タイトル:黒魔術研究会へようこそマスター:周利 芽乃香

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/01 21:35

●オープニング本文


 あるかもしれない。ないかもしれない。
 カンパネラ学園の生徒間でまことしやかに噂される同好会。
 その名も――黒魔術研究会。

●噂の同好会
 真実を知るものは誰もいない。
 何故なら真実を知ったが最後、今宵の生贄になってしまうのだから――

「いやいやいやーっ!」
 カンパネラ学園・講義棟の教室に、高城 ソニア(gz0347)の悲鳴が上がった。両手で耳を覆い固く目を閉じている。
 教室内の視線を集めてしまったのに苦笑して、級友はソニアの頭をぽふぽふ叩いて言った。
「こらこら。噂だってば。今時この噂でそこまで怖がるのなんて、高城くらいだよ?」
 剣と魔法の西洋系ファンタジーや童話を好むソニアだから、この手の話も好きなんじゃないかと思ったのにと級友はからから笑って付け足した。
「本当にあるなら、こんなに能力者が集まっていて気付かないはずがないじゃん。高城怖がり過ぎー」
「だって‥‥」
 講義に図書館、食堂と寮。最近は地下で訓練も始めたソニアだが、まだまだ学園には未訪の場所が多いのだ。
 それに、どこの学校にも七不思議のひとつやふたつはあるもので。
「ないんですよね? ほんとに黒魔術研究会はないんですよね!?」
 ソニアは半泣きで級友から確認を取った――というのに。

●迷い込んだ先は
 その日、いつものように図書館で本を借りたソニアは、気まぐれに学園内を散歩していた。読書に良い場所があったら借りた本を広げよう、そんな気持ちが少しばかりあったかもしれない。
 ともあれ、ほんの軽い気持ちで学園内を散策していて――迷子になった。
「あら‥‥ここは、どこ?」
 学園生活もうすぐ2年のはずなのに、そこが何処だかわからない。
 見渡しても見慣れた校舎があるようにしか思えないのに、廊下に面した教室のプレートは見覚えのない名が並んでいる。全講義が終わって皆退出したのだろう、辺りは人ひとりおらず気味悪い位に静まり返っていた。

 コツ、コツ、コツ――

「ほかの学年の校舎かしら‥‥」
 響く自分の足音が耳障りだ。独り言さえ冴え冴えと反響する。

 コツ、コツ、コツ――

 足音を立てながら廊下を端から端まで歩いてみる。
 誰か居残っているかもしれない。そしたら現在位置を尋ねて寮に戻ろう。

 コツ、コ――‥‥‥‥

 ドアの隙間から僅かに灯りが漏れている。
 いきなり開けるのは気が引けて、形ばかりにノックした後、ソニアはドアを開けた。
「失礼しま‥‥‥‥」
 講義用の一般教室なのだろうホワイトボードのほかには机と椅子しかないごくありふれた教室内で、黒いフードを被った人物が数名、小鍋をアルコールランプに掛けていた。ランプの火ごしに黒い物体が乗ったまな板と無骨な包丁が目に入る。
 鍋の湯がぐつぐつ煮え始めていた。
「「「見ーたーな‥‥‥」」」
「いやぁぁぁあぁあ!!!!!」

