タイトル:春の便りをマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/13 21:15

●オープニング本文


 月が変わり、壁に掛けたカレンダーの写真も春の装いになった。
 なだらかな丘に、穏やかな陽光を浴びて咲き乱れる野の花達。今はもう遠い故郷を思い起こさせる、懐かしい風景。

 男はカレンダーに並んだ数字の一つを赤い丸で囲む。
「あ、おかぁさんのたんじょびだね」
 その様子をじっと見ていた、5歳になる息子が言う。そう、その日は亡き妻の誕生日だった。
「ぷれぜんと、なにする? おはな?」
 去年の誕生日にも、二人で墓前に花を手向けた。
「うん、でも今年は‥‥」
 少し迷ってから、男は自分とは全く似たところのない息子に尋ねた。
「あの丘、覚えてる?」
「んー、ちょっとだけ」
「そ、か」
 無理もない。故郷を離れる時、息子はまだ3歳だった。
「お母さんはね、あの丘に咲く花が大好きだったんだよ」
 一度も母になった事のない女性を「お母さん」と呼ぶ事に、最初は抵抗があったが‥‥もう、慣れてしまった。
 花屋の店先に並ぶ豪華な花よりも、野に咲く素朴な花が好きだった妻。
 彼女の墓前に、故郷の花を手向けてやりたい。
 けれど‥‥

「無理だよ、な」
 赤い丸の付いた数字を見つめ、男は小さく微笑む。
「なんで?」
「‥‥お父さん、お仕事があるから、さ」
 誤摩化した。
 故郷の町は、今やバグアとの競合地域だ。その郊外に広がる丘や森は、噂では野生化したキメラの住処になっていると聞く。
 とても一般人が足を踏み入れられる場所ではなかった。
 能力者ならばキメラ程度の敵に対処するのは雑作もないだろうが‥‥傭兵は便利な何でも屋ではない。
 勿論、一般人の中にはそうした他愛もない頼み事を持ち込む者がいる事は知っている。そして、そうした雑用を快く引き受けてくれる者が多い事も。
 だがULTのオペレーターとして彼等と日々関わっている身としては、時には命懸けで名も知らぬ者達の為に戦う彼等に、そんな頼み事をするのは筋違いだと感じるのだ‥‥例え規定の倍の報酬を支払ったとしても。
 仕方がない。彼女には、今年も花屋の花で我慢して貰おう。
 その代わり、両手で抱えきれないほどの、大きな花束をあげるから――


 数日後。
 職場でモニターをチェックしていた男は、我が目を疑った。
 そのひとつに表示されているもの、それは――

 ぼくとおとぉさんのかわりに、おかぁさんにあげるおはなをつんできてください。
 おおきぃはなたばがいいです。
 おれいに、ぼくのおこづかいぜんぶあげます。

 男は頭を抱える。
 しかし、その依頼を取り下げる事は最早不可能だった。

●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
リュウナ・セルフィン(gb4746
12歳・♀・SN
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP
山東 雪夢(gb6422
17歳・♀・DF
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
王 珠姫(gc6684
22歳・♀・HA

