●リプレイ本文
●ジブラルタル沖
暗い海面を下に低い高度で飛ぶ4本の物体が艦隊に近づいていた。
「新条さん、きっと無事にマルセイユで逢いましょう‥‥約束です」
祈るように呟くと、石動 小夜子(
ga0121)は地図を広げる、偵察隊が飛び立って1時間余、眼下の艦隊も帰投のために北西に移動を開始していた。
「私たちもマルセイユに向かいましょう‥‥全機欠けることなく」
リン=アスターナ(
ga4615)の声が通信機から響く。
「敵の新型も出るとの噂です‥‥みなさんにご武運を」
周防 誠(
ga7131)の声が続く。
「なんでしょうこれ?」
レーダースコープに映る4つの光点がまっすぐに艦隊に向かっている。
「敵の新型機でも見つけましたか?」
アルヴァイム(
ga5051)が小夜子が呟きに疑問を返す。
刹那、ミサイル発射炎が周囲の風景を白く照らす。ミサイルに向けて発射された艦対空ミサイルだ。
空母アークロイヤルの戦闘指揮所は緊迫した怒号が飛び交う。
「対艦ミサイル感4! 接近中! 対空ミサイル外れました!」
対艦ミサイルは過去に人類が開発した武器であり、過去にバグアが使用した事例は知られていない。
「対空戦闘用意! 撃てーーっ!」
速射砲の発射音が時を刻む。数秒にも満たない時間は長く感じられた。
海面に火柱が昇り風景がオレンジ色に染まる。
空母の盾となった2隻の駆逐艦が瞬く間に海中に没し、空母の1隻も猛烈な火炎を巻き上げながら急速に傾きはじめる。
「第二波来ます! ああっ!」
再び4つの光点が艦隊に向かって近づく。叫び、激しいノイズが無線に混じる。
きつめの口調で言う小夜子の表情が厳しく変化する。
ガツン! とした衝撃。
レーダースコープが砕け画面が色を失う。計器はスパークし、コックピットに煙が満ちる。
見たことの無い赤い機体が姿を現す。
二度目の衝撃に岩龍の黒い主翼は乾いた木の葉のように散り砕け、炎の塊と化した機体は夜空に筋をの残して落下してゆく。
「攻撃を開始します」
防げなかった。その事実を突きつけられ、無表情に唇を噛みしめた優(
ga8480)が姿を表した赤い機体をスコープの中に捉えると高初速滑腔砲を放つ。運良く命中したそれは赤い機体の表面に僅かにキズをつけたに過ぎない。
『ピィーー!!』
初めて聞く警告音。ミサイルのロックオンアラートだった。
後方から飛来したミサイルが優の機体に命中し、装甲の殆どを消し飛ばす。
『ピィーー!!』
再び警告、機体の損傷を示すランプは危険域に達していた。
「もう一機ですか?!」
二発目のミサイルは優の機体を火だるまに変える。
艦隊の搭載砲の砲炎が風景を点滅させている、海上ではミサイルの迎撃戦が全力で行われている。
一瞬で二機を撃墜される予測外の事態にアルヴァイムは迷う。離脱すれば艦隊は全滅するかもしれない。否、戦うしかなかった。
「そこですね! 当てて見せます!」
素早くアルヴァイムがトリガーを引くと、高分子レーザー砲の筋が赤い機体に向かって伸びて命中する。
ダメージを与えられたかに見えた赤い機体は返礼とばかりに光線を撃ち返してくる。
アルヴァイムの機体の装甲の殆どが一瞬にして消し飛ぶ。圧倒的な敵の火力だった。
体勢を大きく崩すアルヴァイムと入れ替わるように姿を現した誠が高速空対空ミサイルを放つ、ミサイルは辛うじて命中し僅かなダメージを刻む。
『ピィーー!!』
ミサイル警報! 何ですか? と口にする間もなく、被弾する誠。何もいないはずの後方から突如現れたミサイルに為す術はなかった。そして、堅牢な造りであるワイバーンですら装甲の半分近くを瞬時に失っていたのだった。
「こちらBell援護します」