 校舎中にソニアの悲鳴が木霊した。

●参加者一覧

椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
椎野 ひかり(gb2026
17歳・♀・HD
リリナ(gc2236
15歳・♀・HA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●禁断の集い?
 教室の扉の前で立ち尽くすソニア。
 恐怖のあまりその場で立ち尽くしている彼女に、黒フードが無言で近付いた。開けっ放しになっている扉に手を掛ける。
 閉じ込められる! 咄嗟にソニアは人生の終焉を幻視した。
「‥‥い、いゃ‥‥」
 掠れる声を振り絞り、扉を閉めさせまいとするが膝が笑って動けない。
 その間にも黒フードは扉を閉め――ようとして、天井から降って来た謎の紳士に押し潰された!
「ぐぇぇぇ‥‥」
「くっ、俺様の華麗なる屋根裏の散歩者的なスニーキングが!? 不覚っ」
 天井から落ちてきた忍者、もとい村雨 紫狼(gc7632)は猫よろしくくるりと反転すると、華麗に着地を決めて「だがしかし!!」不敵に言い放つ。
「ふふふ! 初等部の幼女たんたちの生着替え見守りミッションは完遂っ」
 黒フード集団に向かってカメラ目線でポーズを決める。
 そのズボンの尻ポケットからは、育ち盛りの良い子が付ける綿の下着が無垢な輝きを見せている!
 こ、コイツは――!
「「「おまわりさーん!!!」」」
「ノオオオオー! ポリスメン&警備員ノオオオー!!」
 一斉に携帯を手にした一同に、紳士の叫びが重なって――

「なにごとっ!?」

 悲鳴に驚いて飛び込んできた椎野 ひかり(gb2026)、勢い余って入口で固まっていたソニアを押し倒してすっ転んだ。
「何ですの!?」
 自分が潰したソニアを助け起こして、彼女が涙目で示す方向を見れば、怪しい集団とポケットから下着を覗かせている如何にも覗き魔な男が一人。
 ショックで声も出せずに口をぱくぱくさせているソニアを庇うと、ひかりは教室内の怪しい集団に目を向けた。
 暖房の付いていない教室内は薄暗く、無断利用しているらしき事が伺える。正体を隠す為か皆一様にフード付の防寒具を着込んでおり、入口からでは表情はおろか誰かすらも判らなかった。
 すちゃっとノコギリアックスを構え、ひかりはのほほんと詰問した。
「あなたたち‥‥なにをしているのかしら〜 ‥‥返答次第でどうなるか、私でも判らないわよ〜」
 そう、詰問なのである。何故なら彼女の目は決して笑っていなかったのだから。
「弁明の弁を3文字以内で答えなさい〜!」

「‥‥ん」
「チョコ」
「ですヨ」

 フード集団の何人かが3文字以内で答え――今チョコって言わなかったか?
 ひかりが警戒を解かぬまま問い返す。
「チョコ、ですの‥‥?」
「‥‥ん。チョコ。だけど?」
「あらら、先輩を脅かしてしまった‥‥ソーリー」
「‥‥ら、ラサ、さん‥‥と、師匠?」
 涙目で座り込んでいるソニアに謝るフードさんは、ラサ・ジェネシス(gc2273)、続いて小柄なフードさん――最上 憐 (gb0002)がソニアを覗き込んでいた。

 閑話休題。
 悲鳴を聞いて駆けつけたリリナ(gc2236)のとりなしもあり、少女達のサバト疑惑は何とか晴れたようだ。
 空き教室を無断借用している事、チョコレートの凝固を真冬の室温に頼るしかない状況から、少女達は防寒の為に各々着込んでいた。フードを被っていたのはその方が暖かいからで、揃って黒だったのは偶々である。
「すみません、てっきり黒魔術研究会の皆さんだとばかり‥‥」
 恐縮するソニアの話を聞いた一同、微妙な表情で互いの顔を見合わせた。ラサが言った。
「黒魔術? 錬金術の方が近いカナ」
「‥‥やっぱり魔術の類なんですか!?」
 違う違うと一同。魔法も使わなければ、カエルも毒草も煮ていない。チョコレートを作っているのだと言う。
 フフフと不敵な笑み浮かべ、ラサは言う。
「このチョコがネ、3月になると約3倍の価値で戻って来るのですヨ」
「3倍の価値‥‥‥‥あ」
「あー、男の価値が試される日ね‥‥」
 遠い目をする紫狼。俗に言う、三倍返し――と言えば、バレンタイン&ホワイトデーだ!
 いや、三倍返しはええんよと紳士は言った。泣いている。声はなくとも紫狼は泣いていた。
「くっ、クリスマスに続き、またもや菓子屋の陰謀に踊らされるんだ‥‥!」
「あの、紫狼さん?」
 膝を付き絶望に吠える紫狼の嘆きは深い。
 これはもしや毎年苦戦しているのだろうか。などと少女達が考えたり考えなかったりしている間にも、紫狼は拳で床を叩いて慟哭する。
「ああそうさ!! バレンタインは審判の日! 俺達男は‥‥己の男の価値をっ! 否応なく突き付けられる事をっ! 強いられて‥‥いるん‥‥だっ‥‥!!!」
 あらら、遂に男泣きし始めた。
 男の人も大変なんですねと同情の眼差しを向け、ソニアはラサに言った。
「チョコレートは恋の魔法、錬金術、なんですね」
「‥‥去年はKV用ミサイルになって帰ってきましたガ」
 予想外のものに変化するのも錬金術らしいと言えばらしいかもしれない。
 パニック状態を脱してすっかり落ち着いたソニアが微笑を向けると、ラサはそう言って微妙な表情で応えたものだった。

