタコは見逃さなかった。舞い上がったサウルの額に貼り付く吸盤。
ちゅるちゅるちゅー。
サウルの羞恥心は、タコに吸い尽くされた!
「巨乳らーぶ! あもーれー!」
どーん!
上から下まで一気に脱ぎ捨て、真っ赤な薔薇‥‥いや、鼻血を舞い散らせながら、籐子の胸に飛び込むサウル。
「そこのお兄さん、褌どうー?」
そんな彼に、光が褌を振りながら笑いかけた。
「そのツンツンしたトコに、きゅっと! きゅきゅっと! 気持ちいいよー♪」
‥‥これ以上続けると色々と拙い事になりそうだから、カメラを他の場所に向けようか。うん。
しかし、そこでも事態は似た様なものだった。
「目標のキメラを発見しました!」
イグニートを構えてタコキメラに突撃する龍牙。
「東青龍牙、青龍神様の命により! タコキメラを討伐します! リュウナ様は、援護をお願いします!」
返事の代わりに、樹上のリュウナはスナイパーライフルの安全装置を外した。タコの頭部に狙いを定める。
だがしかし‥‥龍牙の額にタコの吸盤が引っ付いた!
自身障壁を使い、全力で抵抗する龍牙。その耳にリュウナの叫びが届く。
「龍ちゃん! 大丈夫ですか!?」
怒濤の連射でズタボロに撃ち砕かれ、触手は龍牙から離れていく。大丈夫、無事だ。羞恥心も健在‥‥いやしかしこれは!
「‥‥あ、あれ? 龍ちゃん? どうしたの‥‥」
木から飛び降りて駆け寄ってきたリュウナに、龍牙はここぞとばかりに思い切り抱き付いた。
「リュウナ様ー! 今日も可愛いですー♪ キュートです♪ 可愛い過ぎます♪」
すりすりもふもふすりすりもふもふ。
「‥‥って! ふにゃー!?」
龍ちゃんが壊れた!
「おのれ! たこキメラめ! お前のことは『アシジュポーン』って名付けてやる!」
え、それはイカじゃないの? まぁ良いか、どっちでも。
「って! 触手がー! ‥‥龍ちゃ〜ん、体がポカポカします〜♪」
そうして二人は、暫し夢の世界へ‥‥。
次々とタコの魔の手、いや触手の前に斃れる仲間達。
その姿を見て、蛍とエルレーンは覚悟を決めた。いや、見る前から決まってるけど、今、改めて!
「あんなタコ、ぎったんぎったんにのしてあげるんだから!」
蛍はマーシナリーでタコの足にガンガン攻撃を仕掛ける。とは言え、ストライクフェアリーである蛍は生身の戦闘は余り得意ではない。担うのは仲間の攻撃支援だ。
「少しでも手数が増えれば、本命の人の攻撃が当たりやすくなるよね!」
援護を受けて、ファング・バックルで攻撃力を上げたエルレーンがタコに斬りかかる。
「悪いうねうねたこさん! おしおきだよッ!」
しかし、霧依の調教で何やら学習したらしいタコは、その攻撃をかいくぐって触手を伸ばす!
「や、やあああああああ! やだやだやだやだ!」
なりふり構わず必死に暴れて抵抗するエルレーン。剣をデタラメに振り回して触手を斬り刻み、脱出を図るが‥‥
「は、うぅ‥‥」
目がヤバい事になってます。病んじゃってます。どうやら、無駄な抵抗はやっぱり無駄だった様です。
「‥‥」
暫しの間、虚ろな目を虚空に漂わせていたエルレーンだが‥‥
「私、ぺたんこじゃない‥‥私おっぱいちっちゃくないもん!」
‥‥え?
「昔よりちょっとずつおっきくなってるんだよ! 本当だよ、本当だもん!」
いや、誰も嘘だなんて言ってない、けど。
どうやら羞恥心を吸われたせいで、押さえつけていたコンプレックスがモロ出しになったらしい。
「本当だよ?! ほらぁ!」
がばっ!
服の前を開いて、誰かに向かって証明しようとするエルレーン。
もうだめだ、とうとう蛍だけが最後の砦となってしまった! だがしかし!
