タイトル:ねこねこどこ?マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/29 15:18

●オープニング本文


 どっかーん!
 がっしゃーん!

 クローゼットに隠れた少年の耳に、何かが壊れる音が響く。その度に、微かな地響きが足下から伝わって来た。
 少年は息を殺し、一緒に隠れている母親の胸にしがみつく。大丈夫、と言うように、柔らかな細い腕が少年の細い体をしっかりと抱き締めた。
 何かが家に入り込んで、暴れている。扉の隙間から見える大きな影は‥‥熊、だろうか。いつか動物園で見た事があるけれど、目の前にいるそれは、飼育施設の中を所在なげにうろうろと歩き回っていた、くたびれたオジサンみたいな熊とはずいぶん違って見えた。
 いや、確かに違う。首から下は熊だけど、顔は‥‥猫だ。しかし、少年の家で飼われている猫達とは違い、大きな口と鋭い牙、頑丈そうな顎を持っている。猫というより、猫科の大型獣‥‥そう、大昔に絶滅したサーベルタイガーに似ているかもしれない。
 いろんな動物を混ぜこぜにした怪物。それがキメラと呼ばれているらしいことを、少年は知っていた。そして、それが警察官が持っている銃などでは追い払う事も出来ないほど強力な敵だという事も。
 そいつが暴れている。普通の熊の3倍くらい太くて長い爪で壁を引っ掻き、家具をひっくり返して‥‥。


 そして、どれくらいの時間が経っただろう。気がつくと、辺りはしんと静まり返っていた。
 嵐は去ったらしい。
 少年は恐る恐る、クローゼットの扉を開けてみた。
「‥‥あ‥‥れ?」
 思ったほど、壊れていない。荒らされてもいない。
 ただ、台所を除いては。
 冷蔵庫が、まっぷたつになっている。床下の貯蔵庫にも大きな穴が開いている。お菓子を隠しておいた戸棚も、キャットフードを入れていたストッカーも、粉々だ。もちろん、中身はなくなっている。
「‥‥どこかで、人の食べ物の味を覚えたのかしらねえ」
 母親が溜め息をついた。
 野に放たれたキメラの中には、人そのものよりも人が作った加工食品への嗜好を持つものもいるらしい。人を食うものよりも安全と言えば安全かもしれないが‥‥。その食料が尽きれば人を襲うようになるのか、或いは他の町へ移動するのか。
「‥‥お母さん、猫たちは‥‥?」
 家の中を見渡し、少年が尋ねた。飼い猫達の姿が見えない。
「まさか‥‥食べられちゃった‥‥?」
 いや、そんな筈はない。きっと、どこかへ逃げたのだ。キメラが侵入した時に、ドアも窓も壊されている。きっと、そこから。
「僕、探してくる!」
「ミケル、待ちなさい!」
 母親に呼び止められ、少年――ミケルは渋々振り向いた。
「出ちゃだめよ。まだ、キメラが外にいるかもしれないわ」
「でも‥‥!」
 大切な家族を、放っておくわけにはいかない。
「家のどこかに隠れてるんじゃないかしら。ほら‥‥雷の時みたいに」
 確かに、猫というものは家の中だけで飼っていても、時折行方不明になったりするものだが。
「呼んだら出て来るかもしれないわ」
「うん‥‥」
 ミケルは猫達の名前を呼んでみた。首輪の色と同じ、6つの名前。
「レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク、ブラウン!」
 けれど、返事はない。姿を現す気配もない。
「‥‥どうしよう‥‥みんな、どこ行っちゃったの‥‥?」
 少年の大きな瞳に、じんわりと涙が浮かぶ。
「だれか‥‥だれか、たすけて!!」


 こうして、UPC本部に新たな依頼が持ち込まれる事となった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
相賀翡翠(gb6789
21歳・♂・JG
相賀 深鈴(gb8044
17歳・♀・ER
兄・トリニティ(gc0520
24歳・♂・DF
功刀 元(gc2818
17歳・♂・HD
七神 蒼也(gc6972
20歳・♂・CA

