●リプレイ本文
補給部隊は戦車による砲撃で弾幕を張り、どうにか敵の侵攻を食い止めていた。
しかし、それとて弾が切れるまでの僅かの間、寿命を延ばす程度の効果しかない。彼等の命は風前の灯火だった。
だが、その時――
「状況はどんな感じ?」
通信機から、誰かの声が聞こえた。
一瞬空耳かと思った部隊長はしかし、次の瞬間には通信機に飛び付き、見えない救援者に向けて自分達の窮状をまくしたてていた。
「了解、もう少しだけ耐えてねん」
カーラ・ルデリア(
ga7022)のその声がまだ消えないうちに、北の空から姿を現した8機のKV。
――間に合った‥‥
部隊長はほっと胸を撫で下ろし、仲間達に告げた。
「救援だ、これでもう大丈夫だぞ!」
「皆さんお待たせしました」
セツナ・オオトリ(
gb9539)の元気な声が響く。
「みんなが降下するまで少しボクの相手をしてもらうよ? 空対地目標追尾システム起動‥‥いきます!」
セツナのシュヴァルツェア・オージェは低空から侵入し、まだ補給部隊から遠い位置に居る巨大アリの群れにロケット弾を撃ち込んだ。命中率は余り良くないが、うるさい敵を蹴散らすには丁度良い。
補給部隊の目前まで迫ったアリには、飯島 修司(
ga7951)がライフルを撃ち込み吹き飛ばす。
「確かに補給線の分断は常道ではありますが、今回の攻撃には疑問を感じますな。‥‥もっとも、寄生虫どもの思考なぞ理解出来ませんし、しようとも思いませんが」
機首を返した修司は兵装をライフルからツングースカに切り替え、その後ろに続くアリ達の眼前に弾幕を張った。これ以上接近はさせない。補給部隊に迫る目前の危機が回避された事を見届けると、修司は機首を反転、遠方の群れにロケット弾を撃ち込み、降下部隊の道を開く。
「友軍支援の空爆と敵前強襲降下、橋頭堡確保のために大規模作戦で嫌というほどやらされてきたわ。こういう所は兄様に感謝しないと」
緑川 めぐみ(
ga8223)にとっては、今がその成果が問われる時――もっとも、こう敵味方が接近した状況というのは初めてだが。
「ツインブースト、クー・ドロア、アタッケ選択。目標捕捉、発射!!」
低空を飛び、後方のゴーレムにロケットランチャーの照準を合わせた。
執拗に空爆を仕掛ける上空の三機に、ゴーレムの意識が向く。
その隙に、残りの五機が降下を試みた。
「サンドワームの奇襲には十分注意して下さい」
修司の注意を受け、なるべく危険の少なそうな場所を選ぶ。
「補給部隊を襲撃するのは常套手段だよねん。でも、うちがいる限りはそんなことはさせないにゃ」
カーラはロックオンキャンセラーで敵の照準を乱しつつ、道路を滑走路代わりに周囲のアリを吹っ飛ばしながら着陸を強行。デスエンジェルは飛行形態から人型に変形すると、補給部隊を巻き込まない位置に回り込み、アリの群れにグレネードランチャーを叩き込んだ。
「ひゃっほー。汚蟻は消毒だよん!」
補給小隊ハニービーの隊長として、補給路の重要性は良く知っている。だから、優先すべきは敵の撃破よりも補給部隊の安全だ。そこだけは絶対に譲れない。
「サンドワームは、どのへんにいやがるでありますかね‥‥」
愛機鋼龍の機首を下げて降下に備えつつ、シーヴ・王(
ga5638)は地上の様子を目視。今は地下に姿を隠している様だ。
「隠れても無駄でありやがるです」
着地から変形後、地殻変化計測器を設置、そのデータを他機とリンクさせる。そして即座に輸送隊を背に立つと、グレネードランチャーで近付くアリを焼き払った。尚も地底から湧き出る如くに増え続けるアリ達にはスラスターライフルやレーザーガトリングで迎撃、補給部隊には一匹も近寄らせない覚悟で防衛に当たる。