 言われて改めて教室内を観察すれば、甘い香りに製菓道具が載っている。一般教室だったからガス水道は通っていないけれど、アルコールランプや給水用ポリタンクなどを持ち込んで簡易実習室状態になっていた。
 時期的にちょうど調理道具を持ち歩いていたリリナ、おずおずと参加を申し出た。
「学園のことはよくわからないのですが‥‥折角ですし混ぜて貰えませんか?」
「バレンタインですものね〜」
 勿論、皆に否やはない。
 作ろう作ろうと盛り上がる一同へ、彼女は控えめに、さりげなく、幸せ情報を補足した。
「えーっと‥‥バレンタインといいますか‥‥2月14日は大切な人の誕生日なので‥‥」
「おお、そうでしたカ! 頑張るのデス! この際なのでソニア先輩も一緒に作るのデス」
 更に盛り上がる少女達。ソニアも一同と共にリリナの幸せを一緒に喜んでいたのだが、いきなりラサに手を引かれ我に返る。
「え、わ、私もですか!?」
「‥‥ん。秘密を。知った。ソニアには。協力するか。チョコ。流し込みの刑を。施行して。口封じかな?」
 憐の言葉が冗談に思えない。言われるがままこくこくと頷いて、ソニアは教室無断利用の片棒を担ぐ事になったのだった。

●甘い香りと思い遣り
 暫し後。ひかりに呼び出された双子の妹は大層不機嫌に言った。
「それで‥‥いきなり呼び出して‥‥チョコ作れと」
「だってどうせ暇でしょ〜 料理上手だし〜 いいじゃない〜」
 対して姉は暢気なものだ。取り急ぎ用意して来た製菓道具を鞄から取り出しながら、椎野 のぞみ(ga8736)は怒りを姉にぶつけた。
「あんな電話だけで状況判断して準備できると思っているの‥‥まったく‥‥ボクにも限界あるの判れ、このばかひかり!」
「ばかとは失礼な〜 あ、ご紹介がまだでしたわ〜 この子は双子の妹ののぞみ〜 胸以外は似てるでしょ〜」
「一言余計だよー! ひーかーりー!いい加減にしろー!」
 何やかや言って似た者姉妹かもしれない。
 ひかりに手刀くれてやって、気を取り直したのぞみは笑顔で皆に挨拶した。その間も着々と準備は進んでいて、テーブルにはクッキングシートが敷かれ、上に様々な形のクッキー型が並べられていた。
「わ、可愛い‥‥」
 型の形を眺めているだけでもわくわくしてくるものだ。思わず呟いたソニアに、のぞみは明るく笑いかけた。
「とりあえず、溶かしたものを固めるだけなら、形とかのいろんな工夫が必要ですよっ」
 言って、ピンク色したハートチョコを型に1個落とした上へ溶かしたチョコを流し込んだ。無断借用中の一般教室に暖房は付いていなかったから暫く放置しておけば固まるだろう。
「瑞姫さんは‥‥その金型を使うのかな?」
 模型の金型を思わせるモールドを持ち込んでいた瑞姫・イェーガー(ga9347)に尋ねたところ、KVのピュアホワイトを作りたいのだと言う。
「ホワイトチョコレートにラズベリーゼリーを流し込んで作ろうかなって‥‥変形させられたら完璧だったんだけど‥‥」
 変形云々と言うだけあって、ピュアホワイトの金型はかなり精巧に出来ている。これは型抜き時に欠けてしまう危険も孕んでいるような。
 うーん、と少し考えて、ひかりはゼリーの流し込みはやめた方がいいかもと答えた。
「この教室で試作するにはちょっと難しいかもー チョコに後から色づけするのはどうかなっ」
 じゃあそうする、と瑞姫は予定変更に必要な材料を確かめて、弟の柿原 錬(gb1931)に連絡を始めた。

