●リプレイ本文
●Encounter
ずどーん。
傭兵達が向かった現地で見た物は、廃倉庫から巻き上がる埃。そしてそれを突き抜ける‥‥人。
──人?
「あー。思ってたより結構激しいでありますねー‥‥」
美空・桃2(
gb9509)が立ち上る砂埃を見上げながら第一声。
「あれ、キメラじゃなかったら落ちたとき死んじゃいませんかねー‥‥」
砂埃を突き抜けて空に舞う人影を見上げながら、ドッグ・ラブラード(
gb2486)がのんびりと感想を口にした。
件の倉庫は凄惨な状況で。
壁のあちらこちらに穴が開き、中では景気の良い叫び声と軽快なスパンキング音が鳴り響く。
さあ、パーティーの始まりである。
●Surprise attack
「ドSの女性がいると聞いて飛んできました、もとい、キメラと青年たちが羨ましい、じゃなくて、治安を乱すキメラの存在は許せないですよね! ぶっとばs」
「援護に来ました! 状況を教えてくだs」
「うわぁ! ちょっとどいて!!」
倉庫の大きな引き戸をガラガラと勢い良く開き、初依頼の意気込み(?)を声高らかに垂れ流す松沢 奈緒人(
gc5033)と、ドッグの言葉は途中で聞き取れなくなる。
松沢の眼前には凄い勢いで飛んでくる──女の子。
──ああ、この人が赤嶺さんなんだろうなー──
身に迫る危険は視覚しているものの、思考はなかなかついていかないもので。
『ぐぎっ』
何かが、見えた気がする。
「あいたた‥‥ちょっと! 急に扉開けないでよね! って、何人のスカートの中に顔突っ込んでんの! この変態!」
「え? 状況? あたしが教えてほしいっつーの!」
立ち上がり松沢とドッグを蹴り飛ばした赤嶺・巡(gz0371)と思われる人物は、転がる二人に目もくれず倉庫の中へと駆け込んでいった。
残されたのは鼻血を流して倒れる松沢とドッグと、一連の出来事にあっけに取られた傭兵達。
二人の鼻血の原因は衝突によるものか、それとも‥‥?
「あのお嬢ちゃんが、例の能力者ってか」
やれやれ、という体で倉庫内に入って行くのは須佐 武流(
ga1461)だ。
ゾンビの様に「もっとーもっとー」と言いながら歩く集団に向かって歩みを進めながら声を張り上げる。
「‥‥俺に殴られたいか? ただし‥‥痛ぇなんてものじゃすまねぇぜ!」
シチュエーションと台詞はどこぞの特撮ヒーローよろしくかっこいいのだが、いかんせん相手が相手だけに締まらない。
そんな中、周囲と少し違った二人の傭兵がいた。
大鳥居・麗華(
gb0839)と伊万里 冬無(
ga8209)は、何やら別目的がある様な素振りを見せている。
「どんな依頼かと思ったら‥‥なんですの、この依頼は」
「さぁて、何の事ですか麗華さん? 私は知りませんです♪」
呆れる大鳥居に、艶っぽい笑みで返す伊万里。
彼女達の趣味と実益を兼ねた時間が、今から始まろうとしていた。
●Huh?
