●オープニング本文
前回のリプレイを見る 九州、鹿児島県・池田湖。
そこに潜むは兵器。それは爆弾、そのかりそめの名は『クモ』。
そして、『クモ』がもたらしたのは、墓場から甦った更なる爆弾。
ガラクタと狂戦士の名を持つ存在が、今日もまたUPC軍に、人類に、襲い掛かっていたのだ。
「事態は、切迫している」
君たちの前に立つUPCの担当官。心持ち彼の表情は、やつれているように見えた。彼の指揮のもと、UPCは現在、池田湖内の『クモ』掃討作戦を実施している。
「君たちは実に良くやってくれた。だが、それはどうやら無駄に終わりそうだ。我々の不手際によってな。これを見てくれたまえ」
暗い、作戦本部の会議室。その壁のスクリーンに、担当官の不手際が映し出された。
当初、ヘルメットワーム・ジャンクバーサーカー(JB)は枕崎市へと攻撃を仕掛けていた。
だがそれは囮で、すでに敵の本来の目的は達成されていたのだ。それは、「池田湖の制圧」。JBを用い、それに目を奪われている最中に、大量の『クモ』を池田湖内へと潜伏させる。そして、外洋からJBが、池田湖周辺で『クモ』が、それぞれ攻撃する。
池田湖の『クモ』掃討作戦が立案され開始されたのは、この事実に気づいてから。UPCはあまりにも後手に回りすぎていた。
そして‥‥池田湖湖畔・指宿市周辺地域。すでにそこは、壊滅状態に陥っていた。市街地は爆発と爆裂に包まれ、後に残るは瓦礫の山。まだ各所では陸上の残存兵力が交戦しているが、連絡が付かない。
いや、連絡ができないのだ。『クモ』の手によって。
「この通り、掃討作戦を行ってはいるが、既に池田湖周辺地域はバグアにより制圧されつつあるのだ。これを見たまえ」
指宿周辺の現状を映し出した後、担当官はある写真を壁のスクリーンに映した。
それは、池田湖の情景。非常に濃い霧に覆われた、湖畔の様子。
そして、その湖畔には、いくつもの小さく奇妙な『塔』が立っていた。
担当官が、やつれた顔で言った。
「『塔』が見えるかね? 諸君らの任務は、この『塔』の殲滅だ。これは、『クモ』なのだよ」
正確には、多数の『キリグモ』が合体した塔なのだ‥‥と、担当官は付け加えた。
『クモ』の掃討は、遅々として進まなかった。湖岸に待機していた地上部隊は、水中から出現してきた『クモ』にたかられ、爆発。湖の中心部に船舶にて進み、そこから水上からの爆雷攻撃や、水中に潜行しての直接攻撃をしかけても、それらは効果的な結果をもたらさなかった。
ただでさえ数が多い上、小型ゆえに破壊しづらい。そして、密集・密着しているところに下手に攻撃を仕掛ければ、誘爆してこちらが危ない。
さらに悪い事に、レーダーシステムを無効化する『キリグモ』の出現により、UPC軍の目や耳が使えなくなってしまった。
『キリグモ』は、レーダー妨害霧を散布し、レーダーシステムを妨害する。加えて、肉眼による視界も不良となる。
これらが、池田湖周辺に集結したのだ。この機能により、UPCは池田湖に多量のJBの潜伏を許してしまっていた。バグアは能力者たち、すなわち君たちが発見したのとはまた別にトンネルを掘り進め、そこからJBを池田湖に侵入させることに成功させていたのだ。
「この『キリグモ』は集合し、合体する機能を有している。そして、これが池田湖の湖畔に『塔』として立ち、単体のそれに比べて強力な妨害電波や電磁波を出しているのだ。そのため、池田湖周辺はレーダーや通信機器がまったく効かない。そのため、地上からの攻撃は圧倒的に不利なのだ」
ならば、高度からの爆撃は? その提案にも、担当官はかぶりをふった。
