タイトル:密林の救出戦マスター:塩見 純

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/23 00:25

●オープニング本文


 南米に広がる熱帯雨林地帯・・・・
 静けさが似合うその森は今、銃声と獣の咆哮によるオーケストラが繰り広げられていた。

「デーイブ! デイビット伍長、生きているか!」
 黒人の兵士がキメラに向かってショットガンを撃ちつつ呼びかけた。
 散弾銃から放たれるのはスラッグ弾。近距離ならば致命傷は与えられなくとも動きを止めることは可能だ。
「生憎と死神には嫌われているようです、軍曹殿!」
 その声に答える白人男性、彼の手にあるのは対物ライフル。エミタを持たない人間がキメラに対抗できる数少ない武器の一つだ。
 会話しつつも彼らの視線と銃口は目の前のキメラから離れることは無く、継続的に射撃を加えていった。

「よし、いい返事だ。他の奴らはどうだ?」
 統制の取れた制圧射撃でキメラを釘付けにしつつ、再度状況確認を行う。
「アルファー、ブラヴォーとも負傷者は居ますが無事です。ところで小隊長殿は?」
「我らがインテリ小隊長殿はさっき大尉に昇進されて天国に栄転された、以後はオレが指揮をとる。ところで対戦車兵いるか!」
「居ます!」
「準備出来次第、対戦車ミサイルを発射しろ!」
「出来ています」
「上等だ、ではキツイのをお見舞いしてやれ!」
「サー!!」
 軍曹の号令の下、対戦車兵の発射したミサイルがキメラに炸裂する。
 それが止めとなったのか、怪物はその場に崩れ落ちた。

「よし、これで生き残りは全員だな」
 状況を確認し、軍曹は生き残った全員に向かって言う。
 彼らはこの周囲のキメラ討伐を担当するUPC南中央軍の一部隊。対抗する火力を持っているとはいえ、彼ら自身は一般人。
 小隊規模だった部隊の人間もいまや軍曹以下8名を残すのみだった。
「軍曹、指示を・・・・」
 心配そうな顔で質問する伍長。無理も無い、今の戦闘で生き残ったとはいえ、部隊全体の損害は大きいのだ
「本来ならここにいるキメラを全部ミンチにしたいところだが、火力人員とも心もとない。それにオレはアフター5は大事にする主義だ」
 軍曹の言葉に安堵の表情を見せる兵士達。
「よって撤退する。全員、周囲を警戒しつつ合流地点へ・・・・」
 しかし、それはすぐに恐怖の表情へと変わった。
「軍曹、新手が!」
 部下の声に視線を巡らす軍曹。
「もう一匹いやがったか・・・・ミサイルはあとどれ位ある?」
「品切れです軍曹」
「そうか・・・・無線手、ラストホープに連絡しろ、ひょっとしたら騎兵隊が来るかもしれん」
 目の前にいる大型のキメラから視線を離さずに、軍曹は指示を下した。
「・・・・間に合えばな」

「・・・・緊急の任務です。ジャングルで強行偵察中のUPC軍の部隊より救援要請が来ました」
 緊張した表情でオペレーターが任務の内容を告げる。
「どうやらキメラとの戦闘で消耗したところに騒ぎを聞きつけた新手に遭遇したようで、現在、応戦しつつ撤退をしている最中です」
「キメラの詳細は分かりませんが、現地からの連絡によるとライオンのような大型の肉食獣のようなものらしく。こちらの火力では太刀打ちできないとのことです」
「事は一刻を争います、皆さんには迅速な対応をお願いします」
 そう言ってオペレーターは君たちの前で頭を下げた。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
戎橋 茜(ga5476
15歳・♀・BM
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
ギル・ファウスト(gb3269
32歳・♂・GP
レオン・マクタビッシュ(gb3673
30歳・♂・SN

