タイトル:【ED】Alien God 2マスター:STANZA

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/04 00:33

●オープニング本文


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 空にかかる赤い月は、人類にとっては紛れもなく凶星。
 そして、その凶星を故郷とする存在が、今、目の前に居る。
 彼は今、どんな思いでそれを見つめているのだろう。

 傭兵達がそれぞれに別れの挨拶を述べ、その場を辞そうとした、その時。
「‥‥お待ちを」
 彼、アメン=ラーが一同を呼び止めた。
「我からも、ひとつ提案がございますのですが」
 仮面の下にある表情はわかわない。だが、その声音には何か少し面白がる様な響きが含まれていた。
「仰せの通り、確かに汝ら人類と我が同胞、その両面から攻め立てられるとありますれば、如何に堅牢を誇る我らが守りとて些かの疲弊は致しましょう」
 ルクソール、いや、テーベの町はその様な事態に備え、いざという時には要塞都市として機能する様に造られている。だが、復元された古代都市という大がかりな舞台装置を用い、その中で長い時間をかけて醸成されてきた夢は、そこで醒めてしまうだろう。
 醒めてしまった夢は、急速に色褪せて魅力のないものとなっていく。
 エジプシャンドリーム、その夢の殻を壊す事は出来ない。
「そこで‥‥如何でございましょう。我と、我が力‥‥汝らにとって必要なものであるとは、思われませんでありましょうか‥‥?」
 つまりは、手を組もうという事か。
「無論、表向きは先の停戦合意を受け入れたという形を取るのが賢明にございましょう」
 相手の出方を伺う様な間を置いて、アメン=ラーは再び口を開いた。
「それが叶わぬとあらば‥‥」
 パチン、手にした扇子を鳴らす。
「そう、神として散るもまた良し‥‥で、ございますかな」
 黄金の仮面が、にやりと笑った様な気がした。


―――――


「さーて、どうしたもんかねぇ」
 前にも同じような事を呟いたきがすると思いながら、アネットは報告書の山に目を落とした。
 アメン=ラーからの、共闘の誘い。これにどう答えるべきか。
「あの仮面野郎、どこまで本気なんだか‥‥」
 話を聞く限り、その主張には頷ける部分も多い。
 だが、彼がその本心のみを語っているという保証はないし、よしんばそれが本心だとしても、どこまで信じられるものか。
 今のところ、ルクソール住民の満足度は高い。だがそれは恐らく「他の占領地と比べれば」の話だろう。これから先、人類側の反撃が功を奏し、バグアを地上から一掃した時‥‥地上でただ一ヶ所、ルクソールのみが異星人に支配されるままに残されるとしたら。彼等はそれでも「今のままが良い」と言うのだろうか。
「カイロとアレクサンドリアが落ちたって話は市内でも結構知れ渡ってるみたいだから、この辺は特に言論統制みたいなものは敷いてない、か」
 下手に抑圧するよりは、自然の流れに任せた方が良いとの考えだろうか。
 確かに、情報の量も伝達速度も古代並のルクソールでは、現代の様にそれが武器となる危険性は低い。国内の他都市が人類側となっても尚、市民に解放への期待感の様なものが感じられないのは、その政策が功を奏した故か。
「処罰を恐れて口を閉ざしてるって感じでもなさそうだし、ねぇ」
 あの仮面男、余程上手く取り入ったらしい。
「これでアレが異星人でさえなきゃ、ちょっと変わった独裁者くらいな感じで容認されるのかもしれないけど‥‥」
 あれは異星人で、侵略者だ。彼等に命を奪われた者は数知れない。例えあの仮面男が地球人を誰一人殺していなかったとしても――そんな事は有り得ないが、それでも、敵は敵だ。
 そう考えて、徹底的に排除するか、それとも‥‥共存の道を探るか。
 今後、UPCが取り得る行動は大きく分けて三つ。

 ひとつ。アメン=ラーの提案を受け入れ、共にバグアと闘う。
 ふたつ。あくまで敵として徹底排除、ルクソールを戦場とする事も辞さない。
 みっつ。共闘も排除もせず、今後のバグアとの戦況と彼の行動を見極めつつ静観。