「って、タコさん、こっちこないで! きちゃいやっ!?」
最後の砦も既にピンチっぽい、様な。
「攻撃受けたら、恥辱心がなくなっちゃうんだよね? 触手が気持ちよさそうなんて考えないんだからね!!」
触手に色々触られたいとか、わざと攻撃受けたいとか。そんな事は、これっぽっちも考えて‥‥考え、て‥‥
「‥‥でも、気持ちいいんだろうなあ‥‥」
ほわーん。
「露出をもう少し多くしたら襲ってくれるかな」
ちらっ☆
服の裾を、ちょっとだけ捲ってみたりして。
しかし、蛍は気付いていなかった。己の羞恥心が、既に消え失せている事に‥‥!
こんなチャンスを、二人のお姉様が見逃す筈がない。襲ってきたのはタコではなく、仲間だった!
「んふふ‥‥初々しい反応ね♪」
霧依が何やら艶っぽい声で囁いている。標的にされたのは、果たしてどちらだろう。
「いい表情‥‥堪らないわ♪ あん♪ ぞくぞくしちゃう‥‥」
じゅるり。
籐子は籐子で、このムフフな状況を可能な限り最大限に、めいっぱい享受しまくっている様だ。
襲われた二人の運命や如何に!?
暫く後。
「さて、充分に堪能させて貰ったし‥‥そろそろ頃合いかしらね」
「それはもうきっちりと討伐するわよー‥‥惜しいけど」
顔を見合わせ、頷き合うお姉様二人。
「せーの!」
霧依が練成弱体で弱らせた所に、籐子が強弾撃で威力を増したライフルの雨を降らせた。
それを合図に、我に返るリュウナと龍牙。
「さぁ! リュウナ様! 早くあのタコキメラをやっつけますよ〜♪」
「アシジュポーン! 覚悟するですよ〜♪」
何やら、どちらもまだ尾を引いている様な。しかしそれでも、戦闘に支障はないらしい。
そんな訳で、未だアモ〜レなサウルも股‥‥いや、手に、アロンダイトをひっさげて参戦!
そしてタコは、恥ずかしい格好をした人達によって沼の底に沈められた。
「くっ、俺の理想郷、が」
次々と我に返る女性達を見て、サウルは拳を振るわせる。危険物は咄嗟に隠したが‥‥果たして、いたいけな少女達にトラウマを植え付けずに済んだのだろうか。
「あたし、何してたんだろ、恥ずかしい!?」
己の状態に気付き、慌ててあちこち隠しまくる蛍。果たして、羞恥心喪失中のあれこれを覚えているのか、いないのか。
「でも、みんなも凄い行動してたし‥‥ポジティブに今日あったことは忘れよ!!」
そうか、覚えてるのか。
「リュウナ様! 忘れてください! 今日あった事は忘れて下さい! お願いします!」
「龍ちゃん! 忘れるのら! 今日のことは忘れるのら! リュウナも忘れるから忘れるのら!」
こちらは大騒ぎになっている。
が、向こうには一人、へたりこんで頭を抱え込み、何やらぶつぶつ言っている人が。
「あうぅ‥‥忘れて、お願い忘れて‥‥」
帰ってきた羞恥心により、自己嫌悪真っ最中のエルレーン。
「忘れて忘れて忘れてわすれて‥‥」
籐子がその体をぎゅっと抱き締める。役得役得。
「あれ、皆覚えてるんだ‥‥?」
周囲を見渡し、光が首を傾げる。どうやら彼女は覚えていない様だ。
「うーん、羞恥心がなくなっていた間の事を知りたいような知りたくないような‥‥」
皆の反応からして、何かすごい事になっていたのは間違いなさそうだが。
「と、ともかく! せっかくキメラもいなくなったし、この温泉入ってもいいかなー? タコを食べつつ」
「温泉だ、わーい♪ のんびり漬かるぞー」
と、喜ぶ蛍だったが。
「‥‥って、なんかむなしい、はぁっ‥‥」
その目の前に差し出された、タコの足。
「一緒に食べよう?」
光が微笑んだ。いつの間にか確保し、そしていつの間にか茹で上げていたらしい。
リュウナもちゃっかりお土産を確保した様だ。
「俺は食わないぞ」
美食家だし、とサウル。でも温泉には入るよね?
「ああ楽しかった♪ やっぱりこういうキメラはいいわね♪」
満足げに言いながら、霧依は沼の泥をお肌に擦り込む。
次の戦いに向けて、お肌の手入れはしっかりと。
って、何の戦いだろう‥‥