タイトル:【輸送】ラストホープへマスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/20 02:07

●オープニング本文


●将軍たち
「そうか荷は到着したか、しかし随分無茶をしてくれたものだな」
 コンテナのウラジオストック到着の報を聞いたUPC欧州軍ピエトロが皮肉っぽく応える。
「そう言うな、無茶だったからこそ成功したとは思えないのか?」
 売り言葉に買い言葉UPC北方軍のイワノフは内陸部を横断させた真意には触れずに、笑いながら表向きの事実のみを強調する。
『いかなる犠牲を払ってでも‥‥』と要求するピエトロに対し、イワノフは『自分達の流儀でやらせて貰う』と一蹴する。
 ロシア人は頑固だ。その頑固さが過酷な戦線を持ちこたえさせているかも知れない。

●ウラジオストックの夏
 その日は未明から海と街に濃霧が立ちこめていた。
 輸送任務にあたった傭兵達は早々にラストホープ島へ帰還したが、コンテナの管理の為にリーフ一人が現地に残っていた。最終目的地ラストホープまで運ばなければならない。
 大破したガリーニンは修理はほぼ完了しており、現在は破損した2基のエンジンの到着を待っている。
 輸送成功の報告はラストホープ島、モスクワへの双方に連絡機により行われている。
 太陽が昇り陸からの風が吹き始めると、風景の輪郭が現れてくる。霧は晴れ気温は30度を超えなおも上昇する。
 純白の機体が空港に下りてくる。モスクワへ連絡飛行に向かっていたTu−160改爆撃機が帰ってきたのだ。
 可変翼を拡げた機体は白鳥を思わせる美しい容姿であった。
 尚、連絡機は比較的安全であると言われる北極海を経由するルートを飛行している。

 モスクワから運ばれてきたメモリカードを再生するとラストホープ島が現在位置が示される。
「北緯30、東経170度‥‥約7500kmですか‥‥問題は日本列島のバグア勢力ですね」
 リーフが状況確認のために復唱する。
「日本側は戦力に余裕がないそうだ‥‥、我々もできるだけの協力はするが‥‥」
 基地の司令官は苦い表情で言う。
 シベリア中央部の偵察任務の実績もあり、軍も好意的に接してくれていた。
 しかし、苦しい戦いはどこも同じで違う戦線に長期間戦力を貸し出すことはできない。
 作戦室の大型スクリーンには孤立しながらも札幌周辺で奮戦する人類勢力と関東と北海道の両方から圧力を受けて苦しむ北日本の姿が映し出されている。
 東京にはシェイドを含む最精鋭とも言えるバグア軍。
 函館、旭川もバグアよって基地化されている言われている。
 現在の所、北海道のバグア軍は活発な活動を見せては居ないが、甲斐蓮斗が目撃されたとの報告もあり、楽観視はできない。
「分かりました、コンテナをラストホープ島まで運べば任務は完了なのですね」
「無事の到着を祈る、同志ハイエラ中尉」
 日本列島までは極東ロシアの軍のSu−27改戦闘機を中心とした40機が途中までは護衛に付く。
 また、ラストホープ島の能力者に対して、北日本通過以降ラストホープ島までの護衛を依頼。日本の三沢、千歳の両基地に対して支援を要請したと言う

 間もなくしてガリーニンの交換用のエンジンを輸送してきたTu−95改爆撃機がウラジオストック到着する。
 迅速に作戦を実行するための配慮であった。
 壊れたエンジンは交換されガリーニンの修理は間もなく完了する。
 準備は整った。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
ツァディ・クラモト(ga6649
26歳・♂・JG
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ゼシュト・ユラファス(ga8555
30歳・♂・DF
来栖 祐輝(ga8839
23歳・♂・GD

