タイトル:【RAL】OF 障壁マスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/22 21:53

●オープニング本文


「あー、気持ちよかったぁ!」
 大暴走するジーザリオから蹴り出されたアネット・阪崎(gz0423)は、しんと静まり返ったウジダの空港をぶらぶらと歩いていた。
「でも、どうせ降ろすならもっとこう、優しくソフトにしてくれれば良いのに」
 蹴り出された時に尻をぶつけた。まあ、大した事はないけれど。
 ついでに基地の玄関に横付けとか、それくらいは気を利かせてくれも良いと思うが‥‥ご丁寧に一番遠い所で放り出すとは。
「まったく、相変わらずなんだから‥‥あのツンデレ」
 久しぶりに会った旧友、アレクサンドラ・リイ(gz0369)。この6年というもの、互いに音信不通だったというのに‥‥つい昨日の夜に別れたばかりの様な気がする。
「確かに、お互い色々あったけどさ」
 彼女について、大体の事情は知っている。とは言っても、任務上知っておくべき知識として、最低限度の範囲内で、だが。
 それ以上の立ち入った事は、いずれ――彼女の立派なお屋敷で、お茶でも飲みながら。
「お互い、話せる時が来ると良いねぇ。出来れば笑って、さ」
 その時を無事に迎える為にも、今はここでやるべき事がある。
 滑走路を抜け、様々な物資が乱雑に積み上げられた脇を通り、空港の建物へ。UPCは今までに北アフリカの各地で様々な施設や土地を奪還し攻撃拠点として来たが、この空港もそのひとつだ。
「えーっと、チュニジアからアルジェリア‥‥で、今はモロッコ、と」
 空港施設の広いスペースを板で仕切っただけの自室に戻り、アネットは地図を広げた。
 東から西へ、敵の拠点を潰しながら駆け抜ける。実際にはもっと複雑な展開をしているのだろうが、アネットはそんなイメージで理解していた。自分の役割は、兵士達に状況を分かり易く伝え、士気を高める事。複雑な事は、もっと上の連中が考えれば良い。
「ここから西は、真っ赤っか、かぁ‥‥」
 赤いと言えば、そこから南は殆どがバグアの支配地域。つまりまだ、アフリカ大陸の大部分が真っ赤に染まっているという事だ。それらの地域が今どんな状況になっているのかは、軍の方でも殆ど把握していない。
 出来ればそちらも急ぎたい所だが‥‥物には順序というものがある。それを差し置いて突っ走るほど、もう若くはないと言うか何と言うか。
「とりあえず今は、ここだね」
 ウジダ。この空港から少し南へ行った所にある町だ。この西端で彼女が町を守る。自分はその更に西、バグアの援軍が集結しているという場所へ出て、そこを叩く。
 援軍など、一匹たりとも送らせはしない。
「ここをきっちり抑えたら、後はフェズ、カサブランカ、そこから北に上がって首都ラバト‥‥って感じに調子良く突っ走れると良いんだけどねぇ」
 カサブランカが首都ではない事くらい、ちゃんと知っている。さっきは少しからかってみただけだ。本当の首都は、さっき顔見知りの軍人にさりげなく聞いておいた。
 ――とは言え‥‥。
 アネットはまだここへ来たばかりで、率いるべき部隊もない。UPCの人手不足は深刻な様だ。
 それに、自身の戦闘力に関しても不安が残る。以前は先頭を切って敵に突っ込んで行くタイプだったのだが、それを躊躇うのは怪我の記憶が残るせいか、それとも‥‥守るべきものが出来たからか。
 尻のポケットから子供達の写真を取り出し、暫し眺める。この作戦の前に一度顔を見に帰ったが、次はいつになるかわからない。必ず帰ると、それだけは約束して来たが――
「あーあ、弱くなっちゃったなぁ」
 写真をポケットに戻すと、アネットは椅子の背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。
「でもま、傭兵クン達がいるしねぇ」
 単に戦力としても頼りになるし、作戦立案時の柔軟な思考にも見るべきものがある。軍規に縛られず自由な立場で動ける事も魅力だろう。不安を抱えたままの自分が出て行くよりも、任せきりにした方が良さそうだ。
 それに、正規の部隊を率いて戦うよりも寧ろ楽かもしれない‥‥アネットの性格からして。
「じゃ、さっさと片付けてこの地図塗り替えるよ!」
 ――ダン!
 アネットはアーミーナイフで机ごと地図の一点を突き刺した。
 そこは狙った場所から随分離れて海の上だったりするが、気にしない。
 きっと利き手じゃないからだ。
 そうに違いない。

