タイトル:【CO】にゃんこ注意報!マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/14 22:10

●オープニング本文


「にゃ〜〜〜〜〜」
 ごろーん。
「たいくつにゃ〜〜〜」
 のびーん。
「あばれたいにゃーーーーー!」
 ごろんごろん、くねくねのたのた。
 巨大なネコが、ふかふかの絨毯の上を転げ回っていた。
 いや、ネコと言うには‥‥ちょっと違う気がする。
 少し横長の饅頭の様な丸い顔に、三角に尖った耳、丸くて大きな緑色の目、そしてピンク色の鼻の両側に生え揃った立派なヒゲと、そこだけ見れば確かにネコだが、普通ネコは二本足で立ったりしない。いや、たまに立ち上がる事もあるが、そのまま歩き回る事はまずない。ましてや人語を話す事など有り得ない。
 それは短い足に黄色い長靴を履き、手には畳んだ傘をステッキの様に持っている。色はやっぱり黄色だ。黄色が好きなのだろうか。そう言えば、毛色も少し黄色っぽい。
「‥‥仕方がなかろう、今は大人しくしていろと、それが命令だ」
 部屋の隅から低い声がかかる。
 ネコは、声の主‥‥ソファに寝そべってぼんやりTVを見ていた男の方に、ふて腐れた様な視線を向けた。
「それにお前、結構派手に暴れてるじゃないか」
 プツン。言ってからスイッチを切るを、リモコンを放り投げた。
「ったく、下らん番組ばかりだ‥‥驚異的な技術の進歩を見せたかと思えば、一方ではこの様なくだらないものに現を抜かす。人類とは、理解に苦しむものだな」
「ミーはちゃんと理解してるにゃ」
 ネコが胸を張った。
「人類は、こういうふわもこでキュートな生き物に弱いのにゃ。カワイイがキーワードにゃ。この姿でいれば、攻撃を受ける事もにゃく、侵略はラクラクなのにゃ」
「なるほど。ま、お前の取り柄と言ったらその変身能力くらいなものだからな」
「失礼にゃ! ミーはキメラ作りの天才にゃ!」
「失敗キメラ作りの、な」
「うにゅっ」
 ネコは言葉に詰まった。どうやら図星だったらしい。
「で、でも! ふつーのキメラは失敗しないにゃ!」
 しかし、スタンダードなキメラばかりでは面白くない。
「ミーはチャレンジャーなのにゃ!」
「‥‥なるほど」
 男は鼻で笑う。
「で、どこ行くんだ?」
「退屈にゃから、ちょっと遊んで来るにゃ」
「‥‥一応、停戦ラインは守っとけよ? ‥‥もうそろそろ、ただの事故では済まないだろうからな」
「わかってるにゃ」
「晩飯までには帰れよ。とびきりのねこまんま作っとくからな」
「ミーはネコじゃないにゃ!」
 ネコだよ、どう見ても。


 その数時間後。
「停戦ライン付近にキメラの大量発生!」
 ピエトロ・バリウス要塞の一角にある、UPC欧州軍の司令室。停戦ラインの監視を行う部署に一報が入った。
「またか‥‥」
 報告を受けた上官らしき人物は眉間の皺を伸ばそうとするかの様にこめかみに指を押し当てた。
 先日、モロッコの放棄されたキメラプラントが再稼働を始めるという事件が起きて以来、停戦ラインの北部では似た様な事件が続発していた。
 いや、事故と言うべきだろうか。プラントの再稼働、火災、爆発、逃げたキメラが復興途中の町を襲った事も一度ならず。そのいずれも大事に至る前に食い止めてはいるが、それが単なる事故なのか、或いは人為的に引き起こされた事件なのか、UPCでは確たる証拠を掴めずにいた。
 先日の傭兵の報告と、プラントから持ち帰った品々から判断するに、これはどう見てもクロだという確信はあった。しかし、それをもって「バグアが停戦協定を破った」と主張する事は危険すぎるだろう。向こうに「人類側が一方的に協定を破棄した」と、逆に開戦の口実を与えかねない。
 いや、それを期待してわざと挑発しているのか?
 だとしたら、乗せられる訳にはいかない。
「正確な位置は?」
「停戦ラインのほぼ真上‥‥やや北側です」
 北か。ならば応戦は可能だ。復興の障害となる野良キメラの排除は、停戦の合意に反する事ではない。
「キメラの種類は?」
「ネコです!」
「‥‥ネコ?」
「はい、大型の‥‥虎の様な大きさの、ネコ‥‥だそうです。とても、大人しい」
 それを聞いて、上官は全身から魂が抜ける様な特大の溜息を吐き出した。
 ふざけるな、この非常時に何がネコだ。あれか、以前にも現れたという攻撃さえ加えなければ人畜無害なトラ猫キメラ。
「そんなもの、ネコ好きな傭兵にでも任せておけ!」
 上官は、トラの様な声で吠えた。


