タイトル:ぞろぞろにゃーんマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/07 22:47

●オープニング本文


 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 お猫様が通る。

 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 野を超え丘を越え、畑を突っ切って、村の中へ。

 ぞろぞろ、にゃーにゃー。
 大集団。

 しかも、普通の猫じゃない。


「‥‥なんだ、ありゃぁ!?」
 畑を耕していた、猫好きおじさんが驚いた。尻尾を立ててぞろぞろ行進する猫達は、ごく普通のイエネコだ。でも、そのサイズが半端じゃない。
「‥‥トラ? ライオン? ‥‥でも‥‥ネコだよなぁ」
 まぁるい顔も、低い鼻も、ぴんと立った耳も、大きな目も、細い足も。にゃぁ〜んと鳴く、可愛らしい声も。日向でのんびり寝そべっている、うちのミーちゃんと変わりない。
 ただ、でかいだけだ。
 でも、こんなにでかい猫はどう考えても普通じゃない。
「キメラって‥‥やつ、か?」
 人口も少なく年寄りばかりの、こんな僻地の小さな村を、宇宙人が狙う筈もない。
 怪物が現れたとか、ロボットが暴れてるとか、そんな事はテレビで見るだけの、どこか他所の出来事。自分たちには関係ない。
 そう思っていた。この、デカすぎる猫の大群を見るまでは。
「でも、なんで猫?」
 どう見ても、危険な相手とは思えない。
 そりゃあ体もデカいから、猫パンチは強力だろう。猫キックだって、侮れない。でも、猫だ。
 しかも‥‥
「可愛いなぁ」
 普通の猫も充分すぎるほどに可愛い。仕事の邪魔をされようと、家じゅうの壁や柱で爪研ぎをされようと、取り込んだばかりの洗濯物の山にオシッコをされようと、腹の上に乗っかられて寝不足になろうと……猫は可愛い。
 ましてやトラサイズの猫。ネコスキーなら一度はもふりたいと誰もが願う、あのサイズの、しかも猫。
 これがもふらずにいられようか。キメラだろーが何だろーが、構うもんか。

 ということで、突撃。
 もふもふー、もっふーん。
 ごろごろごろ。
 デカ猫も、喉を鳴らして甘えてくる。
「なんだ、人懐っこいんだなぁ」
 なでなで、わしゃわしゃ。
 お腹を出してひっくり返り、くねくねのたうつ巨大猫。
 ああ、そのふかふかな腹に顔からダイブしたい。柔らかな毛に、埋まりたい。
 もっふーーーん。


 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 お猫様が通る。

 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 猫好きな村人達を誘惑し、骨抜きにしながら。

 恐るべし、猫。


 しかし、ネコスキーが多いこの村にも猫の魅力に抵抗する猛者がいた。ほんの少しだけど。
「くそぉ、可愛い見た目に騙されやがって!」
 彼らは手に手に武器を取り‥‥と言っても鍬や鋤、鎌などの農具ばかりだが、とにかく抵抗を試みた。
 キメラには素人の攻撃は大して効かないらしいが、相手はたかが猫。サイズは少しばかり大きいが、それでもやっぱり猫だ。
「蹴散らしてくれる!」
 猫よりもまず、邪魔するネコスキーを蹴散らして、日頃の農作業で鍛えた腕で自慢の鍬を振るう。
「みゃぉん、みゃぁ〜ん」
 哀れっぽい声で鳴きながら、逃げ惑う猫達。なんだか可哀想な気になってくる。これって、ただの動物虐待じゃね?
 だが、心配には及ばなかった。逃げ損ねた巨大猫に攻撃が当たった瞬間。
「みぎゃぁーーーっ! がるるぐわぁぁっ!!」
 猫が虎になった!?
 丸かった目が吊り上がり、大きく裂けた口からは鋭い牙が伸びる。太く頑丈になった足の先に長く伸びた爪は鋼鉄の輝きを帯び、ふわもこだった体毛はバリバリに固く強張っていた。
 これはとても、素人の手に負えるシロモノではない。しかも、一匹が猛獣化すると、それはたちまち他の猫にも伝染し‥‥
「うわあぁぁぁっ!!」
 もうだめだ。逃げるしかない。しかもなんか、後ろの方にボスっぽいのがいるし。

 身の丈2メートルはありそうな猫が、二本足で立ってるよ。ぽってりした腹が、たぽんたぽんしてるよ。ちょこんと首傾げながら、つぶらな瞳でこっち見てるよ。やべ、ちょー可愛い、どーしよー。
 でも、あれだ。きっとあれも、どついたら豹変するんだ。きっとそうだ。
 そんなの、敵いっこない。
 助けれ、だれか。

 たーすーけーれーーー!

