タイトル:魔女に魅入られた翼マスター:加藤しょこら

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/16 00:46

●オープニング本文


●不運の連続
『ドヅッ』(硬くて重い何かが落下して何かに当たる音)
 スパナがするりと手から離れて滑り落ち、そのまま一直線に足の甲‥‥土踏まずの真上に命中した。
 こんな時に限って安全靴を履き忘れている。
 リーフが切ない表情で蹲って痛みをがまんする。
 ドイツ連邦共和国エッセン市。クルメタル社の実験飛行場のバンカーでの不幸な事故。
 駐められているのは、試作電子偵察機、通称『ウーフ』である。
 高性能を絶賛されたにも関わらず、岩龍との価格競争に敗れた悲運の機体である。
 しかし、誰もあきらめて居なかった。コストに負けた屈辱をバネにリベンジを誓った。
 無駄を省き、コストを押さえるため設計を見直し、『余分なふくらみなど飾りにすぎん』とのかけ声のもと、急ピッチで改良は進むかに見えた。
 しかし、クリスマスを控えた12月24日、開発担当者が原因不明の高熱で倒れる。何とか一命は取り留めたが、半年近くたった今も全快のめどがつかない。
「未来の子供達のため、なんとしてもこの機体を完成させてください‥‥」
 そう言い残し、その担当は、力なく業務を引き継ぐ。
 まもなくして、後任による開発が再開される。
 しかし、またしても不幸に見舞われる。
「探さないで下さい」
 置き手紙。そして、壊れたパソコンだけが研究室に残っていた‥‥。
 就任から1週間を待たずして失踪事件であった。
 もう後がない、3度目の正直の開発が再開される。
 パワーアップとコストダウン、そして工期の短縮。
 この難題に答えを提示したのが、ライバルのプチノフだった。
 パッシブ式フェーズドアレイレーダー、引き込み式IRSTシステム。
 そして目玉の、AKデータリンクシステム。
 AKデータリンクシステムを搭載する複数のウーフがデータを相互にリンクすることで、理論上はAWACSのような早期警戒網を敷くことが出来るという。
 この3つの装置と、元来装備されている強化型特殊電子波長装置により優れた支援能力を発揮できる筈であった。
 ‥‥理論上は。
 2機のウーフに装置が搭載された。リーフがため息をつく。証明して見せなければならなかった。
「だってあの方には負けたくないのですもの」
 そう呟くと飛行試験実施の手続きに入るのであった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
嶋田 啓吾(ga4282
37歳・♂・ST
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
玖堂 暁恒(ga6985
29歳・♂・PN
阿木・慧慈(ga8366
28歳・♂・DF
ミスティ・グラムランド(ga9164
15歳・♀・EP

