タイトル:モギコン!マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2011/06/04 15:46

●オープニング本文


 LHの一角に、昨年オープンしたばかりの結婚式場があった。
 規模は小さいが、家庭的な雰囲気と手作り感溢れるおもてなしが自慢のこのホテル‥‥じゃなかった、結婚式場。一度利用した人にはすこぶる評判が良く、利用者アンケートでも「また利用したい」との答えが9割を占める高いリピート率を誇っていた。
 しかし、ここはホテルではなく、結婚式場。結婚式なんて、そう何度もリピートするもんじゃない‥‥というか、リピートは出来れば遠慮したい。
 そんな訳で、ジューンブライドの季節を間近に控えた今の時期にも、予約リストは殆ど真っ白。結婚式場は経営破綻の危機に陥っていた。

「‥‥一度利用さえしてくれれば、ウチの良さがわかって貰えるんだけどねぇ」
 はふぅーーーーー。
 真っ白な予約リストを前に、特大の溜息をつくオーナー。45歳、独身、女性。結婚式場を経営しているくせに、自身はこれまで結婚のケの字とも縁がなかった‥‥と、それは置いといて。
 客を増やすには宣伝が必要だ。
 しかし、これまでにも宣伝はしている。これでもかという程している。しているのだけれど。
 規模の小ささ故か、普通の宣伝ではどうしても大手に比べて見劣りがしてしまうのだ。
「確かにウチは、豪華なシャンデリアもゴンドラもライトアップも花火もスモークもないさ。けどね‥‥」
 そんな見た目の派手さ豪華さよりも、大切なものがある。
 いや、派手に行きたいなら、それに応える事だって出来る。
「なんたってウチは、痒い所に手が届く行き届いたきめ細かなサービスが自慢なんだからね!」
 そりゃ、ゴンドラとか長〜い階段とか、設備投資が必要なものは無理だけど。

 さて、どうすれば宣伝効果の高い、良い広告が打てるだろうか。
「‥‥模擬、結婚式‥‥」
 ひらめいた!
 宣伝用の模擬結婚式を開けば良いんじゃない?
 ウチの自慢の素敵な結婚式を、誰でも見られるようにすれば。
 きっと、ウチの良さをわかって貰える。
 でも、大事な本番を他人に見られるのも嫌だろうから‥‥宣伝用の特別バージョンで。
 特別と言っても、中身は普通のそれと全く変わりないけれど。
「でも‥‥そうねえ。この際だから‥‥」
 あんなのも、こんなのも‥‥OKにしてしまおうか。


 そんな訳で、宣伝用の模擬結婚式を挙げてくれるカップル募集!
 同性でも小さな子同士でも、おじいちゃんやおばあちゃんでも良いわよ!
 ただし、お互いの了解はちゃんと取ってね!
 トラブルなんか持ち込んじゃイヤよ!

 あと、裏方さんも欲しいな!

●参加者一覧

秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
旭(ga6764
26歳・♂・AA
葛城・観琴(ga8227
24歳・♀・DF
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP
アルフェル(gc6791
16歳・♀・HA

