タイトル:在校生に救いの手をマスター:周利 芽乃香

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/11 21:37

●オープニング本文


 えと、その、あの‥‥
 わ、私に聞かれても‥‥すみません‥‥

●案内求む
 高城 ソニア(gz0347) がオロオロしていた。
 彼女がおどおどしているのは日常茶飯事だ。分厚い本を胸に抱えた小柄なソニアが学園内でオロオロしているのはある意味平常運転、毎度の事と言える為、学生達も然して不審には思わず気に留める様子はない。
 しかし、ソニアは困っていた。新入生を前に困っていた。
「先輩が使っている場所でいいんで、案内してください!」
 新入生――真新しい学園章が初々しい彼は、この気弱そうな『先輩』に訓練施設の場所を訊いていた。

 大声で話している訳ではない、会話内容を知らぬ周囲にはごく普通の世間話中くらいにしか見えていないだろう――しかし。
 不幸なのは尋ねる相手を間違えた新入生と、いまだ模擬戦すらしておらぬ能力者未満の在校生であった。
(どうしましょう‥‥)
 私、図書館と食堂しか知りません――とは、さすがに言い出せず。
「ええと、その‥‥」
 視線を彷徨わせたソニアは、助けてくれそうな能力者と目が合った。

 た す け て く だ さ い 。

 ――ソニアの要請に応じるか否かは、あなた次第である。

●参加者一覧

最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
デモン・イノサンス(gc6431
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

●遭遇
 カンパネラ学園には個性的な学生が大勢集う。
 そもそも能力者自体が個性的な人間の集まりと言えるかもしれないが、ともかく多少挙動不審なくらいではそうそう目立つ事もない。
「日本の大学よりも、やはり能力者向けの造りだな‥‥む?」
 編入手続きの為に訪れていた天空橋 雅(gc0864)が、頼りなさげな学生と目が合ったのは、ほんの偶然に過ぎなかった。
 ――新入生だろうか。
 制服を着ているし学園生に違いはなかろうが、どうにも危うい頼りなさを感じる辺り、まだ傭兵としても駆け出しの新入生なのだろう。
「どうした、道に迷ったのか?」
 新入生なら、さもありなん。
 尤も――声を掛けてみれば既に学園生活2年目に入る先輩だったのだが。
 しかも、胸に本を抱えた先輩は訓練施設の場所を知りたいのだと言う。初々しいにも程があった。
(この1年、何をしていたのだろう)
 まさか1年間聴講と読書に明け暮れていたとは考えもしなかったが、目の前にいる先輩が、傭兵として色々と足りないものを補う必要がある事は何となく判る。
「そうか、訓練施設には私も興味があるし、同行しよう。案内図を見た限りでは、向こうだな」
 編入手続き時に貰った案内図が在校生を案内するのに役立つとは。
 ともあれ編入生に案内されて移動を始める新入生と在校生が各一名。そこへ聴講生が加わった。
「よぅ、訓練施設に行くのか? 良けりゃ、俺様も案内してやんよ」
 案内図片手に新入生達が移動中だとばかり思って声を掛けたテト・シュタイナー(gb5138)、中に在校生が約一名混ざっている事に頬を掻く。
(‥‥放っておけねーな、こりゃ)
 口は荒っぽいが、心根は優しい娘であった。
「それは助かる。案内図の、この方向へ向かっているというので間違いないな?」
 雅の問いに応とこたえると、テトは今にも先に駆け出しそうな新入生の少年を引き止めた。急いてまで訓練施設へ向かう理由を問えば、少年は新たに得た力が気になるのだとか。
「それで身体を動かしてみてぇのか。気持ちはよっく分かるぜ」
 見るからに直行型の少年へにやりと返す。
 偶然判ったエミタへの適合、そこから始まる新しい世界。
 全人類の内、エミタに拒絶反応を示さぬ者は稀である。多くの人間にとって適合者がどのように見えるものか――テトはそれを知っている。
 この少年もまた、超人的な能力に希望や期待を抱いているのだろう。だから今は新たな能力者の誕生を、応援してやりたかった。

