タイトル:PT−054の戦いマスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/27 01:46

●オープニング本文


●モスクワ市某所
老人は満面の笑みで蝶番のついたベニヤ板を開く。板は将棋盤であり、9×9のマス目が描かれている。
「ソフィア君、一局どうかね」
 駒の入った紙箱の蓋を開くと、逆さに向けて盤上に置き、箱だけを持ち上げる。瞬間、カタカタと軽い音を立てて盤上に駒の小山があらわれる。
「仕方ないですね? でも、何でモスクワまで来て将棋しなきゃいけないのですか?」
 ソフィア・ブレア(gz0094)はちょっぴりあきれたような口調で天を見上げる。
「将棋はよい。この不自由さがインスピレーションを刺激してくれる」
 老人の名はアレクセイ・スミスロフ博士。航空機デザイン一筋65年の漢である。

『パシッ!』
「それじゃ、全く駄目だな。▲2四角」
 将棋を指しながら、流行のマルチロールファイターついて語り合う2人。
 機体の性能で勝敗が決するならば少しでも良い機体に乗りたいだろう。なにが駄目なのか?
『パシッ!』
 ソフィアは反感をこめて打つ。
「△同金ですね」
『パシッ!』
「構造が複雑すぎる。整備作業に取られる人手を考えた事があるか? ▲1四歩」
 ラストホープ島は、巨大な格納庫やショップ、一部のメガコーポレーションの出店などの存在により最新のテクノロジの恩恵を受けることのでき、アレクセイ博士の言うような心配は無用だ。
『ペチッ』
 形勢がまずいのか音が変である。
「確かに博士の仰ることは尤もですが‥‥△同金しか無さそうですね」
 しかし、整備の行き届かない場所での長期間の任務になったら、複雑な整備を要する機体が荒っぽい整備を受けたとしたなら。実用に足る稼働率を維持できるのだろうか?
『パシシッ!』
「機体の投資に見合った報酬をもらってるのか? ▲同馬」
 刹那、アレクセイはにやりと笑った。
「そ、それは‥‥△同玉しか無いじゃないですか」
 ソフィアがワイバーンに掛けた金額は約300万C。
 一方得た報酬は推定で掛けたお金の10分の1程度。
「▲2四金‥‥詰みだな」
「べ、べつに悔しくなんてないですよ!」
 ソフィアの負け惜しみが炸裂した。

●PT−054
 やや細長の胴体にデルタ翼。一昔前の懐かしいデザインである。
 新たに開発されたエンジンブレードによりエンジンの耐久性が上がり、そのお陰でエンジン構造をより合理的に再設計することができた。
 ソフィアはPT−054を現行のKVよりも少し華奢であると感じた。
「何事も特徴を生かすためのバランスが肝要だ」
 戦場では瞬間的な判断をすばやく行動に反映させなければならない。全てに高性能であることは時に判断を迷わせる。
 あらゆる条件下での即応性を高める垂直離陸能力。
 あらゆる敵に一撃を与えるチャンスを生み出す為に開発されたブースト制御システム。
 ストームブリンガーと呼ばれ、ブースト時の機体を安定制御を可能にする事が出来るはずだ。 
「‥‥というわけだ、キーロフの防空戦に参加して貰えないか?」
「いつもいきなりなのですね?」