●リプレイ本文

 傭兵達が駆けつけた時、ミケル少年は泣き腫らした目をして茶色い首輪を握り締めていた。
「庭に、落ちてたの」
 猫の首輪は強い力がかかると外れるように出来ている。驚いて逃げた時に、どこかに引っ掛けたのか。それとも、引っ掛かったのはキメラの爪か。
「大丈夫、きっと無事ですよ」
 石動小夜子(ga0121)が少年の目線まで屈み込み、微笑みかける。少年もそうだが、逃げ出した猫達もきっと心細い思いをしているだろう。
「ペットは大切な家族だ。早く捜してやらないとな」
 七神蒼也(gc6972)が頷く。
 勿論、敢えて表明しないだけで、他の仲間も同じ気持ちなのだろう。ただ‥‥
「猫♪ 猫♪ ネコにゃん♪ にゃ〜〜ん♪」
 歌ってるのは世史元兄(gc0520)だ。かと思えば、なんか大事な事を忘れてるっぽい人も。
「目的は猫さん達の捜索ですね‥‥! 色んな性格の方がいらっしゃるとか‥‥とても楽しみです」
 ぽわわ〜ん。相賀深鈴(gb8044)が口を開くと、周囲の空気がいっぺんに和む様だ。
「え‥‥キメラさんもいらっしゃいましたねそういえば‥‥」
 いいえ、猫とのふれあいが楽しみでコロッと忘れていたなんて、そんな。
 と言うか大きな声では言えないけれど、皆さんそれが楽しみな訳で。しかし、楽しむ為にはまず仕事。
「じゃあ、まずはネコ達の毛色と性格を教えて貰おうかなー」
 それに好物があれば借り受けたいと、功刀元(gc2818)が尋ねる。
「後は好きな場所があれば」
 そこに深鈴の大切な旦那様、相賀翡翠(gb6789)が付け加えた。
「えーと、好物は‥‥」
 少年は質問に答えつつ、毛色や特徴を説明しようとアルバムを開いた。どのページも猫だらけ、しかも猛烈に可愛いショットがてんこ盛りだ。
 さてここで問題です。ネコスキーな皆さんにそんな写真を見せたら、一体何が起きるでしょう。
 答え。仕事になりません。
「‥‥はっ!!」
 猫写真に見とれてる場合じゃない。さっさとキメラを倒して、本物をもふるのだ。
 身を引き裂かれる思いで(大袈裟)アルバムを閉じ、立ち上がる傭兵達。
「じゃ、これ‥‥ちょっと借りるな」
 蒼也は猫の特徴がわかる写真を何枚か借り受け、ポケットに入れる。
 そして漸く、三班に分かれての猫捜索及びキメラ退治が始まった。

