●リプレイ本文
●空中戦
『ポーン、ポーン』アラームが鳴り響く
「不味いです! まっすぐに、E2Cの方に向かっています!」
シェリル・シンクレア(
ga0749)は悲鳴の様な声を上げる。
(「間に合って!」)そう祈りを込めるとシェリルはブーストを発動させる。
刹那、強烈な加速度が身体に襲いかかる。頭髪がふわり舞い上がり黒くきらめいた。
レーダースコープには一直線にE2Cに向かってくるブリップが映し出されていた。
「機長! 一大事です! 敵ヘルメットワームが此方に向かってきます!」
「緊急退避!!」
機長が命じると、機体は大きく旋回を始める。しかし、レーダーの映し出すブリップは、急速に両者の距離を縮めてゆく。
その時だった、空に白い筋が伸び、ヘルメットワームに吸い込まれるように命中すると爆煙が広がる。
シェリルの放ったミサイルだった。
「ターゲットインサイト、いけッ!」
続けて追いついた、赤村 咲(
ga1042)の放ったミサイルも続けて命中する。
間を置かずに、さらに、もう一発が命中し、中型のヘルメットワームは少しぐらついたかのように見えた。
「これ以上バグアの連中に好き勝手はさせないぜ! ‥‥がはっ!!」
煉条トヲイ(
ga0236)が、ミサイルの命中を確信した瞬間! ヘルメットワームは虹色の光線を撃ち返してくる。
光線はやすやすとトヲイの機体の装甲の4分の1程度を削りとる。機体の損傷を警告するアラームが一斉に鳴り響く。トヲイの額に汗がにじんだ。
「以外におおきいですな‥‥」
咲はボソリと呟く。
姿を現したヘルメットワームは、小型をふたまわり程大きくした感じであり、画像の資料で見る通常の茶色のものとは異なり、紺色である。理由は分からない。
ヘルメットワームの各種情報は、未来科学研究所などを中心に、研究が進められているものの、未知の部分が多い。
体勢を戻したヘルメットワームであったが、盛大な爆煙に包まれて吹き飛ばされる。
「ミサイルの大売り出しだ。遠慮せずに全部受け取ってくれよッ!」
少し遅れて、到着した翠の肥満(
ga2348)が言った。
「あの〜だいじょうぶですか?」
シェリルはE2Cに呼びかける。
「ありがとう! 感謝する。ホークアイ02健在だ! 予定通り攻撃隊を誘導する」
もし、誰もE2Cの事を、気に留めて居なければ、最初の一撃での撃墜は、避けられないものであっただろう。
「貴官等の健闘を祈る‥‥!」
トヲイが言った。
「死地を彷徨って‥‥お陰なのか、生への執着が強くなったみたいね‥‥」
アリス(
ga1649)は傷跡に手を当てて言う。人類の殆どが、今はバグアという力に震えることしかできない。しかし自分たち能力者はバグアに抗う力をもっている。
だから生きなければならない、そして役目を果たさねば‥‥と、思う。
強い力を使うには強い心が必要である。心無き力は遠からず暴走し、弱すぎる心はやがて自身を滅ぼす刃となる。力の大きさに比例して背負う十字架も大きくなり、その重みに耐えきれるものだけが、福音に到達することができる。
「B班が、うまくやったみたいね」
御山・アキラ(
ga0532)が言う。
「こちら『クロック』です。攻撃隊も、爆撃態勢にはいったようですね」
麓みゆり(
ga2049)はそう言うと、深いエメラルドグリーンに変じた瞳をあげて空戦モニターに視線を移す。
「確実に当てるんだ! 攻撃隊をやらせるわけにはいかないからな」
紳士狙撃手 エミール・ゲイジ(
ga0181)は言う。
エミールの機体には、必殺の『試作型帯電粒子加速砲』が搭載されていた。
絶大な威力を誇る反面、機体への負担は極めて大きく、しかも射撃直後の一定時間は他の武装が一切使用不能なるという重大な欠陥をもつ品である。エミールは攻撃隊のパイロットたちの事を思い出す。
もし、外す様な事があれば‥‥どうしよう。いつしか額に脂汗が滲んでいた。
■少年たち
ここで一旦、出発前へと時間を戻す。
基地でのミーティングでは、4機ずつの2編隊。A隊、B隊に分かれての戦闘が決定されていた。
「それじゃ、これでいいですね」
アキラがホワイトボードに隊の編成を纏めて書く。長いブレストの末にA隊が、敵を惹きつけ、B隊が一気に打撃を与える方針が纏まっていた。
(「あ、あぶなかったわ」)
AとB。隊の編成を危うく違えそうになっていたアリスは、冷汗を浮かべて思う。既成概念‥‥思い込みとも言うが、一つの事に集中するとどんなに優秀な人間でもミスを犯すことがある。だからこそ、信頼できる仲間の存在は重要なのである。
傭兵たちの機体には最新の武装が搭載され、生存性を高める装備も充実していた。今回、集まった機体は、一般の傭兵たちの中ではトップクラスの性能を誇ると言える。
そんな機体をもの珍しそうに眺める少年たちが居た。年の頃は十六、七歳といった感じで、口々に『すげぇ!』『アレは何だろう?』と話している。
中でも特に興味を持っているのは、『試作型帯電粒子加速砲』や『3.2cm高分子レーザー砲』といった次世代兵装のようである。能力者たちの一行が、近付いてくると少年たちは蜘蛛の子を散らすように機体から離れて行く。言葉を交わす事はなかったが、少年たちの着衣はパイロットの飛行服であった。