「ここから〜、こっちは〜、ミーの〜、安全地帯〜〜〜♪」
 乾燥して見晴らしの良い大地に、傘の先で線を引いていく一匹のネコ。その周囲には、同じくらいの大きさの‥‥ただし普通に四本足で歩くネコ達の群れ。
「こっちにいるコに手出ししたら〜、約束や〜ぶり〜にゃ〜ん♪」
 人類側が勢い余って踏み込んできたら、もうこっちのものだ。
 踏み込んで来ないかな。うっかりでも何でも良いから。
 勿論、飛び道具が当たってもダメだ。
「にゃっふっふ〜、今度のトラ猫キメラは〜、ひとあじ違うんだにゃ〜ん♪」
 おっと、思わずなでなでしてしまう所だった。危ない危ない。
「さあ、行進開始にゃ〜ん♪」
 ぞろぞろ、にゃーにゃー。
 大きなネコ達が行進を始めた。停戦ラインから北に向かって。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
エルレーン(gc8086
17歳・♀・EL

●リプレイ本文

「またあのネコ達に会えるなんて‥‥感激です!!」
 小笠原 恋(gb4844)は頬の筋肉を緩み放題に緩ませたまま、停戦ラインへと歩を進めていた。
「あのネコ達がこの特性紐オモチャに夢中な事は分かっていますからね。これでおびき寄せれば捕まえる事なんて簡単です♪」
 あの時は不覚を取ったが、今度は大丈夫。虎にはさせない。大きな猫のままメロメロにして、もふ‥‥あぁ、いや‥‥もふもふは、駄目なんだっけ。でも、それさえ我慢すれば今回はきっと遊び放題!
 やがて指定されたポイントが見えて来る。そこでは――森里・氷雨(ga8490)曰く、ビッチな子猫ちゃん☆が美人計を謀っていた。
 三つ指揃えて一列に並んだ巨大な猫達。その中から、一匹の猫が歩み出て来た。二本足で歩く、黄色い長靴を履いた猫。
「にゃっはっは! よく来たにゃ人類!」
「あの子しゃべってますよ!? 可愛いです!!」
 恋の反応に気を良くしたのか、猫は得意げにヒゲをピンと伸ばした。
「アナタのお名前何ですかぁー? 私とお友達になってくださーい!!」
 ふりふり、恋は特製猫じゃらしを振って見せる。それに反応してウズウズし始めた配下の猫達を制して、それは言った。
「ミーは下等生物と馴れ合う事はしないのにゃ!」
「じゃあ、せめて肉球をプニプニさせてくださーい!!」
「ミーは猫じゃないにゃ。どうしてもプニプニしたいにゃら、このラインを超えてこっちに来るにゃ!」
 くいくい。通常よりも大きく肉厚で柔らかそうな、ピンク色の肉球を見せびらかす様に手招き。
「我慢は身体に毒にゃ〜ん」
 くいくい。肉球が呼んでいる。コッチニオイデと誘っている。
 ふらり、恋は思わず禁断の一歩を踏み出しそうになる。しかし、彼女にはそれを止めてくれる心強い仲間がいた!
(う〜ん、実はネタキメラって意外と多かったさ? でもネタバグアは‥‥)
 あれは噂に聞くマルチーズの親戚だろうかと、御影 柳樹(ga3326)はその姿をまじまじと見つめる。可愛い。確かに可愛いが‥‥
(まずは、強い心さ、猫はかわいい、でも僕は犬派だしむしろ虎の方が好きだし)
 よし、大丈夫だ。平常心は揺るがない。では早速、可愛いは正義と言う怖ろしい真理に辿り着いたバグアを撹乱してやろうか。
「僕は犬派だからねこはきかないさぁ、所詮はバグア、人間の理解が足りてない」
 大袈裟に囁き、さも残念そうに首を振って見せる。
「にゃっ!?」
 それに‥‥猫派なら無条件で全ての人間に効果があるという訳でもなかった。
「甘いね」
 ぽつり、トゥリム(gc6022)が呟く。彼女がかつて遊び倒した、今は亡きケットシーの可愛さに比べたら、ここに居並ぶ猫など取るに足らない。
「ただ媚び諂う猫の時代は終わったんだよ」
「にゃにゃ、にゃんとっ!?」
「そのリアクションも、古いから」