「範囲が広すぎる。それに爆撃を行っても、この『キリグモ』の塔は分散し、水中の、湖底の深部へと没してしまう。爆撃が終わった頃には、再び浮上して『塔』に合体してしまい、また同じ事になるのだよ。池田湖の湖そのものが、強大な防護壁として彼らを守ってくれているのだ」
UPCは、現在外洋からトンネルのいくつかを発見し、多大な犠牲とともに、それをふさぐ事には成功した。だが、池田湖内には、まだ無数の『クモ』『キリグモ』、そして相当数のヘルメットワームJBが潜伏している。それらを殲滅しない事には、再びトンネルを掘られ、新たにバグアに有利な抜け道を作る事を許してしまう。
新たな静止画が、壁に映し出された。その写真には、霧に隠れながら、湖上に何かが姿を現している様子が映し出されていた。それが通常より大きめのヘルメットワームだと気づくのには、少々の時間がかかった。
「前回の幽霊船弾事件の時には、バグアは司令室から特殊な電波を用い、そこから各爆弾へと指令を下していた。そこからウイルスを感染させ、機能を狂わせて勝利したわけだが‥‥。今回は、その方法は使えないだろう」
そう、UPCも無為無策であったわけではない。彼らは調査し、その結果判明したことがあった。
『キリグモ』は、特殊電波を放つ『パラサイト』によって指令を受けて稼動していた。だが、今回は違う。新たに出現した、通常タイプより大型のヘルメットワーム。それが、指令の役割を担っていた。
つまり、ヘルメットワームが司令室と化して、指揮をとっているわけだ。そのヘルメットワームは通常のものよりも大きく、移動するため、位置の特定はおろか、忍び込む事はまず不可能。
そして、その機体そのものも攻撃能力を持っているため、戦いを仕掛けても破壊できるとは限らない。それに、JBのみならず、通常のヘルメットワームも護衛についている。簡単には、撃墜できそうにはない。
「しかし逆に言えば、この司令ヘルメットワームを破壊すれば活路も開けてくる。具体的には‥‥」
少数精鋭でレーダー妨害霧の内部に入り込み、霧の中を有視界戦闘で、『キリグモ』およびJBとをやりすごし、指令ヘルメットワームと交戦・破壊する。そうする事で指令が途絶え、膨大な『キリグモ』、およびJBの活動を止められる、というわけだ。
「だが、容易なことではない。指令ヘルメットワームは湖中に没してしまうため、水中戦闘に習熟していなければ確実に返り討ちにされるだろう。それに、地上のJBをも動かし、攻撃に用いる可能性も高い。疲弊している我々では、もう歯が立たない。君たちの超人的な技量だけが頼りなのだ」
担当官は、君たちに懇願するように言った。
「もう一度言うが、事態は切迫している。この任務に参加してくれるなら、速やかに参加してほしい。どうか‥‥頼む‥‥」
非常に困難な任務となるだろう。だが、この任務を成功させたならば、池田湖を奪還する事は不可能ではないだろう。
『キリグモ』の群れと塔とを殲滅させ、JBの動きを止めさせるには、この方法しか無い。ならば‥‥参加せねば。
決意した君たちは、任務に参加する事を決意し、挙手した。甦った悪魔どもを、もう一度葬り去るために。
●リプレイ本文
池田湖。
晴天の直下、そこには霧が立ち込めている。あたかもそれは、異界が現世を侵食しているかのよう。池田湖の湖岸周辺地域は、すでに霧に覆われていた。
霧はまるで、闇だった。すべてを包み込み、もたらすのは破壊と絶望、そして、死。
だが、いつの世もそうであるように、闇を払う勇者たちは存在する。侵略者へ挑む騎士たち。