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
泉(gc4069
10歳・♀・FC
七神 蒼也(gc6972
20歳・♂・CA

●リプレイ本文

「‥‥はい。‥‥はい、そうですか。お忙しいところ‥‥」
 白鐘剣一郎(ga0184)は公衆電話に向けてぺこりと頭を下げ、受話器を置く。
「ここも駄目か」
 小さく溜め息をつき、次の電話番号へ目を落とした。この村に着く前に仲間と練り上げた作戦では、まず始めに猫キメラの引取先を探す手筈になっていた。各地にあるキメラの研究所や、それに功刀元(gc2818)がこたつねこキメラを目撃した覚えがあると言うカンパネラ学園の研究棟。思い付く限りの施設に電話をかけてみる。
 その作業を、何故に剣一郎一人が担っているのか。それは仲間達の様子を見れば明白だ。
 もふもふもふもふもふもふ‥‥
 理性、全滅。
「しっかし、猫は好きだが理性吹っ飛ばして抱きしめたりまではいかねーんだよなぁ、俺って‥‥」
 ただ一人、呆れた様子で仲間達の壊れっぷりを眺めている七神蒼也(gc6972)を除いた全員が、トラ並みにデカい猫型キメラの虜になっていた。
 ここは理性を保っている者が裏方に回り、何かと手配をする以外にはあるまい。まるで宴会の幹事になった気分だ。
「で、どうだった?」
 打診の結果を蒼也が問う。しかし答えは聞くまでもなく、剣一郎の表情に現れていた。
「皆にも知らせておかないとな‥‥っつっても、あれじゃ無理か」
 これはもう、皆の気が済むまで待つしかない。そうと決まれば‥‥
「‥‥おぉ、なかなかの毛並み」
 さわさわなでなで。手近な一頭を撫でる蒼也。
「あんたはもふらないのか?」
「俺は可愛がるなら普通の猫が良い」
 剣一郎は巨大な猫達を見て、ちょっぴり引きつった微笑を浮かべる。
「見た目はネコでも図体はトラ並み‥‥まぁ大きさだけで十分危険物のような感が無いでもないが」
「‥‥だな。しっかし、バグアもなんつー倒しにくいモンを‥‥」
 って言うか、倒せるのかコレ。
 猫の魔力によって骨抜きにされた仲間達を見て、蒼也は軽く溜め息をついた。

「俺、生きたまま天国にでも来ちゃったのかな」
 現場に着く前から、そわそわうずうずによによしていた新条拓那(ga1294)は、巨大猫を目るや、すぐにでも駆け寄らんばかりの勢いで前のめりになる。
「なんだろうね、この猫、猫、猫! これもふらないで何もふるっていうのさ!」
 瞳の中に、お星様が見える。それでも精一杯の自制心を発揮して、そーっと手を出してみた。
 もっふー!
 柔らかい。ふっさふさだ。おまけに人懐っこく甘えて来る。ここはまさに天国。そう、猫好きのパラダイス。にゃんこのぱらだいす、略してにゃんぱら。
 喉の下、お腹、耳の後ろ。知り尽くした猫のツボを撫でまくる拓那。ごろごろくねくね止まらない。

「うわぁーー!! おっきな猫さんです♪」
 小笠原恋(gb4844)は猫達の姿を見るなり、もう一も二もなく抱きついた。
 もっふー!
「はぅぅ〜〜♪ もふもふですぅ〜〜♪」
 うっとり、とろ〜ん。全身でもふもふ感を味わうため敢えて軽装で来た甲斐があったというものだ。ああもう、何というもっふもふ。
 それを暫く堪能すると、恋は大きなブラシを取り出した。もふもふさせてくれたお礼に、ツヤツヤのピカピカにしてあげよう。首筋、顎の下、額、耳の後ろ。自分の舌が届かない所を梳いてあげると猫は気持ちいいのだ。
「うはぁ〜ゴロゴロいってますぅ〜♪ きもちいですかぁ? そうですかぁ〜よかったですねぇ〜」
 ブラッシングで巨大猫の毛並みを整えつつ、折角整えた所をもふもふなでなで。そしてまたブラッシング‥‥以下えんどれす。