 という事で、逆襲開始。
「姑息なハニートラップなぞ俺の魅力で返り討ちにしてくれるわ!」
 キコキコキコ、何処からか聞こえよがしに猫缶を開ける音が聞こえる。
 音の出所は‥‥ライン手前にいつの間にか設置されていた、テント。中には段ボールに携帯カイロを仕込み、その上から毛布を被せた簡易炬燵が見える。そこにセットされているのは、一心不乱に猫缶を開ける氷雨@こたつむり。炬燵に猫缶、完璧なトラップだ。
「ミーの猫達はそんにゃものに‥‥」
 引っかかった。
 ボスの制止も聞かず、猫達はぞろぞろとラインを超えてテントに近付く。待ち構えるこたつむりは猫缶の匂いで焦らしまくった後で、その中身を器に空けた。器とは、パン1で炬燵に潜り込んだ彼自身の肉体。
「目には目を、悩殺には悩殺を! これぞ日本の伝統芸能、男体盛りだ!」
 自らを餌(の食器)にするという捨て身の戦術に、子猫ちゃん☆まっしぐら♪
「凶暴化の要因は、撫でる&モフる‥‥しかし、逆に俺達がスリスリされる側ならスイッチは入るまいっ!」
 そのままずるずると炬燵という名のブラックホールに引きずり込み、確保‥‥
「あ、オスはパスね」
 ぽいっ、テントの外に放り出す。彼の愛を受けられるのは、女の子だけなのだ。

 放り出された猫達には別のトラップが待ち受けていた。
「とーぅ! 俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ! ‥‥未来の勇者だ!!」
 ドヤ顔で猫達を見るジリオン・L・C(gc1321)を、つぶらな瞳が見つめ返して来る。
「そんじょそこらの獣どもなど! 俺様に! とっては! ただの! 経験値にしか‥‥」
 じぃーっ。
「‥‥す、すぎない!!」
 内心の動揺を押し隠し、何処からともなくSES中華鍋を取り出す勇者。味噌にいりこにダシ昆布。
「くく‥‥未来の勇者の必殺だ! いけ! 合わせ出汁!」
 めくるめく超絶調理テクニック(自称)で味噌汁を作り、ごはんをドボン。
「ふっ‥‥香る! 香るぞ! 俺様の勝利の匂いだ‥‥!」
 その香りを猫達に届けるべく、団扇で扇ぐ! そして、注意を惹いた所で‥‥食べる! 見せびらかしながら!
「ハアーッハッハッハッ! 美味い!」
 ちらっ。
「美味いぞ!!」
 ちらっ。
「俺様のねこまんまは最高だ!」
 どやっ!
 お前達も食べたくなっただろうと、渾身のドヤ顔を向ける勇者。しかし、猫達は全身全霊をかけて作り上げたねこまんまより、ダシがらのいりこの方が気になるらしい!
 そっち? そっちなの? ‥‥いや、想定通り。こうなる事を予想して、いりこダシを使ったのだ!
 美味そうにいりこを食べる猫達。可愛い。モフりたい。モフれば凶暴化する、けど‥‥うずうず、そわそわ。
「にゃ?」
 一匹が顔を上げ、そりゃもう可愛らしく首を傾げる。もう我慢出来ない。
「ふっ。光栄に思うのだぞ‥‥俺様の熱き魂を、掌で‥‥」
 そーっと手を出し、撫でる。様子を見ながらもうひと撫で‥‥
「ギャ※○▽□×〜!」
 スイッチ入った!
 こうなっては仕方がない。行くぞ必殺、勇者の子守唄!
「お。お、おお、俺様の! 歌を! き、聞けぇ!!」
 眠った猫をチキりながらテントへと運ぶ勇者。
「‥‥勇者にかかれば、キメラ如き‥‥」
 どやっ。

 戦場に味噌汁の良い香りが漂い始めた頃、少し離れた場所では柳樹が台車に乗せた七輪にサンマを並べていた。
「今朝ラストホープがトロール漁法でとれたての新鮮サンマ、これに近づいてこないようなら猫じゃないさ、さらにはDNAを解析すれば、どこにいたサンマかも‥‥」
 気を惹く為なら嘘も方便。俯き気味に不敵な笑みを浮かべ、柳樹は猫達のいる方向に団扇で風を送る。そして程よく焼けたサンマを箸で摘み上げると、捕獲用テントの中に放り込んだ!
 先を争ってサンマを追いかける猫達! 停戦ライン? なにそれ美味しいの? サンマの方が美味しいよね!

