タイトル:忍び寄る危機:2マスター:塩田多弾砲

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/05 10:37

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 宮崎県、大淀川。
 日向灘に、キメラ・シーサーペントが出現し、能力者たちの尽力でこれを殲滅し数日。
 陸地奥深くにて、奇怪なる事件が発生した。

 きっかけは、大淀川流域。
 その周辺地域に、尋常ではなき事件が発生していた。

 宮崎県宮崎市、高丘町花見。
 大淀川は、曲がりくねった大きな河川。その中流付近に、高丘町は存在する。
 町の中央を東西に大淀川が流れ、町全体を北と南に分断。平地部は主に大淀川沿いにあり、それを挟むように全体的に低めの山地が広がっている。
 かつてはここも、九州の内陸部に位置する、平和な町であった。いまや宮崎県全域、そして九州全域が、戦場になる危険性をはらんでおり、その事から住民は全員避難。町には人は存在しない。
 少なくとも、動く存在は居ない。そういう事になっている。

 が、UPCのパトロール部隊が発見したのだ。この町に、バグアの侵略者が忍び寄っている事を。

 きっかけは、かのシーサーペント騒動の時分。
 キメラ・シーサーペントの殲滅を、能力者へ依頼し、それが成功した直後のこと。
 内陸部をパトロールしている部隊から、報告が入ったのだ。それは、何かの人工物が、高岡町花見の大淀川にて発見された、という事が。発見されたのは、巨大なカプセル状のもの。内部は空だが、何かが入っていたのは間違いない。それが十数個、確認されたという。
 そして、巨大な足跡がカプセルから大淀川の北側、高岡町の北部へと向かって延びていくのが確認された。何か巨大な生物が、このカプセルから出現し、そして内陸部に入り込んで姿を消した‥‥。
 それが、現状でもっとも認めたくない、そしてもっとも信憑性の高い仮説。

 当然ながら、当初はこれはシーサーペント事件と無関係と思われていた。
 だが、かのシーサーペント事件の事後処理を行っている際。ほんのわずかだが、水中で捕らえられた記録映像の中に発見したのだ。‥‥水中を進むシーサーペントと、並走している閉じたカプセルとが。
 これで関係していないなどと、まずありえないだろう。シーサーペントは、今回のバグアの企みの前哨に過ぎなかったのだ。
 このカプセルが、本隊に違いあるまい。ここに運び込まれた何かが、作戦の中心を担うもの。シーサーペントはそれを運び込むために、目を引く囮に使われたのだろう。そしてその囮に、まんまと引っかかってしまったわけだ。

 かくして、UPCはカプセルを回収したのち、高丘町花見の北部を捜索する事になった。
 今は住民が居ない、高丘町。そしてその北部には、花見神社。神社の周辺地域は緑が生い茂り、隠れるのには困らない。
 おそらく、川沿いに上ったカプセルの中身は、この周辺に隠れているのではないか‥‥と、そう予測したのだ。

 だが、捜索隊は戻ってはこなかった。そして救援隊も向かったが、彼らもやはり同じ運命をたどる事に。
 唯一、救援隊のSOSを受けて、二次救助隊が出動したが‥‥彼らは高丘町の周辺で発見してしまった。何者かに攻撃、あるいは砲撃されて墜落した、一次救助隊のヘリの残骸を。
 注意深く、町の上空、そして周辺を飛行しつつ、生存者を探したが‥‥見つからなかった。
 ヘリを着陸させ、地上から街中を捜索するものの、生存者はもちろん、このような事件を起こしたバグアの手先の姿も見られない。
 やがて、重傷を負った救援隊の一人が、高丘町内にて発見、保護された。
が、彼はろくな証言を残しては居なかった。
「き‥‥巨大な、甲羅‥‥虫‥‥いや、わ、ワーム‥‥」
 それだけ呟き、そのまま事切れてしまったのだ。