●リプレイ本文


「またアレに乗るとはな」
 レオン・マクタビッシュ(gb3673)は高速移動艇から降り、機体を見上げて呟いた。
 元SASとして欧州での従軍経験のある彼にとってはこの機体は見慣れたもの、それに再び乗るという事はここが戦場だということだ。
「しっか‥‥生身でキメラとやりあうか、酔狂か剛毅か‥‥どっちだかね?」
 ギル・ファウスト(gb3269)が肩をすくめて言った。その隣では神無 戒路(ga6003)がライフルのチェックをしている。
「ま、騎兵隊としてお呼ばれされてる以上‥‥期待に背く訳にはいかねぇわな、気合入れて行くとしようか」
 戒路の反応が無いのを横目で見ながらギルが言葉を続ける。それに対し戒路は銃のコッキングをすることで応えとした。
「自己紹介が遅れたな、寿だ。宜しく頼む。」 
 その中に入り込むように寿 源次(ga3427)が自らの名を名乗る。
「幡多野氏とは何度か仕事をご一緒させて貰ってるな? 今回も頼むぜ」
「‥‥ああ」
 寿の呼びかけに短く答える幡多野 克(ga0444)。一見、そっけなく見えるが内心は突然呼びかけられたことに驚いていた。
「準備はOKだな?」
 そんな彼の事などつゆ知らず寿は全員に確認を求める。
 彼らに課せられたのは密林の中でキメラと遭遇したUPC南中央軍兵士の救出。急がないとジャングルの中で戦っている軍曹達が危ない。
 並木仁菜(ga6685)は気を引き締め、真剣な表情で頷いた。
「それじゃ行くか!」 
 誰かの号令の元、8人の男女は怪物の居る森へと歩を進め始めた。

● 
 南米大陸に広がる密林地帯。
 セルバと呼称されるこの熱帯雨林は濃い植生のため日光が遮られており、下草などが生長しにくい。それゆえ傭兵達は深い藪を通ることも無く奥へと進むことが出来た。
「軍曹殿、応答されたし。こちらラストホープの傭兵だ」
 寿が森の奥へと進みながら無線に呼びかける。周波数は事前に調査してあるので無線の届く範囲であるならば答えが返って来るはずだ。
 案の定、すぐに返信が来た。
「ザ‥‥こちらUPC南中央軍スペンサー軍曹だ! すまん今取り込んでいる」
 無線から聞こえる声に愛想は無い、そんな余裕も無いほど状況は逼迫しているのだろう。
「やばそうだな」
 一同の中に不安な空気がよぎる。
「見つけました! あそこです!」
 そんな中、双眼鏡で遠くを見ながらロジャー・ハイマン(ga7073)が声を上げた。
 双眼鏡を持っているのはロジャーだけなので目視での確認は難しいが彼の指す方角からは確かに銃声が聞こえている。
「これは急いだ方がいいんちゃう?」
 戎橋 茜(ga5476)、またの名を『オトメオレンジ』が銃声のした方角を見ながら提案する。
 その提案にうなずく一同。移動中、作戦は打ち合わせており。各々、自分の役割を理解していた。
「了解、こちらも慎重に急ぐ。それまで向こうを頼んだ」
 寿の返答と同時に素早く動くことが出来る茜、ロジャー、ギルの3名が軍曹達が居る方角へと走り出していた。


「死ね死ね死ね死ね死んじまえ!」
 怨嗟の言葉とともに軍曹はショットガンのトリガーを絞る。12ケージスラッグ、3インチ強装弾が次々と目の前にキメラに注ぎこまれる。
 しかし、目の前の肉食獣――緑と濃色の虎型迷彩パターン、別名タイガーストライプの模様を施された虎型の生き物の前には豆鉄砲も同然だった。
 歩を進め、近くに居る古参兵を血祭りにあげようとする獣。直後、獣めがけて無数の銃弾が叩き込まれ、キメラの動きが一瞬止まる。
 軍曹の後方数メートルに居た兵士達が一斉に射撃を行ったのだ。
「アルファー撤退!」
 それを見て3名の部下とともに撤退する軍曹。
 隊を二手に分けて、交互に撤退を繰りかえす。古典的だが確実な方法で軍曹達はキメラの追撃から逃れようとしていた。
 もし相手が普通の人間相手なら、やがて追跡をあきらめるだろう。だが目の前の敵は文字通り人外の生き物。そして彼らにはキメラを倒す決定的な火力が無い。
 先ほど傭兵からの救援の連絡が来たが、車も使えないこの密林地帯だ。 
 怪物の毒牙にかかるのも時間の問題だった。

 しかし‥‥状況は彼らに傾こうとしていた。

「情熱と希望の戦士オトメオレンジ只今参上や!」
 彼らを通り過ぎる3つの影。その内の一人――茜が眩い笑顔を浮かべそう名乗ると、キメラに飛びかかった。
 突然の攻撃で一瞬ひるむキメラ、しかしすぐに目標を変更し目の前の少女に向かい爪を振り上げる。
 だが、その攻撃も間に割って入ったロジャーの盾によって阻まれる。獣の鋭い爪はメトロニウムに傷をつけることは出来ても切り裂くことは出来ない。
 そこへギルがキメラめがけて重爪ガントを振りまわす。だがキメラは後ろに跳躍し距離を取ったので、その一撃は空しく空を切ってしまった。
「よぉ軍曹、騎兵隊のお出まし‥。スコアは十分に稼げただろ? 後は俺らにお任せ‥‥ってな」
「‥‥ここは、自分たちに譲ってくださいよ」
 軍曹の前に立ったギルとロジャーがそう言いながら、キメラに向かって構える。その言葉に軍曹の表情が少しだけほころんだ。
「そうだな、老兵がしゃりしゃり出るといけねえ‥‥伍長! 兵士を取りまとめろ!」
 そばに居る伍長に命令しながら軍曹はキメラに銃を構えながらゆっくりと後ろに下がる。間に能力者が居るとはいえ獣との距離が短く、背中を見せると一気に飛び掛られる可能性があった。
 ギルとロジャーもそれが分かっている故に突出せずにキメラとの距離を作ろうと努めていた‥‥が。