見えない敵の一撃を辛うじて耐えきったリンはそう言うと虎の子のエネルギー集積砲を放つ、光の筋は真っ直ぐに伸びて、姿を見せていた赤い機体を捉え‥‥大きくそれを弾き飛ばす。流石に効いたようだった。
『ピィーー!!』
刹那、至近距離に姿を見せた二機目の赤い機体がリンの機体に光線を打ち込んで飛び去る。
「!!!」
続けて正面からミサイルが命中しリンの機体は煙を吐きながら落ちてゆく。残り二機も危機的な状況ではあったが、何故か二機の赤い敵機は東の方角へ後退を始める。予測していなかったダメージを受けたことに警戒したのか? それとも行動指針なのかは分からない。
●バレンシアの罠
アルババセテの市街を避けるようにして北東に進路を取る10機の偵察隊
「現在のところ機影はなし。目下、艦隊との通信は‥‥不通、か。放り出された気分だね。無事だといいんだけど」
新条 拓那(
ga1294)はぼやくように言った。
「スコープシステム起動。レーダー反応な〜し。私もそろそろパーソナルエムブレムつけた方がいいかしら。あ、私の名前は阿野次のもじ。座右の銘は疾風怒濤! よろしくね」
無線からは阿野次 のもじ(
ga5480)の軽いトークが続いている。
「南欧の空を飛ぶのはまた違った趣がありますね。できれば戦いが無いときに来たかったです」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)はそう言うとクスリと複雑な笑みを浮かべる。
巡航ミサイルと同じ進路を避け、イベリア半島を西から東へ横断するコースをるルートを選んだ一行が最初の迎撃を受けたのはシウダード・レアル付近であった。都市への接近を阻もうとするような攻撃は苛烈であったが、偵察隊にとっては目標外の都市であったため、増速によりやり過ごし、事なきを得ていた。
進むにつれ、東の空は色味の付いたグラデーション変化が鮮やかになり、夜明けが近づいた事がわかる。
奇妙な程に順調な空路であった。
バレンシアまで残り100kmを切った刹那、僚機との通信にひときわ激しいノイズが飛び込む。そして、先行する6機のディアブロの前方には、無数の青く光を放つ六面体が現れる。まるで待ちかまえていたかのように。
「罠だ! 新条!」
叢雲(
ga2494)が叫んだ瞬間! 僚機との通信が一斉に不通となる。
スピーカーからはノイズのみが響く。そして、頭の中には聞こえない・見えない筈の猛烈なイメージが流れ込んでくる‥‥それはまるでレクイエムであり、黒死病に冒される中世ヨーロッパの暗黒の歴史のイメージのそのもののようでもあった。
「こちらIris!! 射撃を開始する!」
無線からは雑音が響き、返事はない。猛烈な頭痛に耐えながら緋室 神音(
ga3576)がトリガーを引くと高分子レーザー砲の光の筋が光る六面体を弾き飛ばす。
「敵機‥‥沢山」
のもじはイメージと頭痛に襲われながらも光るオーラをわき上がらせる。そして、神音の射撃の隙間を埋めるようにミサイルを放つ。ミサイルが光る六面体を捉えると、それは光を失う。
「‥‥どんな暗闇であろうが、濃霧だろうが、この山猫の眼が逃しはしない!」
伊佐美 希明(
ga0214)もまた苦痛に耐えながら狙いを定めるとトリガー引く。スナイパーライフルの弾丸が弧を描きながら飛ぶ。
間もなく何個かの光る六面体を破壊した先行隊が『行ける』と思ったとき、一斉にミサイルのロックオンアラームが響く。突然、前方から現れたミサイルを回避する間もなく被弾を許すしかなかった。
『ピィーー』
同じ頃後方を飛ぶ空間 明衣(
ga0220)の耳にミサイルのロックオンアラームが盛大に響く