「どれも一長一短‥‥決め手には欠けるかねぇ」
 一つ目は、仮にそれが上手くいったとして、いつまで共闘を続けるのか。人類が完全な勝利を収めた後にまで、アメン=ラーを「特別待遇」するのか。勝機が見えた時点で掌を返し、彼を葬り去るという手もあるが、それはどうも後味が悪い。第一、彼が言う「表向き」にしたところで、一体どちらが「表」なのか、わかったものではない。
 二つ目は、ルクソールの市民感情を考えると良い策ではない様に思う。しかし、敢えて荒療治を施すという手も、ないではない。全てが終わった後で、市民への被害を最小限に抑え、かつ戦後にバグア支配下よりも満足度の高い生活を提供出来るなら、決行する価値はあるだろう。
 三つ目は‥‥これはもう、策とは言わない。ただの放置だ。しかし、現状ではこれが最もリスクが少ないだろう。
「‥‥と、あたしのアタマじゃこれ位しか思い付かないんだけどさ」
 アネットは居並ぶ傭兵達の顔を見た。
 そう言えば、仮面男の部下と接触した報告もあった。その方面からも、何か得られるかもしれない‥‥もっとも、アプローチが難しそうではあるが。
「他に何か、良いネタ‥‥ある?」

●参加者一覧

サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
レヴィ・ネコノミロクン(gc3182
22歳・♀・GD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
アルテミス(gc6467
17歳・♂・JG
リズィー・ヴェクサー(gc6599
14歳・♀・ER
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

「共闘関係、か」
 新たな情報を聞いて、サヴィーネ=シュルツ(ga7445)が頷いた。
「こちらから持ちかける事も沙汰の内ではあったが、まさかあちらからとは」
 意表を突かれた形ではあるが、悪くない。
「かつては敵であった者同士が共闘♪ 王道だね♪ 友情・努力・勝利の方程式だね♪ すごいや神様!」
 アルテミス(gc6467)に至っては目をキラキラと輝かせている。
 彼にとって、アメン=ラーは基本的に変人の趣味人。それにルクソールに関してのみなら立派な支配者と言って良いだろう。だから特に倒す必要はないし、特別待遇もアリだと思う。
 と言うか、この流れはもうサイコー。神様イカス!
 しかし、女性達は冷静だった。
(私達傭兵にとってバグアは倒すべき者。でも、一番重要なのは『地球と地球人を護る事』の筈‥‥)
 レヴィ・ネコノミロクン(gc3182)は心の中で呟く。
 地図を塗り替える目的だけを優先して、そこに在る文化と人々の命を犠牲にする事はできない。ただ静観しているだけなら、見捨てるも同じ事。それにエジプトを完全奪回する為には、できる限りの手を打っておくべきだと思う。目的は民間人の信頼を得る事。そして軍事技術の把握。
(共闘案を受け入れるとしても、あくまでも『手段』に過ぎないんだけどね‥‥)
 だから表向きは停戦協定に同意しても、その事で他バグア軍を刺激しない様に細心の注意を払うべきだろう。アメン=ラーが粛清の対象となった時に住民が巻き添えを食っては元も子もない。
「後は監視を装ってカイロやアレクサンドリアに駐屯して、有事の際は速やかに出動出来る様な体制が整えられれば上出来なんだけど。何にせよ、都合の良い誤解や付け入る隙を与えない事が肝心よね」
 ちらり、アネットを見る。仲間内では勿論、軍部との間にも、しっかりと意思統一を計る必要がある訳だが、果たして軍が首を縦に振るかどうか。
 その辺りの事に関しては、キア・ブロッサム(gb1240)がしっかり考えていた。
「‥‥共闘や静観といえど、友軍となるわけでもありませんし‥‥利の釣り合い取れぬ段になれば切れば良い、かと」
 現状では、開戦に利はない。しかし相手の真意はどうあれ、その時はいずれ来る筈だ。
「今はその時への準備期間を作るべく‥‥動いているつもり、かな」
 とは言え、人類側にも突然の協力体制を心良く思わない者はいる筈だ。その声を抑える為にも、広報的には『休戦』と発表しておくのが良いだろう。
「じゃあ、とりあえず腹の中はどうあれ‥‥表向きは向こうの提案を受け入れるって事で良いんだね?」
「うん、それで良いよ。エジプトの人が死なない様にするには、きっとそれが一番だと思うの」
 アネットの念を押す様な問いかけに、リズィー・ヴェクサー(gc6599)が答えた。他の者も一様に頷き、同意の意思を示す。
 ‥‥いや、ただ一人‥‥ぶつくさ言ってる人がいた。
「あー、なんかもう取引とかめんどくさいコトになってきた感がひしひしと‥‥もういいじゃん、攻め込んじゃえばいいじゃんかー」
 仲間達の視線が、彼女――綾河 零音(gb9784)に集中する。
「‥‥あ、れ?」
 しまった、心の中だけで叫んでいたつもりが、うっかり声に出ていたらしい。
 こうなったらもう隠しても仕方がない、言いたい事は思い切りぶちまけてやる!
「開戦! 開戦! 必要な技術と知識と情報は殺してでもうばいとれ!」
 ああ、すっきり‥‥は、しない、けど。ここは空気を読んで共闘を選ぶのが大人の対応というものだ。


