タイトル:初夏の小川の初ガツオマスター:STANZA

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/17 03:22

●オープニング本文


 少し眩しくなった陽射しをキラキラと照り返しながら、初夏の小川はサラサラと流れていた。
 都会ならばドブ川と呼ばれ、蓋をされて道路にでも変えられてしまう様な規模の小さな川だが、その流れは清らかで、水草の揺れる川底まではっきりと見透かす事が出来た。護岸工事などもされず、自然のままに残された岸辺には桜の木が植えられ、その周囲にはスミレやレンゲの花が咲き乱れている。

 そんな小川にかかる小さな橋のたもとに愛犬を従えて腰を降ろし、釣り糸を垂れている老人がいた。
 この清らかな流れには、タナゴが生息しているらしい。これまで一度も釣れた事はないのだが、老人にとって成果などはどうでもいい事だった。天気のいい日には犬の散歩に出かけ、その途中にあるこの場所で釣り糸を垂れる、それが彼の習慣になっているのだ。

 そして今日も、老人はこの場所で釣り糸を垂れていた――餌も付けずに。餌がないのだから、何も釣れる筈がない。
 ところが‥‥
「ウゥー、ワンワンッ!」
 老人が連れていた犬が何かに反応し、水面に向かって盛んに吠え始めた。
「な、なんじゃ? どうし‥‥、‥‥っ!?」
 水の中を覗き込んだ老人は、危うく足を滑らせて川に落ちそうになるほど驚いた。
「‥‥なんじゃ、ありゃぁ‥‥!?」
 そこには、とてもこの小さな川に生息しているとは思えないほどの、大きな魚の影があった。
 あれはまさか、この川のヌシという奴だろうか。老人がそんな事を考えた、その時。
 手にしていた小さな竿が、弓なりにしなった。
「うおぉっ!?」
 まさか、あのヌシがかかったのか!? しかし、エサもないのに何故!?
 いや、それよりも‥‥こんな小さくて華奢な竿と仕掛けでは、釣り上げる事などとても無理だ。
 竿が折られる前に、糸を切ってしまおうか。そう思った瞬間。
 ばっしゃぁぁん!
 巨大な魚が飛び上がった。陽の光を浴びて輝く、紡錘形の体。濃い藍色をした背に、銀色の腹。これは‥‥
「カツオっ!?」
 いや、そんな馬鹿な。カツオは海の魚だ。こんな内陸の、しかも小川などにいる筈がない。
 しかし、水面から跳ね上がり、岸辺に打ち上げられてビチビチとのたくっているその姿はどう見てもカツオだ。ただし、大きさは2メートルほどにもなりそうだが。
 びちびちばたばた‥‥ぴたり。
 呆然と見ているうちに、暫くそこでのたうちまわっていたカツオの動きがぴたりと止まる。力尽きたかと思って覗き込んでみると――
 がばぁっ!!
 立ち上がった! 二本足‥‥いや、無数の、しかもエビの足で! って言うか、いつ生えたんだその足! それにハサミと触覚も!
「ウゥー、ワンワン! キュゥ‥‥キャウン!」
 最初は威勢良く吠えていた犬も、最早尻尾を巻いて逃げ出す準備。
 その間に、犬の威嚇などではビクともしないカツオは、ばーりばーりと釣り針を噛み砕き始め、遂には竿までボリボリと食べてしまった。
 そして‥‥くるぅーり。
 老人と犬に向き直り、ぱかっと口を開けた。
 体の半分ほどにまで裂けた口に、ぞろりと並んだ鋭い牙。
 これ、カツオじゃない。絶対カツオじゃない。勿論エビでもない。
「に‥‥逃げろぉーーーっ!!」
「キャウンキャウン!」
 一目散に逃げ出す老人と犬。
 しかし、カツオエビはハサミを振り上げ触覚を振り乱し、わさわさと無数の足を蠢かせながら、その奇妙な姿からは想像もつかない速さで追いかけて来る!
「たぁ〜すけてぇ〜!!」
 老人は走った。そんなに走ったらカツオエビに食われる前に心臓発作でどうにかなっちゃうんじゃないかって位の勢いで走った!
 しかし、ふと振り返ると‥‥
「‥‥む? ‥‥はぁ、はぁ‥‥おいかけて、‥‥ぜぇ、‥‥こんの、か‥‥? ぜーはー」
 流石は魚類、鰓呼吸とは縁が切れないらしく、水場から遠く離れる事は出来ない様だ。‥‥その水が淡水である事は問題ないらしいが。
 しかし、そうしている間にも、カツオエビは次々と仲間を増やし、ぞろぞろわさわさと岸に上がって来る。
 この季節、田んぼや用水路には水がたっぷりあった。水場同士の距離は、そう遠くない。
 つまり、アレは水場を経由しながらどこまでも広がり、どこにでも現れる可能性があるという事で‥‥。

 大変だ、早く何とかしなければ!