 さて、キメラ掃除に出発だ。

●参加者一覧

比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
カルブ・ハフィール(gb8021
25歳・♂・FC
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
七神 蒼也(gc6972
20歳・♂・CA
椿姫(gc7013
21歳・♀・GP

●リプレイ本文

 ウジダへと続く道の途中。そこには少々奇妙な光景が広がっていた。
 乾燥した大地に立つ、案山子の様な人型。ただし、普通の案山子が何かを追い払う為に使われるのに対し、こちらはその逆。
「蛇は熱源を感知して動くという。これで誘い込まれてくれれば良いのだが」
 木材を組み合わせた骨組に布を巻き付けながら、カルブ・ハフィール(gb8021)が言った。中には焼いた石が詰められている為、近付くとほんのり温かい。材料調達の面からこの案に落ち着いたものだが、その熱源を囮として、足下に掘った落とし穴に誘い込もうという作戦だった。
 落とし穴を掘り進めるのは立花 零次(gc6227)と、フローラ・シュトリエ(gb6204)、椿姫(gc7013)の三人だが‥‥これが、なかなか上手くいかない。
 乾燥した大地は穴掘りには向いていない様で、掘るそばからサラサラと崩れて行く。深さは3m程、幅はなるべく狭く、そして距離は長く、敵の侵攻ルートを分断する形で‥‥出来れば登りにくくする様に返しも作っておきたいと、計画は立てたものの。
「水でもかけて固めながらじゃないと無理かしら、これ‥‥」
 フローラが額の汗を拭う。
「水は‥‥考えていませんでしたね」
 零次も手を休め、ふうっと息をつく。ガソリン、ビニールシート、木材、布、火薬、それに塗料‥‥基地から持ち出したのは、それだけだった。水場も近くには見当たらない。
「木材で側面を補強して、どうにかしましょう」
 穴の中にガソリンと火薬でも仕込んでおけば、燃えて崩れた時に生き埋めに出来るかもしれない。燃やしたくらいではダメージは与えられないようだが、小型の蛇くらいなら何とか‥‥。
「足止め程度にはなりますよね」
 効果を信じて、椿姫は穴を掘り続ける。戦う前に体力を使い果たしそうな気もするが、でも頑張る。
「しゃーない、あたしも手伝うかぁ」
 少し遅れてのんびりやって来たアネットがスコップ片手に椿姫の隣へ飛び降りた。
「あ、お久しぶりです! 今回もよろしくお願いしますね、アネットさん」
「ん、期待してるよ。でも張り切りすぎてバテない様にね。ここは程々にしときな」
 ぽん、右手で椿姫の背を叩く。どうやら今は覚醒中らしい。
「つーことで、ほら、そこのお兄ちゃん! あんたも手伝いな!」
「え‥‥あ、はいっ」
 びくぅっ! 少しばかり女性が苦手な比良坂 和泉(ga6549)、女性陣とは距離を置いて目立たない様にしていたのだが‥‥無駄だったらしい。
「じゃあ、俺は向こうで零次さんを‥‥」
「いやいや、向こうはカルブの兄さんもいるしさ。間に合ってるから」
 によによしながら手招きをするアネット。それ、わざとだろ。絶対わざとだろ! せくはらだ、せくはら!
「あー、でも椿姫ちゃんは彼氏に手伝って貰った方が良いのかなー?」
 がっしゃん! いきなり振られ、思わずスコップを取り落とす椿姫。今回のイジラレーは和泉だと思って安心してたのに!
「そ、そんな事ありません! 仕事は仕事ですから!」
 落としたスコップを拾い、「迷惑はかけない、迷惑はかけない‥‥」と口の中で唱えながら、ざくざくざかざか‥‥ちらり。作業中の安全を確保する為に見張りに立つ追儺(gc5241)の背中を思わず見上げては、慌てて目を逸らす。
 一方、ひたすら前方を凝視し続ける追儺の背中にも、後ろが気になってるオーラが見えたりして‥‥若いって良いなぁ。