●リプレイ本文

 春の暖かな日差しが、なだらかな丘の斜面に降り注いでいる。
 今日は花摘みには絶好の日和だった。
「にゃ〜、沢山お花があるのら〜♪」
 リュウナ・セルフィン(gb4746)は真っ先に走り出し、花畑に飛び込んだ。
「お花を沢山摘んで持って帰るのら! 頑張るなりよ!」
 咲き乱れる野の花に囲まれた可憐な少女。これは絶好のシャッターチャンス‥‥!
 だがしかし、その少女に周囲の警戒を頼まれているからには、それを疎かにする訳にはいかなかった。
「ハァ、キメラがいなければリュウナ様のお花を摘んでる可愛いお姿が撮影出来たのに‥‥」
 東青龍牙(gb5019)は、そっと呟き溜め息をつく。
「‥‥はっ!」
 今の、聞こえていたり‥‥しなかっただろうか。
「色んなお花摘みなりよ〜! 龍ちゃんがいるから安心なのら〜♪」
 ‥‥大丈夫、聞こえてない、聞こえてない。
 龍牙は調査の眼を使って周囲を警戒しつつ、時々その『何物をも見逃さない眼』をさりげなくリュウナに向けたりしながら、自分でも目についた奇麗な花を手折ってみる。
「お母さんのお墓に上げるお花ですか‥‥」
 本部のモニターに映っていた、小さな依頼人。あの子の元へ沢山の花を摘んで帰る事。それが今回の目的だった。
「母者に贈る花を小遣い全部でとは、愛い奴ではないかえ。その願い、是非に叶えてやらねばのう」
 秘色(ga8202)は一面に咲く野の花を見渡し、柔らかな笑みを浮かべた。
 かつて自分の息子も、よくそうして花を摘んで来てくれたものだ。小さな手にしっかりと握られ、少し萎れかけた花達‥‥レンゲソウやスミレ、タンポポ、シロツメクサ。花瓶に差すには丈の短すぎるそれをコップに活けて、親子で楽しんだ事を思い出す。
「蓮華草は定番故、外せぬが‥‥はて、どこに生えておるのやら」
 丘では余りに多くの花々が咲き競い、種類も数も多すぎる故に目当ての花を探すのは一苦労だった。見つけたと思って近付いてみると、あった筈の場所から忽然と消え失せていたり‥‥いや、消える筈はないのだが、少しでも目を離すと他の花に紛れてしまうのだ。
「まるで花とかくれんぼをしておるようじゃな」
 蓮華草、春紫苑、鈴蘭、菫。見つけたものはエマージェンジーキットの鋏を使って丁寧に切る。
「手折るよりは傷みが遅かろう。少しでも良き状態で届けたい故の」
 摘んだ花は水筒の水で濡らした脱脂綿を切り口に当て、更に湿らせた包帯を軽く巻いておく。こうしておけば多少は長持ちするだろう。
「個人的に好きな花は菫や胡蝶花かのう」
 どちらも青みがかった色が愛らしい。しかしシャガとも呼ばれる胡蝶花は、少し日陰の湿った場所を好む筈だ。
「森の際あたりに、ありそうじゃの」
 丘に咲く花を摘み終わったら、皆で行ってみようか。
「子供の、願い、叶うと、いいね‥‥」
 山東雪夢(gb6422)はツナギの作業服に軍手着用、背には大きな袋を背負い、片手に枝切り用のノコギリアックスという気合いの入った格好で、やる気満々準備万端。これでキメラが出るという話さえなければ、ちょっとしたピクニック気分を満喫出来るのだが。
 雪夢は首に掛けた双眼鏡で周囲の安全を確認しつつ、ゆっくりと丘を登る。狙う花摘みポイントは、丘の向こうに広がる森だ。遠くから見ても木々のまばらなその森では、きっと陽の光が奥まで差し込んでいる事だろう。奇麗な花をつける低木もきっと多い筈だ。
 けれど今は他の仲間と足並みを揃え、丘の上で警戒に当たるのが雪夢の役目。相手に見つかる前にこちらが気付けば、上手く逃げられるかもしれない。戦いは出来るだけ避けたかった。
「キメラ、出ないと、いい、けど‥‥」
「こうして見ると、のどかで平和そのものなんでゲスがねぇ」
 雪夢の呟きを聞き、夏子(gc3500)が言った。
 参加者名簿に載った名前が女性だらけなのを見て、もしかしてこれは男子禁制だったんじゃないかとか、ちょっぴり焦ったりしたのはここだけの秘密だ。
 大丈夫、チビさんの行動を意気に感じ、その願いを叶えてやりたいと願う心に男も女もない。
「母に贈る花が手に入らない、それ即ち平和じゃねぇと言う事でゲスな」
 健気な子供の為に尽力しようと、夏子は新聞紙を広げ、花切り鋏を構える。
「根ごと摘むのは何やら気が引けるでゲスから」
 ぱっちん、ぱっちん。色とりどりの雛罌粟 (ひなげし)や、白や薄紫の都忘れ‥‥それに、黄色い花やピンクの花。名前は知らないが、素朴で奇麗な花を選んでぱっちん。
 出来るだけ沢山という依頼人の希望もあるし、他にも良さそうな花があったらどんどん摘もう。
「花には悪いでゲスが、根こそぎ取る訳でもないでゲスし、勘弁してもらうでゲス」
 そして王珠姫(gc6684)はそんな仲間達を見守りながら、周囲の警戒に当たっていた。
 丘の上なら見晴らしも良く、敵の発見も容易いだろう。それは相手にとっても同様ではあるが、バイブレーションセンサーなどのスキルを使えば先手を取るのも難しくない筈だ。
 なるべくなら、戦いは避けたい。
「‥‥戦うのは、怖いです、し‥‥、ご家族の大切な場所、でも‥‥」
 戦いによって踏み荒らしてしまうのは忍びなかった。

