タイトル:奪還作戦開始マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/11 18:03

●オープニング本文


 鹿児島県肝属郡、肝付町岸良。
 ここはかつて、日本列島の南端付近に位置する、平和な港町。
 いまや、バグアに蹂躙されつつある、悲劇と破壊がもたらされた町。
 事は急を要する。町中には、着々とヘルメットワームが上陸しつつあったのだ。

「この状況を、何とかして打破しなければならない。そこで、君達に依頼する次第だ」
 司令官の林原が、君達に懇願する。きっかけは、この周辺海域のパトロール中のことだ。彼は、事情を語り始めた。

 バグアとの戦いは、一進一退の攻防を繰り返し、そして徐々に、わずかにではあったが、UPCは押し返しつつあった。まだ完全に勝利に至ったわけではなく、逆転されて敗北する確立もまだまだ高い。
 だからこそ、勝利する確立を高めるべく、UPCは更なる戦力強化、そして哨戒活動を行い、バグアへの警戒を強めていた。
 おそらく、バグアはこのままではすまないだろう。きっと何かを仕掛けてくるに違いない。それが何かはわからないが、生半可なものではなかろう。
 林原司令官は、岸良中学校後者の司令室で考えていた。大規模作戦のために、バグアは主戦力を九州の北側へ集中させているはず。ならば、南端のこちらにはほとんど残ってはいないだろう。
 本部も、そして林原本人もそう考えていた。だが、このような状況だからこそ、警戒を怠るわけにはいかない。
 いつなんどき、空から、あるいは海から、バグアのヘルメットワームが襲ってくるとも限らないのだから。そのせいで、何人もの兵士や司令官が戦死したのを、林原はその目で何度も見てきた。自分がこうやって司令官の座に座っているのも、皮肉にも上司が戦死したため、他になり手がなかっただけのこと。自分に部隊や師団を指揮する能力があるとは、正直言って思えない。
 だからこそ、兵士を無駄死にさせないように、警戒を怠ってはならない。今の自分に出来るのは、石橋を叩くほどに注意深くなって、不意打ちを食らわぬようにするしかない。
 だが、注意深く活動していた彼ではあったが、それでも不意打ちを食らってしまった。

 司令室で、毎日の激務によりついうつらうつらした林原だが、夜中にふっと目覚めた。
 嫌な夢を見たのだ。それも、レーダーには全く機影が映らなかったのに、目の前にバグアが現れ、兵士を、自分を虐殺するという夢を。
「‥‥疲れているな」
 彼はひとりごちた。ここ数日、ろくに眠っていない。面する東シナ海からは、まったく敵影が見えないのだ。
 が、それが逆に不安を煽っていた。以前はヘルメットワームの機影も確認できたし、小競り合い程度ではあるが戦闘もあった。今はそれすらも全く無い。だからこそ、不安だった。そして不安を覚えると、それが心を苛む。
 まるで、嵐の前の静けさ。これが自分の思い過ごしであればいいのだが。
 が、次の瞬間。
 爆音に続き、爆発が自分のすぐ近くに発生した。

「まったくの不意打ちだった。やつらは、空からでも、海からでもなく、地中から攻め込んできたのだ」
 君達の前に座る林原の姿は、包帯だらけであった。彼は、壁に地図を広げた。肝付町岸良の地図だ。
「この地図を見れば分かるとおり、肝付町岸良の内陸部‥‥海岸からさほど離れてはいないが、遠くも無いこの位置に、岸良中学校の校舎がある。そして、我々はこの校舎に司令室を置いていた」
 この校舎の校庭。ここに、まるで地面からミミズがのたくり現れるかのように、巨大な長虫のような形のワームが出現したのだ。
 それはまさしく、アースクェイクと呼ばれるタイプ。そして爆発は、搭載していたプロトン砲による砲撃。
 彼は爆発の衝撃波を受け、林原は廊下へと吹っ飛ばされた。血まみれになって転がり、彼はそのまま気を失った。

 次に気がつくと、林原は空を飛んでいた。ヘリに運ばれて、脱出していたのだ。
「生き残りは?」
「多くはありません、ほとんどが奇襲を受けた時に‥‥」
 そこで、会話は強制的に終了させられた。ヘリそのものにも、攻撃を受けてしまったのだ。

