●リプレイ本文
エジプトへの威力偵察。その任を負った傭兵達は、作戦行動の最終確認を行っていた。
ルリム・シャイコース(
gc4543)が前方にある白板に書かれた概要を読み上げる。その方針が全体に浸透している事を確認する様に、一人一人と目を合わせた。
「西部砂漠地帯を巡航速度で飛行し、何か敵の軍事施設等がないか確認できる範囲で行う。同時に味方の電子偵察機の護衛もかねる。敵を発見したならば速やかに戦闘行動に移行する‥‥以上、ね」
仲間達は黙したまま頷き、視線を返す。
「最後に注意事項を確認しておきます」
管制担当の長瀬 怜奈(
gc0691)が言った。
「私が行うのは報告と要請です。それを元に、戦況を各自判断し行動願います」
コールサインはデファイアント。挑戦的な、反抗的な等の意味を持つ、支援機にしては勇ましいネーミングだ。或いは大昔の戦闘機から取ったものだろうか。
「また私が撃破されても状況を崩さないように」
「その時は‥‥後で救援‥‥来る筈ですから‥‥ゆるり砂漠観光、を」
キア・ブロッサム(
gb1240)が応えた。非情な様だが、任務の遂行が第一だ。
「それじゃ、エジプト観光パート2いってみよー!」
アルテミス(
gc6467)が元気に言った。
誰かに冷たい視線を向けられた気がするが、気にしない。だって遊びに行く訳じゃないし。KVを通して見れること感じることを大切にしつつ、偵察と戦闘をこなすという、れっきとしたお仕事なのだ。
神様と遊ぶのも、勿論お仕事。
「さぁって、今回も偵察だよ。今のエジプトって面白いから大好き♪」
ガンスリンガー、オリオンのコックピットから、アルテミスは下界を見下ろす。見渡す限り一面の砂の海だ。それ以外には何も見えない。
「砂ばかりで、これと言った建物は無いみたいね」
ルリムが言った。眼下の光景は少し油断すると欠伸が出そうなほど単調だった。それにしても‥‥
(敵に知られているかもしれない偵察行動とはね)
少し苦いものが混じった笑みを漏らす。
(‥‥フム。アメン・ラー‥‥エジプト、ノ‥‥敵。今、ハ‥‥マダ‥‥)
思いを巡らせ、こくり。ムーグ・リード(
gc0402)が頷いた。
と、その視界がぼやけた様に霞む。目に何か異常が起きたのか‥‥いや、違う。
砂嵐だ。しかも、どう見ても自然のものではない。
「こんな砂嵐、この前来た時は無かったはず‥‥」
レヴィ・ネコノミロクン(
gc3182)が呟く。これはきっと何かある。何を隠しているかは判らないが‥‥もしかして、バベルの塔か。いや、あれはエジプトじゃない。
「とにかく、気をつけましょ」
「砂嵐? これはきっとサンドストームの仕業だね♪」
通信機からアルテミスの弾んだ声が聞こえて来た。
この前見た、金ピカのアレ。スノーストームの砂漠仕様機。
「ってか、金ピカいた♪」
「ぁ、ホントだ」
謎の砂嵐を遠目に眺める位置をゆっくりと飛ぶ金ピカの機体と、それに付き従う三機のタロス。
「すごっ、サンドストォム動いてる! さすがアメン様!」
レヴィは妄想を膨らませた。もしかして、タロスに乗っている部下三人は陸のバステト、空のホルス、海のセベクだったりしないだろうか。そしてアメン=ラーは超能力少年‥‥いや、中年だったりしたら楽しいのに。
「訊いてみようか」
アルテミスが通信を送ってみる。
「神様ー♪ ここで何してるのー?」
機嫌がよければ教えてくれるかもしれない。そうして労せず状況が判明すれば、皆もすぐ対応出来る。
アメン=ラーの機嫌は上々だった。しかし、記憶力は今ひとつらしい。
「はて?」
「やだなー、神様。忘れちゃったの?」
言われてやっと思い出した。大事な仮面をカラフルに染めてくれた、奴だ。まあ、替えはいくらでもあるし、特に根に持っている訳でもないが。
「砂嵐発生装置の試験運転にございますよ」
情報遺漏サービス期間は未だ継続中らしい。
「金色ノ、すのーすとーむ‥‥硬そウ、デス、ネ?」
そこへムーグからの通信が降って来た。金ピカに興味が湧いたらしい。
加熱を防げないこの状況下でまともに戦える機体ではないだろう。機体の能力に制限があるか、或いは‥‥他に何か弱点が?
