タイトル:おとぉさんのひマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/30 22:11

●オープニング本文


「うわぁー、やっぱり可愛いなぁ‥‥」
 セオドア・オーデン(gz0421)は薄暗い貸し倉庫の中で、懐中電灯の明かりを頼りにアルバムをめくっては頬を緩めていた。
 生まれた瞬間から、三歳を過ぎる頃まで。初めての子供らしく、殆ど毎日の様に撮られた写真は分厚いアルバムを埋め尽くし、それが‥‥何冊あるのだろう。
「‥‥こんな人達、だったんだな‥‥」
 アルバムには両親と共に写されたものも何枚かある。名前しか知らなかった、息子の生みの親。その写真からは、彼等が如何に一人息子を大切にし、可愛がっていたかが良くわかる。
「‥‥僕も、貴方がたに負けないくらい、大切に育てます。いつか、あの子が本当の事を知っても‥‥揺らぐ事のない様に」
 アルバムを閉じ、棚に並べる。そこにもう一冊、クーの家の中を撮影した写真を収めたアルバムを並べた。その隣には臍の緒や母子手帳、日記、その他の細々とした物を入れた箱を置く。下の段には三輪車や服、おもちゃなどを並べる。
「ぬいぐるみなんかは、今でも喜びそうだけどな‥‥」
 でも、それを見た途端に‥‥忘れていた記憶が一気に蘇ってしまうかもしれない。
 それが、あの子にとって良い事なのか、それとも‥‥良くない事なのか。判断がつかなかった。
「‥‥ごめんな、もうちょっと‥‥ここで待っててくれ、な」
 大きなクマの頭を撫でると、足下に置いてあったもう一つの箱を抱え、セオドアはそっと倉庫の扉を閉めた。


 家に帰り、子供達が寝静まってからその箱を開ける。
 中から出て来たのは、いくつかの写真立てと、縁の欠けたマグカップ、小さなネームプレート‥‥それに、幼い字で「たからばこ」と書かれたお菓子の缶。
 写真立ては玄関に飾られていたもので、今は亡き両親や妻の姿が写っていた。マグカップは縁が欠けても使い続けていたセオドアのお気に入りだった。
 そして、この缶は‥‥
「うわぁー」
 懐かしい、と言うか、恥ずかしい。
 今では名前もわからない野球選手のカードや、かつては良い匂いがした筈の消しゴム、鉛筆のキャップ、アニメキャラのシール、正体不明の小さなフィギュア、初めて貰ったバレンタインチョコの包装紙、クリップ、コマ、缶バッジ、スーパーボール、ヨーヨー、蝉の抜け殻、アイスの当たり棒‥‥
 何故これが宝物なのか、何となくわかる物と、さっぱりわからない物。小学生時代の色々な思い出がごちゃまぜに詰まっている。
「缶に入ってたから、無事だったんだな‥‥」
 缶そのものは錆び付いて、少しひしゃげているが、中身はきれいに保存されていた。
「‥‥どうせなら、もっとマシな物を入れとけば良いのに‥‥」
 苦笑いを浮かべ、そのひとつひとつを手に取ってみる。
 その時‥‥部屋のドアが開き、息子のクーが少し寝ぼけた顔を出した。
「おとぉ、さん?」
「‥‥クー。‥‥おしっこ?」
 こくん、クーは頷く。同居している双子とは違い、クーは滅多におねしょをしない。手のかからない子だった。
「おとぉさん、なにしてるの?」
 ひとりで用を足したクーは、再び部屋を覗き込む。
「ん‥‥おいで、お父さんの宝物、見せてあげる」
「たからものっ!?」
 目を輝かせて駆け込んで来たクーを膝に乗せ、セオドアは箱の中を見せた。
「これ、きれいー」
 クーは中にラメの入ったスーパーボールを指差す。密閉されていた為か、それは昔と変わらぬ色艶と弾力を保っていた。
「気に入った? じゃあ、クーにあげるよ」
「ぇ‥‥でも‥‥おとぉさんの、たからもの‥‥」
「うん、昔の‥‥ね。今は、クーが宝物だから」
「ぼく‥‥おとぉさんの、たからもの?」
「そうだよ。ずっとずっと、大事な宝物だ」
 くねくね。それを聞いたクーは、にっこり笑って嬉しそうに体をくねらせた。
「じゃ、もう寝ようか。‥‥今日は、一緒に寝る?」
「うんっ!」
 首っ玉に抱きついたクーを抱え、セオドアは寝室へ。普段は子供達だけで寝かせているが、今日は特別だ。
(あの双子が来てから、あんまり甘えて来なくなったからな‥‥)
 たまにはこうして、思い切りベタベタするのも良い。
 クーの小さな体は柔らかくて、温かくて‥‥なんとなく良い匂いがした。