 敵の眼前で、しかも結構時間に追われながらも、何となく和気藹々と作業を終えた傭兵達。
「動き出したぞ!」
 双眼鏡で敵の動きを見ていた七神 蒼也(gc6972)が鋭く叫ぶ。
「では、先に行ってきます!」
 椿姫が真っ先に飛び出し、その後に同じ先行組のカルブ、蒼也、追儺が続いた。
「来ましたか‥‥。街へ行かせるわけにはいきません。ここで確実に止めます」
 零次は先行班に続きながらも、その少し後ろに位置取る。
 彼等が前に出た事を確認すると、フローラが道や周辺の地面に赤や青の派手な塗料を撒き散らした。砂色の蛇も、この上でなら見やすくなるだろう。上手くすれば、蛇自身もカラフルに染まるかもしれない。
 細工を終えた和泉、フローラ、ユウ・ターナー(gc2715)の三人は落とし穴の後ろで最終防衛ラインを担う。更にその後ろにはカルブが周辺の木を切り倒して作ったバリケードも設置されていたが、無論そこまで行かせる気は誰にもなかった。
「かなりの数です‥‥とはいえ、襲わせるわけには、ね」
 後方の町を見やり、笑顔を見せる和泉。タテガミの様な髪がわさわさと揺れ、鋭く伸びた犬歯が口元から覗いている為、その笑顔はかなり恐ろしい事になっているが‥‥味方です、この人。獅子キメラと間違えて退治してはいけません。
「数が多い、か。町へ行かせないのを優先したいわねー」
 手持ちの装備を確認しながら、フローラが応えた。

 一方、先行班は既に敵の先鋒と接触していた。
 普通、虎とライオンが行動を共にする事はあり得ないし、オスライオンだけが群れている状態もまず見ない。だがそんな自然の理も、作り物であるキメラにとっては何の意味も持たなかった。目の前の存在を破壊する、ただそれだけを本能に刻まれた彼等は、真っ直ぐに町を目指して突き進んで来た。その足下で砂が蠢いている様に見えるのは蛇の大群だろうか。

「我が名はカルブ・ハフィール、汝らバグアを狩る猟犬なり!」
 大音声で名乗りを上げると、黒い霧が全身に纏い付く。こうなるともう、敵を殲滅するまで止まらない。
 一匹たりとも逃がさず、目に付いた敵は全て滅するつもりだが、優先目標は虎型キメラ。遠距離から放たれた光弾を避けると、小型の蛇を蹴散らし、踏み潰しながら走る。目標の目の前まで来ると、速度を力に変えて大剣に乗せ叩き付けた。巨大な虎が額から赤い糸を引いて後ろへ弾け跳ぶ。
 だが、一撃で勝負が決まる筈もなく、虎は額を割られた衝撃にふらつきながらも跳躍で頭上を越えようと身構える。
 それと同時に、二頭の獅子型が虎のすぐ後ろから飛び出して来た。全てを同時に相手にする訳にも行かず、カルブは瞬時に標的を切り替える。
「グオォォァァアッ」
 獅子の咆哮か、それともカルブの雄叫びか。左右から伸びた黒い翼が空を切る。片方を避け、もう片方は円閃で巻き込む様に斬り払った。避けた方には防御から反撃のスマッシュ、渾身の一撃を叩き込む。

 二頭の獅子型の動きを止めると、カルブは先程の虎を迅雷で追う。しかし、虎は既に後方で待ち構えていた零次の網にかかっていた。
「来ましたか‥‥。街へ行かせるわけにはいきません。ここで確実に止めます」
 零次は手負いの虎に天狗ノ団扇を振るう。激しい旋風と共に足下の砂が舞い上がり、虎の視界を覆った。それでも闇雲に突き進もうとする虎の前に、抜き放たれた刃が光る。
「ここを、抜かせるわけにはいきませんね」
 相手のスピードを利用し、すれ違いざまに額の角を斬り落とす。反転、追撃。
「くっ‥‥! これで!」
 喉元にトドメの一撃を叩き込んだ。