●リプレイ本文

●午前の部
 秋月 祐介(ga6378)は、当日の朝も結婚式場の事務室に陣取り、オーナーを相手に宣伝計画を練っていた。
「要は、顧客対象者となる層に対象を絞り、それに対し如何に効率的な告知ができるか‥‥理想は口コミでの情報拡散ですが‥‥」
 今日の模擬結婚式に関する宣伝は昨日までに終わらせていた。後はそれを如何に今後の集客に結びつけるか、だ。式場パンフと宣伝チラシ、それにHPの編集‥‥祐介は電子魔術師を使い、モニタの中に脳内イメージ通りの物を作成して行く。空白に入るべき写真は、スタッフが撮影する事になっていた。
「司会は友人でも可能‥‥その場合の、司会進行のマニュアルなどは?」
 アットホームを売りにするなら、サポート体制が万全である事も明記した方が良いだろう。
 祐介は無心でキーボードを叩き続ける。
「‥‥あら、あなた‥‥午前の組じゃなかった?」
 言われて、はっと気が付いた。
 控え室に飛び込んだ祐介の目に映ったものは――
「ほ、ひょんじつはおひがらもよきゅっ‥‥す、すみません」
 既に着替えを終えた花嫁、葛城・観琴(ga8227)の姿だった。
「‥‥観琴‥‥奇麗だ」
 思わず、強く抱き締めた。
「‥‥祐介、さん‥‥」
「僕の掌からは、どうしても掴みたいモノだけが零れ落ちていっていた‥‥でも、それでも‥‥この手だけは離したくないから‥‥」
 どうしても掴みたいモノだけが零れ落ちていった、過去。それ故に、総てを無価値と断じていた。それなのに、自分は今、こうして‥‥大切なものを両腕に抱き締めている。
 求めていたものを遂に手に入れたという幸福感と、もしそれが消えたらという恐怖。背中合わせの感情が心の中で渦を巻き、抱き締める手に力が入る。
 その時、控え室のドアを静かに叩く音がした。
「‥‥っ」
 慌てて離れた祐介がドアを開けると、そこに立っていたのは祐介の友人である百地・悠季。
「思い返せば、丁度二年前は挙げる側だったのよね」
 緊張した面持ちの二人を見て、悠季はふわりと微笑む。彼女には今日の司会進行を頼んであった。
「大丈夫、任せておいて。この辺は人生の先輩だしね」

 小さな結婚式場に生演奏の結婚行進曲が流れる中、最初のモギコンカップルが入場‥‥あれ、入って来ない?
「どうした?」
 かちかちに固まった花嫁のヴェールに隠された横顔を、花婿が覗き込んだ。
「‥‥ぇ‥‥あの‥‥」
 憬れつつも半分以上諦めていた結婚式。模擬とは言え観琴の緊張は半端ではなかった。深呼吸を繰り返したり、手のひらに人と書いて飲み込んだり、緊張をほぐすと言われている事を一通り試してみたが、効果はさっぱり。だが‥‥
「大丈夫だよ‥‥僕が、一緒だ。ずっと‥‥一緒だから」
 祐介が耳元で囁く。それだけで、頑固な緊張が嘘の様に解けていった。
 頬を赤く染め、夢見心地で‥‥しかし、足取りはしっかりと、ヴァージンロードを歩く。ドレスはハイウェストのマーメイドライン。隣を歩く祐介は縦縞のコールパンツにグレーのベストを合わせ、ウィングカラーの白いドレスシャツにシルバーグレーのネクタイ。黒のモーニングコートの胸元からは白い絹のポケットチーフが顔を覗かせていた。
 祭壇まで進み、二人は立ち止まる。
 ほんの真似事だが、誓いの言葉を述べ、指輪の交換、そして――誓いのキス。
「愛してる‥‥他は真似事でも、これだけは本物だ」
「不束者ですが、よろしくお願いいたします‥‥」
 それはもう幸せ一杯で、この場で三つ指着きそうな勢いの新婦さん。止めなければこのままハネムーンに直行しそうだが‥‥いや、まだ仕事残ってるから。って言うかこれ仕事だから一応。


●昼の部
「薙さんの誕生日でもあり、ボク達が初めて学園で出会った日でもある5月を最高の記念日にしたかったんですー」
「なるほどねぇ、粋な計らいじゃないの」
 きっと喜んでくれると太鼓判を押すオーナーに、功刀 元(gc2818)は嬉しそうに‥‥でも少し不安そうに、小さく笑みを漏らした。このサプライズ、彼女は喜んでくれるだろうか。

