タイトル:緑の怪群マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/19 20:54

●オープニング本文


 久留米駐屯地から出動した偵察部隊。
 彼らは、戦闘区域である久留米・八女付近をパトロールしていた。
八女郡・黒木町。その周辺にはまだ、緑が茂り自然が残されている。深緑が繁るその様は、あたかも自然の緑色ですらバグアを拒み、抵抗活動をしているかのよう。
偵察部隊隊長、土井垣は、深緑が味方をしてくれるようにと切に願っていた。情報によると、バグア人はこの周辺に秘密基地を設立し、秘密兵器を開発しているらしい。
なんでも、生物兵器‥‥おそらくは、キメラの一種‥‥を製造しては、実践に投入するという前線基地兼研究施設であるらしいが、詳細は不明。そのために、土井垣の部隊はこの周辺区域を捜索していたのだ。
場所さえ分かれば、すぐにでも攻撃部隊を派遣し、基地ごと破壊できるのだが‥‥。
 こうしている間にも、憎きバグア人は恐るべき作戦を立てているに違いない。少しでもそれに抵抗し、それを止めねば。
 あせる気持ちを抑えつつ、土井垣の部隊は捜索を続行していた。

「隊長! 発見しました!」
 捜索活動から一週間、部下から土井垣に連絡が入った。
 既に部隊が先行し、バグア秘密基地、およびその周辺を探索している。
 場所は、森林地帯の沼地を望む洋館。既に打ち捨てられ、廃屋としてそのまま放置された状態。戦闘地域に近いために、周辺地域の住民は既に安全圏内へと居住区を移っており、近付く者はいなかった。
 バグアはそこを利用し、洋館内部を改装。侵略施設として利用していたのだ。
 内部は、よりひどい状態。何か獣が暴れまわったかのように、あちこちに爪痕と足跡が残されている。そして、研究員か、あるいは兵士か。数体のバグア人の死体もまた残されていた。
「前世紀に、民間の製薬会社の研究施設として建造されたものらしいです。バグアが侵攻する以前に、既に放置された状態だったらしいですね」
 死体を見つつ、副官の兵頭はタバコをくわえた。禁煙していたのだが、洋館内部の凄惨な状態を見て、思わず一本取り出してしまったのだ。
「だが、この様子から見ると。どうやら連中はキメラを製造していたようだな。本部で製造したのをここに運び込み、兵器として利用しようとしていたが‥‥逃げられたか、あるいは反乱を起こされたか」
 土井垣もまた、氷砂糖を取り出して口にした。兵頭と異なり、彼は緊張したら糖分を口にしたがる癖を持っている。そのため土井垣は、いつも氷砂糖を持ち歩いては、時折口に放り込んでいた。
 土井垣の言うとおり、残っているのはキメラが入れられていたと思しき檻が残っている。が、兵頭は奇妙に思った。
「‥‥隊長、妙だと思いませんか?」
「ああ、こいつは確かに妙だ」
 残されていたのは、大量の檻、キメラのそれと思しき足跡。そしてバグア人の死体。
 檻がキメラを入れていたのは間違いない。そして、足跡はキメラが残したもの。状況からして、キメラが逃げ出してバグア人に襲い掛かり、そのまま外に出て行ったのだろう。その足跡と、バグア人の死体に残された咬傷から見積もるに。キメラはそれほど大きくはなさそうだ。おそらく、身長1m程度だろう。
残された足跡の数からして、おそらくはかなりの数が製造され、実践投入されようとしていたのだろう。幸か不幸か、それが実行される直前にそれは阻止された。バグア人どもは自らが作った化け物の群れにかみ殺された、と。
「咬傷の数からして、10や20ではなさそうだな。一つ一つの戦闘能力は低くとも‥‥大量に集まると、ピラニアか軍隊アリのように、獲物にたかってズタズタにするに違いあるまい。一刻も早くこいつらを‥‥」
 土井垣がそこまでつぶやいたその時、外から発砲音が聞こえてきた。