「ヘリで脱出している最中に、アースクェイクからの攻撃を受けたんだ。それで撃墜したと思ったのか、それ以上の攻撃は受けずにすんだがな。しかしヘリは、そのまま黒埼付近の海域に墜落。運良く、友軍の巡視艇に助けられたわけだ」
 おそらく、自分以外には生存者はいるまいと、林原は静かに付け加えた。
「君達への依頼は、ここに奇襲をしかけたヘルメットワーム、そしてアースクェイクの一団への攻撃だ。しかし、調べたところ、やつらは今以上に戦力をここに集めている事が判明した。注意してかからないことには、我々の‥‥いや、自分の二の舞になる事だけは、恥を忍んで伝えておきたい」
 偵察に出た、別の部隊の巡視艇や偵察部隊が伝えた事には、水中には数機のタートルワームが、地上にはアースクェイクの他に中型のヘルメットワーム数機が確認されているという。ここに戦力を結集された暁には、戦略上かなり不利になる事は必至。
 速やかに、敵の戦力を叩き潰す必要がある。
「方法は任せよう。君達の健闘に期待する」

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
紫電(gb9545
19歳・♂・FT
張 天莉(gc3344
20歳・♂・GD
龍乃 陽一(gc4336
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

 集結せよ、戦士たち! その呼びかけに答え、集まりたるは8名の若き勇士たち。
 陸海空に布陣を引く、邪悪なる傀儡どもの魔の手より。母なる大地を取り返し、明日の希望を取り戻せ!
 奪還作戦、ここに開始せり!

 群青の水中を進む、四機のナイトフォーゲル。
 熱き魂を秘めし大和撫子が乗るは、DH−201Aグリフォン「75−33632」。
「こちら熊谷真帆(ga3826)、水中班応答してくださいっ」
 獅子の鉢巻とともに、獅子の勇猛さを兼ね備えし男の乗機は、RBs−1960ビーストソウル改「獣魂」。
「こちら龍深城・我斬(ga8283)、感度良好!」
 灼熱の赤を、髪と瞳と心に顕現せし熱血漢。駆るは同じくRBs−1960ビーストソウル改「翔陽」。
「天原大地(gb5927)、異常は無いぜ」
 無心の中に隠し持つ、虎の牙。其が操るは、DRM−1リンクス「マオ」。
「張 天莉(gc3344)です。熊谷さん、異常ありません」
 三名の男からの返答を受け、一人の少女が言葉を伝えた。
「これより、奪還作戦を開始しますっ!」
 展開しつつ、宮崎の海を進む四つの機体。
 それが向かう先は、宮崎の陸地。そして狙うは、大地を奪取した悪魔ども!

 晴天の青空を切り裂く、四機のナイトフォーゲル。
 XA−08B改阿修羅「蒼翼号」のコックピットには、ナイトフォーゲルを愛する勇士。
「こちら井出 一真(ga6977)、空中班応答せよ」
 PM−J8改アンジェリカ「Hagel」のパイロット、銀髪と赤眼の美少女がそれに返答する。
「こちらフローラ・シュトリエ(gb6204)、感度良好っ!」
 ナイトフォーゲルGFA−01シラヌイ「アルバレスト」の操縦者、静かなる闘志を秘めた碧眼の若者が、それに続く。
「紫電(gb9545)、異常なし」
 F−201D/A3フェニックス(A3型)「竜宮」に乗り込んでいるのは、女性の美しき外観と、男性の強さと勇猛を持つ傭兵。
「龍乃 陽一(gc4336)、感度良好、異常ありません。では、参ります‥‥」
 三者三様の返答を受け、井出はそれらに言葉を発した。
「これから、奪還作戦開始するぜっ!」