「左様、残念ながら硬いのでございます」
アメン=ラーは律儀に答える。
でも、残念? 何故?
「金は柔らかな金属にございましょう?」
どうやら彼は純金製で、しかも性能は他を圧倒する機体が欲しかったらしい。いや、訊かれたのはその「硬さ」ではないと思うのだが、上手くボケたのか或いは天然か。
どちらにしろ、素直に教えてくれないなら実戦で確かめるまでだ。
「サンドストームも実戦テスト? ボクが付き合うからタロスの邪魔はしないで欲しいなー」
アルテミスは挑発しつつ、煙幕装置を発射。敵の連携を崩そうと試みる。
「ふむ‥‥まあ、よろしいでしょう。お相手致しましょうか」
乗って来た。
データ収集ついでに親玉を引き付けておけば、仲間達の調査や戦闘が楽になるだろう。後は任せた。
「甘く見るのは結構だな。その油断‥‥精々利用させてもらう」
アメン=ラーの相手はアルテミスに任せ、追儺(
gc5241)のサイファーE、鬼払は高空から砂嵐に接近した。
本人の口から情報を得はしたが、それを鵜呑みにしては子供の遣いだ。独自に確認し、阻止する必要がある。
高空でデータ収集に当たる支援機SkyEyeの怜奈は、自機による索敵情報と味方から自動受信したデータを元に敵機の展開状況を把握、それをフィードバックしていった。
(‥‥フム)
ムーグが砂嵐に注意を向ける。
先日、中東で見かけた砂嵐は地上に発生装置があったとか。しかし上空の敵は何か‥‥あの大型HWを護るように布陣しているかに見える。
「あのHWの下にだけ砂嵐が起きているの。きっとあのHWが関係していると、ファリスは思うの。とりあえず、確かめてみるべきだと思うの」
ファリス(
gb9339)の言う通り、確かに砂嵐はその範囲だけに起きている様だ。ただし、地上での効果範囲は上空の数倍の大きさになっていたが。
確かめる、つまり排除だ。それで砂嵐が止むなら、原因が確定する。
「たかが砂嵐‥‥発生源ごと吹き飛ばしてやるさ、砂漠の嵐でな」
先頭を切って鬼払が突っ込んで行く。
「砂嵐の中には入らないで下さい」
それはただ視界を奪うだけではないと、怜奈が警告した。上空のHWから発生しているものとは別の妨害電波が、その空間には満ちていた。
「道を開くには‥‥お前らが邪魔だ!」
彼等を排除しようと浮き上がって来た小型HWの群れに接近し、ミサイルの弾幕を張る。その間に間合いを詰め、クロスマシンガンと真スラスターライフルの集中砲火を浴びせた。
「エスコートはお任せ‥‥しましたから、ね‥‥無理だった、等‥‥許されない‥‥」
怜奈の護衛に付いていたキアのロビンが定位置を離れた。ブースターで加速して弾幕の間をすり抜けて行く。狙いは大型HWのみ。
それにファリスのサイファーE、ジークルーネが続く。仲間の援護があっても尚、行く手を阻む小型の壁は厚いが、ファリスは構わずその隙間を縫う様に飛び、すれ違いざまにガトリング砲の弾幕を浴びせて一気に抜き去った。置き去りにした小型は、仲間の援護にお任せしよう。
「敵の数を減らせれば、それだけ味方も」
それに応えてルリムのロジーナ、紫電改が短距離高速型AAMを全弾発射。距離を詰め、今度は短距離用AAMを叩き込む。下手な鉄砲、ではないが、上手ければ尚更、バラまく数に比例して当たる確率も高くなる。しかし、被弾しても攻撃の手を緩めないのが無人機の厄介な所だ。
反撃を喰らい、ルリムはブーストで回避。すぐさま射線に戻り、ホーミングミサイルFI−04とCC−02とを使い分けながら波状攻撃を行う。無駄にカラフルな爆煙が視界一杯に広がった。