「こっちのねこまんまも美味しいよ−?」
 サンマを取り損ねた猫達には、トゥリムの豚汁ねこまんまが待っていた。
「ほーら、我慢しなくてもいいんだよー?」
 しかし、猫達は動かない!
「にゃ、ねこまんまと言ったらご飯に鰹節にゃ! ご飯に味噌汁を喜ぶのは西日本の猫だけにゃ!」
 そう、ねこまんまの定義は西と東で異なるのだ。そして彼の猫達は東日本仕様に作られていた!
「どうにゃ! ミーのリサーチは完璧にゃ!」
 ドヤ顔でふんぞり返る猫バグア。しかし、トゥリムの仕掛けた罠はそれだけではなかった! 右手に苦無、左手に軽く炙ったタンドリーチキンを持ち、呼笛でリズムを取りながら踊る様に猫達を誘う!
 ぞーろぞーろ、巨大猫の塊が停戦ラインから離れて行く。猫達に追いつかれない様に間合いを取りながら、危なくなったらチキンを投げて気を逸らす。そしてまた新たなチキンを手に‥‥トゥリムの姿は猫達に埋もれて見えないが、空飛ぶチキンがその無事を教えていた。

「ねこ‥‥触りたい‥‥もふもふしたい‥‥でもしたらダメ‥‥あうぅ」
 餌に釣られてすっかり骨抜きにされた猫達をもだもだしながら眺めていたエルレーン(gc8086)は、ふと我に返る。そう、眺めているだけでは彼等は寄って来てくれない。自分からお誘いをかけなければ!
 という事で、エルレーンはキャットスーツ に身を包んで猫に擬態してみた。その姿のまま、ねこまんまを作る。勿論、ご飯に鰹節の東日本バージョンだ。そして、食べる!
「ほぅらほら、ねこまんまなのぉ‥‥早く来ないと、私が食べちゃうのぉ!」
 猫の姿をしながら食べる事によって猫達の闘争本能(?)をかきたて、誘き寄せる作戦だ。仲間の猫が美味そうなものを食べている所を見れば、横取りしたくなるに違いない!
 その姿は猫というよりも、猫パーツを付けたせくすぃーなお姉さんで‥‥それに惹かれて寄って来るのは猫よりも人(主に男性)じゃないかという気がしないでもないが。
 しかし、作戦は見事な成功を収めた! 鰹節ねこまんまに、猫達まっしぐら! キャットスーツの効果は定かではないが、結果オーライ無問題。
 猫達がラインを超え、目の前まで駆け寄って来た所でロープによる捕獲を開始‥‥しようと思ったけど、食べ終わるまで待っててあげようか。お預けするのは可愛そうだし、それに‥‥ゴハンを食べる猫もまた可愛い。
 食事を終え、食後のお手入れも終わり‥‥じゃあ、捕まえても良いかな?
 無防備な猫に、エルレーンはロープを掛ける。抵抗は、ない。されるまま。しかし‥‥何かの弾みで彼女の掌がもこもこの毛に触れた途端!
「ふしゃあぁーっ」
「あぅ、痛い!」
 豹変した猫がネコパンチを繰り出して来た! 高速で飛び交う肉球!
「‥‥けど、うふふ、にくきゅう、ぷにぷにぃ‥‥」
 ほわーん。和んでいる。叩かれながら和んでいる。普通に考えればただのアブナイヒトだが‥‥まあ、わからなくもない。いいよね、にくきゅう。
 しかし、もふるのはガマン。もふっちゃダメ。‥‥猫好きが猫をもふれないとは、なんたる拷問。なんたる理不尽。何故こんな事に‥‥と、悶々としているのはエルレーンだけではなかった。

(うぅ‥‥ナデナデしたい‥‥ときときしたい‥‥モフモフしたい‥‥)
 猫用ブラシを手に、プルプルしている恋。しかし、我慢我慢。ブラシをオモチャに持ち替えて、食事を終えた猫達を誘ってみる。
「ほ〜ら、ほら。こっちですよー」
 たったったっ。紐を引きずりながら、猫達の目の前を右から左に駆け抜ける。
「次はこっちですよー」
 とっとっとっ、今度は左から右へ。それに合わせて、猫達の首が左右に動く。
(うふふ、見てます見てます。食いついてます)
 猫達の視線を釘付けにすると、暫し動きを止め‥‥そろーり静かに紐を引く。そして一気に加速!
「にゃっ♪」
 釣れた!
「あはは♪ こっちですよー」
 ひらひらと紐をリボンの様に操りながら走る恋、猛然と追いかける巨大猫達!
「こっちこっち〜」
 しかし、猫達は意外に俊足だった。追い付かれそうになった恋は、誰か移動スキルを持っている人に代わって貰おうと相手を探すが‥‥手が空いていそうなのは、ただ一人。
「後お願いします!!」
 やるだけの事はやった。後はもう、踏み潰されても良い。あぁ、この肉球の感触‥‥
(痛いけど幸せです‥‥♪)
 はぅーん。

