●リプレイ本文
●到着
その日のクランウェル基地周辺は穏やかな天気で、快晴に恵まれていた。
「あら? またお会いしましたね」
アグネス・ワーナーが、ラルス・フェルセン(
ga5133)に声を掛けると、
「こんにちはー、今日は開発に携わって来られたー、皆さんの成果の結晶を拝見させて頂きます〜」
そう言うとラルスはぺこりと頭を下げ、子供のような笑顔をみせる。
「新たな希望、ですよね〜」
人類の反攻は始まったばかりだ。その行く末がどうなるかは誰にも分からない。
しかし、その一翼を担う新たな希望になって欲しい、そう思って出た言葉かもしれない。
「え? ええ! そうですよね」
アグネスは一瞬、戸惑ったような表情を見せるが、すぐに同意を示す。
「他国の空軍基地とは言え、中に入るとなんだか懐かしい感じがしますね」
軍人時代の事に思いを巡らせながら、クラーク・エアハルト(
ga4961)は静かに言う。滑走路の開けた空間が目の前に広がっており、上空からエンジンの爆音が聞こえてくる。
音のする方を見上げると、2機の戦闘機が、頭上を通り過ぎ、少し離れた先の上空で静止する。
そして、機体は空中でロボット型に変形すると、ジェット噴射で落下速度をコントロールしながらに降下してくるのだった。
「初めて見る機体だな」
煉条トヲイ(
ga0236)が呟くように言う。
「EF−06とは違うみたいね」
世界各地のメガコーポレーションでは独自にKVが開発されおり、現地で運用されているケースもある。
「はじめまして、お世話になります。書類の提出はこちらでよろしいですか?」
麓みゆり(
ga2049)は軽く頭を下げると、重みのある封筒を受付の職員に差し出す。
封筒の中身は長いミーティングの末に完成したテストプランである。
職員は手続きの旨をみゆりに告げると、封書の中身をあらためてから、奥の部屋へ向かう。
申請の概要は下記であった。
使用機体はF−104が3機、S−01、R−01、G−43が各1機。
飛行はクランウェル基地と北海上空往復。
内容は往路をフェーズ1、復路をフェーズ2と呼称。
・フェーズ1『エンジンテスト』
・フェーズ2『長距離射撃と偵察能力の模擬戦形式のテスト』
・EF−06 テストパイロット
麓みゆり
黒崎 美珠姫(
ga6479)
・護衛役
F−104 煉条トヲイ
F−104 クラーク・エアハルト
・迎撃役
S−01 皇 千糸(
ga0843)
G−43 須佐 武流(
ga1461)
R−01 ラルス・フェルセン
F−104 ランドルフ・カーター(
ga3888)
※迎撃役にRAFの協力要請。
「実践的で、かなりハードな内容ですね。流石は経験者と言ったところでしょうか? 迎撃役には、バランスを考慮してEF−05を2機、協力させましょう」
「銀河とドロームの新型が直接見られるのは、皆への刺激になるかと思います」
書類に目を通したリチャード・ブレア中将は、秘書の言葉に頷きながら許可書にサインをすると、言葉を加えた。
「ああ、そうだ。書類不備の分については機体には乗せるわけには行かんが‥‥、その他の事については大目に見るように」
●顔合わせ
格納庫から引き出されたEF−06は灰色に塗られており、見た目の印象はR−01に近い。
「コイツが飛竜になるか、飛べない鳥になるかは‥‥俺らにかかってるってワケだ」
武流が思惑無く発した言葉であったが、それを耳にした整備員の表情が曇る。
「随分、自信があるようだな?」
挑発的な声の方向に武流が視線を向けると、2人の男が見下すような視線を投げかけている。
RAFのエース部隊『ハーキュリーズ隊』に所属するパイロットらしい。
売り言葉に買い言葉、二人と武流の間に微妙な空気が流れる。