「人の物を横取りしようだなんて、神がお赦しにならない。神に仕えていた私が、代わりに成敗してあげるわ‥‥なんて、ね。冗談。昔の話よ」
小さく笑みを漏らすと、ロシャーデ・ルーク(
gc1391)はフィールド・コーティングを展開しながら着陸、変形。輸送隊を背に敵と対峙しつつ、地殻変化計測器をシーヴのそれとは効果が被らない位置に設置した。
その反応に注意を向けながら、近付くアリをレーザーライフルで薙ぎ払う。
そして、もう一台の地殻変化計測器は如月・由梨(
ga1805)が設置した。これで三台、これでかなり精度は上がる筈だ。その後、補給部隊から離れた場所にいるアリを一掃するために、パニッシュメント・フォースを発動しつつグレネードランチャーを全弾発射。
「潰れて散りなさい」
可能な限り多くの敵を巻き込むように目標を設定し、撃つ。
「やれやれ‥‥どうにか間に合った‥‥というところか」
補給部隊の無事を確認すると、不破 霞(
gb8820)は小さく安堵の息をついた。
眼下にサンドワームの姿は見えないが、僚機の地殻変化計測器とリンクして得た情報では、それは地中に潜み輪の様に補給部隊を取り囲んでいた。どこが頭なのかはわからない。
その攻撃範囲に入らない様に注意して着陸、変形。そのままの勢いで足下のアリを蹴散らしながらHBフォルムを起動、フェザー砲の弾幕をかわしてゴーレムの懐に飛び込んだ。
だが相手は二体。しかも一体は格闘、もう一体は距離を取ってフェザー砲を撃って来る。近接した相手には、サーベルの攻撃を盾で受け流し白桜舞で斬り付けるが、遠距離の相手にはプラズマライフルで牽制をしつつ、時折体をかわして位置を入れ替え、フェザー砲の盾にする位しか対処の仕様がなかった。
「じゃあ、こちらも降りますね」
めぐみから通信が入る。
一次降下の完了を見届けると、それを支援した二次降下班が地面に降り立った。
修司とセツナは補給部隊を守る仲間と合流、泥棒アリの迎撃に移る。
「戦車隊は引き続き補給部隊の護衛をお願いします」
修司はそれまでどうにか壁の役割を果たして来た戦車隊を労い、声をかけた。自分達が来たからには大丈夫だから休んでくれと言いたい所だが、相手がアリキメラだけなら彼等とて戦力になる筈だ。この際、手は多いほど良い‥‥休むのは、もう少し踏ん張ってからにして貰おう。
だが、だからといって戦車隊を前面に出させる訳ではない。矢面に立つのは能力者である傭兵の仕事だ。修司は補給部隊を背に立つと、ツングースカの弾幕でアリ達を薙ぎ払う。それをくぐり抜け、物資を持ち出そうとするものにはハイ・ディフェンダーの一撃を。巨大とは言え、たかがアリンコに対してその攻撃は完璧にオーバーキルだが、容赦はしない。
一方のセツナは物資の被害を極力抑えることを考慮し、スコープシステムを活用して索敵能力を高める。対地複合型センサーに、IRST使用での熱源感知、使えるものは何でも使って、常に数手先を読む事を心掛け、敵の回避方向に向けて攻撃を加えていった。
遠くの集団にはグレネードランチャー、撃ち尽くした後ではクロスマシンガンに切り替え、僚機が有利に動ける様に敵の行動を阻害する。敵の戦力を見極め、地形を見極め、その時々に応じて適切な判断を。それでも抜けて来る敵には‥‥
「あ、持って行っちゃダメですよ? それを持っていかれるとみんなが困るんです」
口調はやんわりと、しかし行動はきっぱりと。セツナは荷物に取り付いたアリをブレイブソードで斬り払う。しかし、あっちでもこっちでも‥‥
「だめですってば、もう」
ばさっ!