●リプレイ本文

●岩龍ショック
「ば‥‥莫迦な」
 クルメタル社の開発者達が膝を付き、地面を叩く。
 再び奉天北方工業公司に遅れを取るなどありえ無い。価格・性能も絶対の自信を持っていただけにショックは大きい。
「‥‥私の岩龍ですと、ウーフーとの戦闘能力の比較はあまり意味が無いですね」
 緋霧 絢(ga3668)が無機質に投げる言葉もスタッフ達には届かない。
「やれやれ、クルメタル社も焦らしてくれたもんです‥‥」
 嶋田 啓吾(ga4282)は開発者達を恐慌状態に陥れている特殊岩龍の事には目もくれずにバンカーに駐められたウーフーを見上げて感無量‥‥煙草を取り出す。
「そうだな、待望の電子戦機の登場となれば、まあ期待せずにはいられないな」
 阿木・慧慈(ga8366)は特徴的なX型の主翼に4発のエンジンの形状を確認するように観察。
「正直‥‥岩龍は‥‥見てるだけでも‥‥冷や冷やするかんな‥‥もう少し、しっかりした電子戦機は‥‥必須だろ‥‥」
 玖堂 暁恒(ga6985)堅牢なウーフーに期待を高める。
 ウーフーの特徴は主翼やエンジンが大きく破壊されても飛行が可能である生存性の重視。
 基本設計でエンジンが1つしか無ければ、バージョンアップを繰り返しても、エンジンへの被弾は即撃墜を意味する。主翼や尾翼に関しても被弾による損失が考慮されていなければ同様である。
「この抗堪性に加え、データリンクシステムも十全に機能するのなら、この先のKVでの戦闘がだいぶ戦いやすくなりますわね。『情報を征するものが戦いを征す』は普遍の真理ですもの」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)は豊かな胸を張る。
「リーフ女史、お久しぶりです。ワイバーンのエンジンテスト以来ですね?」
「ええ、お久しぶりです。今回も宜しくお願いします」
クラーク・エアハルト(ga4961)の言葉に、作業服にヘルメット姿のリーフが複雑な笑みを返す。
「開発意図としては岩龍との比較競争をする時期ではない。今は高価でもより高性能な機体が求められている」
 岩龍ショックで意気消沈の開発者達に言ったわけではないのだが、瓜生 巴(ga5119)の呟きは渡りに船。
 開発者達の顔にぱあっと明るい色が広がり、熱い解説がはじまる。全自動開閉キャノピー、プロイセン職人入魂のこだわりふんわりシート‥‥『コストダウンのための新技術導入』不要な機能の削減にも抜かりはないとの事。
「べつに、励まそうとか、そんなことはぜーんぜん考えてませんよ。考えてませんってばッ!」
 熱すぎる語りに悪寒を感じた巴が顔を背けて呟くと、ブラボォツンデリッシュ! 等と激しいドイツ訛で解読不能の言葉が叫ばれる。あくまでもドイツ訛である。
 そんな所にこだわれば値段が上がるのも道理と、秋月 祐介(ga6378)は心の中でツッコミ入れ、メモを書きとめる。
「え、えっと‥‥初めての依頼ですけど頑張りたいです」
 そんな特殊な空気の中ミスティ・グラムランド(ga9164)が遠慮がちに言うと、こんな小さな子までが戦っているのかと開発者達の気合いも入る。‥‥この子達が生きて帰れる機体にしようと。
「いい結果を出せるようにがんばりますよ! みなさん、張り切っていきましょう」
 開発者たちの熱い心に突き動かされるように、ソード(ga6675)の言葉が響く。皆が頷いた。
 些細な感覚のずれはあっても目指すところは同じなのだ。
「そうですね、早く手続きをしないと時間がもったいないですよね」
 リーフは絢から書類を預かると、中身を確認する。
「ごめんなさい! け、けど、手続きって具体的にどの様な事をすれば良いのか?」
 不安な表情を見せるミスティであったが、リーフが『やろうとしている事と、したい事の理由と目的。協力して欲しいことが書いてあればいいのよ』とアドバイスすると、表情が明るくなる。
 絢が纏めた『機体の使用申請』、ソードと啓吾が纏めた『テストプラン』に該当する2つがあることに胸をなで下ろす。これらの申請が為されないと実機の利用が出来ないからだ。
 他、機体に関するものでは巴の作成した機体の基本性能に関する確認。クラーク、啓吾による在ドイツの軍に対する要請。祐介によるシステムの開発環境に関する要望があるようだ。
「機体申請は初めてですね。これで大丈夫でしょうか?」
 ソードが不安そうな口調で言う。多分大丈夫と思うが、リーフは念のためにと中に目を通す。

 申請された機体は合計で10機
 内訳はS−01×2機、R−01×1機、PM−J8×1機、EF−006×1機、H−114×2機、F−108×3機であった。
 ウーフーの武装は特に申請が無いこともあり、テスト用に取り付けられたいたスナイパーライフル相当品と20mmバルカン相当品が搭載されることになる。

 尚、模擬空戦は申請された装備品に特殊装置を取り付けるため実弾は発射されない。
 代わりにデータの送受信によって判定が行われるため、実機を飛ばし実戦に近い形での空戦が可能である。

※フェーズ1
 ウーフーへの搭乗は祐介のみで、岩龍との対空中・対地上レーダーの性能試験を行う。
※フェーズ2
 ウーフーに祐介、暁恒が搭乗する。5機1チームの2チームが模擬戦闘を行う。
 複数のヘリコプターの飛行要請。レーダー性能確認の探知目標として。

 フェーズ2の模擬空戦の勝利条件が記載されていないことを除けば、概ね問題は無いようである。
 こうして、以上の内容をUPC欧州軍のボルマン准将にに提出するのだった。

 尚、巴の基本性能の数値確認については、リーフがクルメタル社との間で交わしているNDA(秘密保持契約)により非公開とされ、スタッフに確認するに留まり、変形動作については一時保留の扱いとなる。
 祐介の自作プログラム開発についても、祐介自身がクルメタル社とNDAの不締結を理由に却下。軍用OS・開発環境は各メガコーポレーションにとって極秘事項である。