「えーと、元君から指定された場所‥‥ここで良いのかな?」
 手にしたメモと、目の前にある建物の看板とを見比べて、御剣 薙(gc2904)は確かに間違いないと頷いた。
「ここって確か去年オープンした結婚式場だよね‥‥誕生日パーティでも使えるなんて知らなかったな」
 恋人の元が誕生日パーティを開いてくれるというので、いそいそと出向いてきた薙。彼氏の企みには全く気付いていない。
「ちょっと照れちゃうけど、嬉しいな」
 足取りも軽く、細かな装飾の付いた両開きのドアを開ける。出迎えた式場のスタッフに案内されるままに向かった控え室では――
「‥‥これ‥‥!」
 その目に真っ先に飛び込んで来たのは、純白のウェディングドレスだった。スカート部分にたっぷりフリルをあしらったプリンセスラインで、同色の肘まであるロンググローブが揃えてある。装飾の少ないシンプルなヴェールの左側には薄い水色のコサージュが添えられ、靴は白のミュール‥‥
 初めて見るのに、そんな気がしない。それもその筈だ。
「前に、ボクがいいなぁって言ってたのと同じデザイン‥‥そっか、覚えててくれたんだ‥‥」
 背後にそっと立った元を振り返り、頬を赤らめる。
 元の服装はクラシカルな二つボタンのモーニングコートに、同じくオフホワイトのスラックス。ベストは着けずにシルバーグレーのサスペンダーで吊っているのがちらりと見える。そして首元にはサスペンダーと同系色のアスコットタイ。それはまるで、結婚式に臨む新郎の様で――
 その意図を理解し、まずます頬が赤くなる。嬉しくて、照れくさくて‥‥嬉しすぎて、飛びついて揉みくちゃにしてしまいそうだ。

 そしてモギコン本番。式の流れや演出は、宣伝に利用し易い様にプロにお任せしてある。そこは現役高校生らしく、ちょっと可愛く、爽やかに。キスは頬に軽く‥‥
「まだ学生だから難しいけど、卒業したら模擬じゃない本当の結婚式を挙げましょう。これからも宜しくお願いしますね」
 厳かに式を終えて客達の待つ前庭に出た時、花びらのシャワーを浴びながら、元が耳元で囁いた。そして、そっと手を取ると、五月の誕生石であるエメラルドの指輪をその指に嵌める。
「誕生日、おめでとう」
 結婚指輪ではないけれど‥‥それはまた、いずれ。
「もう‥‥驚き過ぎて嬉し過ぎて胸が一杯だよ‥‥元君、大好き!」
 ぎゅうっ!
 少し涙ぐみながら、薙は元の首に抱き付き――どちらからともなく唇が吸い寄せられる。
「‥‥おめでとう、そして、おめでとう」
 ゆっくりと拍手をしながら、元の友人代表、巳沢涼が二人をひやかし‥‥いや、心からの祝福を捧げた。
「よう御両人、結婚式には呼んでくれよ」
 勿論、本番の事だ。
「巳沢さんも例の人と頑張って下さいね♪」
「そうだな、俺も結婚式はここを使おうか‥‥まぁ、そこまで進展しちゃいないがな!」
 元の言葉に、涼は照れくさそうに笑った。
 そして、花嫁の手からブーケがふわりと舞う――