騎士の一人が、騎乗するナイトフォーゲル・K−111改のコックピット内にて、何本目かのタバコに火をつけた。
「こちら、UNKNOWN(
ga4276)。これより作戦行動に入る。空中班、全機応答せよ」
「世史元 兄(
gc0520)、異常なし!」FPP−2100ペインブラッドの操縦者にして、孤児たちの「兄」。
「こちらラサ、ラサ・ジェネシス(
gc2273)。UNKNOWN殿、頑張ってイコウ。千里の道も、一歩カラ!」A−0フェイルノート2のパイロットは、赤褐色の肌と白い髪、そして頭に花を頂く少女。
「こちら、空中班。南十星(
gc1722)、感度良好」長く流れるような髪と、白い絹の肌を持った、少女と見紛う美少年。彼の愛機は、A−1Dロングボウ2。
「おう、Kody(
gc3498)、機体と俺、両方ともオールグリーン、いつでもいけるぜ!」豪快なるグラップラー。熱き魂のギタリストが広げる翼は、F−108改ディアブロ。
「熊谷真帆(
ga3826)、感度良好‥‥」XF−08D改 雷電を操る、長い黒髪が美しい大和撫子。普段は淑やかな彼女であったが、今は違っていた。静かな分、怒気が凄まじい。
UNKNOWNは、少しだけずれた帽子を整えつつ前方へ、白き闇が侵食する池田湖へと視線を向けた。
「それでは‥‥行こうか」
あくまで涼やかな口調で、彼はK−111を霧の内部へ向けて進行させる。
そして、仲間たちのナイトフォーゲルも、戦場へと赴いた。
戦いの火蓋を切って落としたのは、ラサ。彼女のフェイルイートが、まず先陣を切り突き進む。
「ロックオン! フレア弾、発射!」
ラサの機体から、それが放たれた。
「ブースト!」
即座に、彼女は機体を上空へと向けた。他の機体も、それに続く。
フレア弾、強烈な高熱を放つSES搭載武器は、集合し「塔」を作りかけた「キリグモ」の一隊へと、まるで吸い込まれるように投下される。
次の瞬間。炎熱の地獄がそこに発生した。
ただでさえ、強力な兵器であるフレア弾。それに加え、目標の「キリグモ」およびジャンクバーサーカーもまた強力な爆弾。
誘爆を起こしたそれらは、まさに大地を揺るがす猛襲となりて周囲に轟き、地獄の業火もかくやの灼熱の世界をそこに顕現させたのだ。
そして爆発は、霧を発生させている「塔」とキリグモとを爆破し、霧そのものの一部をも霧散させた。
灼熱の赤が、白き闇を切り払う。それはまさしく、闇を払う騎士の刃そのもの。
討つべき敵は、内部のヘルメットワーム。それに乗るバグア。それらを仕留めるために、彼らは白き闇の中へと突撃した!
霧という名の悪夢の空間。その内部へと、ナイトフォーゲル各機が風を切り裂き進む。
ミーティングの時に話し合った内容が、彼ら能力者たちの脳裏によみがえってきた。
:まずラサがフレア弾を投下し、地上に突破口を切り開く。
:しかる後に水中班が湖内へと突入。
:交戦しつつ、空中班は霧の中で熱源レーダーを使用し、敵の指揮ヘルメットワームを発見したらフレア弾をふたたび投下。
:湖深部へとおびき出したところへ、水中班がそれを迎撃する。
:空中班は、残存兵力を掃討。
「‥‥けど、それで済ませるとは思わないでください‥‥ねっ!」
怒髪天を付く勢いで、真帆は目前のモニターを、霧が立ち込め始めた情景を睨み付けた。
ここに来る前から、彼女は見て知っていた。指宿の温泉街が壊滅してしまったところを。
彼女のポジションは、皆のやや後方。六機での編隊飛行の、やや後方上空を飛行している。UNKNOWNと世史元、ラサの操縦する三機が先陣を努め、中衛を南十星とKodyが努めている。