 廊下の向こうから大量のメロンパンを抱えた人物がやって来る。
「何やら困ってますオーラが漂って来ますね‥‥」
 メロンパンの向こうから少女の声がした。
 声の主は購買へ納入に訪れた業者――ではなく、買占めに成功した最上 空(gb3976)だ。
「そこの人、導いてあげますからメロンパン持ってください」
「はあ‥‥」
 言われるがまま、ソニアはメロンパンを全部持ってやる。途端に鼻孔が甘い匂いで満たされた。
「あげませんよ。購買のメロンパンはオススメですが、これは空のものです。購買で見つけたら買ってみると良いですよ。空に勝てたら、ですけど」
「へぇ、この学園も普通の学校と変らないんだな」
 元いた学校では焼きそばパン争奪戦が熱かった――などと新入生は素直に感心しているが、一般人のそれと能力者のそれでは次元が違う事は、近い内に思い知るだろう。
 図書館の近くでデモン・イノサンス(gc6431)と合流した一行は、案内を兼ねた世間話をしながら歩く。
「どこかで見覚えがある気がするのですが‥‥あなたは新入生ではありませんわよね」
 在校生ならば何故訓練施設の場所を知らないのだろう。
 デモンの素朴な疑問は、ソニアを大いに恥じ入らせた――ごく稀に、このような学園生もいるという事か。
(何と言うか‥‥このまま戦場に出たら、初戦でキメラに食べられるか、2戦目で強化人間その5にされてしまいかねんな‥‥)
 我ながら酷い印象だとは思う雅だが、ソニアの言動はどう見ても新入生以上に一般人臭くて危機感を覚えずにはいられない。
 そんな雅の思惑など露知らず、ソニアは学園の耳より情報にひたすら感心していた。
「一部の生徒しか知らない裏購買‥‥珍しい本なども扱っているでしょうか」
「高城様は本が大好きですのね」
 自身もまた図書館に入り浸っているというデモンだが、彼女にとって読書は趣味というよりも退屈凌ぎの手段でしかないせいか、本というだけで瞳を輝かせるソニアは少し変わって見える。
新入生の興味は学生食堂に存在すると噂の裏メニューだ。
「最上先輩は裏メニュー食べた事あるんスか?」
「何せレアですからね‥‥そうそう、空は訓練用備品を取りに行って来ますよ」
 空は曖昧に返事すると、一行と別れた。
 訓練施設が近付くにつれ、すれ違う人の様相が変わってきた。学園生活の賑やかさも残してはいたが、緊張感が違っている。皆、差こそあれ傭兵の顔をしているのだ。
 一人場違いな気分になり始めていたソニアに、男子制服の学園生が気付いて声を掛けてきた。
「ええと、君は‥‥高城ソニア君、だっけ? どうしたの」
 白銀の髪に中性的な顔立ちで男子制服――しかしその声は少女のもので。
 日課で訓練施設を訪れていた御剣 薙(gc2904)も丁度これから訓練なのだと言う。
「せっかくだから、地下の施設の配置も説明しておこうか」
 歩きつつ、案内図と場所を照らし合わせて流す程度に説明しておく。どこでも迷子のソニアはともかく、真剣な表情で耳を傾けていた新入生の頭には記憶として残ったに違いない。

●手にしたチカラ
 到着して手続きなどの仕度をしていると、ふらりと現れた者がいる。
「久しぶりだな、高城。珍しい所にいるじゃないかぁ」
 ソニアに手作りクッキーを差し入れに来たレインウォーカー(gc2524)、図書館に行けば会えるかと学園に来たものの、ソニアを探して此処までやって来たらしい。
 事の経緯と成り行きを聞いたレインウォーカーは苦笑した。
「どうやら相変わらずみたいだな、お前はぁ。まぁ、そういう事なら、ついでに模擬戦の相手もしてやるよぉ」
 血気に逸る未熟者を誘う。未成年女子の中に現れた能力者の青年に、いまだ能力者の上辺しか知らない少年は大喜びでその誘いに乗った。
 目を輝かせた新入生の少年に不敵に笑んで、レインウォーカーは自前の武器を置き、代わりに訓練用の傭兵刀を手に取った。
「来いよ」
 本心の読めない笑みを浮かべた道化が、ほんの僅かに滲ませた凄みに気付いたのは実戦経験者のみだ。そしてその凄みに優しさを含んでいる事も。
「ま、怪我したら俺様が治してやっからよ、思いっきりやってこいや」
 テトが新入生の背をばしばし叩いて送り出した。