●夕方の部
「そのブーケは美具のものじゃ〜!」
 身長が足りない分は一緒に式を見ていた恋人の旭(ga6764)に抱きかかえて貰う事でカバーし、美具・ザム・ツバイ(gc0857)は投げられたブーケをしっかりと捕まえる。
「実は美具は結婚可能年齢に達しておるのじゃ」
 こう見えても。
「本当はいつでも結婚できるのじゃ。なんなら模擬とは言わずに今からでも‥‥」
 こうしてブーケも受け取った事だし、と期待の眼差しを旭に向けてみる。しかし相手はニコニコと微笑むばかりで‥‥どうも本気にしていない様な。
 いや、本当はまんざらでもないのだ。ただ、気持ちが座っていないだけで‥‥ね。
 しかし、顔にも口にも出さない旭の心中など、美具にわかる筈もなかった。ならば奥の手、過激なジョークを飛ばして迫るしか!
「実は出来ちゃったの」
 美具は見事に突き出た腹部を見せ、衝撃の事実を突き付ける!
 だがしかし‥‥
「枕、はみ出てるよ」
 くすくす。慌てず騒がず驚かず。
「さ、そろそろ着替えないと‥‥」
「わかっておるのじゃ」
 ぷいっ。
 これが本番という訳には行かない事くらい、わかっている。結局のところこれは仕事で、結婚式も真似事だ。しかし、それでも‥‥気分だけでも本気なままで行きたい複雑な乙女心。
 そんな気持ちをあっさりスルーしまくる鈍感な彼氏に背を向けて、美具は控え室へ。
「なんとー、夢にまで見たこのデザインのウェディングドレスにサイズがある!?」
 そのミニマムさには定評がある美具さん、ドレスも靴も規格外だった。
 しかし、そこは流石にサービス自慢の式場。あっという間に仕立て直し、まるであつらえた様なぴったりのドレスが出来上がる。
 美具さん、大満足。そして、いやが上にも高まる本番への期待。
「驚いたな」
 控え室から現れた美具を見て、黒のテールコートに黒のスラックス、ベストはモノトーンのピンストライプという定番スタイルの旭が目を見張る。
「‥‥うん、とてもよく似合ってるよ」
「旭殿も中々似合っているではないか。さすがは馬子にも衣装‥‥」
 褒め言葉です。多分。
「では参りましょうか、僕のお姫様。みんなが待ってる」
 しかし美具さん、いつもとは何だか様子が違う。本番には強い筈なのに、どうも勝手が違うのは何故だろう。
「まぁ、仕事とはいえ模擬なんだから気楽に行こう」
 にっこり笑って手を差し出す旭。多分、気の利いた言葉をかけたつもりだったのだ、本人は。しかし‥‥
「気を抜くでない、仕事と言えば戦場と同義。模擬等と油断していると足元すくわれるのじゃ」
 つーんと横を向いて、美具は一人でずんずん歩き出す。
 しかし‥‥ずんずん歩いて先を行ったつもりが、いつの間にか追いかけているのは何故だろう。
「‥‥っ(おい待て、待つのじゃ〜)」
 旭も歩幅には気を遣い、なるべくゆっくりと歩いてはいるのだが‥‥それでもストロークの差は歴然。必死に速歩をしないと追いつけないが、幸い足下はドレスに隠れて見えなかった。すました顔で祭壇の前へ。
「貴女はツンデレ時もヤンデレ時も変わらぬ愛を誓いますか―?」
 牧師役は美空・桃2、美具の姉妹の一人だ。
 そして身長差カップルは跪いて指輪を交換し‥‥誓いのキスはお姫様抱っこで。そのまま式場の外へ出ると、夕日をバックに記念写真を撮って貰った。
「○チーズであります」
 で、式の前には『模擬で良かったと言うべきか』なんて考えていた旭だが。
「これ、何処へ行くのじゃ!?」
 お持ち帰りは‥‥しても良いけど、まだ仕事の途中だから、ね?


●夜の部
「折角だから、時期相応のものを使って凝りたい所かな」
 前の日の夜、式場の庭のちょっとした改造を終えた鹿島 行幹(gc4977)は、星空を見上げながら考えを巡らせていた。こんな世の中だからこそ、こういうイベントを大切にしないと‥‥
「そういえば、みずがめ座流星群って‥‥まだ活動時期だったっすよね。流星が降るか降らないかで、ちょっとした賭けを加えるのはどうっすか?」
 オーナーにそっと耳打ちしてみる。
「もしも降ったら、その式中にブーケを受け取った人の結婚式が割安になる、とか」
 何という浪漫溢れる企画だろうと、オーナーがしきりに感激する中‥‥アルフェル(gc6791)が行幹の袖を軽く引いた。
「蛍とか、捕まえて‥‥来れませんか?」
「そうか、確かに今が時期だからな。凄く良いと思うよ」
 少し暖かい地域なら、もうそろそろ見られる筈だ。ただ‥‥このLHに蛍が生息する様な場所があったかどうか。
「うーん、急には無理かもねぇ」
 オーナーが言った。
「でもアイデアは良いね。それ、使わせて貰うよ」