フレア弾投下、そして別に控えている水中班との連携がうまくいかないと、すべてがおじゃんになる。
仲間の、先行している皆を信じ、彼女は抑えた。怒気を抑えつつ、敵を待った。
「‥‥始まりましたね」
ナイトフォーゲルRN/SS−001リヴァイアサンのコックピットにて、篠崎 公司(
ga2413)は静かにつぶやいた。
彼が今居るのは、指宿に近い池田湖の湖岸。キリグモおよび、ジャンクバーサーカーの数が比較的少ない地点にて、彼らはナイトフォーゲルにて待機していた。
水中班は、篠崎を含め四名。
和 弥一(
gb9315)とオルカ・スパイホップ(
gc1882)の機体は、篠崎同様にRN/SS−001リヴァイアサン。
リュティア・アマリリス(
gc0778)が乗るのは、GF−Mアルバトロス。
「頼むぜ、大先生。水中に追い込んでくれたら、すぐさま敵をぶっ潰してみせるからよ!」
空を仰ぎ見つつ、オルカは祈るように、そして信頼を込めてUNKNOWNへとつぶやいた。
それとともに、強烈な爆発音。
「みなさん、行きましょう!」
ラサのフレア弾の着弾を聞き、四名の能力者たちもまた動き出した。
四機のナイトフォーゲルは、そのまま池田湖へ向け疾走し、湖の水面へと飛び出した!
少しふらつき、フェイルノート?の機体がブレているように思える。
「ラサ。落ち着いてな」彼女のブレを感じ取ったUNKNOWNは、静かに、落ち着きのある口調で語りかける。
「大丈夫‥‥デス!」
ラサからの返答が、無線機から帰ってくる。なにぶん彼女は、ナイトフォーゲルを操るのは初めてのこと。普通以上に細心の注意が必要であろう。
そして、それ以上に。攻撃目標を見つけることも忘れてはならない。
空間を認識し、あらゆる方向へと感覚を飛ばしていたUNKNOWNではあったが、それでも敵の指揮ヘルメットワームを発見できてはいない。すでに、キリグモどもが「塔」を作り始め、霧を濃くしはじめているのだ。
世史元の熱源レーダーも、今のところは見つけては居ない様子。どうすれば‥‥。
「!」
彼の感覚が、なんとなく嫌な存在を感じ取った。
それと同時に。
「熱源感知! よっしゃー! ビンゴ!」
世史元の熱源レーダーが、感知し反応した。
水中を進む水中班は、不安を隠しきれない。
「レーダー、およびソナーには、何も怪しい機影は感知されません」リュティアが、自機のソナーとレーダーをチェックしつつ言った。
「‥‥ちっくしょう。早いところ敵さん来ないもんかなあ。このままじゃあ動くに動けないぜー」
オルカは落ち着く無くつぶやいた。連絡が来るまで、湖底の敵を一掃しようかとも思っていたが、そんな事など必要ない。本隊から離れているためもあっただろうが、湖底には敵が見当たらないのだ。
必要なのは忍耐。それを悟ると、水中班は待機しつつ待った。ひたすらに待ち続けた。
「‥‥くっ」
和が、皆の心情を代表するかのようにして、小さくつぶやいた。
「レーダーにHWを捕捉、近いな。急がないと」焦りをにじませた口調で、世史元はつぶやく。
高度良し、距離良し。編隊、良し。
最初に、ラサのフレア弾投下は成功した。突破口を切り開き、そして攻撃目標らしき熱源を感知した。
「みんな、フォーメーションだ! 打ち合わせどおりにな!」
その言葉に、南十星は戸惑いめいた緊張を覚えた。恐怖などはないが、失敗せずにうまくできるかと思うと、どうしても緊張してしまう。