「ということで、諸君らに来てもらったわけだ」
 宮崎港・空港整備事務所跡。
 司令官・坂本の姿を、君達は再び目にしていた。彼の表情からして、かなり自責の念に駆られている様子だと予想できた。
「推論だが、おそらく間違いなかろう。我々はまんまと騙されてしまった。バグアの当初の目的はこれだったのだ。まず、シーサーペントを日向灘海域で暴れさせる。シーサーペントが陽動している隙に、カプセルを放つ。カプセルは大淀川をそのまま遡り、中流や上流近くで展開。内部に運んできたものを内陸部にて解き放つ。‥‥我々は、そこに気づいていなかったのだ」
 回収されたカプセルの数は、十数個。内部にキメラ、あるいはヘルメットワームが入っていたとしたら‥‥その可能性は高いだろうが‥‥かなりの数の戦力を、内陸部へ上陸させた事になる。
「今回の君達の任務は、調査だ。連絡を絶ったUPC兵士たちは、おそらく全員やられたのだろう。だが、敵は今どのくらいの数で、どの程度の戦力を保有し、どのように展開しているかを知ることがまず必要だ。そのためには、並みの兵士以上の能力と機知に富んだ優れた者が必要なのだ」
 坂本は熱弁をふるうが、ふと目を閉じると、無念そうな口調とともに言った。
「‥‥これは、おそらく私の責任ということになるだろう。敵の陽動に引っかかってしまい、そのせいで敵の上陸を許し、兵士達が何人も犠牲になってしまったのだからな。だからこそ、その責任を取りたいのだ。今度こそ、絶対に奴らを逃がしてなるものか。俺の命に代えてでも、奴らを全滅させて仇を取ってやる。‥‥どうか、手伝ってはくれないだろうか?」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
美空(gb1906
13歳・♀・HD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
海原環(gc3865
25歳・♀・JG
ニコラス・福山(gc4423
12歳・♂・ER
弓削 一徳(gc4617
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

 緑したたる、森林地帯。
 そこには、いまや悪魔が潜んでいる。
「ふーむ‥‥奴ら、いったいどんな兵器を持ち込んでいたのか〜」
 前回からの参加者、ドクター・ウェスト(ga0241)が、静かに呟いた。
 宮崎県宮崎市、高岡町花見。
 その北部一帯には、今もなお神代の世界から続くかのような森林が広がっている。
 高岡町の北東には、曲がりくねった大淀川の下流が、そしてその川辺には大瀬町や糸原といった町がある。そこから、国道352号線が南西へ走っていた。
 能力者たちは車両にて、国道352号線を南下。そして、高岡町の手前に位置する十字路で、花見神社、およびその北側の森林地帯へと続く道へと進入したのだ。
 そして今、彼らは緑の中に居る。
「この中のどこかに、バグアが潜んでいる‥‥でありますね」
 ウェストに続き、小柄な少女が口を開いた。美空(gb1906)もまた、双眼鏡を用い、憎きバグアの持ち込んだ悪魔の兵器の姿を、見つけ出さんとしている。装着しているAU−KV「パイドロス」は、鋼鉄の鎧といった様相。
 前回の任務において、二人は海洋に出現したキメラ‥‥シーサーペントとも交戦しており、それを撃破もした。しかし、撃破したとはいえそれは十分ではなかった。
 なぜなら、そいつらは陽動こそが目的。注目させる事こそが重要なる行為。そしてそれに、二人はまんまと引っかかってしまったのだから。
 前回からの参加者は、木の陰にその身を潜ませつつもその事を実感していた。直接シーサーペントと切りあったハミル・ジャウザール(gb4773)、そしてシーサーペントを狙撃した弓削 一徳(gc4617)も、悔しさを隠し切れない。
「余程‥‥目をそらしておきたかったんですね。もっとも‥‥見つけてしまった以上、もう見逃す事はないでしょうが」
「ああ。今回ばかりはしてやられたが、もう失敗はしないぜ。敵の情報は残らず拾ってやるともさ」
 ハミルの言葉に続き、弓削が己へ言い聞かせるように言った。彼はこの前の任務にて、現場から遠く離れた場所の空域を飛び去ったヘルメットワームを目撃していたのだ。敵の姿を見ておきながら、それをまんまと見逃すしかなかった事に関しては、未だに悔しい思いを禁じえない。
 残る二名は、今回から参加する者たち。
「失敗とは、一つの教訓に他ならぬ。好転するための第一歩也‥‥ってとこね」
 一人は、長く美しい赤髪を持つハーフの女性。長く伸ばした髪の色は、赤く熟れた林檎を連想させた。それを横ポニーテールにまとめており、動くたびにさらりと動く。迷彩服の上にアーマージャケットを着込み、手に携えるは小銃。いかにも女性兵士らしい雰囲気をかもしていた。
 彼女はヘヴィガンナー、名前は海原環(gc3865)。
 もう一人は、小柄で華奢な体つき。見た目は小学生くらいだろうか。女学生が着るような小さ目のセーラー服を着ており、動くたびにスカートがふわりと揺れていた。
「な〜に、ちょっとした遠足だと思えば楽しいもんさ。バナナとオヤツと弁当を持ってきたら良かったかもなあ」
 白い肌と赤色の瞳を持ち、短めの金髪にはコサージュ。それが年相応の少女らしく、かわいらしいアクセントを与えている。『彼』はサイエンティスト、その名はニコラス・福山(gc4423)。
「‥‥とはいえ、遠足は帰るまでが遠足。途中で事故に会い帰れませんでした‥‥なんて事は避けたいところですけどね」
 ニコラスもやはり、双眼鏡を手にしていた。
「‥‥現時点で、確実な事は一つだけ言えるね〜」ニコラスの後ろに立ち、ウェストは顔から笑みを消した。
「‥‥敵戦力を見誤ると、とんでもない事態が発生するって事だね〜」