「何と言うかカオスな様相だな‥‥どれがキメラでどれが一般人やら」
リュイン・カミーユ(
ga3871)は軽く溜息をつきながら識別作業に入る。
とりあえず覚醒はせずに手近な男を回し蹴りで蹴り倒し、踏む。実に単純明快なFFの確認方法である。
今現在リュインが踏んでいる男にはFFは存在しないようだが、頬を染め至福の表情である事は言うまでもない。
「FF無し‥‥ちっ。雑魚に用は無い、退くか消えるかどっちか選べ」
リュインの台詞に、男が答える。
「あの‥‥、仲間たちも踏んでもらえるんですか!? きっとみんな喜びます!」
スキップで近くの仲間に走り寄り声をかけ、喜び勇んでリュインの元に並ぶ姿は、ある種不気味な物がある。
「さあ! お願いします!」
「俺も!」
「僕も!」
「私も!」
「俺も俺も!」
やはり同じ方法でFFの確認をしているのはヴィヴィアン(
gc4610)だ。
「んふふ♪ 痛くしてあげるから逃げちゃだめよ? ねぇ、女の子やオカマちゃんに足蹴にされるのってどんな気持ち?」
手近な角材を手に取りケツバットを行っていく中、揺れる銀髪の下で、怪しく笑みがこぼれる。
「男性よりは女性の方がいいですけど、オカマさんだと倒錯感がさらにぃ‥‥」
何やらディープな世界に引きずり込まれた感のある青年を羨ましそうな目で見つめる視線も現れ始める。
「‥‥あの、僕も、苛めて貰えますか?」
「お、俺も! 俺も!!」
FF確認作業が続く中、大鳥居と伊万里の二人は一般人男性(M)の隔離作業に入る。
「はいはぁい、貴方達はお邪魔なので別の趣向を用意してありますですよ♪」
楽しそうに手際良く男性を縛り上げていく‥‥のだが、縛り方がアーティスティックなのは、きっと気のせいだろう。
「あー、もう。面倒ですからちゃっちゃと叩かれてくださいな!」
面倒臭そうに鞭を振るう大鳥居も、時間が経つとともに頬が紅潮し、顔つきが変わってくる。
「‥‥ふう」
と。一息ついた後に、彼女は自身のコートを脱ぎ捨てた。
その中には、女王様ファッション。所謂ボンテージというやつである。
スイッチが入ったのか、大鳥居は高笑いを響かせながら鞭を振るう。
「ふっ、ふふふふふふふっ。おーっほっほっほ! こうかしら! これがいいのかしら!」
「あぁ‥‥麗華さんの鞭、う、羨ましいです、はふぅっ♪」
「もっといい声あげなさいな♪ ほーらほらほらほら♪」
‥‥彼女達の世界が構築された様である。
そこで、ふとFFの確認を任せていた松沢が口を開いた。
「‥‥えっと、ですね。FFの確認って、必要なんでしょうか?」
確認を行っていたメンバーがふと松沢の指で指す方向を見ると。
──須佐が赤嶺の制服を着て美空の姿をしたキメラをピンボールよろしく蹴り上げている姿だった。
「ほら、そもそもキメラって意思疎通できない訳だから、言葉をかければ‥‥少し喋るなー! とか、立ち止まれー! とか言ったら、おねだりするのって、キメラだけ‥‥じゃ‥‥ないかな?」
確かに時間が凍りつく音が聞こえた。
「という事は」
「これってあまり意味がありませんわね‥‥」
「おーっほっほっほっほ!!」
──鞭の音だけが高らかに響く。
「‥‥ところで松沢。お前はなぜその列に並んでるんだ?」
「さあ俺を蹴って下さい!」
「話を聞け!!」
何故かリュインのFF確認の列に並んでいる松沢は、元気だった。
●Battle Royale perversion
確かに冷静に見てみると、間の抜けた光景ではある。
アーティスティックに縛られ、鞭打たれて喜ぶ青年達を除けば、「もっとーもっとー」とおねだりして追い縋って来るのはキメラのみ。
「えぇぃ! 貴様らにはプライドというのものはないのか!」
先陣を切って突撃するのはドッグ。機械剣「莫邪宝剣」を手に、キメラに切りかかっ‥‥ろうとした。
『ごっ』
ドッグの後頭部にローファーの踵がめり込み、キメラと団子になって転がっていく。
「あ、ごっめーん。擬態かと思っちゃった」
悪びれた様子も無く、謝罪の気持ちも感じられない台詞を吐くのは赤嶺だ。
「‥‥くっ‥‥次は当てるなよ! 絶対に当てるなよ!」
「当てたって言うか、当てるつもりで違ったって言うかさー。っていうかそれ、なんかの法則じゃん? おっけー」
サムアップをして勝手に納得する赤嶺を心なしか嬉しそうな目で見返しつつ、手をついて立ち上がるために視線を戻した先には‥‥にやけた犬のマスク。
いや、マスクの様に見えて生っぽい。なにこれ気持ち悪い。
「ええい! 不愉快だ! かたっぱしから叩っ斬ってくれるれるれるれる!!」
‥‥自身に擬態したキメラに切りかかったドッグの背に飛ぶのは美空のエネルギーガンによる射撃だった。
「敵はあっちだろうが! 俺を撃ってどうする!?」
「まるで人間みたいなキメラさんであります」
「人間だよ馬鹿ぁ!!」
そんなドッグの姿は、青年達の羨望の眼差しを浴びる事になる。
「羨ましい‥‥」
「女子高生に蹴られた上に、幼女からも‥‥」
「くっ‥‥俺も傭兵なら、あの攻めにも耐えられたのに!」
「決めた! 僕、明日適性検査うけに行ってくる!」
「お、俺も!」
「お、お前らみたいなのがいるから! 話がややこしくなるんだよぉ!」
でも、ドッグさん。嬉しそうですよ?