 しかし、縄張りに踏み込んだ人の気配をキメラ達が見逃す筈もない。ましてや六人もの人数が纏まって行動しているとなれば尚更、音や匂い、それに振動といった「侵入者の気配」は濃く、隠し様がなかった。
「‥‥何か‥‥来ます」
 最初に異常を捉えたのは、珠姫のバイブレーションセンサーだった。地面の振動を感じた珠姫は、間髪を入れずもう一度センサーを使ってみる。
 先程よりも近い位置でセンサーが反応した。かなりの速度で動いている様だが、いくら目を凝らしても地上にそれらしき姿はない。
 という事は、地中。‥‥モグラの類か。
 珠姫は仲間に異常を知らせると、最も近い反応に向けて呪歌を歌った。
 殆ど同時に、龍牙も足下の地面に異常を感じる。
「皆さん、警戒して下さい!」
「お出ましでゲスか」
 夏子は摘んだ花を新聞紙で包み、そっと脇に寄せると長弓を構えた。
「ここで暴れられちゃ、困るんだがな」
 見た目の変化はないが、おどけた口調が消えると何となく凄みが出る。
 周囲に他の敵がいない事を確認すると、お馴染みの盛り上がった地面の先端に向けて影撃ちを放った。命中と同時に、弾かれた様に巨大なモグラが地面の穴から飛び出す。
 どさりと落ちた体は、ただ大きいだけの普通のモグラの様にも見えたが‥‥彼等の目はその機能を失ってはいないらしく、起き上がると標的を真っすぐに見据えて突っ込んで来る。
 流石はキメラ、地面から引っ張り出せば無力化出来るというものでもなさそうだ。
 その間にも次々と数を増やしたモグラキメラは丘の地面を掘り返しながら、傭兵達に向かって突き進んで来る。そして、足下まで来ると‥‥ズボッと顔を出し、その鋭い爪で切り付け、また潜る。思わずハンマーで叩きたくなるが、遊んでいる場合ではなかった。
 どうやら彼等も地面の振動で相手の位置や動きを感知しているらしい。しかも、じっと動かずにいても誤摩化せない高感度かつ、相手構わず狙って来るため、囮や誘導は効果がなかった。それどころか、動き回ればそれを追って来る彼等に却って丘を荒らされてしまう。
「やれやれ、無粋な連中じゃのう」
 慌てず騒がず、処理の途中だった花に脱脂綿を巻き終わると、秘色は刀を手にゆっくりと立ち上がる。その瞳が銀青色に変わった。
 花を荒らす者に容赦はしない。キメラだろうと何だろうと。
 地中のモグラを目掛け、秘色は不気味な赤色を放つ刀を突き刺した。舞うが如く、無慈悲に。
「あんまり、戦う、の、嫌、なん、だけど‥‥」
 こうなったからには仕方がないと、雪夢は剣を構える。出来るだけ速やかに戦いを終わらせるべく、地表に現れたモグラに流し斬りを叩き込んでいった。
 しかし、そんな彼等の思いを嘲笑うかの如く、新たな敵が次々と現れる。漸くモグラ達を沈黙させた所に、今度は血の匂いを嗅ぎ付けたのか、森の奥からは巨大な狼の群れが現れ、そして上空には翼のある蛇が舞い始めた。
「多、すぎ、る‥‥」
 その数の多さに、雪夢は一度退却しようと仲間達を促す。しかし、逃げるにしても何処へ逃げれば良いのか。
「とにかく、これ以上この場所を荒らさせる訳にはいきません」
 龍牙は自我障壁を発動させ、かねてからの作戦通りに囮となって走り出す。
「なるべくお花畑から遠ざけないと!」
「‥‥ここで、暴れないで‥‥」
 珠姫は超機械スズランを奏で、狼達の気を引こうと試みた。
 逃げるものを追うのは狩りをする生き物の本能なのか、狼達は逃げる龍牙を追いかける。
「黒龍神の名の下に、あなた達を排除します!」
 きっぱりと言い放つと、リュウナは龍牙を追う敵の足下を狙って強弾射を発動させた。
 それを追って秘色がソニックブームを放ち、追い付きざまに両断剣を叩き込む。首や腹部などの急所を狙えば、例え牛ほどの大きさがあろうとも手数をかけずに倒せる筈だ。
 上空の敵は充分に丘から引き離した上で、弓や射程の長い超機械を持つ者が狙う。静かに、素早く‥‥音で他の敵を呼び寄せる事のない様に。

