タイトル:山の郵便配達マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/12 02:05

●オープニング本文


 山奥の村の、そのまた奥に、小さな集落があった。
 舗装された道路さえないその集落には、バスも通わない。交通手段と言えば自分の足だけだが、麓の村に下りるのは殆ど半日がかりの大仕事。
 だが、それでも暮らしに困る事はない。集落を取り巻く豊かな自然は、住民が生きていく為に必要な殆どのものを惜しげもなく分け与えてくれるのだ。
 昔ながらの自給自足、所謂スローライフがここにはある。
 しかし、だからといって彼等は文明の利器を頑なに拒んだり、外界との接触を断っている訳ではない。集落にはテレビもあるし、電話もある。近頃ではネット回線の整備も進んでいた。
 それに、週に一度ではあるが、郵便も配達されるのだ。

 その集落を担当する郵便配達人は、普段は山仕事を生業としていた。
 山の斜面に植えられた杉や檜を管理するのが彼の仕事。毎日の様に山を歩き回り、下草を刈ったり余分な枝を切って樹形を整えたり、育ちの悪い木を伐採したりと、結構なハードワークだ。
 だから、普通なら休みの日には何もせずに、日がな一日のんびりゆったり、体を休めて過ごしたいと考える事だろう。
 しかし彼は違っていた。山歩きで鍛えた足を活かして、何か人の役に立つ事は出来ないだろうかと考えたのだ。
「誰かの喜ぶ顔を見ると、こっちまでシアワセな気分になるだろ?」
 彼は言う。
 だから、長年この地区を担当していた配達員が高齢になり、後継者を探しているという話を聞いて真っ先に名乗りを上げた。
 いや、真っ先とは言っても‥‥彼の他には名乗り出る者もいなかったのだが。

 そんな訳で、彼が週に一度、麓の村から郵便物を運ぶ様になって今年で三年。
 手紙を届け、笑顔を貰う。時には手紙が一通もない時もあったが、そんな時にも彼は集落へ足を運んだ。一週間分の新聞や、頼まれ物のちょっとした日用品と共に。

 ところが――

「山道にキメラが出るようになってね」
 彼は言った。
 足には自信があるし、腕っ節も強い。しかし悲しいかな、彼は一般人。相手がキメラでは、ただ逃げる事しか出来なかった。
「困ったな。今週は手紙が三通もあるんだ」
 そのうちの一通には、幼い字が躍っている。集落の外で暮らす孫が、祖父母に充てたものだろう。
「早いとこ届けてやりたいのに‥‥それに、ポストに入れられた手紙もあるだろうし」
 集落にひとつだけ設置されたポストに投函された手紙を回収するのも配達員の仕事だった。
「ULT、だっけ。こういう時に、力を貸してくれるのは‥‥」

