タイトル:【LS】君の声遠くマスター:風待 円

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/20 01:20

●オープニング本文


 ヨーロッパ南部の軍訓練飛行場。
 近々大幅な整備が行われ、民間の手に渡る事になったこの場所で、作業に追われる男が一人。
 ダニエル・バローはKVの無くなったがらんどうの格納庫で、思いに耽っていた。

「たった半年しか居なかったけど、いざ離れるとなったら寂しいもんだな‥‥やっぱ」
「‥‥でも、やっとあいつに会える」

 作業服のポケットから手帳を取り出し、開いたそこには、楽しそうに笑う二人の男女。
 たった二年の間だが、写真はかなりの年月を過ぎたようにも見える。
 つい先日も電話口でバカな話をして談笑しあっていた。
 傭兵ではあるものの、一整備士としてこの飛行場で働いているダニエルの思い寄せる人、である。

「ダニエル! まーた可愛い彼女の写真を見てにやけ面か?」
「俺の仕事は終わったの。あんた達がこいつをさっさと運んでくれないと、俺はいつまでたっても可愛い彼女に会いに行けないんだぜ?」

 最後の運送トラックが、工具の詰まったコンテナを運びに入ってくるとともに、運転手から冷やかしの声が浴びせられるが、いつもの事。彼らにとっては挨拶のような物。

「へいへい、ごちそうさん。こいつで最後だな? 積んだらリフトも持っていくぞ?」
「OK 何かあったら声をかけてくれ。俺はリストのチェックに入るよ」
「あいよ〜」

 ヨーロッパ解放戦線が過ぎ、大規模な戦闘は他所に偏っている。
 ここは比較的平和‥‥とはいっても、戦時中の平和というのもおかしな話ではあるが。
 戦争はまだ続いている。
 突発的なキメラの襲撃にダニエル自身が駆り出された事もあった。
 それでも、この一帯がバグア競合地域であった時よりは幾分もマシなのだ。

 ダニエルがリストのチェックを始めると、最後の一項目に『入庫』のリストが入っている。
 引き渡される企業からの先行輸送なのだろうが、中身は明記されていない。

「‥‥どうやってチェック通すんだよ‥‥これ‥‥大将ははとっくに引き上げてるんだぞ?」

 軽く頭痛を覚えながらも、上司に確認を取る術が無い。
 今頃高速移動艇でラストホープに向かっている頃だろう。

「仕方ない。荷物が届いてから考えるか‥‥」

 ダニエルが格納庫に戻った時、既に積み荷はトラックに乗り、運転手達は談笑している所だった。

「そんじゃ、ここにサインを。やっとここともオサラバだな。家の近くに来た時には寄ってくれよ。飯でもご馳走するさ」
「OK 可愛い彼女さんも、紹介してもらわねぇとなっ! がっはっは!」
「アイツは俺のだからな? 手を出したら‥‥何だ?」

 チェックリストと積み荷の照合も終えてサイン。
 そして二人の運転手が去ろうとしたその時。
 一台の小型トラックが猛スピードでクラクションを鳴らしながら格納庫へ向かってくる。
 そして‥‥その後方には明らかに、人でないもの。

「最後の荷物はキメラ付きかよっ!! あんた達も中へ! そのデカブツじゃ逃げきれない!!」

 運転手達を格納庫の奥に押し込み、詰め所に置いてあった装備を引っ張り出す。
 そして急いで出てきた時、丁度小型トラックが格納庫に飛び込んで来る所だった。
 急いでシャッターを下ろし、安全フェンスと防火シャッターの全てを操作する。
 何とかキメラを中に入れずに済んだようだった。

 トラックの運転席から降りた運転手が声をかけてくる。

「ダニエルさん‥‥ですね? 助かりました‥‥こんな時になんですけど、お届け物です」
「ああ、それは解ってるけど‥‥怪我は無いか?」

 ゴシゴシと手を服で拭き、握手を求める運転手に答えながら、お互いの状況を確認する。

「ああ、はい。 あたしも能力者なんで、その点は大丈夫です。積み荷を守りながらあの数はちょっと、ね。ULTの方には、既に連絡済みですので、まもなく傭兵が派遣されると思います」
「それまでこの格納庫が持ってくれればいいけどな‥‥いざというときは頼むぜ? 二人でどうにかなる数じゃなさそうだけど」
「はい。頼りにしてますよっ」



 ラジオからは、掠れた音で古いラブソングが流れている。



 ──鳥のように飛んで君の元まですぐに行けたらいいのに──

●参加者一覧

シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
ライフェット・エモンツ(gc0545
13歳・♀・FC
モルツ(gc0684
15歳・♀・HG
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

●高速艇内にて
 双眼鏡で外の様子を観察していたシーヴ・フェルセン(ga5638)は、報告通り8体のキメラを確認して小さく溜息を吐いた。
「帰るべき場所へ帰れるよう、きっちりキメラ退治しやがるですよ」
「背中は任せてふぇるちゃん! あたし頑張っちゃうよ!」
 シーヴの今回のバディであるモルツ(gc0684)は、手にしたライフルの調整を行いながら元気よく応える。
「着陸と同時に展開します‥‥準備を」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)の声に、メンバー全員が頷く。
「格納庫の防衛はお任せします。自分達は未確認キメラの確認を」
 神棟星嵐(gc1022)とシャーリィ・アッシュ(gb1884)はドラグーンの機動力を生かす為の行動を計画していた。