●参加者一覧

リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
春夏冬 晶(gc3526
25歳・♂・CA
ヒカル(gc6734
16歳・♀・HA
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
ユキメ・フローズン(gc6915
19歳・♀・FC
セシル・ディル(gc6964
22歳・♀・CA
エヴァ・アグレル(gc7155
11歳・♀・FC

●リプレイ本文

 爽やかな風が吹き渡る、5月のある晴れた日。
 とある農家の玄関をカラリと開けて微笑む奇麗なお姉さんが‥‥二人。
「お願いがあるのだけれどいいかしら?」
 その一人、ユキメ・フローズン(gc6915)は、家の者に重機と操縦者を借りられないかと相談を持ちかけた。水路の水を一時的にでも止められないだろうか、とも。
「少しの間でいいのだけれど‥‥可能かしら?」
 にっこり。
「それに、田んぼに水を流すのも止めて貰えないでしょうか」
 もう一人のお姉さん、セシル・ディル(gc6964)もにっこりと微笑む。少しでも水量が減れば、敵にとって不利かもしれないし。何でもやってみて損はないだろう。
 奇麗なお姉さんにニッコリお願いをされて、断れる者はまずいないし、恐ろしいキメラを退治する為なら何だって協力するが‥‥操縦者はちょっと困る。キメラ怖い。奇麗なお姉さんが一緒でも、怖いものは怖い。
「では、重機と‥‥水門はこちらで締めさせてもらって良いかしら?」
 能力者なら、触った事がなくても大抵の機械類は操作出来る。それでも念のため一通りの操作を簡単に教わり、マニュアルもお借りして‥‥合意成立、いざ現場へ。
 さて、罠はどんなものが良いだろう。ダミーの水路を掘って、その先に落とし穴でも作ってみようか。
「では、私はその補助として‥‥乾いた場所に檻でも作りましょうか」
 辰巳 空(ga4698)が言った。鉄の杭と柵・ワイアーを組み合わせた物で囲いを作り、そこに追い込んで背後を塞げば、後は乾いて自滅するのを待つだけだ。ただし、材料の調達が問題だった。
「竹で良ければ、さっきの農家の裏に薮があったわね」
 セシルが言った。その竹薮の所有者も、先程の人だろう。それに、ロープや麻紐なら農家には常備されている筈。
「では、それで行きましょう」
 ユキメが頷き、決定。竹と麻紐で、体長2mのしかも釣り針さえ噛み砕く鰹を捕らえておけるか不明だが‥‥失敗したとしても、やらないよりはマシだろう。


 罠を作る間に、宇加美 煉(gc6845)は次々と水門を閉じて回る。
「鰹か鰐か海老かよくわからないですねぇ」
 バイク形態のAUKVで土手を上流へと急ぎながら、途中で川から上がろうとするキメラを引っ掛け、川へ突き落とす。
「まぁキメラらしいといえばキメラらしいわけですがぁ」
 鰹の群れを追い越し、更にその先の水門へ。バイクから飛び降りハンドル型のバルブを回すと、下流に流れ出る水が減り始める。少し遅れてやって来た群れが水門にぶち当たった。
 鼻先を思い切りぶつけてのたうち回るもの、脳震盪を起こしてひっくり返るもの、それを踏みつけて先へ行こうとするもの‥‥。
 煉はそんな集団の鼻先に小銃を撃ち込み、前進を阻止。群れは仕方なく元の水路を引き返し始めた。
『よし、次は南の支流を頼む。その次の一本は開けたままで‥‥』
「わかりましたぁ」
 煉はリュイン・カミーユ(ga3871)の指示で、再びバイクを駆り次のポイントへ。機動力が必要な仕事なら自分にはうってつけだ。

