●リプレイ本文
どこまでも続く、ブルーの海面と群青の青空。
そして、飛翔する巨鳥。それは鋼鉄の翼、それは天駆ける騎士、そしてそれは、悪魔たちと戦う剣。
剣の名は、ナイトフォーゲル。人類を守りバグアを撃つための剣。飛翔する姿は、天より遣わされし戦士の姿。
「こちらエスター(
ga0149)、各機応答願うッス」
赤毛の陽気なスナイパーが、愛機、F−104の通信機を作動させた。
「藤田あやこ(
ga0204)、感度良好」賢そうな瞳と、漆黒の黒髪を持つ彼女の乗機は、エスターと同じF−104。
「新条 拓那(
ga1294)、ばっちり聞こえてるぜ!」熱血漢そのものといった口調の彼の愛機は、F−108ディアブロ。紅の機体色が、まさに機体名を、地獄からの悪魔(ディアブロ)を思わせる。
「平坂 桃香(
ga1831)、受信状態良好ですよ。今のところ問題ないです」黒い鋼鉄色のH−114岩龍に搭乗している桃香は、少し呑気さも感じさせる口調で返答した。
「‥‥緋霧 絢(
ga3668)、感度良好」淡々とした口調の少女、絢の相棒はKF−14。黒地の塗装が重厚感をかもし、翼のエッジに引かれた赤色が、青い海と空とを切り裂く刃のごとく。仲間たちの乗機と異なるデザインが、彼女をひときわ目立たせていた。
「レールズ(
ga5293)、現在のところ異常ありません」整った顔だちと、礼儀正しい口調の美青年。彼が操るのは、新庄と同じF−108。しかし、機体色は白地に青のラインを流したクールでスマートなそれ。
「阿野次 のもじ(
ga5480)! 全然異常なしっ! ザリガニのザの字も見当たらないよっ!」やはりF−108に搭乗した16歳の傭兵少女は、元気いっぱいに返答した。
「杉田鉄心(
ga7989)同じく! 奴らを見つけたら、かたっぱしから茹でてやるぜ!」たくましい外見に違わぬ、豪放磊落な口調の彼が操るのは、R−01。鈍い銀色に輝く巨体は、搭乗者と同様にパワーが満ち満ちていた。
二機のF−104、三機のF−108、そしてH−114、KF−14、R−01。合計八機のナイトフォーゲル部隊は、日向灘を探索しつつ飛行していた。じきに、いるか岬周辺区域に到着する。スカイアイの撃墜された区域。そして、スカイアイの乗員二名を含む、数多くの地球人兵士が眠る区域。
ここからが本番。やつらを誘い、そして討てるか。全てはこれからの行動にかかっている。
「子供の頃のザリガニ釣りを思い出すね。皆やらなかった?こう、糸でスルメを縛って‥‥」
「したした。それを川や沼にたらして、食いついたら釣り上げて捕まえてたッスねー」
新庄のやや呑気な発言に、エスターが相槌を打った。いささか緊張感の欠ける発言ではあるが、喋りつつも新庄の目はF−108のレーダーから離れていない。いつ何時敵が現われたとしても対処できるよう、抜け目無く警戒を怠ってはいない。
いるか岬周辺区域。彼らは現在、この区域を重点的に低空飛行し、自らを囮に誘い出しをかけていたのだ。
敵の空飛ぶザリガニ、すなわちヘルメットワーム「ウイングロブスター」を。
自分たちを発見させ、迎撃せんと出撃してきたウイングロブスターと交戦。それを追跡し、敵の前線基地を叩く。それが今回の作戦。
そのために、哨戒・偵察飛行しているふりをしつつ、敵が襲ってくるのを待つ事が必要。そのために彼らは辛抱強く、発見されるのを待っていた。
「地元の運動会の弁当のおかずは伊勢海老フライらしいわ、豪勢ねぇ」
パンフレットを片手に、藤田はそこに書かれている内容を音読していた。