●リプレイ本文

●合流
 雲の間に広がる青空に閃光が広がった。
「間もなくですね」
 麓みゆり(ga2049)が西に視線を移すと光の固まりは縮小し落下しながら消えてゆく。
 閃光は三沢基地の早期警戒機E−2C通称ホークアイからの合図である。護衛対象の接近を示していた。
 間もなくして機上のレーダーに光点が現れる。
「まぁ中身は何でも良い。きっちり仕事をしますか」
 ツァディ・クラモト(ga6649)が合流を前に気合いを入れる。
 欧州の命運をかけたバグアとの決戦はイタリア半島全域のバグア軍を壊走させる事に成功し、人類の本格的反攻の覚悟と実力をバグアに叩きつけた。その苛烈な戦いの中で鹵獲に成功した『ファームライド』と『バグアの各種兵器類』の二種類を極秘にラストホープへ輸送し、以て人類科学陣の技術力向上に供する事が一連の輸送作戦の目的であった。
 先行して近づいてくるロシア側の機体には戦闘の痕跡が生々しく残っていた。秋田西方沖上空で偵察に現れた2機のヘルメットワームと交戦による損傷との事だ。
「リーフさん、寄り道しないで真っ直ぐに帰って欲しい。‥‥全力で」
 ツァディ・クラモト(ga6649)が唇を噛む。本来であれば帰還すべき時期だったが、ガリーニンの修理などの事情で出発が遅れていた。リーフ自身はウラジオストックを満喫してたらしいが。
「‥‥クラモトさま、私は大丈夫ですよ、ロシアの皆さんも。あと3分で三沢上空を通過し太平洋に抜けます。合流をお願いします」
 通信機から、凛々しいリーフの声が響く。
「うっす、リーフちゃん長旅お疲れさん」
 前回の任務で撃墜され瀕死の重傷を負ったジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)であったが、驚異的な回復力と最新鋭機の雷電をひっさげて再び任務に戻ってきたのだ。ラストホープまではまだ距離はありますよと、彼女は物腰やわらかに返す。
「よく言うだろ? 九十九里を以て半ばと思えって」
「それ労いになってないッスよ!!」
 ジュエルの言葉にすかさず六堂源治(ga8154)がツッコミを入れる。この楽しい時間がいつまでもと誰かが思った。
 そんなやりとりを複雑な心持ちで聞くのはレイアーティ(ga7618)である。直近に携わった輸送任務での苦渋の記憶が脳裏に蘇っていたからだ。
「何があろうと任務は全うする‥‥ただそれだけだ」
 微かな呼気と緊張感をもった声が通信機から響く。ゼシュト・ユラファス(ga8555)の静かな決意はメンバーに浸透し、うち解け、緩みかけた空気を再び引き締める。
(「ただのワームはともかく、大物が出てこないように祈るのみ、か」)
 エミール・ゲイジ(ga0181)は不安を抱く。可能性は低かったが、誤って東京のシェイドを刺激してしまうような事があれば、輸送はおろか部隊全滅する可能性が高い。
 三沢基地の西方約20kmで赤い星を付けた40機のロシアの戦闘機が高度を下げて三沢基地へ着陸態勢を取る。一方のガリーニンは高度を保ったまま東進を続ける。
 能力者達一行の編隊は入れ替わるようにガリーニンの飛行する高度11000m付近に上昇する。
 眼下に浮かぶ雲は疎らで、進行方向には紺色の太平洋が広がっていた。