 目撃されたキメラは、小柄で貧相なヒトかサルの様な姿をしていた。
 小鬼か、ゴブリンか‥‥恐らくそんな類のものだろう。手には何処からか盗んできたらしい鍬や鋤などの農業用具を持ち、中にはどうやって調達したのか、剣を持つものもいる。
 山道を歩いていると、どこからともなく現れたそれが集団で襲いかかって来るのだ。
 そして、金目のものや食料を奪って逃げる。
「手紙が狙われる事はないだろうけど、ね」
 いや、大切そうに抱えていれば、彼等の目にはそれが「お宝」に見えるかもしれない。
「‥‥確かに、お宝には違いない‥‥か」
 配達人は封筒に書かれた拙い文字に目を落とす。
 これは、何としても無事に届けなければ。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
桑原将監(gb8070
32歳・♂・FT
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 その日は空も穏やかに晴れて、山歩きには絶好の日和だった。
「キメラの件がなければ風景を楽しむところだが‥‥それは全て片が着いてからだな」
 そう、キメラさえいなければ。紅葉にはまだ少し早い山の斜面を見上げ、白鐘剣一郎(ga0184)が苦笑いを漏らす。
「山道を占拠して強奪とか、まるで山賊ねー。きっちりとっちめてしまいたいわ」
「とっちめる、か」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)の言葉に、赤木・総一郎(gc0803)がぽつり。如何に自給自足が可能な集落とはいえ、もしもの時に使う道が塞がれていては困る事もありそうだ。
「そうだな。なるべくなら殲滅し、二度と近寄らないようにしたいものだが‥‥」
 カチャリ。フローラが靴に取り付けた脚爪アクアを鳴らして、それに応えた。その鋭利な爪は、逃がすつもりもお仕置き程度で済ませるつもりもないと言っている様に、冷たい光を放って見えた。
「おじさんの為にも村の人の笑顔のためにも、絶対に取られないように守るから安心してね。おじさん」
 にこり。シクル・ハーツ(gc1986)が微笑む。そのおじさんは背中に大きな荷物を背負い、腕には配達鞄をしっかりと抱えていた。両方とも大切なお届け物だ。
「手紙かぁ。最近はメールとかで気軽に連絡できちゃうからあまり使わなくなっちゃったけど、手紙ってなんだか暖かいよね」
「だから辞められないのさ」
 辞める気もないが。
「ところで‥‥」
 おじさんは小さな影に目を落とす。こんな小さな子も傭兵なのだろうか。
「‥‥ん。山の幸が。私を呼んでる。気がしたので。来た」
 こくん、最上 憐(gb0002)は頷く。動機はアレだが、これまでに受けた依頼は数知れず、歴としたプロの傭兵だ。
「‥‥ん。大丈夫。参加者。全員。近接職。いざとなったら。皆で。小鬼と。拳で語り合う」
「そうか‥‥すごいんだな、能力者ってのは」
 おじさんは感心した様に、改めて一同の顔を見た。
 その視線を受けて、堺・清四郎(gb3564)は小さく肩を竦めた。能力者は戦うしか能がない、そんな風に思われるのも癪だが‥‥今はとにかく、傍迷惑な小物をさっさと排除して平穏を取り戻す事だ。
「では、行きましょうか。敵は我々に任せ、手紙をしっかりと守って差し上げて下さい」
 立花 零次(gc6227)が出発を促した。手紙を送った人、待っている人、そして届ける人。皆の想いは、きっと無事に送り届けてみせる。
「奴らが襲い掛かってきたら下手に動かないでくれ、逆に守りにくくなるからな」
 ぴったりと貼り付いた清四郎の言葉に頷くと、おじさんは生唾をひとつ飲み込んだ。


「群れが相手となると尚更厄介だな。注意していこう」
 先行する囮班に剣一郎が声を掛ける。
「囮か。食料を積んだトラックなどがあれば良いのだが」
 周囲を見渡して総一郎が言った。しかし、ここに車は入れないし、食料そのものを囮に使うのも勿体ない。
「りんごの芯の様な生ゴミ直前の物でも拾いに来るかもしれないが‥‥」
 だが、心配は無用。その辺りは憐がしっかりと準備を整えていた。
「‥‥ん。カレーの。匂いで。敵を集めて。一網打尽」
 まず最初は刺激的なレッドカレーにしようか。封を開けた途端、山の空気がカレー色に染まる。食欲をそそりまくる匂いを振りまきながら、憐は先頭に立って歩き出した。
 そのすぐ後ろからは桑原将監(gb8070)が続く。音で敵の注意を惹く為に、ひたすら呼笛を吹き鳴らし続けるのが彼の役目だ。背筋を真っ直ぐに伸ばし、足を高く上げて規則正しく歩を進めながら、ピッピッピッ‥‥いや、これではまるで行進の音頭取りだ。後からゆっくり来る筈の者達まで、リズムに合わせてざかざか歩き出しそうになっているし。
「こう、か」
 ピィーーー。己の歩行のリズムは変えず、長く吹き鳴らしてみる。これなら良いだろう。
(今回の任務、然程困難なものとは思い難いが‥‥軍人として与えられた任務は全うしたい。仮に手抜きで失敗しようものなら、それは我が軍人人生で最大の汚点となってしまうだろうからな)
 如何なる任務であろうと受けたからには全力で、そして最善を尽くす。それが軍人としての務めだ。
 ピィーーー、ピィーーー。ちょっと間延びした音を響かせながら、将監はきびきびと行進を続ける。
 そこから少し距離を置いて、総一郎が続いた。後発の護衛組と囮の中間付近に位置取って、奇襲を防ぐ為に囮の周囲や上方など注意しにくい場所を確認しながら歩く。
 すぐ目の前から漂ってくるカレーの匂いに、時折気を逸らされそうになるが‥‥我慢、我慢。
 しかし、その匂いを最も間近で嗅ぎ続けていた憐は、とうとう我慢の限界。
「‥‥ん。匂いが。私の。お腹を刺激する。ちょっとだけ。味見。ちょっとなら。大丈夫」
 ちょっとだけ。まだ沢山あるし、他にも色々持って来てるし。歩きながら味見をするくらい、大丈夫。あっという間にカレーを完食し、今度はパスタに手が伸びる。
「‥‥ん。これはあんまり。匂い。しない」
 これでは囮にならない。さっさと食べきって、新しいカレーを開けなければ!