 ――到着まであと3分――

 アナウンスが聞こえる。
「指揮を執ってるのが2体、というのは何か引っかかるね‥‥」
 芹佳(gc0928)は近くに座っていた御守 剣清(gb6210)とライフェット・エモンツ(gc0545)へ話しかける。
「何か狙いがあるんだか、それとも無差別なんだか‥‥。ま、とにかく急ぎませんとね」
「着いたらすぐに‥‥安全を、確保しなきゃね」
 作戦をもう少し確認しあおうと話し合っている間に、8人は現場へと到着したのだった。

●格納庫防衛戦
「行きましょうか。あまり時間をかけるわけにもいきません」
 そう言いながらシャーリィはバイク形態のAU‐KVへと跨った。
 同じく神棟もバイク形態のAU‐KVに乗り込んでいる。
「吶喊! 進路妨害のキメラくん、さぁ道を開けてねっ!」
 能力者に気づいたキメラ達が進路を妨害しようとしているのを見たモルツが、強弾撃を使用してアサルトライフルのトリガーを引いた。
 一瞬怯んだキメラのその隙を、能力者達は見逃さない。
 道が開けた事を確認し、エンジンを吹かせて一気に加速し格納庫の後方へと走っていく2人を見て、まず真っ先に格納庫前方に群がるキメラへと突っ込んだのは迅雷を使用した御守と芹佳だ。
 一瞬でキメラの側面へと回り込んだ2人が、格納庫とキメラの間に陣取った。
 そのまま一気に鞘から刀を抜き取り、一閃した御守。
 致命傷を与えられずとも、キメラ2体の注意をひく事には成功だ。
 同じく接近戦に持ち込むべく、芹佳もまた手にした蛍火を1体のキメラに向けて水平に突き出した。
 そのまま横に一閃すれば、キメラの胸部に浅くとも確かに傷が与えられる。
 その後方から装備を一度月雪花へと変更したライフェットが、射程に入ったキメラへと的を定め、弦を引き絞った。
「初手。行きますよ」
 放たれた弓は1体のキメラの脚部を掠る。
 格納庫へと向かっていたそのキメラが、攻撃対象をライフェットへと切り替えたのだろう、進路を変えた。
 そしてセレスタもまた1体のキメラと向かい合っている。
「司令官は‥‥あなたではないようですね」
 先手必勝と急所突きを併用しながらハンドガンで足を撃ち抜いていく。
 痛みによる怒りを含めて突進してくるキメラを冷静に見て、携帯品の中からククリナイフを取り出す。
 突進を回避し、すれ違い様にまずはナイフを一閃して今度こそ腱を断ち切った。
「剣清に1体、芹佳に1体、ライフェットに1体、セレスタに1体。後は4体いやがるはずですが。‥‥やっぱり2体、いねえでやがりますね」
 シーヴは周囲を何度も見渡しながら、後方で次の準備を完了させたモルツへと話しかける。
「前はシーヴが護りやがるですから、援護宜しくです」
「了解ふぇるちゃん!」
 細身の体からは想像もつかない大剣のヴァルキリアを両手で掲げたシーヴが、モルツの移動速度に合わせつつ駆け始めた。
 目指すは既に1体と交戦している芹佳へとにじり寄る別のキメラ1体だ。
 援護射撃を行うモルツの前方、もちろん、味方の弾丸を受けるなんてヘマはやらかさない。
 シーヴはヴァルキリアを四速歩行体勢だったそのキメラの顔面目掛けて横に薙いだ。
 まさか彼女の細い腕から、大剣がそんなスピードで繰り出されるとは思っていなかったのだろう。
 キメラは顔面、主に両の目辺りを深く切り裂かれ、甲高い泣き声を上げる。
 その声に動揺するほど、シーヴは戦慣れしていないわけではない。
 薙いだ勢いを利用して、反す刃で切り裂いた場所と全く同じ場所をもう一度薙ぎ裂いた。
 シーヴの後方から、援護射撃を続けるモルツの弾丸がキメラの胸部と腹部を打ち抜く。
「さぁ‥‥司令官はどいつでやがりますか」
 地に伏したキメラを一瞥したルヴィーレッドの瞳が、周囲を鋭く見渡した。