 少年の拳が宙を掻く。ただ立っているだけにしか見えないのに、これ以上ないというほど狙っているのに、少年の攻撃は彼にかすりもしなかった。
「くそっ、全然当たんねえ!」
「どうした、もう息が上がって来てねぇかぁ?」
 無駄な力が入りすぎた渾身の一撃を、レインウォーカーは道端の障害物を避けるのと同じくらいのさりげなさでさらりと避けた。
 派手に空振りした勢いで倒れ込んだ少年は、息を荒らげて悔しがっている。負けん気の強さだけは一人前だねぇ、などと呟いた彼はどことなく楽しそうだ。
「さすが余裕ですね、レインさん‥‥」
 現役能力者の動きに目を見張るのは新入生だけではない。本来とうの昔に出征していなければならないはずのソニアもまた、呆気に取られて模擬戦を見学していた。
「そりゃあ格が違い過ぎるだろう」
 ソニアの隣で新入生の練力消費を気遣いつつ見学していた雅の言う通りだ。
 雅は「そう言えば」と在校生へ水を向けた。
「高城君は、今はAU−KVがないそうだが」
「‥‥はい」
 どうやら先日ショップで売り払ってしまったらしい。
 らしい、という曖昧な表現なのは、当の本人が売った事すら覚えていない為である。
 そんな事があるのですかとデモンは信じられないといった表情でソニアを見、続いておっとりと微笑んだ。清楚な花が開いたかのような華やぎを添えて、デモンは言った。
「それでは、決める所から始めた方が良さそうですね」
 戦わずに一年を過ごした在校生は未だ自身の戦い方を確立していない。戦闘スタイルから決める必要がありそうだ。
「ドラグーンか…。使うAU−KV次第じゃ、超機械って選択肢も出てくるだろうな」
 明らかに超機械とは何ですかな顔をしているソニアへ、テトが自身の武器を示す。『スティングレイ』と名付けられたブーメラン型の超機械だ。使ってみるかと勧めてみたが、ソニアはびくびくしている。
「‥‥いえ、扱い切れないような、気が」
(確かに、高城様はご自身で撃った銃の音に吃驚して銃を取り落としそうではありますね)
 的確過ぎる想像をありありと思い浮かべたデモン。
 まあそう言わずにと、雅は機械剣を差し出した。
「武器の扱いくらいは覚えておいて損はないぞ」
 玩具を思わせるカラフルな装飾が武器への恐怖を和らげる。思わず受け取ったソニアに起動方法を教え、構えてみるよう勧めた。
(私が持つより、見た目は似合っているな)
 御伽噺の名を冠する機械剣はファンシーで愛らしい。気弱なソニアが持つと、ありがちな物語に出てくる、異世界に召喚された少女のように見えた。
 試斬用の置き藁を示して剣を使うよう指示する。必要以上に強張っているソニアに肩の力を抜くよう言うと、雅は落ち着いた声で言った。
「実体剣と違って力はいらない、目標を切ることだけ考えて振るうんだ」
「‥‥はい」
 緊張に掠れた声で返事して、据え置きの巻藁へ意識を集中する――藁が斬れるさまを頭に思い浮かべ、おもむろに剣を振った。
 テトの声で成功に気付く。
「おー、やったじゃん。斬れてるぜ。んじゃ、その調子で俺様のスティングレイを使ってみるか?」
 安堵の息を吐いたソニアは今度は断らなかった――が。
「きゃぁ!!」
 あらぬ方向へ薄刃を飛ばしては、きゃーきゃー叫んでいる。戦場でこれだと味方にまで殴られそうだ。
 しかし真剣に対峙しているのは事実らしく、最初のうちこそ怖がっていたものの繰り返すうちに少しは慣れてきたらしい。少なくとも無駄声を出さなくなってきた。
「訓練を続ければきっと上手くなっていくよ」
 薙はそう言って、取得スキルはどうするのかと尋ねた。
 KV戦闘の経験しかないがと前置きして、デモンは本や訓練、小隊で同僚から聞いた知識情報を述べてゆく。
「高城様は後衛で援護が合いそうに思えますわ。いかがでしょうか」
「援護、ですか‥‥?」
 鸚鵡返しに繰り返して思案しているソニアをひとまず置いておいて、デモンは薙の意見を尋ねてみた。
「戦闘法と使う武器によって強化スキルは変わって来るけど‥‥個人的な感覚では竜の翼は必須スキルかな」
 戦闘法に合わせたスキル名を挙げてゆく薙の話に耳を傾けるドラグーン2名。
 一通り説明を聞いたソニアは、超機械や弓を使った後衛を目指す事にしたようだ。4つほどスキル名をメモすると後で取得して来ますと頭を下げた。