 それぞれ散開し、怪しいと思われる地点を調査・偵察している中。
 小高い樹に登ったウェストは今、己の脳細胞を活性化させていた。
 出撃前、坂本司令官へと確認した事を思い起こしていたのだ。

「‥‥あー、キンジ君。ちょっといいかね〜?」
「何か?」ちょっと戸惑い気味に、坂本司令官はウェストに返答する。下の名前‥‥『欽次』で呼ばれる事など中々無いため、少しばかり変な気分だ。
「最後の通信をした、隊員についてなんだけどね〜」
「負傷の状態を知りたい? ‥‥少し待ってくれたまえ」
 数分後。
「これだ。担当医師のファイルの写しを持ってきた。これに全て書かれている。それから、ヘリの墜落の原因と、カプセルの大きさや数についてはこちらのファイルだ」
「すまないね〜」
 ウェストは、受け取ったファイルを開いた。そこには、彼の求めていた疑問の答えが記されていた。

「怪我は、火傷。少なくとも裂傷ではない。そして保護された場所は市街地の‥・・この地点。さらに、ヘリの撃墜要因は、地上からの砲撃によるもの。‥‥ふむーっ」
 光線兵器、それも地上からの砲撃によるもの。となると、地上に何かの兵器が潜んでいるに違いあるまい。
 ヘリの墜落した原因は、外装部の金属の破片が溶解しているため、実体弾による狙撃、もしくは砲撃ではないだろうという調査結果が出ている。
 高熱による胴体部への一撃。それが大きな原因と思われる‥‥と、ファイルにはあった。つまりは、あのカプセルから出てきた何かが、地上より砲撃したと考えるべきか。それも、高熱を放つ光線兵器によって。
 考えにふけりつつ、ウェストは再び双眼鏡を目に当てた。緑で覆われた小山が、彼の視界に入る。
「‥‥んんっ?」
 ウェストは、一瞬目を疑った。
 動いたのだ。木々で覆われたその「山」が、紛れもなく今、動いたのだ。
「‥‥見つけた、と言っても良いのだろうな〜」
 彼は、離れた場所を捜索している仲間たちへと、無線で連絡を入れた。
 ウェストによって発見されたのは、木々の間に隠れ潜む鋼鉄の悪魔。厚い甲殻の装甲で覆われた、巨大にして強大なる「亀」の名を持つ怪物。
 彼は、たったいまそれを‥‥否、それらを発見したのだ。

「総数はどのくらいか、確認できましたでありますか?」
「確認できたのは五機だな。しかし、あの様子だとまだあるだろう」
 美空の問いに、弓削が答えた。彼は双眼鏡を目に当て、森林内へと視線を向けていた。隠密潜行が効いているのか、彼は今のところ発見されてはいない。
「発見されたカプセルの数からしたら、少なくとももう四〜五機、合計十機ほどが待機していると見るべきだな‥‥ん? ほう、こいつはすげえ。見てみろ」
「なんでありますか?」
 弓削から双眼鏡を受け取り、美空は彼が指し示した方向を覗いた。
 そこには、ウェストが発見したのと同じものがあった。それらは緑色のカバーやネットをかぶせられており、簡単ながら偽装していた
「‥‥どうやら連中、複数のタートルワームをここに砲台として設置し、基地を作るつもりでありますね」
「間違い無いな。落とされたヘリは、あいつらが砲撃したんだろう」
「自分も、そう思うであります。‥‥そろそろ戻りますか?」
「ああ。乗せてもらえるか?」
「了解であります」
 パイドロスをバイクモードに変形させた美空は、その背に弓削をまたがらせ、その場を後にした。
 