「ねこさんがいっぱー‥‥にゃ〜」
 御鑑藍(gc1485)は、慎重に猫達の様子を見る。模様、体型、尻尾の長さ。しかし、何と言っても決め手は毛の長さだ。
 目標発見。そろーり、おっとりと大人しそうな長い毛のふわんふわんな猫に近付く。
 もっふー!
 そして、ぷにぷにぷにぷに。でっかい前足をとって、肉球をぷにる。トラの肉球は固そうなイメージがあるが、これは猫だ。ピンク色をしたでっかい肉球は、それはもう、何と言うか‥‥
「きもち‥‥いぃ‥‥にゃ〜」
 とろんとろん。思いっきりもふる、思う存分もふる、もふり倒す!

「えーと‥‥。見た目はサイズ以外は猫其の物のキメラが戯れてるんだよね‥‥?」
 元と連れ立って現場の状況を確認した御剣薙(gc2904)は、何やら決意に満ちた表情で拳を握った。
「うん、猫好きとしてはもふるしかないじゃないか!」
 もっふー!
 喉を撫でたり頭を撫でたり、思いつく限りの方法で愛でて、もふり倒す。彼氏より猫!
「可愛いなぁ‥‥ねこ〜、ねこ〜♪」
 もう猫以外は目に入らない。猫に夢中で完全に無防備状態。
「どんなものか見に来てみればー、目の前にはネコの楽園が広がっているではありませんかー」
 もっふー!
 一方の元も愛車のパイドロス君から飛び降りると、隣の彼女には目もくれずに猫達の群れにダイブした。右も左も猫だらけ。猫に埋もれてもう見えない。
 お互いに猫に夢中で、これは破局の危機かと思われた二人だが‥‥
 もっふもっふ、ふにゅんふにゅん。
「薙さんもネコさんもホント可愛いなーあーもー」
「わっ、ちょっ、元君!? は、恥ずかしいよ」
 どさくさに紛れて猫と一緒に薙までもふる元。恥ずかしいと言いながら素直にもふられる薙。あぁもう、このばかっぷ‥‥いや、この、微笑ましいカップルは、放っとこう。
 この様子じゃ、薙が用意した猫缶と毛糸玉は使う機会がなさそうだけど、別にいいよね! ずっといつまでも、そうしてれば良いさ!

「おっきー、にゃんこさんっ! ぎゅーって、しても‥‥えぇ、やろか‥‥?」
 きらっきら、きらっきら。この時の為に上から下まで猫装備で固めた泉(gc4069)は、大きな猫をもふり倒す事しか頭にない。
 良いよね? 良いよね? 誰も答えてくれないけれど、良い事にする!
 もっふー!
 猫の背中に取り付いて、盛大にもふり始める。
「にゃぁっ♪ こーちゃん、ほら‥‥もっふもふ、やでー‥‥っ♪」
 肌身離さず抱いている白い猿のぬいぐるみに話しかけながら、巨大猫の喉の辺や、肉球、耳をふにふにぷにぷに。そして、より大きな猫の背によじ登り、全身でもふもふすりすり。
「かわえぇ、にゃんこさん‥‥ふるもっふ‥‥っ♪」
 一匹連れて帰ったら怒られるだろうか。

