タイトル:【RAL】突入・GATE2マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/28 01:14

●オープニング本文


 ※このシナリオは【Roller for African Liberty】アフリカ北西部解放連動の一環となっています

 ラバト周囲の都市や地域の制圧を試みる最中――。
 欧州軍は応戦するバグア軍内での情報の中に、驚くべき内容が含まれていることを把握していた。

 制圧目標であるラバトの司令部に現在、『ピエトロ・バリウス』が滞在している――。

 その話は、当然ながら今作戦を主導する二人――ウルシ・サンズ少将とブライアン・ミツルギ准将の耳にも入っていた。
「そのうち会うじゃろうとは思っておったが、まさかこんなところで大物が釣れるとはのう」
 その二人の通信上において、ミツルギは言う。
「流石にこのままじゃ拙いと思ったんだろ」
 ふん、とサンズは鼻を鳴らし――それから、口端を歪め笑みを見せる。
 普段の表情が硬いことに加え、醸し出す雰囲気もあり――その笑みには獰猛な力強さが漂っていた。
「――まァ、丁度いい機会だ。
 予定通りぶっ潰しつつ、大将の面拝みに行こうじゃねェか」


 ―――――


「ピエトロ・バリウス‥‥ねぇ」
 周囲のビル陰に身を隠し、敵の司令部があるとされたその建物を前にアネット・阪崎(gz0423)はぽつりと呟いた。
 ――ピエトロ・バリウス、元UPC欧州軍中将。昨年の北アフリカ進攻作戦で命を落とし、その体は現在ヨリシロとしてバグアに利用されている――
 アネットは彼と顔を合わせた事がない。彼に関して知っている事と言えば、その程度のごく一般的な事柄のみだった。
 だから‥‥目の前にあるこの建物のどこかに彼が居るかもしれないとの情報を得ても、特にこれといった感慨もない。
「器が何だろうと、中身はバグアの虫どもだ。見付けたら遠慮なくぶっ殺してやろうじゃないの」
 指の関節をバキバキ鳴らしながら不敵に微笑む。しかし、油断は禁物だった。
「奴等は今んとこ、人間をナメてかかってる。ナメてるうちは、こっちにも付け入る隙があるってもんだけど‥‥」
 あの、フェズで待ち構えていたバグアの様に。だが、生前のバリウスは人類がバグアにとって脅威となり得る事を知っていた筈だ。おまけに、こちらの事情にも通じている。だからこそ‥‥
「あのオッチャンは、ちょっとヤバいかも」
 彼の記憶や人格をトレースしたバグアが人類を脅威と認識し、本気を出して来るなら。
「ま、あたしらが出くわす事になるとは限らないし‥‥情報そのものがガセって事もあるしね」
 それに‥‥自分が探しているのは。
「‥‥っと」
 ぶるん。軽く頭を振り、アネットは私情を振り払った。今は目の前の任務に集中しなければ。
 その建物は、ごく普通の四角いビル。ただし、窓や外壁は光を通さない素材で出来ているのか、中の様子を窺う事は出来ない。そして何故か、建物の周囲にはドーナツ型の太いパイプが巡らされ、そのパイプとビル本体とを繋ぐチューブが何本か、放射状に伸びていた。
 その太さから見て、パイプやチューブは通路として使われているのだろう。実際、そのパイプの外側に開いた出入り口から侵入が可能と、先日この建物を調査した斥候の報告書に書かれていた。
 いくつかある出入り口のそれぞれが内部の別の場所に通じている様だが、どの入口が何処に通じているのかはわからない。ビル本体の内部構造も不明だった。
「ま、とにかく飛び込んでみるしかないね」
 戦場と化した市街地での護衛を引き受けてくれた部隊と分かれ、その援護のもとアネットと傭兵達は建物の入口へと走る。
「邪魔するヤツは遠慮なく叩き潰す。目に付いたモンは何でもブッ壊す」
 バリウスが居ても居なくても。
 徹底的に破壊し、司令部としての機能を奪うのがこの作戦の一番の目的だ。
「行くよ!」
 もし出会う事があれば‥‥土産のひとつでも、くれてやろうか。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
リズレット・B・九道(gc4816
16歳・♀・JG
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
住吉(gc6879
15歳・♀・ER
七神 蒼也(gc6972
20歳・♂・CA