 猫が家の中に残っている可能性も考えて残ったのは小夜子と兄の二人。
 ないと思いたいが、例のキメラがまたここに来る可能性もある。小夜子は外れたドアを玄関に立てかけ、どうにか出入り口を塞いだ。戸締まりと言うには隙間だらけだが、もしキメラが入ろうとすればドアを壊す音でわかるだろう。
「家の中で、猫達がよく隠れる場所はありますか?」
「クローゼットとか、ソファの下とか‥‥」
 しかし、目の届く範囲は全部見た筈だ。
「普段は行かない様な場所に入り込んでいるのかもしれませんね」
 天井の梁や、収納棚。下りられなくなったり、扉が閉まって出られなくなったり、していないだろうか。
 三人は猫の名前を呼びながら、家中を探しまわる。と、物入れに頭を突っ込んでいた兄が何かに反応した。
「シッ!? 猫の声だ‥‥庭だ!!」
 急いで庭に飛び出した三人の目の前に、黒猫がいた。腹の毛だけが真っ白な、赤い首輪をした猫。
「レッド!」
 少年が呼んでも、猫は体中の毛を逆立てて生け垣の向こうを威嚇し続けている。
 そこに、キメラがいた。
「本当だ、かなり喧嘩早い猫だね」
 自分の何十倍も大きな相手を威嚇するとは、なかなか見上げた根性だ。だが、いくら体を膨らませたところでキメラが怯む筈もない。
「熊だ猫だ熊猫だ猫熊だ‥‥パンダだ。可愛くないパンダだな〜」
 熊っぽい猫か、それとも猫っぽい熊か。確かに熊猫だが、白黒ではない。そして、ブレンドの具合によってはものすごく可愛くなったかもしれないのに、それは誠に残念な結果になっていた。
 兄は猫の体を後ろから抱き上げ、少年に手渡す。その間に、キメラは生け垣を踏み倒して庭に入ろうとしていた。
 ――ガンッ!!
 先手必勝、問答無用。その猫っぽい鼻面を、小夜子が鞘に納めたままの刀で殴り付ける。斬るのは簡単だが、少年の目の前で血を流す事は憚られた。それに、この距離では少年に危険が及ぶ可能性がある。
「此処で殺すのは不味いから気絶させるよ、少年は俺の後ろに隠れていな♪」
 小夜子に鼻面を叩きまくられ、たたらを踏む様に後ずさるキメラを前に、兄はミケルを背に庇う。
「絶対に護ってやるから。だから君は今助けたその猫を護ってあげてくれ」
「う‥‥うんっ」
 まだ毛を逆立てて唸り声を上げている猫の体をぎゅっと抱き締めた少年は、兄の後ろから怖々と様子を伺っていた。
「纏え蛍火」
 ぽつり、呟いた兄の体が蛍の光に包まれる。
 怯んだキメラが体勢を立て直す猶予も与えず、兄は僅かに菫色に輝く刀身を抜き放った。猫の素早さで繰り出される鋭く太い爪を受け流し、手首を返す。鈍い音がして、刃がキメラの短い首に打ち込まれた。
「す、すごい‥‥っ」
 倒れたキメラを死んだものと思ったらしい。近寄って覗き込もうとした少年を、兄は押しとどめた。
「峰打ちってヤツだよ少年、此処で殺したら血が大量に出るから後処理が大変だし、何よりグロイから少年に見せる訳にはいかないしね?」
「どこかきちんと戸の閉まるお部屋で、猫さんと一緒に待っていて下さい」
 猫にしても、慣れた場所で落ち着いてもらうのが一番だろうと小夜子。
「片付いたらお呼びしますから、また一緒に他の猫さんを探しましょうね」
 死体の処理は上に連絡すれば良いだろう。まさか町の真ん中で燃やしたり、穴を掘ったりする訳にもいかないだろうし。

「お、早速一匹見つけたらしいぞ?」
 公園の中ほどで便乗させて貰った元のバイクから降りた蒼也は、無線機からの通信に耳を傾ける。
「キメラも一匹、片付けたらしい」
 キメラの残りは二匹。猫はレッドが見つかったから‥‥
「あお〜、みどり〜、きいろ〜、もも〜、ちゃいろ〜でておいで〜〜」
 元はAU−KVのパイドロス君に不眠の機龍で見張りをお願いし、いそいそと猫探し。でも、名前が違う気がするよ。意味は合ってるんだけど。
「しかし野良猫が多いな」
 自分にGooDLuckをかけつつ、猫を誘き寄せる為のマタタビ粉を仕掛けて歩く蒼也の後から、どこからともなく現れた猫達がぞろぞろ付いて来る。元に言われて公園に着くまでの道でも辺りに猫がいないか気を配って見ていたが、塀の上や日当りの良い道ばたの、そこかしこに猫がいた。
「んー、でもどれも違うよなぁ」
 写真と見比べ、首を振る蒼也。
「これはどうでしょうー」
 ころころ、しゃらん。元はミケルから預かって来た鈴の入った小さなボールを転がしてみる。
 しかし誰も見向きもしない。ならばこれでどうだと、猫槍エノコロを振る。すると‥‥マタタビに酔った猫達は、酔った勢いのまま激しくじゃれついてきた。その大きさを怖がる様子もなく、エキサイトする野良猫達。
 しかし、目当ての猫は現れない。
「もう少し歩き回ってみましょうかー」
 元はボールの鈴を鳴らしつつ、羽根付きオモチャをフリフリ揺らし、好物のドライフードが入った袋でかさかさと音を立てながら歩く。
 茂みや木の上、ベンチの下。猫が好んで隠れそうな場所に、猫になったつもりで潜り込む。外に出た事のない箱入り猫という話だから、怯えて動けなくなっているのだろうか。
 こうなったら、最後の手段。
 ――ぱっかん。
 元は猫達の大好物、何か特別な時にしか開けないという最高級猫缶を開けた。人間でも充分に食欲をそそられる良い匂いが鼻腔をくすぐる。
 ‥‥と。パイドロス君の警報が鳴り響いた。猫探しを中断して、二人はバイクを置いた場所へ駆け戻る。
「もー、邪魔しないで下さいよー」
 初めての実践に緊張気味の蒼也とは違い、元は余裕たっぷりだ。
「迷惑くまさんは、宇宙の彼方へとんでいけー」
 どっかーん! 瞬時にAU−KVを装着した元は、目標を発見するや騎龍突撃で速攻、キメラを跳ね飛ばした。
 だがしかし、お星様にするには少しばかりパワーが足りなかった様だ。
 どさり、跳ね飛ばされた熊猫は蒼也の目の前に落ちる。かなりのダメージを受けた筈だが、それでも起き上がろうとするのは流石に戦闘に特化した存在だけはある。
 ぎろり。その瞬間に、蒼也と目が合った。覚醒した蒼也と熊猫キメラ、どちらも瞳が猫っぽい。暫し見つめ合い、何かが芽生え‥‥る、筈もない。
「邪魔だ、さっさと逝っちまいな!」
 蒼也はシールドスラムで視線を遮り、黒光りする刀で斬り付けた。台詞はカッコイイが、実は内心どっきどき。
 それでもどうにかキメラに止めを刺し、ほっと一息ついて、ぽつりと一言。
「これがキメラ‥‥ならバグアってのはどんな強さなんだろな‥‥」
 しかし今は、猫探しが最優先だ。二人は再び、広い公園の中をあてもなく探し始めた。

