タイトル:【AL】迷惑な置き土産マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/14 03:04

●オープニング本文


 北アフリカ、モロッコ。
 その首都であるラバトの周辺では残された野良キメラ等の排除も進み、それに伴って国外へ逃げ延びていた人々も徐々に戻り始めていた。
 バグアに占領され、変わり果てた故郷。
 しかし、全てが失われた訳ではない。招かれざる客が去り、本来の主人達が戻ってくれば、町は以前の様な活気を取り戻す事だろう。
 その首都機能が完全に回復するには、まだ暫くの時間がかかりそうだったが、復興への歩みは着実に進んでいた。

 そんな中、事件は起きた。

 ラバト郊外、元は豊かな農園が広がっていた場所。
 長い間手入れもされずに放置されていたその場所は、今や水路も枯れ、畑はさながら荒野の様相を呈していた。
 しかし、こんな土地でも根気よく耕し、水と肥料を与えていけば、いつかは再び甦る。
 そう信じた農場主は納屋に置き去りにされた重機を整備し、人を集めて作業を開始した。
 だが、その時――
「キメラだ!!」
 叫び声が響く。その声に、その場に居た全員が凍り付いた。
 ここはもう安全な筈ではなかったのか。
 キメラは全て排除したと言っていたではないか。
 だから戻って来たのに‥‥戻った早々、キメラに殺されるのか。
 こんな事なら、避難先で新たな生活を始めれば良かった。
 そんな思いが脳裏を駆け巡る。
「逃げろ!」
 誰かが叫ぶ。
 だが、足が動かない。
 頭も働かない。
 彼等はただ、そこに立ち尽くしていた。
 農園の向こうに広がる林の向こうから現れたキメラ達が近づいて来るのを。
 その爪が、その牙が、自らの体を引き裂く瞬間を。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
宿木 架(gb7776
16歳・♀・DG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN
柊 美月(gc7930
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

 事件発生の報を聞き、傭兵達は車列を連ねて現場へ急いでいた。
「現場はキメラプラントの近く‥‥事態は一刻を争う事になりそうですね」
 医療物資や携帯食を満載したインデースを飛ばしながら、辰巳 空(ga4698)が呟く。
 助手席では柊 美月(gc7930)が手を合わせて祈っていた。
(早く! 早く!)
 誰も死なせたくないから。だから‥‥出来るだけ早く! 急いで! でも安全運転は忘れないで!
 その背後にはジーザリオの姿が見える。
「すまないが乗せて貰うよ。こんな状況では気楽なドライブとは程遠いだろうがな」
「そうですね、気楽なドライブはまたの機会という事に致しましょう」
 その助手席に乗り込んだ月野 現(gc7488)に、ハンドルを握ったリュティア・アマリリス(gc0778)が鏡に映した様な苦笑いを返す。
 それを、二人乗りのバイクが猛然と追い抜いて行った。
「しっかり掴まってねぇと振り落とすかんな!」
 杜若 トガ(gc4987)が、バイク形態にしたAU−KVの出力を限界まで引き上げながら、後ろに乗せた大神 哉目(gc7784)に向かって叫ぶ。その声は風に吹き消されて殆ど聞こえないが、聞こえなくても哉目はトガの背にがっつりとしがみついていた。覚醒状態でさえ、少しでも気を抜くと体が浮きそうだった。