●敵襲
 7月のこの時期、北海道では千歳を中心にバグアに対しての反攻作戦が実施されていた。そのため北海道近辺のバグア側に戦力の余裕は少なく、輸送部隊の妨害に多くの戦力を割けない状況だった。
 時を同じくしてベーリング海へのバグア鹵獲品『レンズ』の海洋投棄作戦が実施されて居たこともバグア軍の動静に影響を与えていたのだ。
「敵襲です!」
「方位340相対距離20km! 総員警戒態勢!」
 みゆりの警告にゼシュトが叫ぶ。襟裳岬南方約300kmである。恐らくは帯広か釧路あたりから出張ってきたのだろう。
 E−2Cによる電子支援は太平洋に抜けたところで途切れている。
 特殊波長中和装置を備えた機体が付近に存在しない事から、通信やレーダーにはノイズが混じり始める。
 『岩龍』は運用の難しい機体ではあるが、重要な役割を担う機体である。
 名古屋防衛戦に先立つ2007年10月23日。多量の電波を浴びた影響による計器異常でS−01が墜落した事件はKVに搭載されている電子機器の脆弱性を示す警鐘となっていた。その後も計器異常に対するリスクは解決されておらず、電子兵装を備えて居ない機体のみで作戦を実施する事は危険性を孕んでいた。
「ゼッテーに護り抜いてやるッスよ!!」
 右方向から出現した敵に対し一番近いのは源治であった。しかし2機のヘルメットワームは約20kmの距離を保ったまま攻撃する素振りを見せない。
「多少は頭が回る奴がいるみたいだな」
 漸 王零(ga2930)は歯ぎしりする。
 2機の小型ヘルメットワームが、もし無警戒に接近してくれば、一方的に撃破できる可能性が高かった。
 一行の作戦や思考は敵の接敵機動や遭遇戦への対処を想定した内容となっており。攻撃性能と豊富な兵装による優位性を活用しようというものだ。しかしながら、伏撃や敵に自分たちの戦力を把握させないための備えは皆無だった。
「この程度の敵なら、接近される前に叩くべきだ」
 エミールはヘルメットワームへの攻撃を主張する。
「待て! エミール」
 ファームライドの奇襲を頭の中で思い描いていたレイアーティが引き留める。陣形を崩し、守りが手薄になればガリーニンに危機が及ぶという懸念からだ。
 2機のヘルメットワームは編隊の北側をおおよそ20kmの距離を保ちながら並走を続ける。
「今は忙しい‥‥、お引取り願いたいところだが‥‥」
 今は突出した行動をすべきではないとツァディも思っていたが、情報を与え続ける危険性から、攻撃を決断する。警戒班が敵の早期発見・迎撃を担うという方針も彼を後押しした。
 纏めて片づけようと、エミール、レイアーティ、ツァディの3機が進路を変えた刹那、その動きを察知したかのように2機のヘルメットワームは凄まじい勢いで東に向かって増速すると間もなくレーダーの範囲から消える。恐るべき機動力である。
「逃げ出したのか?」
 ツァディが疑問に思った刹那、レーダーにそれまでになかったノイズが現れる。
 偵察とは対象の見極めのために能動的に情報収集する活動である。情報は有利に戦いを進めるための判断の材料である。
「方位90度、高度6000mにキューブワーム×2! 急速に上昇中! 正面です」
 先頭を飛行していたみゆりが得られるかぎりの敵の情報を的確に伝える。
 東進を続ける編隊の前方に浮上してきたキューブワームが立ちふさがる。たった2機のキューブワームだ。
「くるぞ!」
 誰かが叫んだ。しかし無線からはノイズが響くばかり。
 しかし、一行の頭の中には直接死を彷彿させる音のイメージが響く。防ぎきれない響きは精神を蝕み五感を狂わせる。
『ピィーー!!』
 来栖 祐輝(ga8839)の耳にミサイルのロックオンアラートが響く。だが、方向が分からない。
「どこだ!」
 急激な回避行動は僚機との接触・衝突の危険もある。祐輝は覚悟を決めてブースト加速を開始する。瞬間、後方で爆発。
 青い迷彩模様の描かれたS−01Hは激しく揺り動かされる。頼みのレーダーはノイズを映すばかり、周囲を見渡してもファームライドの姿は見えない。
 祐輝は不死鳥のペンダントに成功の祈りを込めるとラージフレアを射出する。空中に無数の小型機械が広がり周辺の重力波に狂いを与えてゆく。バグアの目を眩まし、ガリーニンの離脱を助けたい思いからだ。
 一方、ガリーニンに先行するみゆりが射程いっぱいの距離からロケットランチャーを放つ。高速の弾体が煙の軌跡を引きキューブワームを捉える。海面をバックに8つの炎の花が咲く。膨らんだ炎が縮まると同時にキューブワームは光を失い、墨色の塊となって落下してゆく。残りあと1つ。
 ロケット弾が残した煙にまぎれて急速にキューブワームに迫るゼシュト。刹那、頭の上を2機のヘルメットワームが通り抜けてゆく。
「抜かせるか!」
 王零が雷電に搭載したソードウィングで阻止を試みるも、2機のヘルメットワームは流れるような動きで左右に分かれる。