待機中に気を張り詰めすぎても、有事に的確に行動できるとは限らない。そして、自分たちが警戒していると悟られてもまずい。これはわざと呑気で間の抜けた会話をして、彼らに無線を傍受されても怪しまれないようにと考慮しての行動である。研究所にて、徹夜で開発した新兵器・ロンゴミニアト改め藤田多段砲を食らわす用意はいつでもできている。
「あと、『ずし』海老の炊き込ご飯だってさ。食べたいな〜」
もっとも、料理裁縫が得意な藤田。料理に関しては、彼女の言葉は半分は本気ではあったが。
「そいつは俺も食いたいのぉ。エビは煮てよし焼いてよし茹でてよし揚げてよし!刺身もいけるからのぉ!」杉田が、いささか外したような口調で藤田に同意する。
平坂はヘッドホンでお気に入りを‥‥ギリギリ科学少女や胸ぴったんガールのテーマソングを聴いていた。対処できるように警戒はしているが、それでも退屈を紛らわさずにはいられない。
そんな彼女を、レールズは見張っていた。彼女は戦力にならないので、戦闘が発生したら後方に下がり待機することになっている。平坂に攻撃が行かないように警戒しつつ、自分も戦闘に参加。難しいが、自分の腕前ならばやってやれないことはない。
「うむむ、彼らがこの地区で活動している理由が何かよね。近くの基地に羽蝦の生産設備があるとか、稼動実験目的で移動してきているのか前提で話は大分変わるし」
阿野次のもじ‥‥未来のヒーローを目指す彼女は、己の考えをまとめるべく、先刻にえびの基地にて確認した映像および情報を反芻していた。彼女の機体には、えびの基地より提供された、いるか岬周辺区域の地図やデータが入っている。
おそらくは、試作機の実験目的で、少数の機体を運用しているのだろう。生産設備があるとしても、いるか岬の周辺には基地、またはそれらしい設備は見当たらない。ひょっとしたら内陸にそういう設備があるのかも知れないが、軍は該当するものは全く発見できていない。
発見できないほどの無能というわけでもあるまい。少なくとも、阿野次が見た限り、彼らはできるだけのことを行っている。
あるいは、「基地そのもの、もしくは大部分が、港に無いのだとしたら」‥‥? 突拍子もない考えが浮かんだ、その時。
「レーダーに感!おいでなすったよ!」新庄が声を張り上げ、
「‥‥確認。機体数、三。機体形式検索‥‥データベース該当無し」緋霧がそれを補足する。
「視認したわ! 間違いなく、あんなふざけた機体は羽付きのエビよ!」平松が、敵の存在を視認し、
「散開! 各機それぞれ、フォーメーションとともに迎撃体制を!」藤田が、全員に戦いの時を伝えた。
「「「「了解!」」」」
全員の機体、ないしはコクピット内の空気が変化した。日常のそれから、戦いにおけるそれに。
絶望と恐怖とを超越した闘志が、皆の心の中に燃える。機体のエンジン音が、戦場に響き渡るときの声のように、日向灘に響き渡った。
「ウイングロブスター」の機体数は三。報告どおり、巨大なハサミを備え、エビの背中にあたる部分にローター付きの飛行翼がある。ローターが回転している事から、それがなんらかの浮遊力を与えている事は間違いない。
それが空中で散開すると、三方向からいっせいに襲い掛かってきた。機体の前部、エビの頭部から粒子ビームがほとばしり、ナイトフォーゲル部隊へと振りそそいだ。
が、それを受けるような素人は居ない。すでに阿野次機、新庄機、二機のF−108が攻撃態勢に入り、ウイングロブスターへと向かっていく。
その後方に控えるのは杉田のR−01に、藤田とエスター、二機のF−104。そしてレールズのF−108。レールズは平坂のH−114が戦闘区域から離脱しているのを確認すると、緋霧のKF−14が低空飛行で待機しているのにも目をやった。
こちらの戦闘準備は整った。バグアよ、いつでも来い!