「‥‥他ノ、道ヲ、拓キタイ、デス、ガ‥‥」
後に続こうと考え、ムーグは暫し考えを巡らせた。目視で確認した敵の数と、支援機から入って来る各種データ。そこから考えるに、あの数と相対しては混戦、激戦は必至だ。今、自分が仲間の後に着いても益はなさそうに思える。
あの敵を少しでも、こちらに誘導出来ないだろうか。
ムーグはストロングホークIIの機首を下げ、砂嵐の周囲を縫って降下を始めた。明らかに地上を見下ろしている様な機動で敵を誘う。
「ドウ、デス、カ‥‥?」
こちらに戦力が回って来れば上空の戦闘が楽になるだけではない。地上に何かがある可能性も出て来る。
狙い通り、何機かのHWが一直線に降下を始めた。ムーグは怜奈に然るべき対応を依頼すると、敵の攻撃に備えた。ストームブーストAを起動させ、移動力を上げる。後は敵の射程外に位置を取りつつ、ひたすら逃げ回る。
一方、報告を受けた怜奈は索敵の範囲を地上まで広げて対応しつつ、引き続き管制業務に集中していた。レーダー情報を解析し、各機HUDへ目標情報を送る。戦況を実況、或いは予測し、敵の陣形に穴があればそれを流し、撃破の状況を伝える。
「6時方向に敵、友軍機は死角のフォローを」
「了解」
大型を狙う味方の背後に付いた敵を、追儺とルリムが追った。二機は間断ない攻撃で圧力をかけて敵を排除しつつ、HWの飛行を邪魔する様に飛ぶ。
その間にも、大型HWは殆どその位置を変えなかった。という事は、やはりそれが砂嵐の発生装置と見て間違いないだろうと、キアは確信を持った。ならば、それ自体は攻撃を受けても動く事はない。動いたとしても、その動きは緩慢な筈だ。ある程度命中を雑にしてでも火力を重視し、攻撃を加える。
大型の上面に取り付けられた砲門が一斉に火を噴いた。しかし、キアは周囲に残った敵を警戒して真っ直ぐには飛ばず、フェイクを交えブーストで強制的に機体を制御しつつ不規則に動いていた。その警戒心が功を奏し、何度か軽い衝撃は受けたものの直撃は免れた様だ。
一方、ファリスは敵の注意がキアに剥いた隙を狙い、一撃離脱を狙う。遠距離からはまずUK−10で少しずつ削り、次に螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んだ。それが尽きれば、長距離ガトリング砲で牽制しつつ接近、スラスターライフルを見舞う。相手が動かないからといって油断は禁物だ。接近しては、離脱。リロードしつつ、再び接近を繰り返す。危険を感じた時は無理をせずにフィールド・コーティングを展開。だが、そう何度も使える訳ではない。仲間と連携を取りつつ、慎重に。
「にゃおーん」
一瞬、場違いな叫びが戦場に響いた。レヴィのクノスペ、三毛猫のルンバ。満を持して参戦。
「データ取りに利用されるのは癪だけど。やるしかないのよね」
久々に動かすルンバのご機嫌を取りながら、レヴィはミサイルポッドで付近の小型もろとも吹き飛ばす‥‥いや、それほどの威力はないから、間髪を入れずレーザーガンで追撃をかける。
「さっさと片付けましょう。早く帰って酒盛りよ」
レーザー二回にミサイルを一回。ミサイルを撃ち尽くすまで繰り返し、邪魔な小型はライフルで。それにしても、小型が邪魔だ。
「これだけのHWに守られているんだもの。重要な秘密があるはず‥‥」
金ピカ機体にも惹かれるけど、あちらから攻撃をしてこない限りは我慢、我慢。
その金ピカは、一瞬だけ本気を出していた。本当に、一瞬だけ。