攻撃隊の大半が訓練を済ませたばかりの少年たちであった。
平和だった時代の感覚は遠い昔のものとなり果てていた。
「何としても、護ってあげなくては! あの子達をみすみす死なせるわけには行かないでしょう?」
みゆりは言う。声の中に揺れた時代の暗部が翳を伸ばしてくる。
「必ず奴等も、生きて返すんだ!」
トヲイが叩きつけるように言った。
そして、能力者たちの中にも、平和な時代であれば、到底理解できない年齢で武器を取る者も少なくなかった。但し、シェリルの場合は、成人しているらしいとの噂がある。
■つづく戦い
A隊の攻撃が功を奏して、敵ヘルメットワームは、A隊を標的に定め釣られるように高度を上昇してゆく。
「ぎゃぁぁっ!!」
翠の肥満がこわばった悲鳴を上げる。2度目の被弾のダメージは大きく、機体の損傷率は50%を超えていた。
「一方的な戦い方が、僕の性には合ってるんだよ!」
鳴り響くアラームに耐えながら、ホーミングミサイルを撃ち返すと、機体を立て直す。既にミサイルポッドは撃ち尽くしていた。
「さて、どう動きますかね」
同じく、機体の損傷が50%に到達していた咲が震える声で言うと、レーザーを放つ。ヘルメットワームは少し弾き飛ばされるような動きを見せる。
「さてさて〜ヘルメットワームさんも、私たちに付き合ってくれてるしあと少しですね〜」
シェリルは、軽い感じの口調で言うと、非常に真面目な表情を浮かべて頷く。
A隊各機は、強化された機体であったために、中型ヘルメットワームと互角に渡り合うことができてはいた。しかし、損傷は大きく、危うい橋を渡っていると言えた。
刹那、上空から放たれた3発のレーザーがヘルメットワームに命中する。突然の打撃に体勢を崩す。
待ち構えていたB隊がいよいよ攻撃を開始したのだ。
「バグアが‥‥これ以上は図に乗らせんぞ!」
アキラが、刺すような口調で言う。
「いまだ!」
この瞬間にすべてを賭けたエミールが荷電粒子砲を放つ。光を放つ槍にも見える筋がヘルメットワームにまっすぐに飛翔しそのまま突き刺さる。雷のような閃光を飛び散らせ、大爆発を起こす。
「やったか? こういう大物狙いのほうが性に合ってるんでね」
得意げに呟くエミール。刹那、爆煙の中から飛んでくる虹色の光線が彼の機体に直撃する。
エミールの渾身の一撃を喰らってもヘルメットワームは飛び続けていた。
損傷70%には到達していなかったが、エミールの機体が深刻なダメージを受けた事を示すアラームが一斉に鳴り響く。
一方のヘルメットワームも、かなり大きなダメージを受けている事は間違いはなかったが、撃墜するには、荷電粒子砲であっても数発は当てる必要があるようだ。
現状、KVに装備できる武器で、一撃でヘルメットワームを墜とせる程の威力を持つものは開発されていない。
「‥‥流石に手強い。デカい図体には、それなりの理由がある‥‥と言う訳か」
トヲイが呟く。
「きっとあと少しですよ! もうひと頑張りです!」
みゆりが機体を横滑りさせるように敵に接近するとガドリングを放つ。
「近づきすぎると危ない! 気を付けて!」
咲はそう言うと、レーザーを放つ。間もなく攻撃隊の爆撃も始まろうとしていた。持てる力を出し切ってでも早く決着をつけたい所だった。
「ここで立ち止まるわけには、ゆきませんしね!」
アリスが言う。あきらめずに頑張れば、なんとかなってしまう事もある。
能力者たちの思いを乗せて‥‥放たれた攻撃が、ヘルメットワームに収束して行く。
閃光、そして雷鳴のような爆発音を轟かせて、ヘルメットワームは爆発する。バラバラに砕けた破片がひらひらと舞うように落下して行くのが見えた。
「任務完了。貴官等の健闘を祈る‥‥」
トヲイが発信する。
その時、攻撃隊の爆撃が開始される。
キメラの上空を通過する攻撃機が爆弾を投下すると、弾体はすぐに弾け細かい爆弾に分かれて落下してゆく。弾体はキメラの飛行する高度に達すると焔を巻き上げる。キメラのフォースフィールド一斉に展開される。
勿論、通常の爆発や焔だけでは、キメラを焼き尽くす事はできない。もし、SESが開発されていなければ人類は遠い昔に敗北していただろう。
第二派、第三派、第四派。10機編隊が合計4回の爆撃を完了し空域を離脱してゆく。
大雑把な攻撃であるため、せん滅する事はできていないが、キメラの群れは数を大きく減じていた。そして、主であるヘルメットワームを失なったせいなのか? 攻撃による混乱かは分らないが、残ったキメラもバラバラに飛ぶばかりである。
みゆりはそんなキメラの様子を確認すると、ガドリング弾を撃ち込んでゆく。シェリルも残っていたロケット弾を撃ち込む。
「せめて攻撃出力と命中精度のチューンを‥‥いや、自分の操縦技術を上げるほうが先だな」
アキラは遠くを見つめて言う。
キメラによる砲撃で傷ついた機体もあったが、攻撃隊は全機の帰還に成功していた。
誰もが手を取り合って喜んでいた。
帰還してくる能力者たちを大歓声が迎えるのは間もなくの事であった。