 そのままの勢いで農場へ突っ込んだトガは、車体前方に取り付けた刀で目に付いたキメラを串刺しにしたまま急制動をかけた。
 ‥‥いた、キメラだ。虎の様な縞模様のある体にライオンの鬣、蛇とサソリが合体した様な尾。しかし頭部がワニというのはどうなんだ。ワニの頭にふさふさの鬣。そこから生えているのはウサギの耳か。元々「ごちゃ混ぜ」なのがキメラだとしても、これはないだろう。しかも背中にある蝙蝠の翼は、小さすぎて蝶ネクタイにしか見えない。
「よぉう、出来損ない共。すぐに楽にしてやるぜぇ」
 バイク形態からスーツへ。変形に伴ってずるりと滑り落ちたキメラの頭を脚甲で踏み潰す。元から何だかよくわからないモノが、潰れてますますわからなくなった。
(バグアってのは中途半端なことしかしねぇな)
 まあ、調査しきれてなかった軍の不始末でもあるが。
「んじゃ、両方の尻拭いをするとしますかねぇ」
「さぁて、一気に片付けさせてもらおうか!」
 その隣で哉目が旋棍を構える。せっかくの復興再開に水を差されるも面白くない。キメラには綺麗さっぱりご退場願おう。
 改めて農場を見渡すと、あちこちに取り残された作業員の姿が見えた。助けが来た事を知って駆け寄って来る者、その場に蹲る者、倒れて動かない者。
 その中に、もう一台のバイクが突っ込んで行った。宿木 架(gb7776)がハンドルを握るバイクの後ろに乗った夢守 ルキア(gb9436)が、キメラの集団から離れた後方に閃光手榴弾を投げる。そのまま銃を乱射し、キメラ達を後方へ‥‥手榴弾の効果範囲内に押し込んで、爆発。これなら仲間に被害が及ぶ事もない。
 キメラ達が怯んだ隙に、ルキアはバイクから飛び降りた。
 ぶおーーーん!
 ブブゼラの派手な音に、腰を抜かした何人かがハッと我に返った様に顔を上げた。
「もー、レストハウスに乗り込むよ? ショタっ子の介護が必要?」
 しかし、冗談めかして言った台詞に反応する余裕はない。動ける者はリュティアが乗り着けたジーザリオに、我先にと転がり込んだ。
 足を怪我して動けない者には、ルキアが肩を貸してやった。
「作業員の方々は指示に従ってレストハウスへ移動してくれ。大丈夫だ。必ず護ってみせる」
 車に乗り込んだ作業員に、現が精一杯の自信に満ちた声をかけた。車は重傷者が優先だ、怪我の軽い者には自力で歩いて貰わなければ。
(大丈夫だ、救える命は絶対に助けてみせる。今を必死に生き抜く為に荒地を開拓する人達を死なせはしない)
 現はその言葉を証明する様に、ボディガードを発動させて車を降りた作業員達の前に立った。
 自力で、或いは肩を借りながら、作業員達は次々と危険な場所から逃れて来る。しかし‥‥
「まだ、向こうにもいるな‥‥リュティア、ここは頼む」
「はい、現様。お任せ下さいませ」
 車両周辺の安全確保をリュティアに任せ、現が飛び出して行った。
「んだよ、まだいんの!?」
 いかにもかったるそうに哉目が続く。しかし、取り残された作業員がキメラの標的になっていると見るや、スイッチが入った様にキビキビ動き出した。素早く飛び込んで、正体不明のキメラを横合いからぶん殴り、吹っ飛ばす。
「あーもう面倒くさい! 邪魔だからさっさと逃げろっての!」
 ぶつくさ言いながら怪我人を担ぎ上げた哉目は、ぶつくさ言いながらもテキパキと安全な場所まで運んでやった。
 その向こうではトガが、倒れて動かない作業員を摘み上げていた。
「よし、生きてんな?」
 目を開け、頷いた事を確認するが‥‥いや、ちょっとヤバいか?
「たっく、何で俺がこういう面倒な役回りなのかねぇ」
 トガは怪我人に練成治療で応急処置を施すと、後は勝手にしろとばかりに無造作に後ろに放り出した。
「生きたいんだろ? なら、這ってでも行け。全力で足掻いてみせろよ」
 言いながら、迫り来るキメラの攻撃を太刀で受け流し、脚甲で蹴り飛ばす。ここを通す訳にはいかない。民間人にはこれ以上、指一本たりとも触れさせない。トガは竜の咆哮で周囲のキメラを吹っ飛ばした。
 放り出された怪我人は現がしっかりと受け止め、車に担ぎ込む。これで、取り残された作業員は全員救助した筈だ。
「まずは皆様をレストハウスへ」
 エンジンをかけっぱなしにしていた車に飛び乗り、リュティアがハンドルを握る。キメラの侵攻はトガや架、哉目が食い止めているが、敵は周囲の森から際限なく湧いて来る。ここはまず、彼等の安全を確保するのが先決だろう。
 ゆっくりと動き出した車の後ろに、自力で歩ける作業員達が続く。その護衛にはルキアが付いた。
「俺なら大丈夫だ。早く避難するんだ」
 現はその場に残り、遠距離からの援護を受け持つ。レストハウスはすぐそこだ、この場所からでも充分に対応出来る。もっとも、今頃は空と美月によってレストハウスの周囲も安全が確保されているだろうから、現の役目は主に前衛の討ち漏らしを片付ける後衛職という事になるだろうが。