「この任務、失敗する訳にはいかないな」
 蒼也は蛇の動きにも注意を払いつつ、キメラ達の動きを目で追う。蛇は後衛の防衛班が担当になる手筈だが、だからと言って蛇達が前衛を素通りしてくれるとも思えない。
「小さい奴は身体の表面にも毒があるんだったな」
 なるべく肌を晒さない様に手にはレザーグローブをはめ、ズボンの裾はブーツに押し込んである。カッコイイとはお世辞にも言えないが、この際見てくれはどうでも良い。
 町を守るのは当然だが、これはアネットの軍復帰後の大事な緒戦でもある。完璧な勝利をプレゼントして花を添えてやりたい‥‥などと言ったらまたデコピン喰らうだろうか。
 獅子型の光弾をかわしながら距離を詰め、懐に飛び込んでスマッシュ。体当たりは盾で弾き落として反撃に繋げる。が、その間にも蛇達が地面から鎌首をもたげ――
「そう来ると思ったぜ、させるかっ」
 ガンッ! 胴体を足で踏みつけ、頭を盾で弾き返す。うん、今日は良い感じだ。この調子で最後まで行ければ良いのだが‥‥戦いの女神は気まぐれなものだ。

 虎型キメラが蒼也の頭上をあっさり飛び越えて行く。
「くそ、抜かれた!」
 しかし、そこには既に椿姫が回り込んでいた。相手の着地と同時に拳を叩き込み、次いで足を狙って蹴りを見舞う。体勢を崩した所に拳のラッシュを叩き込み、そこへ後ろから追い付いた蒼也がスマッシュで動きを止めた。
「悪い、助かった」
「大丈夫です、こういうときの仲間ですから」
 にっこり笑って次の標的へ向かう椿姫。
「――っ! そこ!」
 仲間の脇をすり抜けて行こうとするものを見付け、目の前に飛び出す。体当たりを受け流し、カウンターを叩き込んだ。
「絶対に抜かせない。抜かせるわけにはいかない!」
 それに、彼に迷惑をかける訳にも。

「ここは守りきろう‥‥それが出来なければ、何が能力者だ」
 追儺は瞬天速で一気に敵との距離を縮めると、出会い頭に真燕貫突を叩き込んだ。出端を挫かれた相手が体勢を立て直す前に、足を狙った攻撃で機動力を削ぐ。
「一匹も通さん!」
 動きの鈍った敵はそのままに、次の敵へ。狙いは主に獅子型キメラだ。自分に注意を惹き付ける事で、町への進撃よりも攻撃の為にその場に留まる事を優先させる。そして、足さえ封じてしまえば後は纏めて始末するだけだ。
 しかし、例え動きを封じたとしても、獅子型には光弾という遠距離攻撃があった。地面に転がしたキメラに背を向けた瞬間――背中に衝撃を感じた。
「追儺さんっ!」
 救急セットを手にした椿姫が飛んで来るが‥‥
「大丈夫だ」
 大した事はない。このまま行ける。
「獅子は強さの象徴だ‥‥お前に姿を真似る力があるか?」
 そして自分にも。それをねじ伏せる力はあるか?
 問いかけながら、追儺は拳を振るい続けた。

 先行の四人の手により、大部分のキメラは進撃を阻止されていた。
 しかし、どんなに頑張ったところで多勢に無勢、撃ち漏らしが出るのは仕方がない‥‥と言うか、適度に零れてくれる位が丁度良い。
「最終ラインを抜かれるのは困りますが、ここで暇を持て余すのも、ね」
 得物を再び超機械に持ち替えた零次が呟いた。
 大型の蛇はまだ距離があるうちに旋風を浴びせ、頭上を越えようとする虎は竜巻で撃ち落とす。数が多い中型以下の蛇達は自ら囮となって後方の落とし穴へ誘い込む。
「そちらは違いますよ」
 竜巻と旋風で進路を限定された蛇達は、ぞろぞろと穴の中へ。

「ヘビさん達、待ってたよっ」
 待ち構えていたユウが、穴の上から特殊銃【ヴァルハラ】を撃ちまくる。サイレンサー付きなので余り派手な音は出ないが、静寂の中で血飛沫を上げて跳ね回る蛇達はちょっと怖い、かも。
 本来は落とし穴に落ちる前に倒すのがベストではあるが、こう数が多いのでは仕方がない。それに、ここで少しでも足止めが出来れば、残った敵の対処もし易くなるというものだ。
 傭兵達による最後の砦、ここだけは抜かせる訳にはいかない。