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
束祭 智重(gb4014
21歳・♂・SN
瀬生 りお(gb4029
19歳・♀・EL
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●氷に閉ざされた世界
 降りしきる雪は、激しさを増してきた。風が吹き、見渡す限りの白い世界。
「ロジーナかぁ‥‥垂直離発着機に乗るのは初めてだけど、頑張ってみるよ」
 クリア・サーレク(ga4864)は雪を踏みしめて歩く。あったかい筈の手袋の中にも寒さが染み込んでくる。
「寒いですね! でも、新しい機体にも乗れるし、ロジーナはどんな奴だろう。楽しみだな♪」
 駆け出すアーサー・L・ミスリル(gb4072)は迷彩服にスニーカー、フライトジャケットを羽織った軽めの服装である。明るい言葉を紡ぎ出す唇は紫に変わりはじめ、身体はガタガタと小刻みに震えている。
 瀬生 りお(gb4029)も、予想外の寒さに凍える事しかできない。
 寒さは簡単に人を傷つけ、命すらも奪う。この時の気温は、マイナス16度C。体感温度はマイナス20度Cをさらに下回る。
 九十九 嵐導(ga0051)と伊佐美 希明(ga0214)、クリアは防寒を意識した身だしなみだが、それでも厳しい寒さを感じる。全てを几帳面に揃えないまでも、何らかの心がけは必要であるはず。
「早く暖めてやらんと不味いぞ!」
「KVには暖房が入ってますけど、だからといって、その恰好じゃ‥‥死んじゃいますよ!」
 気温に意識の無い5人に嵐導がすかさずツッコミを入れると、クリアも凍える5人の仲間達を気遣う。
「寒さを甘く見ると危ないですよ」
 野戦基地の司令官のレフ大佐が穏やかな表情で言うと、予備の防寒装備を貸し出すようにと指示を出す。
 仕事の前に倒れられたら大変である。
「よろしくね、イタリアでの傭兵達の活躍は聞いてますよ」
 言うのは、防空軍の中隊を率いるイリーナ大尉である。
「寒い寒い、ところで、ソフィー。美味しい地酒とか知ってる?」
「地酒‥‥ですか? ビールにウォッカ、唐辛子の浸酒ぐらいでしょうか? どれも度数が高めですけど‥‥」
 ソフィア・ブレア(gz0094)が笑顔で応えながら、密かな合図を目で送ると、イリーナは何かの瓶の入った棚に鍵を掛けて、話題を逸らす。
 部屋には素朴な作りの暖炉があり、火がくべられ、コンロとしても使えるようになっている。
「べつに皆さんの為に作ってあったわけじゃないけど‥‥なんだか良い感じにあるみたいですし」
 ソフィアが作った物だったが、言えなかった。何処かのリサイタルが好きの乱暴者が作ったような見栄えだから。
「さて、試作機ってことらしいけど‥‥なんかこのシチーも試作品っぽい感じがするわねぇ」
 シンが妙に粗っぽい作りに疑念を抱いて言う。ちなみにシチーとはこの地方でのキャベツスープの呼称らしい。
「任務が終わればちゃんとしたものをお出しますので‥‥」
 イリーナが大粒の汗を流しながらフォローを入れる。
 緊張感がなし崩しに緩んでゆくなか、クリアはさり気なく整備兵に声を掛ける。
「餅は餅屋、機体についてはメカニックに聞けって言うしね♪」
 整備兵にとっても初めての機体であったが、部品交換がしやすく、昔からあるルールに則った扱い易いものだと言う、取扱いの評価は上々らしい。
 身体が暖まると話題は実務的なものになる。
「しっかしまぁ、実にロシアらしいデザインのKVだねぇ? 往年のミグを思い出すな」
 風羽・シン(ga8190)は機体前方に搭載されたリフトエンジン配置に率直な感想を述べる。
「お詳しいですね、ロジーナはYak−141を原型に開発が開始されていますから、確かに兄弟みたいですよね」
 バインダーに綴じられた資料を開きながらソフィアがシンの予測を捕捉する。
「防御力は見たまんまか‥‥こりゃ、クセの強そうな機体だな」
「VTOL機というのは良いですね。機体機動も色々試せそうですからね」
 希明が率直な印象を述べ、榊 刑部(ga7524)が期待を口にする。
 刑部が指摘するようにホバリングが可能になった事で、戦闘機形態での新たな戦術が作り出せる可能性があるのは確かだ。
 和やかな歓談から、行動計画へ移ると雰囲気が変わった。
 敵の予測侵攻ルートにロジーナを着陸・待機させて迎撃する案に現地スタッフは眉を顰めた。
 サーレクは基地のスタッフに相談を持ちかけ、その表情の意味が分かったが‥‥、皆が決めた事に従うしかなかった。
 基地のスタッフも実績のある傭兵が言うことだろうと、口を挟む者は居なかった。
「元から物理攻撃力が高いなら、それをさらに伸ばす装備を選ぶのは至極普通の事だろ?」
 機体から取り外した巨大なソードウィングを携行するシンは言ってのける。スタッフもその情熱と執念に押されて承諾せざるを得なかった。
 スタッフが本当に知りたかったのは数多くの武器の中からソードウイングを選択する理由であり、どのように使うかだった。
「自由度が上がった分、操縦者の腕がもろに出る、と。‥‥ま、機体に笑われないようにしますかね」
 嵐導はそう言って最初の打合せの終わりを告げ、こうして不安を残したままテストは開始された。