「南を止めたら連絡をくれ。では、よろしくな」
 リュインは無線を切り、双眼鏡を構える。水路を一本だけ残しておけば、そこを通るしかなくなる筈だ。今のところ、銀色の帯はこちらの思惑通りに動いている。もう少し接近し、岸辺から詳しく観察するとしようか。
「しかし、相変わらずバグアの考える事は‥‥」
 わからない、わからないから、考えても仕方ない。
「今、罠の設置ポイントから約500m下流を上流へ向かっているところだ。数は‥‥」
 ざっと数えて‥‥途中で諦めた。
「100匹といったところか‥‥多分」
 多分ね。
 そして支流で行く手を遮られたカツオ達が戻って来たのを確認すると、リュインは自ら囮となって川岸を走り始めた。
「さあ貴様ら、我について来い!」
 ほーら、餌だぞ! どうだ、美味そうな足だろう!
 カツオにくっついている、あの足はどう見ても美味そうではないし、食欲も湧かないが。
「甲殻類の足って、何か虫っぽくて見方によってはグロいよな」
 エビは身があってこそ食べようと思うものだ。食べるのはカツオだけにしておこう。

 そして他の仲間が罠を作って待ち構えるポイントの、少し上流では。
「ッシャャャア、気合入れていくぜぇぇぇ!! 目的、キメラ全フルボッコ!」
 春夏冬 晶(gc3526)が気合いを入れまくっていた。
「ふざけた外見の野郎だろうと全力で倒さなきゃならねぇ! そう、俺には、金が、必要なんだァァァァァ!!」
 今が旬の初鰹。しかも体長2mの超大物ともなれば、売れる。絶対売れる。足や触覚を切り落としてしまえばキメラとはバレない! 筈!
 しかし、全力で倒す前にやる事があった。晶は土嚢を全力で川に投げ込む! 投げ込み、積み上げて、せき止める!
「上流に奴らが来た時に、ちょうど水量が減ってくるって寸法よ!」
 そして、この手前に作ったダミーの水路に誘い込むのだ! カモン、金ヅル!
「キタアァァァッ!」
 積み上げた土嚢を死守せんと、その前に立ち塞がり正面から迎え撃つ晶! 押し寄せる札束! 最早カネにしか見えない!
「一匹残らず倒してやんぜ!! 一攫千金スマーッシュ!!!」
 弾き落としから側面に回り込んで、剛拳エリュマントスを全力で叩き込む! 滑らないように注意!
「まぁ、俺みてぇに歴戦の傭兵なら足元に注意しなくても体が勝手に反応しブベラッ!!」
 体が勝手に反応してすっ転んだ晶の姿を、銀色の集団が覆い尽くして行く――

「先頭集団、土嚢にぶつかって止まったわ」
 土手の上に立って、双眼鏡でその様子を観察していたエヴァ・アグレル(gc7155)は、無線で仲間に知らせると、今度は罠へと誘導すべく下流へと走った。
「キメラは食べれると聞いたのだけど本当なのかしら? どんな味や食感なのか、興味があるわ♪ うふふ」
 楽しみだ。早く倒して味見がしたい。
「ここは、これで良いわね‥‥。最後の仕上げ、行くわよ」
 エヴァからの連絡を受け、ユキメが重機で水路の土手を崩すと、残った水と一緒に大量の鰹が水田に流れ込んで来た。
「カツオキメラの‥‥絨毯?」
 だーっと流れ出た銀色の物体を見て、空が呟く。
 個人的にはカブトガニの姿をしたワニとマグロを掛け合わせて2で割らない様な生き物だと想像していたが、これは‥‥?
 その数、100はとうに超えた。200も軽い。まだまだ、どんどん増えて‥‥落とし穴から溢れた。
「‥‥ん? ああ‥‥あれだ、途中で分裂したんだ、きっと」
 しれっと誤摩化すリュイン。まあ、細かい事は気にしない。何匹だろうが倒せば良いのだ、倒せば。