DFバレットファストを起動させたオリオンさえ手玉に取る高機動を見せた金ピカはしかし、あっという間に動きを鈍らせアルテミスに後ろを取られる。それが本来の性能なのか、或いはデータを取られる事を嫌ってか、それとも単にパイロットの腕が悪いのか。
敢えて戦う事で得るものは確かにあるが、果たして相手は本気なのか。約束通り部下に手出しをさせない所は評価しても良いと思うけれど‥‥
「神様ー、ちゃんと本気出してるー?」
射程ぎりぎりの位置に付き、アハト・アハトでの狙撃を続けながら通信を入れてみた。
「我はいつでも本気にございますが」
流石に背後からの攻撃は全て回避しつつ、アメン=ラーが答える。
「生憎、この機体は調整不足の様にございまして」
つまり、本気を出したくても出せないという事か。と言うか‥‥今回も思う。良いのか、そんなだだ漏れで。
「次の機会にはきちんとお相手させて頂きましょうぞ」
言うや否や、一瞬の本気を復活させて金ピカは視界から消えた。
三機の部下も暫くは戦場に留まっていたが、やがて東の方向へ向けて飛び去り、後には瀕死の大型HWと、それに纏い付く小型、そして次第に威力の弱まって来た砂嵐が残るのみだった。
「試験運転の継続を断念した様です」
その様子をモニターしていた怜奈が言った。発生装置そのものを捨てたのか、或いは単に実験を諦めただけで、装置そのものはまだ他にも存在するのか‥‥
何れにせよ、怜奈はその一部始終を記録していた。もしまた同じものを出して来たとしても、対処は楽になる筈だ。
と、味方機に動きがあった。単独で敵を引き付けていたムーグ機が、いよいよ限界に近づいたらしい。
支援を要請され、追儺が動いた。高速離脱を図るムーグと入れ替わりに飛び込んだ追儺は、攻撃を叩き込みながら敵の目を引き付ける。自身もフィールドコーティングを展開し、僚機の離脱を確認すると自らもその場を離れた。
「まだまだ、墜ちる訳にはいかないんだよ」
ルリムが紫電改のコンソールを斜め四十五度の角度から殴り付けた。その衝撃で、機体は幾分か調子を取り戻した様だ。反撃とばかりにルリムは機体に損傷を受けた小型にブーストで接近、ガトリング砲「嵐」の掃射で墜とす。
それを繰り返すうちに、砂嵐がぴたりと止んだ。
大型HWが撃墜されたのだ。
それと共に小型HWが逃げて行く。これで作戦終了かと、キアは管制機に撤退を打診した。しかし――
「砂中に新たな目標を発見。数は八機」
怜奈から新たな情報が入る。それもまた、発生装置の一部という訳か。
空域の安全を確認してから、仲間達が破壊に向かう。ファリスもその後を追い、援護に入った。
「すなあらし装置? 1つ欲しいなぁ」
ヤマアラシを想像しつつ呟くレヴィ。しかし、追儺が周囲の砂をマシンガンで蹴散らして地表に露出させたそれは、小さなピラミッド型の装置だった。残念。
「でも‥‥貰って良い?」
持ち帰って分析しようと機首を下げた瞬間――閃光が炸裂し、レヴィは咄嗟に回避行動を取る。
強化人間と同様に、自爆装置が組み込まれていた様だ。八つの装置が次々と爆発し、破片が砂漠の砂に紛れて行く。どのみち破壊するつもりだったものだ、手間が省けたと喜ぶべきか。
「データは取ってあります」
怜奈が言った。つまり、作戦完了。
「成果有りという事ね」
ルリムが言葉を返す。
キアがスモーク・ディスチャージャーのスイッチに手を伸ばし‥‥止めた。
砂漠には煙幕よりも砂嵐が似合う。
地上では吹き始めた風に、砂が舞っていた。