●三度の出撃
「西進中の小型ヘルメットワーム×4を探知」
 一秒の無駄も許されない。
 本気の緊張感を胸に機体に乗り込む8人の傭兵達は、警報から20秒を待たずに滑走路へ機体を移動させた。
「コースクリアー異常なし。三度目だ、今度こそ上手くやれよ」
 オペレータの声に続いて、基地防空隊からの激励。近隣の防空部隊も行動を開始している。
 当初は事務的に紡ぎだされていた無機質な言葉の中にも、ようやく人の温度が帯びはじめる。
「いつまでも子供扱いは困るな」
「まったくね」
 嵐導が言うと束祭 智重(gb4014)が続けた。
「今度こそ上手くやってやるよ!」
 希明そしてアーサーもオペレータ達の期待を感じながら操縦桿を握る。
(「例え一時でも、自分の愛機な訳だしね」)
 一時の刹那だからこそ、大事にしたいとクリアは思う。一度きりかもしれない、出会いは貴重だから。
 あと三〇分もすれば夕陽は沈むだろう、恐らく、テスト空戦最後のチャンス。

 朝と昼2回の実戦テストは残念な結果に終わり、腕利きの傭兵だという高い評価は一瞬にして消え去った。
 いまや子供の成長を見守るように一行は丁重に扱われていた。
 だが、シン、智重、アーサー、嵐導。半数が既にいい大人。子供扱いなど御免である。
 戦功を焦る必要は無い。しかし、任された事ぐらいは全うしたい。成り行きだけでは何ともならない。
 未来は自らの手で切り拓くものだから。
 2回の出撃でやり方は把握した。だからこそ、己が名誉に懸けても三度目は成功させる。誰もがそう思わざるを得なかった。