 後を託されたUNKNOWN(ga4276)は、その場にどっかりと座り込んだ。オモチャを傍らに置き、ただ待つ。静かに待つ。
 楽しい遊びを突然中断された猫達は、そこにあるオモチャはいつ動かしてくれるのだろうと言いたげな目でUNKNOWNを見つめ‥‥そろそろと近付いて来た。
 その時。
「にゃっ!?」
 がしっ! 捕獲成功、そして‥‥撫でまくる!
「うむ。私もペットが欲しくて、ね」
 余裕の表情で微笑みながら、首筋、顎の下、頭、お腹、背中‥‥所構わず撫で回す。幾らでも撫で回す。これでもかという程、撫で回す。
「ふぎゃ、ギャオォーッ、フギャーッ」
「おお、そうじゃれつくな」
 暴れても引っ掻かれも噛み付かれても、ロイヤルブラックの艶無しフロックコートが毛だらけになろうとも、気にせず撫でる。KV並の防御力は伊達じゃないのだ。
「おーおー元気だ」
 逃げようとしたり、おいたが過ぎる時には知覚攻撃でびりりっと躾け。
「はっはっはっ」
 反抗的であればある程、お仕置きは強く。終始和やかに、相手が大人しく降参するまで撫で回す。
「――言う事をきちんと聞くのだよ? ほら、暴れるものではない。きちんと餌もやるから、な。安心して服従するが、いい」
 ついでに名前も付けてやろう。わりと適当に。
「お前は虎猫だから、虎次郎だな。虎次郎、仲間も呼びなさい」
 一緒に可愛がってあげよう。どうせなら、ひとりラインの向こうで地団駄を踏んでいる猫バグアも。
「お前も名前が欲しいかね?」
 しかし、彼にはミーという立派な名前があるらしい。

「では‥‥ミーさん‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が声をかけた。その前には、猫バグアが好きそうな黄色い食器に盛られたご馳走が、所狭しと並んでいる。魚料理と肉料理、人間用のレストランに並んでいてもおかしくない‥‥と言うより、どう見てもプロの犯行としか思えない料理の数々。
 ――ぐぎゅるぅーっ。
 ミーの腹が盛大な音を立てた。サンマやチキンやねこまんまの誘惑に耐え続けて来た彼ではあったが、流石に空腹も限界らしい。
「貴方も良ければどうぞ‥‥沢山有りますから‥‥」
 その声にほしくずの唄を潜ませ、誘う。
「にゃっ、ミーはキメラ達とは違うにゃ! 食べ物の誘惑にゃんかに負けないにゃ!」
 ――ぐぎゅー。
 腹は鳴ってるけど、別に空腹な訳じゃない。そう、ちょっと腹の調子が悪いのだ。ヨダレが出てるのも気のせい!
 しかし、言葉とは裏腹に足が勝手に動いてしまう。ふらふらと、ラインを超えてご馳走に手が届く所まで‥‥
「‥‥そこまで、です‥‥」
「にゃっ!?」
 新鮮な刺身にあと少しで手が届くという所で、ミーの身体が金縛りに遭った様に動かなくなった。ほしくずの唄が呪歌に切り替わったのだ。
「み、ミーはにゃにをしているにゃっ!?」
 気付いた所で、もう遅い。
「お仕置きです‥‥」
 にこーり。イイ笑顔で拳銃「ケルベロス」の銃口を猫の額に突き付ける終夜。
 そのお仕置きが果たして如何なるモノだったのか‥‥それは書くに忍びないと言うか、言葉にも出来ない恐ろしさと言うか。

「あぁ‥‥行ってしまいました‥‥」
 這々の体で逃げ出したミーを名残惜しそうに見送る恋。
「うぅ‥‥また会えるでしょうか?」
 彼は生涯引き摺るトラウマになる程の恐怖を植え付けられた様だ。ただ、柳樹が用意した「武士の情け」と書かれたお土産はちゃっかり持ち帰ったらしいが。
 ともあれ、これにて一件落着。迎えが来るまで皆で作ったご馳走の数々を食べて過ごそうか。もふり足りない分は‥‥帰ったらぬいぐるみをもふりまくって憂さ晴らし。
 そして捕まえた大量の猫達は例の研究所に送り届けてやるとしよう。所長もさぞかし‥‥泣いて喜ぶだろう、色んな意味で。