タイトル:【ED】End of Dreamマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/01 23:47

●オープニング本文


「‥‥我が麗しの都、ルクソール‥‥」
 カルナック神殿のテラスから眼下に広がる町並を眺め、黄金の仮面は軽く溜息をついた。
 観光都市として開かれて以来、この町に観光客の姿が絶える事はない。神官姿をした腹心達も、今ではすっかり観光ガイドとしての業務が板についてきた。ホテルや土産物店なども、町の景観を損なわない様に配慮しつつ、新しいものが次々に造られている。
 唯一目障りなのが、新しく設置された観光センターに職員という名目で出入りしているUPCの軍人達の姿だが‥‥多少の譲歩はやむを得ない事だろう。今の所はこれといったトラブルも起きてはいないし、彼等とのきょうぞんもまずは順調といった所だった。
 しかし町の発展とは裏腹に、彼、アメン=ラーを取り巻く状況は悪化の一途を辿っている。この美しい夢が破れ、過酷な現実の只中に引き戻される時は、もう目前に迫っていた。
「出来得るものなれば、このまま永遠に夢の中で微睡み続けていたいと、そう願っておりましたのでございますが‥‥しかしそれも、叶わぬ夢にございますか」
「夢は覚めるからこそ美しいのですよ」
 背後から老人の声がした。
 振り向くと、重量感のありすぎる脂肪の塊が視界を覆う。それはラムズデン・ブレナー博士をヨリシロとするバグア、カルサイトだった。
「なるほど。‥‥では、夢は美しいままに」
 パチン。アメン=ラーは手にした扇子を閉じ、軽くその頭を下げた。
「ただ、その為には‥‥我が身は全てを残し、永遠に去らねばならぬというのが、皮肉な話ではございますが」
 先日、強硬派のみに通達されたズゥ・ゲバウの指示。それが全ての始まりだった。
 それが実行に移されれば、ルクソールは確実に終わる。他の地域はどうなっても構わないが、この都だけは守りたい。
 だから‥‥この老博士、穏健派のカルサイトに情報を漏らしたのだ。
 バグアの上層部は、これまでにも彼の「逸脱」を何度となく不問に付して来た。バグアの中でも有名な変人であり、地球に降り立ってからはそれが自他共に認める狂人の域にまで達していたという事情もあって、彼の行動に関しては同胞に対して重大な損害や危険を生じない限りは大目に見ると言うか‥‥触らぬ神に祟りなし、的な暗黙のルールが出来上がっていた様だ。
 しかし、今度ばかりは「逸脱」で収まる話ではない。明らかに反逆行為だ。待つのは粛清のみ。
 彼がこの地に残り、自らの存在と愛するものを死守するという選択肢も、ない事はない。この都に隠された数々の兵器をもってすれば、ある程度の抵抗は可能だろう。
 だが抵抗は出来ても、勝てる見込みはない。残るのは無残に破壊された夢の跡だけ、という結果になるのは目に見えていた。
「‥‥して、ご老体は如何に仰せでございますかな?」
 問われて、カルサイトは他人事の様に答えた。
「――ズゥ・ゲバウと対話してみたい、と」
「‥‥ふむ、左様でございますか」
 パチン、扇子の音が響く。
「なれば、我も共に」
 軽く言い放つアメン=ラーに、カルサイトは驚いた様に目を見開いた。この男は、自分が裏切った当の相手に堂々と会いに行こうと言うのか。
「確かに、私が――、私達がユダをもって出向けばゲバウも無視は出来ないでしょう。しかし、生きながらえる可能性はきわめて低い」
「‥‥汝は、ご老体の考えには同意しかねると、そうお考えでございますかな?」
 パチン、扇子が鳴る。
 ヨリシロであるラムズデン・ブレナー博士と、それに寄生するカルサイト。通常ならば、バグアはヨリシロの記憶と知識を自身のそれと混ぜ合わせて人格を作り上げるのだが、カルサイトはそれをしなかった。それ故、脳内にはブレナーの人格が存在する様な錯覚がある。いや、錯覚ではないのかもしれない‥‥こうして脳内で互いに会話を交わす事が出来るのだから。
「私は、死ぬ為にこの状態を選んだわけではありません、アメン=ラー」
 カルサイトの人格が答える。だが、アメン=ラーは微かに笑いを含んだ声を返した。
「‥‥滅びの覚悟は、もとより。バグアとは、そうしたものでございましょう?」
 自らの死は既に確定したも同然。しかしそれは犬死にではない。それによって愛するものを守る事が出来るなら、寧ろ清々しい気分だった。
 ただ、心残りはある。
 自分が去った後のルクソールは、恐らく人類の管理下となる事だろう。その事で、愛した都がその姿を変えてしまう事はないだろうか。願いも虚しく、戦禍に巻き込まれる事はないだろうか‥‥
『なんじゃ、揃いも揃って意気地がないのう。こういう時はどう言えば良いか教えてやらずばなるまいな、カルサイトさんや』
 カルサイトの脳内で、そんな声がした。その表情の僅かな変化を目ざとく読み取ったアメン=ラーが尋ねる。
「彼はなんと仰ってございますのでしょうか」
「こういう時は。ゴーフォーブロークン、というのだそうです」
「‥‥ふむ」
 パチン。
「合法不労勲‥‥合法的に労せずして勲功を得るという事にございますかな」
 いや、違うから。
 違うけど‥‥その一言が彼の背中を押した様だ。
 今の彼に出来る事は、そう多くない。だが、出来るだけの手を打っておいて損はないだろう‥‥例え人類の力を借りる事になろうとも。