ウイングロブスターは、一機が空中へと高く飛び上がり、残り二機が海面近くへと低空飛行しつつ後衛へと接近していった。その速度は、確かに通常のヘルメットワームに比べ、かなり低速だ。
「冗談みてーなカッコでも、こっちは二人やられてるんだ。フライにして借りを返してやるよザリガニ野郎!」
後ろをとった新庄の機体が、ロブスターの後方へと向けてミサイルを放った。AAMは炎をあげつつ、命中する。
が、爆風と爆炎とがエビを襲ったが、それは撃墜される事なく空中を飛行している。少なくとも、装甲の頑強さは並以上だ。
「野郎! だったらもう一発食らえ!」
叫びとともに、ウイングロブスターへ向けて主武装の3.2cm高分子レーザー砲を放つ。レーザーの光は、ロブスターの装甲表面を焦がし、剥離させ、爆発を起こした。
いける! 彼がそう思った矢先。敵機はいきなり飛行したままで後方を向くと、新庄機の正面へ向けて突っ込んできた。
「なっ‥‥なんて出鱈目なやつ!」
翼の飛行装置は、かなりのものらしい。おそらく地球の航空力学を無視した動きが出来る代物なのだろう。それを用い、敵機はハサミを振り上げてナイトフォーゲルを破壊せんと接近する。
やられる‥‥そう覚悟したその時。杉田のR−01からのガトリング砲、エスターのF−104からのスナイパーライフルが火を噴き、ロブスターの装甲へと着弾する。
新庄機がすれ違いざま、ロブスターの一機は爆発、破片が海上に散らばり、文字通り海の藻屑と化した。
「おらおらっ! フルまっこのエビふらぁにしてやんよっ!」
阿野次もまた、ロブスターへと攻撃を仕掛けている。ロブスターという機体の動きを見て連想したのは、ヘリコプター。戦闘ヘリのそれに近いと、阿野次は思った。水中での運用をも想定しているせいか、飛行速度に関してはそれほど重視しなくてよさそうだ。
その代わりに運動性、そして耐久性が格段にアップされている。少なくとも、UK―10AAMを二発食らわせ、ハサミを片方しか奪えない程度の硬い装甲を持っているのは確か。
しかし、残った二機のうちもう一機が正面から迫り来る。それをよけている暇はない。
「まずい、やられるっ!?」
そして、機体は爆発炎上した。
ロブスターの一機が、藤田機のスナイパーライフルにより破壊されたのだ。既に後衛からの攻撃を何発かもらい、そいつは破壊寸前だった。
残る一機が、帰還しはじめる。予想通りだと、阿野次は微笑んだ。
「目標は現在海岸線に向かって逃走中。皆、先回りよろしく! さぁ、今度は俺達が釣られてやるからキッチリ案内してくれよ?」
新庄の言葉をうけ、平坂は己の出番が来たと気を引き締めた。
「逃がさないっ!」
片腕のロブスターは、海面を低空飛行して逃げていく。その進行方向を見て、いるか岬へと向かっているのは間違いない。
H−114岩龍、平坂の機体に搭載したレーダーが、かの空飛ぶエビを見失う事無く捉え続ける。それは皆を敵の下へと、敵基地の場所へと導いていく。。
「!?」
が、すぐにそれは絶望に変わって行きつつあった。ロブスターが、海上から海中へと降下したのだ。水中へと潜るのはまず間違いなかろう。
ではあるが、絶望は杞憂に終わる。こちらも対水中の備えはしてある。
「これより海中へと降下します」
緋霧の機体、KF−14が海中へと没したのだ。そのまま、彼女はソナーを頼りにエビを追う。
「‥‥ソナー、感。海岸線にて巨大な移動物体の感知を確認。機数、一。浮上します」
ウイングロブスターは、KF−14が感知した巨大物体に収納されていった。果たしてそれは、海上へとその姿を現した。