 王零が振り向いたときには、ガリーニンに2筋の光線が命中し装甲に傷を刻んでいた。
「目障りな奴だ‥‥墜ちろ!」
 ゼシュトが発射トリガーを引く。正面に浮遊するキューブワームに向けて放たれたガトリングの弾体が空に光の残像を残しながらに命中する。光がシャワーのように弾ける。瞬間的な点滅の直後に光を失った塊と成りはてて落下してゆく。2機のキューブワームの全ての破壊に成功した。頭痛が収まり、レーダーのノイズも減少してゆく。
「すまねェッ!」
 なすすべもなく敵に一斉射を許してしまった。ガリーニンの左舷に位置していた源治が悔しさに唇を噛む。
 自由に動き回るヘルメットワームの機動力に加え姿を見せないファームライドの存在にも焦りが募る。
「おっと隙ありだな」
 エミールが放ったスナイパーライフルの弾丸が左方向からガリーニンを狙うヘルメットワームの装甲に孔を穿つ。装甲の中に入り込んだ弾体が内部で爆発する。爆発の衝撃で一瞬、動きの精彩を欠いた事をレイアーティは見逃さなかった。狙い定められたソードウィングが敵を捉えた。白く塗られた機体は陽光を浴びて巨大な刀刃のように輝く残像を残して滑空する。直後、爆発。敵はバラバラに砕け散った。
「我は『漆黒の悪魔』だ!! 汝は誰だ!」
 二度とはさせん。王零が右舷から再接近を試みるヘルメットワームをスナイパーライフルD−02ではじき飛ばすと、機能が回復した無線で叫ぶ。時間を稼ぐためだ。
『しょうがないな。君たち! ボクの事をしらないのかい?』
 蓮斗は覚えて居なかった。敵が多いせいか、それとも興味を抱く対象以外には淡泊であるのか? それとも知らぬ振りをしているのかは分からない。
「この声は‥‥ヤツか」
 ゼシュトの記憶が蘇る。王零やゼシュトにとって聞き覚えがある声だった。
 一行の後方に赤い機体が現れた刹那、無数の小型ミサイルが放たれた。
『ボク、甲斐蓮斗、それ以上は言わなくてもわかるよね?』
 己の耐久力を信じてミサイルに耐えた王零がお返しとばかりにヘビーガトリング砲で弾幕を張る。しかし、蓮斗は軽やかな動きで全て回避する。
 少し距離を空けて後方に位置していたツァディがペイント弾をしこんだガトリング弾をばらまくように放つも、まるで当たらない。
 続けざまに放たれる弾幕はことごとく当たらない何故だ?
 再び姿を消すファームライド。
『君たち! 行儀がわるいね』
 編隊を組む事はパイロットにとって心理的な安心感を与えるが、同時に自らの機動力に大きな枷を課すことになる。つまり機動力を犠牲にし『受け』に回ることはKV本来の格闘戦の能力を著しく低下させる。
 蓮斗は動きの鈍い傭兵たちをあざ笑うかのように自由に動き回り凶刃を振るう。
『ピィーー』
 鳴りやまないミサイル警報。直衛を志願した王零、そして源治が続けてガリーニンの盾となって被弾する。
『よっぽど、そのでっかいのが大事みたいだね』
 蓮斗に限らず傭兵の多くもガリーニンは図体の大きな輸送機であるとの認識しか無かった。速度の遅さと回避性能が皆無であるという欠点のみが強調され、長所である強力な兵装や防御力は忘れ去られていた。
 ガリーニンに急速に接近するファームライド。幸運にもジュエルの雷電が間に割り込んだ。
「おっと、オレばっかり狙ってていいのかい?」
 ジュエルの雷電が弾き飛ばされる。ファームライドの体当たりだ。
 瞬間42本の光の束がファームライドを包んだ。
 至近距離から一斉射された21門の連装レーザー砲。42本のレーザーが光の束となってファームライドを覆う。フォースフォールドの赤光を放つも、圧倒するパワーで光の束は赤い光を浸食して破る。レーザーの作り出した超高温がファームライドの装甲を焼き削った。
『何か色々かくしてたんだね。でも、君のたくらみだね』
 信じられない挙動を見せたファームライドが自らの主翼を刃と化してガリーニンの機体上面を切り裂いてゆく。
「リーフ!!」
「餓鬼めが‥‥舐め腐りおって‥‥」
 ガリーニンの上面に出来た裂け目に火炎が上がり、後方に木の葉の様に装甲が剥がれ飛ぶ。
 守れなかった。絶望に近い感情が体勢を戻したジュエルを苛む。いや彼が居なければレーザーの直撃は無かっただろう。
 ゼシュトは蓮斗への敵意を見せながらも、状況の把握に努める。ガリーニンの舵はまだ効いている。
 レーザーの余熱で赤熱し、見た目のダメージの明らかなファームライドの動きは鈍い。
「いまだ!」
 祐輝のブレス・ノウVer.2を付与したヘビーガトリング砲の弾丸がファームライドの装甲に消えない痕跡を刻み込んでゆく。そして、皆のそれぞれの思いがこもった攻撃が、ファームライドに集中してゆく。
 予想外の深手を負わされた蓮斗は、捨て台詞をを残すことも出来ずに北へ逃げるように飛び去るだけだった。