 そして提案への返答という形で、会談の場を持つ事再び。
「んー、どうしよう、どっちが良いかな‥‥」
 ICレコーダーの隠し場所は胸の谷間か、靴下の中か。零音は真剣に悩んでいた。
「なんかのトキに使えるかもしれないでしょ?」
 決定。やっぱり女性たるもの、秘密の隠し場所は胸元に限る。なんたってせくすぃーだし、自慢じゃないけどスペースには事欠かないし。
 と、隅っこでゴソゴソやってる人はとりあえず置いといて。
(さて、今回はアメン=ラーと対面か。結構な変人らしいが、どんな奴なんだろうか?)
 会談を前に、黒羽 拓海(gc7335)はひとり考えを巡らせていた。
(それにしても、共闘‥‥か)
 たとえ侵略者でなかったとしても、人類とバグアは相容れない――かつてそう言った奴がいた。そいつが聞いたら、何と言うだろう。
 拓海が抱えた二つの疑問。その片方の答えは、すぐに示された。
 黄金のマスクで顔を隠し、裸の上半身には着物を羽織っている。手には水晶のピラミッドとコブラ、そして扇子。
 変人だ。どう見ても‥‥恐らくバグア基準にしてさえも。
 しかし、これが交渉相手であるからには礼を失する訳にはいかない。
「お初にお目にかかります、アメン=ラー様。私、傭兵の黒羽拓海と申します。以後お見知りおきを」
 丁寧に頭を下げた拓海に、パチンと軽快な扇子の音が応える。多分これは上機嫌の音だ。
「前回に引き続き、今回もありがとうございますのっ」
 リズィーは引き摺る程に長い民族衣装の裾をドレスの様に持ち、優雅に一礼。次いでコブラのトゥトにも笑顔で手を振った。更には周囲に侍る警護役の動物仮面達にも、きちんと挨拶を。
 彼等が交渉に臨む相手が話の通じない蛮族ではない事を印象付けると共に、この世界が良い物であると思って欲しいから。
「まあ、立ち話というのも如何なものかと存じます故、ひとつ‥‥」
 パチン。仮面男が扇子を鳴らすと、その場に応接セットが並べられた。
「屋根もなき場所にて恐縮ではございますが」
「それを望んだのは我々の側。どうかお気遣いなき様」
 サヴィーネが軽く頭を下げ、嫣然とした笑みを浮かべながら言った。
「度々の無礼、お許しを。見せ掛けのお追従で街に入るよりも、こうして腹蔵なく話すのが互いにとって健全な関係かと思いまして」
 腹蔵なくとは言うものの、その笑顔には明らかに含みが見える。だが、それはお互い様だ。
「申し訳ありませんが、私達はまだ貴方を信用してはいません。そして恐らく、それは貴方も同じでしょう。ですが、前回の対話で、貴方が一応の交渉に値する知性を持っているとの合意には達しましたので」
「それは光栄」
 パチン。
「して、返答は如何に?」
 パチン、パチン。
 出された冷茶を仮面の顎に差したストローで啜りながら、アメン=ラーは傭兵達の回答に耳を傾けた。
 表面上は停戦協定を受け入れ、不可侵を旨に互いに静観しつつ、その裏で共闘を視野に入れた関係を作り上げて行きたい。それが彼等の答えだった。
「此方とて貴方がた同様‥‥一枚岩でも有りませんし、ね」
 キアが言った。お互い、身内にも正直である必要なはいだろう。
「また、静観状態を保つべく双方戦力を残した方が‥‥有事に即戦力を送り込める利も‥‥あるか、と」
 そちらは方便に近いが、言っておいて損はない。
「ふむ、敵を欺くにはまず味方から‥‥と申します」
 パチン。
 この場合は誰が敵で誰が味方なのか、その辺りも混沌としている様ではあるが。
「我とて、昨日の敵がすぐさま今日の友となる様な都合の良い展開になります事は考えておりませぬ故」
「でも、それだってすごいよねぇ。バグアと停戦や共闘が出来るなんて夢みたいだよ」
 きらきらっ。アルテミスが目を輝かせ、その偉業と決断を褒め称える。
「さすが神様! 太っ腹!」
 ぺちぺち。割れた腹筋を叩いてみたり。
「ほっほっほ、お褒めに与り光栄に存じますのですよ」
 パチン、パチン。神様、上機嫌。
 と、そこへ古代エジプトの正装を着用した天野 天魔(gc4365)が進み出た。
「停戦合意締結にあたり提案がございます、神よ」
 一礼し、続ける。
「この都市に、表向きは停戦の為の監視所という名目で、我等の拠点を置かせて頂けませんでしょうか?」
「ふむ?」