 土井垣と兵頭が駆けつけると、そこに広がっていたのは地獄絵図。緑色をした怪奇なる群れが、部隊に襲い掛かっていたのだ。
 沼から飛び出してきた、緑色の小さな怪物たち。体つきは猿めいているが、体表面はカエルのようなぬめりのあるそれ。手足はひょろ長いが強靭そうに筋張り、水かきのある手の指先には、不釣合いなくらいに大きな爪を備えている。
頭部はざんばらな体毛に覆われつつも、頭頂部のみが剃ったように禿げあがっている。顔の上半分もサルのそれだが、下半分はカエルやカモに似ていた。くちばしのようにも見える口は、開くとノコギリの刃のような歯が並んでいる。
身長は1m程度だろうか、少なくとも成人男性の半分以下くらいの大きさしかない。一体ならば簡単に倒せるだろう。しかし、そいつの数は少なくとも数十匹。そして、集団で部隊の人間に襲いかかり、鋭い爪でかきむしっていたのだ。
「全員撤退しろ!」
 応戦しつつ、部隊は撤退した。が、こしゃくなその生き物はしつこく襲い掛かり、掴みかかってくる。まさに土井垣が言ったのと同じように、陸に上がったピラニアのようだった。
 部隊員は、全員が撤退した。が、土井垣と兵頭の二人は取り残されてしまった。
 拳銃で応戦するも、追いつかない。何度も土井垣だけを狙い飛びかかってくる。兵頭が助け起こそうとすると‥‥彼が近づいただけでそいつらは離れていった。あたかも、何か危険を察したかのように。
 なんとか怪物の群れから土井垣を引き離したが、兵頭は困惑していた。
 切り裂かれた土井垣の服、ないしはそのポケットからこぼれたもの。怪物たちはそれに飛びつき、先を争うように奪い合っていた。

「というわけで、土井垣隊長と私は何とか帰還できた次第です」
 包帯だらけの兵頭が、君たちに告げる。
「土井垣隊長は重傷を負いましたが、命には別状ないそうです。しかし、あの緑色の怪物たち、まちがいなくバグアが製造したキメラと思われますが‥‥やつらをこのまま放置しておいたら、おそらく民間人の居住区に入り込み、殺戮を行う事は必至。やつらを何とか殲滅せねば、どんな悲劇が起こるかは想像に難くないです」
 軍により、現場周辺の封鎖は完了した。あとは実働部隊が潜入し、殲滅任務を遂行するのみ。
「やつらに関するデータはほとんど不明ですが、二点だけ。奴らの好むものと、奴らが嫌うものはおそらく間違いないでしょう」
 土井垣のポケットからこぼれた何か。それは、彼が持ち歩いていた氷砂糖。キメラ‥‥コードネーム「アオガッパ」は、土井垣のポケットからこぼれたそれを奪い合う様子を見たという。間違いなく、糖分を好むのだろう。
 そして、兵頭に近づかなかったのは、タバコ‥‥ニコチンのせいではないかと。兵頭はヘビースモーカーで、事実「アオガッパ」どもは接近を拒んでいた。まるで、何かを嫌うかのように。シガレットを一本投げただけで、奴らはたたらを踏み逃げ出した様子も見ている。
「沼へ向かい、このキメラを殲滅してください。方法は問いません!」

●参加者一覧

藤森 ミナ(ga0193
14歳・♂・ST
赫月(ga3917
14歳・♀・FT
白虹(ga4311
14歳・♀・SN
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
竜王 まり絵(ga5231
21歳・♀・EL
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
鉄 迅(ga6843
23歳・♂・EL
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
スティンガー(ga7286
31歳・♂・SN
炎帝 光隆(ga7450
31歳・♂・FT