「はぁ‥‥そんな頭でっかちやったら日が暮れてまうで! 時は金なりって言うやろ」
 この状況に耐え切れなくなったのか茜はそう叫ぶと獣に向かって飛び掛った。
 勿論、彼女自身もこの状況にリスクがあるのは分かっている。だがここで攻撃をかけ、キメラを引きつければ問題は無いと判断し、尚且つ獣の特性を見極めようとする狙いもあった。
 自分の俊敏さを活かし一撃を振るい、瞬速縮地で距離を取る。
 だがキメラはその攻撃を避けるとすぐに茜に追いすがった。しかもほぼ同じスピードで。
 茜を射程に収め、キメラは爪を振るう。その攻撃は獣の模様ゆえ周囲と同化しやすく非常に避けにくく思われた。
「させません!」
 攻撃を予測していたロジャーはそう叫ぶと瞬天速により一気に距離を詰め、盾をかざし鉤爪の一撃を防ごうとした。だが無理に割って入ったため完璧な防御をすることは適わず、盾を持った腕を切り裂かれてしまう。
 鮮血に染まる片腕。痛みに耐えながら、ロジャーはもう片方の手にある月詠を振るい、さらにアーミーナイフを投げてキメラの動きを牽制する。
 刀の一撃を避け、逆襲に転じようとしたところに足元にナイフが刺さり、思わず動きを止めるキメラ。
 そこへ別の方向から銃弾が飛んだ。
「間に合ったようだな」 
 レオンが持つハンドガンからだった。
 さらに銃撃を続け、弾幕を張ろうとするレオン。
 しかし、予定と違う装備を持っていたせいか弾幕を張るには装弾数が足りない。
 弾丸を潜り抜けたキメラは一番最後に邪魔をしたレオンに飛び掛ろうとする。
「レオンさん危ない!」
 その足元を仁菜のスナイパーライフルが射抜いた。さらに一撃を見舞おうとする仁菜、しかし俊敏なキメラはすぐに場所を移動し、照準から逃れた。

「大丈夫か?」
 傷ついたロジャーに練成治療を施しながら呼びかける寿。その傍らには克と戒路も居る。
「大丈夫です。すぐに護衛に入ります」
 ロジャーは頷きを返すと立ち上がり、軍曹の元へと走った。すでに軍曹も他の仲間と合流しており、後は撤退するだけだった。
「こっちだ」
 レオンが道を示し、軍曹達を誘導する。ロジャーも彼らの護衛のため一緒についていく。
「おっちゃん!」
 撤退しようとする軍曹に向かって茜が呼びかける。
「今度アタシが美味しいお好み焼食べさしたるから絶対生きて帰るんやで!」
「ジャパニーズピザか! 楽しみにしているぜ」
 軍曹は振り向き、そう答えると高速移動艇の方へと走っていった。


「さあてと、天下無敵の純情美少女‥‥そろそろ全開やぁ!」
 軍曹達の安全を確認すると茜は持っているイアリスを構える。既に寿の練成強化が施されており、彼女の弱点であるい破壊力は補われている。
 強化されたイアリスを片手に先頭を走る茜、それに従うように克とギルは後ろを走り、戒路と仁菜がそれを援護する。
 瞬速縮地を使い一気に横に回りこむ茜、それを確認した戒路はライフルを抱えて走り出す。
 茜の動きに対応しようと身体を動かすキメラ。その足元を仁菜の強弾撃が襲う。弾丸は獣の前足を掠め、周囲に怨嗟の泣き声が響きわたる。
 その足めがけて更なる一撃を見舞おうとするギル。しかし銃撃を警戒したキメラは一気に距離をとり、大きく移動する。
 すぐさま克が反応しS−01を乱射しながら接近し、月詠を抜く。抜刀しての斬撃に対してキメラをその巨体を跳躍して、飛び越えることにより回避した。
 しかしその着地地点には茜が待ち受けている。
 すんでのところで彼女の直刀を避け、滑るように着地する。体勢を立て直しちょこまかと動く少女をしとめようと視線を動かすが、既に彼女は移動しており、代わりに立っていた克が獣の動きを止めようと立ち向かってきた。