 レストハウスの周囲にも、キメラが跋扈していた。鋭い爪を持った前足を四本持つ虎の様なものや、鬣が針の様に鋭く伸びたライオン。その他、曰く形状し難い生き物がぞろぞろと。
 インデースから飛び降りた美月は薙刀を構えると、キメラ達に向かって言い放つ。
「どこから来たのか知りませんけど〜、ここはあなた方のいる場所ではないのですよ〜」
 ほわほわ、ぽややん。迫力ゼロ。
 しかし、いざ戦いとなると美月は結構容赦なかった。近付く敵は長い柄で殴り飛ばし、刹那と円閃を併用した強攻撃で足を狙い、機動力を奪う。
「皆さん、こちらです〜」
 キメラと対しながら、美月は近付いてきたジーザリオに手を振る。同じく周囲の掃討に当たっていた空が彼等の護衛に回り、レストハウスへの収容を手伝う。
「この中までは追ってきませんから、安心して下さい」
 ボティーガードを発動しながら、空は作業員達を小屋の中へ導いて行く。しかし、彼等を最も安堵させたのは、空がが現役の医師であるという事実だった。
 空は重傷者を床に寝かせると、蘇生術やひまわりの歌で応急処置を始める。
「ええと、私も何かお手伝いを〜。あ、それに元気な方にも手伝って欲しいです〜」
 ごそごそ。その傍らで美月が何かを始めた。傷を洗う為のミネラルウォーターと、器具の消毒用のスブロフ、そしてソーイングセット。
 ‥‥ちょっと待って。ソーイングセット?
「やっぱり裂傷の方が多いですね〜。でも、これで傷口を縫えば‥‥」
 大丈夫、ちゃんと消毒もしたし。
「え、美月さん!?」
 空の声が引っ繰り返る。ちょ、待て、ストップ。いくらなんでもそれは‥‥
「では、なかなか血が止まらないこの方には、これで〜」
 お裁縫を禁止された美月は、今度は機械剣を取り出した。酷い出血は傷口を焼いてしまえば止まる筈。機械剣はレーザーナイフだから、きっと、多分、焼ける‥‥筈?
「あの、手当は私がやりますから‥‥!」
「え、そうですか〜」
 ‥‥まあ、本職がそう言うなら仕方ないか。手は足りている様だし。
「では、私は救急ヘリに連絡を入れますね〜」
「ええ、お願いします」
 それは、助かる。いや、本当に‥‥助かった。変なこと、されなく(げふ

「暴れる事が復興に繋がるっ! いいじゃん分かりやすくって!」
 その頃、保護対象者の回収が終わり、思う存分に暴れられる様になった農園では、架が文字通り存分に暴れ回っていた。
「これならボクにもできるねぃ♪」
 余計な事は考えない。考えるつもりもない。
「いやっはー♪ 的に困らねえっていいねえー」
 どっかん! ぼっかん! バイク形態で走り回り、ココと決めた場所で装着。低い姿勢から拳銃をぶっ放しつつ、刀を振り回す。
「ぼっかんぼっかんぶっこんじゃってヨロシクぅ!」
 しかし、傍目には適当でいいかげんで大雑把に見えるその攻撃も、実は色々と計算され尽くしたもの‥‥だったらスゴイ。
「邪魔っ気は引いちゃうよ♪ ってアブねっ」
 痛そうな敵の攻撃は流石に避け、そうでもなさそうな攻撃は‥‥適当に暴れてるうちに何となく避けている。
「あ、地下プラント?」
 へー、そんなのあるんだ?
「面白そうなんだけどー、色々つっかえちゃったら困るじゃん?」
 ほら、AU−KVって結構デカいし。
「探検は皆にまかせるぞよっ! ボクはお外で遊んでるゼ!」
 ぴしっ!
 敬礼を決めて、再びどっかんぼっかん。なーんも考えずに、てきとーに暴れたい所で暴れてるだけなんだけど。それが結果的に護衛班的役割になっちゃうのは、それもまた才能‥‥なんだろか。
「俺もプラントの方はパスだな」
 鬱陶しいキメラを竜の翼を使って追いかけ、脚甲の餌食にしながらトガも架に同意する。ヒトのサイズは入れる様だが、AU−KVとなると微妙だし、ここは一緒にお留守番、か。