「討ち漏らしがないよう気を付けないとねー」
 自分からは動かず、敵の方から近付いて来るのをひたすら待つ。フローラは射程が長めの扇嵐で竜巻を起こし、近付く敵を早い段階から片付けて行った。倒しやすそうな敵は‥‥既に傷ついているのか、足が遅く突破力もさほどではない。それよりは勢いのある敵や素早い敵を優先して狙った方が良さそうだ。そうなると、標的の殆どが蛇という事になるのだが‥‥見難い。塗料を撒いてもやっぱり見難い。
 なるべく塗料の上にいる時を狙い、そうでない時は砂の上に動くものがないかをじっと注視する。見つけたら無線で仲間達にも連絡、注意を促す。
 射程内に入った敵はエネルギーガンで吹っ飛ばした。この超機械は蛇程度なら一撃で葬り去れる威力があるが、射程が短めな事が玉に瑕。近付かれてから外すと少し厄介な事になる。

 だが、一人が外しても仲間のフォローがあった。
 和泉はクルメタルP−56で慎重に狙いを付け、引き金を引く。頭を潰せばもう動けない筈だ。
「銃器の扱いは専門ではありませんからね」
 残弾や誤射には人一倍注意して、慎重に、慎重に。その為に射撃の速度が犠牲になっていたが、無駄弾をバラまくよりは良い。主に軍の財政的に。銃弾だってタダではないのだ。

 やがて足下を抜けて来る蛇の数が減り始め、押し寄せるのは殆どが力押しの虎と獅子だけになってきた。それに伴って、前線も徐々に下がり始める。仲間達にも疲労の色が見え始め、時折思い出した様に現れる蛇による事故も増え始めた。
 連絡を受ける度、フローラはキュアを施しに走り回る。だが、すぐに持ち場に戻り迎撃態勢をとった。
「ここは、そう易々とは通さないわよ」
 扇嵐の竜巻で頭上の虎を叩き落とし、エネルギーガンを至近距離で撃ち込む。易々とではなくても、通すつもりは全くなかった。
「悪いが通すつもりはありませんよ‥‥退がれッ!」
 獅子の如き形相で吠える和泉は、不動の盾で獅子キメラの突撃を押し返す。距離が開いた所でユウとフローラが一斉射撃。不意をついて絡み付いてきた蛇は豪力発現で振りほどき、頭を踏み潰す。
 後衛の位置まで下がった零次は突っ込んで来た獅子型の側面から後方に回り込み、翼の付け根を狙って斬り付けた。
 最後にはもう、とにかく最後尾に作ったバリケードを超えさせない事だけを念頭に、全員で粘る。練力が尽きるまで粘る。

「‥‥これで、全部‥‥片付いたでしょうか」
 肩で息をしながら零次が言った。
 取りこぼしたキメラがいないか全員総出で捜索に当たり、漸く任務完了の結論を得た時‥‥戦等開始から何時間が経っていただろう。
「んー!」
 大きくひとつ伸びをした椿姫は「お疲れ様でした!」と皆に笑顔を向ける。
「‥‥追儺さんも、お疲れ様です」
 その笑顔に、追儺の表情が一瞬緩む。だが、すぐに元の硬い表情に戻ってしまった。
「まだ、うまくやれた‥‥もっと強くならないとな」
 戦いの跡を見て、更なる高みを目指す事を誓う追儺。
「あんたとの仕事は二回目だが‥‥どうだい、役に立ったか?」
 戦いぶりを見ていた筈のアネットにも訊いてみるが‥‥
「ん、上出来」
 さらりと一言。それで終わり?
「そんな事より、皆疲れたでしょ? イモ食べよう、イモ!」
 ‥‥はい?
「罠に使った石でさ、石焼芋作っといたから。ほっくほくで美味しいよー?」
 皆が残党狩りをしている最中、罠の辺りで何かゴソゴソやってると思ったら。
「‥‥何やってんだ、この人は‥‥」
 特大の溜息をつく蒼也。ハリセンでも持って来れば良かったか。
「でも、そうねー。これ片付けないといけないけど‥‥」
 落とし穴や塗料の跡を見て、フローラが言った。
「まだちょっと、動けないかも」
 まずは腹ごしらえをしてから――
「後片付けまでしっかりと、ね」