 それは、一見したら「亀」とは呼べなかった。
 亀の記号を持ってはいるが、シルエットといい、デザインといい、亀のそれを模したとはいえない外見だったのだ。
 小山状の甲羅から、無様な醜い四足が生えている。そして亀と同じく頭部が出ており、それは嘲笑うかのように水中の一点を見つめていた。
 迫り来るナイトフォーゲルに対して、「亀」‥‥タートルワームは、まるで敵意を表したかのようににらみつけた。メカニックの頭部とはいえ、それはまるで生物のよう。海中から水をしたたらせつつ立ち上がったその姿は、悪夢のような光景だった。
 脚部を海底にふんばらせ、そいつは立ち上がった。甲羅に備え付けてあるプロトン砲が、空中へ、群青の空の一点へと照準をあわせる。
 果たして、空中班のKV部隊がその照準に捕らわれていた。
 照準に捕らわれている井出は、XA−08B改阿修羅「蒼翼号」のコックピット内で緊張していた。操縦桿を握る手が、冷や汗で滑りそうになる。
 タートルワームは、もっといるのか。それともこれだけなのか。
 だが少なくとも、現時点で確認できる数‥‥二機以上は存在しているに違いはあるまい。そして、これだけ巨大かつ堅牢で、強力な武装を施された兵器が配備されているのなら、少なくとも海域から攻め込むのは相当な骨である。現に今、自分たちはその骨を折っていた。
「‥‥さて、うまく回避できるかどうか」
 軽口を叩きつつ、額に冷や汗が流れるのを感じていた。一歩間違えれば、やつらのプロトン砲の一撃をもろに食らってしまう。慎重にしなければ。
「‥‥きやがった!」
 などと考えていたところに、いきなり砲撃! 卓越した操縦桿捌きがなければ、その光に取り巻かれて吹き飛ばされていたことだろう。
 井出の蒼翼号のみならず、空中班の他三名もなんとかかわしたようだ。
「そんな攻撃、当たらないよ」
「油断するなよ龍乃、第二射がくるぞ!」
 もう一機のタートルワームのプロトン砲、その砲身が輝き出していた。
 そして、死の一撃が放たれる直前。
「!」
 タートルワームに、着弾の水柱が立った。

「もう一発、いきますっ!」
 水中で拡散していたKV四機、そのうち真帆の放った水中用HDミサイルは、タートルワームに見事に命中していた。更なる水柱が立ち、亀の怪物へとダメージを食らわせる。
「試してみるか」と、龍深城は呟いた。「こいつがあの亀に通じるか、試してやるぜっ!」
 言うが早いが、ビーストソウル改からミサイルを放つ。立て続けにその直撃を食らったタートルワームも、膝を屈するしかない。
 それだけでなく、対空砲としてプロトン砲は低位置への攻撃が行ないにくい。したがって、プロトン砲で砲撃するすべはない。
「行くよ、マオ!」
 さらに、張のリンクスの狙撃が決まった。
「深度設定、投下地点選定。爆雷、投下!!」
 とどめに、井出の蒼翼号が空中から投下した爆雷。その直撃を受け、一体目が爆沈した。

 二体目のタートルワームが、移動し始める。それに向かうは、天原のビーストソウル改「翔陽」。
 しかし、天原の機体は龍深城のそれと同型だが、外観は全く異なるほどに改造を施されていた。
 水中へと進んだタートルワームが、その巨体で体当たりを試みる。
「そんなド鈍い動きで‥‥っ!」
が、天原はその攻撃を難なくかわし、歪んだ笑い声とともにKVを突撃させた。
「俺と翔陽をやれるかぁぁぁぁぁッ!」
 突撃しつつ、変形し、抜刀し、斬撃した。
 タートルワームの、頭部が切断され、海中に舞う。が、それでもタートルワームは意に介さず、更なる体当たりを仕掛けて突進した。
 が、天原の駆る翔陽は、その突進とともに巨大なKV専用水中用太刀「氷雨」を構え、首へと深く突き刺した。
「‥‥ッりゃあああああああああああっ!」
 そのまま、強引に甲羅を引き剥がす。四本足をばたつかせつつ、二体目のタートルワームもまた、引導を渡された。
 爆音とともに、海上に出た翔陽は、陸地を目指す。
 更なる得物、更なる敵を求めて。