 その頃、格納庫後方へとバイクで向かっていたシャーリィと神棟もまた、キメラと遭遇していた。
「追っ手のキメラは2体ですね。1体はお任せします」
「了解」
 キメラに追いつかれる前にバイク形態からAU‐KVをアーマーへと変更し、装着した2人が各々の武器を手に構える。
「この数ならば‥‥問題ない。来い、狼男如きでは竜に勝てぬことを、その身に刻んでやる」
 格納庫を背に、バスタードソードを構えたシャーリィが呟く。
 唸りながら突進してくるキメラを見やって、竜の翼で一気にその脇をすり抜ける。
 片足で制動をかけながら、もう片方の足を一気に振り上げた。
 竜の咆哮を使用して振り上げた足から衝撃波を生み出し、勢いよく飛び上がる。
 重力と反動を利用した重さを利用し、バスタードソードを一気に振り下ろした。
 悲鳴を上げる間もなく、質量を増した大剣から繰り出された斬撃に、キメラ1体が地に伏した。
 同じ頃、キメラと対峙していた神棟もまた、グラーヴェを手に体勢を低く整えていた。
「貴公の相手は、自分が務める‥‥。全力でかかって来ないと、怪我ではすみませんよ?」
 その声を聞き分けたわけではないだろうが、キメラが一直線に神棟へ向かって突進する。
 竜の翼で高速移動を行った神棟は、そのまま槍をキメラの腹部に向けて突き出した。
 初撃は浅かったものの、くるりと器用に回した柄の部分で同じ箇所を殴打する。
 ふらりと体勢を崩したキメラへと冷たい視線を送って、神棟は必要最低限の動きで槍を振りかぶった。
「貴公に情けはかけられない。ただ、抹消が自分に与えられた使命ですからね」
 キメラの胸部を貫いたグラーヴェを引き抜いて、神棟はポツリと呟いた。

 御守もまた1体のキメラに止めを刺すべく刀を振るっていた。
 疾風で翻弄しつつ、首元や足の腱を確実に狙って斬りつけていく。
「女の子ばっかりに危ないことさせたかないよな、やっぱ」
 ポツリと呟いたその真意は、今回集まった能力者の大半が女性だった事だろう。
 しかしそう言いながらも、当然だが御守の集中は途切れない。
「そういう事だからさ。さっさと司令官、出してくれるかね」
 一閃の後に、胴を割かれた1体のキメラが音を立てて地に倒れた。
 その時だった。
「いやがったですね!」
 シーヴの声が、全員の耳に響いた。
 新たにシーヴへと攻撃を仕掛けてきていたキメラ2体は、今までの突進タイプとは違い、どちらかというとヒットアンドアウェイで飛びついたり離れたりを繰り返す戦い方をしていた。
「とにかく、手の空いた人はシーヴさんの元へ。戦闘中の人は現状の戦闘を終わらせてから!」
 御守は鋭くそう告げると、自身も援護に向かうべく駆け出した。
 御守とシーヴの間には、僅かだが距離があったのだ。
「こちらも時間はかけられません。行きますよ」
 片手にハンドガン、もう片手にククリナイフを構えたセレスタが、流し斬りで一気に首筋を掃い斬る。
 同じくライフェットも自身の担当していたキメラに最後の一撃を与えていた。
「キミに構ってばかり‥‥には、なれないから、ね」
 抜刀・瞬を使用し装備を双剣ビルツへと変更し、直後に刹那を使用して一気に距離を詰める。
 刹那の通りに、一瞬で双剣をクロスさせたその後には、ただ倒れ伏すことだけ許されたキメラが1体。
 シーヴが大剣を翻しながら何とか2体の司令官タイプをやり過ごしていたその時。
「キメラが2体がかりで1人に集中、なんて。やり方がスマートじゃありませんね!」
 竜の翼を使用し、後方から舞い戻って来た神棟が、グラーヴェをぐるりと回し2体を引き離した。
 後方からバイク形態にしたAU‐KVで万が一の増援がないかどうかを注意しながら追って来たのはシャーリィだ。
「今のところ、他の影は見当たりません。おそらくその2体で最後です」
「ふぇるちゃん頭下げてねっ!」
 援護射撃を続けていたモルツが、シーヴの背後から迫る1体のキメラへと照準を合わせトリガーを引く。
 弾丸が掠った事に激昂したのか、四足歩行していたそのキメラはぐっと一気に立ち上がった。
 キメラの視線の先には、シーヴ。
 振りかぶられた鋭い爪は、シーヴを捕らえる事は、ない。
「甘ぇですよ。司令官だっていうなら、もっと頭を使いやがれです」
 ぐっと低い体勢から、体の回転を生かしてヴァルキリアを横に一閃させる。
 体勢の高くなっていたキメラは、それが仇となったのだ。
 腹部を裂かれ、後ろによろめいたキメラの背後に陣取ったのは神棟だった。
 竜の瞳と竜の咆哮を使用して、とどめの一撃を放つ。
「おとといきやがれです」
 落とされたシーヴの一言が、冷ややかに流れた。
 そして最後の1体は、不利になった事を知り逃走を図ろうとした。
「そんな事、許しません」
 迅雷で一気に距離を詰めたライフェットと御守が、逃走経路を阻む。
 2人のフェンサーが同じスキルを其々の武器で放つ。
 刹那の2段攻撃に、最後のキメラはただ倒れ逝くしかなかった。

 こうして、無事能力者達は8体のキメラに包囲された格納庫内の人物達を救助する事に成功したのだった。


(代筆:風亜智疾)