●リプレイ本文

 司令部を取り巻くドーナツに作られた、三つの扉。
 その一つが爆音と共に吹き飛ばされる。
 熱と煙が残る扉の残骸を踏み越えて姿を現したのは――およそ場違いな服装をした男だった。
 黒ずくめの正装に身を固めた、ダンディズムが服を着ている様なその男UNKNOWN(ga4276)は、紫煙をくゆらせながらゆっくりと歩を進める。その肩には、どっしりと重そうなエネルギーキャノンが据えられていた。


 その少し前。
 内部に通じるそれをぶち破る前に、物陰に隠れた傭兵達はUNKNOWNを中心に額を寄せ合った。
「まずは戦い方の確認を、だね」
 連射の高さは165cmかそれ以上。それ以下を戦場とすれば空間を操作できる。前を行く者は要注意だ。
「頭に当たったら大変な事になるからね‥‥」
 常に撃てる形とするから、上背のある七神 蒼也(gc6972)は横でサポートをして貰うのが良いだろう。
「あいよ。味方に頭を吹っ飛ばされちゃ、かなわないからな」
 蒼也は僅かに肩を竦めて頷いた。もとより仲間を守るのが自分の仕事だ。その中に怪我人がいるとなれば、尚更。
「月城は私を盾に後方注意を頼むよ」
 返事の代わりに、月城 紗夜(gb6417)はUNKNOWNの懐を探り、煙草をくすねようとする。
 が、サラリとかわされた。
「まあ、厚意には甘えておこう」
 礼と言っては何だが、ライターの火くらいなら貸す。後は練成強化か‥‥これ以上の強化は必要ない気もするが。
「ショバ代だと思ってくれ」
 使うルートは主に階段、目的は施設内の機材・部隊の攻撃と破壊。
「ふむ、施設は全部壊しても良いと‥‥ならば全力全壊でレッツゴーですね♪」
 住吉(gc6879)が呟いた。全壊は誤字にあらず。
「全滅させろ‥‥等と無茶を言われないだけマシ、かな」
 キア・ブロッサム(gb1240)は戦いは最低限に留めたいと考えていた。それだけに、好戦的な仲間には本筋を違えないようにして貰いたいものだが‥‥
「破壊だっけ殲滅戦だっけ?」
 いつもの様に興奮剤を打ち込み殺る気満々の湊 獅子鷹(gc0233)が、子供が見たら泣いて逃げ出しそうな笑みを浮かべる。
「まあ‥‥なんだ? アレか? こういう時はシンプルな方がいいんだよな? っつーわけで皆殺しと行きますか」
「司令部‥‥潰してやろうじゃないか」
 指の関節を鳴らしながら、ぽつりと呟いたのは追儺(gc5241)だ。
「前に立つなら叩き潰す、それが俺のやり方だ。たとえ誰が敵であろうとな‥‥」
 彼等の勢いは、誰にも止められない。
「厳しい戦いになりそうだが‥‥負けるわけには行かないな」
 蒼也は腰の刀を確かめると、予備の一本をアネットに差し出した。
「使うなら貸すぜ? いらなきゃ、その辺に置いてくけど」
 赤いオーラを纏い、振るうたびに火の粉のような光が舞うと言われる刀、烈火。
「いるいる! 貸してっ!」
「‥‥って、あぶねっ! こんなトコで振り回すなよ!」
「ぁ、ごめーん」
 なんて、漫才やってる場合じゃない。
「レッツゴーピクニックタイム」
 楽しくて仕方がない様な弾む足取りで、獅子鷹が飛び出す。仲間達がそれに続いた。