●帰還
 ガリーニンの火災は消えている。高度を保ったまま飛び続けているが、戦いの傷が痛々しい。
「ファームライドは去りました。‥‥大丈夫? ですか?」
 みゆりが機体の損害、乗員の安否を気遣うようにゆっくりとした口調で呼びかける。
「少し寒いですが‥‥全員無事です」
 リーフが応えた。
 外気温は摂氏マイナス51度℃。外気が吹き込んでくる操縦室は寒い。高度は11000m。
「補給、早くやってしまいましょう、また敵が来たら持ちませんよ」
 戦闘により多くの燃料を消費した者も居たが、想定通りに警戒班から順に2機ずつ給油が行われた。給油は10分ほどで完了した。
 ガリーニンの損傷が6割程であったのに対し、一行のKVの損傷は2〜4割程度に留まっていた。
 強敵であるファームライドと戦ったにしては拍子抜けするほどの少ない損害だ。情勢が味方した結果である。
 6時間が過ぎた。
 日付変更線の通過直後、一行は進路を南東に取る。指定座標は北緯30度、東経170度。現在のラストホープ島の位置である。
 ファームライドを撃退して以降、敵襲は皆無であった。理由は分からない。
「俺の故郷は、どーなってるんスかね」
 かつての戦禍に思いを巡らせた源治が呟いた。
 およそ1時間半後、浮遊するラストホープ島の輪郭が見え始めた。
「今度こそ到着だな」
 誰かが言った。
「みなさんのお陰でようやく任務を完遂できました。ありがとう」
 リーフは鼻をすすると、ゆっくりと感謝の言葉を紡ぐ。
 広大な紺色の海の中にぽつんと浮遊するラストホープ島は薄板のようで頼りない。
 人類はその頼りない場所に命運を託し、能力者たちは其処から希望の連鎖を生み出そうとしている。