「なっ何! ミサイル!!」
北西の方角から飛来したミサイルが岩龍に命中すると機体は瞬く間に炎に包まれる。
「明衣さん!」
不破 梓(
ga3236)が呼びかけ、ラージフレアを投下する。しかし、敵の位置は分からない。
目に炎のような揺らめきを浮かべ回避運動に入る明衣。
「こいつはヤバイ! 煙に巻こう!」
煙幕を放ちブースト発動‥‥最大の努力で逃走を図るも叶わず‥‥光の筋が機体を貫く、コックピットの電子機器が一斉に光を失い暗転する。エンジンが停止し推力を失い、機体はバラバラに砕け真っ赤に燃えながら回転するように落下してゆく。
アクセルコーディングを発動し、回避に入る梓の機体にもミサイルが命中すると、装甲がガラスのように砕け鋭い破片をまき散らす。ダメージは1発で50%を超えている。2発食らえばまずダメだろう、相当の豪運に恵まれなければ3発は耐えられないだろう。
「明衣さん! 梓さん! よくも!」
全身から燐光を漂わせフィオ・フィリアネス(
ga0124)が敵を探す。煙幕の中、僅かな揺らめきの先に狙いを定めガドリングのトリガーを引く。煙の中をオレンジに輝く閃光が弧を描くように飛ぶ。
『ピィー』
けたたましいアラートの直後に衝撃、一瞬で装甲の大半を失うフィオ機。
「うわっ! えっ! 宗太郎さん」
フィオの放ったバルカンの閃光の先に現れた赤い機体に向かって体当たりのコースを見せるのは宗太郎=シルエイト(
ga4261)である。
(「今この時、私は皆さんの思いを貫く槍になりましょう」)
敵の酔狂かそれともフィオの放つ弾丸に気を取られたのかは分からない。必殺のアグレッシヴファングの力を纏ったR−01が赤い機体と交差する。大音響が響き、赤い機体は弾き飛ばされると僅かに体勢を崩す動きを見せる。
「それ以上はやらせねぇ! 何が何でも守り通す!」
確かな手応え、宗太郎は一瞬いけると思った。
刹那、2方向からの光線が宗太郎の機体を貫く、主翼が剥がれ、未だ陽の当たらない暗黒の大地へと吸い込まれてゆく、向かう先を失ったエンジンの推力が機体をぐるぐると回転させる。すでに戦闘力を失った宗太郎の機体に追い打ちを掛けるようにミサイルが迫る。
「もうやめてぇ!!」
梓の脳裏にバグアの襲撃の記憶が蘇る。
次の瞬間、ミサイルが命中し、真っ赤な炎の尾を引いて落下してゆく。
「え?」
『ゴツン!』
異音と衝撃。梓の視界の計器が一斉に明かり失いパネルに亀裂が走る。2度目の衝撃と同時に機体は炎の尾を引きながら落下してゆく。
フィオの機体にも攻撃が殺到する。宗太郎と同型機のR−01であったばかりに念入りに‥‥、そして嬲かのように。為す術も無く機体は砕け、瞬く間に炎に包まれ‥‥落下してゆく。
「こちら不破。これ以上は無理だ! みんな逃げるんだ!」
しかし、無線からは雑音が流れるばかり、梓の声に応える者は居なかった。間もなく梓の乗る機体も炎に包まれ‥‥落下してゆく。
初撃から20秒を待たずに後続隊の4機は蹂躙され、4機の赤い機体は、次の獲物である先行部隊に襲いかかろうとしていた。
通信を封じられ、不意のミサイルを受けた先行隊の目の前に6機の赤い敵機が姿を現す。
「邪魔させるか! お前らの相手は俺達だぜ? そっちが新型ならこっちだって新型。やられてばっかで居られるかっての!」
誰も応えない無線に向かって新条は叫ぶ。そして、傷ついた機体を懸命に立直すとG放電装置を作動させる。放たれた光の帯は赤い敵機を捉えダメージを与えたかのように見えた。いや確かに与えたはずだ。
「空戦部隊の長として、恥ずかしいとこは見せられませんね」
叢雲はそう呟くと新条の射撃直後の隙を埋めるように的確に前に出る。刹那、四本の光る筋が叢雲の機体を瞬時に貫く。