「さて‥‥鬼が出るか蛇が出るか‥‥、‥‥あら‥‥不吉なモノしかないですね‥‥」
 くすくす。リズレット・ベイヤール(gc4816)の押し殺した笑い声が通路に響く。
 この連絡通路に敵の姿はない。しかし、あれだけ派手に入口を爆破すれば嫌でも侵入には気付くだろう。この先にある建物本体では、迎撃態勢が整えられている筈だ。
「これも‥‥気休め、かな」
 敵の配備を遅らせる為に監視カメラ等は積極的に破壊しているが、戦闘行為自体は隠し様がない。
 しかし、UNKNOWNはそんなキアに余裕の微笑みを向けつつ、肩付けにした対戦車ライフルの如き銃で目についたものを片っ端から撃ち抜いていった。警報器に監視装置、何だか判らない機械、その他諸々。
「まあ、何とかなるだろう。慌てずに侮らずに確実に、だ。過度に恐れても同じ事、だよ」
 そこに現れた、頑丈そうな鋼鉄の扉。
「合図を」
 厳重にロックされたその前に立ち、キャノンを構える。
 仲間の準備が整うのを待って、その向こうにあるモノを扉ごと掃射した。何があるかは気にしない。
 吹き飛ばされた扉の向こうには、同じ様な通路が続いていた。そこには見るからに弱そうな所謂ヤラレ役の戦闘員が詰まっていた。
 掃射だけで終わってしまいそうな勢いの中、獅子鷹は姿勢を低く保ちつつ、大剣を槍のように突き出してその群れに突っ込んで行った。通路にはそれを思い切り振り回せる程の余裕はないが、どうせ建物の破壊も仕事のうちだ。
「ヒャハハ! そのままブッちぎれろや糞ども!」
 壁を切り裂き、そこに仕込まれたパイプや配線を引きちぎりながら敵を打ち倒して進む。
 少し慎重に構えていた追儺が飛び込んだ頃には、全てが終わっていた。施設の破壊を優先し、戦闘の損耗を最小限にするように留意‥‥なんて真っ当に行動していたら、出番がなくなりそうだ。

 そして死体の転がる通路の先に、またしても扉。今度のものは、先程よりも作りが脆そうだった。それに、鍵もかかっていないが‥‥基本的な戦法は変わらない。扉ごと吹っ飛ばしつつ、中のキメラも――
 しかしその部屋に、165cmを超える敵はいなかった。ただの四角い箱の様な、白く殺風景な部屋。入口と反対の壁に同じ様な扉がひとつあるだけで、窓はない。家具もない。
 その床にひしめくのは、巨大な鼠キメラの群れだった。だが所詮はただデカいだけの鼠。
「‥‥ふふ‥‥這い蹲りなさい‥‥? ‥‥そこで永遠に‥‥」
 くすくす。
「ほら、全力全壊なんとやら〜。さっさと尻尾巻いて逃げないと巻き込まれますよ〜♪」
 リズレットの制圧射撃に呼応した住吉は、味方を巻き込まない位置に立ち天狗ノ団扇で旋風を巻き起こす。
「ほ〜らほ〜ら♪」
 その尻尾は長過ぎて、巻いて逃げる事も出来ない様だ。
 風に煽られて舞い上がった鼠を、後方からキアが狙い撃ち。狙撃だけで倒せるなら、前衛の体力温存の為にもその方が良い。

 鼠を駆除し、次の部屋へ。ここでもまた、中身を扉ごと破壊すべくキャノンが火を噴いた。
 しかし、その瞬間。
 ――ドォン!
 爆音と共に扉や壁が弾け飛び、無数の破片が傭兵達に襲いかかった。
 それを追って、部屋の中から飛び出して来る巨大な蝙蝠。それ自体は脅威ではないが、爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされた傭兵達が体勢を立て直すには少々の時間が必要だった。
 UNKNOWNと彼を盾にしていた紗夜は無傷、他の仲間も戦いに支障が出る程の怪我はしていないが‥‥
「不意打ちには注意、ですね〜」
 住吉が軽く咳をしながら言った。これを不意打ちと呼ぶかどうかはわからない、けれど。
「次からは、ちゃんと中身を確かめてからにしような」
 紗夜の言葉に、UNKNOWNは吹き飛ばされない様に死守していた帽子の鍔を下げる。おかげで、その表情を読み取る事は出来なかった。

 次の扉からは、もう少し慎重に。
 まずは扉の陰などに身を隠した後衛が奇襲を妨害すべく室内に狙いを定める中、前衛が扉を開ける。何事もなければ後衛が銃撃を叩き込み、その後に前衛が突入する。制圧射撃と先手必勝を併用すれば、数で劣る分を補えるだろうか。探査の眼を使った仲間が罠や待ち伏せを見付ければ、その対処を。
「狭い室内‥‥同士討ちにも注意、ですね」
 キアが注意を促す。混戦状態になる事はなるべく避け、時間差で攻撃を仕掛けるのが望ましいだろうか。