 料理好きの登場で、チョコレート試作会は大きく捗り始めた。
 溶かして固めるだけのチョコも、工夫次第で独自性を表現できる。のぞみのアドバイスもあって、チョコ試作の失敗率は大幅に下がっていった。
 皆の完成度が高くなってくると、物足りなくなってくるのはこの人。
「‥‥ん。遠慮無く。沢山。色々。試作してね。余っても。私が。ちゃんと。胃に案内するから。安心だよ」
 型を抜いている人の傍に付いて、じーっと行く末を見守っている憐。割れたり欠けたり固め損なったりしたチョコは、全て彼女の胃に直行だ。
 更に完成度を高めるのは、紫狼の男性視点でのアドバイス。
「うんとなー まず、野郎はだいたい甘いモン苦手だなあ。女子の手前ガンバって食うけど、けっこーキツイんだぜ?」
 なるほど確かにケーキバイキングの客層は女性が中心だ。思い遣りで食べて貰うばかりでは悪いから、実際に貰うならどんなチョコが良いか尋ねてみる。
 んー、と考えて紫狼は真面目に答えた。気のいい紳士である。
「味はビター気味で、大きさも一口サイズがいいな。齧るほどでかいのは、やっぱキツイ」
「ハート型もキツイ? チョコ以外にお勧めは?」
「小さいのならいいんじゃね? あと、本人が使える実用品なんかと一緒にくれると高感度高いぜ〜 コイツ、気が利くじゃん? みたいな」
 少女達は神妙に耳を傾けてメモを取っている。時折ペンが止まるのは、意中の相手の好みを推測しているのだろう。
 多少紳士ではあるが歴とした男性から情報提供が行われているその向こうでは、姉と弟が高難易度チョコの作成中。
 姉に呼び出された錬が、不機嫌な顔で金型を手に取った。
「もう、姉さんたら‥‥ボクだって忙しいんだからさ。何これ」
「ピュアホワイトの金型、AU−KV全機のやつも。男の子が好きそうでしょ。変形できるようにしたかったんだけど‥‥」
 チョコ作る少女というより寧ろプラモ作る少年と言った様子の瑞姫に、錬は苦笑した。
「姉さん‥‥女の人らしくしようとして‥‥ピント、ずれてるよ」
 それにしても何故だろうと錬は考える。
 他の国だと甘い物好きに性別は関係ないし、パティシエという職業だってある。なのに、一般的に男性は甘い物が苦手とされているだなんて――見た目ほぼ少女の錬には理解しがたい領域のようだ。