 こうして、エジプトの神を自称する侵略者アメン=ラーとの、最後の会談の場が設けられる事となった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
レヴィ・ネコノミロクン(gc3182
22歳・♀・GD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG
御剣雷蔵(gc7125
12歳・♂・CA

●リプレイ本文

「彼はかの地に異常なまでの執着‥‥見せており、民もまた同じ‥‥手を下しましたら再び刺激する事になる、かな」
 その言葉で、キア・ブロッサム(gb1240)は軍との交渉窓口であるアネット・阪崎への説明を締めくくった。作戦の詳細は既に天野 天魔(gc4365)の口から語られている。後は上層部がどう判断するか、だが。
「ま、良いんじゃない? あの神サマが受け入れるって言うなら」
 案外あっさりと、アネットはOKを出した。
「住民に犠牲を出さない事が第一だからね。武器やら何やらは手に入ったらラッキー、位に考えておけばさ」
 とても軍人とは思えないお気楽な口ぶりだが、大丈夫なんだと思う。多分。

 その頃、御剣雷蔵(gc7125)は神官である知人からの紹介状を手に、セベク教団の神殿を訪ねていた。天魔とキアが軍事関係の根回しなら、こちらは民事の根回しといった所か。
「実は諸般の事情から太陽神が居なくなる、それで今後の事で神殿の方に話したい事があり来た。面会を求める」
 案内役の神官は、紹介状に目を通すと奥へ入る様に促した。後に続いた雷蔵は、神殿の中を物珍しげにキョロキョロ‥‥
 セベク教団はエジプトの神々に対する説法、特に太陽神及びセベク神の教義の説法等を行っているらしいが、その姿を生で見るのは初めてだった。その光景は、見慣れない者には少々奇異に映るかもしれない。だが歩きながら説明を聞くうちに、何となくわかってきた‥‥気がする。
「へー、結構真剣に活動しているんだ。古の教義を今に継承している。その気合と根性を垣間見た」
 彼等になら、任せても大丈夫だ。雷蔵は確信を持った。
 そして、神殿の最深部。そこで待っていたのは、ワニの仮面を被ったちょっと偉そうな神官‥‥一瞬、例の知人かと思ったが、そうではない。
「まず単刀直入に言わせて貰う。こちらの要望は、こうだ」
 1・太陽神が居なくなった後の人心の安定を全力で行って貰う。
 1・現在の観光事業の継続維持を行って貰う。
 1・太陽神アメン=ラーの統治形態の維持継続に全力で行って貰う。
 1・UPCに対して【反】の方向に向わせない様に、これはUPCのルクソール干渉を生む要因となる。
「合意が得られれば、御剣家当主として全面的に支援するが‥‥どうだ?」
 次期当主、だけど。細かい事は気にしない。


 そして後刻。
「神様神様♪ いってらっしゃいのパーティーするよ」
 瞳をキラキラと輝かせながら、アルテミス(gc6467)が黄金の仮面を見上げる。お別れ会ではない。もし何かがあったとしても、神様の奇跡で復活し帰還する事を信じているから。