「そうだ! キメラに俺を擬態させれば‥‥」
松沢が突然何かを思い付いた様相で、キメラの注意を引くべく真デヴァステイターを発射する。
銃弾を受けたキメラは松沢の狙い通りに興味を持ち、身体特徴が変わり始める。
──体はリュイン。顔が松沢。
「‥‥‥‥そうじゃなあああああい!!」
「五月蝿いよ。何しに来たんだよ君はっ!」
赤嶺さん、見事なハイキック。松沢君の願いは少し違った形で叶えられました。
「我に擬態するとはな。いいだろう。相手をしてやるから有難く思え。」
擬態されたリュインが、松沢の顔をしたリュインを鬼蛍で切りつける。ああややこしい。
切りつけた傷口も、美空の援護射撃により焦げた肌もみるみるうちに再生される。あ、身長が美空に擬態した。
「攻撃が効いてるのかが解り難いわよねぇ‥‥もともと動きも鈍いし。‥‥って、往生せぇやコラぁ!!」
「ヴィヴィアンさん、男。男になってますって」
「あらやだ。覚醒するとついグレてた頃の口調に戻っちゃうのよね‥‥さっさと往生せぇやこのド変態!」
そう言って振るったヴィヴィアンのアイムールがキメラの脳天にヒット。キメラは至福の表情で霧となる。
「お前らがキメラじゃなかったら、仲良くなれたかもしれなかったな‥‥」
真剣な顔で霧となって消え行くキメラに向かって、松沢が声をかける。何かズレてる気がするけど、きっと気のせい。
「逝けや、オラぁ!」
アイムールを勢い良く一振りしヴィヴィアンが霧を霧散させた。
相手をしていた一体が片付いたのか、体育館の片隅で人間ピンボールよろしくキメラを蹴り上げ続けていた須佐が戻ってきた。
「さぁて、後一体か。殴られてぇんだよな? だったら、血ヘド吐いて骨がバラバラになっても‥‥止めてやらねぇ!」
シチュエーションと台詞はどこぞの特撮ヒーローよろしくかっこいいのだが、まあ、以下同文である。
一体を目の前に立ち、軽くステップを踏みながら、機械脚甲「スコル」での連続攻撃が入る。
上中下段のコンビネーションから回し蹴り、キメラが壁に当たり足が止まった所に飛び蹴りと、息もつかせない連続攻撃‥‥なのだが。
キメラの姿は美空の身長、容姿がリュイン、服装が松沢となっている。
何も知らない人が見たら、間違いなく危険な事件の現場に見える事は言うまでも無い。
集中している須佐は気にしていない様子だが、人数が余って手持ち無沙汰になってしまうと、どうしても。うん。
そんな事はお構いなしとばかりに、吹っ飛んだキメラに向かって美空のエネルギーガンによる攻撃が飛ぶ。
あいも変わらずダメージが通っているのかは目に見えて判らない。
「むむ、効果が薄いでありますね。よしここはパワーアップなのであります」
美空は自身に「練成強化」「電波増幅」を使用し、さらに追い討ちをかける。が、キメラは変わらず「もっとーもっとー」と喜ぶばかりである。
本当に効いているか疑問に思い、発射している電光に触れた美空。
「★▼X?◎」
確かに、エネルギーガンは壊れていないようである。古典的だけど、髪の毛はアフロになって煙がぷすぷすと出ている。古典的だけど。
「──黙れ。その声耳障りだ」
リュインの「練成強化」「急所突き」を使用した攻撃が入り、最後のキメラが霧となり、散った。
●Absurdity
転がっていたパイプ椅子を立て直し、優雅に腰掛てリュインが青年たちをひと睨みする。
「喉が渇いた――と言われずとも気付けそのくらい、ボケ」
すかさず青年が飲み物を差し出し、それを受け取ったリュインが、かしづく青年の体をヒールで踏む。
もう見飽きたと思うが、やはり青年達は嬉しそうな表情である。
ひょっとしたら彼らはキメラなんてどうでもよかったのかもしれない‥‥などと、松沢はその光景を眺めて思う。
(キメラがどうでもいいのなら、俺も──もっと蹴られたかった‥‥っ!!)