「ちょ〜っと、君たちはーなにいってるんですかー?」
微妙な空気を察したラルスが、兄弟をなだめるような口調でツッコミをいれている所へ、アグネスとリーフ・ハイエラ(gz0001)が現れる。北海上空の飛行について事務的な手続きをしていたらしい。
「これはこれは美しいお嬢様方ではないですか〜」
そう言うと二人のパイロットは帽子を取って跪く。相当調子のいい性格だ。
少し遅れて、EF−06の仕様説明受けたみゆりと、美珠姫が現れる。
当初2回の飛行が予定されていたが、事務上の手続きの都合により、みゆりにしかEF−06の飛行許可がでなかったらしい。
しょんぼりする美珠姫にリーフとアグネス2人が済まなそうに声を掛ける。
こうして、顔を合わせた全員が簡単な自己紹介を行うと、テスト開始に向けて鋭気を養う。
RFAへの協力を依頼していた、千糸とラルスはハーキュリーズ隊から派遣された2人に仮想敵であるシェイドの特徴を伝え、作戦の段取りを調整するのだった。
癖の強い性格の二人に千糸とラルスは神経をかなりすり減らす。
そうしている間に、申請されていた機体の装備調整は完了し、いよいよテストが開始される。
●フェーズ1
EF−06が離陸すると、後を追う形で2機のF−104が続く。
「まずはエンジンテストですよね」
そう言うと、みゆりは速度を上げる。加速は軽快でありエンジン音も静かで安定している。
「S−01と岩龍を掛け合わせた様な機体なのだろうか?」
機体はあらゆる状況への対応を求められる。兵装の柔軟さを感じ取ったトヲイはそう言うと後に続く。
何かに特化すれば別の何かを省かなければならない。状況を限定すれば確かに強力な機体は作成できるかもしれないが、それでは長い期間の戦いに耐えることはできない。
「こちらChash。みゆりさん! 速すぎます!」
クラークからの通信。
10分程の飛行時間。最大速度で追ったにも関わらずみゆりと後続の2機の距離は離れるばかりであった。
「随分、脚の速い機体のようですね」
クラークはみゆりの機体の横に並ぶと言う。新型エンジンの効果は高いようだ。
一行は巡航速度にスピードを減じるとノルウェー方面に向かって飛行を続ける。
心配されたトラブルは一切無く、復路に入った際のマイクロブーストも良好であった。
「こちらClock、みゆりです。テストは良好です。このままクランウェルに向かいます」
●フェーズ2
ポーン! ポーン! 敵機の接近を示すアラームが鳴り響く
「英国の新型KVの性能とやらを見せてもらおうか!」
そう言うと突然ブーストで加速を始めるランドルフ。覚醒をしていても激しいGが肉体に疲労を刻む。機体は瞬く間に模擬戦闘空域を離れてゆく。
「お手並み拝見と行こうじゃないか!」
トヲイがそう言った刹那、上空から急降下してきた二機のEF−05はガドリング弾を放つ。
命中を示すアラームが鳴り響くが、F−104に与えられたダメージは5%にも満たないものだった。
「逃がさない!」
間合いを稼ごうとぐんぐん距離を離すEF−05にみゆりがH−112バルカンを放つ。
「俺もお返しだ!」
トヲイが必殺の高分子レーザーをEF−05に放った瞬間、別方向からの狙い澄まされたラルスと千糸の放った弾丸がみゆり機に命中する。
「油断大敵なのですよ〜」
「今度はこっちよ。避けられるかしら?」
スナイパーライフルの射程を生かした射撃に、ハーキュリーズ隊の一撃離脱戦法がうまくかみ合い非常に効果的な攻撃を展開する迎撃側。
(「なんとかしなくちゃ」)
そう思うみゆりだったが、射撃を回避する術を持たずに次々と被弾を許すことしかできない。
機体数は迎撃側が6、偵察側が3で、そのまま戦えば偵察側が不利である。しかも、迎撃側が執拗にみゆり機を狙うためEF−06へのダメージが急速に積み重なってゆく。