「ここが‥‥」
 森林の中にある拝殿を見て、ハミルは呟いた。車道から拝殿へ至るまで、小さな参道と石段が通っている。そこは、どこか儚い印象を覚える神社であった。ハミルとともに、環とニコラスも周辺を調査している。
 花見神社。山奥の小さな神社は、自然の一部のようにたたずんでいる。拝殿の前で、ハミルは包囲磁石を取り出した。
「‥‥磁場の乱れは、なさそうですね」
「拝殿や周辺の家屋にも、バグアが隠れている気配はなし‥‥けど」
 同行した環が、ハミルの足元を改めた。
「何かが通った事は、間違いないわね。‥‥『新しい料理の発見は、新しい星の発見よりも人類を幸福にする』。そして、新しい手がかりの発見は、我々の戦局をより有利にする‥‥といったとこかしら」
「気づきましたか。僕も、おかしいと思っていたところです」
 二人の足元には、足跡があった。そこには、何かが土をえぐった跡がいくつも残っている。
 それは、紛れもなく足跡だった。それも、かなり巨大な生物の。
 足跡は、山奥から拝殿を通り、そして町の方へと下っていた。そして、木々や障害物などがなぎ倒されていた。
 スカート姿の少年は、鋭い視線を足跡に、そして足跡の主がなぎ倒した痕跡に向けた。
「ここには、タートルワーム以外の何かが居た。そしてそれは、町の方に向かっている‥‥となると‥‥」
 ニコラスの言葉は、彼らが先刻から感じている嫌な予感を、ますます濃厚にするものだった。
「となると‥‥市街地で、こいつと鉢合わせる可能性が高いって事ですね」

 高丘町花見。
 同・市街地。
 そこは長閑な雰囲気が漂う、平和な住宅街。戦時下の今は、当然ながら人影は全く無い。
 しかし、此処には何かが存在する。人ではない何かが。
「‥‥聞こえるでありますか。あの音」
「ああ〜、十分すぎるくらいにね〜」
 美空の聞いたその音は、ウェストの耳にも、そして合流した他のメンバーの耳にも届いていた。
 比較的大きな住宅、その内部。
 そこに、それはいた。黒い光沢の甲殻と、まがまがしい角を持つそいつが。
 じゃりっと、地面を掻く音がした。それは、六本の脚。禍々しく黒光りするそれは、やはり同様に黒い光沢の甲殻に覆われた胴体を支えている。美空は一瞬、頭文字がGで始まる不潔な昆虫かと思ったが、すぐにそれを改めた。
 頭には巨大な角。そいつはまさに、カブトムシだった。
 しかし、世界中のどの地域にも、こんな甲虫はいないだろう。そいつの角は病的にねじくれ、甲殻の表面はてらてらと照っている。甲虫というより、連想するのは毒虫だった。
 しかし、毒虫は踏み潰してしまえば事足りる。問題は目前のそいつは、人間たちよりも巨大だったのだ。どう小さく見積もっても、そいつの全長は5m以下ではないだろう。角を含まないでの話だ。
 そしてさらにまずいことに、そいつらは複数存在していた。公民館らしき建物の側壁をぶちやぶり、巨大な虫かごにもぐりこむかのようにして潜んでいるものもいれば、雑木林を隠れ蓑としてたたずむものもいる。
 そいつらに気づかれないよう、物影に隠れつつ街中を行く。見たところ、十匹はいるだろう。
「‥‥森林地帯にはタートルワームを配置、そして市街地には、キメラ・ラージビートルを配置か。敵の戦力は大体わかった。あとは‥‥」
 そこまで言うと、ニコラスは言葉を切った。あとは、自分たちが帰還するのみ。
 もっとも、それが出来るかどうかはまた別問題であるが。