 そうして、同じ様な部屋を制圧する事、数度。
 今度は出口が二つある部屋に出た。そこに敵はいないが‥‥さて、どちらを選べば良いのか。
 紗夜のマッピングによれば、片方の自動ドアは建物の入口付近に通じている様だ。もう片方は他と同じ作りで、更に奥へと続いていそうな間取りだった。
 戦闘で余り動けない分これくらいはと、紗夜が自動ドアの開ボタンを押し‥‥すぐさま、全力で閉ボタンを叩いた。
「ところで湊、内部まで制圧後の、強化人間フルボッコはどうするんだ?」
 くるりと振り向いて、獅子鷹に問う。
 急げば何とかなるんじゃないかとか、別に戦闘狂と言う訳ではないが負傷じゃ無かったら我も行ってたとか‥‥いや、そうじゃなくて。
「そこに居るんだが」
 しかも、やたら強そうなオーラを持ったのが二人。エレベーターの前に。
 しかし強敵は出来るだけスルーというのが大勢の意見だった。そちらは余力があれば。それに、放っといても追いかけて来そうだし。

 かくして一行は別の扉から階段へ。
 狭い階段ホールには幸い敵の姿もない。そこで暫しの休憩を取ると、再び上へ。
 紗夜は崩れはしないだろうかと一段ずつ足をかけてから踏み場を確認して上がるが、そんなトラップはなさそうだった。

 その後も似た様な構造の部屋を通り抜けながら、二階から三階へ。
 そこは明らかに、これまでとは違う作りだった。通路の突き当たりに見える、上半分がガラス張りになった扉。その向こうにはいかにも司令部らしく、様々な機械やモニタ類が並んでいる。
「‥‥近い‥‥様ですね」
 くすくす。リズレットが楽しそうに喉を鳴らす。
 姿勢を低くし、そろそろと扉に近付く傭兵達。その先頭を進む追儺は、先頭と殿を交代しつつ戦闘頻度を下げる機会を取ったらどうかと体力の節約を進言したキアに首を振り、扉に貼り付いた。
「背中は任せた。俺は前に突き進むんでな」
 そう言われては、キアも頷くしかない。
 ここまで来ると、敵もキメラとは言えかなり手強くなっていた。だが、所詮はキメラだ。
「‥‥さて‥‥私は設備の破壊を‥‥いえ‥‥面倒ですからキメラと同時に片付けてしまいましょうか‥‥」
 くすくす。リズレットは標的が射線上で一直線になるように位置を変え、引き金を引く。悲鳴の様な銃声が狭い室内に響いた。キメラに当たれば良し、避けられても設備は破壊出来る。
 その援護を受けた追儺は一気に接近し、敵が対応する暇を与えずに攻め続けた。その目の前には、面白い様に敵が集まって来る。設備破壊と共に、銃撃で進路を妨害するリズレットに誘導されたのだ。
「‥‥私と一緒に踊ってくださる‥‥? ‥‥リードは得意なのですよ‥‥」
 くすくす。
 と、その背後からもキメラの一団が現れた。
 咄嗟に振り返ったUNKNOWNは紗夜をコートの下に庇い、キャノンを連射。その銃撃をかいくぐって迫る相手の前にはボディガードを使った蒼也が立ちはだかる。
 守りを堅め、反転攻勢。
「いらねーならそいつも俺がいたたくぜ」
 後ろに下がった獅子鷹が援護に入り、相手の攻撃を大剣の腹で捌き、そのまま大きく振り回す。
 住吉は入口から次々と現れる新手の敵を目掛けて団扇を振るい、接近の阻止と同時に近くにある設備を滅茶苦茶に壊して行った。
 そろそろ背後からも増援が来る頃だと思い、殿を厚くしていたキアの読みが当たった形だが‥‥その全ての相手をしている暇はない。
「長居は無用‥‥動ける方から‥‥道作って頂きますから、ね」
 キアは前方に向けて照明銃を撃ち、その発光を囮に強行突破を図った。
 大剣で敵を薙ぎ払いながら道を作る獅子鷹に、仲間達が続く。
「多少なりとも目くらまし効果はある様ですね」
 それならと、住吉も照明銃を撃ち込む。ただし、後ろから追いすがるキメラの足止めを狙い後方へ向けて。
 その隙に部屋を抜け、奥のエレベーターに飛び込む。この階と上の階、そこだけを繋ぐ物の様で、ボタンを押すと勝手に上昇、扉が開いた。