「鰹‥‥折角なら釣りたいんだけれども‥‥う〜ん‥‥鰹狩りか」
 釣り好きなセシルは、ちょっぴり溜息。鰹はやはり豪快に一本釣りだろう。しかし、この際、まあ‥‥仕方ない。
「狩りでも何でもキッチリ片付けて、晩御飯にしちゃいましょう!」
 まずは水路に残った敵を狩り立てる。下流から上流へ、罠にかけ損なったキメラが海へ戻る事のない様に。
「一匹たりとも逃さないわ‥‥」
 ばしゃばしゃと水路に踏み込んだセシルは、体当たりを盾でブロックしつつ、仲間の援護を待つ。キメラは大口を開けて盾さえ噛み砕こうとするが、流石にメトロニウム合金を使ったプリトウェンには歯が立たない様だ。
「そっちじゃないわよ?」
 パン!
 あらぬ方向へ逸れようとするものには、対岸の土手からエヴァが拳銃で突ついて注意を引く。先頭集団の進路を上手く誘導出来れば、後ろも纏めて釣れないだろうか。
 パン! パン!
「そうそう、その調子♪」
 時折超機械での電磁波攻撃も取り混ぜて、メリハリを付けながら追う。
 二人で調子を合わせ、まるで羊飼いの様にキメラの群れを誘導しながら罠に誘い込んで行った。
『もう、他の水路に残ったキメラはいない様ですぅ』
 バイクで走り回り、取りこぼしを確認していた煉から連絡が入る。
「これで水路の方は片付いたわね」
 キメラを追い立てて水路から上がったセシルの姿を確認すると、ユキメは最初に重機で壊した土手に土嚢を積み上げ、退路を断った。後は陸に揚げたものをフルボッコするだけだ。
「できれば綺麗な状態で倒したいわね」
 美味しくいただく為にも。

 田んぼは一面、カツオエビキメラで溢れかえっていた。
 落とし穴に嵌ったものもいるが、穴は大量のキメラであっという間に埋まってしまった。もうひとつの罠は‥‥ばーりばーり。齧られている。やはり自然素材では優しすぎたか。
 しかし、それならそれで‥‥人が壁になれば良いのだ。

「‥‥なにこの気持ち悪いの」
 田んぼの畦道に立ったヒカル(gc6734)は、それはそれは冷たい視線をキメラ達に浴びせる。
「汚らわしいというか、キモい。こっち、こないでほしいわ」
 手に持った赤い箱を開けると、先頭のキメラが弾け飛んだ。コケてる奴は構わない。けれど、向かって来るものは‥‥だから、キモいんだってば。
 後ずさりして距離を取りつつ、ヒカルは呪歌を歌う。歌い続ける。水場には帰らせない。徹底的に動きを阻害してやれば、そのうち勝手に干涸びるだろう。
「そのまま野垂れ死になさい」
 さあ、子守唄で眠らせてあげよう‥‥永遠に。

「ふふ、カツオエビさん、エヴァの血肉になる気はない?」
 にっこり微笑み得物を大鎌に持ち替えたエヴァは、迅雷のスピードを活かして走り回り、包囲を抜けようとするキメラを叩いて回る。田んぼの中はぬかるんで動きが鈍くなりそうだから、立ち位置は乾いた地面で。
 近くのキメラを鎌で引っ掛けて引き寄せ、すっぱりと足を削ぐ。これでもう動けないだろう。
「水場に戻れなければ勝手に息絶えると思うの」
 じぃっと観察してみる。
 びちびち、ばたばた‥‥ひくひく、ひくん。
「美味しそう」
 にっこり。食べられると聞いた途端に美味しそうに見えて来るから不思議なものだ。

「水場には戻さないわよ」
 セシルはしぶとく向かって来るものにはシールドスラムを使い、そうでないものにはエラを狙って細剣を突き立てる。なるべく手数をかけずに多くを片付けるには、これが一番だ。
「息が出来なくなれば、困るでしょう?」
 いや、困るなんてものじゃない。生死に関わる。キメラだって死にたくはないから、水場を探して必死に逃げる。

 しかし、逃げ場はなかった。
「初鰹のくせに脂がのってそうですよねぇ」
 待ち構えていた煉が頭を狙って小銃を撃つ。出来る限り無駄弾を減らす為に、慎重に狙って‥‥
 銃を撃った場所も覚えておいて、後で弾丸を回収しなければ。損傷も修復して、後の農作業になるべく支障がない様に。