「邪魔です! せっかくの補給物資を奪われては困ります」
敵の足並を乱すには指揮官を狙えば良いのだろう。アリキメラが指揮を執っている筈もないから、やはり狙うのはゴーレムか。めぐみは霞を遠距離から狙うゴーレムにショルダーキャノンで牽制しながら肉薄、ノワールデヴァステイターを近距離から撃ち込んだ。
だが、ゴーレムも黙ってやられてはいない。回避能力と機体性能を高めてダメージを軽減、回避する。相手の弾切れを待って反撃に転じるつもりなのだろう。
「甘いですわ! ノワールにはこういう機能も付いているのです」
反撃に転じた相手に、銃身下部に格納された刃を展開し突き立てる。回避し損ねたゴーレムの肩口から火花が飛んだ。
「銃剣機能が他の銃にもあればいいのですが、積極的に銃剣を採用するメーカーが少ない以上、希少な銃ですからね。たっぷりと威力を味わってください」
銃剣を引き抜き、ショルダーキャノンを至近距離から撃ち込み、弾き飛ばす。
そこで待ち構えていたのは、二次降下班の降下を見届け、攻撃に転じたカーラだった。ロックオンキャンセラーを利用して接近、大鎌を振るう。相手も反撃に転じるが、攻撃が当たらない。
「狙いが甘いよん。ってか、甘くさせてるんだけど」
大鎌特有の予測しづらい軌道で相手を翻弄し、連撃を叩き込む。
「そろそろ終わりにしよっか? 生かしておくつもりもないしね‥‥死天使の一撃、目に焼き付けながら逝きなさい!」
カーラの大鎌と、めぐみのノワールデヴァステイターによる追撃を受け、ゴーレムはその場に崩れ落ちた。
もう一体のゴーレムは、一騎打ちに持ち込んだ霞によって追い詰められていた。
「時間をかける気など無いのでな‥‥全開でいかせてもらう」
EBシステムとHBフォルムを同時起動させたSTフォルムを使用し、短期決戦を狙う。もう盾は使わない。攻撃が最大の防御とばかりに、白桜舞で押しまくる。
その時、地殻変化計測器の反応に変化が起きた。補給部隊を囲んでいた輪がほどけ、動き始める。振動が足下から広がり、徐々に大きくなって来た。
霞はゴーレムが繰り出すサーベルを白桜舞で受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。タイミングを計り――引く。同時に、足下の砂が急激に盛り上がった。
地中から現れたサンドワームの口に向かって、体勢を崩したゴーレムを蹴り込む様にブーストをかけてジャンプ。置き去りにされたゴーレムが飲み込まれそうになり、慌てた様子で空中へ飛び上がる。短時間なら慣性制御による飛行も可能なゴーレムは、間一髪の所で難を逃れ、逃げる様に補給部隊の方へ向かって行った。
だが、霞はそれを追わず、姿を現したサンドワームに集中する。攻撃を射撃主体に切り替えて応戦。ゴーレムは他の仲間達が始末を付けてくれる筈だ。
サンドワームは地中に潜っていれば手も足も出ない代わりに、地上に引きずり出せば打たれ弱い。しかし、流石にその弱点は承知しているらしく、あっという間に地中へ戻ってしまった。
またしても、その姿はレーダーから消える。だが地殻変化計測器の反応は、それが補給部隊のいる方へ移動している事を示していた。
「ここへ近付けさせる訳にはいきませんな」
同士討ちを逃れて補給部隊へ向かったゴーレムの行く手を阻む様に、修司がスナイパーライフルを撃ち込み牽制。だが、その場から動けばアリの接近を許してしまう。それ以上の追撃は仲間に任せるしかなかった。
「私はルーク。キングの身代わりになる者」