 ‥‥ぐぅ。
 後から続く集団の中で、誰かの腹が鳴った。敵よりも先に、こちらが匂いに釣られて飛び出しそうだ。
「ゆっくり行こう。前の皆が注意を引きつけてくれてるのに、追いついてしまったら意味が無いしな」
 先程とは別人の様な口調でシクルが注意を促す。前後左右を傭兵達に囲まれたおじさんは、初めて目にする能力者の覚醒状態に驚きながらも、素直に頷いて腹を押さえた。先程鳴いた腹の虫は、彼のものだったらしい。
 その時――先を行く憐が不審な気配に気付いて立ち止まった。食べまくっていたのも作戦のうち。そうやって相手を油断させつつ様々な匂いを振りまきながら、可能な限り奇襲に対して用心し、周りの音や周辺の変化に細心の注意を払っていたのだ。多分。
 立ち止まり迎撃態勢を取った憐を見て、将監も笛を吹く手を止めて辺りを窺う。‥‥来た。何かが道路脇の森を抜けて近付いて来る。その音からすると、熊などの大型獣ではない。小柄で動きの素早いものが集団で移動している、そんな音だ。
「‥‥ん。カレーは。そう簡単には。渡さない。欲しければ。奪ってみて」
 今や超大盛りのエベレストカレーを片手に持った憐は、姿を現した子鬼達を挑発してみた。
『ギイッ』
 耳障りな声を立てて小鬼達はカレーに躍りかかる。しかし憐はその突撃を華麗にかわし、手近な木の上に置き場所を見付けて大事なカレーを安置すると、その前に立ちはだかった。
「‥‥ん。来た。沢山。集めて。一気に撃退」
 大鎌ハーメルンを構え、覚醒。カレーを奪おうと飛び掛かってくる子鬼達を残像斬で切り刻む。
 総一郎は少し離れた場所から銃で援護し、討ち漏らした敵が後方へ逃れる事のない様に片付けていった。
 一方、後続の仲間に敵発見の一報を入れた将監は、如何にして彼等の気を惹くべきか考えていた。相手が欲しがりそうな物は何も持っていない。それに、小鬼達は体格が良くいかにも強そうな彼を避けている様にも見える。
 ならばと、将監は持てる力の全てを注ぎ込み敵陣への突撃を敢行した!
「ここは通さん!」
 小鬼の前に、赤鬼が現れた。覚醒した将監は豪力発現で筋力を高めた腕で刀を振るいながら、敵の群れに突っ込んで行く。力任せの一撃に次々と倒される仲間の姿を見て、小鬼達はパニックに陥った。蜘蛛の子を散らす様に森の奥へ逃げ帰る‥‥と思いきや、そこは小ずるい彼等の事。逃げるふりをして森に散らばった彼等は、新たな獲物を見付けて再び路上に現れた。
「静かに。何匹かこちらに気付いたヤツがいるようだ」
 剣一郎が注意を促す。
「見つかってしまったか‥‥。荷物をしっかり持って、私たちの後ろに隠れてくれ」
 シクルは依頼人のすぐ前に立ち、弓を構える。
 胸の前に鞄を抱え込んだ彼を、傭兵達が取り囲んだ。守りに徹したその様子に、小鬼達は何をそんなに大切そうに抱えているのかと、興味津々な様子でじわじわ距離を縮めて来る。
「‥‥食料はわかるが、キメラが金品を奪って何に使うんだ‥‥?」
 何にせよ実害がある以上、倒すしかない。
「小さいかもしれんがこの先の連中には大きいものなのでな、推し通らせてもらおう!」
 清四郎の一言で、新たな戦いが始まった。