●リプレイ本文

「参加者、全員集合! 整列せよ!」
 包帯姿の兵頭が、片手を包帯で吊りながら大声で命じた。
「休め! ‥‥参加者、それぞれ自己紹介をお願いします」
 十人の戦士が、キメラ「アオガッパ」を殲滅すべく集まった者たちが、兵頭の前に整列し、一人づつ名乗り始めた。
「‥‥え? ああ、藤森 ミナ(ga0193)です。今回はよろしくお願いします」
「我は赫月(ga3917)。今回の任務に参加する事となった、宜しく頼み申す」
「白虹(ga4311)です。赫月姉さまと一緒に、この任務、必ず成功させて見せます」
「わたくし、木花咲耶(ga5139)と申します。河童のイメージを壊すバグアには、少々憤慨しておりますわ」
「‥‥あ、はいはい。竜王 まり絵(ga5231)です。がんばります!」
「‥‥ミンティア・タブレット(ga6672)。よろしく」
「鉄 迅(ga6843)です。よろしくお願いします!」
「ティーダ(ga7172)。バグアとキメラは‥‥一匹たりとも逃しはしない‥‥!」
「炎帝 光隆(ga7450)だ。よろしくたのむ」
「スティンガー(ga7286)と申します。俺の力量を測るためにはいい仕事ですねぇ。ま、ひとつよろしく」
 最後に挨拶した者に対し、兵頭は若干引きつった顔をした。
「‥‥スティンガー君、なぜ君は、シャンプーハットをかぶっているのかな?」
「イメージを崩されるのは許せない物ですからねぇ。なもんですから、このような姿で現われてみました」
「そ、そうか。‥‥では、本題に入るが、具体的な殲滅作戦は?」

 洋館への足。必要物資の貸し出しとそれを運搬する車両は、すべて軍が手配してくれた。
 そして、洋館周辺の地図も。20年以上前から改定してはいない‥‥との事だが、この周辺は人間の手がほとんど入っていない。したがって、改定されてはいなくても大丈夫だろう‥‥と、兵頭から聞かされていた。
「役に立つのならいいんだけどな。それにしても‥‥」
 鉄は、周囲を見回し、鬱蒼と茂った緑の森を見つめた。
 戦闘区域内にあるとはいえ、ここはあまりに不快。周囲から感じ取るのは、瘴気のように沸いてくる腐った植物の悪臭。沼沿いに生える木々は、まるで毒が撒き散らされた庭園からもがき生えたかの用に、まるで苦しんでいるかのようによじれている。
 これも、バグアの影響なのか。それとも、バグアに関係なく、最初からこうだったのか。
「どうした?」ティーダに促され、鉄は先を急いだ。今は自然に対し心奪われる時ではない。気を引き締めなおし、鉄は己が任務‥‥『アオガッパ』の囮をすべく、作戦行動に戻った。