フィールド・コーティングを起動し、ロシャーデが補給部隊の盾となるべく立ち塞がる。レーザーライフルの一発を牽制に使い、回避先を予測して残り二発を確実に命中させた。
そこにシーヴの放つスラスターライフルでの攻撃が加わり、ゴーレムは足を止め――その体が弾かれた様に宙を舞う。
「サンドワーム‥‥!」
最も近い位置に居たロシャーデは、足下からの攻撃と頭上から降って来るゴーレムを、斥力制御スラスターとブースターを使って回避。開いた口の中へ向けて、リロードを終えたレーザーライフルを撃ち込んだ。
その衝撃で砂の中から飛び出したサンドワームは、地中から掘り出されたミミズの様にのたうち回る。その衝撃で吹き飛ばされた大量の砂が、微小な弾丸の様に輸送隊に襲いかかる。
だが、それは身を挺して立ち塞がったシーヴによって防がれた。
「輸送隊にゃカスリ傷ひとつ付けさせねぇです」
散々のたうち回り、再び地中へ潜るサンドワーム。しかしその航跡は地殻変化計測器によってトレースされていた。
モグラ叩きの要領で、頭を出した所に攻撃を叩き込む。足下から現れた場合はジャンプで回避、即座に口腔に向けてスラスターライフルの弾幕を叩き込‥‥もうと思ったが。この位置では輸送隊に近すぎる。
攻撃は仲間に任せ、シーヴは再び壁となった。
「オージェ、いくよ!」
それと入れ替わる様にブーストを使って前に出たセツナが、ブレイブソードで斬り付ける。続いてカーラがその巨大な胴体を刈り取る様に大鎌を一振り。飛び散った体液が砂に染み込んで行く。再び潜って逃げられる前に、怒濤の集中攻撃を。
「後はあり相手ですね。しかしバグアもご飯が欲しいなら戦わず、開墾すればいいのに」
そんな冗談を飛ばしながら、めぐみはショルダーキャノンとノワールデヴァステイターでアリを駆逐、吹き飛ばしていく。
残ったアリは数こそ多いものの、大した脅威ではない。その場で足踏みしているだけでも、ぷちぷちと潰れて行く。ちょっと楽しい‥‥なんて言ってる場合じゃないか。
「逃がしはしないわよ」
最後の一匹まで、確実に潰す。ロシャーデはレーザーバルカンを掃射、逃げるものにも追い撃ちをかける様にレーザーライフルを撃ち込んで倒す。
霞に至っては、わざわざ追いかけて――足の速さには自信があった。そこまで荷物を運び出せたものはいないが、念のために銃器は使わず、移動の風圧や衝撃波での薙ぎ倒しを狙うと言うか、走って蹴散らす!
「少しはみんなの役に立てたかな?」
周囲に敵の気配がない事を確認して、セツナはほっと一息。斜め四十五度のアレは、どうやら使わずに済んだ様だ。
梱包が破れる程度の被害はあったものの、物資は殆ど無事。補給部隊のメンバーも何人かが怪我をしているが、命に別状はなかった。
「倒れた車両は動かせますか? 無理な様でしたら、私達で牽引しますが」
由梨が尋ねるが、どうやら無事な様だ。
「ありがとうございました、本当に、命拾いを‥‥」
部隊長が半分魂の抜けた様子で深々と頭を下げる。
「これでもう、道中の心配はないと思いますが‥‥あの、出来れば‥‥」
「わかってやがるです。ちゃんと基地まで護衛しやがるですよ」
シーヴの言葉に、部隊長は安堵の息をつき、今度は背筋を伸ばすと彼等に向けて挙手の礼をとった。
――その頃‥‥
遠く離れた上空から、その様子をじっと見つめている者があった。
「あーあ‥‥全滅って、何だよそれ‥‥ここで軽くポイント稼ごうと思ったのにさぁ」
不満そうに眉間に皺を寄せる。だが、それはすぐに消え、代わりに勝ち誇った様な笑みが浮かんだ。
「まぁいいさ、これで奴等のデータは取れたし。次は‥‥ククッ、楽しみだね」
背中の翼を一振りすると、それは西の空へと消えて行った――