「公園にはいねぇか」
 深鈴が持つ無線機でのやりとりを聞いた翡翠は、廃屋の中を覗き込みながら言った。
「皆さん、この中にいらっしゃるのでしょうか」
 翡翠の脇からそっと覗き込んだ深鈴は、ちょっぴり腰が引けている。だが、一緒ならきっと大丈夫。怖いけど、怖くない。
 入り口の近くに開封したレーションを置き、暫く様子を見てみる。中身はカレーとビーフシチューだ。
「キメラさんはカレーもお食べになるのでしょうか‥‥」
 お食べにならなかったらどうしましょ。後で皆で分けようか。
 と、その時。
「にゃ〜ん」
 食べ物の匂いを嗅ぎ付けたのか、どこかで猫の鳴き声がする。廃屋の、ずっと奥の方だ。
「ね‥‥ねこ、さん?」
 少し涙目になりながら、翡翠の腕にぴったりと貼り付く。打ち捨てられた場所というのは、何故こうも心細いのだろう。
「あの‥‥しばらくこうして歩いていてもよろしいですか?」
「ホント、こういうトコ苦手だな」
 そんな新妻の様子に目を細めつつ、翡翠は自分の腕を頼るその手に自分の手をそっと重ねた。
 そして時折聞こえる小さな鳴き声に耳を傾けながら探すこと暫し。
「あ、あそこ‥‥です」
 深鈴が指差す。どうやら壊れた家具の下に潜り込んだ様だ。
「お、いたいた。逃げねぇでくれよ‥‥」
 覗き込んだ暗がりに光る、二つの大きな目。
 翡翠は深鈴の手をそっと離すと、隠密潜行で気配を消しながら近付き、隙間に手を突っ込んだ。ふわふわの毛が掌に触れる。
「うっし捕獲」
 ずるずるずる。少し荒っぽいが、そのまま引っ張り出す。青い首輪をした、ちょっと太めな猫が現れた。
「こいつはブルーだな」
 そのまま、両手を差し出して待ち受ける深鈴に手渡す。
「わぁ‥‥とっても可愛いです」
 もこもこ、ふわふわ。どっしり重いけど、気にしない。
「捜索の途中だが、一度連れて帰るか」
 深鈴には負けるが猫は可愛い。その可愛い深鈴が可愛い猫を抱っこする姿はもう、可愛いなんてもんじゃない。だから、出来ればずっとそのまま抱っこさせておきたい所だが、もしまた逃げられでもしたら敵わない。
 それに、キメラが現れる危険も――
「ちっ、言ってる側から出やがった」
 入り口に戻りかけたところで、外にキメラの姿を発見した。まだ距離があるが、拳銃を使えば音に驚いて猫が逃るかもしれない。
「仕方ねぇ」
 深鈴と猫をその場に残すと、翡翠は槍を手に入り口を塞ぐように飛び出し、レーションに手を伸ばしかけたキメラの首元に刃を走らせた。怯んだところを容赦なく滅多刺し。
 一方、猫を抱えた深鈴は‥‥うっかりしていた。
「わぁ‥‥この子とってもふかふかですよ翡翠さ‥‥」
 あれ、いない。どこだろう。きょろきょろ。向こうで血飛沫が上がっている、あれは何?
「す、すみません! 直ぐに援護いたします‥‥!」
 わたわた、慌てて翡翠の槍に練成強化をかける深鈴だったが。もう必要なかったかも?
「気持ちは分かるが、そんな無防備じゃ護りきれねぇから勘弁な」
 キメラの残骸を前に振り返り、深鈴と猫のほのぼのさに脱力する翡翠。だが許す。良いの、可愛いから。