 彼らの提案した作戦。それは、ニコチンと糖分とを用いた誘導。
 沼の周囲には、ニコチンを染み込ませたロープを張る。これは、逃げられないようにするため。
 続いて鉄とティーダの二名が、沼に出て、キメラを捜索。発見したら糖分を用い、キメラを誘い出す。
残りの八名は、四名づつ二チームで待機。誘い出されたキメラを洋館内部へと誘い込み、閉じ込める。待ち伏せ班は裏口から脱出。
 その後、洋館内でキメラ殲滅。これを、一定数を減らすまで繰り返す。
 殲滅後、班ごとに沼周辺の残った目標の捜索、ならびにそれらの掃討。
 つまりは、今の鉄とティーダとが、一番肝心であるわけだ。しかし、いまだにキメラは、アオガッパは見つからない。
『相手がカッパだけにキュウリ班』などと軽口を叩いた自分だが、いい加減その痕跡を見つけたいところだ。なのに、足跡ひとつ、気配ひとつも見当たらない。
「くそっ、どこに隠れているんだ?」
「しっ!」
 ティーダが息を殺し、近くの木々に隠れた。それに続いて隠れる鉄。
 彼女が指差したそこには、小さな動物の姿があった。
 場所にして、沼地周辺を歩き、洋館から2〜3kmほど離れた場所。そいつは捨てられていた果物の空き缶らしきものをひろいあげ、一心にそれを舐めていた。
「‥‥目標を発見。これより、作戦行動に入る」
 ティーダのつぶやきとともに、鉄もまた臨戦態勢に入った。
 二人がいつも用いる武装は、ティーダは両手にファング、鉄の手にはバスタードソード。
 だが、それらを今ここでは用いまい。倒す事はたやすいが、代わりの武装で誘い出す事がまず大事。
 軍から支給された、タバコと糖分とを手に、二人は沼へと向かっていった。
「鉄さん‥‥それでは始めましょう」
「了解! さあ怪物くん、とっとと出て来い。おいしい餌をやるぜ」
 餌の次には、お仕置きだがな。心の中で鉄は付け加えた。
 沼地に金平糖を投げ入れた、その数秒後。よどんだ沼の水面が、まるで煮立ったかのように泡立った。
 さらに数秒後。手が現われ、水面をかきむしる。ひとつだったのが二つ、四つ、そうこうするうちに、数え切れないくらいに増加する。
水かきがある以外は、気味が悪いくらいに人間に似ている手だ‥‥と、鉄は思った。しかし、指先についている鋭い鉤爪は、それがまさに人外の存在である事を鉄に知らしめていた。
さらに撒いておいた金平糖や菓子類、そして粉末の砂糖を求め、小さな怪物たちは我先にと沼から飛び出してきた。
沼のよどんだ臭いとともに、地上へ這い上がった怪物の群れ。近くに置いたケーキを見つけた怪物どもは、我先にと飛びつき、それにかじり付いた。
「どうやら」むかつきを隠さず、ティーダはつぶやいた。
「誘い出す苦労は、しなくてすみそうだ」
「同感だ!」
 鉄はティーダとともに駆け出した。距離を開けすぎたかとも思ったが、怪物たちの嗅覚は予想以上に鋭い。
 身に着けた、誘い出し用の糖分。それを狙い、怪物の群れは、一つの巨大な怪物と化し、二人の地球人をターゲットとして追い始めた。

 洋館では、待機している四人ずつ二つのグループが、この様子を見ていた。沼地の岸沿いにある道。そこを駆けてくる二人の仲間と、二人を追ってやってくる緑色の群れを見つけたのだ。
 軍より借りた双眼鏡で、その様子がしっかりと見える。洋館の周辺にロープを張る準備をしていたスティンガーらA斑は、予想以上に誘き出されているキメラどもに、逆に面食らっていた。
「B班諸君! 聞こえるか? 奴さんども、来るぞ!」
 やはり軍より借りた無線機にて、赫月らB班へとスティンガーは連絡を入れた。