 そんな訳で、ここは街が一望に見渡せるカルナック神殿のテラス。奥の広間へと続く扉を解放した空間に、華やかなパーティー会場が出現した。
「神よ、私達の都合で微睡を妨げて真に申し訳ありません」
 と、まずは真面目に謝罪の言葉を述べた天魔だったが。今はちょっと、そんな雰囲気ではないか‥‥それに、こうなったのはバグア側の事情だし。
 それより今は、お楽しみの時間だ。
「エジプト料理は勉強してきたからね。頑張って作ったよ」
 アルテミスは、そこらで狩ってきた鳩にライスを詰めた丸焼き、ハマム・マッハシをアメン=ラーの目の前に置いた。
「そうだ、あーんとか‥‥してみる?」
 いや、仮面を付けたままじゃ無理か。この期に及んでも外す気はなさそうだし。
 だが、それに異を唱える事はしない。彼の覚悟や価値観は自分ではわからないものだから、こちらの意見を押し付けたりはせずに、それを支持するだけだ。
 今度の事にしても、特に何かを言うつもりはなかった。ただ、帰って来る事を信じて待つ。それを伝えて、今は思い出作りの手伝いをするだけだ。帰りたい気持ちが少しでも強くなる様に。
「かつて、極東の島国に伊達政宗という武人がおってのう‥‥」
 鳩の丸焼きを挟んでちんまりと対峙するのは美具・ザム・ツバイ(gc0857)だ。ここ最近動向が不明で、些か心配もしていたアメン・ラーが決死の帰郷をすると聞いて、諸事をうっちゃって駆けつけた次第なのだが‥‥何故に伊達政宗?
「まあ、落ち着いて最後まで聞くのじゃ」
 先行きの不透明感からナーバスになっているバグアに対し、手向けの言葉として故事を語って聞かせようというのだ。
「かつて、伊達政宗が豊臣秀吉の小田原征伐においての遅参故に、命の危機となったのじゃ」
 ぺしん!
 興に乗ってきた美具はアメン=ラーの扇子を奪い取り、それで床を叩きながら語る。
「‥‥しかし、伊達はこの危機にあって巧みな演出で乗り切ったのじゃ。であるからして‥‥」
 アメン=ラーも、死中に活を見出すべし。
 美具にとって、バグアが倒すべき敵である事は今も変わらない。しかし、先のカルサイトやリビア砂漠横断からの付き合いである彼にはある種の親近感を抱いていた。敵ではあるが塩を送ってもやりたくなる、つまり好敵手と認めているのだ。
「宴会ときたら、やっぱりコレよね♪」
 その隣では、相変わらず酒と肴と奇麗どころしか目に入っていないレヴィ・ネコノミロクン(gc3182)が良い気分になっていた。時折アメン=ラーのストロー酒にお酌をしつつ、話に花を咲かせる。
「ねえねえ、アメン様知ってた? あたし暇を見つけては、観光旅行でここに来てたのよ?」
 だから、今ではすっかり情報通だった。ちゃんと勉強したし、観光ガイドの代わりだって出来る。こんな事もあろうかと、せくしぃなヒップダンスだって習っておいたんだけど‥‥見たい? 見たいよね!
 ちゃらら♪ ちゃららら〜♪
 問答無用で披露するダンスに、本場のダンサーや仲間達、果ては神様ご一行まで巻き込まれていく。
「アメン様も踊りましょ? ‥‥ほら、バステトさん、セクメトさんもご一緒に♪」
「ふむ‥‥なれば、我も一差し」
 すちゃ!
 美具の手から扇子を取り返すと、アメン=ラーは踊り手達の真ん中へ。理性も吹き飛べとばかりに扇子を掲げて腰を振る。それはエジプトの伝統舞踊と言うよりも、お立ち台とミラーボールが似合いそうなダンスだったけれど。
「さっすがアメン様、良いハジケっぷり♪」
 そうそう、もう最後だもの。思いっきりはっちゃけましょ♪