 一方、模擬戦は佳境を迎えていた。
「さぁて。これから現実を教えてやるよぉ。終わった後に立ち止まるか、前へ進むかを決めるのはお前だぁ」
 独特の間延びした物言いだが、やっている事は容赦ない。
 無論レインウォーカーとて手加減してはいるのだが、それでも力の差はあり過ぎた。だからと言って彼には新入生に負けてやる義理もない。ここが戦場ならば、力量差はそのまま死に直結する。
「ちっとは考えなぁ」
 ただ闇雲に撃ってくる新入生の拳を容易く受け流し、足の速さを自負している彼を上回る動きで翻弄する。
 武器を防御にしか使わないのがレインウォーカーなりの手心のようだった。しかし次の瞬間、その武器さえも手放した――ように見えた。
 その行動に戸惑ったのは2人だけだ。ひとりは見学中のソニア、もうひとりは模擬戦の相手である新入生。
「‥‥何でだよ!」
 新入生の叫びに雅は「違う」短く呟いたが、頭に血が上った少年の耳には届かない。如何に己が未熟と言えども馬鹿にし過ぎているのではないか。そう解釈した新入生は激昂してレインウォーカーに掴みかかった。
「嗤え」
 一連の動きは手放した武器を基点にしたマリオネットを思わせた。
 風に靡く柳の葉のように、無機質に告げた道化が少年をさらりと避けた。そのまま足払いを仕掛け、前のめりになった少年の肩へ足を振り下ろす。派手な音を立てて倒れた少年に向かってテトが駆け寄ったのが終了の合図となった。
 負けた悔しさを滲ませる少年に近付いたレインウォーカーは汗ひとつかいていない。ソニアにも手招きして、二人の初心者に忠告した。
「お前がこれからどうするか、何を目指すか。それはボクにとってはどうでもいい。だけどひとつだけ覚えておけ。この力は簡単に人を殺せると言う事を。それを忘れるなよぉ」
(人を殺せる力‥‥)
 常に笑みを浮かべている人の、いつにない真剣な表情。
 戦地で何かあったのかもしれない――ただごとならぬものを感じ取って、ソニアはその言葉を心に刻んだ。

「まあ頑張った方じゃないですか! お疲れ様でしたよ」
 模擬戦中に合流した空が少年を労ってやる。腕一杯に抱えているのは衣服だ。
 今度は私がお二人にお教えしますよと、空は本部で受けられる依頼について説明を始めた。
「依頼を解決するのも能力者の大切な仕事です。依頼にはキメラを倒すとかの戦闘依頼以外にも、困っている人を助けるといった物もあります」
「人助けは大切っスね!」
 敗北の憔悴から復活した少年が、にこやかに合いの手を入れる。
 例えば、と空は続けた。
「絵のモデルになってくれとか、写真撮影したいから被写体になってくれとか、一見『何でコンナのが依頼に来るんだ?』と言ったものも、困っている人が出したSOSなのです」
 例に挙げた依頼内容に何か思い当たる事があるのか、一部の者は首を傾げたが、新入生達は素直に聞いているので問題ない。
「なので、普段から臨機応変に突発的な依頼に対応出来る様にならなければなりません!」
「「なるほど!」」
「‥‥という訳で、貴方は上半身裸になって、この半ズボンを履いて下さい!! あっ! 靴下は履いたままで! ソニアはこのナース服を!」
 ――要するに、モデルや被写体を求めているのは空だった。

 乗り気で脱衣を始めた少年と、さすがに躊躇いを見せ始めたソニアをけしかける空を生温かい眼差しで眺める能力者達。
「ああ、そうだ。クッキーを焼いてきたんだった。後で一緒に食べるとしようじゃないか。先に行ってるぞぉ」
 ひらひら手を振って、レインウォーカーが皆を連れて訓練場を出てゆく。
 なお――残された2人のコスプレ大会は、空がきっちり記録に残したとか‥‥