「心得た、奴らに目にもの見せてくれようぞ」 
 洋館内の、別の場所。裏口付近にて待機していた赫月らが、沼を見つつ無線機に返答していた。
 ちょうどそこは、かつての台所にあたる場所。食材も道具も何一つ残ってはいないが、調理台や打ち捨てられた冷蔵庫などが放置されている。そして、大きな窓を臨み、そこからは沼が良く見えた。
 それらを盾に、沼へと視線を向ける赫月、白虹、竜王、炎帝の四人。
 既に、屋敷の中心部。中央ホール部には大量の砂糖および糖分を積み上げている。周囲には、ニコチンをしみこませたロープの仕掛け。いざとなったらそれを張り、屋敷自体を縛り付けることで一網打尽にできる。
 正面玄関と裏口‥‥つまり、今見張っているこの場所以外の出入り口には、たっぷりとニコチン水を散布している。もしも連中がニコチンを嫌っているのなら、表と裏の二箇所以外からは入り込んでこない。そのはずだ。
「! 姉さま、あれを!」
 白虹が指差した先には、あのアオガッパの姿があった。それも、尋常ではない数が。まず間違いなく、囮を追っているのとは異なる一群が、独自に洋館の糖分をかぎつけてきたに違いあるまい。
「くっ‥‥不覚! 近づきすぎです!」
 竜王が、両腕の超機械γに思わず力をこめた。まさに不覚、そいつらは沼より次から次へと這い上がり、台所入り口へと肉薄していたのだ。
 ニコチンを染み込ませたロープは周囲の地面に浅く埋められている‥‥逆に寄り付かなくなるのを防ぐために、行った措置だ。だが、それは連中が集団のままで接近するのを許す事でもある。このままピラニアのごとく、奴らにたかられて引きちぎられるのか‥‥!?
 金色の目を細め、炎帝はイアリスを握る手に力をこめた。たとえここで死ぬとしても、たっぷりと道連れを連れて行ってやる。
 四人がそう覚悟した次の瞬間、彼らは屋敷に入り込み‥‥彼らを横目に、中央ホールへと駆け抜けていった。
「‥‥あいつら、よほど甘味に飢えているのか。それとも単に間抜けなのか」
 群れすべてのアオガッパが通り過ぎるのを見て、炎帝は自分がそうつぶやいているのを聞いた。

 木花、ミンティア、スティンガー、藤森。
 待ち伏せA班の元へとたどり着いた鉄とティーダは、携えていた糖分すべてを、玄関から屋敷内部へと放り込んだ。怪物の群れは二人を無視し、玄関内へと入り込み、砂糖菓子にむしゃぶりついた。
 仲間からそれを奪おうとするもの、そして更なる奥に待つごちそうをかぎつけ、仲間を踏みつけてそれに向かおうとするもの。阿鼻叫喚の地獄めいた光景が、そこには広がっていた。
「‥‥食欲の本能が強すぎるな。おそらくは、製造時の調整が誤っていたのだろう」
 頭を光らせつつ、スティンガーがつぶやいた。後でわかったことだが、このキメラは新型の実験用に開発されたものの、食欲を強くしすぎたために暴走。その結果、バグア人にも反抗してこのような状況になったらしい。抑制措置として、ニコチンを苦手とする要素を組み込んだ事が不幸中の幸いではあったが。
 洋館の玄関からすぐ近く。藪や木の陰に隠れてその様子を見守っていた待ち伏せA班は、慄然たる光景を前に言葉を失っていた。鉄とティーダもまた、彼らに合流し、木の陰に隠れ息を整えた。
「それにしても‥‥カッパのキメラがいないものかと思ってたら、本当にいるとはね。しかも‥‥可愛いかなと思ったら、全くそんな事もないし」思わず、ミンティアはぽつりとつぶやいた。
「同感です。昔、父上に聞かせて頂いた昔話で、河童には親しみを感じておりましたのに。それを恐怖の存在へと変えてしまうとは、憤慨でございます」ミンティアの言葉に、木花も相槌を打つ。
 アオガッパどもは、そんな侮辱など耳に入らなかったとばかりに、屋敷内部へと消えていった。