「リリナ殿‥‥オリジナルを追及するのはいいケド、先ずは基礎からだヨ」
 ラサのアドバイスに従って、リリナは慎重にチョコを湯煎に掛けてゆく。
(大丈夫、大丈夫‥‥)
 真剣に作業を進めるリリナがそう自身に言い聞かせるのは、過去に暗黒物質を生成してしまった事があるからだ。
 幸い上手く溶かせたようで、綺麗な艶を帯びたチョコを置き、次は型。リリナはハート型と星型を手に取った。
「ハートは2個でありますカ?」
「はい、感謝と愛を込めて‥‥です」
 ひとつは言わずもがな恋人の分だが、もうひとつはいつもお世話になっているラサその人の分だ。
 手渡すまではまだ内緒。頷いて慎重にチョコを流し込む。
 大丈夫、溶かして流すだけだから。あとは気持ちでカバーできる! 大丈夫、大丈夫――
 一方、先に実演してみせていたのぞみのチョコは既に固まっている。型から取り出されたチョコレートは、ピンクのハート型がアクセントになった愛らしいもので。
「あ、あたしにも‥‥できますか?」
 恐る恐る尋ねたリリナに、のぞみは今なら大丈夫と金平糖を散らす方法を勧めた。チョコを零さないように慎重に砂糖の星を散らして――あとは固まるのを待つのみだ。
「味見は任せてですわ〜」
 試食専門のひかりは、あちこち回ってひとつづつつまみ食い。ソニアが作っていたアーモンドチョコを摘んで――何だか微妙な顔をした。
「‥‥へ、変ですか!?」
「なんだか甘じょっぱいですわよ〜?」
 言われてソニアも一つ口に入れる。憐にも勧めて噛み砕き、何とも言えない顔になった。
「‥‥‥‥」
「‥‥ん。ソニア。おつまみアーモンド。入れたね?」
 どうやらそのようだ。
 アーモンドの小袋パッケージを確認して絶句するソニア――という事は。
「ああっ、ピーナッツチョコレートも!!」
 大量の失敗作を生み出して、ソニアが頭を抱えた瞬間だった――

 その後、型抜きチョコレートが固まるまでの間、余った溶かしチョコを使って一工夫。
「チョコフォンデュにしよう!」
 片付けた机の上に大皿を載せるのぞみ。何時の間に用意していたのか、カットフルーツや一口大のパンが盛ってある。
 皆思い思いにチョコフォンデュを楽しみながら、頃合を見てチョコを型から出していった。

「‥‥ん。丁度。メロンパンが。あるから。チョコで強化して。チョコメロンパンにしようかな」
 今日に限って購買でカレーパンでなくメロンパンを大人買いした憐、メロンパンをチョコでコーティング。
 あれだけチョコの試食をしたのに、涼しい顔してチョコメロンパンを頬張る憐はさすがだ。
 ソニアが感心して眺めていると、ラサが羨望の眼差しを投げた。
「しかし憐殿はアレだけ食べたのに体形が変わらないとは‥‥羨ましいなぁ」
「‥‥ん。ソニア。実戦デビューを。目論んでいるなら。ちゃんと。糖分とか。栄養を。摂った方が。良いよ」
「‥‥そ、そうなんですか!?」
「‥‥ん。実戦は。ハードだから」
「はい!」
 実戦経験のない傭兵学生、素直に信じた。カットリンゴにチョコを絡めてせっせと食べ始める。
 ひかりは次々と錬の口に放り込んでいる横で、のぞみが瑞姫に友チョコを手渡していた。
「また男の子が落ち込んで〜 しゃきっとしなさい!」
「ちょっと早いけど。あ、そうそう。そのチョコ、カフェイン抜きだからねっ。それと、大事な時期なんだから体重管理には気をつけて‥‥」
 込められた妊娠おめでとうの想い、少々小言めいた言葉も心配が故なのだ。
「おいおい、憐たん以外はチョーシ乗るとぷにるぞ〜」
「そうでありますヨ、我輩その辺走ってこよウ‥‥リリナ殿も行ク?」
 教室を出ようとしたラサ、リリナに呼び止められ問うた。
 いいえと首を振ったリリナが差し出したのはハート型のチョコレート。
「我輩に?」
「と、とりあえず無事に出来ました‥‥ので」
 一個は彼の分、そしてもう一個はラサの分だから。
 金平糖をあしらったチョコレートに心を託しリリナは微笑んだ。大切な友へ、親愛と感謝を込めて。