「今後神と我々が連絡をとる際に、ルクソールの内外で通信や使者のやり取りを直接しては、他のバグアに我等の関係が気取られてしまいます。ですが、神と我等の接触をルクソール内で収めれば発覚の危険は下がりますし、外への通信も我々がやり取りする分には怪しまれません。是非、ご検討下さい」
「ふむ‥‥まあ、それも宜しかろうございます。汝らが、我が都にて異質な存在とならぬのであれば、我は歓迎しましょうぞ」
「ご心配には及びません」
 天魔は、この変わり者のバグアに好印象を抱いていた。自身が芝居がかった物を好み、1つの為に他の全てを捨てる者を愛するが故か、街1つ使ってテーベを演出し、夢の為に全てを切り捨てたこの異星人に、出来得る限りの長き夢をと願わずにはいられない。
「テーベの都が懐に抱え込んだ夢を、我々も共に見させて頂きましょう」
「ふむ、なれば‥‥交渉は成立と考えて宜しかろうございますかな?」
 パチン。その音に、傭兵達が頷く。
「ただし‥‥」
 サヴィーネが念を押した。
「停戦協定に違反するものを除き、人間を相手に我々の銃口が向けられる事は無いと知って頂きたい」
 共闘とは言っても、戦う相手はあくまでバグアだ。ここを拡大解釈されては堪らないし、調子に乗って情報の流出や自他の私兵化等、敵にとって有利になる密約を持ち出されないとも限らない。今回は基本合意の他にはどんな協定も結ばない心積もりだった。
「この交渉、我らに分があること。お忘れなきよう」
「ほっほっ、我はこの都さえ守る事が出来ますれば、さしあたって他に侵略の手を伸ばそうとは考えておりませぬ」
 さしあたって、か。という事は、いずれは‥‥?
「此方としては‥‥多少踏み込んだ協力も致したく思う、かな」
 キアが水を向ける。
「テーベの歴史再建に必要な調査を‥‥地球側の領地内で行う際には、協力出来る‥‥かと。知識に関しても‥‥同様、に」
 その程度の協力ならば、特に不都合はない。その見返りとして、慣性制御を始めとするバグア側の技術や内情等の情報が得られれば、こちらとしては丸儲けの形だが‥‥流石に今の段階で、そこまでは無理か。
「停戦以外で、そちらは何を求めているのでしょうか?」
 拓海が尋ねてみた。初っ端から不信感を持たれても良い事はない。今はまだ、譲歩の姿勢を示しておく方が得策だろう。
「古代王国復活の為なら、どんな事でもするのでしょうか? 復活をなした後は‥‥?」
「どんな事でも‥‥左様、これがその最たるもの、でしょうな」
 これ。つまりバグアに対する造反。例え戦術の一環と釈明したところで、成果が伴わなければ粛清は免れないだろう。
「停戦して戦力回復中のバリウスのアフリカ、いくつかの基地を破壊されて情勢が混迷しているアラビア、宇宙から地上を監視している上位バグア‥‥」
 共に戦う事になりそうな敵は多い。その中で最も警戒する相手は誰か、アルテミスが尋ねる。
 その問いに、アメン=ラーは黙って天を仰いだ。
「‥‥うん。その時は‥‥軍が表立って動く事はないだろうけど、ボク達傭兵が代わりになるから。‥‥あ、そうだ」
 ごそごそ。アルテミスはULTへの依頼方法を書いたメモを渡す。だが、本部はバグアからと知っても依頼を受けるのだろうか?
 それを見て、拓海がふと口を開いた。
「貴方は‥‥自分が侵略者でなければ、人類と共に歩めたかもしれないと思いますか?」
「それは、無理にございましょうな」
 笑いを含んだ様な声が答える。
「それ、そこな娘の顔に書いてございます‥‥無理だ、と」
「‥‥え、私!?」
 仮面男の右腕に絡まったコブラと目が合い、零音の声が引っ繰り返る。
 何故わかった。頑張ってポーカーフェイスを維持していたのに。喋ると間違いなくどっかでホンネが出てくるから、必死に沈黙を守っていたのに。
「ほっほっほ。如何ですかな、汝も仮面を被られては?」
 余計なお世話だ!
 しかし憤慨する零音を置き去りに、アメン=ラーは声を落として言った。
「我が侵略者であるのか、そうでないのか‥‥それは、汝らが決める事にございましょう。あくまで排除の対象とするのであれば侵略者、共に歩めるのであれば友‥‥」
「んー、とりあえずは友として、さ」
 そろそろ潮時と見たレヴィが声をかけた。
「お酒でも飲んで、気楽に話さない?」
 堅苦しい話はこれ位で良いだろう。ストローで呑む酒が美味いかどうかはわからないが、これからの事を考えると、もっと幅広い付き合いを経験した方が良いだろう。
 その一言で、無礼講が始まった。