「さて、存分にとっちめてあげましょうか」
 最前列に陣取ったフローラは、敵の目を惹き付けようと思い切り派手に動き回る。遠い位置にいる敵にも敢えて扇嵐で攻撃を加え、近くの敵は足に付けた脚爪でその貧相な体を引き裂いていった。
 その少し後ろに位置する清四郎は、ありったけの弾丸を吐き出した拳銃ジャッジメントをホルスターに収めると獅子牡丹を抜き放った。
「斬!」
 依頼人を背後に庇いつつ、近寄る敵を片っ端から薙ぎ払っていく。殆どが一撃で葬れる程、弱い。弱いから群れるのか、弱くても群れれば強くなれると思っているのか。しかし、いくら群れたところで雑魚は雑魚。
「雑魚らしくやられていろ!」
 その脇では、零次が優雅に舞っていた。天狗ノ団扇と扇嵐、二つの超機械を使い、敵の接近を妨害する。しかし、数が多くちょこまかと動きだけは素早い彼等はその攻撃をくぐり抜け、あっという間に近付いて来る。
「これ以上、近付かせるわけにはいきませんね!」
 零次は得物を刀に持ち替え、ソニックブームを撃ち込んだ。それでも尚近付く者には、その刃の冷たさを直に味わって貰う。
「挟撃‥‥その程度の知能はあるのか」
 背後の森から回り込んだ敵に、シクルが弓を向ける。所詮は猿知恵、それで傭兵達の虚を突ける訳もない。
「そら、こっちだ!」
 配達人が背負った大きな荷物に手を伸ばそうとした者は、清四郎が囮に投げた撫子かんざしに気を取られているうちに、それに手を触れる事もなく排除された。
「させるか!」
「手出しなどさせません!」
「あげられる物は何一つとしてないのよ」
 シクルが、零次が、フローラが‥‥汚い手が伸びて来る度に、それを未然に防ぐ。ましてや彼がしっかりと抱えた鞄の持ち逃げなど、出来る筈もなかった。
 やがて遅まきながら相手が悪いと悟ったのか、小鬼達は一斉に退却を始めた。
「配達人さんと荷の安全が最優先ではあるけど、逃がす気もないわよー」
 フローラが扇嵐の牽制攻撃で足を止め、その前に瞬天速で回り込む。
「逃げられると思うな。人々に仇なすならば、全て斬って捨てる」
 追いついた剣一郎が、両手に持った刀を振りかざした。このキメラをこのまま放っておけば、いずれ集落や麓の村にも被害を及ぼす筈。ならば見過ごす訳にはいくまい。
「貴様たちは既に死線の内側にいる。受けよ、天都神影流・方陣閃!!」
 十字撃で周囲の敵を切り裂くと、それを逃れた者に追撃をかける。
「天都神影流・斬鋼閃っ」
 鋼をも断つ剣閃が急所を貫いた。続いて、逃げる背中にソニックブームを放つ。
「天都神影流・虚空閃!」
 一匹も、逃がさない。この周辺に蔓延るキメラは殲滅する。
「‥‥うん、もうこの辺りには残ってないみたいね」
 バイブレーションセンサーで周囲を確認したフローラが言った。とりあえず、一段落という所か。
「お疲れ様だ。荷物の無事もそうだが、怪我はないか?」
 剣一郎の問いに、荷物をしっかり抱えた依頼人が頷く。
 囮を務めた仲間も無事に合流を果たし、一行は再び山道を歩き出した。目的地まで、あと少し。足下に注意しながら、気を抜かずに頑張ろう。