やはり何かズレた後悔の念が浮かぶ。
「赤嶺さん!」
「んー? なにー?」
「け‥‥け‥‥け、蹴ってもらえませんか!!」
『ゴッ』
すぐさま要望通り鈍い音が響き、松沢は幸せな表情で意識を暗転させた。
「‥‥はっ?! 私はまた何を!?」
二人の趣味と実益がともなった時間が終了し、我に返った大鳥居は、バツが悪そうにもそもそと服を着る。
そして、伊万里からサディズム趣向の傭兵に対して提案がなされる。
「折角お知り合いになれた事ですし、これからお茶でもしながらドS談義でもいかがです? もちろん麗華さんはご一緒ですわ♪」
「‥‥え、ちょ、伊万里?!」
「じゃあ、あたしも参加の方向で☆」
「そしたら赤嶺さんにも声をかけないとですわね‥‥はて?」
──
須佐は依頼後の装備の手入れをしながら、女王様達のキャッキャした話を横目で見る。
「女王様達はドS談義ねえ‥‥踏み込んじゃいけねぇ気がする」
須佐の横をだらだらと歩いて通り過ぎる赤嶺に言葉をかける。
「しかし、どんな女王様かとおもいきや‥‥なんだ、可愛いじゃねえか」
「ん? 褒めても何も出ないよ?」
「女王様はいい。じゃ、王様や王子様ってのは、どこにいるんだかな?」
「え? 何? やだ、超ウケるんですけど。そういう本読みたいなら図書館にあるんじゃないかな! あたしは趣味じゃないしよく知らないけどさ。じゃあねー♪」
どうやら赤嶺さんには通じなかったようである。
──
ドッグにいたっては、女王様のお茶会の話をビクビクしながら聞いていたのだが、伊万里が手に持った縄を引き、こう呟いた事で防衛本能が働いた。
「散々楽しんだんですから、お支払いは皆さんという事で。‥‥其れ位して下さるのは当然ですよね♪」
だめだ。
だめだだめだだめだ。
これ以上この場に居ては、私の何かが壊れてしまう!
私の大切な何かが、壊れてしまう‥‥っ!!
「お疲れ様でしたぁぁぁ!!」
ドッグは砂煙をあげながら脱兎のごとく逃走していった。
やっとの事で赤嶺を捕まえた伊万里達からお茶会の提案を受けるも、赤嶺は難色を示す。
「あたし、行くトコがあるんだよね。もう大分遅れちゃってるんだ。これ以上待たせちゃいけないしさ。ホント、ごめんね。ごめんなさいっ!! またの機会にっ!」
赤嶺以外のメンバーでのお茶会の風景は、なかなかにパンチの効いた光景だったという。
主に三人の女性(?)がアーティスティックに荒縄で縛られた青年の一団を引き連れて奉仕させている姿は、後にその喫茶店の伝説になったとかならなかったとか。