「これ、念の為に持っといてくれる?」
 目に見える範囲のキメラが片付いた後、ルキアはレストハウスに避難した人々に威嚇用の照明銃を手渡した。
 キメラは全て片付けた筈だし、護衛として仲間の半数はここに残るが、自衛の手段もあった方が心強いだろう。
「ね、この近くにヒトやキメラの大きさで潜り抜けられそうな穴トカ、ある?」
「いや、そんなものは何も‥‥」
 ルキアの問いに、作業員達は首を振る。彼等はこの近くにプラントが作られていた事さえ知らなかった。
「そっか‥‥」
 ならば、地道に足跡を辿って出入り口を探すしかないか。
「気を付けて下さいね」
 怪我人の治療を続けながら、空が注意を促した。
「ここのキメラプラントは‥‥都市防衛用でしょうから、罠も有りそうですし」
「ん、わかった。気を付けるね」
 作業員達も入院が必要なほど怪我が酷い者はいるが、今のところ命に関わる様な事態にはならずに済みそうだ。後はプラントの解明さえ出来れば任務は成功だろう。
「後ろはしっかりと固めておきますので、気を抜かずに‥‥何かと大変でしょうけれどね」

 プラントの調査に向かうのは、ルキア、リュティア、哉目、そして現の四人。
「ここから出て来たみたいだね」
 周囲を調べ、足跡を辿り、一行は森の中にぽっかりと開いた穴を見付けた。下は空洞になっているらしく、まるで天井が崩れる様に陥没している。周囲には無数の足跡や爪で引っ掻かれた様な跡が残っていた。
「さて、しつこい汚れは元から‥‥ってね」
「‥‥しっ」
 やる気満々で穴に飛び込もうとする哉目を、リュティアが制した。
「動体反応を調べてみます、暫し御待ち下さい」
「あ‥‥そぅ」
 待つ事、暫し。
「これは‥‥機械の振動でしょうか」
 生体が出す振動とは明らかに違うもの。このプラントは生きているのだろうか。
 他に、生き物が蠢く様な振動も感じる。そして猛烈な腐臭。
「バグアの忘れ物が宝物ならありがたいんだけど、な」
 現が苦笑いを浮かべる。金銀財宝‥‥は、有り得ないとして、何かバグアに関する重要な情報が残されていれば、それは人類にとっての宝と言えるかもしれない。まあ、恐らく望みは薄いだろうが。
「中はどんな罠があるか解らない。気をつけて進もう」
 探査の眼を使った現を先頭に、すぐ後ろにランタンに火を灯したリュティアが続く。
「何かの拍子で、道が開いたのかな?」
 天井の崩れた入口を振り返り、ルキアが首を傾げた。方位磁石を手に地図を作りつつ、サイエンティストの目でじっくりと周囲を観察する。中に閉じ込められていたキメラ達が出口を求めて暴れた結果、ここが崩れたのだろうか。それにしては、他の部分に損傷が少ない気がする。破棄された筈のプラントが稼働していた事も変だ。
 プラント内部にバグアの影はない。しかし、彼等の技術なら完全に無人で稼働させる事も出来るかもしれない。破棄したと見せかけて、遠隔操作で再稼働させる事も。
「確かに、上の方は完全に壊れてるみたいだけど」
 かつては厳重にロックされていたらしいエリアを抜け、下の階層に足を踏み入れた哉目が目を凝らす。そこでは、暗闇の中に無数の小さな明かりが灯っていた。機械が唸る様な低い音も聞こえる。間違いなく、このプラントは生きていた。
「UPCがここまで調べる事はないと思ったのか‥‥?」
 そのプラントは、一見すると無傷に見えた。
「ぶっ壊すか?」
 哉目が言った。しかし、下手に壊して爆発でもされては洒落にならない。しかし、どこをどう弄れば止まるのか‥‥
 その時。暗がりで何かが蠢いた。
 ピチャリ、ズル‥‥っ。
「え‥‥?」
 出た。なんか出た!
「ゾンビ!?」
 腐って溶けた皮膚、露わになった白い骨、そして屍臭。ゾンビだ、どう見てもゾンビ。しかも、何だか訳のわからない生き物の。
「出来損ないの、キメラ‥‥か?」
 現が呟く。よく見れば、プラントのあちこちに奇妙な固まりが蹲っている。
 ずるり、ずるり‥‥人の気配を感じて、それがにじり寄って来た。どれも動きが鈍い。足などの移動に使う組織が未完成なまま生まれてしまったのだろうか。他のキメラの様に外に出る事も出来ず‥‥
「片付けるしか、ありませんね」
 意を決した様にリュティアが言った。キメラも、プラントも。二度と再稼働が出来ない様に。


 ‥‥暫く後。
「どうだい。生を実感できる最高の味だろ?」
「ああ、良いねえ。生き返るよ」
 地上では一仕事を終えたトガが、作業員達と共にレストハウスのデッキに座って一服を楽しんでいた。
 と、そこに現れた四人の亡霊‥‥の様に見える、傭兵達。
 トガは残っていた煙草を差し出してみる。彼等にも、生の実感が必要な様に思えた。