「まあまあ、大変だったろう?」
「よく来てくれたねえ、ありがとうさん」
 足場の悪い山道を登り続けた一行が目的の集落に辿り着いたのは、昼をかなり回った頃だった。待ちかねた様子の住民達に歓待を受け、傭兵達はほっと一息。
「お待ちどうさん、ほら‥‥孫からの手紙だよ」
 手紙を受け取った老夫婦は、皺だらけの顔を更に皺くちゃにして手紙を押し頂いた。
「疲れたろ? ささ、上がってお茶でも飲んできなさいな。その間に何かお昼の用意するからさ」
 老夫婦のご近所だという、名前も知らないオバチャンが自宅に誘ってくれる。
「‥‥なるほど」
 出されたお茶をすすりながら、零次が言った。
「誰かの笑顔のために、という気持ち。少し分かる気がします」
「だろ? だから辞めらんないんだよ」
「でも、おじさん。あんまり無茶しないでね?」
 満面の笑みを浮かべたおじさんの日焼けした顔を、シクルが覗き込んだ。
「おじさんに何かあったら、おじさん自身も大変だし、村に手紙を届ける人もいなくなっちゃうしね‥‥」
 代わりの人は、当分必要なさそうだが。
「はいはい、お待たせ−! ここのお蕎麦は美味しいんだよぉ?」
 オバチャンが大盛りの蕎麦を運んで来る。確かにそれは、普段食べているものよりも格段に美味しい気がした。
(これが、ここの日常‥‥か)
 蕎麦をご馳走になりながら、総一郎は庭から見える集落の様子を眺めていた。
(生きる事は戦う事だ)
 能力者の様に武器を持って敵と対する事だけが戦いではない。
(こうして日々の生活を変わらず維持する努力も、また戦い。能力者はどこまで行っても暴力装置で何も生みださないが、こういう山の村落がその生活を維持する事こそ、戦争を勝ち抜くために本当に必要な事なのだろうな‥‥)
 だが、ただの暴力装置に人々がお茶や食事をふるまう事はない。笑顔を見せる事も、感謝の言葉を述べる事も。
 そして、その笑顔を守ったのも、彼等‥‥能力者なのだ。
「さて‥‥俺はそろそろ先に戻るかな」
 一服した所で、清四郎が腰を上げる。少し、やる事があるのだ。
「いつもあの道を通るのは辛いはずだろう?」
 岩登りが必要な難所や、道に突き出た岩や邪魔な枝。その辺りを整地して、少しでも歩き易くしておこうかと‥‥
「ならば、自分も」
 任務は完了したが、公益に資する為ならば協力する事にやぶさかではないと、将監も立ち上がる。
「あ、私も手伝うね」
「‥‥ん」
 シクルと憐が手を上げる。なんだ、皆イイヤツじゃん。


 フローラがキメラの残党の有無を確認している間に、残りの仲間達はちょっとした土木工事。
「うん、確かにこれは年寄りにはキツイか」
 自分は体力があるから気付かなかったと、おじさんが頭を掻く。
「ぶっ壊すことばかりが能力者じゃないという所をみせたかっただけだ」
 礼を言われて、清四郎はぶっきらぼうに応えた。
「もう、充分わかってるけどな」
 おじさんが笑う。
「‥‥ん。少し。野性に。還って。山に分け入って来る。食べ物を。取って来る」
 やがて難所と思われる場所の整備を終え、陽も暮れかかった頃。まだまだ元気一杯の憐が飛び出して行った。
 山菜や茸、木の実。山の幸が呼んでいる。
『ぐぅー』
 腹の虫も呼んでいる!
「お嬢ちゃん、夜の山は危ないぞ−!」
 おじさんが止めるが、もう聞こえない。
 大丈夫、だって歴戦の勇士だから。熊くらいなら、多分きっと‥‥?