 そして傭兵達が互いに連絡を取り合った所では、キメラ撃破が三体。町を襲ったと報告されているのはこれで全部だ。そして見つかった猫は二匹。あと四匹、どこに隠れているのだろう。

「大丈夫ですよ、怖くありませんから」
 少年の自宅付近では、小夜子が木の上に向かって猫じゃらしを振っていた。緑の首輪をした猫が、高い枝の上で踞っている。勢いで上ったのは良いけれど、というよくあるパターンだ。
 小夜子は木に梯子を立てかけ、救助に向かう。
「フシャアァッ」
 暴れる猫に引っ掛かれ、腕にいくつもの赤い線が走るが気にしない。
「名誉の負傷ですもの‥‥はい、救助完了です」

 一方、廃屋の地下ではランタンの明かりを頼りに翡翠が捜索を続けていた。深鈴は応援に駆けつけた元と蒼也と共に上の階を探している。
「ありゃ? 首輪してねぇ‥‥野良か?」
 暗がりで捕まえた一匹を照らし、翡翠は首を傾げる。だが、確か首輪の取れた猫もいた筈だ。
 と、その脇を猛スピードで走り抜けて行った白い影。
「一匹そっち行ったぞ!」
 その声に、エノコロを装備して待ち構える元と、マタタビの枝を握り締める蒼也。しかしその足下をすり抜け、猫の姿は雑草の生い茂った庭へ消える。
 猫探しは当分終わりそうになかった。

「これで最後か?」
 蒼也の持ったキャリーバッグから飛び出し、ソファの下に駆け込むイエロー。これで六匹全部揃った筈だ。
 しかし首輪が外れていたブラウンの他に、首輪のない猫が一匹。七匹に増えている。
「やべ、やっぱそいつ野良か?」
 捕獲した翡翠が気まずそうに言う。見つけた場所に戻して来るべきか?
 しかしミケルは自分が飼うと言った。
「そうか‥‥」
 これも何かの縁かもしれない。
「猫も家族だもんな。大事にしてやれよ」
 翡翠は少年に笑いかける。
「じゃあ、これで任務は完了だな。これ、ありがとな」
 キャリーと写真を少年に返し、蒼也はその頭を軽くくしゃりと撫でた。
「見つかって良かったな」
「うん、皆ありがとう!」
 さて、そうとなれば後は‥‥猫もふりターイム!
「おお〜〜♪ 猫♪ ねこ♪ ネコ♪ 右も左もネコだらけ〜♪」
 兄、狂喜乱舞。
 小夜子はふかふか手触りに囲まれて、幸せ気分に浸っている。蒼也は猫を撫でながら、実家に残して来た犬や猫を思い出していた。
「わー、小さくて可愛いですねーきみ達もう逃走しちゃダメだぞー」
 元はちょっぴりお説教を交えつつ、野良猫達を魅了したテクでエノコロを振る。
 そして、同じエノコロでも美鈴が振ると猫のじゃれるスピードに付いていけてなかったりするが。
「依頼って感じしねぇなぁ」
 自身もえらい嬉しそうに猫と戯れつつ、その愛らしさに酔い痴れる約一名。

 それぞれに、猫にまみれる至福の時を過ごした傭兵達。
 この一時が明日への活力となる事を祈って‥‥