 そこはまるで、大企業の社長室の様だった。
 毛足の長い絨毯が敷かれ、部屋の四隅には手入れの行き届いた観葉植物が置かれている。四方を囲む壁にも、価値の程はわからないが、様々な絵が飾られていた。
 その奥にある重厚な椅子から、ゆらりと立ち上がったのは‥‥

 その顔は、何処かで見た事がある気がする。

 しかし傭兵達の関心は、その前に立ちはだかった三人の強化人間のみに向けられていた。
「おー‥‥ゾンビもどきのお出ましか」
 尋常ではない憎悪と殺意をむき出しにした獅子鷹が一歩、前へ出る。その隣には、追儺。
 住吉の練成強化を受けると、視線のやり取りで標的を定めた二人は同時に飛び出した。
 右が獅子鷹、左は追儺。残る中央は仲間に足止めを任せ、左右に散る。

 獅子鷹は相手の攻撃を受け流しつつ、足や腹などを狙って攻撃、相手の隙を探す。隙がなければ、出来るまで粘る。粘って、粘って‥‥自身障壁で耐えた攻撃の後に、チャンスを掴んだ。
「いくぜ、行くぜ、イクぜ、逝くぜ‥‥! 死ねやオラアアアアア!」
 流し切りからの斬り下ろし、刃を返して胴を横薙ぎに。そのまま密着して傷口に大剣の柄を叩き付け、抉る。
「まあーシンプルにな‥‥死ね」

「負けてなどやらんさ。俺は勝ちにきたんでね」
 追儺は慎重に近付き、ヒットアンドアウェイでつかず離れずの位置をキープしながら細かなダメージを重ねて行く。壁を蹴り、時には天井まで駆け上がり、空間を縦横無尽に移動しながら相手の予想もしない位置に移動し、不意打ち。同時に的を絞らせない事で攻撃を防ぐ。
 だが、自分一人で倒す事には拘らなかった。自分に注意を向けさせる事で射撃の機を作る。
 それに応え、住吉とキアが交互に雷鳴の如き銃声を響かせた。
「‥‥あら、残念でしたね‥‥」
 くすくす。
 一人あぶれた強化人間が仲間の援護に回ろうとする所を、リズレットが止める。標的を変え、向かって来る所に跳弾。
「‥‥魔弾の射手‥‥というのをご存知でしょうか‥‥? ‥‥いえ‥‥ただの独り言ですよ‥‥」
 くすくす。
「そう簡単には抜かせないぜ!」
 それでも執拗に後衛を狙う相手に、蒼也は弾き落としからの反撃に出た。
「全員で生きて帰還しなきゃ意味が無いからな」
 怪我をしている紗夜には指一本触れさせない。
「しかし暇だぞ?」
 文句を言われても気にしない。
 特殊技能を使われたら、UNKNOWNが虚実空間で速攻キャンセル。

 いつの間にか見覚えのある男の姿は消えていたが‥‥気にする者は誰もいなかった。


「満足満足っと」
 下の階に戻り、思い存分破壊活動を満喫した獅子鷹は、紗夜が持参したドリンクと非常食で一服。
「‥‥機械はサッパリ分からん」
 その紗夜は、電力の供給を止めてしまおうと発電機や電力系統のケーブルなどを探してみるが‥‥何が何やら。
 目ぼしい資料を漁ろうにも、パソコンに近づいたらブルースクリーンになる機械音痴。
 結論。全部ぶち壊す。
 壊しすぎて出られなくなったら、窓から。窓がなければ作れば良い。
「さて、これで一段落ついたんなら連れて帰って双子に会わせてやらないとな」
 一応警戒は解かずに破壊活動を続けながら、蒼也がアネットに話しかける。
「内心、会いたくて仕方ないんだろ?」
 勿論、デコピンを喰らったのは言うまでもない。