ラサと同じく、彼にとって始めての空戦。徒手格闘での戦いと異なり、足を引っ張らないようにするだけで精一杯だった。
だが、緊張と興奮はしているが、恐怖は無い。
「これが‥‥奴らのやり方か」
彼は見ていたのだ、熊谷とともに指宿の惨状を、池田湖周辺の被害を作戦前に見ていた。
「‥‥許せないな。必ず止めて見せるぞ」
それを思うと、恐怖など吹き飛んでしまう。
フレア弾を搭載しているのは、ラサ以外には三名。世史元に南十星、そしてKody。
「ちっ! 思った以上に戦いづらいぜ」
Kodyは毒づいた。熱源レーダーは、精度は大幅に落ちるもののかろうじて霧内部でも使えはした。が、目視のみに比べれば多少はまし程度。
「熱源、確認! 距離良し!」
「投下角度、OK!」
「カウント! 3、2、1‥‥シュート!」
南十星、Kody、そして世史元の機体に装備されたフレア弾‥‥炎熱の化身が、湖へと向け放たれた。
「ブースト!」
それとともに、上空へと急上昇。
キリグモの「塔」を中心に、周囲を覆うようにフレア弾が打ち込まれる。それが着水すると先刻と同じ、そして先刻の三倍の炎熱地獄が湖内に顕現した。湖水が煮え立ち、湖面が荒れ狂う。
「――そこか」
再び、霧が晴れた。そして、UNKNOWNは霧の幕間に、「それ」を見た。
フレア弾の地獄から逃れんとする、悪鬼の輩を。
それに加え、反転して迫り来る敵機の機影を確認する。
「着ました! 十一時から一時の咆哮より、敵ヘルメットワームを確認!」
彼が認識すると同時に、真帆が肉眼で発見し指摘する。
「オルカ、聞こえるか?」
雑音交じりで、水中班からの返答が無線機に響いた。
「フレア弾の投下に成功、そちらに敵ヘルメットワームを追い込んだ。あとは、頼む」
『了解!』
「――さて」
編隊を散開させつつ、UNKNOWNは仲間たちに指示を出す。
「諸君‥‥ショウ・タイムだ」
「おうさ! さーてこの受けた屈辱、鬼の怨みと共に味わうが良いぜ!」
世史元のペインブラッドが、それを聞いた途端に悪魔へと変化した。悪魔を狩る悪魔へと。
彼の機体より放たれたフェザーミサイルが空を切り、ジャンクバーサーカーやキリグモどもへと襲い掛かった!
水中を、魚雷が進む。
オルカのリヴァイアサンから放たれたそれは、目的へと命中し、多大なるダメージをそれに食らわした。
「へっ、とてつもなくでかいゴミがやってきたな。ここまで池田湖をひどくしてくれた礼、たっぷりと返してやらなきゃあね!」
再び、M−042小型魚雷ポッドからの魚雷を発射し、畳み掛ける。
新たに魚雷は、その目標‥‥ヘルメットワームへと命中し、更なるダメージを食らわした。
だが、そのヘルメットワームは護衛を連れていた。通常サイズのヘルメットワームが二機、主人を守るべく飛び出してきたのだ。
「任せてください! 本体の攻撃をよろしくお願いします!」
リュティアのアルバトロス、そして和のリヴァイアサンがそれに立ち向かう。
「余計な手出しはさせません、御掃除致します」
照準に敵の姿を捉え、リュティアの機体からエキドナ、魔の妖婦の名を持つ魚雷が二機放たれた。
それは命中し、一機は撃墜。
「照準ロック‥‥シュート!」
そして、和のリヴァイアサンによるスナイパーライフルD−06による狙撃で、二機目もまた沈黙した。
「‥‥逃がしません」
指令中型ヘルメットワームもまた、オルカの攻撃を受けて撃墜寸前に。篠崎は、静かに言い放った。
「此処で‥‥滅びなさい」
引き金を引くとともに、篠崎のリヴァイアサン、ないしはその機体のスナイパーライフルから放たれた弾丸が、悪魔を甦らせた悪魔を貫く。