それは、数本の足を持つ、巨大な岩塊。地球軍の兵器で言えば、イージス艦と同じくらいの大きさだろうか。
その姿は、巨大なカニを模したメカ。己の甲の表面に土や岩を敷き詰め、存在をカモフラージュしていたのだった。今まで見つかるわけがないのも当然で、常に海中を移動していたため、地球軍に見つかる事無く活動できたわけだ。それは海水を滴らせながら、浅瀬で立ち上がる。
「攻撃目標、発見! みなさん、砲弾の雨を奴にお届けです! すこしでも開発は遅らせますよ!」
レールズの言葉とともに、KV各機は各々で攻撃を開始した。
レールズのF−108より放たれた84mm8連装ロケット弾ランチャーからのロケット弾が、巨大なカニ‥‥後に『メガクラブ』と命名‥‥へと着弾する。表面の土塊や岩塊が徐々にはがれ、カモフラージュが解けていった。
この偽装能力に頼っていたせいか、耐久力や攻撃力には欠けるようだ。メガクラブはKV各機の攻撃を受け、徐々にその動きを鈍らせていく。カニでいえばハサミに該当する、前部の巨大なアーム。それに搭載された粒子ビーム砲が火を噴き、空中のKVを撃ち落そうとする。が、その鈍い攻撃はかすりもしない。
「サンダーーーーークラァァァッシューー!!」
そんなメガクラブへと向かって、人型に変形した阿野次のF−108が引導を渡さんと迫る。
試作型G放電装置。放たれたそれは見事に命中し、メガクラブへと電撃を食らわせた。文字通り、感電したカニのように、その母艦は震え、動きを鈍らせる。
「まだまだぁっ!」
それで終わる事無く、阿野次のF−108の手には、主武装‥‥ライトディフェンダーが握られている。それを振るい、彼女はカニのハサミを片方切り落としたのだ。
「‥‥エビの親玉はカニッスか? どっちにしても‥‥Rest in Peace!(安らかに、眠れ!)!」
エスターのF−104も、ロケット弾で掃射しつつ変形し、地上に降り立ってスナイパーライフルで狙撃した。残ったハサミにそれは命中し、武装を吹き飛ばす。これで敵は、攻撃力を失った。
「気合充填200%! バーストトリガー!」
変形した藤田のF−104は、カニの背中に降り立つと、携えた武装‥‥機槍・ロンゴミニアトを深く突き刺した。槍へとエミタのエネルギーが伝わり、それが凶暴な攻撃力となりて攻撃目標に襲い掛かる。
「機槍発射! 中にいる奴ら全員、海老フライのカニコロッケにしてやんよー!」
槍の先端が爆裂し、カニ内部へと深く深く突き刺さる。巨大なカニを突貫した槍は、内部を破壊し、誘爆を招いた。
カニの母船が爆発する寸前、宣告に収納したロブスターが一機、脱出した。
母艦を見捨てて逃げる、ハサミが片方しかないエビ。しかし海中を行くそいつの前には、変形した緋霧のKF−14が待ち構えていた。
「逃がしません‥‥!」
KF−14の腕に握られた、SES搭載の水中用太刀「氷雨」。その刃が水中できらめき、一閃した。
メガクラブが崩れ落ちるのと、ロブスターの最後の一機が縦に真っ二つになり果てるのとが同時に起こり、両者は同時に爆発して果てた。
その後。再び徹底した調査が行われ、いるか岬周辺にバグアの姿は発見されず、状況の終了が宣言された。えびの基地からは皆に感謝状が送られ、KVの整備や弾薬補充なども行ってくれた。
そのような中、阿野次のF−108は日向灘海域上空を飛行していた。
機体からは花が一輪、投下された。それはパイロットたちへの鎮魂の想いとともに、海へと着水し、波間に消えていった。