 もふもふなでなで‥‥
「蒼(アオ)、琥珀、翡翠、瑠璃‥‥みんな元気かなぁ‥‥やっぱり実家から連れ出すべきか否か‥‥」
 ぶつぶつ‥‥はっ。
「‥‥おーい、そろそろどーにかしないとキリが無いぞー?」
 実家に置いて来たペット達に思いを馳せつつ、それなりに猫の撫で心地を楽しんでいた蒼也は、ふと我に返る。その声で、猫に埋もれていた元がひょっこりと顔を出す。
「そうでしたー、ネコさん達を誘導しなくてはー」
 誘導先は、村外れの空き地。
「捕獲するにせよ、倒すにせよ、村の中では後始末で後々村に面倒を掛ける事になりそうだからな」
 倒すとは、まだ言えない幹事さん。仲間達にはもう暫く夢を。
 とは言っても、その様子から仲間達も薄々気付いてはいる様だけれど。完全に猫酔い状態でも、そこは歴戦の傭兵達。頭の隅は常に冴えているのだ‥‥多分。
 これまでにキメラが研究機関に引き取られた事はない――ほんの僅かな例外を除いては。それに、急に言われても収容スペースや餌代の問題がある。どこか人のいない場所で解放するとしても、彼等がこの先もずっと「攻撃されない限りは無害な存在」であり続けるとは限らないのだ。キメラの生態には未知の部分が多い。僅かでも危険な可能性が残るなら、野放しには出来なかった。
「では、行くか‥‥皆、誘導を頼む」
 誘導開始。でも、見た目には今までと殆ど変わらなかい、かも。
「よっ、とぉ、はぁっ!」
 拓那が猫じゃらしの代わりに振る箒に飛びかかり、大暴れする巨大猫達。
「ふふふ、そう簡単に捕まえられてなるものか〜。ほらほら、こっちおいで〜」
「ほ〜ら、こっちですよー」
 しかし、隣で恋がお手製の羽根じゃらしを振り始めると、猫の注目は一斉にそちらに集まった。5m程の紐の先に鳥の羽根を束ねて結んだそれを、猫の目の前で羽束を左右に行き来させたり、後ろから横に通過させたり。くねくね動くその動きに反応しない猫はまず居ない。
「あははは〜♪ ほ〜らほら〜」
 完全に童心に返ってるが、気にしない。だって、周りの皆も‥‥ほら。
「あぁっ、俺の猫達がー!」
 いや、別に拓那の猫じゃないけれど。でも何となく対抗心を燃やしてみる。
「ほーら、おいしいごはんだよー」
 かさかさ、わしゃわしゃ。ドライフードの入った袋の口をちょっと開け、音と匂いで誘ってみる。
 ‥‥もふん。そんな拓那の背に、もっふもふでほっかほかな何かが当たる。振り向くとそこには‥‥両手を合わせ、おねだりポーズをしている巨大二足歩行猫がいた!
「みゃぁ〜ん」
 もふもふ、のしっ、すりすり。ごはんちょーだいと甘えて来るボス猫。思わず差し出したフードの袋を抱き抱え、器用に手ですくってはちまちまと口に運ぶ。
 やば、可愛い。可愛すぎる。どうしよう。
 一方、皆が誘導に取りかかった事を見て取った藍は、荷物から猫槍エノコロを取り出して振ってみる。
「にゃ〜‥‥あそび‥‥ましょ?」
 ふりふり、ふさふさ。届くか届かないか、出来るだけぎりぎりな距離で振る。飛びかかって押さえつけられたら動かせなくなるかもしれないし、何より猫はこういう「ギリギリ感」を好むものだ。届きそうになったら迅雷でダッシュ。それを追いかけて、猫もダッシュ。
「楽しそうですねー」
 その様子を見て、元はほくほく笑顔。しかし、えのころの扱いにかけては定評のある元のこと。ここは「ますたー」として、その名に恥じぬ華麗なえのころ捌きを見せねばなるまい。
「えのころますたーは伊達じゃありませんよー」
 かねての作戦通り、AUKVのパイドロス君を着込みんだ元はスキルを駆使して華麗にネコさん達をじゃらしつつかわしつつ、巧みに誘導を開始した。
「にゃぁ‥‥ほら、にゃんこさん‥‥おっきー‥‥‥じゃらし‥‥おっかけ、よー‥‥?」
 それを見た泉は、いつの間にかちゃっかりよじ上っていたボス猫の頭をぽふぽふ。のそーり、拓那のフードを食べ終わったボス猫は、泉を頭に乗せたまま歩き出した。
「にゃふーっ♪ みんな‥‥くぬぎさんに、つづけー‥‥っ♪」
 ぞろぞろ、ぞろぞろ。
 お猫様が通る。
 じゃらしを追いかけ、あっちこっちに寄り道しながら。
「ああ、ほら‥‥そっちじゃないぞ」
 逸れた猫の気を引こうと、剣一郎は大きなボールを転がして軌道修正。
 大猫行列のサイドは、名残惜しそうにしながらもAUKVのアスタロトを装着した薙と、理性を吹っ飛ばし損ねた蒼也が固める。
「ずっともふられて‥‥じゃない、もふってたいけど‥‥仕方ないね」
 思わず本音が溢れそうになった口を慌てて押さえ、薙は首を振る。安全な場所に誘導し終えたら、また遊ぼう。それが、出来るものなら。
「皆、誘導の具合はどうだ? あまり途中で構いすぎて足を止めないよう注意してくれ」
「それ、無理な注文だと思うんだが」
 剣一郎の声かけに、蒼也は呆れ顔で肩を竦める。仲間達は誘導しつつも、隙あらばもふり、じゃれ‥‥藍なんかもう、猫の背中に乗っちゃってるし。
「すすめ〜‥‥」
 ふかふかの首筋にしがみつき、えのころを持った手を出来るだけ前へ出して、振る。鼻面に人参をぶら下げた馬の様に走ってくれる事を期待しつつ‥‥いや、そんな事で本当に馬が走るかどうかは知らないけど。
 結果‥‥猫は回った。同じ場所で、ぐるぐるぐるぐる。まるで自分の尻尾を追いかけている様にも見える。