篠崎は、そして皆は、悪魔の断末魔の悲鳴が聞こえた気がした。
湖上では、掃討活動が行われていた。
そしてそれは能力者たちの一方的な攻撃の前に、バグアは総崩れな状態に陥っていたのだ。
スナイパーライフルで先制攻撃したのは真帆。射的距離まで入った頃を見計らい、反転し攻撃してきたヘルメットワームへと即座に発砲したのだ。空を切り放たれた弾丸が、ヘルメットワームの一機を貫き、炎上させて果てた。
だが、二機のヘルメットワームが、編隊を組み霧の中から現れた。それは螺旋のように目前で舞い、真帆を幻惑させる。
「そんなコトで、私の怒りは収まりません!」
温泉街と、そこに住んでいただろう人々の事を思い起こし、平和が戻った時にこれから来るだろう人々の事を思い描く。
それは、新たに怒りを呼び起こし、そして新たな怒りは真帆の体に更なる力を充填させた。込められた怒りを戦いに向ける! 放たれた弾丸が敵機二機を貫き、湖の藻屑と化した。
が、霧の中から出現した新たな一機が、真帆の死角より襲いかかる! まずい、振り切れない。
「くっ!」
ヘルメットワームの攻撃が放たれる直前。UNKNOWNのK−111のライフルによる攻撃が命中、そのヘルメットワームへと引導を渡した。
「大丈夫か?」
「すみませんっ!」
わずかな言葉のやり取りをしつつ、二人は戦場へと意識を戻す。
残る敵機は、あと二機。
しかし、それらを追う追跡者たちの前には、逃走など不可能な事だった。
「貫け、ドリルミサイル!」
8式螺旋弾頭ミサイルが、南十星のロングボウから放たれたのを真帆は見た。それは轟音とともに空を貫き、憎むべき敵へと螺旋の先端をねじ込ませ、突貫する!
その名に違わぬ威力で、ヘルメットワームは爆破された。
「どうだ? あの世でたっぷりと聞きな、俺の曲をな!」
最後の敵機は、Kodyのディアブロが受け持った。彼のガドリングが奏でる死の戦慄が、ヘルメットワームの装甲を破壊し、機体そのものを破壊し、バグアの野望そのものをも破壊していく。
そして、そいつが爆発したと同時に、
奇しくも、指揮官機の中型ヘルメットワームも、同時に水中で爆破していた。
「こちら、南十星。UPC軍本部、聞こえますか?」
雑音混じりだが、相手からの連絡が入ってくる。徐々に霧は晴れ、そして通信も回復しつつあるようだ。
「私たちの仕事は終わった、後の掃討はよろしく頼む」
『了解。貴殿らの活躍に、心から御礼申し上げる』
彼は、地上へと視線を向けた。岸の「塔」を破壊した篠崎たちからの連絡によると、全てのキリグモやジャンクバーサーカーは、稼動を停止。動かないとの事だ。後の始末は、UPCの方で行ってくれるだろう。
「お疲れ様デス、南十星殿!」
ラサからの通信が、入ってくる。
「ああ、そちらもお疲れ」
「ウン! オルカ殿やUNKNOWN殿もお疲れ様デシタ!」
「ああ! やったなラサ! やりましたね、大先生!」
「ああ、ご苦労だった。ラサ、オルカ」
どうやらUNKNOWNとオルカとも連絡を入れて、労いの言葉をかけているようだ。
次第に、周囲の霧が晴れつつある。それはまるで、これから先の事をあらわしているかのよう。
「霧は晴れるものさ。日の光の中ではな」
つぶやき、確信した。
悪魔は甦った。だが、負けないという気持ちがありさえすれば、そんな悪魔など再び封じてみせる、と。
「任務完了。引き上げましょう」
篠崎からの言葉に、皆は頷いた。
皆は、同じ事を頭に浮かべていた。
バグアよ、何度でも来るがいい。我々はそのたびに、お前たちを打ち砕いてみせる!