●フェーズ1
 哨戒機のP3C改のレーダースコープに機体を示す2群の光点‥‥いわゆるブリップが灯っている。
 8機のナイトフォーゲル(KV)を示すブリップは4機ずつが向かい合う形で画面の中央に向かう動きを見せ、少し離れた画面の隅には岩龍とウーフーを示すブリップが灯っている。
「不運‥‥呪い‥‥そんなモノに惑わされる訳にはいきませんのでね」
 ウーフーに搭乗した祐介は呟くと、タッチパネルの一つに軽く触れIRSTシステムを起動させる。機体内部に収納されていたシステムのセンサーがセットされる。情報画面にIRSTから得られたの情報が追加される。
「簡単すぎるわね‥‥」
 刹那、2つの光点がスコープから消える。啓吾のS−01とクラリッサのワイバーンがレーダー波の反射範囲から逃れたのだ。見失った敵機の再発見は厄介だ。相手も動いているからだ。優位に立つには探知能力よりも敵の動きに対する洞察力が重要だ。
 一方、IRSTを装備するウーフーの表示画面の上からも2機の光点が隠れる。
 しかし、こちらは完全に見失った訳ではなくクラリッサと啓吾の機体の進行方向を示す矢印が表示されていた。
「距離までは分からないのか?」
 祐介は意外さを隠せない。IRSTシステムは探知に関しては高性能ではあるが、性能が全てが解決するものではない。運用の仕方‥‥情報の読み取り方によって大きな差が出るシステムであるといえた。
 それから制限時間いっぱいまで絢の岩龍はレーダーの走査を繰り返すが、啓吾とクラリッサを常時補足することは出来なかった。
 一方、祐介の操るウーフーはIRSTと取得情報の更新速度が圧倒的に速いフェーズドアレイレーダーの能力により全ての機体の把握に成功していた。
 レーダーで見えるものは仕様上大雑把なものに過ぎない。既に存在が判っている敵を探すことの難易度は低い。
 敵の種類・方位・タイミングの全てが不明の実戦では必ずしも敵を見抜く眼になれるとは限らない。偵察機の機能を使いこなすことは極めて難易度が高く常に同じ行動が上手く行くとは限らない。
 ブースト飛行を交え、30分ほどでフェーズ1の試験が終了する。
 帰還した一行は休憩と情報確認を兼ねてミーティングルームに集まる。
「速度はかなり速いようですね。複数の目標の把握自体は可能‥‥パイロットの技量次第」
 巴はうち解けない様子で、数値の予測に余念がない。
「機体の大きさか‥‥祐介の操縦の仕方なのかは判らないが、若干旋回半径が大きいような気がするな」
 ウーフーの動きを観察していた慧慈が感想を述べると、
「IRSTによる性能向上は見られますが、フェーズドアレイレーダーの優位性が判りにくいですね」
 クラリッサが物足りなさを口にする。
「なぜ優れた電子装置が販売されないのでしょう?」
 疑問を抱くのは祐介。確かに偵察用の特殊カメラは状況が許せば通常の機体にも搭載が可能だ‥‥ならば電子装備もと思うのは無理の無いことかも知れない。
 昼食のソーセージは密かに本格的なものであった。しかし、機体の使い勝手のチェックに余念のない一行にはどうでも良い事であり。そんな中クラークがコーヒーを淹れ、ミスティが手伝う。少しの気遣いであったが一行の空気が和む。

 他、レーダーのルックダウン能力に懸念を持つ啓吾の要望により、数機のBO105改ヘリコプターが低空域を飛行していた。これらの目標はウーフーは勿論、岩龍のレーダーでも感知はしていた。それがヘリであるかどうかの判断が行えたかは2人次第であるが。また、高度を上下させ飛行するクラーク機が早々に探知されていたことからレーダーによる低空目標の探知自体には懸念が少ないことが判明した。
 航空機に搭載レーダーは地上からのレーダー波の照り返しの影響があるとも言われる。特殊電子波長装置を備える岩龍・ウーフーにとってレーダー波のフィルタリングなど造作も無いことだ。