 そして‥‥遂に「その時」が来た。
 元の余りに巧みなえのころ捌きに踊らされ、我を忘れた猫達が誤爆したのだ。
 どっすん! ばりっ! がぶぅっ!
 勢い余って隣の猫にぶつかる奴、間違えて他の猫を引っ掻く奴、手当り次第に噛み付く奴。
「ぐぉがわあぁぁっっっ!!」
 やっちまった。にゃんぱらは突然、何の前触れもなく残念な事になってしまった。
 猫の背に取り付いていた藍は振り落とされ、泉はボス猫の頭から払いのけられる。
「‥‥なるほど、確かにこうなると可愛らしさの『か』の字も残らないな。まぁその方がこちらも対処しやすいが」
 剣一郎が腰に帯びた大太刀を抜く。幸い、人里からはもうだいぶ離れている。ここなら暴れても問題はないだろう。
「天都神影流・虚空閃っ」
 衝撃波がボス猫の大きな腹に吸い込まれる。
「にゃぁっ!? とらさん、なった‥‥っ!? むー‥‥わるーい、にゃんこさんは‥‥おしおき、やでー‥‥っ!」
 身軽に着地した泉は、腕に抱えたこーちゃんを背中に回し、二刀小太刀を両手に構える。
「おとなしゅう、しとった‥‥かいらしーて、えぇん、やけど‥‥なー」
 ぽつりと呟くが、こうなってしまったら仕方がない。ボスの脇を通り抜けざまに足に刹那で斬り掛かり、そのまま凶暴化した猫達の群れに迅雷で駆け込み、円旋で斬りつける。
「悪い子は猫鍋‥‥ですよ?」
 虎でも猫鍋なのだろうかと思いつつ、討伐するしかないと覚悟を決めた藍。
 しかし小さな痛みが、決めた覚悟をチクリと刺す。
「可愛い猫は思いっきりもふってあげるけど、悪い猫になっちゃったら仕方ないね」
 拓那は出来るだけ気絶などで済ませて、命を奪わずに無力化したいと徒手空拳で挑んでみるが。
「うぅ、でも、心は痛むなぁ」
 のそり、もそり。技に全くキレがない。
「あぁ‥‥あんなにも可愛らしかった猫さんたちがあんな姿に‥‥」
 そして絶望に打ちひしがれた恋は、地面にへたり込んでしまった。
「元が可愛らしい猫さんだと分かっていて斬りつけるなんて私にはできませんっ!!」
 大トラ化した彼等が如何に可愛さや愛らしさから遥か遠い存在になろうとも、かつての面影を重ねずにはいられない。しかし、自分達がやらねば誰がやる。意を決し、アルティメット鍋で‥‥ポカポカ、ポカポカ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 何だか火に油を注いでいる気もしないでもない、けれど。
「あー、大トラになってしまいましたかー」
 そんな仲間達の様子を見て、無血解決を目指に来たのにと嘆きつつ涙を呑んで戦闘モードに移行する元。得物をブラックホールに持ち替え、大トラの群れに銃口を向けた。
「ボクも出来れば戦わずに済んで欲しいと思ってたけどさ」
 元の背後からふわりと飛び出した薙は、心を鬼にしてそこらの猫に蹴りを見舞う。
「今度は普通の猫に生まれてきなよ、ね」
 キメラでさえなければ、大きな猫でも良いけれど。
「猫好きの心を弄んだ報いだっ、これでもくらいなっっ」
 蒼也はありったけの力を込めて攻撃を叩き込んだ――その向こうにいるバグアに。
 この猫達に罪はない。憎むべきは、彼等を作り出したバグアだ。
 この借りは、いつかきっと必ず――!