 翌日。
 いつもの様に子供達を託児所へ預け、仕事に出かけたセオドアを同僚が呼び止めた。
「おーい、お前んトコのチビさん、また依頼出してるぜ?」
「‥‥はい?」
 同僚が指差したモニターには、こんな文字が表示されていた。

『父の日のサプライズを計画してしいます。
 何かお父さんが喜んでくれそうな事を一緒に考えて下さい。
 でも、一緒に住んでいる双子の友達はお父さんがいないので、内緒にしてあげて下さい。
 お父さんにも内緒です。
 お礼に、ちゅーしてあげます』

「昨日か一昨日だったかな」
 クーに頼まれたと言って、託児所の保母が代わりに依頼を出しに来たらしい。
「ほんっと、カワイイよなぁ‥‥って、セオドア。お前また泣いてんの?」
「良い子だ‥‥なんて良い子なんだ‥‥っ! 僕なんかには、もったいない‥‥っ」
 感涙にむせぶ、お父さん。
「‥‥あー、わかった。わかったから‥‥とにかく、知らんぷりしてろよ?」
 こくこくこく。
 滂沱の涙を流しつつ、セオドアは考えた。
 せっかく考えてくれたサプライズだ、盛大に驚いて、喜んで‥‥クーも喜ばせてあげなくては。
 さて、どうしたら喜んでくれるのか‥‥
「あ、でも! ちゅーはだめ、ちゅーは! クーのちゅーは僕だけのもの!」
 何か他のお礼を考えておかなくては!!

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
レイド・ベルキャット(gb7773
24歳・♂・EP
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA
レイ・ニア(gc6805
19歳・♀・CA

●リプレイ本文

 その日、仕事を終えて託児所に子供達を迎えに来たセオドアの後ろには、見慣れないお兄さんの姿があった。
「えと‥‥」
「‥‥だれ?」
「こいつ、だれ?」
 とりあえずにっこり微笑むクーと、値踏みする様にじろじろと見る陸海。
「こらこら、こいつとか言わない。この人、でしょ?」
 しかし、セオドアの言葉など聞いちゃいない双子は、じろじろと観察を続け‥‥
「‥‥えぇ、と‥‥。すみません、その‥‥躾が行き届かなくて」
 へこへこと頭を下げるセオドアに、そのお兄さん――終夜・無月(ga3084)は柔らかく微笑み、首を振る。そして、クーに向かってさりげなく片目を瞑って見せた。
「皆に会い、遊ぶ為に来ました‥‥」
 つまり、そういう事だ。
 知り合いが話していた素敵な家族に会ってみたいと思っていた所に出された、可愛い依頼。これはもう受けない訳にはいかないと思い立ち、こうしてやって来たのだ。
「‥‥ぁ‥‥」
 その意図を理解し、にっこり笑って頷くクー。
 おとぉさんには、ないしょないしょ。
 ‥‥いや、知ってるけどね?

「以前の母者への花束と言い、ほんに空は愛い奴じゃのう」
「ほんと‥‥何やら可愛い依頼ですわね」
 その頃、依頼を受けた他の仲間達は、本部の一室でセオドアには内緒で打合せ。
「父の日のサプライズですか‥‥お父様は幸せな方ですね」
 微笑む祈宮 沙紅良(gc6714)に、秘色(ga8202)が苦笑を浮かべつつ頷いた。
「‥‥セオ父の職場で依頼を出して『内緒』は難しかろうがの」
 ちらり、部屋の外を窺う。
「流石に今日は来ておらぬか」
 昨日までは暇さえあれば廊下でウロウロそわそわしていたのだが。
『では、今のうちに』
 レイ・ニア(gc6805)がメモを見せる。
「そうですね、手順を確認しておきましょう」
 レイド・ベルキャット(gb7773)が言い、これまでに決まった事をホワイトボードに書き出していった。
 当日までの手順と、役割分担、それに必要な物、等々。
 ‥‥よし、完璧。
 後はボードを消して、証拠隠滅‥‥っと。