「まるでゴーストタウンだな」
 何度もそれを口にするニコラスだが、実際寂しすぎるその状況を見ると、どうしてもそれを口に出さずにはいられない。
 調査隊の死体は、片付けられていたのかほとんど見当たらなかった。おそらくバグアが回収したのだろう。ヘリの墜落した場所に行ってみるが、そこにも遺体は残っていなかった。
「‥‥遺体を引きずり出した跡が見られるわね。バグアがやったのかしら?」と、環。
「うむ、私も同じことを考えていましたよ。連中、情報を得ようとしたけど、死体からは何も奪えなかったと見える」ニコラスが、それに続く。
「‥‥なんにしろ、ここでこれ以上の長居は無用でしょう。調べはつきました。後は脱出して、この情報を‥‥」
 そこまで言うが、そこでハミルの言葉が止まった。
 遥か北側から、大きな音が聞こえてきたのだ。
 それは、ラージビートルの一匹の轟音。あの悪夢の巨大甲虫の一匹が、能力者たちへと向かってくる! 明らかに、敵を発見し襲い掛かろうとしているかのよう。
 ニコラスと環が、まずそれに気づいた。続き、他の四人もそれに気づく。
「散開しろ!」
 弓削のその言葉とともに、皆は散開する。そして、ヘリの残骸を吹き飛ばし、町の一角をそいつは占拠した。
 巨大な角が、残骸をなぎ倒し、近くの人家を破壊する。主のいない家は外壁を壊され、内部を露にされた。
「くそ、気付かれたか。ひとまず撤退だ、ずらかれっ」
 だが、ずらかろうにもそれを許してはくれない。甲虫は逃げようとする能力者、とくに環とハミルへと向かっていく。
 角を用いて、そいつは薙ぎ払おうとするが、環もハミルもその攻撃を受けるつもりなど無かった。
「疾風ッ‥‥!」
 ハミルの体が、風となった。そのまま角の一撃を食らわんとする直前、彼はラージビートルの懐、ないしは前脚へと迫った。
 環が、それを援護する。小銃、ブラッディローズを構え、撃つ!
「はーっ!」
 制圧射撃が、ラージビートルを幻惑させた。ハミルはその隙を無駄にせず、巨大にしておぞましき甲虫の前脚へと刹那の一撃を食らわす! 
 先端部分のみだが、前脚が切断された。体液がこぼれ落ちるも、さしたるダメージは与えられていないようだ。
 が、混乱はさせられたようだ。あたかもあわてているかのように、角を左右に振り、あちこちを歩き回っては体をぶつけている。
 そいつの片方の複眼に、矢が突き刺さった。弓削が物陰から、ライトボウにて射撃したのだ。ますます混乱し、ラージビートルは体を大きな屋敷へとぶつけ、破壊した。
「敵を目の前にしながら‥‥ええい、退くぞ!」
 その様子を見つつ、ウェストは躊躇していた。一応、『情報伝達』でこやつのデータは送ってある。倒すべき敵ではあるが、戦っても勝てるとは思えない。それに、これと同様の敵がさらに多数存在するのだ。
 無駄死にだけは、避けねば。そう自身に言い聞かせ、ウェストは撤退した。
 次いで、環にニコラス、弓削と続く。
「ハミルさん!」
 皆が撤退するのを見計らい、『迅雷』にて撤退した彼を、美空は迎えていた。
「みんなは?」
「撤退しました! ハミルさんも早く乗るであります!」
 美空が、身にまとうパイドロスをバイクモードへと変形させる。ハミルはそれにまたがった。
 暴れまわる巨大キメラの気配を背中に、ハミルを乗せた美空はそのまま全速力で走る。
「今は生きて帰る事が大事! 忍耐なのですよっ!」
 美空は、自分の思いを口に出していた。そんな美空の言葉にどこか悔しさがにじみ出ているのを、ハミルは感じ取っていた。

「諸君、ご苦労だった」
 再び、司令官の前。
 基地内にて、能力者たちは今回得た偵察のデータを渡していた。
「敵戦力の調べはつきました。まずは反撃の狼煙をあげたってとこですかね」
「ああ、これで終わらせるつもりはない。体勢を立て直して、次こそは‥‥!」
 環とニコラスの言葉が、司令室に響いた。次こそは、こいつらを殲滅しなくては。
「そうだな。次があるかはわからん。が、あったとしても、今確実に言えるのは‥‥一つだけだ」
 ニコラスの言葉を、弓削は重々しく受け止める。
「こいつはまた、厄介な事になりそうだ」