「援護します!」
クラークはそんなみゆり機を援護するためにラルスへの格闘戦を挑む。
偵察側・迎撃側共に特別な作戦は無かったため、各々が叩き合う大乱戦の様相を見せる。
「なかなかやるな! しかし成功させてやる!」
トヲイはブースト空戦スタビライザーを起動させる。激しい機動が肉体に負担を強いる。ここまで2人1組での一撃離脱を成功させていたハーキュリーズ隊のEF−05が、トヲイの繰り出す予測不能の攻撃を避ける事が出来ずに二人揃って撃墜の判定を受けることになる。
この時点で戦力比は数字の上では3:4。偵察側にとっては逃げ切りさえすれば勝利である。
しかし、護衛に当たるはずの2機が引き離されてしまったことが災いする。
みゆり機は単独で新型機であるG−43の攻撃に対応しなければならなかった。
(「俺はもっと強くなりたい。人を、そして‥‥大切な人を守れるぐらいに‥‥」)
武流の強い思いが籠もった攻撃は的確にEF−06を捉える。
そして、そうした思いに応えるように装甲の限界まで戦い続けるみゆり。
残り時間僅か、最後にマイクロブーストで逃げ切ろうとするみゆりの機体後方に武流の放ったレーザーが命中する。 強力な破壊力をもつそれは残されていた装甲を消し飛ばすのだった。
被撃墜を表す赤ランプが点灯する。
僅かに遅れて、マイクロブーストが起動し、空域を離れるEF−06。既に勝負は決していた。
こうして、EF−06の撃墜判定により、迎撃側に軍配が上がり、模擬戦は終了するのだった。
クランウェル基地に降り立ったとき、みゆりは足がふらつくほどに疲れていた。
マイクロブーストは機体に対する負荷は低かったが、搭乗者に対しての負荷がかなりかかるようだ。
そんな様子を気遣ってクラークと武流が肩を貸すと、
「だいじょうぶよ」
と、みゆりは笑顔を見せる。
尊大な態度をとりつづけていたハーキュリーズ隊の2人も模擬戦で撃墜された事実を受け入れ、傭兵の力を理解するに至る。そして、今までの非礼を素直に詫び、共に戦った仲間の健闘を称える。
そんな2人にランドルフはさりげなく煙草を勧めるのだった。
うち解けた一行の様子を察知したクラークが、EF−06をバックにしての記念撮影を提案すると、それは良いねと誰もが賛同する。
撮影を終えた一行にハーキュリーズ隊の2人が基地のコーヒーとフイッシュ&チップスを振る舞う。温かいそれらは身体の芯まで温めて、元気にしてくれるような気がした。
と、そんな中、ふと自分に誰かの視線が向けられているのに気付いて、リーフは振り返る
「ん?」
「リーフさん、なんだか貴女とはとても仲良くなれそうな気がするわ」
いきなり千糸に投げかけられた言葉に、リーフは自分の胸を見下ろし悲しげな表情を浮かべるとぼそりと言った。
「小さいこととか気にしてはいけないのですよ」
こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎ‥‥。
ラルスとランドルフは開発者の一人だったマーガレットへの精一杯のメッセージをアグネスに託す。
墓参りを希望していた2人であったが、彼女の墓はマンチェスター郊外にあり、クランウェル基地からは距離が離れすぎていた。
夕焼けの朱に染まる風景の中アグネスは帰路につく能力者達を見送りながら手を振った。
本当にありがとう‥‥その気持ちを、精一杯に込めて。
尚、機体のペイントはみゆり、ラルス案のブルーグレーにホワイトのラインのアクセントを入れる案が有力となり、
機体のコードネームは「アヴァロン」「ブルーベル」「テンペスト」「ライトキャリバー」「エアリアル」「ワイバーン」の6つが候補として残されるのであった。