 託児所で子供達を引き取り、自宅へ向かう道すがら。終夜は右に陸、左に海、そして真ん中にはクーと、三人纏めて肩車というか何と言うか‥‥
「いきますよ‥‥」
 周囲の安全を確かめ、終夜はぐるぐる回りながら走り出す。傭兵稼業で培った体力は伊達ではなかった。
「すっげーすっげー!」
 もうすっかり、荒っぽい事の好きなチビ達の心を鷲掴みにした様だ。
「おまえ、V7な!」
「‥‥え‥‥」
 勝手に決められてしまった。
 仮面ロイダーV7。ヘタレのセオドアがロイダーマンなら、カッコイイおにーさんは主役のV7。そして陸と海は一号二号。
「いくぜ、ロイダーキイィック!」
 何故にロイダー同士で戦うのかは、よくわからないが。
 そして乗り損なったクーはセオドアと手を繋ぎ、それはそれで嬉しそうだった。
 家に着いたら、今度は料理の腕を披露する番だ。チビ達が、いやセオドアでさえ食べた事のない様な、様々な種類の料理やお菓子が食卓に並んだ。
 食べ終わったら、また遊ぶ。チビ達が疲れ果てて、ぐっすり眠るまで。
「すみませんね、何から何までお世話になってしまって」
 泊まらずに帰るという終夜を玄関まで見送り、セオドアは頭を下げた。
「いいえ、子供は好きですし‥‥無理を言って押し掛けたのは俺の方ですから‥‥」
 いやいや、押し掛けたなんて、とんでもない。
「僕は非力だから、双子を満足させるのは難しくて。思い切りはしゃぐ姿、久しぶりに見ました」
 礼を言うセオドアに、終夜は微笑を返した。


 そして翌日、何も知らないセオドアは、いつもの様にチビ達を託児所に預けて職場へと向かった。
「あ、おばちゃん!」
 その姿が見えなくなるのを待ち構えた様に現れた秘色に、クーが駆け寄って来る。
「おぉ、空は元気じゃったか?」
 なでなでなでなで。
 秘色はセオドアにするのと同じ様に、クーの頭を掻き混ぜる。柔らかな髪の手触りが心地良い。
「ちゅーをして貰う為に馳せ参じ‥‥ではのうて」
「そうですわね。お父様に妬かれてしまいそうですわ」
 くすり、沙紅良が笑みを漏らす。
「えと‥‥?」
 誰、と言う様に首を傾げたクーに、終夜が答える。
「友達です‥‥」
 なるほど。 
 そんな訳で、今日は彼等が三人の面倒を見る事になった。

「こんにちは、初めまして。空さんに、陸さん、海さんですね」
 どっきーん!
 ほんわりと微笑む沙紅良に、何故か双子はいつもと違うリアクション。
「‥‥ぁ‥‥ぅ‥‥」
 顔を真っ赤にして、かちんこちんのしどろもどろ‥‥二人共、奇麗なお姉さんには弱いらしい。
 ウロウロと視線を彷徨わせ、何故か突然ぷいっとそっぽを向く。
「V7、かくごぉー!」
「とりゃー!」
 照れ隠しなのか何なのか、昨日よりも更に激しく終夜に突撃!
 そんな双子とは一線を画すクーは、皆に向かってぺこりと頭を下げ、にっこりと悩殺スマイルを浮かべる。
「えっと、おてつだい‥‥ありがとう、ございます」
 その殺人的な破壊力に耐えつつ、傭兵達は今回の作戦をかいつまんで説明した。
「では、私は今のうちに‥‥」
 根回し根回し。
 レイドはこっそりと仲間の輪を離れ、セオドアの職場ULT本部へと向かった。

「セオドアさん」
 勤務中だというのにそわそわと落ち着かないお父さんは、レイドに声をかけられて5センチほど椅子から飛び上がった。
「ぁ、どうも‥‥。お世話に、なってまふっ」
 噛んでるし。
「あの、それで‥‥どんな具合か、なんて事は‥‥訊いちゃいけないんですよね?」
「そこはもう少し、我慢して下さい」
 くすくすと笑いながら、レイドは言った。
「今日の昼休みに、時間を取れますか?」
 双子が会いに来るという事だけを伝え、クーの事は伏せておく。
「双子の方はアネットさんが帰ってくる事は内緒にして、帰ってきた時のために、という事でプレゼントを用意させようと思っていますので、何かアネットさんが喜ぶような物を教えてあげてください」
「わ、わかりました‥‥」
「お昼休みになったら、そうですねぇ‥‥この近くにゆっくりできる場所ってありますか?」
「外の広場、かな」
「では、そこで待っていてください」
「は、はいっ」