「地殻変化観測機、セット完了!」
 上陸成功。
 そして、各KVは変形し、その鋼鉄の脚にて大地を踏みしめ立っていた。
 次に行なうは、これとともに地下に存在する悪魔どもを殲滅すること。大地に増えた巨大なる鋼鉄の影は、戦い倒すべき得物の出現を待った。
 それは、すぐに訪れた。
 タートルワームを片付けたその後。内陸部から接近する機影が感知されたのだ。
 空と陸に。
「こちらフローラ、敵の空中部隊を確認! これより迎撃に移るわ!」
 フローラは、愛機アンジェリカ「Hagel」とともに空に上がった。
「こちら紫電。フローラを援護する」
「龍乃、援護に向かいます!」
 その後を、紫電のシラヌイ「アルバレスト」、龍乃のフェニックス「竜宮」が追う。
 続き、井出の蒼翼号がそれらを追った。空中に向かったのは四名。そして、その四名と戦うべき敵影が、徐々に強く濃くなってきた。
 大きさは、通常のヘルメットワームよりも若干巨大。それが空中を進んでやってくる。
 そして、地上からはゴーレムが。こちらもまた、2機が。
「団体様の到着、ってとこかしら。さーて、それじゃあまずは、空から片付けるわよ」
 フローラの言うとおり、そいつらは団体の旅行客のようだった。やはりプロトン砲と、巨大な爪とを装備している。
「あれが、ワーム‥‥」龍乃は、まずその様子を見て呟いていた。
 出し抜けに、一体がプロトン砲を発射した。それに続き、他の二体も遅れて砲撃する。散開してその攻撃をかわしたフローラは、プラズマライフルの引き金を絞った。
 が、相手もそうは簡単に打ち落とされてはくれない。まさに丁々発止の攻防が、空中で行なわれていた。
 紫電の「アルバレスト」がUK−10AAMを放ち、その状況にけりをつける。「アルバレスト」から放たれたそれは、ヘルメットワーム一機に命中し大ダメージを食らわした。
「援護します!」
 龍乃は「竜宮」の、KVの武装、GP−7ミサイルポッドと長距離ショルダーキャノンを撃ち込む。ヘルメットワーム一機が、撃墜された。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ!」
 井出がバルカンで牽制しつつ、「蒼翼号」のソードウイングを起動させる。そして、それを、すれ違いざまにヘルメットワームへと食らわせた!
 斬!
 二機めが両断され、爆発し果てた。
「これで、最後!」
 そして、フローラが受け持っていた機体もまた、次の攻撃で引導をわたされた。

 奇しくも、地上の勢力もまた同じタイミングで殲滅されていた。
 二機のゴーレムは、歩哨に立つ鋼鉄製の巨人そのものな外観。その手には、騎乗槍に似たランスを握っていた。
「戦闘機形態でも十分に‥‥狙えるんです」
 空対地攻撃で張は、明るく楽しそうにそう呟き、「マオ」のライフルで狙い撃った。ゴーレムがきりきり舞う。
「よっしゃ貰った! インベイジョン起動‥‥光刃一閃!」
 すかさず、「獣魂」のバンシー、高周波振動爪が、ゴーレムを切り裂いた。
 そして、同じく真帆のグリフォンの攻撃を受けたもう一機と、天原の「翔陽」との大刀による一斬が、二機目のゴーレムを破壊してしまった。
「さて、本番はこれからだな」
 天原が、破壊したゴーレムの残骸を見つつ呟いた。