「素早すぎます!」
 仁菜が強弾撃を撃ちながら叫んだ。
 彼らが相対するキメラは非常に俊敏性に溢れていた。また森の中に特化しすぎると思える毛のパターンが更に攻撃を難しくしている。
 傭兵達もそれを予想し、克を足止め、茜を撹乱要員に充て、動きを止めたところに足を狙うという作戦を立てていた。しかし、それを行うには相手は素早すぎたのだった。
 寿の超機械なら獣にも一撃を与えることが出来たかもしれないが、彼自身は治療と強化に集中して攻撃に移るのは難しかった。
 だが、戦闘は傭兵達の方へと傾いていた。
 キメラは一体に対し、彼らは6人。いくら俊敏さに優れていても多方向からの攻撃に対応するのは難しいものがある。
 またキメラの攻撃を受け止めていたのが一番技量に優れた克だったため戦線を問題なく維持していくことが出来た。
 キメラの移動範囲は徐々に狭くなり、そして‥‥

「‥‥‥‥」
 隠密潜行によりキメラの死角に位置した戒路がライフルの引き金を絞る。
 強力なマズルファイアとともに銃口から放たれた影の一撃は寸分外さずにキメラの右後ろ足を貫いた。
 死角からの一撃を受け足を崩すキメラ、正確に急所を撃ち抜かれた後ろ足は最早その機能を発揮することは出来ない。
 更に追い討ちをかけるように仁菜の強弾撃がもう片方の後ろ足を撃ち抜き、その場に這いつくばせる。
「奴さんもそろそろか? 幡多野氏、決めて来いッ!」
 怨嗟の咆哮を上げ、なおも襲い掛かろうとする獣を見ながら、寿は練成超強化を克に施す。
 克の持つ月詠に内蔵されたスチムソンエネルギーシステム、通称SESが更なる力を発揮するために過剰なほどの空気を求め吸排気をを繰りかえす。
 茜が拳を握り、自らのエミタの力を引き出す。
 克が覚醒状態を引き上げ更なる力を武器に注ぎ込む
「アタシのハートがアンタを倒せと燃えて叫ぶぅ!」
 金龍の力を宿す情熱の乙女と銀髪に金色の瞳を持った青年が駆け出す。
「出血大サービスだ受け取りな!」
 体重の乗ったギルの爪撃が次々とキメラの胴を急所を抉る。
 まだ動く前足を振り回し、ギルを追い払おうとするキメラ。
 それを避けてバックステップしたギルとすれ違うように今度は克がキメラに接近する。
 同じように前足を克に向かって振りかざすキメラ。しかしその爪から遠ざかるように彼は獣を側面に回りこみ。更に破壊力を向上させた直刀による渾身の一撃を胴体に叩き込んだ。
 寿の練成超強化から始まり、豪破斬撃、流し斬り、紅蓮衝撃を組み合わせた驚愕の四重奏は獣の身を守るフォースフィールドを易々と突き破り、強化された皮膚を筋肉を切り裂いた。
 強烈無比な一撃に身を崩すキメラ。それを見て茜が空を舞う。
「必殺! バーニングオレンジ!!」
 全体重をこめた斬撃がキメラの首に叩き込まれ、何かが地面に落ち、転がる。
 首を失ったキメラは数拍の沈黙の後、ゆっくりと密林の地に倒れこんだ。


「よっしゃ! 天下無敵の大勝利や! キメっ!」
 生き残った兵士達の前で茜が愛嬌を振りまく。兵士達も生還した開放感からか一緒に写真を撮ったりしている。
 軍曹はそれを横目に見ながら自分とレオンの煙草に火をつけた。
「不味いな‥‥まだ生きてると実感できる」
 紫煙を燻らせてレオンが呟いた。
「そうだな、でもまた恋しくなるんだよな、この味が」
 軍曹が笑みを浮かべながら答える。そこへギルがウォッカを投げ渡した。
「一生を洗い流し、心に羽を生やす‥酒ってのは世界的な万能薬、だろ?餞別だよ、持ってけ」
「すまんな」
 礼を述べ、懐に入れる軍曹。
「でも、次はビールかバーボンにしてくれ。これでもアメリカ人なんでな」
 そう言うと軍曹は兵士達の方に向き直り、声を上げた。
「よーし! お前ら撮影会は終わりだ、帰るぞ!」
『イエス、サー!!』
 兵士の声が密林の地に木霊した。