 やがて、春の丘に静けさが戻って来た。
 短期決戦で素早く決着を付けるべく、皆が全力で立ち向かったのが功を奏したのだろうか。敵わないと思った相手には歯向かわず、逃亡を図るのもまた、生き物としてのキメラの本能だった。
「にゃー、これでもう、出て来ないと良いなりね〜」
 覚醒を解き、再び『にゃ』とか『なり』とか言い始めたリュウナ。この言葉を聞くと、何となく平和が戻った実感がする。
「さて、花摘みに戻るでゲスよ」
 夏子も再び『ゲスゲス』言い始める。
「あ、見張りの方も花を摘みたいでゲしょうから、今度は夏子が代わるでゲスよ」
 もう恐らく襲撃はないだろうとは思っても、念には念を。夏子は隠密潜行を発動させる。
「‥‥では‥‥お言葉に、甘えさせて、いただきます‥‥」
 珠姫は早速一本の春紫苑を手折る。春に咲く紫苑で、その花言葉は『追想の愛』だ。紫苑の花言葉『君を忘れず』の思いも込めて、この花束に添うだろうと考えたのだ。
「スプリング・エフェメラル‥‥」
 春先に一斉に花を咲かせて春の訪れを告るもの達。その姿を見ると、春を感じ、心が浮き立つ。
 他にも、日当りの良い丘ではポピー、菜の花、白雪芥子‥‥森の中では山吹や白山吹、笹葉銀蘭。同じ種類や同じ場所で取りすぎない様に気をつけながら、バランスを見て摘んでいく。
「‥‥親子二人分の花束が、できますように‥‥」
 切り口が乾かない様に濡れたティッシュで包み、柔らかな布を敷いた大きめのバスケットへ。
「おお、この香りはライラックじゃな」
 秘色はその香りを辿る。森の縁に、淡い紫色の花が房条に咲き誇っていた。房を作る花は普通4枚の花弁を持っているが、稀にそれが5枚のものがあるそうだ。
「其の花弁5枚の花は幸せをもたらすとか‥‥どれ、ちと探してみるかの」
 父子いつまでも幸せにと、願いを込めて。
「少し、疲れ、た‥‥」
 春とは言え、日当りの良い丘での作業は思いのほか疲れるものだ。雪夢は森の木陰に入ると、水筒に入れた乳酸菌飲料を飲み干した。
「体、と、心、に、しみる‥‥」
 生き返ったところで、再び花探し。本命は沈丁花だ。その強い香りは花束にインパクトを与えられるだろう。そして山吹。黄色く、そして八重咲きになるその花は、花束の中でも目を引きそうだ。
 どちらも枝が固く、手で折り取るのは大変そうだが、軍手とノコギリアックスがあれば大丈夫。