 その頃、チビ達は――
「プレゼント?」
 首を傾げる双子に、レイはにこりと頷き‥‥筆談用のメモを見せる。
『アネットさんもセオドアさんもきっと喜ぶよ』
 だがしかし、ますます増える「?」マーク。
「さ、き‥‥よ?」
「よめねーよ!」
 双子怪獣、実はまだ読み書きが出来なかった。
 クーもまだ、簡単な単語くらいしか読めない。自分の名前が書ける点では双子よりもリードしているが‥‥まあ、似た様なものだ。
 そこで、沙紅良が助け舟。代わりに読み上げた内容に、双子はやっぱり首を傾げ‥‥
「でも、なんで?」
「おかーさんのたんじょうび、おわっちゃったし‥‥ははのひは、いなかった」
 しょもーん。
 沈み込んじゃった。どうしよう。
『陸さんと海さんと空さんが自分で考えて準備したらきっとすごいねって褒めてくれるよ』
「でも、かえってこないもん」
「でんわも、ない‥‥もん」
 あぁ、泣き出しちゃったよ。
 それでも何とか宥めすかし、どうにか浮上させ‥‥
『一緒に何が良いか調べに行こうか』
 三人の手を引いて、出掛ける傭兵達。
 さあ、リサーチリサーチ。

 昼休みを迎えた本部では、レイドが更なる根回しを行っていた。
「よし、今のうちですかねぇ‥‥」
 セオドアが出掛けた事を確認し、同僚の所へ。
「すみません、皆さん。実は今日クーさんもこちらにやって来ます。もちろん、セオドアさんへのプレゼントのためです」
「ああ、アレか」
 セオドアが大騒ぎするものだから、依頼の件はもう皆が知る所となっていた。
「皆さんにはセオドアさんには内緒で、クーさんのお手伝いをして頂きたいと思っています。お願いできますか?」
 そりゃもう、喜んで。
「あ、説明があった事は内緒ですよ? あくまで自然に対応してあげてくださいね」
 わかってるわかってる。任せとけって。
 根回し完了。退散退散。

「ほれ空、おじちゃん達に聞いてみよ」
 秘色に軽く背中を押され、おずおずと尋ねたクーに返って来た言葉。それは‥‥
「クーだよ、クー」
「ぇ‥‥ぼく?」
「そうさ、目の中に入れても痛くない、自慢の一人息子。あの親バカに、他に好きなモンがあると思うか?」
 その答えに、クーはおろおろ‥‥どうしようと秘色を見上げる。
「ぼく‥‥プレゼント‥‥する?」
「それは流石に無理じゃのう」
 カラカラと笑い、再び頭を掻き回す秘色。
「じゃが、おぬしが買うた品なれば父者は何でも喜ぼうぞ」
「そ‥‥かな」
 照れくさそうに微笑むクーに、職員の一人が思い出した様に言った。
「ああ、そうそう。セオは犬も好きだな」
「いぬ‥‥?」
「こないだ本部に迷い込んで来た子犬がいてな。貰い手が見付かるまで、ずっと世話してたよ。好きなのかって訊いたら、そうだって」
「ん‥‥ありがとう」
 クーの前では、そんなそぶりさえ見せなかったけれど。

 一方、こちらは双子。
「おかーさんのすきなのなんか、しってるよ」
「あまくないコーヒーと、かろりーはんぶんのマーガリンぬったトースト、だよな」
 それは好きで食べているのか‥‥少しばかり疑問だが。
「そうですわね。お母様の事はきっと、お二人が一番良くご存知なのでしょう」
 ふわりと微笑む沙紅良に、双子はまたしてもカチンコチン。
「でも、お家では見えない事もあるかもしれませんし、ね」
 そうして連れて来られた本部でセオドアが告げたのは‥‥
「そりゃ、可愛い息子達に決まってるよ」
 どちらさまも、立派な親馬鹿の様で。
「でも、ああ見えて実はね‥‥花柄とか、好きなんだよ」
「ええっ!?」
「そんなの、みたことないっ!」
 驚く双子にセオドアは衝撃の事実(?)を告げた。
「自分じゃ似合わないと思ってるらしいからね。でも、結構好きみたい」
「へぇ‥‥」
「おかーさん、はな、すきなのかぁ‥‥」
 二人にとっては嬉しい新発見。お陰でますますお母さんに会いたくなるという副作用はあったけれども。

 そうして子供達が鉢合わせしない様にレイドが探査の眼を光らせる中、リサーチは無事終了。
 次は‥‥
「一日に何度もお出かけするのは、疲れてしまいますわね」
 子供達の体力を考え、今日はそのまま帰宅。その代わり、プレゼントに添えるカードを作る事になった。
 特大の画用紙にのびのびと描かれたそれは、カードと呼べるサイズではないけれど。
「よう描けておるのう」
「これは似顔絵でしょうか。お上手ですわね」
 クーはこぢんまりと丁寧に、双子は思いっきり大胆に。褒められて上機嫌な三人は、もうちょっと頑張ってみようという気になったらしい。
「ねえ、おかあさんってどうかくの?」
 訊かれて手本を見せるレイ。ついでに二人の名前も書いてあげた。
 お手本を見ながら何度も練習し‥‥
「できたっ!」
 それは、言われなければ字には見えない様な、芸術的なシロモノだけれど。
 でも頑張った。その頑張る様子を、こっそりと撮影している終夜。ベストショットは逃さないのだ。
「では、これは一旦私が預かりましょう」
 出来た作品はレイドが回収。このまま置いといたら、セオドアに見付かっちゃうもんね。