 内部のホール。そこに積まれた糖分をむさぼるは、小さな怪物の群れ。
 皆も内部に入り込んだところ、それに気づいたかのようにアオガッパの中の数匹‥‥いや、十数匹が猛烈に突進をしかけてきた。まさにそれは、おそるべき怪物の群れ、怪群以外の何物でもない。
 常人ならば、腰を抜かし恐れおののくしかできないだろう。だが、彼らは兵士にして戦士。恐怖を感じる前に『覚醒』し、怪群へと逆に襲い掛かった。
 内臓されたSESと連動し、アラスカ454の引き金を引く木花。深紅の爪となった指先で引かれた引き金は、緑の怪物どもに死という名の花を咲かせ、散らせていった。
「鉄さん!始めますよ!」ティーダの瞳が、猫科の獣のごときそれに変わる。両手のファングも、獣のそれのよう。
「おうッ! AI、全出力を最大にしろッ!身体の事は、後で考えるッ!」ティーダとともに覚醒した鉄の身体に、数多くのラインが流れ、力がみなぎった。手にしたバスタードソードにも、力が流れいくのが感覚でわかる。
 四方八方から襲い来る、薄汚い緑色のこしゃくな化け物。だが、離れた場所にいる怪物は木花の弾丸が掃討し、接近した怪物は背中合わせになったティーダの爪と鉄の剣、二人の振るう刃の前に切って捨てられた。
「ふむ、見事なもの‥‥どわっ!」
 スティンガーは、援護しようとしていたが、知らぬ間に後ろから迫ってきたアオガッパに襲われるはめに。
「危ないっ!」それを救ったのは、ミンティアと彼女が持つニコチン水。タバコの臭いと毒とを染み込ませた液体は、アオガッパの顔面へともろにひっかかった。
そいつは苦しみ、のたうちまわる。死にはしないようだが、無力化することは間違いない。藤森のハンドガンにより、そいつらは打ち抜かれ、確実なる死を迎えた。
 B班もまた、それを知っていた。
「いくぞ、化け物ども!」
炎帝が、手にしたイアリスにて集団で襲い来るアオガッパを切り払う。イアリスの刃が踊り、まるで腐りきった緑色の膿を切除する、外科医のメスのようにも見えた。
「さぁ舞おうぞ!吾たる証を此処に!」
 それにつづき、銀髪となった赫月が、赤き亀甲模様をした手で刀を振るい、アオガッパどもを切り捨てた。覚醒した赫月の持つ刃は、まさに空気そのもの、空間そのものを切断し切除するかのような鋭さで、襲い来る怪物どもを切り刻む。
「楽しい舞台へようこそ!さぁ無様に踊って見せなさいな」
そんな彼女に付き従う白虹は、SMGの弾丸で蜂の巣に。二人のコンビネーションが、瞬く間にアオガッパを物言わぬ無害な死体へと変えていく。一度の掃射で、視線の先にある怪物が打ち抜かれ、死体となっていった。
 竜王は己の目の前で、怪物が死体へと変わっていくのを確認していった。それらが退治された後。ホール中心部でいぎたなく、意地汚く砂糖をむさぼる怪物どもも、強制的に仲間とともに昇天する運命が待っていた。
 
 最後のアオガッパが斃れ、床に転がった。動く様子はないようだ。
「‥‥しばらく、かっぱ巻きを口にするのは遠慮したいところだ」
 冗談を口にしつつ、炎帝は満足そうにため息をついた。
「私自身は、まぁ、今回は及第点と言ったところでしょうか‥‥。でも、姉さまとご一緒できてよかったです」と、白虹。
「久方の仕事とはいえ無様な失態は晒さずに済んだか‥‥まだまだ鍛錬が足りぬな‥‥」
 しかし赫月の、己を省みて、己へあてた言葉は、あまり良いものではなかった。
「ま、それはそうとして。アオガッパどもは退治できた。あとは‥‥」
「後始末。そしてまだ残っているアオガッパがいたら、そいつらの掃討であるな。もう一仕事、ふんばろう」
 鉄とスティンガーが、続けて言葉を発した。

 その後。沼地に残っていたわずかなアオガッパもまた、誘き出されて止めを刺され、沼に潜伏するキメラはすべていなくなった。
 沼はふたたび、平穏を取り戻した。そしてそれからというもの、河童の姿をしたものも、怪しき群れも、この沼周辺には出なくなった‥‥。
 バグアの侵略行為を、またひとつ防いだ。これからもこのように、確実に敵の作戦を潰していきたい‥‥と、そう思う一行だった。