 集められた花は、両手いっぱいどころか三杯分くらいはありそうだった。
 長めに枝を切った大きな花束がふたつと、蓮華草や菫を束ねた小さな花束が‥‥いくつも。
「えっと、お花届けに参りました♪」
 ラストホープに戻った彼等を出迎えた親子に、龍牙がぺこりと頭を下げる。
「では、両手いっぱいの花束を〜♪」
 どさり。どさどさ。もう前が見えないくらいに積み上げられる花束。
「‥‥本当に‥‥ありがとうございます。もう、何とお礼を言って良いのか‥‥、ぅ、くうぅっ!!」
 感極まって泣き出すお父さん。涙もろい人らしい。感激しすぎて、花束の中にラッキーライラックがひっそりと紛れ込んでいる事にも気付かない。‥‥いや、言われない限りは気付かないのが普通だと思うけど。
「よかったの。父者とゆっくり参ってくるが良いぞえ」
「うん、ありがとぉ!」
 頭を撫でる秘色に、男の子は満面の笑みで答える。実はこの日に休みが取れる様、根回しをしておいたのも秘色だった。
「おれぃ‥‥みんなで、わけてください!」
 男の子は約束の報酬を払おうと、抱えていたブタさんの貯金箱を差し出した。しかし‥‥
「いや、報酬はおぬしの笑顔で十分じゃ」
 柔らかな微笑を浮かべ、秘色は再び少年の頭を撫でる。
「いや、でも‥‥! こんなにして頂いて、タダという訳には! 僕の方でも用意しましたので‥‥っ」
 お父さん――セオドアは慌ててポケットから札束の入った封筒を取り出そうとするが、花束から手を離す訳にもいかず‥‥おろおろわたわた。
 花束は一旦どこかに置けば良いのにと思いつつ、龍牙がこっそりと耳打ちをする。
「今回の報酬分は、あの子の為に何か買ってあげて下さい♪」
「‥‥ぇ‥‥」
 龍牙も報酬は受け取らないつもりらしい。
「‥‥セオドアさん」
 珠姫が言った。
「後で‥‥息子さんにも、ありがとうと、お伝えいただけますか‥‥?」
「そ、それは、勿論!」
「あと、その‥‥貴方も、自分の世界を、もっと大切にして、良いと思います」
「‥‥ぇ‥‥?」
「私達はお互いがあって、ここにいて‥‥だから、どんな形でも‥‥お手伝いさせて頂けると、嬉しい、です」
 にこり。笑うと困った様なハの字眉がますます下がり、ますます困った顔になる珠姫。別に困っている訳ではないけれど‥‥いや、ちょっと困った事にはなっている、かもしれない。
「あの‥‥セオドア、さん‥‥?」
 人目も憚らず、息子の前だというのに、感激のあまりに大声で泣きじゃくるこの人は、どうしよう、か。
「にゅ〜、困った泣き虫さんなのら〜」
 だがしかし、そんな事より。
「依頼の後はお腹が空くなり〜。よし、泣き虫お父さんはほっといて、皆でご飯食べに行くのら!」
 問答無用で男の子の手を握るリュウナ。
「足りない分はきっと龍ちゃんが出してくれるから大丈夫にゃ!」
「私、ですか!?」
「いや、食事代くらい、僕が出しますからっ!」
「決まり! なのら〜!」

 結局、セオドアが用意していた筈の追加報酬が傭兵達に支払われる事はなかった。
 それはこの食事で予算の全てを使い果たした為か、それとも実はウッカリ者の彼が封筒をポケットにしまったまま、すっかり忘れていた為か‥‥さて、真相は如何に?