 酒の席での他愛もない世間話が、案外重要な情報に結び付く事は多い。
 零音は胸元のレコーダーに記録しつつ、時々相手の言った言葉を小声で復唱してメモに残していった。後で分析すれば、意外な事実が判明する‥‥かもしれない。
「へー、そうなんだー? それで?」
 その傍で、聞き役に徹したレヴィは巧みに情報を引き出して行った。が、流石に精鋭たる動物仮面達は口が堅い。と言うか‥‥部下達が黙して語らない事を、上司たるアメン=ラーがべらべら喋りまくるのは如何なものか。尤も、重要な事は殆ど漏らしてはくれなかったが。
「プライベートでは‥‥もう少々気楽に参じられる様になりますと‥‥良いのですけれど、ね」
「そうです! アメン様の作ったルクソール、もっと色んな人に見て貰うのがいいと思うのです☆」
 今、彼はキアとリズィーの観光話に耳を傾けていた。
「‥‥勿論‥‥最低限の入国審査‥‥必要でしょうけれど、閉鎖的な国境では‥‥武力制圧以外に文化を広める手も無いですから‥‥其方にも利はある、かと」
「うん、きっと皆アメン様の事、すごいって言ってくれると思うのです」
「ふむ、ふむ‥‥」
 パチン、パチン。神様、まんざらでもないご様子。
 そして、和気藹々と酒席は進み、そろそろ話題も出尽くした頃。
「最後にひとつ、良いですか?」
 威儀を正したリズィーが、アメン=ラーに尋ねた。
「アメン様は生贄の行為、辞める目算はあります?」
 減らす方向で‥‥と言った。しかし、ゼロでなければ被害は出る。どんな人間でも生贄とするのは間違っていると思うから、もし答えが否であれば――
「それが、友の頼みとあらば」
 その言葉、信じても良いのだろうか‥‥


「監視所を拠点にして情報収集や民意の変化を頼むよ、少尉」
 帰途、天魔はアネットにそっと耳打ちした。
「勿論やりすぎて監視所を潰されては困るから、程々にな。それとある程度の要塞化も頼む。侵攻する際の拠点になるし、アメン=ラーが神から異星人に戻った時に住人を保護しないといけないからな」
「要塞化は難しそうだけど‥‥まあ、保護の方は何か考えとくよ」
 今すぐに、という訳にはいかないだろうが。
「神を人知を超えた力を持つ人外の者と規定するなら彼は神たる資格を有している」
 天魔は砂漠の上空に降る満点の星を仰いだ。
「だが神といえども滅びからは逃れられず、醒めぬ夢もない」
 願わくば彼が末期の時まで夢を見続けられる事を‥‥