 翌日。
 傭兵達は朝早くから、セオドアの家に集まっていた。
 子供達に手伝わせながら、パンを焼いて、シチューを作って‥‥それに、保存の出来る料理も幾つか。
『後でお母さんに見てもらってすごいねって褒めて貰おうね』
 これもプレゼントのうちと、レイはその一部始終をビデオに収める。
 それが終わったら、プレゼントの買い物だ。
「此れで父者や母者への贈り物を買うのじゃぞ。何が良いか、自分で考えてのう」
 クーは秘色に手を引かれ、双子は‥‥
「えぇーっ、いっしょじゃだめなのぉ!?」
 悲痛な声で同時に叫ぶ陸と海。
『お母さん、2つもプレゼントもらえるときっと嬉しいよね』
「でもぉ‥‥」
 今まで何をするのも一緒だった。離れた事なんて一度もない。
「それぞれで考えると、お母様も喜ばれると思いますよ? 大丈夫ですわ、私達も一緒ですから」
 沙紅良が陸の手を取る。そしてレイは海の手を。
 いつもはやたらと手のかかるこの双子怪獣、引き離された途端に青菜に塩。それはそれは大人しく聞き分けの良い子に大変身したのでありました。
『それは、お母さん喜んでくれるかな?』
 変な物を選びそうになる度に教育的指導を受けつつも、やっぱり双子。選んだプレゼントは全く同じ‥‥ただし色違いの、奇麗な花柄のハンカチだった。

 そしてクーは‥‥デパートに設けられた父の日の特設会場を、うろうろ。
「いぬ‥‥ないね‥‥」
 ネクタイなら足跡柄の物があるのだが、タイ姿のセオドアなど見た事がない。ここはやはりネクタイに次ぐ定番、ハンカチだろう。
「んー‥‥」
 クーも、本物でなければ犬も平気らしい。まして可愛い絵柄なら。
 秘色はビデオカメラを回しながら、初めての買い物に悩みまくるクーに助け舟を出した。
「他の売り場も、見てみるかのう」
 多分、婦人用や子供用の売り場で見付かるんじゃないかな‥‥。

 終夜はその様子を別の角度から撮りまくっていた。瞬天速に先手必勝、GooDLuckを惜しげもなく使い、完璧隠密を実行しつつ手持ちの情報端末に記録していく。
 付き添いの仲間がカメラを回していない時も、こっそりと。これもまた、良いサプライズになるだろう。


 そして昼前に家に戻った彼等は、昼食をとり、昼寝をし‥‥
 と、玄関のチャイムが鳴った。
「陸さん、海さん。出て貰えますか?」
 他の仲間と視線を合わせて頷くと、レイドが二人の背中を押す。
 ドアを開けた二人の前に立っていたのは、双子の母、アネット。
「たっだいまぁーっ!」
 覚醒なう。アネットは両の腕で双子を思い切り抱き締めた。
「お‥‥かぁ、さ‥‥」
 後はもう、言葉にならなかった。プレゼントを渡すどころの騒ぎでもない。
「これは、後で届けてあげましょうか」
 三人が去った後、レイドは残されたプレゼントと似顔絵をそっと袋に入れ、玄関脇のフックにかけた。

 さて、これで心置きなく父の日のお祝いが出来るというもの。
 セオドアの驚き喜び、ついでに号泣する様子を思い浮かべながら、残りのセッティングを終え――


 その夜、クラッカーや紙吹雪の出迎えを受けたセオドアは‥‥可愛い子犬柄のハンカチと大きな似顔絵を手に、呆然と立ち尽くしていた。
「おとぉさん、ありがとう。だいすき!」
 わかっていた。わかってはいたけれど‥‥もうだめ。
「ぅ、く‥‥っ」
 滂沱の涙が頬を伝う。
「うわあぁん、くぅありがとぉー、みんなも、ありが‥‥っ」
 だばぁー。
 その様子をにまにまと見届けると、傭兵達はこっそりとその場を辞した。
「ごゆっくり‥‥」
 お礼のちゅーは、また今度‥‥かな。