 それは、出し抜けに発生した。
 地殻変化観測機。先刻に設置した装置の反応が、いきなり感知されたのだ。それとともに、緊張感がいきなり強く濃くなっていった。
 数秒後、ある地点にて反応が強くなると、そいつは姿を現した!
 巨大なヘビにも、ミミズにも似たそいつは、そのどちらからもかけ離れた醜悪な外観をしている。そして、そいつは地面から鎌首をもたげると、おぞましい花が咲くように、先端を開いたのだ。
 アースクェイク。それが、そいつの名前。
「へっ、俺を食うつもりか? させるかよ!」
 だが、能力者たちはその光景を見つつも闘志をそがれてなどいなかった。全員を代弁するかのように、天原が言葉を発す。
 そして翔陽を人型に変形させつつ、重機関砲を放ってその弾丸をいくども撃ち込んだのだ。それを皮切りに、真帆も飛び立ち、空中からそいつを攻撃する。
「させませんっ! 行きますよ!」
「熊谷さん、援護します!」
 張が、真帆を援護する。そして、天原には龍深城が、ともに協力して攻撃を放っていた。
 アースクェイクは、確かに巨大でてごわい。が、その分戦いがいがある敵であることには変わりない。そして、倒せない相手ではないという事も。
「こちらにも、地殻変化観測機に反応があった。来るぞ!」
 井出の言葉に、空中班の皆にも緊張が高まる。そして、まさに学校の校庭に、そこにうがたれた穴より、もう一機のアースクェイクが姿を現した。
「出たわね‥‥行くわよ!」
 そのおぞましき姿に気圧されることなく、フローラは不敵に言い放った。

 何発目かの攻撃を食らったものの、さすがにこれ以上は‥‥と思った矢先。
 天原は、「翔陽」の機刀・獅子王をそいつへ、アースクェイクの装甲の隙間へと突き刺したのだ。そしてそのまま、ずいと切り裂く。悲鳴めいた声が、戦場に聞こえたような気がした。
 のたくるアースクェイクの胴体が、町そのものを破壊し、地面をえぐり、大地に悲痛な悲鳴を上げさせている。
「とどめです! 往生してくださいっ!」
 真帆の言葉とともに、武器の連弾を大きく開いた口の中へと叩き込む。
 そいつは、その攻撃を受け、腹を膨らませ、‥‥そしてそのまま、大爆発とともに果てた。

 同じく、もう一体のアースクェイクには。
 紫電が、愛機「アルバレスト」、ないしはその手に握る練剣「メアリオン」の刃を深く切り込み、沈めることに成功した。
「紫電さん! 僕もいきます!」
「竜宮」の龍乃が、自身のKVの武装、機鎌「サロメ」で更なる深いダメージをアースクェイクに食らわせたのだ。
 さしものアースクェイクもまた、倒れるほかは無かった。倒れざるをえなかった。倒れる運命にあったのだ。
 火花を散らしつつ、そいつもまた‥‥果てた。

「ありがとう。諸君らの活躍により、あの地域のバグア残存戦力は一掃された」
 後日、皆は司令官からの言葉をもらっていた。
「あの一帯は、これ以上バグアを攻め込まれないように、今後は特に注意してパトロールしていくつもりだ。諸君たちには、深く感謝する」
 そう、皆は勝利した。しかし、戦場となった田舎町は、肝付町岸良は、散々な有様になっていた。復興や復旧には、かなりの時間がかかるだろう。

 紫電は、再び町へと姿を現していた。町全体が見える高所から、今回自分たちが取り戻した田舎町を見下ろす。
 手には拾ったのであろうタンカンが。そのタンカンへ目を落としつつ、彼は町を見まわしていた。
「これからこの町は‥‥どうなるんだろうか」
 草木は焼かれ、土がえぐれ、畑を整備しなおすのにも時間がかかりそうだ。建物はほとんどが壊され、それを元通りにするだけでもどのくらいかかるかはわからない。この破壊された有様を見ると、気が重くなった。
 だが、高台から降りたその時に。
 自分の足元に、緑色が芽吹いているのを発見した。それはとても小さいが、とても元気な若芽。
「そうか‥‥そうだな」
 目前の光景は、確かにひどい有様。しかし、それでもバグアを追い払い、取り戻したのは事実。
 そして命がありさえすれば、ここを再建する事も不可能ではない。重要なのはそれだ。
 建物はまた、建て直せばいい。えぐられた大地は、また土を埋めもどしてやればいい。焼き払われた木々は、また植えて育てればいい。そこに新しい芽を生やし、育てる事を忘れないようにしなければ。時間はかかるが、時間をかけるだけの価値はある。そして、今回の戦いで、自分たちはその一歩を踏み出したのだ。
 戦いを終わらせ、この若芽を育てられるようになろう。そのためにも、今は目前の任務に集中しなければ。
 若芽の横に、タンカンを置き‥‥紫電は歩き出した。