●フェーズ2
 補給と休息を終えた両チームが再び空へ駆け上がる。
「単純に戦力のみでれば攻撃チーム有利、ウーフーチームやや不利と言ったところでしょうか?」
 ボルマン准将の協力により模擬戦空域に限定し、イギリスでは不可とされていたジャミングが特例として展開される。
 ジャミングは機体の命中・回避性能を低下させる影響があるが、ウーフー及び岩龍の搭載する特殊電子波長装置の効果によりジャミングの効果を低減することができる。
「レーダー‥‥チェック、AKリンクシステム良好」
 2機の以上のウーフーが連携することで起動するAKリンクシステムが起動すると『戦域情報画面』が新たに現れる。2機分のレーダーで見える範囲を共有することが可能となったのだ。
「さぁ行きますよ!」
 全速で相手編隊との距離を詰るとソード。
「こちらCrash。一機が急速接近中!」
 クラークから通信。AKシステムの発する情報を効果的に利用すれば索敵の手間を低減することも可能だが、敵の方が先に動いてきた。
 刹那、祐介、暁恒2機のウーフーがソード機を射程に収め先制の射撃が開始される。
 次々と被弾するしかないソードであったが、損害は割と小さい。
「久々のカプロイヤミサイルです。全弾味わってくださいよ」
 250発の盛大に放たれた小型ミサイルが空中に無数の尾を引きながら、前衛に3機後方に2機という、やや集まりぎみに飛行するウーフーチームの各機に次々と命中してゆく。これほど当たることは非常に珍しい。
「降りかかる火の粉は払わないといけませんね」
 いきなりの被弾で装甲の2割近くを失ったと判定された啓吾がお返しとばかりにG放電装置のトリガーを引く。
 さらに、クラークがUK−10AAMミサイルを放つ。
「ウーフーにはこれ以上近づけさせません」
 慧慈が放った84mm8連装ロケット弾までもウーフーの電子支援の助けも手伝ってソード機を確実に捉えると、ソード機の装甲はほぼ失われていまう。
 ウーフーの護衛役の注意がソード向いたことで、攻撃チームはウーフーに対して絶好の攻撃チャンスを得る。
 間合いを取ろうと最高速度近くで飛行するソード機を啓吾機が追撃する。
「ウーフーをやっつければ作戦に従ったことになるのかしら?」
「ごめんなさい、でも、多分そうだと思うのです」
 本人達の意志とは裏腹に、攻撃チームでフリーとなったミスティ機と巴機がウーフーへと殺到する。
 速力を活かし回避を試みる暁恒のウーフーに対して、充分な回避に失敗した祐介機が結果として集中的に被弾する事になる。護衛に特化した慧慈の奮戦もクラリッサの妨害の前に手を封じられ‥‥不運も手伝って耐久度の高さにもかかわらず1機のウーフー撃墜の判定が下される。最初の被弾から5分を待たずして模擬戦は終了するのだった。

「今回の結果を巧く活用して、一刻も早い実戦配備を期待させて頂きますわね」
 クラリッサは開発者達に微笑みかけて言う。
 AKデータリンクシステムはソード機への集中射撃の際に効果をあげていたが、護衛に活かしきれず火力に勝る攻撃側に押し切られる結果となった。
 攻撃の手数の多い方が勝利してしまう。誰もが最も単純に予測できる結果を容認することは、数・性能共に優勢なバグア軍に対しての人類の敗北をも容認することに他ならない。
「不慣れなヤツには‥‥難しいか‥‥」
 暁恒が渋い顔をする。操縦や操作性は、クルメタルの開発者達のこだわりの成果もあり抜群に良いが、フェーズドアレイレーダー高速走査や早期警戒を目指したAKリンク機能も充分に運用することが出来なかった。
 得られた情報を最終的に判断するのは傭兵自身であり、運用面のハードルは高い。それは岩龍でも同じ事だ。
「IMPを宜しくお願いします」
 突然の絢の言葉にクルメタル社の開発者達は何の事だか理解できない様子。先に見せたノリの良さは見られなかった。IMPはドイツでは告知がされていない為だ。 世界規模での活動を志向するには積極的なプロモーションとその成功の両方が必要だろう。
 飛行場のバンカーに戻されたウーフーをバックに試験に参加した一行の記念撮影が行われる。
 こうして、偵察機の運用方法、仕様に多くの課題を浮き彫りにしたことで試験は終了するかに見えた。

●隠された実験
「おい、変形テストを忘れているぞ」
 傭兵達の去ったバンカーで変形したウーフーの動作試験が実施される。
 想定されていない腹筋動作すらもこなすウーフー。
 KVはワームとの変形戦闘を想定された兵器であり、非常に繊細な動きも可能なように作成されている。但し、コックピットの位置や変形の形状によってはできない動きもあるが。
「クルメタルの技術は世界一!!」
 歓声があがった刹那、『ボキッ』‥‥いやな音が響いた。機首から煙を上がりウーフーが前のめりに倒れる。
 そして、リーフが後付したフェーズドアレイレーダーが音を立てて転がり落ちた。