「叢雲ーーッ!」
爆発。叢雲の機体の破片が新条の機体の装甲に当たり後方に落下してゆく。
「伊佐美さん、行きますよ!」
後続隊の進路を開くためセラフィエルは敵機を引きつけんとコースを変える。この時すでに後続隊が全滅していることをセラフィエルは知らない。無線は通じなくとも阿吽の呼吸で援護に入る希明の動きに無駄はない。希明の放ったスナイパーライフルD−02の射撃は正確に赤い敵機を捉えていた。
そして、前から二機後ろから二機、計四機の集中射撃がセラフィエルと希明に向けられる。それは機体の防御限界を軽く上回る破壊力を持つものであった。
戦闘開始から20秒。偵察隊で飛行しているのは、のもじ、拓那、神音の操る3機だけだ。
神音がラージフレアを投下すると、のもじがM−112煙幕装置を発射する。
新条は腕に巻かれたハンカチに祈りを込めると、散っていった仲間の為に、最後のチャンスに全てを賭けるのだった。
数秒後、3本の煙の筋が地面に向かって伸び、そして、消えるのだった。
そして赤い敵機はそれぞれ違った方向に帰ってゆくのだった。
●夜明けは東から
空戦の場所がバレンシアの手前90kmであり、幸いにもスペインの陸軍部隊が周囲に残存していた。
先に消息を絶った偵察隊も含め捜索する部隊がいくつか活動しており、彼等・彼女らも運良く発見されることになる。
北西に進路を取る空母アークロイヤルは搬送された負傷者と救助を繰り返すヘリの離発着の活動もあり、混雑している。
其処に傷だらけになったワイイバーンが上空に姿を現すと甲板に歓声が沸く。生還は最大の価値であり、希望を繋ぐキーワードであった。
空中で4足の姿に変形すると、ジェット噴射で減速し‥‥、着艦の姿勢をとる。続けてディスタンが人型に変形し飛行甲板に着艦すると
帰還出来たのは、誠と、アルヴァイムの2名だけだ。
「みんなは?」
その言葉にブレアは首を横に振ることしか出来なかった。
支援艦隊は逃走に成功、壊滅だけは回避したものの、艦載機と一緒に沈められた空母1隻を始め駆逐艦2隻、フリゲート艦5隻を喪失していた。人的被害も相当な数に及ぶ可能性が高い。
「救助完了! 潜行!」
3隻の潜水艦は生き残った者達を収容すると重油と残骸が漂う洋上を後に潜行を開始する。そして。北西に逃れた艦隊との合流を目指す。
こうして能力者に限っては、奇跡的に全員が救出されるのであった。
後にファームライドと呼称される事が判明する10機の新型機が偵察隊の対応のために動員され、一斉に、そして、明確な殲滅の意図を持って襲いかかったことが、全滅の最大の要因であり、もっとも不幸な展開であると言えた。
実際、巡航ミサイルの多くが目標到達前にに自律航法装置の狂いなどにより山肌に激突し、または撃墜されて行った。アリカンテ空港に着弾したものは片手の指で数えらる程少数であり、バレンシアに到達したものも10発にも満たなかった。
無人の巡航ミサイルの動きは単調であり、低空飛行中も戦闘機に比べれば撃墜しやすい。そのため目標に到達する割合が敵の制空権下では低い。つまり、巡航ミサイルの迎撃に新型機を投入する可能性は低かったのだ。
だが、明確な意図を持って飛行する有人の編隊となれば話は別である。行動を逐一マークされ、泳がされた末に包囲の輪が閉じられたのだ。
持ち帰られたカメラには有効な映像は残されていなかったという。
後方に搬送された飛行記録の分析と能力者達の証言によって、敵新型機『ファームライド』及び『キューブワーム』の概要が伝えられたが、目的である都市の様子は謎として残され、今後のスペイン戦線の大きな懸念となった。