 雲を貫き、俊敏な動きを見せる嵐導とクリアのロジーナ。白い迷彩の施された機体が夕闇の迫る空を駆ける。兎に角敵を食い止める事が最優先である。思いこみは状況判断を狂わせるから。加速した上昇は、次の瞬間、緩やかな動きとなる。
 前方には4機のヘルメットワーム。
「‥‥捉えた! このまま撃ち抜くっ!!」
 はじめての一番槍。嵐導がトリガーを引くとスナイパーライフルの砲弾が放たれ、薬莢が機外にはじき出される。
 必勝の祈りが秘められた弾丸を追ってクリアは大胆な動線を見せながら加速する。
 次の瞬間、排出された数十の薬莢が空中をカラカラと音を立てて舞うと、機銃から放たれた40ミリ焼夷徹甲弾がヘルメットワームの装甲に夥しい数の傷を刻みつける。
 被弾を重ねたヘルメットワームが僅かに白い煙を引き速度が落ちる。連れ立つ僚機がすかさずフォローにはいると編隊が崩れ、敵の一群は左右に2機づつの2編隊に分かれた。
 見た目ほどダメージを受けている様子ではないが、敵はいち早く後退の動きを見せている。
 目的が偵察であるとすれば妥当な動きだろう。
「やった、これはチャンスだな♪」
 アーサーは煙の筋を引く敵機との距離を全速で詰めると必殺のミサイルを放つ。
 後方で援護に‥‥と思っていたアーサーであったが、ミサイルも含め兵装の射程はいずれも短い物ばかりであった。
 希明が援護にとホーミングミサイルG−02を放つ。
 2本のミサイルがアーサー機の上方を追い越してヘルメットワームに迫る。
「今だ!」
 敵を射程に捉えたアーサーはH−044ミサイル発射。
 希明のミサイルと僅かな時間差を置いてそれは命中し爆炎が拡がる。
 尚も戦いを避け後退を続けるヘルメットワーム。
 決めるべき所は決める。撤退の動きを見せる二機に止めを刺さんと、東の方角の雲の中、ホバリングで気配を潜めていた二機のロジーナが動き出す。
「こちら『ウィンドフェザー』、第三小隊突入する」
 隙を見せる敵を目がけて、シンがスナイパーライフルを放つ。不意の砲撃に驚くヘルメットワームだったが、怯むことなく進路を開かんと薄紅色の光線を放ちながら前進。
 好機と判断したシンは真正面からヘルメットワームに挑む。りおもシンの動きに合わせて懸命に追随し、敵との距離を詰めると40ミリ機関砲を放つ。
 りおの放った焼夷徹甲弾が正面の敵の装甲に消えない孔を穿ち内部で炸裂する。フォローに入った敵の僚機がりおに向けてプロトンビームを放つ。避けきれない光線がリオの機体を貫き装甲を飛び散らせる。
「きゃぁぁっ!」
 だが、シンはさらに距離を詰め刃と化した翼を垂直に輝かせながら正面から衝突する動きを見せる。
「‥‥斬り裂け‥‥ストームブリンガー!」
 閃光、少し遅れて激しい接触音が響くと、ヘルメットワームはバラバラに砕けて落下してゆく。
 残った一機は体勢を崩したりおの横を掠めるように飛び去ってゆく。
「やるぅ。ひゅーひゅー」
 通信に入るオペレータの声は明るい。
「からかっちゃダメですよん」
 智重が艶っぽい声で言い返す。
 一方、第二小隊の刑部と智重も雲の中に飛び込みホバリングで気配を窺っていた。敵の探知装置から身を隠せる訳ではないが、動きの先読み阻止には役立つだろう。
「そこだっ!」
 刑部は射撃照準器の中にヘルメットワーム入った刹那にスナイパーライフルのトリガーを引く。
 高速で放たれた弾体が目標の装甲に穴を穿ち炸裂する。
「いいわね、そのまま吹き飛んじゃって! あら? 気付かれたみたいよん」
 智重が続けてスナイパーライフルを放ったところで、ヘルメットワームは慣性制御特有の方向転換をみせ、旺盛な闘争心を露わにして光線を放ち、接近してくる。
「くっ、見えているのか」
 被弾。装甲が砕ける。刑部と智重は阿吽の呼吸でホバリングの姿勢から、すぐに高度を上げる。急激な加速で主翼が雲を切り、エンジンの推進音が高まる。
 下方から迫る二機のヘルメットワームが2人を狙って光線を放ち、機体の装甲が凄まじい勢いで失われてゆく。
「強欲にして貪欲そして狡猾‥‥毒蛇の牙は獲物を逃さなくてよん♪」
 被弾の瞬間、再び降下に転じると、智重は機関砲のトリガーに手を掛ける。
 雲の境目、上方から降り注ぐ40ミリ焼夷徹甲弾はヘルメットワームの装甲の各所に消えない傷と孔を刻み込んでゆく。
「智重、発煙を確認した」
 刑部の戦果の通信。敵は後退を始めた。そこに白い迷彩塗装の機体が翼で雲を切り裂きながら凄まじい勢いで迫る。
「吼えて!、ストームブリンガー!!」
 速度を上げて逃げんとするヘルメットワーム。しかし、退路に回り込んだクリアが真正面から無数の弾丸を浴びせかける。すれ違いの間際、破孔から無数の炎を吹き出すと落下の動線を描くヘルメットワーム。
 クリアが最後まで愛情を持って接した愛機はまだその役目を忠実に果たしていた。
 刹那、木っ端みじんに砕けて落下してゆくヘルメットワーム。
 1機を失い浮足立つ敵に尚も襲い掛かる傭兵たち。
 急速に速度を上げて飛び去ろうとするヘルメットワームの1機を火線が捉えた。