 そうして、どんちゃん騒ぎが一段落した頃。
「では、改めましてご挨拶させて頂きますわね」
 エジプト風の白いローブに黄金の首飾りを纏った女性が、高貴な出自を思わせる優雅な所作でアメン=ラーの前へ進み出た。
「ごきげんよう。わたくし、ローザリア侯爵家令嬢、メシア・ローザリア(gb6467)と申します。エジプトの美を解される、美の伝道者にお会い出来て光栄ですわ」
 ローブの裾をつまみ、軽く膝を折る。クリスチャン故に、彼に対して神と口にする事は決してないが、エジプトの美しい姿は美を追求する者として感慨深いものだ。それを作り上げ、守ろうとしてきた者に対して相応の敬意を払う事は、教義に反するものではないだろう。
「わたくし、貴方が死地へと赴くとは思いませんわ。ファラオは死しても神々と共に、エジプトを守護しているそうです」
「そうそう、だから神様がお出かけから戻って、また統治すればいいと思うよ」
 アルテミスが微笑む。帰還すると信じているから、対策を立てたりはしないのだ。それに、もし帰って来なかったとしても‥‥彼のいないルクソールにあまり興味はないし。
「もし戻らなかったとしても‥‥今後管理するのがUPCでもエジプト政府でも、この街を壊そうとする人は居ないでしょ」
 レヴィが言った。地球に残る部下の『目』もある事だし、と、動物仮面達をちらり。
「皆も色々手を回してくれる。あたしも出来る限り頑張る。うん。だからその辺は安心して良いと思うわ」
 ところが。
「ルクソールを現在のまま保存するには、根本的に人類は信じるに値しないのじゃ」
 なんて言い出した人がいる。美具だ。
「人類は自分達のものですら、容易に破壊してきたのじゃぞ」
 そんな人間達に任せるのは期待出来ないと、美具は考えていた。
「完全保存が目的なら、地下に都市ごと沈めてしまうか砂に埋もれさせてしまうのが最善じゃな」
 それは、ユダの気象操作能力をもってすれば不可能ではない‥‥かもしれないが。
 案の定、アメン=ラーは首を横に振った。単に保存するだけなら博物館の模型と変わらない。そこに人の営みがなければ、町が生きているとは言えないのだ。
「ならば、いっそ破壊してしまってはどうじゃ?」
 現存する地球上の古都の美とは、その様な戦火を生き延びてきた年輪が生み出すもの。現在を保存する事だけが都市の美しさを維持する術ではないだろう。
「どの様に形を変えるにしろ、破壊も又都市の美に磨きをかけて行くであろうと考えるのじゃが」
「‥‥破壊を良しとするのであれば、我がこの地を離れる理由もございませぬな」
 しかし。遠い先の未来ならいざ知らず、今はこの地を無傷のままに残したい。その思いが変わる事はなかった。
「ここを残すというのは、いい事だろう、ね」
 いつもの様にゆったりと紫煙をくゆらせながら、UNKNOWN(ga4276)が言った。ただ、価値の基準が少々異なりはするが。
「ここの価値、を。もう1つの視点で考えてみてはどうかな?」
 歴史を残そうという意義。景観を残そうという意思。文化を繋げるという意向。それはどれも結構な事だ。しかし軍だバグアだという戦争と言う面では、それにどれほど価値を見出せるか。文化遺産としても、戦場にはなる。ならば、ここにはバグアの技術が使われているという観点から価値を考えてみるのも良いのではないか‥‥それが、会議の前にアメン=ラーの案内で町をぶらぶらと歩き回った彼が出した答えだった。
「ラー。ここに居るバグア側の者に、ここの維持と保全と武力に対しての専守防衛、それを命令・指示はできるかね?」
「もとより、そのつもりにございますが」
「ならば結構」
 あるべき時の為にと言う事ならば、バグア全体の意思とも大きく外れはしないだろう。
「軍側はあえて武力を使わず、バグア技術を接収・戦後研究する為に、この地からの侵攻がない限りは技術保全の為に監視しておく、とかどうかね」
「我が都を守る為とありますれば、技術供与もやぶさかではございませんが‥‥」
 しかし彼もバグアの端くれ、交戦中の相手に公然と軍事機密を譲り渡す事は出来ない。同胞に疑いを持たれぬ様に、何かもっともらしい理由付けが必要だった。
「では、奪われたとするならば如何でしょうか」
 天魔が言った。
「まずはこの地を人の手に戻す事と同時に、神の反逆の疑いを晴らします」
 天魔が考えた作戦は、こうだ。
「神の出立後、国境周辺でキメラが暴れ出します。付近に待機するUPCはそれを自軍への攻撃と判断し、国境を越えてキメラへ反撃、それを機に、なし崩し的に戦闘状態に突入します」
「勿論、全ては予定調和ですけれど、ね‥‥」
 キアが付け加えた。
「警戒用のキメラの暴走を機としても良いし‥‥責を被る意のある高官がいれば、その方の指示でも良い、かな‥‥」
 ちらり、動物仮面達を見る。
「その後はルクソールの条約破りと判断し、UPCが本格的に侵攻。同時に傭兵による破壊工作を行います。ルクソール側はキメラを迎撃に出すも、破壊工作と指揮官不在の混乱でそれ以上の有効な手を打てず、遂には抗戦を断念し降伏‥‥という筋書きです」
「破壊工作‥‥我が都を破壊すると申されますか」
 アメン=ラーの右腕に絡みつくコブラ、トゥトが不快そうに鎌首をもたげた。
「大規模な破壊はせず‥‥街への被害は、極力避けるつもりですが‥‥その為には、中枢機能の破壊が必要になる、かと‥‥」
 キアの言葉に、神は迷う。本当にそれで、この都を守れるのだろうか。戦闘など引き起こせば、他のバグアが要らぬちょっかいを出してくるのではないか‥‥。
 しかし、人類に後を託すと決めた以上、他に選択肢はないのだ。彼等を信じるしかない。
「軍との合意は書面をとるよう。合意自体が醜聞ですから、故に公表を恐れる心は裏切りの抑止になります」
 無血開城の代償として、軍へはルクソールの現状維持を提案してあった。更には雷蔵の尽力でセベク教団の協力も取り付けてある。
「調べられると拙い場所はありますか? 例えば見つかるとゲバウの指示が果せなくなる場所など‥‥」
 天魔が問うが、そんな場所はとっくに破壊済みだった。
「それと、この地の統治者は神だけです。統治者をこの地の民に選ばせれば、殆どの民は神を選びます。故に最後まで生還を諦めないよう。生きてこの地に帰り再び安寧と繁栄を齎す事が夢の都を作り上げた神の義務であり、権利です。例え神が夢から覚めても民はまだ夢を見続けています。願わくば民と貴方が夢の続きを見れる事を」
 その言葉が終わらないうちに、アルテミスが抱き付いた。黄金の仮面にむちゅーっとキスマークを付け、プレゼントを手渡す。旅の無事を祈っての幸運のメダルと、街で購入したパピルスに手書きで写本した死者の書。お世辞にも達筆とは言えないかもしれないが、愛情だけはたっぷり込められていた。