 そして当日。
「んー‥‥アルフェルには、これが似合うんじゃないかな?」
「これ‥‥ですか?」
 花嫁の為に行幹が選んだのは、ネックラインがワンショルダーになっている身体の線にぴったりそった細長いシルエットを持つシース/コラムラインのウェディングドレスだった。
「分りました、着て見ます‥‥ね?」
 自分も気になって見ていた依頼だけに、誘われた時はとても嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて‥‥でも、その思いを伝えきれなくて。どうすれば良いのか‥‥ずっと考えて、辿り着いた結論。
 行幹が見たいと言うそのドレスを着て、隣に立つ事。それが、どんな言葉よりも雄弁に伝えてくれるだろう。
 それに、彼の喜ぶ姿を見る事が何よりも嬉しいアルフェルだった。
「やっぱり‥‥よく似合ってるよ」
 高鳴る心臓の鼓動を抑えながら姿を現したアルフェルに、白のタキシードに身を包んだ行幹が優しく微笑みかける。
「ありがとう、ございます‥‥」
 それで、ほんの少し‥‥落ち着いた。行幹に手をとられ、庭に敷いた赤い絨毯の上を共に歩く。
 コンセプトは『夜空の下での幻想的な結婚式』だ。美空に頼んでライティングを工夫して貰い、蛍の代わりに小さな淡い光を散らす。
「大丈夫、落ち着いて‥‥な?」
「は、はぃ‥‥頑張り、ます‥‥!」
 アルフェルは緊張の余り、誓いの言葉の途中で声を詰まらせる。しかし、小声で囁く行幹の励ましに助けられ、何とか最後まで無事に終える事が出来た。
 そして、誓いのキス。
「アルフェル‥‥愛してるよ」
「私も、大好きです‥‥」
 身を委ね、微笑んで頷き‥‥ふと見上げた空に、星が流れた。
(行幹様と共に居れます様に‥‥)
 そっと願いをかける。三回は言えなかったけれど‥‥きっと叶う。そんな気がした。


●エピローグ
 幻想的な光に彩られた式場の庭で、祐介は観琴の肩を抱きながら、聞こえて来る穏やかな歌声に耳を傾けていた。
 何か大切なものができた時、お前はきっとそれを手放す事ができない‥‥それはかつて、自分に向けられた言葉だった。
(あの頃に言われた通りになるとはね‥‥)
 だが、悪い気はしない。それどころか――
(今度は、私事で来れれば‥‥)
 その脇では涼が料理に舌鼓を打ち、そして美空は出来た写真を皆に見せて回っていた。
 写真もビデオも、広告に使う場合は本人達の許可を得てからになるが‥‥。
 旭の場合、これで有名になっちゃったら『あ、CMに出てたロリコンの人!』なんて扱いを受ける事になるのかも?


 この時より誓いましょう
 幾条に伸びる時の道
 その如何なる時に置いても
 同じ道を、同じ刻を、同じ歩幅で、歩く事を

 悩み事は共に考え
 愉しみは共に喜び
 喧嘩する時は、互いに足を止めて
 それはもう煩いくらいに

 だけれど隠す事はしないで
 私に、貴方を知る鍵を下さい
 私の鍵も、貴方に上げる
 貴方と共に居たいから
 最後のありがとうを言える、その瞬間まで
 願わくばその言葉も、笑顔であります様に


(俺達も何時の日にか、本当の結婚式を‥‥な)
 行幹は静かな庭に歌声を響かせるアルフェルに視線を投げる。
 星がまたひとつ、夜空を流れて行った。