 敵の増援は現れなかった。
 逃げ遅れた1機は8人全員が総攻撃を掛け、葬り去った。
「戦闘終了だ」
「諒解!」
 シンが任務を全うした事を確信して言うと、りおが頷く。
 最後に勝利の女神が微笑んだのは傭兵達に対してだった。
 こうして三度出撃して一回成功。三機撃墜の戦果を残して実戦テストは終了した。

 一回目:失敗
 損害:0、戦果:0
 出撃後に着陸。垂直発進を活用を意図した待ち伏せでは、高速で飛行する敵には対応できなかった。
 現地部隊との連携にも欠いた事から、早期警戒機の探知から迎撃ポイントへの到達も果たせなかった。

 二回目:失敗
 損害:0、戦果:0
 基地に配備されている味方KVの部隊に同行。既存の迎撃手法に準じることで、会敵には成功する。
 機体を待機状態にすることで素早い離陸が可能になるノウハウを学ぶ。

 三回目:成功
 損害:PT−054小破×2、中破×4/R−01中破/F−108小破
 戦果:小型ヘルメットワーム撃墜×3
 ホバリングが有用な戦術手段となる可能性を示す。

●戦い終わって
「おめでとう! 同志諸君」
 帰還する一行をレフ大佐とイリーナ大尉達が明るい顔で出迎え、労を労う。
 損傷を受けた機体は直ちに整備チームに回される。シンの予測通り、データ収集に必要なチェックの為である。
「想像以上の攻撃力の高さに、安定した命中性能。攻撃手段に柔軟性を持たせることが出来れば、より攻撃的な機体に仕上がると思うのですけれど」
 刑部が傭兵としての使いやすさについて率直な感想を述べると、クリアは実戦を通じて気づいたホバリング時の脆弱性への懸念などを簡易なレポートとして提出する。嵐導も兵装の柔軟性を高めて欲しいと述べる。
「ご意見は承りました。確かに、ホバリングには研究の余地があるかもしれませんね、急停止を行う上限速度とか‥‥」
 クリアと刑部、嵐導の意見を開発の要件として書き留めると、ソフィアは、ありがとうございます、と頭を下げ、こんどはちゃんとしたものですよと、一行を食堂へと案内する。
 そこには様々な穀物で出来た粥やライ麦パン、ピロシキなんかが用意されていた。
 緊迫した最前線のちょっと賑やかな一日は、終わりを告げてゆく。
 夜、吹雪はますます強さを増していた。
「あの、厚い雲の向こうは宇宙か‥‥いつか、あそこにいける日が来るのかな?」
 嘗て人類が宇宙を目指す最前線であったバイコヌール宇宙基地は二千キロ以上の彼方である。バグアに奪われたその場所で、何が起こっているかを知る者は居ない。

 傭兵達が眠りについても、防空軍が休むことは無い。
 レフは中央指揮所の戦域情報パネルを見やる。一発の飛来物が世界の命運を左右する冷戦の時代から、兵士として傭兵達よりずっと長い年月を戦い抜いてきた仲間達の顔が思い出され‥‥。
「実力は未知数だな、計算が立たない以上、共同行動は難しいか」
「あの方達の地球を救いたいという気持ちが、私たちを導き合わせたと信じています」
 イリーナの言葉にレフは、少し考えてから頷いた。

 日没後、気温は益々下がってきた。雪と氷に閉ざされた大地に再び花が咲くのはまだ先である。