 そろそろ、お別れの時間だった。
「可笑しな方‥‥とは思いましたけれど本当に我が身を賭してまで‥‥テーベを愛されているとは、ね‥‥」
 最後の杯を交わしながら、キアが微笑む。その笑みは、ルクソール解放の為に自分なりに策を講じていた事への嘲笑も含んだ、少し苦いものとなってしまったけれど。
 本当の事を言えば、命を賭けずに夢をなせる方法が好みだが‥‥男が自分で覚悟を決めた事に口を挟むのも野暮というもの。
「‥‥策謀、世辞はもう不要ですし‥‥? 思ったより‥‥良い男だった、かなと‥‥」
 真に大事な物を持つ方、その心に敬意と憧れを。
「もし‥‥もしアメン様が生きながらえて、『敵』として再会した時は‥‥。その時は全身全霊をかけて、戦いましょ」
 ルクソールの、永遠の夢の為に。レヴィはそう言って、最後の一滴を飲み干す。
 一同を見渡す黄金の仮面が、微かに微笑んでいる様に見えた。
「そうだわ、一時の夢を見せて差し上げましょう」
 メシアの提案で、アメン=ラーは太陽の神から永遠に守護する神へと変化する事となった。甘い死の誘惑、黄金の副葬品と共に永遠の眠りを。
「誇り高い女王は、毒蛇に胸を噛ませました。夢は美しいままに」
 ‥‥実際には後でこっそり愛機に乗り換え、母星へ向けて出立する事になるのだが‥‥今は演出が重要なのだ。黄金に飾られた太陽の船で旅立つ姿を見れば、情勢が変わった事を民も容易に理解するだろう。
 去りゆく船を見送りながら、雷蔵が心の中で呟く。
(バグアなのに統治が上手いとはな、UPCの統治の仕方が拙いと‥‥まー、いいか。後の事は)

 Adieu‥‥現代の神‥‥ルクソールの歴史へ貴方の名は永遠に‥‥