「ただ、この数ですと、ダメージはかなり大きそうですね‥‥」
 空は修復しきれるかどうか、心配な様だ。鰹は燃やして埋めてしまえば良いだろうが‥‥それにしても、多い。
「これだけいるという事は、バグアは工場を作って量産しているのかもしれませんね」
 食糧問題を解決するには、こんなものも食べなくてはならないのかと思うと、想像しただけで絶望しそうだ。しかし今はまだ、そこまで困ってはいないと思いたい。
「ここできっちり潰して、二度と造られない様にしないといけませんね」
 未来に絶望しない為にも、徹底的に潰す。
 群れに巻き込まれるとあっさり行方不明になれそうだ‥‥というか既に一人、姿が見えなくなっている。動きを止める迄は、余り近寄らない方が良さそうだ。
 瞬速縮地で群れの脇につけて子守唄と呪歌で動きを止め、ラジエルで斬り付けて止めを刺す。仕留めきれなくても、そのまま放置。窒息するまで水に戻さなければ良いのだ。

 そしてリュインは自らと周囲の仲間達に練成強化を施しつつ、真っ正面に陣取ってキメラを迎え撃つ。刀を横薙ぎに払い、足を切断。いや、そんな事をしなくても、大口を開けて向かって来た所をざっくり両断してしまえば良いか。
 と、そこへ新たな敵が現れた!
「なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」
 と思ったら泥まみれになった晶だった! 顔どころか、体中に付いてます‥‥泥と、何かの足跡が。
「思えば、前の依頼で警察に‥‥」
「生きていたのか」
 晶が長々と語る間に、リュインが練成治療を施した。
「泥にまみれようが、俺らがやる事は変わらねぇ。そうだろ?」
 キリッ。ちらっ。
 ‥‥うん、まあね。じゃあ、残りのキメラ退治、お願いします。


「さてと。終わったら後片付けでもしなきゃいけねぇな」
 戦い終わって、晶が言った。既に泥まみれの身体はこれ以上汚れる心配もないし。
「そうね、討伐の為とはいえ銃とか撃ちまくっちゃったし‥‥」
 エヴァも頷く。
「田んぼやあぜ道のダメージ箇所、戦闘箇所のマッピングをしておきましたぁ」
 煉の地図に従い、食事の支度が出来るまで一仕事しておこうか。

 一方こちらは料理班。
「しばらく借りるわね」
 ユキメとセシルは先程の農家の台所へ、状態が良いキメラを運び込む。
「洋食も作ろうかしら‥‥グラタンとかも良いわね」
「脚は如何しましょうか。見目は海老‥‥よね? フライにしたりすると美味しいかしら」
 美味しく作って美味しく頂こうと、にっこり微笑むセシル。しかし料理の腕はアレなので、手伝いに専念しよう‥‥かな。
 足は唐揚げに、カツオの身をパン粉を付けてカラッと揚げて、タルタルソースをかけたカツオカツレツ。骨をぶつ切りにして、出汁をとり身と野菜をふんだんに使ったカツオ汁。シンプルに、塩を振って焼き上げる、焼きカツオ。味噌に漬けて焼き上げる西京焼き‥‥
「やっぱり鰹といえばたたきよね」
「タタキか‥‥よし、作ってみるか」
 セシルの言葉を受け、片付けから戻ったリュインが腕まくり。
「叩けば良いのだろう?」
 生の鰹を叩く! 叩きまくる! そして完成、鰹のミンチ!
 いや‥‥それは多分、違う料理だと思う。でもまあ、食べられない事はない、かな?
「カタツムリキメラを生で喰った時は腹を壊したが、これはそんな事無いよな?」
 ぱくん、もぐもぐ‥‥早速食べてみる、怖いもの知らずの晶。
「無いよな??」
「私は食べませんよ」
 寄生虫が怖いし、未来的過ぎて食欲が湧かないと空。でも、ちゃんと火を通せば大丈夫なんじゃないかな。火を通せば。
「味見お願いできるかしら?」
 ユキメのお願いに、エヴァが手を挙げた。
「唐揚げを頂きたいわ!」
 足の唐揚げ。元が大きいだけに、外はカリッと香ばしく、中はプリっとジューシー。なかなかイケる。
「スープも良い出汁がでているわね‥‥」
 ユキメ、自画自賛。
「まぁ自然の理を外れてつくられたモノであってもぉ、食べてしまえば弱肉強食の理に則り自然の円環に戻るのですぅ」
 煉がなんか良い事言った! そう、きっと食べてしまうのが一番の供養なのだろう‥‥食べられるモノであれば。そして、きちんと火を通せば。

 その後、晶は暫くトイレに住み込むハメになったとか――